研究ノート
補 間 により設 計 されたIIRディジタルフィルタ
― 遮 断 特 性 の評 価 ―
IIR Digital Filter Designed by Interpolation Method
栖 原 淑 郎
Yoshiro Suhara
【 要 約】 我 々 は 、 自 然 界 よ り 種 々 の 情 報 を 受 け 、 又 、 情 報 を 発 信 し な が ら 生 活 し て い る 。 こ れ ら の 情 報 は 、 会 話 の 際 に は 音 声 情 報 に よ り 、 又 、 視 覚 情 報 と し て は 画 像 情 報 に よ り 行 わ れ る 。 さ ら に 、 例 え ば 、 脳 波 の 測 定 や 心 電 図 の 測 定 に よ り 体 の 健 康 状 態 に 関 す る 情 報 が 得 ら れ 、 地 震 波 の 測 定 に よ り 地 震 の 震 源 地 や 規 模 の 情 報 を 得 ら れ る 。 こ の 際 、 こ れ ら の 情 報 を 観 測 し た 種 々 の 信 号 、 又 、 ネ ッ ト ワ ー ク を 通 じ て 送 受 信 さ れ る 信 号 を 分 析 す る 手 法 と し て 、 フ ィ ル タ リ ン グ や ス ペ ク ト ル 分 析 等 の 信 号 加 工 を 行 う 信 号 処 理 は 、 古 く か ら 行 わ れ て き た 。 し か し 、 現 代 で は 、 デ ィ ジ タ ル コ ン ピ ュ ー タ が 飛 躍 的 に 進 歩 及 び 、 ネ ッ ト ワ ー ク も デ ィ ジ タ ル 化 に よ り 、 制 御 の 分 野 、 音 響 の 分 野 等 と 同 様 に こ の 分 野 に お い て も デ ィ ジ タ ル の 手 法 を 用 い た デ ィ ジ タ ル 信 号 処 理 が 中 心 と し て 行 わ れ る よ う に な っ た 。 本 稿 で は 、 ま ず 、 デ ィ ジ タ ル 信 号 処 理 に お け る IIR デ ィ ジ タ ル フ ィ ル タ に つ い て 述 べ る 。 次 に 、 著 者 等 が 提 案 し た 補 間 型 I IR デ ィ ジ タ ル フ ィ ル タ の 一 設 計 法 を 示 し 、 他 の フ ィ ル タ と 比 較 す る こ と に よ り 優 れ た 遮 断 特 性 を 持 つ こ と を 明 ら か に す る 。 [Abstract] We a r e l i v in g r e c e i v i n g v a r i o u s i n f o r ma t i o n f r o m n a t u r e a n d d i s s e mi n a t i n g i n f o r ma t i o n . F u r t h e r mo r e , f o r e x a mp l e , t h e i n f o r ma t i o n a b o u t b o d i ly h e a l t h c o n d i t i o n i s a c q u i r e d by me a s u r e m e n t o f b r a i n w a v e s , o r m e a s u r e m e n t o f a n e l e c t r o c a r d i o g r a m, a n d t h e fo c u s o f a n e a r t h -q u a k e a n d t h e i n f o r ma t i o n o n a s c a l e i s a c -q u i r e d b y m e a s u r e m e n t o f s e i s m i c w a v e s . U n d e r t h e p r e s e n t c i r c u m s t a n c e s , s i g n a l p r o c e s s i n g w h i c h p e r f o r m s s i g n a l p r o c e s s i n g o f f i l t e r i n g , a s p e c -t r u m a n a l y s i s , e -t c . h a v e b e e n p e r f o r me d f o r ma n y y e a r s a s -t h e -t e c h n i q u e o f a n a l y z i n g v a r i o u s s i g n a l s w h i c h o b s e r v e d t h e s e p i e c e s o f i n f o r ma t i o n , a n d t h e s i g n a l t r a n s mi t t e d a n d r e c e i v e d t h r o u g h a n e t w o r k . H o w e v e r, i n t h e p r e s e n t a g e , a d i g i t a l c o m p u t e r m a k e s r a p i d p r o g r e s s , a n d d i g i t i z a t i o n i s a l s o f o l l o w i n g t h e n e t w o r k . A l s o i n t h i s f i e l d , d i g i t a l s i g n a l p r o c e s s i n g u s i n g a d i g i t a l t e c h n i q u e i s p e r f o r me d l i k e t h e c o n t r o l f ie l d , t h e s o u n d f i e l d , e t c . T h i s p a p e r d e s c r i b e s t h e I I R d i g i t a l f i l t e r i n d i g i t a l s i g n a l p r o c e s s i n g f i r s t . N e x t , o n e d e s i g n m e t h o d o f t h e i n t e r p o -l a t e d ty p e I IR d i g i t a -l f i -l t e r w h i ch a u t h o r s p r o p o s e d i s s h o w n a n d i t i s s h o w n c -l e a r -ly t h a t it h a s s u p e r i o r c u t o ff c h a r a c t e r i s t i c s b y c omp a r i n g i t w i t h o t h e r f i l t e r s . キ ー ワ ー ド : IIRデ ィ ジ タ ル フ ィ ル タ 、 補 間 、 遮 断 特 性 K e y w o r d s : I I R d i g i t a l f i l t e r , i n t e r p o l a t i o n , c u t o f f c h a r a c t e r i s t i c s1. はじめに
自然界には種々の信号が存在するが、これらの 情報は一般にアナログ情報であり、通信ネット ワーク、制御システム等、従来のシステムはアナ ログシステムであった。現在、コンピュータ、 ネットワークの急速な進歩とともに、これらを ディジタルシステムとして実現することが主流と なっている。ディジタル信号処理では、まず、 我々が一般に知覚するアナログ情報を、一度 A- D 変換器(アナログディジタル器)にてディジタル 信号へと変換処理を行う。ディジタル信号は、時 間軸上に等間隔で発生する信号値の時系列である。 ディジタル信号処理システムとは、この離散的 信号系列に対してコンピュータ又はディジタル回 路を用いて代数的演算(加減算、乗除算)を組み合 わせた処理を行い、信号の平滑化、特徴抽出等を 行うシステムである。信号処理システムは線形シ ステムの場合、周波数領域で表現できる。従来の アナログシステムでは、システムの周波数領域に おける設計が基本であり、代表的なシステムが フィルタである。ディジタル信号処理システムに おいても、周波数領域が考えられ、ディジタル フィルタは、同様に基本システムである。線形シ ステムは FIR(有限インパルス応答)システムと IIR(無限インパルス応答)システムに分類され、 同様にディジタルフィルタは両者に分類される。 IIR 型ディジタルフィルタは、急峻な特性を低次 で実現できる特徴があるが、一般に、位相特性、 安定性等において FIR 型フィルタと比較して 劣っている。本稿では、まず、著者等が提案した 補間法に基づく IIR 型ディジタルフィルタの一設 計法を示す。次に、従来より知られている他の IIR 型フィルタと比較し、本設計法が、位相特性 に優れるとともに、急峻な遮断特性をもつ特徴を 持つことを数値計算により明らかにする。2. アナログシステムとディジタルシス
テム
アナログシステムでは、連続信号を扱う。連続 信号とは、連続的な信号値が、時間軸においても 連続的に発生する信号を指す。アナログ信号は連 続信号である。これに対して、ディジタルシステ ムでは離散信号を扱う。離散信号は、時間軸上に 離散的に発生する信号である。発生の時間間隔は 一定値 T で周期的である場合が普通で、T をサン プリング間隔と呼ぶ。一般のディジタルシステム では、さらに個々の信号値も離散的な値をとる信 号を扱う。ディジタル信号は離散信号である。連 続的な信号値を離散信号に変換する処理を量子化 という。ディジタルシステムでアナログ信号を扱 う場合の A-D 変換器では、連続信号を離散信号 に変換する。この時、時間軸上でサンプリングを 行い、さらにそれぞれの時点で信号値の量子化を 行う。ネットワークにおける伝送上の問題として は、アナログシステムにおいては、伝送周波数帯 域は一般に少なくてすむ。しかし、信号の周波数 スペクトラムが、伝送によって損なわれないよう な伝送機器および伝送路が要求される。従って、 伝送される信号により最適なシステムが異なるた め、システムの汎用性に乏しい。又、アナログシ ステムは、混入される雑音の影響を受けやすく、 さらに雑音除去が一般に平易ではない。これに対 して、ディジタルシステムは離散信号を扱う。離 散信号は、二値(0,1)の信号列であり、コンピュー タ出力や一般のデータ通信のように原信号がディ ジタルである場合は勿論のこと、アナログ情報で も、ディジタル信号に変換できれば、情報源にか かわらず、汎用性のあるディジタルシステムで伝 送が可能である。又、ディジタルシステムでは、 途中で混入される雑音で二値(0,1)の信号列を表す パルス信号が変形し識別不能になった場合でも、 パルスの有無が識別できれば元の信号が再生可能 であり、耐雑音性に優れている。今後、コン ピュータの小型化、処理能力の向上、LSI の進歩 とともにますますシステムのディジタル化が進む ことが予想される。3. ディジタル信号処理システム
ディジタル信号処理システムにおいて処理の性 格上最も重要なシステムは、線形時不変システム と呼ばれるシステムである。まず、システムに対 する入力信号列を x(n)、システムから出力される 信号列を y(n)、(ここで n は整数で時刻 nT(T はサ ンプリング周期)における信号値)とするとシステ1. はじめに
自然界には種々の信号が存在するが、これらの 情報は一般にアナログ情報であり、通信ネット ワーク、制御システム等、従来のシステムはアナ ログシステムであった。現在、コンピュータ、 ネットワークの急速な進歩とともに、これらを ディジタルシステムとして実現することが主流と なっている。ディジタル信号処理では、まず、 我々が一般に知覚するアナログ情報を、一度 A- D 変換器(アナログディジタル器)にてディジタル 信号へと変換処理を行う。ディジタル信号は、時 間軸上に等間隔で発生する信号値の時系列である。 ディジタル信号処理システムとは、この離散的 信号系列に対してコンピュータ又はディジタル回 路を用いて代数的演算(加減算、乗除算)を組み合 わせた処理を行い、信号の平滑化、特徴抽出等を 行うシステムである。信号処理システムは線形シ ステムの場合、周波数領域で表現できる。従来の アナログシステムでは、システムの周波数領域に おける設計が基本であり、代表的なシステムが フィルタである。ディジタル信号処理システムに おいても、周波数領域が考えられ、ディジタル フィルタは、同様に基本システムである。線形シ ステムは FIR(有限インパルス応答)システムと IIR(無限インパルス応答)システムに分類され、 同様にディジタルフィルタは両者に分類される。 IIR 型ディジタルフィルタは、急峻な特性を低次 で実現できる特徴があるが、一般に、位相特性、 安定性等において FIR 型フィルタと比較して 劣っている。本稿では、まず、著者等が提案した 補間法に基づく IIR 型ディジタルフィルタの一設 計法を示す。次に、従来より知られている他の IIR 型フィルタと比較し、本設計法が、位相特性 に優れるとともに、急峻な遮断特性をもつ特徴を 持つことを数値計算により明らかにする。2. アナログシステムとディジタルシス
テム
アナログシステムでは、連続信号を扱う。連続 信号とは、連続的な信号値が、時間軸においても 連続的に発生する信号を指す。アナログ信号は連 続信号である。これに対して、ディジタルシステ ムでは離散信号を扱う。離散信号は、時間軸上に 離散的に発生する信号である。発生の時間間隔は 一定値 T で周期的である場合が普通で、T をサン プリング間隔と呼ぶ。一般のディジタルシステム では、さらに個々の信号値も離散的な値をとる信 号を扱う。ディジタル信号は離散信号である。連 続的な信号値を離散信号に変換する処理を量子化 という。ディジタルシステムでアナログ信号を扱 う場合の A-D 変換器では、連続信号を離散信号 に変換する。この時、時間軸上でサンプリングを 行い、さらにそれぞれの時点で信号値の量子化を 行う。ネットワークにおける伝送上の問題として は、アナログシステムにおいては、伝送周波数帯 域は一般に少なくてすむ。しかし、信号の周波数 スペクトラムが、伝送によって損なわれないよう な伝送機器および伝送路が要求される。従って、 伝送される信号により最適なシステムが異なるた め、システムの汎用性に乏しい。又、アナログシ ステムは、混入される雑音の影響を受けやすく、 さらに雑音除去が一般に平易ではない。これに対 して、ディジタルシステムは離散信号を扱う。離 散信号は、二値(0,1)の信号列であり、コンピュー タ出力や一般のデータ通信のように原信号がディ ジタルである場合は勿論のこと、アナログ情報で も、ディジタル信号に変換できれば、情報源にか かわらず、汎用性のあるディジタルシステムで伝 送が可能である。又、ディジタルシステムでは、 途中で混入される雑音で二値(0,1)の信号列を表す パルス信号が変形し識別不能になった場合でも、 パルスの有無が識別できれば元の信号が再生可能 であり、耐雑音性に優れている。今後、コン ピュータの小型化、処理能力の向上、LSI の進歩 とともにますますシステムのディジタル化が進む ことが予想される。3. ディジタル信号処理システム
ディジタル信号処理システムにおいて処理の性 格上最も重要なシステムは、線形時不変システム と呼ばれるシステムである。まず、システムに対 する入力信号列を x(n)、システムから出力される 信号列を y(n)、(ここで n は整数で時刻 nT(T はサ ンプリング周期)における信号値)とするとシステ ムは、入力信号を出力信号に変換する処理を行う と考えられその関係は以下のように表現できる。[ ]
x
(
n
)
τ
)
n
(
y
=
ここでτ はシステムが行う入出力変換の意味で ある。時不変システムは、ある入力 x(n)と出力 y(n)に対して(
n
k
)
τ
[
x
(
n
k
)
]
y
−
=
−
が成立するシステムである。但し、k は任意の整 数である。これは、入力信号列を k だけ時間シフ トさせた場合、出力信号列も k だけ時間シフトす ることを意味する。 又、通常の信号処理システムは線形システムで ある。線形システムとは、任意の二つの入力を( ) ( )
n
,
x
n
x
1 2 と し 、 そ れ ぞ れ の 出 力 信 号( ) ( )
n
,
y
n
y
1 2 を( )
[
( )
]
( )
[
( )
]
n
x
τ
n
y
n
x
τ
n
y
2 2 1 1=
=
とするとき、任意の定数 a,b に対して( )
( )
[
]
[
( )
]
[
( )
]
( )
( )
ay
n
by
n
n
x
τ
b
n
x
τ
a
n
bx
n
ax
τ
2 1 2 1 2 1+
=
+
=
+
が成立するシステムである。これは、ふたつの信 号を合成して入力した場合のシステムの出力信号 は、それぞれの入力信号を単独で入力した場合の システムの出力信号を合成したものに等しいこと を意味する。 さらに、信号が時系列で与えられていて、入力 信号を次々に処理して出力信号として出力するシ ステムの場合、通常因果性システムである。因果 性システムとは、任意の時刻 n0における出力 y(n0)が、その時刻よりも過去の時間 n≦n0のみの 入力 x(n)を用いて計算されるシステムである。 データを逐次入力して実時間処理を行う場合は、 システムが因果性を満たすことが、重要である。 信号処理システムではこれらの性質が、全て満た されないものも多く考えられているが、本稿で述 べる補間型 IIR ディジタルフィルタは、これらを 全て満たすものとする。4. フィルタ
信号処理システムにおいては、よく使われる基 本的な処理は、フィルタ、フーリエ変換や他の直 交変換、平滑化、相関関数の算出等がある。この 中で、フィルタとは信号の中の特定の周波数帯域 の成分のみを取り出す処理をいう。線形システム では、周波数領域による設計が一般的で、フィル タによる処理は最もよく行われる。ある周波数以 下の成分のみを取り出し、その他の周波数成分を 除去する作用を低域フィルタ、ある有限幅の周波 数帯域の信号を通し、その他の周波数を除去する 作用を帯域フィルタという。その他、高域フィル タ、帯域除去フィルタ等種々のフィルタが考えら れるが、低域フィルタより関数変換により設計で きることが知られており、本稿では、低域フィル タの議論を行う。又、フィルタを構成するハード ウエアは、アナログフィルタとディジタルフィル タでは、本質的に異なっている。アナログフィル タは、L(コイル),C(コンデンサ),R(抵抗)等の受動 阻止で実現する受動フィルタ(passive filter)と、演 算増幅器(operational amplifier)などの能動素子を 使用した能動フィルタ(active filter)がある。一般 に、IC(integrated circuit)の利用を考えると、フィ ルタの精度、フィルタの利得や小型化の点で能動 フィルタのほうが有利である。一方、ディジタル フィルタはメモリで一時的に信号を記録する遅延 器(delay)、加算器(adder),及び乗算器(multiplier)よ りなるディジタル回路であり、LSI、コンピュー タ等で実現できる。5. FIR 型フィルタと IIR 型フィルタ
[11] アナログ線形システムの場合、入力信号 x(t)及 び出力信号 y(t)のラプラス変換をそれぞれ X(s)、 Y(s)とした場合システムの伝達関数 H(s)を定義し て( )
s
H
( ) ( )
s
X
s
Y
=
と表すことができる。 ディジタルシステムの場 合、同様な定式化が可能で、x(n)及び y(n)の z 変換をそれぞれ X(z),Y(z)とすると伝達関数 H(z)を 定義して
( )
z
H
( ) ( )
z
X
z
Y
=
と表すことができる。一般に H(z)は( )
M M 1 1 N N 1 1 0
z
a
z
a
1
z
b
z
b
b
z
H
− − − −+
+
+
+
+
+
=
L
L
と表せる有理関数である。これを実時間の式を用 いて表すと、( )
(
)
(
)
(
)
n
0
,
1
,
L
j
n
x
b
i
n
y
a
n
y
N 0 j j M 1 i i=
−
+
−
−
=
∑
∑
= = と表される。但し、n<0 では x(n)=y(n)=0 とする。 伝達関数の分母多項 ai(i=1,2,…M)あの中で 0 でな いものが一つでもあれば内部にフィードバックが 存在する。内部にフィードバックループがある フィルタを再帰型フィルタ(recursive filter)という。 これに対して、すべての係数 ai(i=1,2,…M)が 0 で あるフィルタを非再帰型フィルタと呼ぶ。非再帰 型フィルタは内部にフィードバックがないので、 つねに安定である。 フィルタはインパルス応答をもつ。インパルス 応答とは、入力にインパルス関数( )
(
)
(
)
⎩
⎨
⎧
≠
=
=
0
n
0
0
n
1
n
δ
を与えた時の出力応答
h
( )(
n
n
=
0
,
1
,
L
)
を指す。 再帰形フィルタはフィードバックループがある ためインパルス応答が無限に続き、これを IIR 型 フィルタ(infinite impulse response filter)と呼ぶ。こ れに対し、非再帰形フィルタはインパルス応答が 有限時間しか続かずこれを FIR 型フィルタ(finite impulse response filter)と呼ぶ。IIR 型フィルタは 急峻な遮断特性を低次で実現できる特徴があるが、 フィルタ安定性を保証することが困難になる場合 がある。又、通過域で位相特性の劣化が生じるこ とが問題となる場合が多い。これに対して、FIR 型フィルタは構造が簡単であり、常に安定である。 さらに、直線位相特性を実現できるため、位相特 性の劣化がない。しかし、急峻な遮断特性を実現 するためには、フィルタの次数が高くなる。又、 通過域端でリップルが生じるため窓関数を利用す る等の対策が考えられている。本稿では IIR 型 フィルタに着目し、著者等が提案した補間法に基 づくフィルタの一設計法を紹介する。本フィルタ は従来より提起されている他の IIR 型フィルタと 比較してより低次で、位相特性の劣化を最小限に とどめることが可能な特徴がある。6. 補間型 IIR ディジタルフィルタの設
計法
ディジタルフィルタの周波数領域は z-変換の 理論による z 領域で議論される。サンプリング周 期を T としたとき、伝達関数 H(z)をもつディジ タルフィルタの周波数応答は j Te
z
=
ω と置いて得 られる。このとき( ) ( ) ( )
( )
( )jωT jφωT T ω j T ω j T ω j
e
e
H
e
H
e
H
e
H
=
∠
=
と表され、( )
j Te
H
ω は、ディジタルフィルタの 振幅特性、φ
( )
ω
T
は位相特性を示している。特 に T=1 と置けば( ) ( ) ( ) ( )
jω jω jω jω jφ( )ωe
e
H
e
H
e
H
e
H
=
∠
=
と表すことができる。 ω je
は ω に関して周期 2π の周期関数であるの で、フィルタの特性は、周期的特性を持つ。一般 に0
≤
ω
≤
2
π
の部分の特性を利用してフィルタ を実現する。ω
を角周波数と呼ぶ。( )
jωe
H
を所 望の特性が得られるように求めることによりディ ジタルフィルタは設計される。以下に、IIR ディ ジ タ ル フ ィ ル タ の 一 設 計 法 を 示 す 。 伝 達 関 数( )
z
H
は有理関数である。振幅特性は jωe
z
=
とお換をそれぞれ X(z),Y(z)とすると伝達関数 H(z)を 定義して
( )
z
H
( ) ( )
z
X
z
Y
=
と表すことができる。一般に H(z)は( )
M M 1 1 N N 1 1 0
z
a
z
a
1
z
b
z
b
b
z
H
− − − −+
+
+
+
+
+
=
L
L
と表せる有理関数である。これを実時間の式を用 いて表すと、( )
(
)
(
)
(
)
n
0
,
1
,
L
j
n
x
b
i
n
y
a
n
y
N 0 j j M 1 i i=
−
+
−
−
=
∑
∑
= = と表される。但し、n<0 では x(n)=y(n)=0 とする。 伝達関数の分母多項 ai(i=1,2,…M)あの中で 0 でな いものが一つでもあれば内部にフィードバックが 存在する。内部にフィードバックループがある フィルタを再帰型フィルタ(recursive filter)という。 これに対して、すべての係数 ai(i=1,2,…M)が 0 で あるフィルタを非再帰型フィルタと呼ぶ。非再帰 型フィルタは内部にフィードバックがないので、 つねに安定である。 フィルタはインパルス応答をもつ。インパルス 応答とは、入力にインパルス関数( )
(
)
(
)
⎩
⎨
⎧
≠
=
=
0
n
0
0
n
1
n
δ
を与えた時の出力応答
h
( )(
n
n
=
0
,
1
,
L
)
を指す。 再帰形フィルタはフィードバックループがある ためインパルス応答が無限に続き、これを IIR 型 フィルタ(infinite impulse response filter)と呼ぶ。こ れに対し、非再帰形フィルタはインパルス応答が 有限時間しか続かずこれを FIR 型フィルタ(finite impulse response filter)と呼ぶ。IIR 型フィルタは 急峻な遮断特性を低次で実現できる特徴があるが、 フィルタ安定性を保証することが困難になる場合 がある。又、通過域で位相特性の劣化が生じるこ とが問題となる場合が多い。これに対して、FIR 型フィルタは構造が簡単であり、常に安定である。 さらに、直線位相特性を実現できるため、位相特 性の劣化がない。しかし、急峻な遮断特性を実現 するためには、フィルタの次数が高くなる。又、 通過域端でリップルが生じるため窓関数を利用す る等の対策が考えられている。本稿では IIR 型 フィルタに着目し、著者等が提案した補間法に基 づくフィルタの一設計法を紹介する。本フィルタ は従来より提起されている他の IIR 型フィルタと 比較してより低次で、位相特性の劣化を最小限に とどめることが可能な特徴がある。6. 補間型 IIR ディジタルフィルタの設
計法
ディジタルフィルタの周波数領域は z-変換の 理論による z 領域で議論される。サンプリング周 期を T としたとき、伝達関数 H(z)をもつディジ タルフィルタの周波数応答は j Te
z
=
ω と置いて得 られる。このとき( ) ( ) ( )
( )
( )jωT jφ ωT T ω j T ω j T ω j
e
e
H
e
H
e
H
e
H
=
∠
=
と表され、( )
j Te
H
ω は、ディジタルフィルタの 振幅特性、φ
( )
ω
T
は位相特性を示している。特 に T=1 と置けば( ) ( ) ( ) ( )
jω jω jω jω jφ( )ωe
e
H
e
H
e
H
e
H
=
∠
=
と表すことができる。 ω je
は ω に関して周期 2π の周期関数であるの で、フィルタの特性は、周期的特性を持つ。一般 に0
≤
ω
≤
2
π
の部分の特性を利用してフィルタ を実現する。ω
を角周波数と呼ぶ。( )
jωe
H
を所 望の特性が得られるように求めることによりディ ジタルフィルタは設計される。以下に、IIR ディ ジ タ ル フ ィ ル タ の 一 設 計 法 を 示 す 。 伝 達 関 数( )
z
H
は有理関数である。振幅特性は jωe
z
=
とお き( )
( )
1z
H
z
H
− を計算すると( )
( )
( ) ( ) ( )
jω jω jω 2 e z 1e
H
e
H
e
H
z
H
z
H
jω=
−=
= − より二乗振幅特性が得られる。又、伝達関数は特 性関数φ
( )
z
を用いて と表される。( )
( ) ( )
( )
jω 2 ω j ω j 2 ω je
φ
1
1
e
φ
e
φ
1
1
e
H
+
=
+
=
− より、=
の時
=
の時
0
H
φ
1
H
0
φ
∞
=
=
の関係がある。ここで( ) ( ) ( )
( ) ( )
(
は多項式
)
z
f
,
z
h
z
f
/
z
h
z
φ
−1=
−1 −1 とおく。又、伝達関数の分母多項式を( )
1z
d
− と すると、( )
z
f
( )
z
h
( )
z
h
( )
z
d
( )
z
d
( )
z
f
−1+
−1=
−1 の関係がある。左辺の多項式の根は、z 及び 1/z が対になって存在するが、このことは、半分の根 が、単位円内に存在し、残りの半分の根が単位円 外に存在することを意味する。従って、左辺の多 項式を因数分解したものの中で単位円内の根のみ により d(z)を構成すると、残りの単位円外の根 により( )
1z
d
− は構成される。 z-平面上において伝達関数の分母の根は全てが、 単位円内に在ることが、フィルタが安定であるた めの条件であるが、( )
1z
d
− の根はこの条件をみ たしており、従って伝達関数( )
1z
H
− は安定であ る。さらに=
jωe
z
とおきx
= cos
ω
とすると二乗 振幅特性は x を用いて{
2}
2
)
x
(
φ
1
/
1
)
z
(
H
=
+
と表される。 低域通過 IIR ディジタルフィルタの周波数特性 を図 1 に示す。フィルタは信号電力が減衰しない 通過域(pass band)、及び信号電力が減衰する阻止 域(stop band)よりなる。理想的なフィルタは構成 不 可 能 で 、 特 性 曲 線 は 中 間 に 遷 移 域 (transition band)を持つ。フィルタの特性は図1の網掛けの 部分の内側に曲線を描く。 著者等は、Lagrange の補間法を用いたディジ タルフィルタの設計法を提案した[16][17][18][19][20]。 補間法に基づいて設計すると、特性曲線は特定の 補間点を通過する。本稿では、図 2 に示す五個の 補間点を持つ設計法を提案する[25][26]。 まず、角周波数 0 では通過量=1(減衰量=0)で あるとする。又、通過域端及び阻止域端の角周波 数、通過量をそれぞれ s s p p,
ρ
,
ω
,
ρ
ω
とする。又角周波数πは減衰点(通過量=0)である とする。さらに、急峻な遮断特性を持たせるため、 阻止域端の近くに減衰点(
ω
ω
π
)
ω
1 s<
1<
を設定する。 以上を満たす特性関数φ
( )
x
を求めた結果を以 下に示す。( )
x
F
( ) (
x
/
a
b
x
)
φ
=
−
ここで( ) (
) (
)(
)
M 2 1 Mx
x
x
1
/
x
1
x
F
=
−
+
−
−( )
( )
[
F
x
sx
p/
sF
x
px
s/
p]
/
(
x
sx
p)
a
=
γ
−
γ
−
( )
( )
( )
s s( )
p p p s p s p s/
x
F
/
x
F
/
x
x
F
/
x
x
F
b
γ
−
γ
γ
−
γ
=
1
ρ
γ
,
1
ρ
γ
2 s s 2 p p=
−
=
−
− −図1. 低域通過IIRディジタルフィルタの周波数特性
図1. 低域通過IIRディジタルフィルタの周波数特性
図2. 五個の補間点をもつ補間型ディジタルフィルタ
図3.補間型フィルタとバタワースフィルタの周波数特性
ω
p-ω
s(遷移域幅)
(ω
p=π/2, ρ
p=0.707, ρ
s=0.1)
図4.次数と遷移域幅の比較
通過域端
次数
である。
ω
bは五個の補間点を通過する曲線を Lagrange 補間法で求めた場合に現れる減衰点で 各補間点の角周波数との間には以下の関係がある。π
ω
ω
ω
ω
0
<
p<
s<
b<
1<
7. 補間型 IIR ディジタルフィルタの遮
断特性と評価
ディジタルフィルタの伝達関数を構成する有 理関数において、その分母及び分子多項式の次数 の大きい方をフィルタの次数と呼ぶ。フィルタを 構成する素子の数、取り分け、遅延器の数は、 フィルタの次数が大きい程、多くなる。一般に遷 移域が小さいフィルタを構成する場合、フィルタ の次数が大きくなる。IIR フィルタは FIR フィル タに比べてより低次で精度の高いフィルタを構成 できる。しかし、IIRフィルタにおいては、一般 に周波数により異なった位相特性があり、このた め波形が歪む。この点 FIR フィルタでは、直線 位相特性が実現できるため[21][22]、歪みを回避で きる。 IIR 型フィルタは、従来より、バタワースフィ ルタ、チェビシェフフィルタ、楕円フィルタ等が 知られていて、チェビシェフフィルタ、楕円フィ ルタは、低次数で急峻な遮断特性が得られるが、 通過域にリップル特性を持ち又位相特性に劣る。 一方、バタワースフィルタは、通過域最大平坦特 性[12][13]を持ち、他のフィルタと異なり高次数で あるが、通過域にて比較的直線位相に近い位相特 性が得られる。 本稿で提案する補間型ディジタルフィルタとバタ ワースフィルタとの比較を図 3 に示す。補間型 ディジタルフィルタは通過域最大平坦特性をもち、 バタワースフィルタと同様に、他のフィルタと比 較して通過域特性に優れる。さらに図 3 に示すよ うに、バタワースフィルタより急峻な遮断特性を 持つ。フィルタの次数と遷移域幅との関係を数値 計算により求めた結果を図 4 に示す。8. おわりに
本稿では、まず、ディジタル信号処理の基本的 な考え方、及び、IIR ディジタルフィルタの特徴 を紹介した。次に、五個の補間点を持つ補間型 IIR ディジタルフィルタを提案し、その設計法を 示した。最後に他のフィルタと特性を比較し、通 過域及び遮断域において優れていることを、数値 計算により示した。今後、提案した補間型 IIR ディジタルフィルタの遷移域幅の最小値を理論的 に求め、フィルタの有効性を証明する予定である。 又、ディジタル処理においては、演算誤差の問題 があり、特に IIR ディジタルフィルタでは係数感 度の研究が行われている[23]。本稿で提案した補 間型 IIR ディジタルフィルタは狭帯域において低 感度特性を持つことを著者は示しており[24]、今 後、ディジタルフィルタの回路構成に踏み込んだ 低感度化の研究を進める予定である。参考文献
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[20]Suhara,Y.,Koga,T.“A Method of Designing IIR Digital Filters by Means of Interpolation Taking Ac-count of Transition Band Characteristics”, Trans. IEICE, Fundamentals, Vol.E76-A,No.4 April(1,993) [21]Suhara,Y.,Koga,T.,Madachi T.“A Method of Ap-proximating Characteristics of Linear Phase Digital Filters”, Proc. JTC-CSCC’92, pp.422-427, July(1,992) [22]Suhara,Y.,Madachi T.,Koga,T.“A Method of Ap-proximating Characteristics of Linear Phase Digital Filters Utilizing Interpolation Technique in Combina-tion with LMS Method”, Trans. IEICE
[23]Agarwal, R.C.,Burrus,C.B.“New Recursive Digi-tal Structure Having Very Low Sensitivity and Roundoff Noise”, IEEE Trans. Circuit & Syst.
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(2,011-03)
[26] 栖原淑郎 「補間型 IIR ディジタルフィルタ の設計アルゴリズム」 Proceedings of the 2012 IEICE General Conference A-4-12(2,012-03)