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若年および中年女性の日常生活における血中トリグリセライド濃度の変動

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(1)

若年および中年女性の日常生活における血中トリグ

リセライド濃度の変動

著者

鈴木 舞子, 池田 麻里衣, 伊藤 恵梨, 大谷 美紀,

後藤 梨恵, 斉藤 裕美, 内藤 通孝

雑誌名

椙山女学園大学研究論集 自然科学篇

44

ページ

51-60

発行年

2013

URL

http://id.nii.ac.jp/1454/00001797/

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* 生活科学部 管理栄養学科 鈴木舞子・池田麻里衣・伊藤恵梨・大谷美紀・後藤梨恵・斉藤裕美・内藤通孝  椙山女学園大学研究論集 第44号(自然科学篇)2013

若年および中年女性の日常生活における

血中トリグリセライド濃度の変動

鈴木舞子* ・ 池田麻里衣* ・ 伊藤恵梨* ・ 大谷美紀*

後藤梨恵* ・ 斉藤裕美* ・ 内藤通孝*

Diurnal Changes of Triglyceride Concentration

in Healthy Young and Middle-aged Women

Maiko S

UZUKI

*, Marie I

KEDA*

, Eri I

TO

*, Miki O

TANI

*,

Rie G

OTO

*, Hiromi S

AITO*

and Michitaka N

AITO* はじめに  脂質異常症は糖尿病・高血圧とともに心血管障害の危険因子の一つである。しかし,脂 質異常症は,自覚症状に乏しいため見逃されやすく,そのリスクを抱えながらも適切な治 療を受けていない人が多数存在する1)。さらに,脂質異常症の中でも近年,空腹時の血清 トリグリセライド(TG)値は正常値を示すものの,食後の血清 TG 値が大きく上昇し, さらに上昇した血清 TG 値が下がりにくいことを特徴とする食後高脂血症が注目されてい る2, 3)。脂質異常症の診断基準(LDL-C≧140 mg/dl, HDL-C<40 mg/dl, TG≧150 mg/dl)は 早朝空腹時の静脈採血によって行われているが,この方法は食後の血清 TG 値の上昇を反 映しておらず,食後高脂血症等の潜在的な脂質異常症のリスクを見逃しやすい4)。脂質異 常症の原因としては,脂質・糖質の過剰摂取や運動不足等の生活習慣が挙げられ,それに よる肥満は脂質異常症の危険因子である5)。しかし,近年では肥満とは関係なく脂質異常 症を発症する例も多く見受けられている。  脂質異常症の発症は生活習慣のほかに,遺伝的素因とも関連しており,代表的なものに ApoE表現型がある。ApoE は,食事に含まれる脂質を運搬する CM の代謝産物である CM レムナントを肝臓に取り込む役割を果たすタンパク質である。ApoE には,レムナント受 容体への親和性が異なる E1∼E7までの7種類の表現型があり,これは遺伝的に決定され る6∼9)  また,脂質異常症は加齢による影響も大きく,特に女性では中年期以降に脂質異常症の リスクが増加する。これは,脂質代謝を改善する働きを持つエストロゲンの分泌量が中年 期以降急激に減少するためである10)

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 現在,脂質異常症の臨床診断は早朝空腹時の値に基づいて行われる。しかし,この方法 では,近年問題となっている食後高脂血症が見逃される可能性が高い。そこで,本研究は 健常な若年女性および中年女性を対象とし,簡易測定器を用いて日常生活下での血中 TG・Glu 値を経時的に測定し,その変動について検討を行った。また,若年群と中年群 で比較を行うことにより,日常生活下で測定した血中 TG・Glu 濃度と潜在的な脂質異常 症のリスクの関係について検討を行った。 方  法 1.対  象  文章によりインフォームド・コンセントを得た健常な若年女性12名(21±0.7歳),中 年女性10名(50±4.1歳)を対象とした。若年女性は本学学生であり,中年女性は本学学 生の母親およびその知人を対象とした。被験者には,予め文章による同意を得ることと し,研究プロトコールは学内倫理委員会の承諾を得た。  被験者に対して事前にアンケートを行い,健康面で問題がないこと,暴飲暴食や無理な ダイエットをしていないことを確認した。また,血液検査を行い HIV 抗原,HBs 抗原, HCV抗体が陰性であることを確認した。 2.食事調査・運動調査の方法  生活習慣による影響を考慮するため,試験実施1週間前より以下の記録調査を行った。 用紙への記入や秤量,測定機器の装着等は被験者自身で行った。 2-1 食事調査 2‒1‒1 写真による食事記録  TG 測定試験1週間前から当日にかけて,写真撮影による食事記録を行った。食器を含 め,全体が見えるように撮影指示をした。また,目安として幅15 cm の付箋を添えて撮影 を行った。 2‒1‒2 記入式の食事記録  TG 測定試験2日前から当日にかけて,食事内容を用紙に記録した。若年女性12名は秤 量法,中年女性12名は目安法を用いて摂取した食品の種類と重量を記録した。 2‒1‒3 栄養計算  栄養計算には V5五訂増補2010基準エクセル栄養君を使用した。記録用紙に記入された 食品の種類,および重量(または目安量)をもとに栄養計算を行い,摂取エネルギー量 (kcal),タンパク質摂取量(g),脂質摂取量(g),糖質摂取量(g)を求めた。市販の食 品については,表示ラベルまたは企業の web の値を参考にし,記載のないものに関して は,日本食品標準成分表2010を用いて算出した。 2‒2 運動記録 2‒2‒1 歩数計による記録  TG 測定試験の2日前から当日にかけて歩数計を装着し,歩数,運動量,エクササイズ 数,消費エネルギーを計測した。

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若年および中年女性の日常生活における血中トリグリセライド濃度の変動 2‒2‒2 記入式の運動記録  起床,就寝,食事,入浴,外出,運動等の生活活動を記録した。運動については,行っ た時間,内容等を詳しく記録した。また,入浴中の消費エネルギーを加味するため,入浴 時間(シャワーを浴びた時間,湯船に浸かった時間)を記録した。 2‒2‒3 消費エネルギー量の算出  用紙に記入された運動記録より,日常の動作や運動,歩数計で記録されないもの,また 入浴について生活活動の内容およびその時間をもとにエクササイズ(Ex)を算出した。 Exの算出は「健康づくりのための運動基準2006─身体活動・運動・体力─」に記載され た身体活動毎の Mets をもとに算出した[Ex=Mets×時間(h)]。さらに,計算により求め た Ex と被験者の体重から消費エネルギーを算出した[消費エネルギー量(kcal)=Ex×体 重(kg)×1.05]。 3.簡易測定器を用いた TG・Glu の測定  TG・Glu の測定には簡易測定器(ポケットリピッド:テクノメディカ)を使用し,被験 者自身で採血とポケットリピッドセンサーカードによる測定を行った。採血に用いる穿刺 器具は使い捨てのもの(ナチュラレットディスポまたはポケットランセット)を使用した。 3‒1 測定回数と測定のタイミング  朝食前,朝食後,昼食前,昼食後,夕食前,就寝前,翌朝の計7回実施した。食前(朝 食・昼食・夕食)の採血は食事を開始する直前に行った。また,食後(朝食・昼食)の採 血は食後90∼150分後に行い,就寝前は就床直前に行った。翌朝は起床した直後に採血を 行った。 3‒2 曲線下面積・曲線下増加面積(AUC・IAUC)  曲線下面積(AUC)は,0 mg/dl を底辺とし,時間ごとの面積の和とした。また,曲線 下増加面積(IAUC)は,空腹時の TG または Glu を底辺とし,時間ごとの面積の和とし た。その際,底辺よりも低いものは負の面積として総面積から差し引いた。この試験では 被験者ごとに食事および採血の時間が異なるため,個別に AUC・IAUC を算出した後, 各群の平均を求めた。 4.身体的基礎項目の測定  各被験者の健康状態や生活習慣病リスクを把握するため,身体計測,体組成測定を行っ た。また,絶食状態で静脈採血を行い,成分分析をした。 4‒1 実施日  簡易測定器を用いて測定をした次の日の朝,絶食状態にて実施した。血液生化学検査の 多くは空腹時の値を基準として評価を行うため,これらの測定は絶食状態で行った。 4‒2 身体計測・体成分分析  身長,体重,臍周囲径,臀部最大径を測定した。InBody720(BioSpace)を用いて体脂 肪量,体脂肪率,骨格筋量,内臓脂肪面積,W/H 比を測定した。 4‒3 採血測定項目  ApoE 表現型,TG,TC,HDL-C,Lp(a),RLP-TG,ApoAⅠ,AⅡ,B,B48,CⅡ,CⅢ, E,インスリン,Glu を測定した。また,測定したインスリンと Glu の結果より HOMA-IR

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Table 1 Clinical characteristics of young and middle-aged women         Young (n=12) Middle-aged (n=10) Age (years) 21.6 ±0.19 50.8 ±1.10 ** Height (cm) 159.2 ±1.69 157.4 ±1.61 Weight (kg) 52.7 ±2.45 51.6 ±2.38 BMI (kg/m2) 20.7 ±0.65 20.7 ±0.82 Waist (cm) 73.0 ±1.88 77.9 ±2.49 W/H 0.75 ±0.01 0.83 ±0.02 *** VFA (cm2) 31.5 ±4.76 54.5 ±7.91 * Insuiln (μIU/ml) 5.5 ±0.43 4.6±0.57 Glu (mg/dl) 91.9 ±2.47 102. 0±2.59 ** TG (mg/dl) 44.8 ±3.72 60.6 ±7.06 RLP-TG (mg/dl) 9.0 ±1.48 7.7 ±0.87 TC (mg/dl) 170.4 ±10.85 204.3 ±8.85 HDL-C (mg/dl) 66.9 ±5.07 74.2 ±4.58 LDL-C (mg/dl) 94.6 ±7.17 118.0 ±7.53 Lp (a) (mg/dl) 18.0 ±4.07 16.8 ±6.22 ApoA-Ⅰ (mg/dl) 157.3 ±7.54 180.9 ±9.62 ApoA-Ⅱ (mg/dl) 26.9 ±0.67 30.1 ±0.67 ** ApoB (mg/dl) 70.1 ±4.19 86.9 ±6.18 * ApoB48 (µg/ml) 2.1 ±0.49 2.4 ±0.28 ApoC-Ⅱ (mg/dl) 2.7 ±0.31 3.2 ±0.33 ApoC-Ⅲ (mg/dl) 7.3 ±0.54 8.6 ±0.64 ApoE (mg/dl) 3.9±0.53 3.8±0.25

All values are means±SE. * p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001

を算出した[HOMA-IR=インスリン×Glu/405]。 5.統計解析

  各 値 は mean±SE で 示 し た。 統 計 解 析 に は StatView5.0を 用 い た。 群 内 比 較 で は, repeated measure one-way ANOVAを行い,さらに Fisher s PLSD の post-hoc test によって危 険率5%未満の場合を有意とした。2群間の比較では,unpaired t-test を行い,危険率5% 未満を有意とした。 6.結  果  若年および中年群における身体的基礎項目の結果を Table 1に示した。身長,体重, BMIで有意な差は認められなかったが,W/H 比,VFA は中年群において有意に高かった (W/H 比:p<0.001,VFA:p<0.05)。空腹時静脈採血では,Glu,ApoA-Ⅱ,ApoB は中 年群で有意に高かった(Glu:p<0.01,ApoA-Ⅱ:p<0.01,ApoB:p<0.05)。  次に若年群と中年群の血中 TG 濃度の日内変動について解析した結果,若年群では他の 時点と比べて有意差を示す時点はなかった。また,中年群においては昼食前と就寝前が朝 食前と比べて有意に高かった(p<0.05)(Figure 1)。一方,Glu 濃度の日内変動について

(6)

Young Middle-aged 160 140 120 100 80 60 40 20 0 TG (mg/dl ) Before

breakfast breakfast2h after Beforelunch 2h afterlunch Beforedinner Beforesleep After rise

Figure 1 Diurnal changes of TG concentration in young and middle-aged women

All values are means±SE. * p<0.05 (vs. ‘Before breakfast’ in Middle-aged)

p=0.085 IAUC-TG (mg ・h/dl) Young Middle-aged 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 100

Figure 2 IAUC-TG in young and middle-aged women

若年および中年女性の日常生活における血中トリグリセライド濃度の変動 解析した結果,若年群では昼食後の値が他の時点と比べて有意に高かったが(p<0.05), 中年群では有意差は認められなかった。また,TG 濃度と Glu 濃度の日内変動を若年群と 中年群で比較した結果,いずれも有意差は認められなかったが,TG の IAUC においては 中年群で有意に高い傾向となった(Figure 2)(p=0.085)。食事調査では3日間の平均で 若年群と中年群を比較したところ,エネルギー,タンパク質,脂質において有意差は認め られなかったが,糖質においては若年群が有意に高かった(p<0.05)。運動調査について は,総消費エネルギー量や身体活動レベルには有意差は認められなかった。  次に ApoE 表現型の判定を行った。中年群では E3/3型が10名,E3/3以外が2名であり,

(7)

ApoE (mg/dl) E3/3 * * * 6 5 4 3 2 1 0 non-E3/3 Insulin (μIU/ml) E3/3 8 7 6 5 4 3 2 1 0 non-E3/3 SBP (mmHg) E3/3 120 115 110 105 100 95 90 non-E3/3

Figure 3  Serum concentarions of ApoE and insulin, and SBP in young

women with E3/3 (n=5) or non-E3/3 (n=7) phenotype All values are means±SE. * p<0.05

表現型別のサブ解析は行わなかった。一方,若年群では E3/3型が5名,E3/3以外が7名 であったため,これらの群を用いて,TG,Glu 等の比較を行った。  身体的基礎項目の比較については,身長,体重,BMI,W/H 比で有意な差は認められ なかったが,ApoE 濃度では E3/3型の群で有意に高かった(p<0.05)。収縮期血圧,イン スリン濃度は E3/3型以外の群で有意に高かった(Figure 3)(p<0.05)。HOMA-IR におい ては,平均値では E3/3以外の群で高かったが,有意差はなかった。

 E3/3群と E3/3以外の群の TG,Glu 濃度変動について群内で比較すると,TG には有意 差は認められなかったが,Glu 濃度においては両群共に昼食後の値が他の時点に比べて有 意に高かった(p<0.05)。次に群間比較を行ったところ,TG,Glu 濃度共に朝食前で E3/3 以外の群が有意に高い結果となり(p<0.05),更に朝食後および昼食後でも同様の傾向が 見られた(朝食後:p=0.088,昼食後:p=0.062) (Figure 4)。食事調査で3日間の平均を 比較したところ,エネルギー,タンパク質,脂質において有意差は認められなかったが, 糖質においては E3/3以外の群が有意に高かった。運動調査については,総消費エネルギー 量や身体活動レベルには有意差は認められなかった。

(8)

E3/3 non-E3/3 160 140 120 100 80 60 40 20 0 TG (mg/dl ) Before

breakfast breakfast2h after Beforelunch 2h afterlunch Beforedinner Beforesleep After rise

p=0.088

p=0.062

Figure 4  Diurnal changes of TG concentration in young women with E3/3 (n=5)

or non-E3/3 (n=7) phenotype

All values are means±SE. * p<0.05 (E3/3 vs non-E3/3)

若年および中年女性の日常生活における血中トリグリセライド濃度の変動 7.考  察 7‒1 若年群 vs 中年群  エストロゲンの分泌量は20歳代をピークに徐々に減少し,40歳代後半から50歳代後半 にかけて急激に減少し,閉経へと向かう。エストロゲンは肝臓の LDL 受容体を増加させ, 更に IDL から LDL への変換をつかさどる肝性リパーゼの活性を抑制し,LDL の減少と HDLの増加に寄与している。このようにエストロゲンは脂質代謝に対して大きな影響を 持っている。また,エストロゲンの中でもエストラジオール(E2)は血管内皮および平滑 筋に対する作用を有し,強い抗動脈硬化作用を示す。これにより,エストロゲンの分泌が 盛んな40歳代までは,男性に比べて脂質異常症の頻度は低くなっている。しかし,更年 期を迎える50歳代からはエストロゲンの急激な減少によって,コレステロールや TG が 上昇し,閉経後に脂質異常症を発症する例が多く見られ,これを閉経後高脂血症と呼 ぶ10∼13)  以上のことから,本研究においても TG や Glu の高値やピークの遅延など,中年女性で 脂質異常症のリスクが高いことを示唆するような結果が得られると予測した。中年女性は 若年女性と比較して内臓脂肪が蓄積しやすいことが知られているが,今回の試験において も W/H 比と内臓脂肪面積が中年群で有意に高かった。また,空腹時静脈採血による Glu, ApoA-Ⅱ,ApoB 濃度は中年群が有意に高かった。これらより,基準値内であっても若年 群と中年群では糖・脂質代謝能に差があることが示唆された。  次に,若年群と中年群でそれぞれ TG 濃度の変動について比較すると,若年群では有意 差は認められなかったが,中年群では昼食前と就寝前では朝食前と比べて有意に高い結果 となった。更に,若年群に比べて中年群の TG の IAUC が有意に高かったことから,中年 女性は若年女性と比較して食後の TG 上昇が大きい可能性が示唆された。  また,昼食後に若年群の Glu が有意に高くなったが,これは3日間の平均糖質摂取量が 高く,更に間食においてエネルギーあたりの糖質摂取比率が多いということが影響してい

(9)

る可能性がある。両群では,各時点での TG の有意差は認められなかったが,TG の変動 の違いが見られたことから,潜在的な脂質異常症のリスクを評価するためには,早朝空腹 時の採血のみならず,食後の TG 変動を経時的に測定することが望ましいと考える。 7‒2 E3/3群 vs E3/3以外の群  脂質異常症に関する遺伝的な素因の一つとして ApoE の表現型が挙げられる。ApoE は, 食事由来の脂質を運搬する CM を肝臓に取り込む働きをする。また,遺伝的に決定され る E1∼E7までの7種類の表現型が存在し,それぞれレムナント受容体への親和性が異な る。例えば,ApoE3のレムナント受容体,LDL 受容体,ApoE 受容体に対する結合能を 100%とすると,ApoE2は2%程度の結合能しか持っておらず,コレステロールの代謝能 に差が認められる。また,ApoE4は LDL 受容体との結合能は ApoE3とほぼ同じであるが, アポリポタンパクの代謝速度が速いことが知られている2, 14, 15)。本研究では,中年群につ いては E3/3型が圧倒的に多かったため,ApoE 表現型の違いによる比較は若年群のみで 行った。

 E3/3群と E3/3以外の群を比較すると,朝食前の TG は E3/3以外の群で有意に高く,朝 食後と昼食後の TG でも同様の傾向が見られた。また,TG の IAUC でも E3/3以外の群で 有意に高く,AUC においても同様の傾向が見られた。これより,脂質異常症には該当し ないものの,少なくとも一つ E3以外の型を持つ者では,E3/3型のものに比べて脂質代謝 能が低い可能性があると考えられる。  空腹静脈採血では,ApoE 濃度は E3/3の群で有意に高かった。これは,E3/3以外の群に おいては,全ての被験者が少なくとも一つの ApoE4を持っており,E3/3群と比較して ApoE代謝・排出速度が速かったためと考える。また,血中インスリン濃度では E3/3以外 の群で有意に高かったことから,ApoE の表現型が糖代謝に対しても影響を与えている可 能性があると考える。しかし,今回の試験では,例数が少ないため誤った結論が得られる 可能性の他,間食を摂取した被験者が E3/3以外の群で多く,試験実施日における糖質摂 取量にも有意差が認められたため,食事の内容がインスリン濃度に影響を与えている可能 性も否定できない。  また,原因は不明であるが,収縮期血圧においても E3/3以外の群で有意に高い結果と なった。このことから,ApoE が高血圧など,他の生活習慣病と関係している可能性も考 えられる。 8.ま と め  中年女性では,若年女性に比べて食後に TG 値が上昇しやすい傾向にあることが示唆さ れた。また,加齢に伴う潜在的な脂質異常症,とくに食後脂質異常症のリスクを発見する ためには,早期空腹時の TG 値のみではなく,経時的な TG 値を観察する必要があること が示唆された。  E3/3以外の ApoE 表現型を持つ場合,健常者であっても脂質代謝能が低い傾向があるこ とが示唆された。また,E3/3以外の型を持つ群では,空腹時インスリン値や収縮期血圧が 有意に高く,ApoE 表現型が糖尿病や高血圧を含む他の生活習慣病リスクと関連している 可能性が示唆された。

(10)

若年および中年女性の日常生活における血中トリグリセライド濃度の変動 謝辞  本研究は椙山女学園大学学園研究費助成金B2011年度による助成を受けた。また,本論文の 要旨は第59回日本栄養改善学会学術総会(2012年9月13日,名古屋)で発表した。 参考文献 1) 寺本民生:高脂血症テキスト 南江堂 pp. 18-19,2004 2) 日本臨床:脂質代謝異常 pp. 377‒378,2007 3) 寺野彰・羽田勝征・山田信博:Mebio 食後高脂血症・高血糖と動脈硬化症 メジカル ビュー社 p. 17, 22‒25, 34,2004 4) 日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド 協和企画 p. 15, 2008 5) 平成14年度国民健康・栄養調査結果の概要 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/12/h1224-4.html

6) Kesaniemi YA, Ehnholm C, Miettinen TA: Intestinal cholesterol absorption efficiency in man is related to apoprotein E phenotype. J Clin Invest 1987; 80: 578‒581

) Durstine JL et al.: Blood lipid and lipoprotein adaptations to exercise a quantitative analysis. Sports Med 2001; 31: 1033‒1062

8) Sunami Y et al.: Effects of low-intensity aerobic training on the high-density lipoprotein cholesterol concentration in healthy elderly subjects. Metabolism 1999; 48: 984‒988

9) Miyashita M, Burns SF, Stensel DJ: Exercise and postprandial lipemia effect of continuous compared with intermittent activity patterns. Am J Clin Nutr 2006; 83: 24‒29

10) 江澤郁子・横田千晶編:N ブックス 応用栄養学 第4版 建帛社 pp. 19‒20, 140,2007 11) 河田光博・三木健寿編:栄養科学シリーズ 解剖生理学 講談社 p. 138,2000 12) 小林拓郎・小倉哲宏編:新体系 看護学全書 第24巻 成人看護学11 女性生殖器 メヂ カルフレンド社 pp. 24‒27,2009 13) 霜田幸雄・城座映明編:シリーズ看護学の基礎科学 第2巻 からだのしくみ 生理学・分 子生物学Ⅱ 日本看護協会出版社 pp. 63‒64,2005 14) 倉田忠男他編:スタンダード栄養・食物シリーズ9 基礎栄養学 第2版 東京化学同人  p. 27, 39, 40, 42, 47, 60‒63, 204,2008

15) Stephanie M. et al.: Apolipoprotein Evariation at the sequence haplotype level: implications for the origin and maintenance of a major human polymorphism. Am J Hum Genet 2000; 67: 881‒900

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略語一覧

AUC :area under the curve

ApoAⅠ :apolipoprotein AⅠ

ApoAⅡ :apolipoprotein AⅡ

ApoB :apolipoprotein B

ApoCⅠ :apolipoprotein CⅠ

ApoCⅡ :apolipoprotein CⅡ

ApoCⅢ :apolipoprotein CⅢ

ApoE :apolipoprotein E

BMI :body mass index

CM :chylomicron

E2 :estradiol

Glu :glucose

HBs :hepatitis B surface antigen

HCV :hepatitis C virus

HDL :high density lipoprotein

HDL-C :high density lipoprotein-cholesterol

HIV :human immunodeficiency virus

HOMA-IR :homeostasis model assessment-insulin resistance IAUC :increamental area under the curve

IDL :intermediate density lipoprotein

LDL :low density lipoprotein

LDL-C :low density lipoprotein-cholesterol

Lp(a) :lipoprotein(a)

RLP-TG :remnant-like particle-triglyceride

SBP :systolic blood pressure

TC :total cholesterol

TG :triglyceride

Table 1 Clinical characteristics of young and middle-aged women         Young (n=12) Middle-aged (n=10) Age (years) 21.6  ±0.19 50.8  ±1.10 ** Height (cm) 159.2  ±1.69 157.4  ±1.61  Weight (kg) 52.7  ±2.45  51.6  ±2.38  BMI (kg/m 2 ) 20.7  ±0.65  20.7  ±0.
Figure 1 Diurnal changes of TG concentration in young and middle-aged women All values are means±SE. * p<0.05 (vs
Figure 3  Serum concentarions of ApoE and insulin, and SBP in young  women with E3/3 (n=5) or non-E3/3 (n=7) phenotype
Figure 4  Diurnal changes of TG concentration in young women with E3/3 (n=5)  or non-E3/3 (n=7) phenotype

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