特別支援教育特別専攻科の教育課程に関する一考察
-入門期にある学生の実態-
On Teacher-Training Curriculum of a Special Postgraduate Course in Special Needs
Education:The Actual Situation of Students in the Early Stages of the Curriculum
古 屋 義 博
*Yoshihiro FURUYA
Ⅰ.問題 1.「特別支援教育制度」導入という戦後障害児教育の基調転換について 改正学校教育法(平成 18 年法律第 80 号)が 2007 年4月1日に施行され,特別支援教育制度が名実 ともに開始された。「(盲・聾・養護学校,特殊学級,通級指導教室という)特殊な場」で,「特殊な先生」 が,「特殊な教育」を行うという,2006 年以前の「特殊教育制度」の基調転換がなされた。学校教育法 第 81 条第1項(以下)の新設がそのことを象徴している。 幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び中等教育学校においては,次項各号のいずれかに該当す る幼児,児童及び生徒その他教育上特別の支援を必要とする幼児,児童及び生徒に対し,文部科学 大臣の定めるところにより,障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うもの とする。 つまり,「特殊教育制度」から「特別支援教育制度」への移行とは,特別支援学校(旧:盲・聾・養 護学校)や特別支援学級,あるいは通級指導教室という「場」に限定されず,学校教育のあらゆる「場」, 端的には「通常の学級」でも,「特別な教育的支援を必要とする児童生徒」への教育が日常的に実施さ れるという意味である。 戦後障害児教育の基調転換の前駆は,2001 年 1 月文部科学省の再編に伴い,障害児教育を管轄する, 従来の「特殊教育課」を「特別支援教育課」に名称変更した理由に表現されている。同年同月に文部科 学省が発表した「21 世紀の特殊教育の在り方について~一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り 方について~(最終報告)」の本文の注釈として以下のように記されている。 特別支援教育:平成 13 年 1 月文部科学省の再編に際し,「特殊教育課」の課の名称を「特別支援 教育課」に変更。特別支援教育課は,盲・聾・養護学校及び特殊学級における教育に加えて,学習 障害児や注意欠陥 / 多動性障害児等通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒 への対応も積極的に行うこととしている。 障害種別や程度を超えて,一人一人の教育的な要求に,「場」に依存することなく対応していくとい う方向性が示されたといえる。 2.「特別支援教育制度」を支える人材について 「特別支援教育制度」が 2007 年4月1日に名実ともに動き出した。その制度を学校教育の最先端で動 * 教育支援科学講座かす教師の専門性が問われている。特別支援学校教諭免許状の保有状況が一つの目安になる。特別支援 学校教諭と小・中学校特別支援学級担当教諭の特別支援学校教諭免許状保有率を図1に示す。 特別支援学校教諭の当該免許状の保有率が 100%ではないことについては,従来から問題視されてい る。念のため記せば,この状況は,教育職員免許法の附則「幼稚園,小学校,中学校又は高等学校の教 諭の免許状を有する者は,当分の間,第3条第1項から第3項までの規定にかかわらず,特別支援学校 の相当する各部の主幹教諭(…略…),指導教諭,教諭又は講師となることができる。(※下線は筆者)」 が,「当分の間」を超えて削除されないためである。 特別支援学級の担任については,制度上,特別支援学校教諭免許状の保有は求められない。一方,特 別支援教育に関する専門性の担保という観点からは必要である。しかし,その保有状況は 30%前後の 水準で推移し,しかも特別支援教育制度が開始されてから低下している。 学校教育法第 81 条第 1 項の新設により,小・中学校などでも特別支援教育を実施することになった。 それを担う小学校・中学校・高等学校の教師(管理職を含む教育職全員)の特別支援学校教諭免許状保 有率を図2に示す。 小学校では 8.5%と保有率は相対的に高い。きわめて粗いが,次のような推計(表 1 参照)ができ る。文部科学省による平成 24 年度学校基本調査によれば,全国に小学校は 21,460 校あり,教員数は 418,707 人とある。よって,小学校1校あたりの平均教員数は 19.5 人となる。この人数に保有率 8.5% を乗じれば,1.67 人となる。あくまでも平均の値であるが,小学校の場合,各校に1~2人程度の特 別支援学校教諭免許状の保有者がいるという推計となる。そのような教師が校内の中核となって,特別 図1 特別支援学校教諭・特別支援学級担当教諭の特別支援学校教諭免許状保有率 図2 小学校・中学校・高等学校の教員の特別支援学校教諭免許状保有率 ※文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2013)平成 24 年度特別支援教育資料.より筆者が作成 ※文部科学省生涯学習政策局調査企画課(2010)平成 22 年度学校教員統計調査.より筆者が作成
支援教育を推進することは可能であろう。 一方,中学校や高等学校の現状は厳しいといわざるを得ない。 中学校では,特別支援学校教諭免許状の保有率は 3.2%である。同じく平成 24 年度学校基本調査に よると,全国で中学校は 10,699 校・教員数 253,753 人であり,1校あたり 23.7 人となる。この 3.2% という保有率を乗じれば,1校あたり 0.76 人となる。中学校の場合,各校に1人の特別支援学校教諭 免許状の保有者がいるかいないかと推計される。 同じく高等学校の場合,全国 5,022 校,教員数は 237,224 人で,1校あたり 47.2 人となる。この 1.0%という保有率を乗じれば,0.47 人となる。高等学校の場合,特別支援学校教諭免許状の保有者は かなり希少な存在と推計される。 3.特別支援教育特別専攻科について 特別支援学校教諭免許状を取得できる課程はさまざまあるが,その一つに大学に設置できる「専攻科」 (学校教育法第 91 条)がある。その修業年限は,1年以上(同法第 91 条第2項)とされる。特別支援 学校教諭1種免許状を取得できる専攻科は,文部科学省「平成 21 年4月1日現在の教員免許状を取得 できる大学」によれば,以下の 18 大学に設置されている。 ここに示したとおり,本学(山梨大学)にも特別支援教育特別専攻科(以下,本学専攻科)が設置さ れている。参考のため,以下に本学専攻科の設置目的を記す。 本専攻科は,現在,小学校,中学校,高等学校及び幼稚園のいずれかの教員普通免許状を持っている方(募 集要項中,出願資格に該当する方)を受け入れ,障害児の教育を担当し得る教員を養成することを目的とする とともに,特別支援教育担当教員のための現職教育の場を提供しようとするものです。(山梨大学特別支援教育 特別専攻科・平成 25 年度入学生募集要項より) 文部科学省による課程認定上は,大学の学部(学士課程)で小・中学校などの教員免許状を取得した 人に対して,1年間で特別支援学校教諭1種免許状を取得させることが目的である。本学専攻科の場合 の,直近3年間の入学者が保有していた教員免許状の状況を表2に示す。 本学専攻科の直近3年間の修了者の進路状況を図3に示す。修了後に特別支援学校の教諭になる学生 が多い(39.6%)が,入学前に保有していた教員免許状を使って該当の校種,すなわち小学校や中学校 などの教諭として就職する学生も多い(29.2%)。そのような人材が,特別支援教育制度,とくに「小・ 学校数 (a) 教員数 (b) 1 校あたりの 教員数 b ÷a 特別支援学校教諭 免許状保有率 (c) 1 校あたりの 免許状保有者数 b ÷a ×c 小 学 校 21,460 校 418,707 人 19.5 人 8.5% 1.67 人 中 学 校 10,699 校 253,753 人 23.7 人 3.2% 0.76 人 高等学校 5,022 校 237,224 人 47.2 人 1.0% 0.47 人 表1 小学校・中学校・高等学校の教員の特別支援学校教諭免許状保有率など ※文部科学省生涯学習政策局調査企画課(2012)と文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2013)より作成 宮城教育大学 茨城大学 群馬大学 千葉大学 東京学芸大学 福井大学 山梨大学 愛知教育大学 三重大学 京都教育大学 大阪教育大学 奈良教育大学 和歌山大学 岡山大学 広島大学 福岡教育大学 熊本大学 琉球大学 (計18 大学)
中学校などでの特別支援教育の実施(学校教育法第 81 条第 1 項)」を支える中核的な人材になることが 期待される。 Ⅱ.目的 特別支援教育特別専攻科は原則1年間で特別支援学校教諭1種免許状を取得させる課程である。1年 間という短い期間で当該免許状を取得するという明確な目的が設定されているため,学生の集中力の維 持や学習意欲の向上によい影響を与えている。教員側から考えると1年間で指導を完結できるため,そ の年度の反省を翌年の教育課程や各授業の改善に活かせる。 そこで,さまざまな教員免許状を保有,つまりさまざまな学問文化に大学の学部(学士課程)で接し てきた本学専攻科の学生の「ものの感じ方」を明らかにすることによって,今後の教育課程研究や授業 研究をすすめていく際の一つの資料を得たいと考えた。「ものの感じ方」ということについて,本研究 では,本学専攻科に入学して間もないときに特別支援学校の実際の授業を見学させて,彼らがどのよう なところに着眼するのかということに絞る。 Ⅲ.方法 1.対象とする本学専攻科の概要 本学専攻科の1年間のおおまかな流れを図4に示す。 2.特別支援学校の授業見学とその感想レポート (1)見学する特別支援学校 見学する特別支援学校は,本学に附属して設置されている特別支援学校(知的障害)である。小学部 表2 本学専攻科入学生(2011 ~ 2013 年度)の教員免許状の保有状況 図3 本学専攻科修了生(2010 ~ 2012 年度生)の進路状況 延べ数 保有率 幼 稚 園 8 16.7% 小 学 校 26 54.2% 中 学 校 または 高等学校 国語 社会 数学 理科 音楽 美術 保健体育 技術 家庭 英語 福祉 6 14 1 1 1 1 2 0 1 7 2 12.5% 29.2% 2.1% 2.1% 2.1% 2.1% 4.2% 0.0% 2.1% 14.6% 4.2% (計) 70 145.8%
(定員 18 人)・中学部(定員 18 人)・高等部(定員 24 人)の3学部が置かれている。本学敷地内に隣接 しているため,移動に関する制約は少ない。 (2)授業見学の実施日や時間 前期のある講義で,通常の授業期間(半期全 15 週)の第1週目に見学のための諸注意を行い,第2 週目に見学(午後 13 時頃以降の約 80 分間)を実施した。見学する学部(小学部・中学部・高等部)や 学級,授業は限定せず,学生の自主性に任せた。見学する学生の引率は筆者が行い,筆者も学生と見学 を共にした。 (3)見学後のレポート 見学後の約3日以内に見学してどのような印象をもったのかを,具体的なエピソードを含めながら 200 字程度で記して電子メールで筆者に提出するように指示した。本研究の対象とするレポートは,見 学の方法やレポート作成に関する構造が同一の 2011 ~ 2013 年度入学生のものとした。 Ⅳ.結果と考察 48 件のレポートが集められた。記述内容をもとに,以下のように分類した(表3参照)。各分類ごと にその記述(明らかな誤字脱字や文法上の誤り,あるいは個人情報に関係する記載があった場合は筆者 が修正した)を示し,考察を行う。考察で引用したレポートの記述箇所に下線を付した。 図4 本学特別支援教育特別専攻科の学生の 1 年間の大学生活の流れ ※この期間に集中講義や特別支援学校の学校見学などが行われる。 表3 48 件のレポートの分類 大分類 中分類 小分類 件数 「教師」への着眼 (小計34 件) 学級/学習集団づくり 4 授業づくり 5 子どもへのかかわり方 (小計21 件) 子どものよさを伸ばすかかわり方 3 支援の程度の調整 3 視覚的・非言語的な情報の利用 5 取り扱いの難しい行動への対応 5 受容的な態度 5 進路を想定した指導 4 「子ども」への着眼 (小計14 件) 学びあい 4 行動の意味 (小計10 件) 学生なりの意味づけ 7 不可解さの表明 3
1.「教師」への着眼:34 件 1-1.学級/学習集団づくり:4件 ●先生は生徒に寄り添い,生徒は先生を信頼して,伸び伸びと学習やその他の活動に取り組んでい ると感じた。先生方は,生徒さん達にこまめに課題や質問を投げかけ,褒め,時には手を取って隣 に寄り添い,柔軟で楽しい授業や活動を展開する。生徒さん達は,その温かい雰囲気の中で,癇癪 を起こすことなく,皆,集中して積極的に活動に参加し,笑顔も見せる。一人一人のニーズに適し た支援教育を実際に肌で感じ学ぶことができた。 ●高等部3年生の授業は,先生1人に対して生徒は2人であった。異なる学習をしていたが,先生 は常に2人の生徒に心を向けていた。一方の生徒を教える際にも,もう一方の生徒への励ましの声 かけや優しい表情を向けていた。高等部2年生の授業では,生徒同士で「がんばれ」といった声か けが見られた。先生は生徒のそのような声かけを見逃すことなく生徒を褒めていた。先生と生徒, 生徒同士の距離が非常に密接であった。 ●高校2年生のクラスに入った瞬間,妙な一体感を感じました。クラスの黒板の上をみると「サム ライ」と書かれたクラス目標。甲冑を着た生徒の写真。「サムライ」をテーマにした歌。担任の先 生はこの1年間で一つの物語をつくるために授業をされているのだと感じました。「サムライ」と いう言葉は,このクラスの合言葉であり,それが上手にクラスを一つにしていました。一貫した理 念を教員が持つことの重要性を学べました。 ●いくつかの授業を見学する中で,少し落ち着きのない生徒には,必ず一人教師がつき,近い距離 で指導しているという共通点に気づいた。教師と生徒が手を繋ぎ,肩を寄せ合いながら授業するこ とで,生徒は深い安心感を覚える。そして,その安心感があるからこそ,彼らは目の前の課題に集 中し,豊かな表現や発想を生んでいるのではないかと感じた。憧れの職場,特別支援学校の見学を 通し,さらに教師になりたいという意思が強くなった。 「温かい雰囲気」「先生と生徒,生徒同士の距離が非常に密接(な関係)」「(学級としての)一体感」 を教師がつくりだしていると,特別支援学校に関するよりよい第一印象が記されている。さらに,学級 のよりよい雰囲気を直接的に感じることで,「憧れの職場,特別支援学校の見学を通し,さらに教師に なりたいという意思が強くなった」学生が存在する。そのような印象を1年間,そのままに維持できる ような取り組みが求められる。 1-2.授業づくり:5件 ●小学部の高学年の授業を見学させていただいた。その授業は,スクリーンに顔写真が写し出され た児童が音読していくという形で進められていた。私が感じたのは,クラス全体で授業を行う難し さである。一人一人の能力やその日の状態なども違うなかで,授業をどのように進めていけばよい のか,子どもたちへのアプローチの仕方,先生方がどのような努力をしているのかなど,これから 自分で学習していく際の課題となった。 ●私は美術室で高等部の生徒を観察した。部屋には教師が一人と生徒が二人いて,好きなものをノー トに書いたり貼ったりする授業だった。生徒Aは音声が出る機械に人名を打ちながら教師とやり取 りをし,生徒Bは学習を進めながらも教師と生徒Aの言葉に反応していた。生徒A・Bは全く違う 内容を学習し各々進めているのだが,教師は好きなものという繋がりや言葉の端を拾って二人をか かわらせ集中しつつも和やかな雰囲気だった。 ●授業を見る中で,『枠』や『塊』を児童生徒に意識させる先生方の創意工夫を多く観ることがで きた。数を学ぶことは共通していても,枠の中にシールを貼ったり,積み木を積んだり,その子に
あった学習方法であった。先生方の指示は伝えるべきことを的確に短く,という印象的であった。 また,よく見ていると活動中や指示を受けた時の児童生徒の表情の変化が豊かであり,自分の感情 を表情で表現している場面を多く見ることができた。 ●今回の見学では,どのように授業が行われているかに注目した。特に高等部の数学の授業が印象 に残った。この授業では,アイスの棒を決められた数にまとめるという具体的な活動を通じて学習 を行っていた。私は,数学という抽象的なイメージが中心となる科目であっても,活動を通じてイ メージを体感することが理解のための一つの方法になると考えた。他にも多くのことを見学するこ とができた。これからの学習と結びつけていきたい。 ●知的障害を抱える児童生徒における,作業学習の重要性を考える。小学部算数と高等部数学で は,マグネットや棒状の教具を児童生徒に渡して,授業を行っている。そして先生に出された問題 を教具を活用して作業しながら,学びのヒントを得ている。この数学における作業学習を通して, 児童生徒は問題が解けた,理解できた,という喜びや成就感を味わうことができる。また,学習活 動に主体的に取り組む意欲・態度を育てることができる。 「一人一人の能力やその日の状態なども違う」「(授業に参加する)二人をかかわらせ」と,同じ授業 に参加する児童生徒の実態の違いとその違いを踏まえた授業展開の重要性が指摘されている。 当該レポートの本旨ではないが,「作業学習」という用語を誤解している学生がいた。一般的に使用 されている用語とその概念と,専門領域で使用されているそれらとは往々にして一致しない。このよう な点に十分に注意しながら,日々の授業を展開すべきと再確認できる。 1-3.子どもへのかかわり方:21 件 (1)子どものよさを伸ばすかかわり方:3件 ●今回初めて○○特別支援学校を見学させていただきました。まず,学校の雰囲気がとても落ち着 いていることに気づきました。学校がきれいに整理されており,少人数であるからだと思いまし た。また,小学校高学年の学級では,今日1日勉強した内容を確認しており,先生はその時間で子 どもの良かったことを伝えていました。先生はその子をよく観察し,その子の良さを伸ばす指導を していることに気づきました。 ●高等部の授業で合唱練習を見学させていただいた。生徒の中には音に敏感で特定の調でなければ 不快を感じたり,曲の途中から始めることに不快を感じたりする生徒もおり,歌を歌うときはその 点に配慮されていた。また,楽器で参加している生徒もいた。どの生徒もそれぞれが音楽活動を通 して生き生きとしていたのは,一人一人の実態や特性を十分に理解してそれに応じた細かな配慮や 工夫をされていたからだったのだろう。 ●小学部高学年の掃除を見学した。先生方は生徒が掃除を時間内に無理なくできるよういくつかの 工夫をされていた。授業以外の時間にも生徒が生活を送りやすいような配慮が必要だとこの工夫を 観ることで気づかされた。学校生活を送るに当たって生徒一人一人の得意分野,不得意分野が明ら かになってくる。それらを理解し,生徒たちが個々の不得意分野を互いに補い合い生活できる環境 作りが大切になってくるのではないだろうか。 「子どもの良かったことを(教師がみつけて)伝え(るかかわり)」「一人一人の実態や特性を十分に 理解してそれに応じた細かな配慮や工夫」「生徒たちが個々の不得意分野を互いに補い合い生活できる 環境作り」との記述である。児童生徒の個人内差に着眼して,とくに発達の進んでいるところをさらに 伸ばす,あるいは活用するという教師のかかわりに気づいた学生の存在である。
(2)支援の程度の調整:3件 ●小学部中学年の着替えの場面が印象的であった。児童一人で服を着替え,体操着をしまうことは 難しい。しかし,ズボンに足が入れば自分で腰まであげることができる,体操着を広げればたたむ ことができる,というように児童の力でできることがあり,これが学習の成果だと感じた。先生方 が児童にとって取り組みやすい状況をつくり,じっくり見守ることで,児童のできることをゆっく り着実に増やそうとしていることが感じられた。 ●小学部の着替えの時間を参観させていただきました。ある女の子がたたむことに意識がむかない 時に先生が「よぉいスタート,また後で来るよ」と声をかけ,扉の陰からその女の子をじっと見つ めていました。その目はまっすぐに子どもを向いていました。特別支援学校の子どもたちは援助が 必要ですが,自分で時間をかけるとできることもあります。教師のこの待つ姿勢が子どもが自分で やる主体性を育むことにつながるのだと考えます。 ●小学部ではA君が着替えをしていた。近くに先生がいたが手伝わず,着替え終わるまでずっと見 守っていた。最低限の援助が子どもの自立に繋がると考えた。中学部のクラスでは先生がB君と一 つの道具で遊んでいた。先生はB君だけでなく,周りの生徒にも同様の遊びを勧めていた。何気な いことでも全体を巻き込み共有することが記憶に残る貴重な体験になっていくのだと知った。いず れも教師の働きかけの重要性を強く認識した。 「(日常生活行為にかかわる)児童の力でできること」を教師は把握して,「(最低限の手がかりを与え た後は)待つ姿勢」を保つという教師のかかわり,そしてそのようなかかわりが「子どもの自立に繋が る」ということに気づいた学生の存在である。 (3)視覚的・非言語的な情報の利用:5件 ●今回の見学を通して,教師は子供の行動をなるべく自由にさせることで,子供たちが今何を思っ て何を伝えたいのか判断をしているのだと考えた。教師同士の連携が素晴らしかった。生活の中で 全体的に写真やイラストを多く使っていたことについて,視覚からの情報は有効なのだと考えた。 普段の写真を帰りの会で子供に見せて振り返っているクラスがあり,それに対しての子供の反応も とてもよく,興味深い取り組みだと感じた。 ●視覚的な効果を利用した教材を多く活用していると感じた。特に,小学部の帰りの会で一日の振 り返りや予定を確認する時に活用していたボードでは,授業と内容を一つ一つ掲示したり外したり することで,児童が追いながら確認していくことができていた。言葉として理解できなくても,視 覚で捉えることで少しでも理解を深めていくことができるのではないかと感じた。また,視覚的な 教材の準備が必要だと改めて感じた。 ●小学部のある児童が帰りの支度をしながら,支援してもらう場面に出会った。先生は児童にかか わる中で,視覚的教材を使いながら,端的に伝えていた。その結果,児童は先生の指摘を理解し行 動に移った。そして児童はできたことの喜びを言葉にし,自信をつけた様子であった。ただ言葉に よって伝えるのではなく,視覚的教材によって,示してあげることで理解が深まると考える。また そこには児童を思う気持ちが大切である。 ●先生方と子供たちとの物理的な距離に着目した。以下の3点である。1点目は,後ろや前からで はなく,横に並んで指導をしていた点である。2点目は子供たちと同じ目線になるようにかがんで いた点である。3点目は落ち着かない子どもへは,先生が体を使って身動きを制止していた点であ る。課題意識として,3点目の体を使った指導をどこまで行って良いのかというものが生じた。子 どもたちの能力を見極めることが必要だと感じた。
●○年ぶりの現場に緊張しながらも笑顔をつくり校内を見学した。高等部の授業でのこと,教師が 絵とその名前が記されたカードを生徒に見せながら「○○さん,これはカメラじゃなくてりんごだ よ,り・ん・ご。言ってごらん。」その呼びかけに生徒は何の反応も見せていなかった。その後何 度もそのやりとりは続いた。私はその光景を見て,自分が教師なら見えないゴールのどこにその目 的や目標をもって授業すべきか考えさせられた。 「写真やイラスト」などの「視覚的教材」の利用や,「(児童生徒との)物理的な距離(のとり方)」と いう教師の非言語的なかかわりの工夫に気づいた学生の存在である。また,かかわりの手段としてその ような方法を使っても,「生徒は何の反応も見せていなかった」場面を観察して,「自分が教師なら」と 視点を転じて検討しなおす記述もあった。 (4)取り扱いの難しい行動への対応:5件 ●私は小学部(中学年)の帰りの会の場面に注目しました。学級活動中,一人の児童が落ち着かず, しばらくそわそわとしていました。その時教師がそっとそばに行き,その児童の肩に手をふれ,特 に注意をすることもなく,児童のそばにいました。そこから私は,児童のそばに寄り添い,同じ目 線で児童と接することの重要性を感じました。まずは,児童のそばに寄り添い,児童の声を聞くと いうことが第一歩であると思いました。 ●小学部高学年のある男子児童が,算数の授業中,担当の先生によくちょっかいや手を出したりし ていた。また声もずっと出し続けていて,授業にならないと思ったが,その先生はうまくかわしな がら,向き合っていた。興味のある洗濯ばさみで数を表すことは,真剣に取り組んでいたのが印象 的だった。児童生徒に授業を楽しく受けてもらうためには,やはり教材の工夫が大切だ。また何を されても動じない先生方に魅了された。 ●小学部を見学中に,なかなか言うことを聞かない児童に教師が注意をする場面に遭遇した。ただ 注意をするだけでなく児童に触れ,また抱きしめながら注意をしていた。その場面だけでなく,遊 んでいる時,授業中など教師が児童生徒に触れる機会が多いことに気づいた。触れることで児童生 徒に安心感を与え,信頼関係を築くのに重要な役割を果たしているのではないだろうか。今後児童 生徒とかかわる際は,たくさん触れることを心がけたい。 ●休み時間が終わり,1 人の女子生徒が先生と教室へ戻る途中の出来事だった。他の生徒は先に教 室へ戻ったが,彼女は庭先に腰掛けてしまった。そして,「日本の地震は終わる。」と口にしていた。 それに対し先生は,「もう終わるよ。大丈夫。怖くないよ。」と優しく答えていた。その後,彼女は 自分から教室へ戻った。私はこの場面から,生徒の気持ちに寄り添う重要性を学ばせていただき, それが信頼関係の構築に繋がるのだと実感した。 ●私は小学部を中心として児童と教師の様子を見守っていた。一人の教師と児童がプレイルームで 遊んでいた場面を取り上げる。下校の時間になり遊んでいたものを片付ける際,児童はその場に立 ちつくし一向に片付けようとしなかった。教師が片付けようと呼び掛けても児童は全く動くことは なく,結局教師が片付けていた。児童が先生は片付けてくれるといった甘えを持っていたように見 え,何気ない日常から教育の機会はあると感じた。 状況はそれぞれ異なるが,取り扱いの難しい行動に対して,「そっとそばに行き,その児童の肩に手 をふれ」「何をされても動じない」「触れることで児童生徒に安心感を与え」「優しく答え」という教師 のかかわりに注目している。「(児童生徒に片付けを促すものの)結局教師が片付けていた」場面もあり, 「何気ない日常」の指導の積み重ねが重要と考えた学生の存在である。
子どもに対する教師のかかわり方を見学しながら「児童生徒とかかわる際は,たくさん触れることを 心がけたい」との結論を導いた学生がいた。このレポート以外でも,教師の見かけ上の行動(かかわり 方)に着眼しすぎたレポートが散見された。そのかかわり方の意図やそのかかわり方が逆に好ましくな いという場合などについて,学生に伝えることが必要であろう。 (5)受容的な態度:5件 ●今回の見学で貴重な体験ができた。私は普段から腕を組む癖があり,そのせいか児童達は話しか けづらそうにしていた。腕を下ろしたら,一人の男子児童が私の手を握り話しかけてくれた。また, 私は身長が高いわけでもなく,名札を他の学生よりも下に付けていたので,児童たちが私の名前に 興味を持ち「○○先生」と呼んでくれた。喜ばしいことである。相手が安心できるような振る舞い や雰囲気作りがいかに重要か再認識できた。 ●小学校高学年の生徒が中学生の空き教室に入り鍵をかけて閉じこもったので,先生が窓から入り 教室に戻るよう指示している場面があった。そのような場面で,先生は「心配したんだぞ」とにこ やかに接していたため,生徒も安心した様子であった。一般的には叱られてしまうような状況で あっても,先生方が小中高と分け隔てなくかかわり,また生徒との関係が十分に構築されているた め,そのような対応が可能であったと考える。 ●A君は,私達が来たことが嬉しいらしく,授業の始まりは,大声を発したり机をたたいたりして いた。担当教師がその都度「嬉しいね。」と共感的理解で受け止め続けつつ,授業準備をした。5 ~ 10 分後には,全く声を出さずに課題に集中していていた。普通学級の発達障害といわれる子と, 行為は近いが,言葉の表現に違いがあり,言葉でない部分から,子ども達が何を伝えたいのか,読 み取ることができる共感的理解力,洞察力が重要である。 ●自転車の籠に何かを入れる真似をしながら楽しそうに遊ぶ男の子,「時間だから」と示されても はっきり嫌だと主張し続けていたが「あと一周したら行こっか」との投げかけで「うん」と自転車 に乗りご機嫌で校庭を出た。気持ちを少し満たすことで快く次の行動に移ることができた。彼の教 室に行くと,先生方が決まった子を担当するのでなく,みんなでみんなを見ていた。常に視野を広 く持ち,思い合うことが大切な仕事だと感じた。 ●中学2年生の様子である。クリスマスソングを口ずさむ子,マンガ雑誌を読んでいる子,音楽に 合わせて跳ねている子,男性教員の頭には頭皮マッサージの器械が装着されたままである。聞け ば,遠足から帰ってきて子供たちが疲れているので,リラックスする時間を取っているそうだ。見 た目は学校の中とは思えないが,子供たちの表情は非常に落ち着いており,オンとオフをはっきり させることで遠足の記憶の整理も行えていると感じた。 「(叱らずに)先生は「心配したんだぞ」とにこやかに接していた」や「「嬉しいね。」と共感的(に児 童生徒の気持ちを代弁する)」など,教師の受容的な態度に対して魅力を感じた学生の存在である。 当該レポートの本旨ではないが,「普通学級の発達障害といわれる子と,行為は近い」との記述が あった。「発達障害」という用語に関する断片的な知識や,限られた個人的な経験に基づくものと考え られる。このような性質の存在に我々は注意すべきであろう。 1-4.進路を想定した指導:4件 ●高等部での学習活動では,数学の授業が行われており,シールや数字の書かれた積み木を使った 授業が展開されていた。高等部の授業では,直接進路に繋がり,また,生徒自身の自発的な活動の 部分も大きい。シールを貼るといった単純な動作ではあるが,直接進路に繋がってくる。教師が生
徒の横について直接的な指導を行うことは,より効果的な知識だけではない技能の習得に繋がり, 進路選択などにおいても,幅が増えていくと思う。 ●高等部2年生の生活単元学習の授業を見学した。生徒が主導になって「○○集会」について議論 をしていたことが印象的であった。生徒の自主性を尊重し先生方はフォローに徹する。生徒の意見 を大切にする姿勢に私も見習わなければならないと感じた。また,ここにこの授業の意味が込めら れている。生徒は成人になったら選挙権を有して投票を行う。生徒が取捨選択をできるように将来 に向けての自立を図っているのであると考えた。 ●高等部2年生のクラスで「○○集会」についての話し合いが行われていた。そこでは先生ではな く,生徒が主体となっていた。中学部でも同じ内容の話し合いが行われていたが,中学部は先生が 主体であった。高等部になると中学部よりもさらに卒業後のことを視野に入れ育てていく必要があ るのでこの形式をとっているのだと考える。このように特別支援学校では社会に出た時のことを常 に考え生徒と接していかなければならないのである。 ●特別支援学校へ見学へ行き,高等部は小学部よりも授業を受ける生徒の人数が少ないと感じまし た。小学部では5・6名ほどいた教室も高等部では2名であったり,教室内をいくつかに区切り, その一つ一つに教員がついて授業を行ったりしていました。高等部は卒業したら,社会に出る生徒 もいます。だから,小学部や中学部よりも濃く深い授業を展開していかなければならないためであ ると,私は考えました。 高等部の授業を見学して,教師の何気ないかかわりが「(生徒の)進路選択」や「(一人の市民として) 選挙権を有して投票を行う」などにつながるのではないかと考えた学生の存在である。 当該レポートの本旨ではないが,「高等部は小学部よりも授業を受ける生徒の人数が少ない」との記 述があった。教育課程や学級編制などに関する知識の不足による。偶然に観察した場面の急激な一般化 がなされないように,我々は注意しなければならない。 2.「子ども」への着眼:14 件 2-1.学びあい:4件 ●小学部の低,中,高学年と順に見ていく中で,児童の人間関係が豊かになっていくことに気が付 いた。低学年は,クラスメイトがいるものの手を動かすなどの自己安定を行っていた。しかし,中 学年になると先生の言葉を理解して連絡帳を取りに行くことをしていた。高学年では友達がいない 時,洗濯室に探しに行くなど支えあいの姿勢が見られた。このように様々な人とのかかわりの中で 失敗や成功を体験しながら成長していると考えた。 ●今回,小学部中学年の帰りの会を通して見学したなかで,特に気づいた点があった。先生のピア ノの音でリズムが生まれ,それに合わせて児童が歌うことで,帰りの会へ意識が向けられるよう だった。なかでもリズムに乗ることが好きな児童がいたので,その児童が元気に歌うことで他の児 童も同じようにリズムに乗ることができていた。このように,ある児童の特性が他の児童に影響す ることで,学びあいが生まれるのである。 ●子ども同士のかかわりはとても大切である。中学 3 年生のクラスで,生徒が友達に何かを教えて いる場面を見た。教えられた生徒はしっかりと頷いて聞いており,教えていた生徒も満足そうだっ た。子ども同士で助け合って一つのことをやり遂げようとすることは,自信になったり友達のよさ を知ったりすることができる絶好の機会である。おとながいつも正しさを教えているのでは子ども は成長しないということを,改めて感じた瞬間だった。 ●高等部2年生の授業で「○○集会」についての話し合いを見学した。生徒の障害の程度に合わせ
た役割が用意され,皆参加している意識が高かった。ある生徒が意見を発表し,最初は違う考えだっ た生徒が賛成する場面もあった。自分の考えを伝えることで,他の人の考えに影響を与えることが できるということを,その生徒は学び自信をつけたのではないだろうか。周到な準備をし,生徒の 自主性を尊重することが,成長につながると考えた。 「その児童が元気に歌うことで他の児童も同じようにリズムに乗ることができていた」と児童生徒が 他の児童生徒に影響を与えること,「子ども同士で助け合って一つのことをやり遂げようとすることは, 自信になったり友達のよさを知ったりすることができる絶好の機会」と児童生徒がお互いに助け合うこ との大切さ,「自分の考えを伝えることで,他の人の考えに影響を与えることができる」という集団・ 社会の価値などに気づいた学生の存在である。 2-2.行動の意味:10 件 (1)学生なりの意味づけ:7 件 ●高等部のあるクラスで,生徒の一人は木の板を型にはめる勉強をしていた。型の形は6種類程あ り,始めは全部の種類の板が一緒になっていて,そこからなかなか板をはめられずにいた。しか し,先生が一つの型に一つずつ板をはめるよう指示したところ,時々間違えることもあったが,着 実に課題をこなしていった。時々こちらを見ては笑っていたので,慣れない人の視線に戸惑ってい たのではないかと考える。 ●小学部の教室に行った時,一人の女の子が腕にしがみついたり,抱きついたりという行為をして きた。それは自然に起こった行為で,以前教育実習で行った通常学級の子どもの行為より,自分に 触れて欲しい,近くにいて欲しいというような思いが強いのではないだろうか。その子とは初対面 であったし,特に何か会話したわけではなかったが,その行為を通して,お互いを受け入れ合う気 持ちが生まれてくるのではないだろうか。 ●「○○ルーム」に,小学部の男子生徒が中から鍵をかけてしまい自分で出られなくなっていた。 先生が外から窓を開け生徒を出し,すごく心配したんだからねと,注意したが生徒は嬉しそうに笑っ ていた。教室から出られたことより先生が自分を構ってくれたことが嬉しかったのではないか。友 達と集団生活をする中で,自分だけが先生を独占していたいという気持ちと,先生の愛情を確かめ たいという気持ちの表れではないかと考える。 ●ある生徒がキーボードを鳴らし,嬉しそうに飛び跳ねていると,他の生徒から「うるさい」と文 句をつけられた。言われた子は何も言わず,口に指をくわえ不安そうな表情を浮かべて,すぐに キーボードから離れていった。教室を一周するとまたキーボードの前に戻っていったが,鳴らすこ となく教室を見渡していた。キーボードを鳴らしたい気持ちと,怒られることへの恐怖。この葛藤 に,この子なりに耐えている姿だったのだろう。 ●小学部に,休む暇なく話し続ける児童がいた。「お母さんは今学校に向かっている。」「明日は休 みだから,持ち帰ります。」時には不思議な言葉を繰り返すこともあった。最初はなぜ全てを声に 出すのか疑問だったが,私たちが考えたことを頭の中で確認するように,彼は声を発することで, 一つ一つ確認しているのだと考えた。傍から見たらどうしてそうするのか分からない行動も,全て に意味があるのだろうと見学をして改めて感じた。 ●小学部高学年の児童が帰りの支度を終え,空き部屋にいた。彼は楽しそうに歌を歌いながら,籠 からたくさんのカードを出したあと,籠に一枚一枚戻すのを繰り返していた。一見,ただ籠に戻し ているだけのように思うが,この児童はこの作業に夢中になり,この一枚一枚を戻すことに喜びを 感じているのだと思った。見学を通して,鳥が好き,高いところが好き,体を動かすのが好きなど
児童の好きなもの集中するものの違いが見られた。 ●高等部2年生の教室に入り,生徒達と一緒に歌を歌った。教師の伴奏が聞こえた途端にその場全 体が弾み始め,生徒達も音に合わせて自由に体を動かしていた。これは教師が体を動かすように指 示したわけではなく生徒達が自発的に感じたままに表現しており,生徒達の顔は生き生きとした様 子に見えた。音楽はこのように生徒達のエネルギーを引き出す力があり,それを大切にしていくと いう点で音楽活動はとても重要であると考察できる。 「慣れない人の視線に戸惑っていたのではないか」「先生が自分を構ってくれたことが嬉しかったので はないか」とあたかもその児童生徒になったかのように感じようとした学生の存在である。 「私たちが考えたことを頭の中で確認するように,彼は声を発することで,一つ一つ確認しているの だと考えた」と奇異な行動と捉えるのではなく自分自身との共通性を模索した学生の存在である。 見学先の教師の配慮によって,「生徒達と一緒に歌を歌った」機会を提供され,体験を共有すること で児童生徒理解が深まった学生もいた。 一方,実際に観察した児童生徒の行動について,半ば非論理的に「以前教育実習で行った通常学級の 子どもの行為」と重ね合わせるかのような学生が存在した。前述したが,限られた個人的な経験に基づ いた判断はしばしばなされるという学生の性質を我々は予測しておかなければならない。 (2)不可解さの表明:3件 ●小学部中学年の教室を見学させていただいた時に,一人の男子児童が私に紙を見せながら何かを 指差していた。私は児童と同じくらいの目の高さになるようにしゃがんでいたので話しかけやす かったのかもしれない。私に何か伝えようとしてくれていて本当に嬉しかったが,何を伝えようと していたのか解らなくて申し訳ない気持ちになった。努力はしたが解らなかった。この児童と長く かかわれば理解できるようになるかもしれない。 ●校庭をグルグル同じルートで回っている一人の生徒が見えた。体育の時間だと思い,教師の姿を 探してみるが見当たらない。高等部の授業を覗いてみると,先程の生徒が座って数の概念を勉強し ていた。教材の木の棒を最後にゴムで束ねる作業を終え,他の生徒が終わるのを待つ。次の授業ま で,彼は校庭へは行かず,トイレに行った。気づかないところで,生徒にストレスがかかっている。 その生徒の捉え方,感じ方を知りたい。 ●小学部中学年のある児童を観察していると,ホワイトボードに人の絵を書いては消しを繰り返し ていた。片付けをしようと教師が児童に伝えるが,その行為を全く止めようとせず,ホワイトボー ドを抱え込み離そうとしなかった。教師の働きかけによって片付けはできたが,その後自分の頭を 何度も叩いていた。同じ絵を描き続ける点と繰り返し頭を叩く点から,こだわりが強いことと自傷 行為があると考え,この児童は自閉症だと思われる。 不可解な行動を観察して,「努力はしたが解らなかった」や「その生徒の捉え方,感じ方を知りたい」 と表明した学生の存在である。そのように感じることは当たり前のことであり,容易に子ども理解はで きないということを比較的早期に学生に伝えるべきであろう。 当該レポートの本旨ではないが,「こだわりが強いことと自傷行為があると考え,この児童は自閉症 だと思われる。」との記述があった。自閉症の概念や学校教育(や教師)の役割などについての誤解に 基づく。このような誤解に学生自身が気づけるような働きかけが必要である。
Ⅴ.まとめ 48 件のレポートについて考察を行った。 特別支援学校やその教師に対するよりよい第一印象を示す記述が多かった。その印象を質こそ変化す るであろうが,本学専攻科修了まで維持できるような働きかけが我々に求められる。 子どもの不可解な行動や教師の専門的なかかわり方との関係についての記述が多かった。子ども理解 とそれに基づくかかわりの関係を学生に考えさせることが,本学専攻科の教育課程上,一貫して重要と なる。 子ども理解の方向性や教師のかかわりの在り方について,「障害児教育原理」ともいえる事項に気づ ける学生が多かった。獲得していく専門知識を支える土台である。このような気づきを多くの学生で共 有できるような取り組みも,本学専攻科の教育課程上,重要であろう。 断片的な知識や限られた個人的な経験に基づいた非論理的な判断や,各種用語の概念の捉え違いが散 見された。これらについては,日々の授業を展開する中で,我々が常に自覚的であるべきことと考える。 文献 1)文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2001)21 世紀の特殊教育の在り方について~一人一人のニーズに 応じた特別な支援の在り方について~ (最終報告).文部科学省. 2)文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2013)特別支援教育資料(平成 24 年度).文部科学省. 3)文部科学省生涯学習政策局調査企画課(2010)平成 22 年度学校教員統計調査.文部科学省. 4)文部科学省生涯学習政策局調査企画課(2012)平成 24 年度学校基本調査.文部科学省.