〈 論 説 〉
私人による秘密録音
山
ム 口 小子
名
四 三 一 一 はじめに││最高裁第二小法廷平成一二年七月一二日決定││ 日本の学説と裁判例 ドイツの議論状況││私人による秘密録音の正当化の可能性││ おわりに││日本法への示唆││ は め にーー最高裁第二小法廷平成一二年七月一二日決定││じ
対話者の一方が相手方の同意を得ないで会話を録音した場合における録音行為(一方当事者による秘密録音)につ いて、最高裁第二小法廷平成一二年七月一一一日決む町、﹁詐欺の被害を受けたと考えた者が、相手方の説明内容に不審 を抱き、後日の証拠とするため、相手方との会話を録音することは、 たとえそれが相手方の同意を得ないで行われた ものであっても、違法ではなく、その録音テl
プの証拠能力は否定されない﹂、とした。本件は、私人による秘密録音 の事例であり、事実の概要は以下のとおりである。第14巻2号一一2 詐欺事件の被告人が、第一審公判において、欺同行為および詐欺の故意を争ったために、被告人と被害者の供述の 信用性が争点となった。契約代金の支払いがなく被告人の説明に不審の念を抱いた被害者が、弁護士の助言を受けて、 広告代金の支払い等に関し被告人と電話で話した会話を密かに録音していたことから、その録音テ!プが被害者の証 言を裏付ける証拠として取り調べられた。弁護人は、相手方の同意を得ないで会話を録音することはプライバシーの その証拠能力を争った。第一審判決は、後日トラブルに至った場合の証拠とすべく自 衛行為の一環として録音されたことなどの事情から、本件の録音は違法でないとして、この録音テ
l
プの証拠能力を 侵害として違法であるとして、 認め、被告人を有罪とした。原審においては、専ら事実誤認が主張され、録音テl
プの証拠能力に関する主張はなさ れなかったため、原判決も、この点に関し明示的な判断を示していないが、右録音テープに録音された通話内容も証 拠 と し て 用 い た 上 、 一審判決の事実認定を維持した。弁護人は、上告趣意において、本件録音テl
プを証拠として用 いることは憲法二二条、三一条に違反するとともに、秘密録音が合法とされる場合を限定する趣旨の最決昭五六・一 一 ・ 二O
刑集三五巻八号七九七頁に違反すると主張していた。 本決定を契機に、本稿では、会話の一方当事者による秘密録音(当事者録音)および会話の一方当事者の同意を得 てまたは嘱託を受けて第三者がこれを録音すること (同意録音・嘱託録音)(当事者録音と同意録音・嘱託録音をあわ せて、以下、秘密録音という) の 適 法 性 の 問 題 、 とりわけ私人による秘密録音の適法性の問題について、ドイツの議 論状況を参考にしながら考察する。 日本の学説と裁判例 ( 2 } 秘密録音の適法性については、①相手方に対して背信的ではあっても違法ではないとする無限定合法説、②録音しないという明示の約束がある場合、録音されないことについて話者に合理的期待を認めてよい場合、ならびに、 ( 3 ) 当初から悪用する目的で話を引き出した場合には違法になるとする留保付合法説、③プライバシーの権利ないし人格 ( 4 ) 権の侵害であり原則として違法であるとする原則違法説、④基本的に原則違法説の立場に立ちつつ、 一種の利益衡量 一方において、盗聴や秘密録音をする正当な利益があり、他方において、当の会話がプライバシーを ( 5 ) それほど期待し得ないような状況でなされたものであるときなどには、例外的に許されるとする利益衡量説が対立し の 方 法 に よ り 、 ている。会話の両当事者の同意を得ないで行われるいわゆる盗聴とは異なり、相手方に対する関係では自分の声・話 を聞かれることを認めているから、会話の秘密性を放棄して会話内容を相手方の支配下に委ねたものであり、原則と して適法とみる立場がかつては有力であったが、現在では、 秘密録音は、会話の相手方がその内容を記憶しているこ ととそれが録音されることとには質的な違いがあり、会話の自由はプライバシー権の重要な一部をなすと考えられて お り とくに利益衡量説が有力になっている。 一方当事者による秘密録音あるいは一方当事者の同意・嘱託に基づく録音につき、 その同意・嘱託は、秘密録音を 知らない他方当事者にとっては、何ら効果を持つものではない。そのような録音は、他方当事者の会話の自由ないし プライバシーに関する決定権を明らかに侵害しており、 したがって、原則違法説に立つべきであろう。たしかに、対 3 象の特定という観点からみると 一方・当事者の秘密録音ないし同意による盗聴・録音は、両当事者とも知らない聞の 盗穂・録音よりも会話の特定が容易にはなるであろう。しかし、 そのことは同時に、会話を録音しているかないしは 録音に同意している一方当事者が、録音を知らない他方当事者に対して、犯罪に関連する話題、さらにその者に不利 益な陳述や自白さえも誘発する危険があることも意味しているのである。 私人による秘密録音と捜査機関による秘密録音とは、区別して論じられなければならない。まず、捜査機関に
第14巻2号一一 4 よる秘密録音について検討する。 捜査機関が、電話による脅迫被疑事件において、令状に基づき捜索・差押えを行う際、音声により被疑者と犯行と の結び付きを立証するため、令状執行に立ち会った被疑者との会話を秘密裡に録音した事案につき、東京地判平成二・ ( 6 ) 七・二六判時二一一五八号一五一頁および千葉地判平成コ了三・二九判時一三一八四号一四一頁がある。両判決とも、秘 密録音は強制処分にあたらないとし、前者は、①被疑者は相手が警察官であることおよび被疑事実が脅迫電話の事件 であることを認識していた、②会話は捜索・差押えに関するものであり、 不正な手段を用いて被疑者に無理に話をさ せたという事情はない、等の事情から適法とし、秘密録音を原則として適法な任意処分とする。後者は、秘密録音は 原則的に違法な任意処分とし、①②のほか、③被疑者を合む組織構成員らによる犯行の相当な嫌疑の存在、④音声を ( 8 ) 録音する捜査の必要性を挙げて、例外的に許容されるとしている。前者は留保付合法説に、後者は原則違法説ないし ( 9 ) 利益衡量説に立つものと解されている。 捜査機関の秘密録音につき、相手方の会話の自由やプライバシーは侵害されるのだから、これを強制処分としてと らえて、法律の定めと令状を要するとすべきとし、問題は、強制処分法定主義の例外として合理性が認められるか否 かであり、このような合理性が認められるのは、脅迫電話のように、 ( 叩 ) る、とする見解がある。 正当防衛的状況・現行犯的状況がある場合であ 捜査機関による秘密録音は、これを強制処分とし、令状主義に服すあとすべきであろう。右のように、要急処分(正 当防衛的状況ないし現行犯的状況) の場合に、令状主義の例外として許容されると解する余地もあろうが、 む し ろ 、 要急処分に限って、 立法し、裁判官の事後的認可を要する旨の規定を置くことによって対処する方が、適切であるよ うに思われる。前述のように、対象の明示性・特定性という観点からみると、 一方当事者の秘密録音ないしその同意
嘱託による盗聴・録音は、両当事者とも知らない聞の盗聴・録音よりも会話の特定が容易にはなるであろう。しかし、 そのことは同時に、会話の一方当事者である捜査機関が、録音を知らない他方当事者に対して、 犯罪に関連する話題、 さらにその者に不利益な陳述や自白さえも誘発する危険があることも意味しているので、慎重な議論が必要である。 立法は要急処分のみとし、 その際、正当防衛状況などの許容性要件は厳格に設定されなければならないし、裁判官に よる事後的認可にあたっては、許容性要件の判断について、実質的で厳密な審査が必要であると思われる。 後にその結果を公判で証拠として利用する場合あるいは捜査過程においてのみ利用する場合のいずれにせよ、個々 の事例についてまず秘密録音の適法・違法を明確にしうるような精密な議論が不可欠であると考える。 次に、本稿の主たる考察対象である私人による秘密録音について、裁判例と晶子説を概観する。 刑事事件の下級審裁判例としては、次のようなものがある。 東京高判昭和五一・二・二四東高刑時報二七巻二号二二頁(裁判例①) は、﹁所論のカセットテープは、右二度にわ たる電話の会話内容を後日の証拠とすることを主たる目的として﹂被害者の知人が被害者の意向を受けて録音したも のであり、被害者が﹁被告人の脅迫あるいは恐喝等の行為から身を守る自衛行為の一環として、後日警察に届出る際 の証拠とするため、被告人との電話の会話内容を録音させたものともみられるのであって、録音それ自体に特に著し 5 い違法の点はないというべきであり﹂、会話の中で被害者が被告人に嘘を言ったり、被告人を怒らせたりしたとしても、 それらはいずれも被害者の﹁やむを得ない自衛策として許される範囲内の行為とみられ、特に被告人の犯罪行為を新 たに誘発したものではないのであるから、 その証拠能力を否定されるいわれはないといわなければならない﹂とした。 ( 日 ) 松江地判昭和五七・二・二判タ四六六号一八九頁(裁判例②)は、﹁証拠としての許容性はこれを一律に否定すべき ではなく、録音の目的、対象、方法等の諸事情を総合し、 その手続に重大な違法があるか否かを考慮して決定するの
第14巻2号一- 6 が相当である﹂とし、﹁(二本のテ
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プのうち一本)は、後日問題が生じた場合に備えて:::録音したものであり、 ~、 ずれもその対象は犯罪に関したいわば公共の利害にかかわる事実であるうえ、:::録音者においてことさら相手方を おとし入れたり、誘導等により虚偽の供述を引き出そうとするなどの不当な目的を持っていたとは認められず、これ に加えて、録音の場所、方法についても社会通念上格別非難されるようなものとは言えないことも勘案すれば、本件 各録音テl
プの録音の過程にその証拠能力を否定しなければならないほどの違法な点は存しないというべきである﹂ と し た 。 東京地判昭和五七・八・二五判タ四九六号一七四頁(裁判例③)は、録音された発言は、﹁もとより私人聞の会話に おけるものであり、:::多数の関係者が居合わせる労使紛争の場で、会社側役員らに対してされた抗議や:::更には これらに伴う暴力の行使等についてのもので、元来その秘密性やプライバシーが問題になるべき性格のものとは認め ら れ な い ﹂ と し た 。 以上のところから、刑事裁判例において、秘密録音の適法性についての判断要素として、会話の公然性(裁判例③て あるいは、違法行為に対する自衛行為であること(裁判例①)、録音の目的・対象・方法などの諸事情(裁判例①②) が顧慮されていることがわかる(裁判例①②においては、適法性の判断と証拠能力の判断とが明確に区別されていな い)。しかし、﹁自衛行為﹂の法的意味は明確ではなく(正当防衛の防衛行為でもなく、自救行為でもないて録音の目 的・対象・場所・方法などの諸事情を総合的に考慮するとしても、本来は違法である秘密録音をいかなる法理によっ て適法とするのか、すなわち、その正当化事由は、必ずしも精密に検討されているとはいえない。 四 この問題について最高裁として初めて判断した最(第一二)決昭和五六・一一・二O
刑集三五巻八号七九七頁は、 ﹁ 録 音 テl
プはいずれも被告人の同意を得ないで録音されたものではあるが、前者の録音テl
プは、被告人が新聞紙による報道を目的として新聞記者に聞かせた前示偽電話テープの再生音と再生前に同テ
l
プに関して被告人と同記者 との間で交わされた会話を、同記者において取材の結果を正確に記録しておくために録音したものであり、後者の録 音テl
プは、:::未必的にではあるが録音されることを認容していた被告人と新聞記者との問で右の偽電話に関連し て交わされた電話による会話を、同記者において同様の目的のもとに録音したものであると認められる。このように、 対話者の一方が右のような事情のもとに会話やその場の状況を録音することは、 たとえそれが相手方の同意を得ない で行われたものであっても、違法でないと解すべきである﹂とした。 事例判断として、報道を目的として録音テi
プの再生およぴ会話が行われ、あるいは、未必的にせよ話者が録音の 可能性を認識しながら会話が行われたという状況の下では、 その会話の一方当事者が相手方の明示的同意を得ずにこ れを録音したとしても、何ら違法とはいえないという判断を示すにとどまっている。その趣旨は、本件のような会話 そもそも秘密性が放棄され、あるいは少なくとも相手方の処分にまったく委ねられていたとみるべきべ ( 日 ) きだと解されており、本決定の結論は、原則合法説、原則違法説のいずれの立場からも導き出しうるとされている。 に つ い て は 、 本決定が秘密録音を適法とした根拠については、なお厳密に検討する必要があると思われる。本決定が、﹁未必的に ではあるが録音されることを認容していた﹂とした点は、 明示的とはいえないとしても現実的同意があったことを意 味していると思われるが、これに関連して、現実的同意と推定的同意とはどのように区別されうるか、 いかなる場合 に推定的同意が肯定されうるか、また、現実的同意ではなく推定的同意によって秘密録音が正当化されうるかについ て、精密な検討を要する。また、相手方が﹁報道を目的として﹂新聞記者に電話してきたものとされた点は、会話の ﹁秘密性﹂ないし﹁公然性﹂の問題、 および、右と同様に、相手方の同意の問題についての検討を要する。さらに、 記者が﹁取材の結果を正確に記録しておく目的で﹂録音したとされた点は、本決定では触れられていないが、報道目第14巻2号 8 的の録音が刑法三五条の正当行為における正当業務行為の法理によって正当化されうるか否か、あるいは、超法規的 違法性阻却事由として考慮されることのある﹁正当な目的のための相当な手段﹂(目的説)の法理によって正当化され うるか否かの検討を要する。 五 前述の最高裁平成二一年決定は、録音は、①それが詐欺の被害を受けたと考えた被害者の当事者録音であり、 ②相手方の説明に不審を抱き、③後日の証拠とする目的を有していた場合に違法ではないとしており、最高裁昭和五 六決定の事案における、秘密性の放棄と解されたり、現実的同意(あるいは少なくとも推定的同意) が認められたり するような特殊事情は存在しない。 会話の自由・プライバシーの侵害を重視する立場からは、最高裁平成一二年決定の判例としての適用範囲を限定的 に捉えることになるであろうが、まず、これらの事情が、録音の正当化の法理としてどのように構成されうるのかが、 精査されなければならない。本件第一審判決は、録音は、﹁後日トラブルに至った場合の証拠とすべく自衛行為の一環 として行われたものであり、また、会話の内容も、本件で問題となる(架空広告主である)会社に対する債権の回収 に関し、裁判や和解、強制執行等の進行等について、従前からの説明内容と同じ説明を繰り返し行っているものにす ぎず、新たに犯罪行為を誘発したというものでもないから、電話での会話内容の録音が違法とされるいわれはない﹂ とし、録音の目的・対象・方法などを考慮しているが、法理としての違法性阻却事由は必ずしも明確であるとはいえ ず、また、﹁自衛行為﹂という文言の法的な意味も明らかではない(前述のように、正当防衛の防衛行為でもなく、自 救 行 為 で も な い ) 。 ム ノ、 私人による秘密録音に関する民事事件の裁判例としては、次のようなものがある。 東京地判昭和四六・四・二六判時六四一号八一頁(裁判例④)は、﹁録音テ
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プに録取された会談の内容は、本件事件の当事者間で本件事件について質疑がなされた際にこれを一方当事者側において録取したものであり、特に会談の 当事者以外にききとられまいと意図した形跡はないから、右録取に際し他方当事者の同意を得ていなかった一事をも って公序良俗に反し違法に収集されたものであって、これにもとづいて作成された証拠に証拠能力を肯定することが 社会通念上相当でないとするにはあたらない﹂とした。 大分地判昭和四六・一一・八判時六五六号八二頁(裁判例⑤)は、﹁相手方の同意なしに対話を録音することは、公 益を保護するため或いは著しく優越する正当利益を擁護するなど特段の事情のない限り、相手方の人格権を侵害する 不法な行為とき尽つべきであり、民事事件の一方の当事者の証拠固めというような私的利益のみでは未だ一般的にこれ を正当化することはできない。従って、対話の相手方の同意のない無断録音テ
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プは不法手段で収集された証拠と言 うべきで、法廷においてこれを証拠として許容することは訴訟法上の信義則、公正の原則に反するものと解すべきで ある。一方、このような無断録音による人格権の侵害は不法行為に基づく損害賠償などで解決すれば足り、無断録音 テl
プの証拠能力には影響を及ぽきないとの立場も考えられないわけではないが、反面右損害賠償の義務を甘受する ことと引換えに、不法な手段で獲得した録音テl
プを法廷に提出することを訴訟当事者の自由に任せ、これを全て証 拠として許容することは無断録音による右人格権侵害の不法行為を徒に誘発する弊害をもたらすと共に、法廷におけ 9 る公正の原則に背馳するものと言わなければならない﹂とした。 盛岡地判昭和五九・八・一O
判タ五三二号二五三頁(裁判例⑥)は、会話の一方当事者が、本件事故と被告会社と の結び付きを推測し、その証拠を残そうと会話を秘密裡に録音したことにつき、﹁一般的に被録取者の同意を得ない録 音はプライバシーを侵害する違法な行為というべきであるが、民事訴訟法にはかかる違法な手段方法によって入手し た証拠の証拠能力に関する規定はない。しかしながら、法律上これを制限する規定がないからといって直ちにその証第14巻2号ーー10 拠能力を肯定するのは相当でなく、民事訴訟法の基本原別である公平の原則に照らし、かかる証拠を事実認定の資料 に供することが著しく信義に反すると認められる場合にはその証拠能力は否定すべきである﹂とした。 千葉地判平成六・一・二六判タ八三九号二六
O
百 九 ( 裁 判 例 ⑦ ) は 、 ﹁ 民 事 訴 訟 法 は 、 いわゆる証拠能力に関しては何 ら規定するところがなく、当事者が挙証の用に供する証拠方法は一般的にはすべて証拠能力を肯定すべきである。し か し 、 民事訴訟は私的自治の働く領域において発生した紛争を公権的に解決する手段であるから、当該証拠が、私的 自治の働く領域において許されない手段すなわち著しく反社会的な方法を用いて収集されたものであるときには、 そ れ自体違法の評価を受け、 その証拠能力を否定されることになると解するのが相当である。右認定のとおり、本件各 録音テープは相手方の同意を得ないで録音されたものである。しかしながら、ここでいう相手方なる者は通常の対話 の相手ではない暴力行為者であり、 しかもそれが職場という密室で行われたために、これに対抗する手段として本件 各録音テl
プの録音がなされたというのである。そのような状況下における暴力行為を確たる証拠として残す手段と しては、録音という方法が有効かつ簡単な方法であるから、録音テープの証拠能力を否定すれば相手方の違法行為を 究明できないことになって、 かえって正義に反する結果となる。それ故、暴力行為者たる相子方の同意を得ずにその 状況を録音する行為は著しく反社会的な行為とはいえず、本件各録音テl
プの証拠能力を肯定すべきである﹂とした。 以上のところから、 民事裁判例においても、秘密録音は、原則として違法と解されており、特別な根拠がある場合 に例外的に適法とされていることがわかる(適法性の判断と証拠能力の判断が明確に区別されていないものもある(裁 判例④⑦))。そこでは、たとえば、﹁会談の当事者以外にききとられまいとした形跡はない﹂ことが考慮されており(裁 判例④てこのことが秘密性の放棄と解されうるか否か、あるいは、推定的同意と解されうるか否かが検討されなけれ ばならない。また、録音の目的が考慮されており、公益の保護または著しく優越する正当利益の擁護のための録音は正当化されるが(裁判例⑤)、証拠固めをしておくという一方当事者の私的利益のみでは正当化されない(裁判例⑤⑥)、 と判断されている。さらに、暴力行為という違法行為に対する対抗手段として録音がなされ、それが暴力行為を確た る証拠として残す手段として有効かつ簡単な方法である場合に(裁判例⑦)、正当化されうるとするならば、その正当 化は正当防衛の法理に基づくのかなど、ここでも、 正当化事由は必ずしも精密に検討されているとはいえない。 七 私人による秘密録音については、捜査機関による秘密録音と異なり、強制処分か否かの問題は生じないが、同 様に、相手方の会話の自由やプライバシーの侵害として違法になると解すべきである。その例外として、 正当防衛的 状況ないし現行犯的状況がある場合に適法になるとする見解があるが、正当防衛的状況においては正当防衛の法理に ( M ) いかなる法理で正当化されるのか必ずしも明確ではない。 よって正当化されるとしても、 現行犯的状況については、 こ の 点 を 含 め 、 正当化される事例とその根拠について、より精密な議論がなされるべきであろう。すなわち、録音が、 ﹁詐欺の被害を受けたと考えた者による﹂(前記最高裁平成一二年決定)、﹁後日の証拠とする目的﹂(同)、および、﹁自 衛行為﹂(最高裁平成二一年決定の第一審判決)などの事情があるとして許されるとするならば、その法的意味を厳密 に検討しなければならない。 たとえば、﹁自衛行為﹂は、法的には、違法性阻却事由である正当防衛における防衛行為の意味か、超法規的違法性 阻却事由ないし刑法三五条の正当行為である自救行為の意味か、 明確ではない。また、詐欺の被害を受けたと考えた 者によって後日の証拠とする目的で録音がなされたとする点は、 正当防衛における防衛の意思の問題として考慮しう るか否か、などの検討がなされるべきであろう。さらに、行為無価値論により超法規的違法性阻却の判断基準として 考慮される﹁正当な目的のための相当な手段﹂(目的説)として正当化されうるか否か、あるいは、結果無価値論から 主張される法益衡量説から正当化されうるか否かについての考察が必要であろう。ただし、後述のように、法益・利
第14巻2号一一 12 益衡量は、刑法三七条の緊急避難規定において法定されており、それとは別に超法規的違法匝却事由を肯定するため には、さらに異なる法理論が必要になると思われる。 いずれにせよ、本来は違法である秘密録音を正当化しうる場合があるとすれば、 ( 日 ) のかが精密に議論されるべきであろう。 それはいかなる法的根拠に基づく 八 ( 日 ) 秘密録音が正当化きれない場合、録音テ
l
プは違法収集証拠として証拠能力が否定されるかが問題になる。こ の点についても、捜査機関による秘密録音と私人による秘密録音とを区別して詳細に検討しなければならないが、こ れについては、本稿では断念せざるを得ない。 さらに、録音テl
ブは伝聞証拠か否かにつき、最高裁平成一二年決定の第一審判決は、﹁伝聞法則は、人聞の知覚・ 記憶・表現の過程に誤謬が入り込む危険性があるという点から証拠能力を制限するものであって、機械的に音声を記 録する録音テ 1 プは伝聞証拠に該当(しないこと述べている。たしかに、秘密録音された音声を声紋鑑定に使用する ような場合、録音テl
プは非供述証拠であるが、本件では、被害者の供述の信用性を判断するために録音テープの供 ( 刀 ) 述内容が問題となっており、供述証拠としての証拠能力の吟味が必要になるように忠われる。もっとも、第一審判決 の趣旨が、録音テl
プの供述内容の真偽を問題にしているのではなく、そのような電話での会話がたしかに存在した ことの確認にとどまるとすれば、本件録音テl
プを伝聞証拠に該当しないとしたことも、肯定できるであろう。 ドイツの議論状況││私人による秘密録音の正当化の可能性││ (一
、 、d 概 観 ドイツでは、私人によるものにせよ捜査機関を含む国家機関によるものにせよ秘密録音が非公然と話された言葉の内密性の侵害を規定するドイツ刑法二
O
一条の構成要件に該当することについて、争いはない。刑法二O
一 条 一 項一号によれば、非公然と話された他人の言葉を権限なく録音機に録音する者は、処罰される。ここには、会話の一 方当事者による当事者録音および一方当事者の同意による同意録音も合まれ、 その際、あらゆる種類の会話が保護領 域に入る。本条項で決定的なのは、会話者が知らないうちに録音が行われるということであり、 それを匝止すること が、まさにこの処罰規定の関心事なのである。 録音者が、録音を、特定の法益保護の目的、 たとえば、脅迫・恐喝者や侮辱者の身元確認ないし同一性確認に役立 たせるという目的、または、被録音者の将来の行為に対して、継続的な脅迫的電話や侮辱的電話を防止するという呂 的や予期される不法行為的訴訟行為を防御するという呂的で、秘密録音を行うという事例が考えられる。通説によれ ば、秘密録音は刑法二O
一条一項一号に該当し、 それは、脅迫や侮辱の言葉を録音する場合についても同様である。 このような事例における刑法二O
一条一項一号の構成要件該当行為について、判例および学説は、 正当化事由の適用 可能性を検討している。 非公然と話された言葉への侵害について 日本刑法には、ドイツ刑法二O
一条にあたる規定はない。しかし、非公 然と話された言葉の内密性を権限なく侵害した場合には、違法行為にあたり、したがって、違法性が血却され、違法 行為が正当化されうる場合があるか否か、もしありうるとすれば、 いかなる場合にいかなる事由に基づいてかという ことが問題となる。そこで、ドイツの議論状況を参考にしながら、私人による秘密録音の正当化の問題を検討してい きたい。また、刑事手続上の証拠能力の問題が検討されなければならないが、これについては別稿に譲る。 前述のように、捜査機関による秘密録音と私人による秘密録音は区別して論じられなければならない。 まず、捜査機関による秘密録音について、者α
E
は、次のように述べている。国家の行為は、そのために予定されて第14巻2号一一14 いる権限の範囲にとどまっていなければならず、処罰規定に違反する事例については、刑事訴訟法上の行為権限が実 体法上の正当化事由を示しうる、 ということが原則として妥当する。すなわち、通信傍受に関する刑訴法一
OO
条a
以下の範囲内で傍受・録音を行う警察官、または、基本法一O
粂に関する法律に基づく権限を行使することによって 傍受・録音を行う公務員は、 それによって実体的に処罰可能とはされえず、 したがって、録音を行うことが相応する ( 刊 日 ) 刑法二O
一条一項一号による可罰性は脱落する。 権限規定によって子続法上カバーされている限りにおいて、 国家機関もまた、国家の行為について、刑法総則の正当化事由を援用することができるという見解に対して、司包出 によれば、刑法の正当化事由は、国家に対する市民の (刑法上の)答責性のみに関連し、これらの規定の内容は、法 的根拠のない違法な国家の行為を正当化することではない。そうでなければ、国家機関はその行為のために特別の法 的根拠にもはや依拠するのではなく、すべての行為について刑法上の正当化事由に依拠しうる、ということになり、 また、刑法の正当化事由への依拠によっては、いかなる要件およびいかなる範囲で、優越する公的利益を理由として ( 印 ) 国家機関が個人の自由に侵入しうるのかが確定されていないことになる。したがって、刑法総則の正当化事由は、国 家による基本権侵害を正当化するためには不適切であり、国家機関は、 その活動のために予定されている正当化の根 ( 初 ) 拠のみを引き合いに出すことができるということが、固執されなければならないとされる。巧
α
呂は、公務員がその地位においてではなく、私人として行為する場合にのみ、異なることが妥当し、ここでは、 当然、刑法上の正当化事由に依拠しうるとする。国家の刑事訴追の利益に役立つという目的を追求する私的な録音も 正当化され、えない。国家の利益の維持については、刑訴法一OO
条a
以下および基本法一O
条に関する法律の ま た 、 諸規定によって、特別の子続が留保されており、ここでは、私的な介入を許容しないとする根本的な秩序原理が妥当 ( 幻 ) するからである。このように、当
α
呂は、国家機関には、刑事訴訟法および基本法一O
条に関する法律に従つてのみ権限が付与され、 国家機関の行為には刑法上の一般的な正当化事由は適用されないとし、また、刑事訴追目的の私人による秘密録音に は、刑事訴訟法および基本法一O
条に関する法律は適用されず、特別の法規定がない限り介入は許されないとしてい る ま た 、 同E
B
R
は、﹁一般的な法益・利益衡量﹂は、国家機関による刑事訴訟目的のための刑法二O
一条の実現を正 当化することはできないとし、 正当な刑事司法の利益であろうと、立法者がこのことをとくに予定していない場合に ( 幻 ) は、構成要件該当行為を正当化することはできないとする。 以上のように、ドイツの通説によれば、捜査機関による秘密録音については、刑法総則の正当化事由(正当防 衛・正当化的緊急避難) は適用されない。すなわち、捜査機関による秘密録音については、 刑事訴訟法上、特別な規 定がなければ許容されないのである。わが国においても、捜査機関による秘密録音は強制処分と解されるべきであり、 強制処分法定主義に服するとすれば、特別の規定がなければ許容されないということになる。正当防衛的状況ないし 現行犯的状況において、捜査機関による秘密録音を令状主義の例外として許容する見解があるが、刑法総則の正当化 15一一私人による秘密録音 事由は捜査機関には適用されないと考えられ、また、現行犯的状況という根拠に基づく秘密録音も許されない。個人 に対する人権侵害を含む規定は厳格に解釈されなければならず、 現行犯の場合、刑事訴訟法上、逮捕についてのみ規 定 が 存 在 し 、 それ以外の方法での人権侵害は、規定がない以上、許されないと考えるべきだからである。むしろ、こ のような要急処分(正当防衛的状況ないし現行犯的状況)に限って、立法し、裁判官による事後的認可を要する旨の 規定を置くことによって対処する方が、適切であるように思われる。第14巻 2号一一 16 (
一
、 、J 同 意 一方当事者による録音は、相手方当事者の同意がある場合には適法となる。ドイツにおいては、刑法二O
一 条 に ﹁ 権 限なく﹂という文言があるので、同意は、構成要件該当性を排除するとする学説もあるが、通説は、違法性阻却事由 と 解 し て い る 。 とくに推定的同意について、厳密な議論が必要になろう。ドイツの学説では、刑法二O
一 ( お ) 条一項一号について推定的同意による正当化をまったく認めないか、または、通説によれば、適用事例を限定してい 同意の問題においては、 る。適用範囲を広く認める説からは、たとえば、公的機関の電話による会話や会社の注文部の電話による会話などが ( μ ) 含まれる。関E
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によれば、公的機関もしくは商売上の電話すべてにおいて想定されるとはいえないが、会社の注文 ( お ) 部の電話においては推定的同意が想定されるとする。 推定的同意が承認される事例としては、警察、消防への緊急電話が挙げられる。他方、注文販売(現在ではとくに 通信販売)は一般化しているものの、注文電話が録音されることは一般人の認識とはいえず、根本的には、注文を受 ける側が録音する旨のメッセージを入れることは容易であり、黙示的同意であるにせよ、困難なく現実的同意を得る ことが十分可能である。この場合には、緊急電話のように、電話を受ける側が録音する旨のメッセージを実際に入れ ( お ) ることができないような緊急性はまったく存在しないのである。 ( ) 正当防衛(ドイツ刑法三二条) 秘密録音が正当防衛の法理によって正当化されうるか否かについて、次のような問題が検討されなければなら ない。まず、ドイツの通説によれば、このために要求される﹁侵害の現在性﹂に対する疑念が提示されている。また、これに関連して、録音行為を﹁防衛行為﹂と解しうるかについて、テープ録音の後に行われる国家の処分が防御方法 であって、録音自体が防衛行為であるとはいえないとする異議も提示されている。したがって、刑法コ一二条による正 当化を認めるためには、﹁侵害の現在性﹂に関する問題、ならびに、﹁防衛行為﹂に関する問題を解決しなければなら な い の で あ る 。 ﹁侵害の現在性﹂について、ドイツの通説は、緊急避難における﹁危険の現在性﹂に比して厳格に解釈してお り、﹁侵害の現在性﹂の判断にとって基準となるのは、効果的な法益保護の要請であるとしている。正当防衛は、侵害 が﹁直接に差し迫った﹂ときに可能となるとされるが、﹁直接に差し迫った﹂とはいかなる意味かについて、﹁未遂説﹂ と﹁効果的な防衛説﹂とが対立している。前者は、侵害の現在性は、未遂段階に至ったときに認められるとし、他方、 後者は、後になるともはや防衛されえないかまたは困難な条件のもとでのみ防衛されうる場合には、侵害は﹁現在﹂ したがって、これによれば、 ( 幻 ) まり未遂段階に達していない場合にも、﹁侵害の現在性﹂が認められることがある。 であるとする。ドイツの多数説は、後者の立場を支持しており、 いまだ予備段階にとど 当 α 呂によれば、たとえば、口頭による脅迫・侮辱のように、すでに終了した違法行為においては、防御されうるよ う な 、 それに引き続き生ずる侵害はもはや存在せず、ここでは、 正当防衛行為の必要性はもはや存在しないのである。 し か し 、 口頭による意思表示によっては終了しなかった犯行においては、状況は異なる。そこでは、侵害は引き続き したがって﹁現在﹂である。たとえば、恐喝において、 存 在 し 、 強要された行為ないし財産的損害はまだ生じていな い の で 、 犯行は、脅迫の意思表示のみでは終了しない。ここでは、開時の行為を要するような、圧迫されている状況 ( お ) したがって、侵害は続いており、なお﹁現在﹂なのある。 が 存 在 し 、 さらに、すでに侵害は終了したが、 その繰り返しが予想される場合、事例によっては正当防衛の法理による正当化
第14巻2号一一 18 が考慮されている。この点に関して、同日目。円は、繰り返される脅迫電話における防衛されるべき危険の現在性は、た 正当防衛事例で要求されるほどには直接的ではないが、この状況で重要なのは、さらなる電話の可能性によ ( 鈎 ) って絶え間なく受信者にもたらされる精神的負担の防衛であるとする。したがって、テープ録音によって可能となる しか に 、 匿名の架電者の身元判明が、その後の電話という法益威嚇の排除に役立つという理由で、録音は正当防衛として権限 ( 初 ) づけられているとする。 しかし、通説によれば、ありうる将来の侵害もまた、侵害の現在性が欠知していることの代わりにはなりえず、し たがって、繰り返しの危険がある脅迫・侮辱の事例において、秘密録音は、刑法三二条の正当防衛の法理によっては 許容されえない。同様の考慮は、前述のような、離婚訴訟において夫が法廷で虚偽の供述をする旨の電話を妻にかけ てきた際に妻がその電話を録音する場合のように、録音者が、将来の不法行為的訴訟行為に対する用心のために秘密 { 紅 ) 録音を行う事例にも妥当する。すなわち、予防的正当防衛は正当防衛の法理によっては許容されないのである。 次に、そもそも録音行為を侵害に対する﹁防衛行為﹂と解しうるかについて、単なる秘密録音によっては、侵 害は決して防衛されえず、防衛は、後になってはじめて、すなわち、録音テ
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プのさらなる使用によって生じうるの で、秘密録音はそれ自体では﹁防衛行為﹂を意味するものではない、 という異議がすでに示されてきた。この考察方 法に対しては、録音による正当防衛の準備と、 その使用による防御との聞に、すでに録音自体が防衛行為とみなされ なければならないような、密接な分離しえない関連が存在する事例がある、 という見解が対置している。もっとも、当
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は、前述のように、正当防衛は、脅迫や侮辱という意思表示では終了しなかった犯行の場合にのみ許容されるこ ( 犯 } とが明確にされたので、結果的にこの論点は未確定にされうるとしている。 四 当α
呂によれば、したがって、継続犯の場合にのみ、秘密録音は正当防衛によって正当化されうる。侵害がなお現在である限り、秘密録音およびその後の国家による措置が許容される基準は、被害者の効果的な防御であるか否か ( お ) である。誘拐事件など継続犯の事例においては、犯行は多くの部分で構成されているので、防御もまた多くの行為か ら生じうる。すなわち、継続的な侵害を減少させるのに適切である限り、秘密録音もまた、防衛措置として必要であ ( 災 ) り、正当防衛による正当化は可能である。
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ロも、同様に次のように述べている。恐喝者の脅迫電話は、受信者の意思決定に対する﹁現在の侵室己 を示しており、被害者の自由な意思決定への侵害は、行為者が財物獲得を実現するまで、あるいは、 たいていはそれ を越えて続くので、この侵害は、電話によってはまだ終了しておらず、録音は、継続的な侵害の防衛に役立つもので ある。誘拐事例においては、 テープ録音が誘拐被害者の防衛のために必要である場合、刑法三二条による正当化が顧 慮される。それに対して、侵害が録音の時点でさしあたり終了したか、侵害がようやく差し迫っている場合は、正当 防衛の援用は考慮されない。たとえば、電話で侮辱された者が、侮辱者の声を、 その者の身元確認または処罰をもた らすために録音する場合、録音は、 正当防衛によっては正当化されえない。会話の録音は適切でもないし、侵害を防 の 衛 要 す 件 る を た 充 め 足 に し石雀 て 実 い で な も い な しミ と詰。
0 _さ ら 録 音 後 の 再 生 は その時点では現在の侵害は存在していないために、正当防衛 五 ここで確認されることは、正当防衛の法理によって正当化されるためには﹁侵害の現在性﹂が要求され、録音 が﹁防衛行為﹂でなければならないことである。私見によっても、ドイツの多数説と同様に、継続犯についてはそれ が 認 め ら れ 、 たとえば、恐喝事件の脅迫電話や誘拐事件の脅迫電話の録音は、継続的な侵害に対する防衛行為として 正 当 化 さ れ 、 それに対して、すでに侵害が終了しており、同一性確認(身元確認) のための録音や証拠獲得目的の録 音は、正当防衛の法理によっては正当化されない。また、﹁侵害の現在性﹂の要件が充たされる事例であっても、録音第14巻2号一一 20 行為自体が﹁防衛行為﹂といえるか否かが問題となる。さらに、繰り返しの脅迫・侮辱電話の秘密録音のように、﹁現 在の侵害﹂とはいえず、 正当防衛の法理によっては正当化されない場合に、別の法理によって正当化されうるか否か について、検討を要する。 ( 四 ) ﹁正当防衛類似の状況﹂理論 ドイツ刑法三二条による正当化が﹁侵害の現在性﹂の点で破綻する事例については、﹁正当防衛類似の状況﹂理 論に基づく正当化が考慮に入れられる。ここで検討されるのは、たとえば、脅迫的言辞ないし侮辱的言辞の繰り返し の危険がある場合の秘密録音は、右に述べたように正当防衛によっては正当化されないが、これを﹁正当防衛類似の ( お ) 状況﹂理論に基づいて正当化しうるかという問題である。 ﹁正当防衛類似の状況﹂理論は、法律上規定されているのではなく、判例・学説によって展開され、その要件が具 体化されたものである。それによれば、まだ現在でない侵害においても、将来の違法な侵害の危険が存在する場合に は、正当防衛規定の類推適用で正当防衛が許容されることになる。その要件は、次のとおりである。まず、潜在的侵 害者の侵害が、具体的に予告されなければならないとされる。また、予防的行為者は、即時の行為強制の下になけれ ば な ら な い 。 す な わ ち 、 即時に行為し、それによって将来の侵害に対抗するか、または、侵害を後にはもはや効果的 には防御しえないか、後には本質的により強い方法でしか防衛しえないかのいずれかの選択肢の前に立たなければな らない。さらに、適切な時期に他人の救助が得られではならないし、 正当な利益の犠牲なしに侵害が回避されうると いうのであってはならない。最後に、防衛の程度は、侵害の危険の程度および予期される侵害の重大性に均衡してい ( 初 出 ) な け れ ば な ら な い 。
通説は、第一に、﹁正当防衛類似の状況﹂という正当化事由を承認することは、予防的正当防衛を許容すること に な り 、 それによって、結果的には、次に述べる正当化的緊急避難との相違が唆昧にされることになる、第二に、付 加 さ れ た 要 件 、 とりわけここで要求される利益衡量は、まさに正当化的緊急避難に固有の要件であって、正当防衛の 要 件 で は な い 、 という理由によって、この理論に反対する。こうした疑念に基づいて、通説は、繰り返しの侮辱的言 辞・脅迫的言辞の事例ないし将来の不法行為的訴訟行為の事例については、法律上規定された正当化事由である正当 ( 犯 ) 化的緊急避難による解決が試みられるべきであるとする。 正当防衛規定においては 一方において、緊急避難におけるような厳密な利益衡量は必要ではないが、他方におい て、﹁侵害の現在性﹂は厳格に解釈されなければならないのであり、そのような要件を緩和することは妥当ではない。 私見によっても、﹁正当防衛類似の状況﹂理論は承認されえず、したがって、侵害は終了したが脅迫ないし侮辱が繰り 返される危険(継続的危険) が認められる場合に秘密録音を行うことは、この理論によっては許容されえないと考え る ( 五 ) 正当化的緊急避難(ドイツ刑法三四条 ドイツ刑法三四条は、﹁危険の現在性﹂を要件とする。正当防衛と異なり、法益侵害が直接に差し迫っているこ 一定の時間の経過後になってはじめて侵害が発生することが予期され、他方、 その発生が聞時の と は 要 求 さ れ な い 。 行為によってのみ、回避されうるということが確かであることで十分なのである。刑法三四条による正当化にとって 開時の行為の不可欠性である。したがって、 通説によれば、緊急避難には、 正当防衛状況の以前にある 重 要 な の は 、 状況も含まれる。すなわち、﹁現在の危険﹂概念は、正当防衛における﹁現在の侵害﹂よりも緩やかに解釈され、すで
第14巻2号一一22 { 却 } いつでも損害に転化しうる継続的危険もまた、﹁現在の危険﹂でなのである。 に 存 在 す る が 、 私人による秘密録音について、通説は、次のように理解している。録音の時点で侵害がさしあたり終了したか、侵 害がようやく差し迫っている場合は、 正当防衛は援用しえない。たとえば、繰り返しの侮辱電話について、侮辱者の 同一性確認のため、あるいは、彼の処罰をもたらすために録音することは、 正当防衛によっては正当化されえない。 しかし、侮辱者による電話の繰り返しによる﹁継続的危険﹂があり、その危険は、それが常に損害に転化されえ、ま た、即時の行為を要するので、刑法三四条における﹁現在﹂のものとみなされうる。録音は、そのような継続的危険 ( 却 ) に対抗しうる効果のある適切な方法と考えられる。 当
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呂は、予告される違法な行為、とくに、予期される不法行為的訴訟行為に対する防御の事例についても同様に解 されるとし、以下のように述べている。虚偽の供述に基づく内容的に虚偽の判決を回避することが問題になる場合に は 、 予 防 的 録 音 は 、 その録音が差し迫った不法行為に対して行われ、要求される主観的正当化要素が存在する限りで、 録音は刑法三四条によって正当化されうる。その際、危険回避のための防御手段の適切性については、行為の事前判 ということのみが重要となる。ただし、すでに ( 姐 ) 終了した違法行為に関する録音は、刑法三四条によっても、正当化されえない。 断により効果的な危険回避の蓋然性が秘密録音によって存在しうる、 これに関連して、民事上の証明の目的で秘密録音を行うという事例について、ドイツでは、証明目的で行われ る違法行為につき、﹁証明の困難性﹂と﹁証拠の窮迫状態(証拠の損失のおそれことを区別して論じており、後述の ように、判例・通説は、後者の場合には自救行為として正当化されることがあるとしている。その一方で、証明目的 での秘密録音が正当化的緊急避難の法理によって正当化される事例があるか否かが検討されている。 前述のように、正当化的緊急避難においては、即時の行為の不可欠性が要件とされる。口頭による約束 1 1 1 契約における重大な内容でさえ 1 1 を証明目的のために秘密裡に録音することは、正当化されえない。なぜなら、録音者は、 その約束を書面によって確実にすることによって、または、相手方に対して録音に同意するように求めることによっ ( 位 ) て、証明の利益を他の方法で十分に保護することが可能であったからである。 同州民片山口岳は、証拠の窮迫状態の事例については、行為者がたいていは民事法上の事情を証明したいか、あるいは、 不利益を受けないために証拠を獲得しなければならないということが問題となるとし、以下のように述べている。す なわち、具体的に、行為者は 一つは、相手方と行った会話を録音すること 一つは、傍受機によって、後に彼のた めに証言する証人に傍受させること、 という二種類の方法を採ることがありうる。テープ録音の事例について、 そ (J) 使用に反対する者は、裁判所が、秘密裡になされた、すなわち、人格権の侵害によって獲得されたテ
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プ録音を訴訟 において証拠方法として許容するならば、まさしくそのような犯罪を促進するという危険を冒すことになるとし、賛 問者は、相手方および証人のl
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意識的・無意識的な││真実に反する陳述すべてを論駁することができるテl
プを 証拠方法から排除するならば、事実として不当な判決を甘受しなければならなくなり、同時に、訴訟上の虚偽に対抗 ( 必 ) するために効果的な方法を遠ざけることになるとしている。 23 こ の よ う な 考 慮 に 基 づ き 、 町 内 山 門 片 山 口o w
は、正当化的緊急避難の要件である利益衡量について、次のように詳細に 検 討 し て い る 。 証明の利益における秘密録音について、優越的利益(法律上規定されていない正当化事由)による正当化に賛同す る者は、主張される私的利益が話される言葉についての決定権に関する会話者の利益よりも十分な程度に優越するか 否かという問題に直面することになるが、法律上規定されていない正当化事由を用いるのではなく、刑法三四条にお ける正当化的緊急避難の法理による正当化に賛同する者も、同様の本質的な問題に直面しなければならない。証拠の第14巻 2号一一 24 窮迫状態を刑法三四条によって解決する多数説によれば、利益衡量の基準は、証明する者の危殆化される利益が会話 ( H H } 者の侵害される利益よりも本質的に優越していなければならないということである。 たとえば、予告される不法行為的訴訟行為の事例において、証明する者の利益の優越を本質的なものとするならば、 私的な証明の利益から、常に、相子方の話された言葉に対する決定権を侵害することができることになり、このこと は、話された言葉の権利の削減を意味する。したがって、基準としては、会話者の決定権への侵害を正当化するため に私的な証明利益では原則として十分ではないとする判例に賛同すべきである。不法行為的訴訟行為の可能性におい て継続的危険の存在が認められれば 一定の死活にかかわる事例でのみ、優越的利益による正当化が認められるが、 そのような事例に限定しておかなければ、事実上、すべての場合について、証拠の窮迫状態によって正当化されるこ ( 日 制 ) とになってしまうだろう。 したがって、証拠の窮迫状態における優越するあるいは権限付けられた利益に基づく原則的な正当化は、結果的に は納得されえない。利益衡量は、もっぱら法律上規定された三四条による緊急避難の領域でなされうるのであって、 三四条の要件の充足なしになされる利益衡量は、賛同されえない。すなわち、 一般的な利益・法益衡量による正当化 に対する根本的な批判が妥当する。優越的利益に基づく正当化における最低基準としては、緊急避難状況の要件が存 在しなければならないのである。また、刑法三四条の要件を充足する場合以外では、証明の利益は、将来の証拠の窮 迫状態に関しても、正当化に導きえない。証拠の窮迫状態は、証明義務者の怠慢で、ありうる将来の証明困難性を適 ( 必 ) した時期に許容される措置によって対処しなかったことによってもたらされた場合には、承認されない。 以上のように、問主宮ロ
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は、証拠の窮迫状態について、緊急避難的状況が認められる場合にのみ、利益衡量がなさ れ、三四条の要件のない一般的な利益・法益衡量は妥当ではないとする。四 ドイツの緊急避難規定における﹁現在の危険﹂概念は、正当防衛規定における﹁現在の侵害﹂概念よりも広く、 わが国の通説によれば、緊急避難規定における﹁現在の危難﹂が、正当防衛規定における﹁急迫の侵害﹂と同様の意 昧に解釈されていることとは異なる。しかし、最近では、 わが国でも、危険源自体に対して避難行為が行われる場合 を﹁防御的緊急避難﹂として、侵害を無関係な第三者に転嫁する場合である﹁攻撃的緊急避難﹂と区別したうえで、 前者については、緩やかな﹁害の均衡﹂の基準により違法性阻却を肯定する ( U ) よりも大きいときにも違法性阻却を肯定する)見解が主張されている。 ( 生 じ さ せ た 侵 害 の 方 が 、 回避した侵害 私 見 で は 、 正当防衛における﹁侵害の急迫性﹂を欠き、 正当防衛が許されないときに、 より広い概念として理解さ れる﹁危険の現在性﹂がある場合、 ( 川 町 ) が妥当であると考える。 たとえば、繰り返しの侮辱・脅迫電話については、緊急避難を認めるとする解決 前 述 の よ う に 、 わが国において、秘密録音の適法性について利益衡量説の立場に立つ裁判例・学説が存在するが、 こ れ に 対 し て は 、 関 山 門
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が述べるように、さらに詳細な検討が必要であろう。利益衡量は、まさに緊急避難の要件 の一つであり、緊急避難状況である現在の危難が存在する事例について、利益衡量が要求されているのである。した がって、緊急避難状況ではない事例において、利益衡量によって正当化するためには、実質的違法性論から超法規的 違法性阻却事由を認めるとしても、さらに別の法理論が必要であろう。 ( 六 ) 自救行為 前 述 の よ う に 、 わ が 国 に お い て 、 現行犯的状況を根拠として秘密録音をすることを許容する見解がある。しか し、現行犯的状況については現行刑事訴訟法上、逮捕の規定のみが存在し、 それ以外の行為を捜査機関にも私人にも第14巻2号一一26 現行犯的状況の中には、 正当防衛的状況ないし緊急避難的状況にあたるもの 許容する規定は存在しない。たしかに、 もあるが、そのためには、﹁侵害の急追性﹂ないし﹁危難の現在性﹂が要求される。すでに侵害が終了した場合には、 ( 必 ) ﹁侵害の急迫性﹂が失われ、その際には正当防衛は許されず、また、﹁危難の現在性﹂がなければ、緊急避難も許され ないが、他方で、自救行為として許容される場合がありうる。わが国では、自救行為は、刑法三五条の正当行為ない し超法規的違法阻却事由として、違法性阻却事由の一つと考、えられており、 その要件として、公的機関による保護・ 救済を受ける暇がなく、 それを待っていれば権利の実現・回復が著しく困難になるという緊急性が要求され、 ( 印 ) 衛よりも行為の必要性・相当性が厳格に解され、さらに、利益が損害に優越することが要求されている。 正当防 侵害が終了し、﹁侵害の急迫性﹂ないし﹁危難の現在性﹂が欠ける場合、すなわち、 たとえば電話による脅迫・侮辱 につき、脅迫的言辞・侮辱的言辞は終わったが、 さらに続いているその音声を録音する場合、あるいは、再びかかっ てきた電話の会話の際にまだ脅迫的言辞・侮辱的言辞がなくともすでに録音を開始するような場合、証拠獲得のため ないし同一性確認のための私人による秘密録音が、自救行為の法理によって許容されうるかについて、検討しておく べきであると思われる。侵害の急迫性が存在している場合に、 正当防衛の法理による正当化につき、録音後に行われ る一定の措置によってはじめて防衛が可能なのであって、録音自体が防衛行為とはい、えない、 という異議がありうる が、この場合に白救行為として許容されうるかが検討されるべきである。 ドイツ刑法においては、刑法総則における正当化事由として、 正当防衛と正当化的緊急避難のみが規定されて おり、自救行為については民法上明文で規定されている。ドイツでは、民事手続上の証拠獲得のための秘密録音が自 救行為との関係で議論されており、 そこでは、証明の困難性がある事例および証拠の窮迫状態の事例が問題となって い 9 0 0
切の国の刑事法の諸判決との関連で、通説は、﹁証明の困難のおそれは、権利の実現を挫折させるという危険を根拠 づけるものではない。証明の困難性を回避するために白救行為を行う者は、法的手段では獲得しえなかったであろう 利益を手に入れることになる﹂と説明し、証明の困難性を回避するためになされる行為は、自救行為として許容され ( 日 ) ることはないとしている。 同町田与もまた、次のように述べている。すなわち、自救行為は、即時の侵害がなくとも、民法上の請求権の実現が 挫折させられうるかまたは本質的に困難にされうる場合であって、公的な救助が適切な時期に得られないというおそ れがある場合には、許容される。請求権の訴訟上の遂行に困難のおそれがあること ( 証 明 の 困 難 性 ) では十分ではな それを回避するための自救行為は許容され、請求権 ( 臼 ) 者が第三者にその遂行を委任する場合、第三者もまた正当化される、と。 いが、証拠方法損失のおそれ(証拠の窮迫状態) が あ る 場 合 に 、 以上のように、ドイツの判例および通説によれば、私人による証拠収集は、証明の困難性があるというだけで は許容されず、証拠の窮迫状態がある場合にのみ自救行為として許容される。私人による秘密録音に関しては、脅迫 者ないし侮辱者の身一元確認(同一性確認) の目的ないし証拠獲得の目的で秘密録音を行う場合に、これに該当する事 27 例があると考えられ、わが国においても、同様に解してよいと思われる。また、 刑事手続上の証拠獲得は、自救行為 の性質上、原則として、警察への通報・告訴が可能である限り、私人が行うことは許されないと思われる。刑事手続 上の証拠獲得のための秘密録音(たとえば、警察に提出する目的での録音)については、行為者の権利実現のための 自救行為の要件が備わっている限りにおいて、自救行為として許容される可能性があると考える。 侮田守・脅迫電話の事例につき、すでに侮辱・脅迫的言辞が終了したが音声はなお続いていた場合、ならびに、再ぴ 電話があったが侮辱・脅迫的言辞がまだなされていない場合、自救行為として録音が許されることがありうる。また、
第14巻2号一一28 侵害の現在性が存在する場合であっても、録音自体は防衛行為といえないとする立場をとるならば、この場合にも自 救行為が認められる可能性はあろう。何度も電話による侮辱的言辞ないし脅迫的言辞が繰り返され、継続的危険が認 められる場合、前述のように、緊急避難の法理による正当化が肯定されうるが、 その言辞そのものはそれぞれ一過性 の も の で あ り 、 そのときどきの証拠はまさにその時点でしか収集できないとすれば、証拠の窮迫状態を理由とする白 救行為として秘密録音が許容される余地はあろう。 ( 七 ) ドイツ刑事訴訟法二一七条の類推 ドイツにおいて、 犯罪がすでに終了した場合、秘密録音が刑事訴訟法一二七条の類推によって正当化されうる か否かが考慮されている。 この点について当
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呂は、次のような根拠を挙げて、疑念を呈示している。すなわち、刑事訴訟法一二七条は、特 別な事例状況に関するものであって、すでにそのことから、この正当化事由を一般化することに対しての疑念が存在 し、むしろ、立法者は規定された正当化事由が適用される諸事例以外の事例においては正当化を認めなかった、とい うことを前提にしなければならない。そしてこのことは、刑法三二条が明示的に﹁侵害の現在性﹂を要件としており、 刑法コ一四条が、緊急避難行為を終了した事象ではなく将来の事象へと向ける﹁危険の現在性﹂を要件としていること か ら 、 明らかになる。これによって、許容される正当化の可能性の領域は、自覚的に限定され、 その他の正当化の可 能性は、禁止されるのである。したがって、刑事訴訟法一二七条の類推による正当化は、体系に合致していないよう ( 日 ) に思われる、と。 すでに侵害が終了したが、 刑事子続上の証拠獲得のために秘密録音が可能か否かにつき、前述のように、わが国において、侵害が終了したとしても現行犯的状況の場合には秘密録音が許されるとする主張がある。しかし、捜査 機関によるものであれ、私人によるものであれ、 現行犯に対しては、わが国においても逮捕以外の規定はなく、それ 以外の権利侵害を許容する規定はないのであり、 秘密録音は現行犯法理によって許容されるべきではない。侵害が終 了した場合については、 むしろ、前述のように、民事上の権利実現のための白救行為として許容される場合がありう るかについて考察すべきであろう。 ( 八 ) 正当な利益の擁護 刑事手続上の証拠獲得のための秘密録音については、ドイツでは、刑法一八五条以下(侮辱・名誉段損罪)に ついてのみ法律上規定された、﹁正当な利益の擁護﹂(刑法一九三条)を援用するという観点も検討されている。 この正当化事由を拡大適用し、種々の要求が対立する場合において、法益の侵害が甘受されなければならない場合 には常に正当化を認めるとする見解に対し、者三巴は、次のような理由を挙げて批判する。すなわち、正当な利益の擁 護を拡大して援用することは、 承認される正当化事由の限界を暖昧にする。そこでは保護法益が明示されておらず、 刑法一八五条以下の範囲は、基本法五条の保障との衡量からのみ明らかになるように、 その範囲が対立する利益の衡 そ の 結 果 、 正当な利益の擁護は承認されるのである。このように、 正当な利益の擁護は、 量からのみ明らかになり、 ﹁価値の衝突﹂によって示され、 したがってその範囲が、具体的な個別事例における利益衡量によってはじめて確定 されなければならないような法益の場合にのみ、問題になる。しかし、 刑法二
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一 条 は 、 いかなる行為態様が刑法上 非難されるのかを、 明示的に規定しており、 したがって、右のような考察方法は否定されるべきである。制裁される 行為は、構成要件から直接引き出されなければならず、個別事例の評価に基づいてはじめて認められるべきではない。第14巻2号一一30 刑 法 二