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ダウンステップにみる高知方言のイントネーションの特徴

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Academic year: 2021

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ダウンステップにみる高知方言のイントネーションの特徴

永野 マドセン泰子 要 旨 語を句や節といった単位にまとめ、それをひとつのイントネーションの単位として 発話するのは、異なった言語、方言間にひろく認められる現象である。しかし、具体 的なまとめかた、またピッチ領域の使い方などについては言語、方言間で違いが認め られるようである。本稿では、形容詞句、副詞句、およびそれらが埋め込まれた連体 修飾節について、ひとつのイントネーション単位(ダウンステップ)として発話され る傾向および先行アクセントと後続アクセントのピッチピーク値の差を、高知方言と 東京方言について実験し比較した。その結果、高知方言ではイントネーション単位が 小さくなる傾向がある事、また連続するアクセントのピッチ値の差が東京方言より小 さい事がわかった。 【キーワード】 高知方言、東京方言、イントネーション、ダウンステップ、アクセント、ピッチピーク .はじめに 方言のアクセントやイントネーションを聞く時、 平らな感じ とか、 上 げ下げが頻繁 などという印象を持つ事がある。また方言話者や外国人話者 が(日本語の)標準語で話す場合、どこか微妙に違う印象を与える事がある。 山口( )は方言のイントネーションの研究課題として、 句、節、文な どより大きな単位にどのようにまとまってゆき、統語構造とどう対応するの か、それが方言間でどう異なるか、という点をあげているが、この分野にお ける研究は大幅に遅れている。また、イントネーション単位としてのダウン ステップやフォーカスにみる後続アクセントとのピッチの関係についても、 方言間で差異があるという指摘がある(郡 、杉藤 、 、石原 )。 同様の事は日本語教育における母語話者と非母語話者の 差異にもいえる。日本語母語話者のモデル発話を真似て発話したスウェーデ ン人学習者のイントネーションでは、アクセントの下降のタイミングや度合 い、また平板型のデクリネーションの度合いなど、母語話者と学習者のイン 研究ノート

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トネーションに差異が認められている( )。このような音声的実現にみるイントネーションの差異は、弁 別機能は持たないもののその母語や方言の社会的規範として存在するのであ る。 高知方言のアクセント体系は大阪方言などと同じく低起式、高起式の区別 を持つ京阪式であるが、大阪方言よりもアクセント型が多く、より古い時代 の名残がみられるとされている。高知方言のアクセントの音韻体系について は比較的よく調査されており、音声の実態についての研究も近年着手されて いる( )。しかし、イントネーションについては筆者 の知る限りまだ研究が行われていないようである。本稿は、単語のまとまり 方とイントネーションの対応、および連続するアクセントのピッチピークの 差、という観点から、高知方言と東京方言について(ほぼ)同一の調査項目 を調べたパイロットワークである。 .語から句や節へのまとまり 日本語では二つ以上の語が句や節を構成するとき、 番目以下のアクセン トは低いピッチ領域で実現されるか場合によっては消滅する。これは 準ア クセント、カタセシス、ダウンステップ などと 呼ばれてきた現象である(以 下 ダウンステップ と呼ぶ)。後続アクセントが弱められるときの 統語構 造による生起条件の典型的なものとして郡( )は( )形容詞と名詞に よる形容詞句あるいは名詞が先行の助詞 の によって形容詞句を形成する 場合、( )動詞が先行の副詞あるいはそれに準ずる語によって修飾される 場合、( )並行表現である場合の つをあげている。加えて フォーカス のある語に続く場合 という語用論的な条件もあげている。 本稿では、この中の( ) の を含む形容詞句、副詞句、およびこれら を含む連体修飾節)とイントネーションの対応、および( )連続するアク セント間のピッチピーク値の差、の 点について、高知方言と東京方言の差 異を調べた。仮定は、高知方言ではイントネーション単位が東京方言より小 さく、またアクセント間のピッチピークの差が小さい、である。ダウンステッ プに関しては談話の分析などもあるが、自然な談話になれば感情やフォーカ スなどのパラ言語情報がいり混じり、方言間の比較は難しいと思われるので、 本稿ではフォーカスなしのニュートラルな読み上げ文を使用した。

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.実験資料および録音 読み上げ文として使用されたのは、以下の( )( )のカテゴリーに該 当する句や文である。 ( )名詞 の 名詞(形容詞句) 例)おかあさんのプレゼント ( )副詞(あるいはそれに準ずる語) 動詞 どんどん歩いた ( )連体修飾節を含む文 おかあさんのプレゼント おかあさんのプレゼントが届いた おかあさんのプレゼントが届いた朝だった 構成単語として、 おかあさん プレゼント のように高知方言でも東京 方言でも同じアクセント型を有するものを中心に選んだ。全部で 文からな るリストを最初 ゆっくり 、次に 速く の二通りの速度で読んでもらった。 発話速度を変化させるのは、音声学の実験で折々使われる方法で、発話速度 を変える事により変化する部分と不変の部分を調べ、このうち不変の部分が 本質的なもの、とする手法である。各文につき 回の録音であったが、つまっ たり、不適切であると判断した場合はその場で読み直してもらい納得のいく サンプルを選んだ。話者はそれぞれの方言につき 人以上の録音をしたが、 そのなかでもアクセント型が安定している話者を選び高知方言話者 人、東 京方言話者 人について分析した。被験者は 代から最高 歳までの男女で ある。 .分析 ピッチ値の分析は で行い、図の表示にはピッチ修正機能があり図 形を表しやすい杉スピーチアナライザーを用いた。アクセントのピーク値は ヘルツとセミトーンの両方で測定したが、男女間、話者間の比較を容易にす る た め 以 下 で は セ ミ トー ン に よ る 表 示 を 採 用 し た。 セ ミ トー ン や ( )がヘルツよりも聴覚印象を忠実に表しや

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すいかという点では議論もあるが( )、異なる話者間の 比較では近年セミトーンがよく用いられている。 番目以降のアクセント値 が先行のものより低い場合をひとつのイントネーション単位(ダウンステッ プ)と定義し、各アクセントと先行のアクセント値の差をセミトーンで計算 した。 表 は中国語と日本語の発話に使用されるピッチ領域の比較をしたもので ある。中国語のデータは自然発話であるのに対し、日本語のデータは声優に よる感情表現のもので、データの種類、話者数が違うのでダイレクトな比較 はできないが、ある程度の参考にはなろう。いずれの言語においても、セミ トーン単位による比較では男性話者、女性話者のピッチ領域は酷似しており、 日本語の場合は セミトーン前後である。 表 中国語と日本語のピッチ領域の比較 .結果と考察 .イントネーション単位へのまとまり方 おかあさんのプレゼント 青い家 などの形容詞句は東京で %、高 知で %がひとつのイントネーション単位(アクセント句)として後続アク セントが弱められたかたち で発話された。 どんどん 歩いた や 急いで歩いた のような副詞句では東京で %、高知で %であっ た(図 参照)。 しかし連体修飾節では図 のように東京と高知でか なりの違いが認められた。 つのアクセントを含 男性話者 女性話者 中国語 ( ) 日本語 ( ) 図 イントネーション単位へのまとまり。形 容詞句( )および副詞句( ). いずれも左は東京方言、右が高知方言。

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む連体修飾節では、東京で は つのイントネーション 単位として (ピッチ) のリセットなしにダウンス テップで発話する場合が多 いが、これに反して高知で は つの単位として発 話する傾向が強い。 次 に 実 際 の イ ン ト ネー ションを見てみよう。図 は おかあさんのプレゼン ト のイントネーションを両方言について示したものである。いずれの方言 でも プレゼント のアクセントは先行の おかあさんの より低く実現さ れている。しかし東京では おかあさん はより高く、反対に プレゼント はより低く押さえられ、結果として両者のコントラストが大きい。これに反 して高知方言では、その差が少ない。 図 は連体修飾節を含む おかあさんのプレゼントが届いた朝だった(東 京) やった(高知) のイントネーションである。この文には おかあさん の プレゼントが 届いた 朝だった と つのアクセント句がある。 このうち おかあさんの と プレゼントが は東京、高知で同じアクセン ト型をとるが、 届いた と 朝だった はアクセントの位置がひとつずれ、 東京と高知でそれぞれ 、 となる。また だっ た は高知では やった になっている。東京話者では東京で連体修飾節を ひとつのイントネーション単位、つまり全文のアクセントが少しずつ低くあ らわれピッチのリセットなしに発話されている。反面、高知方言では おか あさんのプレゼントが は全員がひとつの単位として、その後 届いた朝だっ た あるいは 届いた 朝だった と読むケースが多かった。 また東京方言では、文が長くなり後続アクセントの数が増えるに従って文 頭の おかあさん のピッチピーク値が上昇する傾向が強い。高知方言にお いては文中におかれたアクセントの高低の差が少ないのに対し、東京方言で はそれがコンテクストの影響をより強く受け、高低がよりはっきりしてくる のである。聴覚的には高知方言はひとつひとつのアクセントの印象が強く、 比べて東京ではより大きなイントネーション単位の中での高低の配分によ 図 連体修飾節とイントネーション単位の対 応。いずれも右が高知方言。

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り、めりはりの効いた印象を与える。特に注目すべきは、これが同一話者間 では発話速度と無関係という点である。つまり、ゆっくり読んでも東京話者 はこれを 単位として発話し、速く読んでも高知話者は つか つの単位と して発話する。この事から、これが単に音声学的、時間的な要因によるもの ではなく、社会的(あるいは個人的)規範となっている事が推測される。高 知方言においてイントネーション単位が東京方言より小さい傾向にある事 は、東京方言において統語構造がイントネーションによく反映されるのに対 し、大阪方言では低起や高起のアクセント区分が優先されるという杉藤 ( )の報告に通じるものと考えられる。 図 おかあさんの( )プレゼント( ))のイントネーション。高 知方言(実線)と東京方言(三角)の比較。速度ゆっくり。女性話者。 図 おかあさんの( )プレゼントが( )届いた( )朝 だった 朝やった( ) のイントネーション。高知方言(実線)と 東京方言(三角)の比較。速度ゆっくり。女性話者。

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.連続するアクセントのピッチの差 先行アクセントに対して後続アクセントがどれだけ低く発話されるかその 差について両方言で調べたものを図 に示す。副詞句、形容詞句、連体修飾 節の順に度合いが下がり、東京と高知におけるそれぞれの平均値は 対 セミトーン、 対 セミトーン、および 対 セミトーンと、いずれの 場合も高知方言においてその差が少ない。 つのカテゴリーの平均は東京方 言で セミトーン、高知方言で セミトーンであった。両方言とも、副詞 句において形容詞句よりピッチの差が大きいが、これは中立文として読んで もらっても どんどん や 急いで を強調し、後の語を低く抑える傾向が あるためである。つまり統語的要因によるダウンステップよりもプラグマ ティックな要因であるフォーカスによるダウンステップにおいてアクセント の弱化度が大きいと推測される。しかし、高知方言においては、東京方言ほ どピッチの差が認められない。 おかあさんのプレ ゼント や 猫のプレ ゼント の おかあさ ん や 猫 が強めら れるという事はなく、 両方言とも中立的な文 として読まれている。 連体修飾節において先 行アクセントに対する ダウンステップの度合 いが低いのは、アクセ ントの数が形容詞句や副詞句より多く、その平均を取ったためである。 .まとめ 形容詞句、副詞句、およびそれらが埋め込まれた連体修飾節についてイン トネーションとの対応を調べた。その結果、単語をイントネーションの単位 としてまとめる傾向、および連続するアクセント間のピッチピークの差にお いて、異なる傾向が観察された。高知方言においては、イントネーションの 単位が小さくなる傾向がある。また東京方言では二つ以上のアクセントが続 く場合に、高低のコントラストを強くする傾向がある。後続のアクセントが 図 形容詞句、副詞句、および連体修飾節にみる 後続アクセントとのピッチ差。単位セミトー ン。いずれも右が高知方言。

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増えるに従って文頭のアクセントは次第に高くなる傾向が強い。これに対し て、高知方言ではその影響が限定的であり、各アクセントの高低は東京方言 ほど極端な増減を示さない。結果として、高知方言では各アクセントが丁寧 に発話される印象が強く、東京方言では文のまとまりがより強調されるめり はりのある発話となる。これらの点については はやく ゆっくり とい う二つの発話速度が与えた影響があまりない事から、この現象が音声学的な 要因に左右されるものではなく、社会的規範として定着している現象と解釈 したい。今回はパイロット実験であったが、今後さらに焦点を絞った研究が 必要と思われる。 参考文献 郡史郎( ) 強調とイントネーション . 講座日本語と日本語教育 第 巻 日本 語 の音声・音韻(上). 明治書院 郡史郎( ) 日本語のイントネーション アクセント、イントネーション、リズ ムとポーズ 三省堂 杉藤美代子( ) 話し言葉のアクセント、イントネーション、リズムとポーズ 日 本語音声 、アクセント、イントネーション、リズムとポーズ 三省堂 杉藤美代子( ) 文法と日本語のアクセントおよびイントネーション、 東京と 大阪の場合 文法と音声 くろしお出版 山口幸洋( ) 日本語諸方言のアクセント 日本語音声 、諸方言のアクセント とイントネーション 三省堂

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ながの マドセンやすこ (イェーテボリ大学文学部言語文学学科教授)

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参照

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