水 素 エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム Vol.11. No.2. 1992 研 究 論 文
マグネシウムペレットによる水素発生と有機化合物、
無機イオンの還元に関する研究
神谷信行*1、鈴木正弘*2*
1横浜国立大学工学部 干240横浜市保土ヶ谷区常盤台156 *2スズキ科学研究所 〒436静岡県掛川市八坂432M
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Nobuyuki KAMIYA,
Masahiro SUZUKIA new method of hydrogen generation by magnesium pellets was proposed. Hydrogen was generated by putting magnesium pellets, composed of magnesium pa吋iclesand some catalyst, into salt water. The rate of hydrogen generation was very
fast and the quantitative amount of hydrogen was obtained in a short time period. This hydrogen evolution system was applied to in-situ reduction of organic compounds and inorganic spesies. Among them, ketones were quite easily reduced to alcoholes and the iron ion species were also reduced and almost perfectly removed out from the solution.
1
.
緒言
水素は日本ではほとんど10
0%
が石油の分解(改質、部分燃焼)によって製造され ており、コンビナートのパイプラインや、ボンベに充填されて輸送されているo しかし、 ボンベで輸送する場合、遠隔地で、それほどまとまった需要がない時などでは採算が取 れないことがある。また、少量の水素が必要な時にはボンベで輸送することは煩雑なこ とでもあるo マグネシウムは般化還元電位りから考えると水と反応して水棄を発生しでもよいよう に考えられるが、実際にはマグネシウム金属を純水あるいは食塩水に浸潰しでもほとん ど反応しない。マグネシウムは酸化されやすいため、表面を清浄にしてもすぐに酸化物 の皮膜で覆われ、そのために反応が起こりにくくなっていると考えられるo また、局部 電池機構で反応、が進行すると考えると、マグネシウムあるいはマグネシウム酸化物表面 は水素発生に対してあまりよい触媒能(低い水素過電圧)を持っていないとも考えられ るo-16-水 素 エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム Vol.17. No.2. 1992 研 究 論 文 小中高の実験室では、水素の発生装置としてキップの装置が使われており、ほとんど は亜鉛と硫酸の反応で水棄を得ているo車鉛の他にもマグネシウムを使う場合もあるが、 どちらも強酸を使うため、使用に際しては細心の注意が必要であるo ここではマグネシウムを中性食塩水に漫潰するだけで必要量の水棄を得る方法につい て研究した結果を報告する。この方法はマグネシウム粒にある種の触媒を付着させ間形 状にしたマグネシウムベレッ卜を食塩水に浸潰するもので短時間で定量的に水棄を得る ことができる。しかも溶液には危険な試薬を用いないため、誰でも容易に扱うことがで きるo このように、輸送、保存が容易なマグネシウムさえあればどこでも簡単に、必要 な量の水素が得られ、反応により生成する気体が水素だけであるため、他の気体の混入 がなく、きわめて高純度であるという特長を持っているo また水棄を発生させるだけで なく、有機化合物、無機イオンを共存させて、 in-situにそれらを還元することもできる ため、多方面への応用が期待される。
2
.
実験
マグネシウム試料としてはマグネシウムインゴット(純度99.9%) を削り、粒度30... 50メッシュのものを使った。触媒として、市販の鉄粉(還元鉄、純度97%Fe、300メッ シュ)、酸化鉄 (111)紛体 (Fe203) 、 酸 化 鉄 (11 )紛体 (FeO) をそのまま用いたo これらの触媒とマグネシウム粒を自動乳鉢に入れ一定時間かくはんした後、過剰の触媒 をふるいで取り除いて試料とした。触媒付着量は試料を塩酸に溶解した後オルトフェナ ントロリン法2)で定量した。マグネシウムベレットは触媒を付着したマグネシウム粒試 料を直径25mmの円筒状の型枠に入れ、一定荷量 (35ton)でプレスして作製した。3
.
結果及び考察
1.0 3.1 水素発生に対する触媒の 効果 図1
に鉄系触媒(触媒量は マグネシウムに文せして1'w
t > -%)を用いた時の1MNaCI水5
0
.
5
溶 液200mlにおけるマグネシ ウムベレット 19からの水素 発生の状況を示す。生成した 水素量は理論量で割った値を 示しているため、マグネシウ ムが完全に反応した場合は反 応率=1であり、それに対応 した水素が得られた。触媒が υ C¥I ω 出。
none 5MNaCl 25モ
Catalyst 1 wt%o
10 20 30 40 50 60 t /min 図1
.
触媒の種類と反応率の関係.水 素 エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム V口1.17. No.2. 1992 存在しないときにはマグネシウム はほとんど反応せず、短時間に水 棄を得るのは無理であるo一方、 マグネシウム表面に触媒を付着さ せた場合、激しい水素発生が見ら れたo特に、 Fe触媒の時、顕著で あり、 FeO、Fe203のj慣となった。 触媒を用いたとんな場合も、発生 ガスの水素純度は99%以上である が、反応器の構造、デッドスペー スにより異なる。 3.2 水素発生速度と触媒量の 関係 図
2
は触媒としてのFeの量と水 素発生の関保を示す。マグネシウ ムベレット19
を1MNaCI
水溶液 200mlに投入して水素発生霊を調 べたo触媒量を 0.9--3.5%の範閤 で変化させたところ、触媒量の増 加と共に水素発生速度は大きくな ったが、1%
あるいはそれ以上の 添加でほぼ実用上の水素発生が起 こることがわかった。 3.3 水素発生速度と食塩水濃 度の関係 食塩水湖度と水素発生の関係、を 図3
に示す。N
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濃度が濃く在る につれて反応は速くなり、 4MJ以上 では短時間でほとんど完全に反応 が終了した。 1Mの濃度では反応速 度は濃くなるが十分反応すること がわかった。また海水中の塩濃度、 すなわち 3%あるいは O.5Mでも水 素の発生がみられた。 〉、 ゐJ 〉 芯0.5 の tJ.) t 研 究 論 文 1.0 Fe 〉、 与J 〉 るJ U ~ 0.5 t 0.5 M NaCI 2S0C O O 10 20 t / min 30 図2. 触媒量と反応率の関係. 1.0 NaCl _ aq 25V C。
。
20 tI
min 10 30 図3
. N
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濃度と反応率の関係. 3.4 溶液のpHと水素発生反応の関係 反応液中 lこpH電極を挿入して、反応の進行に伴う pHの変化を調べた(図4)0 ここで o o-水 素 エ ネ ル ギ ← シ ス テ ム V 0 J . I 7 .間().2. I 9 9 2 研 究 論 文 n v い υ 、 生 j が よ 2 に
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5 10 15 t/min 図4
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マグネシウムに対するN
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液量とpH
変化の関係. 3.5 マグネシウムベレットによる有機化合物の還元 マグネシウムベレットによるケトン、フェノール、ピリジンの還元を試みた。水素ボ ンベから水棄を通じることができない場合には何らかの方法で水棄を供給しなければな らないが、キップの装置を使うのも煩雑な時には水素ベレットを投入するだけで反応が 起こす乙の方法はきわめて有効であるo マグネシウムベレットをN
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水溶液中で反応させた時のマグネシウムおよび発生水素 がどのように使われたかを表1に示す。 run1--5は密閉系で行ったもので、発生ガス量は 1気圧下、ガスピュレットで補集、測定したorun6は開放系であるため、発生して気体 となった水素はほとんどが反応しないで空気中へ拡散したと考えられるorun 1,2はアセ ト ン を 還 元 し て イ ソ プ ロ ピ ル ア ル コ ー ル を 作 る 反 応 (CH3COCH3+H2→ CH3CH(OH}CH3) で、 run2はマグネシウムベレットに含まれる触媒以外に他の触媒は 含まれていなし」それに対して、 run1は水素還元に有効と考えられているニッケル触媒(
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Wイ)を添加した系である。どちらの場合も反応時間20時間ではマグネ シウムベレットの 30%近くが未反応に終わっていて、有機化合物を加えない時のほぼ 100%の反応率からはかなり低下がみられる。これは有機化合物を加えることによって 溶液の噴導度やイオンの活蓋が低下し、マグネシウムが反応しにくくなるためと考えら れるoN
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触媒が無い時は発生水素ガスの 2/3が気相へ逃げてしまうが、ニッケル触媒を添 加することで皮応したマグネシウムの 70%が還元反応に使われたことになるorun3はシ クロヘキサノンの還元で、生成物としてシク口ヘキサノールが得られたo この場合はニ ッケル触媒存在下でも反応したマグネシウムの約半分しか還元に使われていない。水 素 エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム V 0 J白 17. tio.2. 1992 研 究 論 文 表1 マグネシウムベレットによる発生水素の行くえ(%). 温度:300 C、反応時間:run 1...5 ; 20 h、run6;48 h、 catはマグネシウムペレット以外の触媒添加を示す Niは:Raney Nickel(W-1)
,
run6 ;開放系. runs 2 3 4 5 ち reactants (CH312CO任
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OH @ N任
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cat Ni none Ni Ni Ni Ni H2 gas 19.7 43.6 21.9 33.5①
OHI i-PrOH①
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NH products 50.0 20.6 22.4 trace trace 42 u nreacted Mg 30.3 35.8 55.7 66.5一
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フェノールやピリジンのように芳香環の還元 (run4,
5)はかなり難しいことがわかったo run 6はマグネシウムが完全に反応するまで放置したもので、開放系であるorun1で宋 反応のマグネシウムが全部反応した場合約70%の生成物が得られる(反応したマグネシ ウムのうち70%が還元に使われていることを考慮して)と予想すると開放系でも必要量 の倍程のマグネシウムを使えば十分還元ができることになる。 図5
はマグネシウムペッレトを NaCI水溶液に投入した時の水素発生曲線を種々の条件 3 t / h 図5
.
マグネシウムベレット-H20
系による水素発生曲線. 0.4 、、、 〉 0.1 2 4 -20-Mg pellet1 g NaCI 1 g H 20 30 ml acetone 10ml Ni 0.1g e e n u n u o o & 置 、 ゐ E L e e m M 民 n u ﹃ n u 円 u ﹃ 円 u ﹃ a a a acccc
a a a a N N N N σ b g D σ o σ 0 ・ 1 M M M M N 2 1 n , L 内J S せ 5水 素 エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム Vol.l7. No.2, 1992 研 究 論 文 で比較したものであるo 1 9のマグネシウムベレットを 0.56MNaCI水溶液 10mlに投入 した。これに有機化合物としてアセトン10mlを添加して還元を試みた。図中の曲線 1に 示すようにNaCI水溶液にベレットを投入した時には激しく水素発生が起こるが、アセト ンを加えると水素発生は遅くなったo これは発生した水素がアセトンをイソプロピルア ルコールに還元するために水素が使われたためであるo還元触媒としてのNi触媒を添加 すると水素発生は顕著に抑えられ、マグネシウムの反応による水素はほとんどアセトン の還元に使われることがイソプロピルアルコールの定量結果からも裏付けられた。 3.6 マグネシウムベレッ卜による無機イオンの還元 マグネシウム粒(触媒な し)あるいはマグネシウム ベレッ卜により無機イオン の還元を試みた。 図6には0
.
7
3gマグネシウ ム ( 粒 、 ベ レ ッ ト ) を ~ 0.1 MFeCI3水溶液 100mlに 投入した時のイオンの濃度、 pH、電位の変化を示す。 A は溶液に含まれる全Feイオ ン (Fe2++Fe3十)の中で Fe2+
がどれだけ存在してい るかを表している。マグネ シウムを投入すると、マグ ネシウム事立、ベレットどち らの場合もFe3+
は徐々に還 元され 1時間以内に完全に Fe2十になった。8
は溶液中 に存在する全Feイオンおよ びFe2+の濃度を示す。マグ ネシウム粒を使った場合に は還元されたFe2+
はその多 くが溶液中に残るが、ベレ ットで還元した場合にはほ とんど完全に溶液から除か 1.0 0.5 -0.8 ¥0.06 υ ロO U 0.02。
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30 60 t / min 90 図6. マグネシウムベレツトによるFe3+の還元.A;
全鉄イオンに対するFe内農度比 8 .全鉄イオンおよびFe2-t濃度の変化 C.門電極電位およびpH変化 れることがわかった。溶液 に白金電極と参照極(銀塩化銀電極、s
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を挿入して電位を調べた結果がC
で初 期の電位が大きく変化する部分はFe3+がFe2+(こ還元される反応に対応し、 Fe3+が完全に 反応してFe2+になると電位は一定になる。ベレットで還元した場合はFe2+が溶液から完水 素 エ ネ ル ギ シ ス テ ム 研 究 論 文 全に取り除かれるため、水素の電位が現れ、電位はさらに卑に変化するo溶液のpHは 反応が進むと共に、高くなった。しかし、マグネシウム粒の時は90分経過後でも pHは6 で、ベレットの時のようにアルカリ性にはならなかった。溶液中の沈澱物を調べるとマ グネシウム粒の時は磁性を示さないのに対して、ベレッ卜で還元したものは黒っぽく、 磁化曲線から強磁性を示すことがわかったoベレットに含まれる触媒としての Feの特性 も混ざっていると思われるが、ベレッ卜を用いた場合には溶液がアルカリ性になるため、
Fe(OH)3とFe(OH)2がマグネタイト状のもの (Fe304と思われる)に変化するものと思
われる。この結果、溶液をかくはんするのに用いたマグネチックス女ーラー(回転子)
l
こFe分がすべて付着し、溶液から容易に除去すことができたo4
.
結言
マグネシウムそのものだけでは水あるいは中性塩水と反応することはないが、マグネ シウムの表面に鉄系の触媒を付着させることにより、水との反応を促進させ、食塩水中 で短時間で定量的に水素を発生させることができた。マグネシウム粉と触媒を固めたマ グネシウムベレットは一つ当りの重量を決めることができるため、水素の必要量に応じ て容易に必要個数を計算できるo また、ベレットを投入するだけで水棄を供給すること ができるため、 in-situに有機、無機のいろいろの化合物を還元することができるo参考文献
(1) Dean, J.A. : Lange's Hand book of Chemistry,
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版、 NewYork, McGraw圃Hi
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(2)後 藤 克 巳 ら 水 の 分 析 、 第1瓶、京都,化学問入、 (1971) p.277・281.
(3) Pourbaix, M. : Atlas of Electrochemical Equilibrla in Aquous Solution,第1版、 london, pergamon Press(1966), p. 139-145.