Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
歴史(古い論文,原文)に学ぶ
Author(s)
村松, 敬
Journal
歯科学報, 114(2): 2i-2i
URL
http://hdl.handle.net/10130/3263
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歴史(古い論文,原文)に学ぶ
村 松
敬
お世話になっている先生が,「小児口腔外科」という雑誌に「歯原性腫瘍および嚢胞の歴史的回顧
−本邦における初期報告例の分析−」というのを連載されているのだが,この仕事のお手伝いをさせ
ていただく機会を頂いた。『頼まれた仕事は,断ってはいけない(悪事は除く)』,と教わってきている
ので,喜んでお手伝いをさせていただくことにした。疾患の解析は遺伝子の領域に及ぶのは今や必然
であり,治療の進歩も目覚ましいが,疾患に対する考え方や治療法について,どのような変遷があっ
て現在に至っているのかを理解することは大切である。これは腫瘍や嚢胞に限らず,齲蝕やインプラ
ントであっても同じで,変遷を知らずして過去の方法や材料を否定するのは愚かなことである。「賢
者は歴史に学ぶ」ではないが,疾患に対する考え方や治療の変遷を正確に把握し,継承することは研
究,教育,臨床において重要である。
お手伝いといっても古い文献を集めることが主であるが,卒後20年以上,病理学を専門としてきた
者として,疾患の歴史的変遷を考えることは自然と好奇心がくすぐられ,身体が反応する。朝から調
べ始め,集中しているときは気がつくと夕方になっていることもある。多くのことがインターネット
で調べられる世の中であるが,本邦の初期報告例となる明治や昭和初期の文献になる。論文名や著者
名が分かっていてもダウンロードができないものが多く,そのため図書館で古い文献を探し,読み,
さらに孫引きして調べるが,カタカナ混じりの文章は古文の様で読むのに時間がかかり,根気がい
る。幸いにも本学の図書館は歴史的価値の高い雑誌や図書が多く所蔵されており,比較的容易に資料
が集まる(恵まれた環境である)。集めた文献をみると歯科領域では本学の先人である花澤鼎先生,遠
藤至六郎先生,大井清先生,松宮誠一先生の書かれたものを多く目にする。また歯科学報にたどりつ
くことも多く,本誌が歯科界の進歩・発展に大きく貢献してきたことがわかる。
興味深いことに腺性歯原性嚢胞(平成26年から歯科医師国家試験出題基準にも入っている)を本邦で
最初に報告したのは本学社会歯科学研究室初代主任教授の髙木圭二郎先生であった。論文では診断名
こそ違っていたが,稀な組織像であることを報告されており,現在であれば上記疾患に相当する。当
時の光学顕微鏡を用いて詳細な病理組織学的検索をすることがどれだけ大変だったのかは想像に難く
ない。診断されたのは正木正先生であったが,現在では「誰?」という人が大半であろう。正木先生
は多くの論文を書かれており,歯のフッ素症については分類で有名な Dean よりも先に歯科学報に誌
上発表されており,後に Dean は歯科学報の英文抄録を論文に引用している。また真珠で高名な御木
本幸吉翁とも一緒に仕事をされている。論文を読んでみると,歯原性腫瘍や嚢胞に対する考え方は現
代でも充分に通用するもので,当時としては画期的だったと推測されるが,本学の歴史ではお名前が
あまり出てこないことを私は大変残念に思う。
先人がどのような文献を引用したのかも気になるところであった。引用論文を探してみると図書館
の花澤文庫にあったので読んでみたが,多くは英語とドイツ語,時にフランス語の文献であった。
ネット環境のない時代に読んでいたのだと思うと本当に頭が下がる。ある時,古い論文を読んでいく
うちに上皮遺残で名を残す Malassez の論文(原文)にたどり着いた。Malassez の上皮遺残の原文は正
直なところ読んだことがなかったが,歯根膜中の上皮の存在は Malassez よりも70年くらい前に
Ser-res が発表しており Malassez は歯根周囲に上皮が網状に存在していることを報告した人だったこと
も初めて知った。やはり原文を読まないと分からないことはたくさんある。
大学院生や若い先生の中には,『そんな古い論文は読むだけ時間の無駄だよ。最近の論文を読めば
それで充分なエビデンスだろう。』と思う人もいるかもしれないが,賢者になるためにも歴史(古い論
文,原文)に学ぶことも忘れてはいけない。 (東京歯科大学歯科保存学講座 教授)
巻 頭 言 ②