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<原著>顎顔面欠損症例に対する補綴的修復の臨床的意義 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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顎顔面欠損症例に対する補綴的修復の臨床的意義

大月 佳代子・大 西 正 俊・海 野 圭 介

      山梨医科大学歯科口腔外科学教室* 抄録:近年,顎顔面領域の悪性腫瘍に対する治癒率の向上はめざましく,化学療法,放射線療 法,外科療法の3者を組み合わせた集学的治療の一般化とともに進展癌に対する拡大根治手術,各 種皮弁による即時再建手術,あるいは二次再建手術も積極的に行われるようになってきた。その結 果,原疾患の治癒率の向上とともに顎顔面の実質欠損を後遺した患者の増加を招いている。これら の顎顔面欠損症例に対する修復法としては,外科的再建手術とエピテーゼ(Epithese),義顎など顎 顔面補綴による補綴的修復法の2つに大別される。特に後者は一期治療後の患者の社会復帰を目 的としたリハビリテーションの一環としての非観血的修復法として注目されている。顎顔面補綴 での機能回復は,その装用性が欠損部への維持固定法により左右されるが,症例によってはそのた めの観血的手術の併用が必要となる。本報告では外科手術と補綴的修復との関連性ならびにその 問題点について言及した。供覧症例として77歳男性,眼窩内容摘出手術と上顎切除および上顎欠 損部閉鎖手術施行後の症例ならびに66歳男性,眼窩内容摘出手術,上顎切除手術後の症例につい て,後遺した顎顔面欠損に対するエピテーゼ,切除義顎による修復法を報告した。 キーワード エピテーゼ,顔面補綴,顎顔面補綴,外科的再建,顎顔面欠損,補綴的修復         はじめに  悪性腫瘍の治療は近年の医学の進歩により飛 躍的にその効果をあげている。顎顔面領域にお いても同様で,心疾患の治癒率の向上とともに 進展癌についても拡大根治手術,各種:皮弁によ る即時再建手術あるいは二次再建手術も積極的 に行なわれるようになってきた。しかしなが ら,原疾患治癒後に生じた組織の実質欠損は機 能性,審美性の喪失とともに精神的障害が,特 に「顎顔面」という特異的部位からはかりしれ ず,大きいものであることが多い。顎顔面欠損 患者の社会復帰へのリハビリテーションの重要 性がこのような観点からも今後より増大してく ると思われる。  今回我々は上顎癌治癒後の顎顔面欠損患者に  *〒409−38山梨県中巨摩郡玉穂町下河東1110  受付:1986年1月23日 対し,歯科学的技術を応用した人工物であるエ ピテーゼ,ならびに上顎切除義顎により補綴的 に修復した症例を経験したので,その概要とと もに本治療法の問題点について報告する。 症 例

 1 症例1

 患 者lY・S 77歳 男性  初診:1983年10月19日  主 訴:上顎義歯不適合による咀囎障害。      眼窩欠損部の審美的障害。  現病歴:1974年8月,右上顎悪性腫瘍の診断 のもとに某病院耳鼻咽喉科にて,右上顎骨,眼 窩内容摘出と上顎欠損部閉鎖手術を施行され た。その後1985年5月,某大学口腔外科で通常 の上顎義顎を作製したが,適合が不良であり, 咀噛樟害および審美的障害の改善を希望して当

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   a       b       c 図1症例1のエピテーゼ装用前(a)と装用後(b)ならびにエピテーゼ本体(c) 科に来科した。  家族歴:特記事項なし  既往歴:特記事項なし  現 症:   全身所見:腎機能の低下,歩行困難。   顔貌所見:右眼窩部は実質欠損し鼻咽腔と の交通を認め,患側頬部は陥凹し非対称であっ た(図1a)。  口腔内所見:右上顎半側切除部は口蓋弁によ り手術的に閉鎖されており,同部は上下的に可 動性を有し,義顎装用のための顎堤,口蓋とし ては不適当な状態であった(図2a)。また最大 開口域は:÷前歯部で21mmの開口障害を呈し たが残存歯牙はげ酉、一撃叢で骨植良好。また 構音障害は特に認められなかった。 処置および経過  義顎の装用治療に際しての欠損部の所見から は,上顎半側切除後の欠損は比較的うすい口蓋 弁により閉鎖されており,穿孔はないものの顎 堤は欠損し,頬部との境界は不明瞭な状態であ った。また再建閉鎖された口蓋部を眼窩欠損部 からみると骨組織の裏打ちがないため,上下に 可動性を有しており,口腔内圧の陽圧と陰圧の 差,あるいは義顎装着の咬合,開口時にも同部 認;

   黙劇』

図2 症例1の義顎装用前(a)と装用後(b)の    口腔内所見 a 二b が挙上,沈下するのが観察された。  以上のことから本症における義顎装用治療に は以下の問題点が予想された。すなわち,通常 のアクリルによる義顎では口蓋面での吸着等の 維持力が期待し得ない状態である。特に患側の 再建口蓋部では,その維持・固定と咬合の主体

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衝しうる変形可能な弾性材料を使用することに より解決した。すなわち義顎としての基本構造 は硬性レジン床とし,特に患側はレジン床と粘 膜面の間に軟性シリコンラバー(MDX−4−4210, 米国,Dow Coming社製)を用い,咬合時に 吸着が生じ得るような構造とした(図3a)。

B

E A:義歯床部 B:中 空 ㊥:シリコンラバー ㊥:ガラス細粒 ⑪:硬性レジン

∼A

      ε:エピテーゼ本体 図3 癒例1の義顎(a)およびエピテーゼ(b)   の構造 a b  本症例の眼窩欠損部には眼のエピテーゼの装 用治療を行った。エピテーゼは軟性シリコンラ バー材を使用し,欠損部への維持と固定は野老 が老眼鏡の頻回の着脱を要することも考慮して 眼窩欠損部の解剖学的形態に嵌合させる構造と し,そのための特別な装置は不要な構造とした (図3b)。  義顎およびエピテーゼ装用後!年7ケ月の現 在,エピテーゼの眼窩欠損部への装用性も良好 で脱落もなく(図1b),また義顎についても十

 H 症例2

 患者:F・G65歳男性

 初 診:1984年3月21日  主 訴:眼窩欠損部の審美的障害  現病歴:1976年4月,右上顎悪性腫瘍のため 某病院耳鼻咽喉科にて右上顎骨,眼窩内容摘出 手術を施行された。さらに術後のCo照射療法 により開口域3mmの重度の開口障害が後遺し た。そのため1974年4月,某大学口腔外科で開 口域拡大手術を施行し,開口域21mmの状態で 義顎およびエピテーゼ治療を受けた。しかし 1981年8月,照射療法により発症した腐骨摘出 手術を受けたため,エピテーゼ不適合となり, 同口腔外科より当科へ紹介され,1983年3月21 日来科した。  家族歴:特記事項なし  既往歴:特記事項なし  現 症:   全身所見:体格中等度,栄養状態良好。   顔貌所見:右眼三部を中心に広範囲に皮麿 欠損があり,眼窩実質欠損部は上顎洞および目 皿と交通を認めた(図4a)。  口腔内所見:上顎は無歯顎で右側硬口蓋は半 側欠損し,開口域は23mmと中等度の開口障 害が認められた。 処置および経過  上顎欠損部には,硬性アクリル材による単一一 材料による切除義顎の装用治療を行った。  また,眼窩部欠損部には症例1と同様,軟性 シリコンラバー材(MDX:一4−4210)での眼窩エ ピテーゼの装用治療を行った。エピテーゼの欠 損部への維持固定法も同様に欠損部への嵌入固 定型とし,良好な装用性を得ている(図4b)。 また,特に上顎切除義甲は硬口蓋欠損部が開放 性であり同欠損部への栓塞子付きの義甲である ためきわめて良好な装用性を得て,患者も満足

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  鰭1

   .噸F

している。 考 毛“ 曝・ 譲帰 ㌻﹁ ,博引 愚・臨,    疎郭   a       b 図4症例2のエピテーゼ装用前(a)とエピテーゼ装用後(b) 察  近年,悪性腫瘍の治療法の目ざましい発達に より,顎顔面領域の悪性腫瘍の治癒率も同様に 良好な治療成績が報告されている。しかし,そ の反面,顎顔面領域の組織欠損の後遺する症例 の増加とともに,いわぽ第2期治療を必要とす る患者の増加,社会復帰としてのリハビリテー ションへの要求も高まっており・,顎顔面補綴治 療の持つ意味は大きいものがある。  顎顔面欠損部の修復法としては,外科的再建 手術の他に手術では再建できない硬組織や機能 に関連した歯牙,顎堤には歯科学的技術を応用 した補綴的修復法である顎顔面補綴の2つの方 法がある。ここで,顎顔面補綴とは,人工物で の組織欠損修復法であり,その定義は「腫瘍, 外傷,炎症,先天奇形などが原因で,顔面また は顎骨とその周囲組織に生じた欠損部を非観血 的に,あるいは手術との併用により人工物で補 愼修復し,失われた機能と形態の回復をはかる ことをいう」とされている。このうち特に顔表 面に関連したものを顔面補綴(エピテーゼ)と 称し,義歯義顎などの咬合に関連するものを顎 補綴と称し,両者の総括したものを顎顔面補綴 という1)。  顔面補綴の適応症としては,まず部位的対象  として眼窩欠損,外鼻欠損,耳介欠損などが あげられている。これらは時に手術的再建より も補綴的修復の方がすぐれた審美効果を期待し うる症例の場合に考えられる。またそれ以外の 適応理由としては,再建手術そのものが可能で あっても患者が高齢であったり,経済的問題も 含めて手術に対する同意が得られられないよう な症例,あるいは腫瘍摘出後で経過観察を要す る症例など2次的再建までの期間の暫間適応も 対象となる2)。  しかしながら上述の顎顔面欠損部の修復は実 際には摘出手術の結果,後遺した欠損に補綴的 修復がなされ,あるいは2次的に予想される補 綴治療とは無関係に,可能な範囲で再建手術が なされているのが現状である。組織欠損部の修 復ということを考慮すると手術的再建と補綴甑

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顎関節援動形成術 ○口腔の気密性の確保  口蓋穿孔部の閉鎖  口唇,軟口蓋欠損は再建  頬一口腔穿孔部は閉鎖 ○義顎維持固定源の形成  欠損部周囲の整形 歯槽骨整形 顎堤形成,再建  下顎の再建 修復の両者は分離しうるものではなく,むしろ 一体化するべきものであろうと考えられる。す なわち第1の理由は補綴的修復治療を行う場合 ,存在する欠損腔は補綴物装用に適した欠損形 態であることはむしろまれであり,従ってより 良好な補綴物の装用性を得るためには摘出手術 である第!期治療は2期治療である補綴治療を 考慮した切除範囲,形態で行われることが望ま しい。第2の理由は欠損腔がきわめて大きい症 例では人工補綴物の欠損部への維持固定が困難 であるため,再建手術により欠損部を可及的に 小さくしかつ適切な形態とし,最終治療として の人工補綴の装用性向上をはかることである。 この場合の再建:手術は観点をかえればエピテー ゼ,義顎装用のための補綴前手術ともいいうる 処置となる。この補綴前処置としては表1のよ うな内容が考えられる4)。  これらのことに関連して本報告例のうち症例 1では硬臼蓋欠損部が即時再建により閉鎖され た症例であったが,硬口蓋の義顎に対する機能 を考慮する時,骨の裏打ちのない可動性の軟組 織による閉鎖は不適当であり,むしろ口蓋欠損 のままで栓塞子霊界顎を装用する方がはるかに 良好な装用性が得られる症例であった。  次に,顎顔面補綴の装用条件であるが, Beumer(!979)は4つのカテゴリーに整理し ている5)。第1はesthetics,つまり審美性であ り,これには色,感触,形態,半透明性が要求 される。第2はfabrication,つまり製作の簡便 性,寸法安定性,構造物が軽量であること,温 度の変化に対して安定性のあること,低い熱伝 導性のあること,などである。最後にbiologic and chemical properties,つまり生物学的,化 学的に安定性のある材料であることが必須であ ること,特にエピテーゼの対象となる原疾患を 考慮した時,癌原性のないこと,毒性のないこ と,アレルゲンにならないことなどが:重要であ ると考えられる◎  これらの条件に適合するものとして種々の材 料が開発されたがそのうち本報告症例1,2に 使用したシリコンラバー材(MDX−4−4210)は 大西らがその加工法,操作性を検討し実用化し てきた軟性材料である。これに関しては,生物 学的安定性,物理性をはじめその装用性などに 関する種々の検討がなされその有用性が示され ているが6)7)8)9),今後もその問題点等を考慮し, 検索が必要と思われる。 結 語  顎顔面補綴,エピテーゼについて,臨床例の 供覧とともにその適応,材料等について述べ た。  今後とも悪性腫瘍の治癒率の向上とともに顎 顔面補綴,エピテーゼの必要性,重要性は増加 するものと思われ,患者のリハビリテーシ滋 ン,社会復帰を考慮しつつより良好な装用性を 得るための検討を重ねていきたいと考えてい る。 ︶ ! ︶ 2 ︶ 3 ︶ 4 文 献 大西正俊ほか:顎額面補綴蜜語委員会報告.顎 顔面補綴,4,94,1981. 大西正俊:顔面補綴一再建手術との臨床適応を 中心に一. The DENTAL,2,418−430,1984。 田口恒夫;言語臨書治療学,4−5,医学書院, 東京,1976. 大西正俊:顎顔面補綴前の外科処置一顎補綴の

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︶ 5 ︶ 6 ︶ 7 ための口腔機能の保存と再建一. The DEN− TAL,2,354−361,1984. Beumer, J. III, Curtis, T. A. and Firte11, P. N.二Maxillofacial rehabilltation,323−328, C. V.Mosby Co., St. Louis,1979. 小室千鶴子,木村 泰ほか:シリコンラバー製 顎顔面補綴材の臨床応用に関する研究一特に材 料の表面性状と表面付着物との関連性につい て一,顎顔面補綴,5,59−64,1982. 木村 泰,大西正俊,水谷 雄iほか:顎補綴に ︶ 8 ︶ 9 おけるSilicone Rubber材の臨床応用に関する 検討一特に表面付着物におけるCaadidaについ て一.顎顔面補綴,6,39−43,1983。 笠原克彦ほか:弥性裏製材Silastic 390 soft li籠er使用中に発生したwhite noudleとその 対策について.補綴誌,14,215−216,1972. 水谷 雄:顎顔面・口腔外科領域において使用 される医用高分子材料の生体為害性に関する研 究一培養細胞に対する溶廷物質の毒性ならびに 溶出傾向の検索一.口病誌,48,415−438,1981. αin董。温Signi癩cance of Prosthetic Reconstmction£or P織dents        wiIh Maxillo£aci劉l I)efeαs       Kayoko Ohtsuki, Masatoshi Ohnishh逓d】Keisuke Unno D8μγ‘η∼8・η‘・アD6η‘法吻,僻40γα」3πγ98γ)㌧yαノηα・ηα51∼’M64’‘o∼Co11696    The present study exam豆ned the rela縫onship between reconstructive surgery and prosthe皇ic reconstruαion in two w三th defec亡s ohhe maxillofaclal area.0.!ユe was a 77−year・o丑d man who underwent removal of the orbital contents, maxillectomy and occius至ve surgery at the site o£ maxillary defects, and subsequently underwent faciahecons£ruction with surgicahnd prosthetic reconstmαion. The other was a 65−year−oM man who underwent removal of the orbital contents an(1 max圭11ectomy and乳mderwent facial reconstruction w量th prosthe£ic means for defects of出e maxillofacial area. Results indicate tha之, for maintenallce an(i nx飢ion of tl、e maxillofaclal prosthetics, the procedure combining sllrgicahmd p1’os£hetics metho(ls is necessary in some cases・ Key words: Epi£hesis, Maxil蓋。歪acial prosthetics, area, PrOSthe£ic reCOnStrUCtiO盒 Reconstruαive surgery, Defect o£Maxillofacia蓋

参照

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