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韓国・マレーシア・シンガポールにおける住宅ストックの更新状況 : アジア諸国ニュータウンの固有文化を踏まえた再生手法 その2

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椙山女学園大学

韓国・マレーシア・シンガポールにおける住宅スト

ックの更新状況 : アジア諸国ニュータウンの固有

文化を踏まえた再生手法 その2

著者

川野 紀江, 村上 心, 前田 幸栄

雑誌名

椙山女学園大学研究論集 自然科学篇

39

ページ

45-52

発行年

2008

URL

http://id.nii.ac.jp/1454/00001343/

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* 生活科学部 生活環境デザイン学科 ** 生活科学研究料 生活環境学専攻(修士課程)

韓国・マレーシア・シンガポールにおける

住宅ストックの更新状況

──アジア諸国ニュータウンの固有文化を踏まえた再生手法 その2──

川野紀江* ・ 村上 心* ・ 前田幸栄**

Study on Renovation of Housing Stocks in South Korea, Malaysia and Singapore

—Renovation Methodologies of New Towns in Asia on the Basis of Peculiar Cultures (Part 2)—

Norie KAWANO, Shin MURAKAMI and Yukie MAEDA

1 はじめに  アジア諸国では,都市への急激な人口集中により新しい居住区(以後,ニュータウン) が増加し続けている。このような都市への人口集中を,ニュータウンの開発により解消し ようとする試みは,第二次世界大戦以降,先進諸国(欧米・日本など)で見られた手法 と,一見,同じもののように思われる。しかし,アジア諸国のニュータウンの形成には, 以下のような異なる条件が存在している。 ・第二次世界大戦後の都市形成の基礎となる文化的背景として,戦前の植民地支配時の影 響と,独自文化の影響の両方を大きく受けていること。 ・欧米諸国・日本に比して,産業構造や経済的・技術的条件整備が遅れていること。 ・計画的人口集中と,自然発生的人口集中へのバランス的配慮の違いがあること。  本研究「アジア諸国ニュータウンの固有文化を踏まえた再生手法」は,欧米諸国・日本 における様々な研究事例,上記のような欧米諸国との違いを踏まえ,アジアの文化を反映 させた持続可能なニュータウンを形成するための,再生手法及び再生組織を提示すること を目的としている。  本報告「その2 韓国・マレーシア・シンガポールにおける住宅ストックの更新状況」 では,研究の基礎資料として,各国の住宅ストック更新状況に関して,主として統計デー タを基に,比較検討を行なうものである。 2 研究の方法  図表1に示すデータソースを基に,各国の世帯数,住宅ストック,フロー等を抽出し,

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0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 85 91 3691 8691 3791 8791 9138 8891 3991 8991 3002 年 住宅ストック 数/世帯数 日本 韓国 イギリス フランス 図表2 住宅ストックの世帯数に対する割合−1(日韓英仏)1) 図表1 データソース イ ギ リ ス フ ラ ン ス 日 本 * * 韓 国 マ レ ー シ ア シ ン ガ ポ ー ル 世帯数 “General Report of the Population Census 1991, 2000” ストック “General Report of the Housing Census Malaysia 1991, 2000” フロー 「建築動態統計」 国土交通省 “Social StatisticsBulletin Malaysia

1999, 2003” GDP − − − “Annual National Accounts -Comparative tables based on exchange rates and PPPs.” OECD − − “Bulletin of Housing Statistics for

Europe and North America 2004, 2006”

United Nations

“Annual Bulletin of Housing Building Statistics for Europe 1987”, “Housing and Building Statistics 2000” United Nations “Statistics Singapore” (http://www.sings tat.gov.sg/) 「住宅・土地統  計調査」 総務省統計局 “Year Book of Housing and Urban Statistics 2006” Korea National Housing Corporation *1972年以前は沖縄県を除くデータ 川野紀江・村上 心・前田幸栄 ストック更新状況に関する比較・分析を行なった。韓国・マレーシア・シンガポールの他 に,再生先進国であるフランス・イギリスのデータと,本報告の発表国である日本のデー タを比較の参考とする。 3 住宅ストックの世帯数に対する割合  住宅ストック充足の目安として,閉じた範囲(国,地方,地区など)の住宅ストック数 が世帯数を上回っているか否か,をみる。ストック数が世帯数を下回っている場合には, ストックを増やすこと,即ち,「量」を満たすことが必要であると考えることができる。 図表2に韓国,日本,イギリス,及び,フランスの世帯数及びストックの推移を例として 示した。日本では1966年から1971年にかけて,5年間の平均世帯数が約25,300千世帯,

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図表3 経済状況とフローの推移(韓国) 4,000 9,000 14,000 19,000 24,000 年 GDP実質値 (ドル/人) 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 フロー(千戸) 韓国GDP フロー アジア通貨危機 200万戸 建設計画 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 平均ストックが約25,600千戸となり,ストック数が世帯数を上回った。韓国においては, 2002年に漸く,ストック数(約12,400千戸)が世帯数(12,300千世帯)を上回っており, それまでは,住宅不足を解消することが,韓国の住宅政策の主要な課題であったことを示 している。イギリス・フランスでは世帯数の増加率が日本及び韓国より小さく,特にイギ リスにおいては,世帯数とストックの増加率が4か国中,最も低くなっている。 4 アジア諸国におけるストックの供給状況 4.1 韓国の住宅政策とストック供給状況  図表3に1981年から2001年の,韓国の1人当たり実質 GDP(ドル/人)と,住宅供給 数(フロー)の推移を示した。韓国においては,アジア通貨危機(1997年‒)の期間にみ られるように,フローは経済の影響を強く受けていることがわかる。1989年以前と1998 年以後の経済成長率(GDP の変化率)とフローの上昇率は類似している。1988年から計 画された住宅200万戸建設計画の影響を受け,1989・1990年にフローが急増し,その後ア ジア通貨危機の影響を受けるまでの数年間は,600千戸弱から700千戸弱のほぼ横ばいの 供給量となっている。  1998年に分譲価格が自由化されると価格が高騰した為,その後は,住宅市場・不動産 市場を安定させる対策として,建て替え基準の強化や投機過熱地区における分譲権の転売 要件の強化が行なわれた。即ち,経済成長率とフローの上昇率が異なっている期間は,政 策の影響を受けていると考えられる。  2003年にはこれまでの「住宅建設促進法」にかわり「住宅法」が制定され,量から質 の充足に政策は転換された。また,不動産市場の安定対策として,集合住宅を建て替える 場合,全体の60%の中小型住宅の建設を義務化することにより,建て替えを行なうと不 動産価値が下がることになり,建て替えが抑制されることとなった。また,ラーメン構造 の容積率緩和,リモデリング2)時の増築が認められた。

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0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 0 20 40 60 80 100 120 140 ×1000ੑ ストック/世帯 フロー 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 図表4 住宅ストックの世帯数に対する割合−2(マレーシア) 0 1986–90 1991–95 1996–98 戸 公共低コスト住宅 公共その他 民間低コスト住宅 民間その他 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 700,000 図表5 マレーシアにおける住宅供給実績3) 川野紀江・村上 心・前田幸栄  建て替えの抑制により,現在,ソウルでは再生すれば不動産価値が上昇する現象が生じ ている。特に増築を伴う再生工事では,経済・資産的効用が大きく,合意形成が容易であ る。しかしながら,都市の密度と容積率に対する法的方向性が明確でないこと,構造の安 全性の保証の曖昧さ,維持管理の不足,資産保証の不確かさなど再生を取り巻く課題は多 い。 4.2 マレーシアのストック供給状況  マレーシアでは1966∼1970年に第1次マレーシアプランが実施され,農業関連の土地 開発に重点が置かれた。その後,第2次マレーシアプラン(1971∼1975)では,農村部の 土地・住宅開発,都市部における低コスト住宅開発が行なわれた。低コスト住宅の入居対 象となる世帯所得は,地域,住宅タイプ毎に決められている。(例えば1998年以降の大都 市上限価格は42,000(リンギ/戸)で,世帯所得は1,200∼1,500(リンギ/月),住宅タイ

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3,600 3,200 2,800 2,400 2,000 1,600 1,200 800 400 0 ̷ՠᴥԛ̷ᴦ 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2006ᴥࢳᴦ ʁʽɶʧ˂ʵ̷ՠᴥҋъ: ፋ᜛ࠈ៾୳ᴦ

HDB ᩒᄉͳੑࠊͳᐐ̷ՠᴥҋъᴷHDB Research & Planning ࠈᴦ

図表6 シンガポールの人口と HDB 開発住戸居住者の推移 % 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 HDB Annual Report 2005‒2006数値より作成 図表7 HDB 開発住戸居住者の割合の推移 プは中高層フラット(5層以上)である。)こうした中で,マレーシアでは1980年代に, 住宅ストック数が世帯数を上回っている(図表4)。  図表5に,マレーシアにおける住宅供給実績を示した。マレーシアでは,民間デベロッ パーによる住宅供給割合が6割以上を占めており,中でも1991年から1995年においては 85%程度と高い割合である。韓国では,民間による供給割合は70%(2005年),日本は, 98%(2006年)である。こうした民間デベロッパーによる開発においては,マレーシア では一定割合(住宅・地方自治省指針では30%)を低コスト住宅とすることが義務付け られている。 4.3 シンガポールのストック供給状況

 シンガポールにおいては,公的住宅供給機関である HDB(Housing Development Board) が住宅供給において果たす役割が非常に大きい。図表6・7に示すように,1970年代後

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図表8 2000年の居住世帯数 HDB 他の公営 民間分譲 戸建 その他 (千世帯) 812.1 7.8 55.5 47.0 1.0 88% 1% 6% 5% 0% ※データソースは図表1参照 図表9 S/F の比較 0 20 40 60 80 100 120 140 S/F 日本 韓国 イギリス フランス マレーシア 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 川野紀江・村上 心・前田幸栄 半から1990年代にかけて,国全体の人口増加割合以上に,HDB の住戸に居住する人口割 合が増加しており,1980年代後半以降は80%以上が HDB の開発した住戸に居住している。 図表8の2000年の内訳をみると,HDB に居住している世帯が88%を占め,民間分譲や一 戸建ては合わせて約10%である。2006.3.31時点での HDB 管理住戸数(ストック)は 879,092戸,建設中は1,257戸である。 5 ストックの更新周期の比較 5.1 S(ストック)/F(フロー)の比較  図表9に S/F の各国の状況を示した。S/F は,その年のストックをフローで除した値で あり,住宅の更新周期年数の目安となる。イギリス・フランスの S/F は80以上と比較的 高く,再生工事が活発で住戸の寿命が長いことを示している。一方,1960年以前の日本 の S/F は50以上であったものの,1960年以降の日本及び韓国の S/F は40程度以下である。 特に1990年前後の韓国においては,20以下と非常に値が小さくなっている。これはストッ クに対してフローが急増した為で,前述の住宅200万戸建設計画の時期にあたる。また, 日本のマスハウジング期にも該当するように,「質」よりも「量」にコスト配分の重点が 置かれて供給された住宅は,時代とともに居住者のニーズに応えられなくなり,その結 果,築30年程度でも取り壊されてきた為,イギリス・フランスに比べて S/F の値が小さ くなっている。  マレーシアにおいては,フローが少なかった1980年代後半を除いて,S/F の値が日本の

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図表10 既存ストックの建設時期の比較(●=5%) 日 本 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 韓 国 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● イギリス ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● フランス ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 1851 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 ᴥ1983年) ᴥ1991年) ᴥ1946年) ᴥ1959年)           値に近い。前述したように,マレーシアでは1980年代にはストックが世帯数を上回って おり,1990年代においても量の充足に重点が置かれていた韓国とは異なっている。また, マレーシアでは,1986∼1990年は第5次計画の時期にあたり,公共部門が住宅の直接供 給の比率を下げ,民間による住宅供給の促進を進める移行期である。この移行期間に,一 次的にフローの値が減少したため,S/F の値が他の時期に比べて高くなっている。 5.2 既存ストックの建築時期の比較  日韓英仏の既存ストックの建設時期を図表10に示した。国名下の数値は既存ストック の建設年の平均値である(Σ各建設期間の中間年×割合)。英仏の築年数の平均値が40∼ 50年であるのに対し,日本は20数年,韓国では10数年と比較的新しいストックが多いこ とが確認できる。 6 おわりに  本報告では,ストック更新状況に関して,韓国,マレーシア,シンガポール,及び,欧 州(イギリス・フランス)・日本との比較を行なった。各国の世帯数とストックの推移, 経済状況及びフローとの関係を比較・考察し,S/F による更新周期年数を提示した。S/F については,イギリス・フランスに比べて日本と韓国,マレーシアのアジア諸国の値は半 分以下であった。  日本では,マスハウジング期に供給されたストックが従来の常識的更新時期を迎え,再 生への関心が高まっている。韓国においても2002年の住宅普及率100%到達以降,リモデ リングが着目され,2003年には集合住宅の建て替えを抑制する対策もなされており,S/F の値も徐々に高くなってゆくことが予想される。  今後は,韓国・マレーシア・シンガポールにおける都市レベルでのストックの更新状況 について研究をすすめてゆく予定である。 * 本報告は,文部省科学研究費・基盤研究C「韓国・マレーシア・シンガポール戦後ニュータウ ンの各国固有文化を踏まえた再生手法」(研究代表者:村上心)により行なわれている,一連 の調査・研究の一部である。

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川野紀江・村上 心・前田幸栄 注 1) イギリス・フランスの世帯数は,それぞれ2004年,1990年の世帯数から世帯人数を算出し, 各年の人口から予測した値である。 2) 韓国での大規模再生工事の呼称。 3) 福島茂「マレーシアにおける都市住宅政策の特質と民活型低コスト住宅政策の経験」都市情 報学研究,名城大学情報学部,第5号,2000の図表数値を元に編集。 参考文献

“Bulletin of Housing Statistics for Europe and North America 2004, 2006” United Nations “Annual Bulletin of Housing Building Statistics for Europe 1987” United Nations “Housing and Building Statistics 2000” United Nations

「住宅・土地統計調査」総務省統計局 「建築動態統計」国土交通省

“Year Book of Housing and Urban Statistics 2006” Korea National Housing Corporation “Annual National Accounts̶Comparative tables based on exchange rates and PPPs.” OECD “General Report of the Population Census 1991, 2000”

“General Report of the Housing Census Malaysia 1991, 2000” “Social Statistics Bulletin Malaysia 1999, 2003”

“Statistics Singapore” (http;//www.singstat.gov.sg/)

海老塚良吉「韓国の住宅事情と住宅政策の概況」,月刊住宅着工統計,1998.12. ヨム・チョルホ「韓国の主要な不動産政策の変遷」,日本建築学会建築経済委員会集合住宅管理 小委員会資料,2007.2. 福島茂「マレーシアにおける都市住宅政策の特質と民活型低コスト住宅政策の経験」都市情報学 研究,名城大学情報学部,第5号,2000 生田真人「マレーシアの都市開発 歴史的アプローチ」

参照

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