胃全摘術後患者の食事摂取量と身体状態の特徴
〜胃部分切除群との比較〜
Food Intake and Somatic Symptoms in Post-total Gastrectomy Patients:
A Comparison with Partial Gastrectomy Patients.
古屋 洋子,中村美知子
FURUYA Yoko, NAKAMURA Michiko
要 旨
本調査の目的は,胃全摘術後患者の食事摂取量と身体状態の現状を明らかにするために,胃部分切除術後 患者と比較し,胃全摘術後患者の術前から術後 2 週目までの栄養状態を改善するための食事摂取方法と課題 を検討した。胃切除術を受ける患者 11 名(全摘術 5 名,部分切除術 6 名)を対象に,食事摂取量と身体症状を 胃切除術前(以下,術前),術後 6 〜 8 日目(以下,術後 1 回目),術後 14 日目(以下,術後 2 回目)の計 3 回調 査した。胃全摘術後患者の 1 日のたんぱく質摂取量は,術前(69.1 ± 8.8g)から術後 1 回目(14.0 ± 5.4g),脂肪 酸摂取量は,術前(35.9 ± 11.5g)から術後 1 回目(7.4 ± 2.0g)に有意に低下した。身体状態は,退院時に「げっ ぷがでる」,「下腹部が張る」がみられた。血中脂質は,術前と比較し低下したが,有意差はなかった。胃全摘 術後患者の健康状態回復には,術後早期からたんぱく質,脂質 (n-3 系多価不飽和脂肪酸 ) 摂取量を増加するた めの摂取方法の検討が課題である。The purpose of this study was to clarify the condition of total gastrectomy patients by comparing their physical condition and food intake with those of partial gastrectomy patients. The subjects were 11 gastrectomy patients (5 total gastrectomy; 6 partial gastrectomy). Dietary intake and physical condition were examined 3 times: before gastrectomy, 1 week after gastrectomy, and 2 weeks after gastrectomy. All gastrectomy patients consumed significantly less protein and fatty acids at the second investigation than at the first investigation, going from 69.1 ± 8.8 g to 14.0 ± 5.4 g and from 35.9 ± 11.5 g to 7.4 ± 2.0 g, respectively (p < 0.05). At the third investigation, they reported “burping” and “distention of the lower abdomen.” Serum lipid levels were lower than the first investigation, but the difference was not significant. Avoiding a decrease in protein and n-3 fatty acid intakes in the early postoperative stages will help total gastrectomy patients recover.
キーワード 胃全摘術後患者,食事摂取量,身体状態
Key Words Total Gastrectomy Patients, Dietary Intake, Physical Condition
受理日:2013 年 7 月 27 日
山梨大学大学院医学工学総合研究部(基礎・臨床看護学講座): Interdisciplinary Graduate School of Medicine and Engineering (Department of Fundamental and Clinical Nursing), University of Yamanashi
術後患者が,快適な日常生活を送るためには,周術期の 栄養管理は欠くことのできない要素である。胃切除術後 患者の体成分組成変化の特徴は,術後早期に体たんぱく が減少して体重が減少し1),その体重減少は残胃容量が 少ないほど著明で2),胃全摘術では体脂肪量の著明な減 少も認められることが報告されている1)。胃切除術後の 栄養・代謝障害には,術式や再建法の関与が大きく3), 胃全摘術では,炭水化物,たんぱく質に比べて脂肪の消 化吸収障害が起こりやすい。特に脂肪の消化吸収は三大 栄養素中,最も低下すると言われている4)。一般に術後
Ⅰ.はじめに
胃がん患者は,食欲不振や通過障害などが存在し,術 前から栄養障害に陥っていることも少なくない。胃切除は,脂肪摂取が制限される傾向にあるため,健常な成人 と比較すると総エネルギー摂取量は激減し,たんぱく質: 脂質:炭水化物 / エネルギー % の割合も崩れやすい。 また,胃切除術後患者の脂肪摂取量の減少と中性脂肪, 総コレステロール,LDL コレステロール,HDL コレス テロールなどの低下との関係が報告されている5)6) 。 従来の胃切除術後患者に対する食事指導は,1 回食事 量の減少,回数の増加,ゆっくりの摂食など,術部の回 復に主眼が置かれてきた7) 。そのため,胃切除術後患者 は,日本人の所要量と比較し,糖質の充足率は男性 84%,女性 85%,たんぱく質は 80 〜 90%,カルシウム(男 性 78%,女性 93%)や鉄(男性 84%,女性 85%)の充足率 も低いことが指摘されている5)。胃切除術後患者の食事 摂取量は,術後の絶食や摂取量の減少期間が長期にわた る。その一方,全身の筋組織でのたんぱく分解や体脂肪 組織における脂肪分解がすすみ,エネルギー産生が促進 する1)。従って,胃切除術後患者の栄養摂取バランス (PFC バランス他)の摂り方を考慮した術後早期からの 段階的な食事指導が必要となる。胃切除術後患者は,術 後生存期間が長期化するに従い,術式や再建法による代 謝的変化や,消化吸収に関係する病態,機能異常発生の 有無が重要な問題となっていることが指摘されている 8)。そのため,本研究では,胃切除術後患者の食事摂取 量と身体状態の現状を明らかにするために,胃全摘術・ 部分切除術後患者を比較し,術前から術後 2 週目までの 食事摂取方法と課題を検討することとした。
Ⅱ.目的
胃全摘術後患者の食事摂取量と身体状態の現状を明ら かにするために,胃部分切除術後患者と比較し,胃全摘 術後患者の術前から術後 2 週目までの栄養状態を改善す るための食事摂取方法と課題を示すこととした。Ⅲ.研究方法
1. 対象者 胃全摘術患者(以下,TG 群)5 名,胃部分切除術患者(以 下,PG 群)6 名。術後経口的食事摂取患者とし,高カロ リー輸液,経管栄養摂取患者は除外した。 2. 調査方法と内容 調査日程は,1 回目・胃切除術前(以下,術前),2 回目・ 術後 6 〜 8 日目(以下,術後 1 回目),3 回目・術後 14 日目(以下,術後 2 回目)の計 3 回実施した。 1) 基本属性 年齢,性別,術式,出血量,身長,体重など。 2) 1 日の食事摂取量 秤量法を用いて,術前,術後 1 回目と術後 2 回目の計 3 回,1 日食事摂取量を調査した。配膳時の食事の総重 量から摂取後の重量を除し,1 回摂取量とした。1 日の 食事の種類,食品の重量を記載し,1 日の栄養素摂取量 を算出した。栄養価計算には,エクセル栄養君 ver6.0(建 帛社)を用いた。摂取エネルギー量に対するたんぱく質 (P),脂質(F),炭水化物(C)の PFC 比(エネルギー %) を算出した。摂取総脂肪酸量に対する摂取飽和脂肪酸 (SFA)量:一価不飽和脂肪酸(MUFA)量:多価不飽和 脂肪酸(PUFA)量の割合(SMP 比)を算出した。 3) 食事と関連する身体症状 日本消化器外科学会による早期ダンピング症候群判定 基準および先行研究2)9)10)から,胃切除術後患者の食後 に自覚される 21 症状を抽出した。各項目は,「全くない」 1 点〜「非常にある」4 点の 4 段階で評価し,得点が高い ほど身体症状が強いことを示す。 4) 血液生化学測定項目 調査日の早朝空腹時に静脈血採血 9ml を採取した。 生 化 学 検 査 と し て,TP,Alb,TBPA,TG,HDL・ LDL-Chol,FBS,RBC,Hb,Fe,葉酸,VB12,VE, 亜鉛,全脂質中脂肪酸分画の測定を行った。なお,測定 は SRL(株)に依頼した。 3. 調査手順 調査日は,当日の自覚症状を聴取し記録した。各食事 の前後には食事内容を確認し,献立名,食品名,各食品 の重量を記録した。総重量を秤量し,総重量から摂取後 の重量を除して 1 回摂取量とした。朝〜夕の 3 食を秤量 し,1 日の食事摂取量とした。献立,食品,摂取品目と その種類別摂取量は調査者が記入した。 4. データ分析方法 胃全摘術,胃部分切除術患者毎に,以下の分析を行っ た。 1) 術前,術後 1 回目および 2 回目の食事摂取量と血 液生化学値の経時的変化の比較には,一元配置分 散分析の後,多重比較検定(Tukey の HSD 検定)を 用いた。 2) 各期の身体状態の比較には,Wilcoxon の符号付順 位和検定を用いた。データ分析には,統計解析ソ フト IBM SPSS Statistics version 20.0J を用いた。 5. 倫理的配慮本調査は,山梨大学医学部倫理委員会および調査施設 倫理審査会の承認を受け実施した。対象者に文書および 口頭による説明を行なった上で,参加についての同意を 文書で得た。個々人のデータベース作成に関しては,
ID 化し個人が特定できないよう配慮した。
IV.結果
1. 対象者の特徴(表 1) 対象者は,TG 群は 5 名(平均年齢 74.8 ± 13.0 歳),PG 群は 6 名(平均年齢 71.2 ± 9.7 歳)であった。術後平均食 事開始日数は,TG 群は約 8 日(平均 8.2 ± 0.4 日),PG 群は約 7 日(平均 6.7 ± 1.2 日)であった。TG 群の体重は, 術後 1 回目は 42.5 ± 5.0kg,術後 2 回目は 41.7 ± 4.9kg であり,術前より低値であった。TG 群の 3 時点(術前, 術後 1 回目・2 回目)の BMI は,PG 群より低く,有意差 があった(p<0.05)。 2. 1 日の食事摂取量の変化(表 2) TG 群 の 1 日 食 事 摂 取 総 重 量 は, 術 前 は 1300.7 ± 120.9g, 術 後 1 回 目 は 382.7 ± 119.3g, 術 後 2 回 目 は 747.5 ± 120.5g であり,3 時点に有意差があった(F 値 73.91, p<0.001)。たんぱく質摂取量は,術前は 69.1 ± 8.8g,術後 1 回目は 14.0 ± 5.4g,術後 2 回目は 30.4 ± 5.0g であり,3 時点に有意差があった(F 値 91.20, p<0.001)。 炭水化物摂取量も同様であった。脂質摂取量は,術後 1 回 目 で 8.9 ± 2.3g, 術 後 2 回 目 で 18.2 ± 7.3g で あ り, 術前より有意に低かった(F 値 19.31, p<0.001)。PG 群は, 1 日食事摂取総重量,たんぱく質・炭水化物・脂質摂取 量が,術前より術後 1 回目で有意に低かった。TG 群の PFC 比は,術後 1 回目は 17:26:57 であり,術後 2 回 目まで変化がなく,適正比率 15:25:6011)とほぼ同程 度であった。PG 群も同様であった。TG 群の脂肪酸摂 取量は,術後 1 回目・2 回目共に術前より脂肪酸総量(F 値 18.09, p<0.001),SFA 摂取量(F 値 17.90, p<0.001), MUFA 摂取量(F 値 19.14, p<0.001)が有意に低かった。 TG 群の PUFA 摂取量は,術後 1 回目 1.7 ± 1.1g,術後 2 回目は 4.9 ± 2.2g であり,術前より術後 1 回目のみ有 意差があった(F 値 11.65, p 値 0.002)。PG 群は,術後 1 回目・2 回目共に有意差があった(F 値 8.79, p 値 0.003)。 PG 群の術後 2 回目の SMP 比は 47:34:19 であり,特 に SFA 摂取量比率が高い傾向にあった。TG 群,PG 群 の 3 時点の n-6/n-3 の摂取比率(推奨値 4.212))は,4.2 〜 5.4 であった。 3. 身体状態の変化(表 3) TG 群は,術後 2 回目の「げっぷがでる」「下腹部のあ たりが張る」のみ中央値 2.0 点を示したが,その他の身 体症状はなかった。PG 群は,術後 1 回目の「胃部痛が ある」が中央値 2.0 点,「腸がごろごろする」「胃のあた りが張る」「下痢をしている」「下腹部痛がある」が中央 値 1.5 点を示した。また,術後 2 回目は,「腸がごろご ろする」「胃のあたりが張る」が中央値 2.0 点,「げっぷ がでる」が中央値 1.5 点を示した。PG 群の「胃部痛がある」 表 1 対象者の特徴 項目 TG 群§1 n=5 PG 群§1 n=6 有意差 §3 人数 (%) 人数 (%) 性別 男性 3 (60) 2 (33) 女性 2 (40) 4 (67) 癌進行度 Ⅰ 1 (20) 0 (0) (Stage) Ⅱ 0 (0) 3 (50) Ⅲ 3 (60) 3 (50) Ⅳ 1 (20) 0 (0) 吻合法 Billroth-I 法再建(B-I) 0 (0) 2 (33) Roux-Y 再建(R-Y) 1 (20) 4 (67) 空腸嚢間置術再建法(JPI) 4 (80) 0 (0) 輸血の有無(%) あり 3 (60) 1 (17) Mean ± SD Mean ± SD 年齢(歳) 74.8 ± 13.0 71.2 ± 9.7 体重(kg) 術前 44.9 ± 4.7 48.9 ± 7.2 術後 1 回目 42.5 ± 5.0 46.8 ± 5.0 術後 2 回目 41.7 ± 4.9 44.8 ± 5.9 BMI§2 (kg/m2) 術前 18.0 ± 1.6 21.0 ± 2.1 * 術後 1 回目 17.1 ± 1.7 20.1 ± 1.7 * 術後 2 回目 16.7 ± 1.7 19.2 ± 1.8 * 出血量 529.2 ± 345.0 332.0 ± 159.0 (range) (257-1047) (151-503) 注 §1 TG:胃全摘術 , PG:胃部分切除術 §2 BMI:body mass index §3 t 検定 *p<0.05表 2 胃全摘術群の 1 日の食事摂取量の術前から術後の変化 〜胃部分切除群との比較〜 項目 TG 群§1 n=5 一元配置分散分析 §3 多重比較法 §4 術前 術後 1 回目 術後 2 回目 F 値 p 値
Mean ± SD Mean ± SD Mean ± SD
総重量(g) 1300.7 ± 120.9 382.7 ± 119.3 747.5 ± 120.5 73.91 <0.001 a*, b*, c* エネルギー量(kcal) 1731.3 ± 213.9 319.6 ± 82.9 662.2 ± 89.1 134.29 <0.001 a*, b*, c* たんぱく質(g) 69.1 ± 8.8 14.0 ± 5.4 30.4 ± 5.0 91.20 <0.001 a*, b*, c* 脂質(g) 41.7 ± 12.8 8.9 ± 2.3 18.2 ± 7.3 19.31 <0.001 a*, b* 炭水化物(g) 263.7 ± 16.9 45.0 ± 15.8 94.0 ± 9.6 315.27 <0.001 a*, b*, c* P:F:C 比 16:21:63 17:26:57 18:24:57 − 脂質§2 脂肪酸総量(g) 35.9 ± 11.5 7.4 ± 2.0 15.6 ± 6.5 18.09 <0.001 a*, b* コレステロール(mg) 328.8 ± 70.5 100.7 ± 48.6 175.6 ± 50.0 20.62 <0.001 a*, b* SFA(g) 11.7 ± 3.3 3.0 ± 1.2 4.9 ± 2.4 17.90 <0.001 a*, b* MUFA(g) 15.6 ± 5.5 2.7 ± 0.9 5.8 ± 2.2 19.14 <0.001 a*, b* PUFA(g) 8.5 ± 3.0 1.7 ± 1.1 4.9 ± 2.2 11.65 0.002 a* S:M:P 33:43:24 41:36:23 31:37:31 − n-3PUFA(g) 1.6 ± 0.6 0.3 ± 0.2 0.8 ± 0.3 13.56 0.001 a*, b* EPA(mg) 135.2 ± 103.5 15.9 ± 13.4 52.2 ± 17.0 5.01 0.03 a* DHA(mg) 315.8 ± 182.7 36.3 ± 20.5 113.9 ± 64.3 8.23 0.01 a*, b* n-6PUFA(g) 6.8 ± 2.4 1.4 ± 0.9 4.0 ± 1.9 10.79 0.002 a* n-6/n-3 比 4.2 ± 0.7 5.4 ± 1.7 4.8 ± 0.6 1.50 0.26 ビタミン類 VB12(µg) 8.0 ± 6.8 2.5 ± 3.1 8.1 ± 8.2 1.24 0.32 VE(mg) 6.1 ± 0.7 1.7 ± 1.1 4.5 ± 2.4 10.26 0.003 a* 葉酸(µg) 314.0 ± 31.4 79.1 ± 29.9 162.2 ± 33.6 70.80 <0.001 a*, b*, c* 無機質 鉄(mg) 9.1 ± 3.7 2.5 ± 1.2 4.7 ± 1.6 9.72 0.003 a*, b* 亜鉛(mg) 8.3 ± 1.5 1.9 ± 0.6 3.2 ± 0.5 37.73 <0.001 a*, b*, c* 食物繊維(g) 13.2 ± 2.1 2.7 ± 1.4 5.5 ± 1.0 58.55 <0.001 a*, b*, c* 食塩相当量(g) 9.3 ± 1.1 3.7 ± 2.2 6.0 ± 1.9 11.74 <0.001 a*, b* 注 §1 TG:胃全摘術,PG:胃部分切除術
§2 飽和脂肪酸(SFA:saturated fatty acid),一価不飽和脂肪酸(MUFA:monounsaturated fatty acid), 多価不飽和脂肪酸(PUFA:polyunsaturated fatty acid)
§3 一元配置分散分析(ANOVA)を行った。
§4 多重比較法は,Tukey の HSD 検定(Tukey's Honestly Significant Difference test)を行った。 *p<0.05,a;術前 vs 術後 1 回目,b;術前 vs 術後 2 回目,c;術後 1 回目 vs 術後 2 回目 は,術後 1 回目(中央値 2.0 点)と術後 2 回目(中央値 1.0 点) に有意差があった(p<0.05)。 4. 血液生化学値の変化(表 4) TG 群の空腹時血糖値(FBS)は,術前 118.4 ± 5.2mg/ dl,術後 2 回目 100.8 ± 6.1mg/dl であり,有意差があっ た(F 値 11.01, p 値 0.01)。PG 群の FBS は,術前 98.8 ± 15.0mg/dl,術後 1 回目 122.5 ± 14.4mg/dl であり, 有意差があった(F 値 4.15, p 値 0.04)。TG 群,PG 群の 術前〜術後の血清脂質の脂肪酸組成は,SFA,MUFA, PUFA 共に,有意差はなかった。SMP 比は,26 〜 28: 37 〜 40:34 〜 36 を示し,両群共ほぼ同程度であった。 また,TG 群の n-6/n-3 比は,術前 3.5 ± 1.0,術後 1 回 目 3.7 ± 0.9 であり,両群共有意差はなかった。 表 3 胃全摘術群の身体状態の術後の変化 〜胃部分切除群との比較〜 TG 群§1 n=5 有意差 §2 PG 群§1 n=6 有意差 §2 術後 1 回目 術後 2 回目 術後 1 回目 術後 2 回目
Me Mean ± SD Me Mean ± SD Me Mean ± SD Me Mean ± SD 腸がごろごろする 1.0 1.6 ± 0.9 1.0 1.4 ± 0.9 1.5 1.7 ± 0.8 2.0 2.0 ± 0.9 げっぷがでる 1.0 1.4 ± 0.5 2.0 1.6 ± 0.5 1.0 1.3 ± 0.5 1.5 1.7 ± 0.8 胃のあたりが張る 1.0 1.4 ± 0.5 1.0 1.2 ± 0.4 1.5 2.0 ± 1.3 2.0 1.8 ± 0.8 胃部痛がある(みぞおちのあたり) 1.0 1.4 ± 0.5 1.0 1.2 ± 0.4 2.0 2.0 ± 0.6 1.0 1.2 ± 0.4 * 下腹部のあたりが張る 1.0 1.4 ± 0.9 2.0 1.6 ± 0.5 1.0 1.3 ± 0.5 1.0 1.5 ± 0.8 下痢をしている 1.0 1.4 ± 0.5 1.0 1.0 ± 0.0 1.5 1.7 ± 0.8 1.0 1.8 ± 1.3 下腹部痛がある 1.0 1.2 ± 0.4 1.0 1.8 ± 1.3 1.5 1.5 ± 0.5 1.0 1.2 ± 0.4 注 §1 TG:胃全摘術,PG:胃部分切除術 §2 Wilcoxon の符号付順位和検定 *p<0.05
V.考察
1. 胃全摘術後患者の身体状態が食事摂取量に及ぼす 影響 1) 身体状態の変化 TG 群の食事摂取に伴う身体症状は,術後 1 回目・2 回目共に少なかった。一方,PG 群には,術後 1 回目で「胃 部痛がある」,「胃のあたりが張る」「下痢をしている」「腸 がごろごろする」「下腹部痛がある」,術後 2 回目には「胃 のあたりが張る」「腸がごろごろする」「げっぷがでる」 などの小胃症状や下腹部症状が出現した。また TG 群で は,食事摂取に伴う身体症状がほとんど出現していない にも関わらず,食事摂取量が低下した。空腸嚢間置(JPI) 法や Billroth-I(B - I)法は,食物が十二指腸を通過し生理 的であり,十二指腸液の逆流による残胃炎や食道炎が予 防できるため,Roux-Y(R-Y)法と比べて,栄養状態,満 足度が優れているとの報告がある13) 。本調査の胃切除 術後患者の再建法は,TG 群には JPI 法 4 名,R-Y 法 1 名, PG 群には R-Y 法 4 名,B - I 法 2 名を含んでいる。従って, 残胃容量や残存機能が,食事摂取に伴う身体症状の出現 に影響した可能性がある。 2) 1 日食事摂取量とたんぱく質摂取量の低下 1 日の食事摂取量は,術後 1 回目は術前の 1/3 であり, 術後 2 回目は術前の 1/2 に低下した。食事のたんぱく質 摂取量は,術後 1 回目は術前の 1/5 であり,術後 2 回目 は術前の 1/2 に低下し,変化が著しかった。TG 群の術 後の血清総タンパク(TP),アルブミン(Alb)値には大き な変動がなかったが,術後 1 回目の両群のプレアルブミ ン(TBPA)値は,基準下限値 22.0mg/dl を大きく下回り, PG 群の術後 2 回目で,術後 1 回目より有意に上昇した(p 値 0.002)。胃切除術後患者の術後食の進め方に関する調 査では,TP,Alb 値は,術後 1 回目には低下の傾向を 示したが,術後 2 回目には術前値まで回復した14)。ま た TBPA 値は,術後 3 日目に最低値(術前値の 50%)と なった後,7 日目に上昇に転じた(術前値の 70%)15)こと が報告されている。TBPA は,胃切後術後患者のたん ぱく質摂取量の短期間の変化を反映していた。 表 4 胃全摘術群の血液生化学値の術前から術後の変化 〜胃部分切除群との比較〜 項目§2 TG 群§1 n=5 一元配置分散分析 多重比較法§4 術前 術後 1 回目 術後 2 回目 F 値 /t 値§3 p 値Mean ± SD Mean ± SD Mean ± SD
TP(g/dl) 6.6 ± 0.6 6.0 ± 0.3 6.2 ± 0.4 2.79 0.10 Alb(g/dl) 3.7 ± 0.7 3.2 ± 0.2 3.4 ± 0.3 1.57 0.25 TBPA(mg/dl) 10.6 ± 3.6 12.7 ± 2.3 -2.30 0.08 FBS(mg/dl) 118.4 ± 5.2 114.8 ± 17.9 100.8 ± 6.1 11.01 0.01 b* TG(mg/dl) 91.0 ± 36.3 76.6 ± 16.1 74.8 ± 21.3 0.58 0.57 T-Chol(mg/dl) 182.2 ± 39.5 146.2 ± 35.5 148.8 ± 21.8 1.83 0.20 HDL-Chol(mg/dl) 50.6 ± 15.7 33.8 ± 6.8 40.4 ± 8.2 2.98 0.09 LDL-Chol(mg/dl) 104.4 ± 19.2 93.4 ± 34.4 89.0 ± 19.8 0.48 0.63 SFA(μg/dl) 867.8 ± 203.2 749.4 ± 111.0 792.1 ± 127.8 0.77 0.48 MUFA(μg/dl) 1164.7 ± 295.7 1138.3 ± 158.7 1183.1 ± 195.5 0.05 0.95 PUFA(μg/dl) 1096.6 ± 292.7 978.6 ± 187.1 1047.9 ± 190.0 0.34 0.72 S:M:P 28:37:35 26:40:34 26:39:35 − n-3PUFA(μg/ml) 250.1 ± 64.3 208.4 ± 32.9 208.84 ± 32.9 1.37 0.29 EPA(μg/ml) 65.7 ± 23.3 39.9 ± 7.1 39.8 ± 6.4 5.26 0.02 DHA(μg/ml) 145.7 ± 40.2 142.9 ± 25.6 141.6 ± 25.2 0.02 0.98 n-6PUFA(μg/ml) 844.6 ± 258.8 768.9 ± 176.8 837.76 ± 178.3 0.20 0.82 n-6/n-3 比 3.5 ± 1.0 3.7 ± 0.9 4.1 ± 0.9 0.44 0.65 RBC(× 106/ μl) 3.6 ± 0.6 3.7 ± 0.5 3.7 ± 0.2 0.01 0.99 Hb(g/dl) 11.3 ± 2.1 11.2 ± 1.6 11.4 ± 0.9 0.02 0.98 Fe(μg/dl) 62.4 ± 22.7 39.4 ± 9.7 48.6 ± 10.6 2.79 0.10 葉酸(ng/ml) 6.4 ± 4.2 9.3 ± 6.2 8.8 ± 4.6 0.49 0.62 VB12(pg/ml) 462.6 ± 176.1 12336.4 ± 15570.9 2156.8 ± 1826.1 2.52 0.12 VE(mg/dl) 1.1 ± 0.4 0.9 ± 0.3 0.9 ± 0.2 0.61 0.56 Zn(μg/dl) 70.8 ± 14.2 82.2 ± 9.7 92.4 ± 17.4 2.92 0.09 注 §1 TG:胃全摘術,PG:胃部分切除術
§2 血清総タンパク(TP), アルブミン(Alb), プレアルブミン(TBPA), 血糖(FBS), 中性脂肪(TG), 総コレステロール(T-Chol),
HDL コレステロール(HDL-Chol), LDL コレステロール(LDL-Chol), 飽和脂肪酸(SFA), 一価不飽和脂肪酸(MUFA), 多価不飽和脂肪酸(PUFA), 赤血球(RBC), ヘモグロビン(Hb), 鉄(Fe), ビタミン B12(VB12), ビタミン E(VE), 亜鉛(Zn)
§3 2 群のものは t 検定,3 群以上のものは一元配置分散分析 (ANOVA) を行った。
§4 多重比較法は,Tukey の HSD 検定 (Tukey's Honestly Significant Difference test)を行った。 *p<0.05, a;術前 vs 術後 1 回目 , b;術前 vs 術後 2 回目 , c;術後 1 回目 vs 術後 2 回目
とと,近年増加傾向にある腹腔鏡下胃切除術後患者の調 査を加え,さらに検討を進める必要がある。
Ⅵ.結論
胃全摘術後患者の食事摂取量と身体状態の現状を胃部 分切除術後患者と比較した。その結果,両群共に,たん ぱく質,脂質などの摂取量が術前と比較して術後は有意 に低下し,特に多価不飽和脂肪酸(n-3 系多価不飽和脂 肪酸)の摂取量が有意に低下した。術後の栄養障害を防 ぐために,術後早期からたんぱく質摂取,脂質(特に, n-3 系多価不飽和脂肪酸)摂取量を増加する摂取方法の 検討が必要であると考える。付記
本研究は,平成 24−26 年度 JSPS 科研費 24593289 の 助成を受けて実施した研究の一部をまとめたものである。 引用文献 1) 藤田逸郎, 木山輝郎, 徳永昭, 他 (2006) 日常診療の指針 胃切 除周術期・術後の体成分組成の変化. 外科治療, 94(1):83-84. 2) 永野秀樹, 大山繁和, 末永光邦, 他 (2004) 食事制限と BMI 変 化からみた胃癌術後栄養指導評価. 日本消化器外科学会雑誌, 37(6):648-655. 3) 武市綾, 小熊英, 笹川剛, 他 (2003) アンケート調査による胃 癌幽門側胃切除術,Billroth-I (B-I)法再建後の Quality of Life (QOL). 東京女子医科大学雑誌, 73(11):450-456. 4) 杉田昭, 川本勝, 福島恒男, 他 (1984) 胃全摘術後の血中高級 脂肪酸濃度について. 日消外会誌, 17(4):701-706. 5) 川上祐子,遠藤陽,河原和,他(2003)胃切除術後の外来患者に おける食事摂取状況と栄養状態に関する研究. 中国学園紀要, 2:33-39. 6) 大津信博,白田亨,山田みゆき,他(2003)血清 HDL コレステロー ルの周術期動態についての検討急性炎症および低栄養との関わ りについて. 医学検査,56(4):522. 7) 阿部真紀,嘉島よしみ,大友弘美,他(2004)胃切除術後患者の 栄養管理.札幌社会保険総合病院医誌,13:63-65. 8) 平泉泰自(1984)胃全摘再建術式の比較検討:第 2 編術後栄養状 態よりみた解析.東京女子医科大学雑誌,56:884-891. 9) 中島佳緒里,清水遵(2008)胃がん術後患者の食事摂取量の調整 に影響する要因の検討.消化器外科 Nursing,13(8):832-839. 10) 山口真澄,鎌倉やよい,深田順子,他(2006)幽門側胃切除術後 患者における退院後の食事摂取量の自律的調整に関する研究. 日本看護研究学会雑誌,29(2):19-26. 11) 厚生労働省(2009) 日本人の食事摂取基準(2010 年版). 各論 エネルギー・栄養素 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/ 3) 脂質 TG 群の脂肪酸摂取量は,術前(35.9 ± 11.5g)より術 後 1 回目(7.4 ± 2.0g)・2 回目(15.6 ± 6.5g)共に有意に 低かった。PUFA 摂取量は,術後 1 回目のみ有意に低 下した。特に,n-3PUFA 摂取量は,術前(1.6 ± 0.6g)よ り術後 1 回目(0.3 ± 0.2g)・2 回目(0.8 ± 0.3g)共に有意 に低かった。術前から n-3PUFA(70 歳以上の目標量: 男性 2.2g 以上,女性 1.8g 以上)11)・n-6PUFA(70 歳以上 の目安量:男性 8g/ 日,女性 7g/ 日)11) の摂取は少なかっ た。昨今,高度侵襲手術に対する n-3PUFA を付加した 免疫栄養剤投与による周手術期の栄養法が注目されてい る。手術患者や外傷患者への n-3PUFA 油を強化した栄 養剤の投与は,死亡率,感染症発生率,在院日数の改善 が認められており16),周手術期における脂肪酸,中で も n-3PUFA 摂取の重要性が示唆されている。胃切術後 患者にとって n-3PUFA 摂取量を増加する摂取方法の検 討が必要であると考える。 2. 胃全摘術後患者の栄養摂取における課題と食事指導 胃 全 摘 術 後 の 炭 水 化 物・ 糖 質 の 消 化 吸 収 率(90 〜 95%)は良好に保たれるが,たんぱく質(80 〜 90%),脂 防(70 〜 80%)では吸収率の低下がみられると言われて いる17)。胃切除術後患者のたんぱく質や脂質の摂取量 の減少は顕著であることに加え,消化吸収率も低下する。 特に,術後早期には,筋たんぱく分解や体脂肪組織にお ける脂肪分解によって生ずる筋肉量が減少する体成分組 成変化の特徴1)から,摂取エネルギーは,まず,体たん ぱくの修復,次いで体脂肪の回復へと向けられる18)と 言われている。従って,術後の体成分組成変化と回復の 過程に応じた,栄養素摂取の検討が必要である。更に, 胃切除術後の脂肪の消化吸収は,再建法による影響を受 けやすく,Billroth-Ⅰ法では 30 〜 60% の患者に,2 〜 12% の脂肪の吸収障害が生じる19)。一方で炭水化物・ 糖質の吸収障害は 5 〜 10%,たんぱく質は 10 〜 20%20) と脂肪の吸収障害と比較するといずれも少ない。そのた め,胃全摘術後患者が健康状態を回復するためには,術 後早期には,たんぱく質摂取量を低下させないための食 品・献立・調理法の工夫が必要である。術後長期にわた る栄養障害を防ぐためには,できるだけ早期から脂質, 特に n-3 系多価不飽和脂肪酸摂取を促進する食事指導や 栄養補助食品の追加などの工夫も必要となる。部分切除 術後患者には,残胃容量や残存機能に伴う身体症状の出 現を防ぎ,食事摂取量を低下させないための食品・献立・ 調理法と食べ方について,術前から主治医・管理栄養士 等と相談し,食品・献立・調理法の工夫を依頼しておく ことが必要であると考える。 本研究は対象者数が少なく,結果の一般化には限界が ある。今後は対象者数を増やしデータの精度をあげるこs0529-4.html. 12) 板倉弘重,菅野道廣,石川俊次,他(2000) 脂質研究の最新情 報 適正摂取を考える.第一出版,東京. 13) 近藤泰理,梶浦泰生,中村健司,他(1999)胃全摘再建術におけ るRoux-en-Y法と空腸パウチ・ダブルトラクト法の臨床的評価. 日消外会誌,32(4):978-982. 14) 臼井史生, 荻沼昌江,羽根田千恵,他(2005)幽門側胃切除術後 の食事摂取方法に関する研究.日本病態栄養学会誌,8(2): 123-130. 15) 中島あつ子,柴崎光衛, 〆谷直人, 他(2005) 栄養指標蛋白とし てのトランスフェリン,トランスサイレチンおよびレチノール 結合蛋白の測定意義.Dokkyo journal of medical sciences, 32 (1):21-28.
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