看護小規模多機能型居宅介護において多職種連携・協働に
より中心静脈栄養から経口摂取のみに移行した事例
Cases Transitioning from Total Parenteral Nutrition to Oral Intake by Multi-Occupation
Collaboration in Small-Scale Multifunctional In-Home Care
中込由紀代
1),河西 由貴
2),花輪 啓子
2) NAKAGOMI Yukiyo,KASAI Yuki,HANAWA Keiko要 旨
病院を退院時,中心静脈栄養(TPN)による栄養摂取であったが,看護小規模多機能型居宅介護において, 摂食嚥下障害への援助を行い経口摂取のみに移行した 2 事例について,看護師と多職種の連携・協働に焦点 をあて,経口摂取への移行を促進する効果的な方法について検討した。2 事例とも,看護小規模多機能型居宅 介護の担当看護師は,多職種と連携・協働して,病院との連携と介護サービスの検討,心身の医学的視点へ のアプローチ,摂食嚥下の機能的視点へのアプローチ,姿勢・活動的視点へのアプローチ,摂食状況・食物 形態・栄養的視点へのアプローチを行っていた。特に,入院中から退院後の生活を見据えた看護・支援計画 を多職種で検討したこと,Kuchikara Taberu(KT)バランスチャートを活用し多職種から専門的な意見を得て 援助方法を検討したことが有効であった。多職種と連携・協働することで看護師の摂食嚥下機能評価能力を 高めていくことが今後の課題である。 キーワード 看護小規模多機能型居宅介護,摂食嚥下障害看護,中心静脈栄養,多職種連携・協働Key Words Small-Scale Multifunctional In-Home Care, Dysphagia Nursing, Total Parenteral Nutrition, Multi-Occupation Collaboration
受理日:2019 年 1 月 15 日
1) 山梨大学大学院総合研究部医学域看護学系(基礎・臨床看護 学講座):Department of Fundamental and Clinical Nursing (Human Science), University of Yamanashi
2) 社会福祉法人 やまなし勤労者福祉会 共立介護福祉セン ターいけだ:Social Welfare Corporation, Worker Welfare Association, Kyoritsu Nursing Care Center, Ikeda
Ⅰ.はじめに
高齢者におけるサルコペニアによる嚥下障害は摂食嚥 下に関連する筋肉減少と筋力低下が原因であるが,病院 関連摂食嚥下障害は,炎症・床上安静・禁食・栄養管理 不足などが要因と報告されている1)。また,誤嚥性肺炎 患者の認知障害は病院関連摂食嚥下障害に影響しないと 報告されており,認知機能が悪くても早期の活動耐性の 向上への援助・経口摂取・栄養管理などを多職種による 包括的ケアで行うことで,サルコペニアによる嚥下障害 の予防ができることが示唆されている2)。看護小規模多 機能型居宅介護では,入院中に摂食嚥下障害と診断され 口から食べることができずに退院した利用者の援助をす ることがある。そのような症例は入院中の床上安静・禁 食・栄養不足が要因で摂食嚥下障害となっていることが あり,退院後早期から,摂食嚥下障害への援助を多職種 で連携・協働して包括的ケアを行うことで経口摂取に移 行できることを経験した。 そこで,病 院 から退 院 時には中 心 静 脈 栄 養(Total Parenteral Nutrition:以下,TPN)からの補助栄養が主体 であったが,看護小規模多機能型居宅介護を利用し経口摂 取のみの栄養摂取に移行できた 2 事例について,経口摂取 への移行を促進する効果的な方法について検討した。Ⅱ.研究目的
病院を退院時,TPN による栄養摂取であったが,退 院後に看護小規模多機能型居宅介護において,摂食嚥下 障害への援助を行い経口摂取のみに移行した 2 事例につ いて,看護師と多職種の連携・協働に焦点をあて経口摂 取への移行を促進する効果的な方法について検討する。Ⅲ.用語の定義
連携:異なる専門職・機関・分野に属する二者以上の 援助者(専門職や非専門的な援助者を含む)が,共通の目 的・目標を達成するために,連絡・調整等を行い協力関 係を通じて協働していくための手段・方法3)。協働:異なる専門職・機関・分野に属する二者以上の 援助者(専門職や非専門的な援助者を含む)や時にはクラ イアントをまじえ,共通の目的・目標を達成するために, 連携をおこない活動を計画・実行する協力行為3)。 泊まり:看護小規模多機能型居宅介護における宿泊で の介護サービス。 通い:看護小規模多機能型居宅介護における通所での 介護サービス。
Ⅳ.方法
1. 対象 病院を退院時,TPN による補助栄養が主体であった が,看護小規模多機能型居宅介護事業所(以後,A 事業所) を利用して,援助によって経口摂取のみでの栄養摂取と なった 2 事例とした。 2. 調査方法 筆頭著者は摂食・嚥下障害看護認定看護師(以下,認 定看護師)として,事例の摂食嚥下障害への援助に関わっ たため,援助を行う中で多職種と連携・協働した内容を 記 録 し た。 ま た, 事 例 検 討 に 使 用 し た Kuchikara Taberu Balance Chart(以下,KT バランスチャート)4)5)の 13 項目の変化について,体重・ボディマス指数(Body Mass Index :以下,BMI)・血液検査の結果について情 報収集を行った。KT バランスチャートの評価の時期は, 事例 A は退院後に A 事業所の利用を開始した時,退院 後 2 か月後,退院後 8 か月後,事例 B は退院後に A 事 業所の利用を再開した時,退院後 24 日目,退院後 2 か 月であった。KT バランスチャートの 13 項目は,心身 の医学的視点「①食べる意欲②全身状態③呼吸状態④口 腔状態」,摂食嚥下の機能的視点「⑤認知機能(食事中)⑥ 咀嚼・送り込み⑦嚥下」,姿勢・活動的視点「⑧姿勢・耐 久性⑨食事動作⑩活動」,摂食状況・食物形態・栄養的 視点「⑪摂食状況レベル⑫食物形態⑬栄養」であり,各項 目は,小山による評価基準4)に従って 5 段階で評価した。 項目は 1 〜 5 段階で表記され 5 が一番良い状態である。 各項目に関する援助内容は,心身の医学的視点へのアプ ローチ,摂食嚥下の機能的視点へのアプローチ,姿勢・ 活動的視点へのアプローチ,摂食状況・食物形態・栄養 的視点へのアプローチとし6),援助が行われていた「病 院との連携と介護サービスの検討」の項目を追加して検 討した。KT バランスチャートの使用は許諾の必要がな いことを作成者に確認した。
Ⅴ.倫理的配慮
山梨県民主医療機関連合会看護部門研究倫理審査委員 会の承認を得て,対象者または代諾者・家族に研究の目 的,実施,自由意思の尊重,不利益の回避,匿名性の確 保について口頭および文書にて承諾を得た。本研究に関 連して開示すべき利益相反関係はない。Ⅵ.結果
1. 事例 A 1) 事例紹介(利用開始時) A 氏,90 歳代,女性,誤嚥性肺炎で病院に入院中に 経口摂取が困難で TPN による栄養管理となり,終末期 と診断された。病院へ入院前は息子夫婦と 3 人暮らしで, 娘と息子の家で交互に介護を受け,介護保険サービスの 利用はなかった。病院を退院の方針となり,療養病床の ある病院への転院を紹介されたが,本人と家族は介護負 担の軽減をして家で過ごしたい希望があった。また,A 事業所を見学し,口から食べることへの支援を知り「も う一度食べたい」と希望していた。 2) 看護の経過と看護師が行った多職種連携・協働 (1) 病院との連携と介護サービスの検討 病院を退院前に本人・家族の希望を聞いてから,主治 医・作業療法士・病院看護師・A 事業所の看護師・A 事業所のケアマネージャーでの退院前カンファレンスを 実施し,治療方針や看護・介護の方針を確認し,利用サー ビスの調整をした。退院日から A 事業所の訪問による 看護を利用し,娘の家に帰るようにした。また,介護ス タッフとの情報共有を行った。退院日の翌日からは「泊 まり」の連日利用とした。A 氏は 3 か月後(以下,病院 を退院後の日数を示す)に,ホームヘルパーを利用し自 宅に帰れるようになり,徐々に「通い」の利用に移行した。 (2) 心身の医学的視点へのアプローチ 担当看護師は訪問歯科医と認定看護師に相談し指導を 受けながら援助を進めた。A 氏は退院時に絶食で TPN 施行中。食べる意欲を表出せず,スプーンを口に近づけ ると顔を背けた。発熱があり,日によって口腔内に痰の 排出が多かった。全身状態が安定するまでは介護スタッ フへ頻回の口腔ケアを指導し口腔環境の維持をし,全身 状態が安定したのを確認してから直接訓練を開始した。 直接訓練開始時は娘に働きかけ,嗜好にあった食材を選 定してもらい,食べる意欲を引き出すようにした。A 氏は義歯が不適合のため使用していなかった。訪問歯科 医に相談し,介護スタッフと協力し義歯安定剤を使用し 義歯の使用の習慣化を図った。3 か月後,訪問歯科医の 診察で義歯の調整をした。A 氏は 4 か月後,咀嚼は出来 るが舌触りが悪いと吐き出してしまうことが多かった。 (3) 摂食嚥下の機能的視点へのアプローチ 担当看護師は主治医・訪問歯科医と認定看護師に相談 し指導を受けながら援助を進めた。A 氏は退院時,舌・ 口唇・頬の運動低下があった。A 氏は 3 日目,水を飲み たいと意思を表出するが,とろみ水での改定水飲みテス ト(Modified Water Swallowing Test: 以下,MWST)7)8)が 2 点でむせと呼吸変化があったため飲めなかった。6 日目,棒つき飴の味覚刺激で食べる意欲に働きかけるた め嚥下訓練を行った。10 日目,唾液嚥下が良好となっ たため,とろみ水での MWST を行い 4 点であった。ゼ リーは食べないため,好みの食品を選択してペースト食 を少量試した。むせ・呼吸状態の変化,湿性嗄声がなかっ たため経口摂取を開始した。本人に自力での口腔体操を 指導した。口腔体操は介護スタッフと協力して,本人が 継続できるように促した。 (4) 姿勢・活動的視点へのアプローチ 車椅子での座位が保持できず,座位姿勢に変換すると 不安の表出があるため徐々にベッドアップし,座位への 耐久性を高めた。A 氏の状況にあわせ介護スタッフと協 力して行った。徐々に A 氏の理解も得られ,食事の際 の車椅子での座位を開始した。作業療法士に依頼し,ス タンダード車椅子からティルト・リクライニング式車椅 子に変更し,移乗方法やポジショニングの評価を行った。 介護スタッフへポジショニングの方法を写真や文章にし て示し,看護師が実演しながら指導した。介護スタッフ と協力して座位姿勢をとる時間を増やし姿勢・耐久性の 強化を図ったところ,3 か月後には食事以外も座位で過 ごせ,他の利用者と集団での活動が出来るようになった。 食べる意欲を引き出す食事介助を行った。食事前に食 べたい思いを確認する。傾眠傾向の時は中止する。視覚 に入るように食事を配置し,介助者の利き手側から介助 する。嚥下を確認しテンポ良く次の一口を介助する。ゼ リーの交互嚥下をする。食事中は本人もスプーンを持つ。 表情や言動を観察し変化に気づいたら声掛けをする。こ れらの方法を行ったことで,A 氏は 3 か月後,自食の 動きが見られ自力で数口食べるようになった。自食を促 進するために,食具の選定やポジショニングの調整をし, 他の利用者と一緒に食事をするようにした。食事介助の 方法は根拠を説明しながら介護スタッフへ指導して介護 スタッフ全員が同じ方法で行えるようにした。4 か月後, 自力で全量を摂取できるようになった。 (5) 摂食状況・食物形態・栄養的視点へのアプローチ 嚥下調整食品の段階は日本摂食・嚥下リハビリテー ション学会嚥下調整食分類 20139) に従い示す。【 】内は コードを示す。主治医・訪問歯科医・認定看護師と話し 合い,食形態・食事内容を検討した。10 日目,経口摂 取が開始となり,娘に食物への興味を引き出すように好 物の食品を持参してもらった。A 氏はとろとろ状の柿 【2-1】と,とろみをつけた味噌汁を自ら開口し数口摂取 し,その後,ペースト食【2-1】,高カロリーゼリーの摂 取を開始できた。とろみ剤の量,食形態や調理方法につ いて,根拠を説明した上で調理師や介護スタッフに指導 した。A 氏は 14 日目,ペースト状の煮物や厚焼き玉子 と粥 + ムース状のスフレ【2-2】を少量であるが食べた。 看護師の「おいしいですか」という問いに頷いた。 2 か 月後,1 食分の全粥 + ソフト食【3】と高カロリーゼリー, タンパクゼリー(1 日 300kcal 程度)を分割し 3 回食で 摂取した。食事の時間はその日の A 氏の状態によって スタッフ間で話し合い決めた。A 氏は食事意欲が向上し, 指 で 指 し 何 を 食 べ る か 示 す よ う に な っ た。70 日 目, TPN を終了し末梢静脈栄養(Peripheral Parenteral Nutrition:以下,PPN)からの補助栄養を開始し,1 日 2 食分を摂取できるようになり 3 か月後に PPN を終了 した。身体計測値は,退院時,体重 29kg,BMI は 14.6 であった。8 か月後には体重 33kg,BMI16.6 に増加した。 3) KT バランスチャートの変化 KT バランスチャートの評価は,退院後に A 事業所の 利用を開始した時の初回評価,退院後 2 か月後,退院後 8 か月後の評価点数を図 1 に示す。 KT バランスチャー トを活用し,多職種で事例検討を行い,情報共有し専門 図 1 事例 A の KT バランスチャート 0 1 2 3 4 5 ①食べる意欲 ②全身状態 ③呼吸状態 ④口腔状態 ⑤認知機能(食事中) ⑥咀嚼・送り込み ⑦嚥下 ⑧姿勢・耐久性 ⑨食事動作 ⑩活動 ⑪摂食状況レベル ⑫食物形態 ⑬栄養 初回評価時点数 退院後2か月評価時点数 退院後8か月評価時点数
的な意見を得ながら援助方法を検討し,共通理解をした。 利用開始時の A 氏は初回評価時に姿勢・耐久性が 1 点 (ベッド上での姿勢保持が困難)であった。作業療法士と 協力して姿勢・耐久性への援助することで 8 か月後には 4 点(介助で普通型車椅子での姿勢保持が可能)となっ た。姿勢・耐久性が向上するとともに身体活動性が徐々 に向上し,食事以外も車椅子に座り集団で活動する時間 も増えた。また,食形態や食事内容を主治医・訪問歯科 医・認定看護師と検討した結果,栄養状態が改善し食べ る意欲が引き出された。また,看護師と介護スタッフが 協力して行った食べる意欲を引き出す食事介助方法も自 食の意欲を引き出した。摂食状況レベルは評価 1(人工 栄養のみ)から,評価 4(形態を変えた食事を経口摂取, 人工栄養は使用しない)となり,食事動作 1 点(TPN に よる栄養)から 8 か月後には 4 点(見守りが必要であるが 自立して 3 食を摂取)となった。 2. 事例 B 1) 事例紹介(利用開始時) B 氏,80 歳代,女性,既往歴は脳幹出血・脳梗塞・ 肺炎である。右の胸水貯留(原因不明)で病院に入院し終 末期と診断された。入院 23 日目に食事中に誤嚥し意識 レベルが低下,絶食となる。入院 53 日目より TPN を 開始し,その後,入院 73 日目にペースト食が開始とな るが,嘔吐があり食道裂孔ヘルニアと診断された。食事 を少量にして経過観察となり退院し A 事業所の泊まり の利用を開始するが,翌日に吐血し再入院となった。そ の後,とろみ水 150ml の摂食で退院となり再び A 事業 所の泊まりの利用を開始した。本人は「家に帰りたい」「口 から食べたい」と希望し,家族は点滴を少なくして自宅 で過ごしやすくしたいという希望があった。 2) 看護の経過と看護師が行った多職種連携・協働 (1) 病院との連携と介護サービスの検討 本人・家族の希望を聞き,病院医師・主治医・病院看 護師・A 事業所の受け持ち看護師で退院前カンファレ ンスを実施し治療方針や看護・支援計画の確認をした。 介護スタッフやケアマネージャーとサービスを調整し支 援を行った。病院を退院した日から A 事業所の「泊まり」 を連日で利用した。47 日目,「泊まり」と「通い」を組み 合わせての利用に変更し,夕方〜朝までは自宅で過ごせ るようになった。介護スタッフ・家族へ介護の指導を行っ た。 (2) 心身の医学的視点へのアプローチ B 氏は退院時,とろみ水で 150ml/ 日を摂食していた。 発熱があり,抗生剤の効果が無く TPN からの感染が疑 われるため経口摂取を増やし早期に TPN を中止する方 針となった。訪問歯科医へ診察の依頼をした。B 氏は呼 吸状況に変化があり,状態によっては経口摂取を休む必 要があったため,経口摂取をするかどうかは看護師が判 断した。 B 氏は義歯が不適合で使用できず,舌・頬・口唇の筋 力低下があった。舌が左に偏倚していた。退院時から口 腔ケア(粘膜ケア・保湿剤の塗布)・唾液腺マッサージ・ 他動的に口腔周囲筋のマッサージを行った。義歯の調整 を訪問歯科医に依頼した。47 日目,義歯の調整を繰り 返して治療が完了し,介護スタッフと協力して義歯の装 着を援助し習慣化して使用できるようになった。 (3) 摂食嚥下の機能的視点へのアプローチ 担当看護師は主治医・訪問歯科医と認定看護師に相談 し指導を受けながら進めた。B 氏は退院時,反復唾液嚥 下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test:以下, RSST)10)11)は 1 回で唾液の分泌が少ない状態であった。 とろみ水で MWST は 5 点であった。3 日目,自力での 間接訓練開始,舌訓練・口唇訓練・頬訓練・構音訓練を行っ た。17 日目,RSST が正常に改善し,とろみ水の嚥下の 惹起時間が短縮した。舌運動の改善,唾液分泌の増加, 舌苔の消失,Oral Diadochokinesis(以下,OD)12)〜 14) の 向上が見られ,援助の効果により口腔機能が向上した。 OD は単音節の /pa/,/ta/,/ka/ の各々を反復して発音 するように指示し,1 秒間の発音回数をカウントした。 (4) 姿勢・活動的視点へのアプローチ B 氏は,退院時,座位姿勢が不安定で,全身的な活動 低下で上肢も自ら動かさなかった。摂食姿勢をベッド アップ 30 度での姿勢保持を援助した。ポジショニング の方法を写真で示し,傾きはテープで示して介護スタッ フに説明した。呼吸苦が強い時があり,姿勢を変えるこ とで軽減したため,B 氏の状況に合わせて呼吸が安楽に なる姿勢を介護スタッフに指導した。17 日目,摂食姿 勢 60 度にアップし介護スタッフと協力して更に座位の 時間を増やした。19 日目,作業療法士と話し合い車椅 子をティルト・リクライニングに変更した。車椅子での 摂食を開始し,乗車方法と車椅子の傾きを介護スタッフ に伝達し指導した。上肢が安定するようカットテーブル を使用した。B 氏は徐々に姿勢が安定し,食事以外も車 椅子で過ごせるようになった。 形や色合い,風味を味わえるようソフト食を見せてか らペースト状にした。食事を五感から捉えられるように 介助方法を介護スタッフに指導した。直接訓練開始時は, スプーンで非麻痺側の舌に食物を置くようにし,舌運動 の改善が見られたので舌背中央に置き舌を軽くスプーン で押し刺激をして舌運動を促すようにした。47 日目,B 氏に自食の動作が見られた。自食で 5 割を目指し,食具 を持つ手を支え自力の動きを誘導するよう自食の方法を 介護スタッフに指導した。B 氏は 2 か月後,見守りや間 接的な介助をしながら自食が全量行えるようになった。
(5) 摂食状況・食物形態・栄養的視点へのアプローチ 主治医・訪問歯科医・認定看護師と話し合い,食形態・ 食 事 内 容 を 検 討 し た。B 氏 は 退 院 時, と ろ み 水 で 150ml/ 日を摂食していた。3 日目,とろみをつけた半 消 化 態 栄 養 剤 を 開 始 し た。6 日 目,1 日 に と ろ み 水 150mlと消化態栄養剤100kcalを少量ずつ分割摂取した。 12 日目,ソフト食は押しつぶしができず口腔内に残留 がみられ,ソフト食をペースト状に潰した形態【2-2】と した。ペースト状の副食と粥 1 食 + 半消化態栄養剤 + ゼリー・全量 505kcal を 3 回で分割摂取でき,経口摂取 量の増加の見込みがあるため TPN は終了した。徐々に 食事量を増やし,19 日目には全量 740kcal を 4 回で分 割摂取し,26 日目には全量 1110kcal を 5 回で分割摂取 した。食事時間は B 氏の状況や生活に合わせられるよ うにスタッフで話し合った。胸水貯留があるため水分量 は注意しながら進めた。B 氏は 47 日目には,1 回の食 事摂取量が増え 3 回食となった。栄養状態改善のため高 エネルギー高タンパクの補助食品を付加した。B 氏の体 重は増加傾向であったが,4 か月目頃から浮腫が見られ るようになり,徐々に呼吸状態の悪化と全身の浮腫が著 明になった。臨終 3 日前より全身状態が悪化しバナナと 半消化態栄養剤のみの摂取となるが,間際まで「バナナ シェイクを飲みたい」と希望され口から食べる希望を叶 えていた。血液検査と身体計測値は表 1 に示す。 3) KT バランスチャートの変化 KT バランスチャートの評価は,退院後に A 事業所の 利用を再開した時の初回評価,退院後 24 日目,退院後 2 か月の評価点数を図 2に示す。KT バランスチャート を活用し,多職種で事例検討を行い,情報共有し専門的 な意見を得ながら援助方法を検討し,共通理解をした。 事例 B は食べる意欲が 5 点(食べたいと意思表示する) であった。しかし,呼吸状態 3 点(痰の貯留があり吸引 が必要)で呼吸苦があり,身体活動の低下が著しく見ら れた。主治医・訪問歯科医と話し合い栄養状態に介入し たことで栄養状態の改善が見られた。また,作業療法士・ 介護スタッフと協力して座位をとる機会を増やし姿勢・ 耐久性が向上し,1 点(ベッド上での姿勢保持が困難)か ら 2 か月後には 3 点(リクライニング車椅子での姿勢保 持が可能)になった。これらの関わりによって,呼吸状 態が安定している時は食べる意欲を続けることができ た。摂食状況レベルは評価 2(少量の経口摂取は可能だ が,主に人工栄養に依存)から評価 4(形態を変えた食事 や飲料を経口摂取,人工栄養は使用しない)に改善し, 食事動作 1 点(TPN による栄養)から 2 か月後には 4 点 (見守りが必要であるが自立している)に改善した。 表 1 事例 B の血液検査・身体計測値の経過 退院時 30 日目 77 日目 119 日目 TP(g/dL) 5.7 6.1 5.6 5.6 Alb(g/dL) 1.5 1.6 1.8 1.9 Hb (g/dL) 9.4 8.8 10.1 10.9 WBC(/μL) 10460 5940 4980 5910 CRP 定量(mg/dL) 8.70 4.07 2.04 3.96 体重(㎏) 34.7 35.4 36.4 42.9 BMI 14.3 14.5 15.0 17.6 図 2 事例 B の KT バランスチャート 0 1 2 3 4 5 ①食べる意欲 ②全身状態 ③呼吸状態 ④口腔状態 ⑤認知機能(食事中) ⑥咀嚼・送り込み ⑦嚥下 ⑧姿勢・耐久性 ⑨食事動作 ⑩活動 ⑪摂食状況レベル ⑫食物形態 ⑬栄養 初回評価時点数 退院後24日目評価時点数 退院後2か月評価時点数
Ⅶ.考察
介護保険サービスでは,利用者を中心とした多職種に よるチームでのケアの提供が必要であり,多職種連携・ 協働は重要な課題である。在宅ケアにおける多職種連携 では,コミュニケーションにおいて困難があると報告さ れており15),顔の見える関係作りや連携をコーディネー トできる人材育成が必要なことが示唆されている16)。 医療・介護関連肺炎の包括的ケアにおいても,看護師に はチーム医療のキーパーソンとしての役割が期待されて いる17)。今回の事例では,看護師は自宅で暮らしたい 対象者に必要なサービスをコーディネートし多職種に働 きかけていた。看護師は退院後も原因疾患を抱えている 事例の身体状況を対象者に寄り添いながら継続的に把握 し,主体的に多職種と情報共有し専門的な意見を得なが ら援助方法を検討し,その方法を多職種が同じ方法で行 えるように活動していた。また,栄養摂取のあり方を本 人・家族・主治医と話し合いながら検討していた。これ らのことが本人・家族の口から食べたいという希望を叶 えるために効果的であったと考える。 先行研究において,摂食嚥下障害看護に関する基礎教 育や現任教育が不十分であり,知識不足を補う必要性が あると報告されている18)。また,多職種と連携して, 情報を共有できる記録用紙の整備や,連携をとりながら アセスメントする必要があることが示唆されている18)。 今回の事例では,多職種で共通のアセスメントツールと して KT バランスチャートを活用し事例の特徴を考慮し て,心身の医学的視点へのアプローチ,摂食嚥下の機能 的視点へのアプローチ,姿勢・活動的視点へのアプロー チ,摂食状況・食物形態・栄養的視点へのアプローチを 行ったことが,自食の意欲や動作を引き出し,経口摂取 を促進していた。 要介護者の望む生活を全体的に支えるには,早期に病 院医師・看護師から情報を得る必要がある。また,その 情報を踏まえて本人家族の希望を聞き,その希望が叶え られるように,退院後の生活を見据えた看護・支援計画 を多職種で検討しておくことが必要である。2 事例とも に本人・家族の家庭で暮らしたいという希望を叶えるこ とを目指した看護・支援計画を行っていた。看護小規模 多機能型居宅介護施設では,自力で 3 食経口摂取であっ たが,誤嚥性肺炎により入院し,退院時には胃瘻や中心 静脈栄養などの補助栄養が主体となり退院される方の看 護・支援を行う機会がある。家族と本人が在宅での生活 を希望されていても,医療ケアの必要性が高いために家 庭での生活が難しく療養病床のある病院への転院を病院 で勧められることが多い。家族と本人は,看護小規模多 機能型居宅介護を利用することで出来る限り家庭での生 活をしたいという希望を持って利用していた。「口から 食べたい」,「自宅で過ごしたい」希望を叶えることが, その人らしい尊厳を保ち,豊かな日常生活につながって いると考える。2 事例とも,KT バランスチャートを活 用し多職種から専門的な意見を得て援助方法を検討した ことが経口摂取への移行に有効であった。Ⅷ.結論
2 事例とも,看護小規模多機能型居宅介護の担当看護 師は,多職種と連携・協働して,病院との連携と介護サー ビスの検討,心身の医学的視点へのアプローチ,摂食嚥 下の機能的視点へのアプローチ,姿勢・活動的視点への アプローチ,摂食状況・食物形態・栄養的視点へのアプ ローチを行っていた。特に,TPN による補助栄養が主 体の利用者が経口摂取のみでの栄養摂取に移行するため に効果的であった方法は,入院中から退院後の生活を見 据えた看護・支援計画を多職種で検討したこと,KT バ ランスチャートを活用した事例検討を行い,多職種から 専門的な意見を得て援助方法を検討したことであった。 多職種と連携・協働することで看護師の摂食嚥下機能評 価能力を高めていくことが今後の課題である。 謝辞 今回の実践報告を作成するにあたり,助言を頂きまし た田辺文憲教授に心より感謝致します。 引用文献 1) 前 田 圭 介(2015)サ ル コ ペ ニ ア の 摂 食 嚥 下 障 害.Modern Physician,35(12):1409-1411.2) Keisuke Maeda, Hidetaka Wakabayashi,Hiroshi Shamoto, et al. (2018) Cognitive impairment has no impact on
hospital-associated dysphagia in aspiration pneumonia patients. Geriatrics & Gerontology International, 18(2):233-239. 3) 中村誠文 , 岡田明日香 , 藤田千鶴子(2012)「連携」と「協働」の概 念に関する研究の概観―概念整理と心理臨床領域における今後 の課題一.鹿児島純心女子大学大学院人間科学研究科紀要,7: 3-13. 4) 小山珠美(2017)口から食べる幸せをサポートする包括的スキル ―KT バランスチャートの活用と支援第 2 版.医学書院,東京, 12-94.
5) Keisuke Maeda, Hiroshi Shamoto, Hidetaka Wakabayashi, et al.(2016)Reliability and Validity of a Simplified Comprehensive Assessment Tool for Feeding Support: Kuchi‐Kara Taberu Index. Journal of the American Geriatrics Society, 64(12): e248-e252.
6) 前掲 4),136-186.
7) 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会(2015)摂食嚥下障害の 評価【簡易版】2015 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医 療検討委員会,https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/
file/doc/assessment2015-announce.pdf(2018 年 11 月 12 日現在) 8) 西村和子,加賀谷斉,柴田斉子,他(2015)嚥下内視鏡検査を用
いない摂食嚥下障害臨床的重症度分類判定の正確性.Japanese Journal of Comprehensive Rehabilitation Science, 6:124-128. 9) 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会(2013) 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013. 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌,17(3):255-267. 10) 小口和代,才藤栄一,水野雅康,他(2000)機能的嚥下障害スク リーニングテスト「反復唾液嚥下テスト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test:RSST)の検討(1)正常値の検討.リハ ビリテーション医学,37(6):375-382.
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