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よりよい飼育環境の実現に向けたイルカのストレス・安心感の行動学的評価方法の開発

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Academic year: 2021

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令和元年度農学部特別研究費研究経過報告書 1.研究者名 酒井 麻衣 2.研究課題名 よりよい飼育環境の実現に向けたイルカのストレス・安心感の行動学的評価方法 の開発 3.研究目的・内容 本研究は、イルカの健全な飼育環境の実現と生活の質の向上を目指す。そのために、簡易にス トレスや健全な心理状態を把握する必要がある。本研究では、行動を観察すると同時にストレス 指標となる心電を測定し、イルカのストレスを生理学的指標と行動の両面から評価することを試 みる。行動を観察することにより簡易にストレスを評価できれば、よりよい飼育環境や群れ構成 を明らかでき、健全な飼育環境の実現につながる。 4.研究の経過 本研究ではストレス評価の生理学的手法として心電及び心拍に着目した。先行研究では、シロ イルカをノイズに晒すと、通常見られる息を吸う時に心拍数が増加し息を吐く時に心拍数が減少 する呼吸性不整脈が消失し、それがストレス指標となることが示唆されている(Lyamin et al., 2016)。一方で、鯨類において行動と心拍の関連を調べた研究はほとんどない。行動と心拍との関 連に関する知見を増やすことは、イベントや行動に対して心電や心拍へ表れる即時的なストレス 反応のモニタリング方法の開発につながると考えられる。そこで本研究では、飼育ハナゴンドウ を対象に、心電の測定と行動観察を同時に行った。 実験は太地町立くじらの博物館で、飼育ハナゴンドウ 2 頭(個体名ハマタ、レン)を対象として 行った。心電測定のために心電ロガー(W400-ECG, リトルレオナルド)を吸盤を使用して個体に 装着した。心電データの解析には Igor Pro 8.03 を使用した。この 2 個体に対して実験前の数か 月間、トレーナーによる吸盤タグ装着のトレーニングを実施した。実験はトレーナーが背ビレを 持ち個体を静止させる背持ちでの実験と、ロガーを装着したまま自由に泳がせる自由遊泳の 2 つ の状態で行った。心電の測定中とその前後の各 14~45 分間をビデオ撮影した. 目視観察にて呼 吸生起時刻と行動を記録した. 呼吸生起時刻の前後 0.5 秒以内に心拍数のピークが存在しない場 合を呼吸性不整脈の消失と定義した。 背持ちと自由遊泳の両方で心電の記録と心拍の抽出に成功した. 5 分間の平均心拍数は、背持ち と自由遊泳で比較的近い値を示した。 6 回の速泳を含む区間の 5 分間の平均心拍数は 89.77bpm となり、 これは通常遊泳状態の 5 分間の平均心拍数(レン、69.67bpm)より有意に多くなった。 ハ マタの30 秒未満の短期潜水時には潜水徐脈反応が見られなかったが、3 分以上の長期潜水では潜 水時に36.93bpm, 浮上時に 107.78bpm となり潜水徐脈反応が見られた(ハマタの通常遊泳時の平 均心拍数: 47.50bpm)。これはネズミイルカが潜水時間を予測し潜水徐脈を認知的に行う (Elmegaard, 2016)ことと同様の現象である可能性がある。自由遊泳でのロガー平均装着時間は、 レンが1273.7 秒, ハマタが 406.6 秒とレンの方が長かった. ハマタのみロガー装着中に尾びれを くねらせる行動が観察され、ロガーを外そうとしていると考えられた. 2 個体ともロガー装着中は その前後より浮上停止が減り、レンにおいては社会行動が減った。このことはロガー装着が行動 に影響を及ぼすことを示す。ロガー装着中の浮上停止の頻度はレンの方がハマタよりも高かった。 ロガー装着中の自由遊泳での呼吸性不整脈の消失割合はレンが30.6%、ハマタが53.6%であった。 このことからハマタよりレンの方がロガー装着時のストレスは低かった可能性が示唆された。 5.本研究と関連した今後の研究計画 本研究によって、ロガーを装着することで対象個体の行動に変化が現れることや、その変化の 程度には個体差があることが明らかになった。今後、装着の違和感を減らすようロガーを装着す る吸盤を改良し、より長時間ロガーを装着できるようにした上で、ロガー装着期間中の呼吸性不 整脈がある期間とない期間の行動を比較し、ストレス時とそうでない時の行動の違いを明らかに する。そのような分析を行うことで、ストレス指標となる行動を抽出できると考えられる。 霊長類では、社会的毛づくろいを受けると心拍が下がるという報告がある。イルカにおいては、 スタッフが個体をなでることが報酬になるという記載はあるものの、生理学的な証拠は得られて いない。今後、心電を測定すると同時にスタッフがイルカをなでる実験を行い、スタッフによる 接触が報酬となっているかを生理学的に明らかにしたい。このような知見は、イルカの飼育環境 の向上に貢献できると考えられる。

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