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hp140048 「京」産業利用(実証利用) K Industrial Use
空力騒音を考慮に入れた高速車両の突起形状の多目的設計探査
Multi Objective Design Exploration of the Shape of High Speed Rail Coaches
for Lowering Aeroacoustic Noise
菅沢正浩(1), 野々村拓(2, 3), 大山聖(2), 藤井孝藏(2, 4)
Masahiro Sugesawa(1), Taku Nonomura(2, 3), Akira Oyama(2) and Kozo Fujii(2, 4)
東海旅客鉄道株式会社(1), 宇宙航空研究開発機構(2),
Central Japan Railway Company(1), Japan Aerospace Exploration Agency(2),
要旨 大規模計算機資源を用いた多目的設計探査の実証計算として、高速鉄道車両の一種である超電 導リニアの側面形状の工夫により、空力騒音と車両空気抵抗を低減することを目的としたパラメ トリックスタディを行った。約 1500 ケースの設計についてパラメトリックスタディを実施し、 空力騒音最小化要求および車両空力抵抗の最小化要求の間にはトレードオフがあることなど、超 電導リニアの車両形状設計に向けた重要な知見が得られた。このことから、高速輸送機器の空力 設計/空力音響設計に対する京コンピュータ等の大規模計算機資源を用いた多目的設計探査の有 効性が示された。 キーワード:空力騒音、空気抵抗、高速鉄道、数値流体力学、多目的設計探査 Abstract
Parametric study of the side shape of a maglev train is conducted to reduce aerodynamic noise and drag. In the parametric study, about 1500 different shapes are evaluated.The parametric study derived some important knowledges such as trade-off between minimization of aerodynamic noise and minimization of aerodynamic drag. From this result, effectiveness of the large-scale parametric study using high performance computing system such as K computer for aerodynamic and aeroacoustic design of high-speed transportation is shown.
Keywords: aeroacoustic noise, aerodynamic drag, high speed railway, computational fluid dynamics, and multi-objective design exploration
現所属:東北大学(3), 東京理科大学(4)
Present Affiliation : Tohoku University(3), Tokyo University of Science(4)
© 2019 Research Organization for Information Science and Technology All rights reserved. Received: 30 October 2018
Accepted: 21 October 2019 Available online: 30 October 2019
96 1. 研究の背景と目的 超電導リニアは、車両に搭載した超電導磁石と地上に設置したコイルの間に働く磁力によって 浮上・推進し、500km/h 以上での走行も可能な次世代高速鉄道である。現在は 2027 年の開業を目 指し、総延長 42.8km の山梨リニア実験線での走行試験が行われている(図 1)。 超電導リニアの実現にあたっては、運用コストを抑えるために車両空気抵抗の低減が重要な課 題の 1 つである。また、空力騒音は車両速度のほぼ 6 乗に比例すること、超電導リニアは定常走 行時に車輪やパンタグラフなどの物理的接触がないことから、主な騒音は空力騒音になる。その ため、車両形状の空力設計最適化により空力騒音および空気抵抗を最小化することが乗客の快適 性や運行コスト削減の観点から重要である。しかしながら、空力音響性能評価には large eddy simulation (LES)を用いた数値流体シミュレーションが必要であり、その計算コストが非常に高い ことから空力騒音削減のための指針の理解が十分とは言えなかった。そのため、本研究では超電 導リニアの中間車両側面にある突起形状が空力騒音および空気抵抗に与える影響を評価するこ とを目的とし、京コンピュータを用いて大規模パラメトリックスタディを実施した。 図 1 超電導リニア 2. 計算モデル 本計算では、明かり区間(トンネル内ではない周囲が開けた空間)での車両の走行を考える。 走行速度は 500 km/h とする。このとき一様流マッハ数は約 0.4 であり、基準長さを 5 m としたレ イノルズ数は 4.7×107となる。 パラメトリックスタディを行う設計変数は中間車両側面にある突起形状を定義する 9 つの特徴 点の座標である.突起形状は多面体として定義され、これらのパラメータ値に基づいて自動生成
97 される。パラメトリックスタディにおいては、形状はランダムに作成し、約 1500 の形状につい て LES による空力騒音および空気抵抗を評価する。 性能評価指標は車両下部のある領域(領域 A とする)での壁面上音圧レベル、車両上部のある 領域(領域 B とする)での壁面上音圧レベル、および、車両の空気抵抗の 3 つであり、すべて最 小化することを目的とする。1 つめおよび 2 つめの目的関数である壁面上音圧レベルについては、 車両内騒音の支配的な周波数である 100 Hz から 300 Hz までのオーバーオール音圧レベルの面積 平均値とする。領域 A と領域 B の 2 つの領域の音圧レベルの最小化を目的としたのは,2 つの領 域の空力騒音発生メカニズムが異なるためである。 数値流体シミュレーションの計算対象は中間車両1両分とする。計算格子は境界適合座標系構 造格子とし、突起物近傍には重合格子を利用する。壁面近傍の最小格子幅は壁座標 y+が約 1 にな るように設定している。突起物から発生する渦を解像するために突起物まわりに約 550 万点の格 子を配置しており、総計算格子点数は約 1000 万点である。京の 24 ノードを使って MPI 並列計算 するため、主に車両の長手方向に 24 のゾーンに分割した。 数値流体シミュレーションには分散メモリアーキテクチャでの大規模並列計算用にチューニ ングされた LANS3D[1,2]を用いる。時間積分は内部反復 3 回の ADI-SGS 法、空間差分は 6 次精 度コンパクト差分を用いる。全体に陰的 LES として 10 次精度三重対角フィルタを用いる。はじ めに全車両に対するレイノルズ平均ナヴィエストークス計算を実施し、その結果を初期条件とし て 1 車両分の陰的 LES 計算を行う。ただし、車体壁面境界層のみ Boldwin-Lomax モデルでモデ ル化する.単独車両の計算で連続する車列を表現するために、陰的 LES 計算で得られた下流側の 擾乱成分を上流側に戻す境界条件を課している。 3. 並列計算の方法と効果(性能) 超電導リニアの車体表面での空力騒音と車両空気抵抗を評価するため、陰的 LES 計算を行う 必要がある。1 つの設計を評価するための陰的 LES 計算には京コンピュータの 24 ノードを用い て約 9 時間の計算時間、つまり、約 216 ノード時間積が必要である。これを約 1500 ケース実施 するため、30 万ノード時間積以上が必要になる。 パラメトリックスタディの実施にあたっては、3 つの異なるレベルでの並列化を行った。最も 高いレベルでの並列化は各設計の計算を並列に行う部分であり、バルクジョブを用いた。中レベ ルの並列化は各設計の数値流体計算における MPI 並列であり、計算格子を 24 の領域に分割して それぞれ異なるノードで計算した。各時間発展毎に隣接格子と重合部の値を交換して全体の計算 を統合した。低いレベルでの並列化はノード内での共有メモリ型並列化であり、これはコンパイ ラの-Kparallel オプションによって行った。 全体としての並列効率は約 80%であった。
98 4. 研究成果 図2はパラメトリックスタディを実施した約 1500 の設計の空力騒音および空気抵抗の分布を 散布図行列の形でプロットしたものである。散布図行列の右上三角領域にはそれぞれの性能指 標を横軸・縦軸にとった 3 つの散布図が表示されている。各プロット点は車両空気抵抗の値に 応じて色づけされており、赤から青に向かって車両空気抵抗が小さくなっている。また、3 つの 性能指標についてパレート最適解(非劣解)となっている設計については中塗りで表示してい る。四角でプロットしてあるのがベース形状の性能値である。左下三角領域にはそれぞれの性 能指標同士の相関係数が示されている。 散布図(A)を見ると、車両下部(領域 A)での音圧レベルを最小化する設計は車両上部(領域 B)での音圧レベルが高く、逆に、車両上部(領域 B)での音圧レベルを最小化する設計は車両 下部(領域 A)での音圧レベルが高い。このことから、この 2 つの設計目的の間にはトレード オフがあることがわかる。このことは、空力騒音を最小化する際にはどの領域の音圧レベルを 下げたいのかを明確にしておく必要があるということを示している。 散布図(B)をみると、車両下部(領域 A)での音圧レベルの最小化と車両空気抵抗の最小化 の間にはつよいトレードオフは見られず、基本的には両者の目的は両立することがわかる。ま た、散布図(C)をみると、車両上部(領域 B)での音圧レベルの最小化と車両空気抵抗の最小 化にもトレードオフがある。つまり、空気抵抗の最小化を重視して車両形状を設計する場合、 車両下部での音圧レベルはある程度抑えられるが、車両上部での音圧レベルが増加してしまう ということである。 車両上部での音圧レベルは車両側面にある突起形状から発生する強い渦がその発生源になっ ている。車両上部での音圧レベルを最小化する設計は突起形状を工夫することでその渦を早期 に崩壊させ車両上部に強い渦が到達することを防ぐことによって達成されている。一方、車両 上部に強い渦を発生させないための工夫は車両空気抵抗と車両下部の音響レベルを増加させて しまう。このことが目的関数間のトレードオフの原因である。 図 2 に四角で示しているベース形状は車両空気抵抗の最小化に重きを置いて設計されてお り、実際、車両空気抵抗が最小な設計の 1 つになっていることがわかる。そのため、ベース形 状は車両下部での音圧レベルは小さいが車両上部での音圧レベルが高い設計になっていること が見て取れる。散布図(C)からは、ベース形状から車両空気抵抗をほとんど増やさずに車両上 部での音圧レベルを下げられる可能性があることもわかる。
99 図 2 パラメトリックスタディを実施した設計の分布 5. まとめと今後の課題 超電導リニアの側面にある突起形状を工夫し車体表面空力騒音と車両空気抵抗を低減するこ とを目的として大規模パラメトリックスタディを行った。高速輸送機器の空力音響性能評価に必 要な高レイノルズ数条件での陰的 LES 計算は従来は 1 つの計算でも非常に長時間の計算時間が 必要であったため、設計の検討に必要な大規模パラメトリックスタディの実施は非現実的であっ た。本研究では、京コンピュータを用いて大規模な並列計算を実施することで、陰的 LES 計算を 用いた高速輸送機器の空力音響設計に関する大規模パラメトリックスタディが世界で初めて実 施された。 本パラメトリックスタディの結果から、設計指標間のトレードオフ情報が明らかになり、産業 界での高速輸送機器の空力設計/空力音響設計に京コンピュータなどの大規模計算機を用いたパ ラメトリックスタディが大変有効であることが示された。 一方で、車両空気抵抗の最小化に関してはベース形状よりも優れた設計が得られなかった。こ れはパラメトリックスタディの限界を示すものであり、より効率的な探査を可能にする多目的設 計最適化手法の活用が必要になると考えられる。
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参考文献
[1] K. Fujii, and S. Obayashi, High-resolution Upwind Scheme for Vortical-flow Simulations, Journal of Aircraft, Vol.26, No.12, pp.1123-1130 (1989).
[2] H. Aono, T. Nonomura, N. Iizuka, T. Ohsako, T. Inari, Y. Hashimoto, R. Takaki, and K. Fujii, Scalar tuning of a fluid solver using compact scheme for a supercomputer with a distributed memory architecture, CFD letters, Vol.5, No.4, pp.143-152 (2013).