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な病気を引き起こします その病気の中に 炎症性腸疾患があります 炎症性腸疾患は クローン病と潰瘍性大腸炎の二つの病気がありますが どちらも腸管の免疫システムが腸内細菌を認識し 過剰な免疫応答 ( 炎症反応 ) が起こっています その結果 患者は 腹痛 下痢 下血などに悩まされます 炎症性腸疾患は 免

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Academic year: 2021

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腸管の恒常性維持機構の解析

大阪大学大学院医学系研究科 竹田 潔 1. はじめに 消化器は、口から始まり、食道、胃、小腸、大腸と続き肛門で終わる管状の臓器です。 皆さんもご存じのように、消化器の中でも小腸、大腸の腸管は、私たちが毎日口に入れる 食事を消化し、吸収する臓器です。しかし同時に、膨大な数の細菌が棲息していることも 知られています。これらの細菌は 1,000 種類を超え、腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼ば れています。腸内細菌叢は、私たちが持っていない消化酵素を持っていて、私たちに必要 なビタミン類などの様々な栄養素を作り出してくれています。細菌と言えば、私たちの身 体に侵入した際に、食中毒や下痢などの感染症を引き起こす病原性細菌を思い起こす方が 多いと思います。これらの細菌は、私たちの身体に侵入した際、免疫システムによって素 早く非自己として認識され、免疫応答(炎症反応)が誘導されて排除されます。このよう に、一般的に細菌は免疫によって排除されるべき異物です。しかし、腸管には膨大な数の 腸内細菌叢が存在しているのです。健康な状態では、腸管の免疫システムは腸内細菌叢を 攻撃することがありません。し かし、攻撃を始めてしまうと、 炎症性腸疾患という難病を引 き起こします。我々は、炎症性 腸疾患の病態を明らかにする ため、腸管の恒常性維持機構、 すなわち腸管の免疫システム がすぐそこに存在する腸内細 菌叢を攻撃しないメカニズム を解析してきました(図 1)。こ の研究の内容について、できる 限りわかりやすく解説します。 2. 炎症性腸疾患 私たちの身体に侵入してくる異物を非自己として認識し排除する免疫システムは、感染 症を引き起こす細菌などの微生物を排除するために発達してきたものです。しかしながら、 最近増加している花粉症のように、花粉などの異物を認識した場合にも反応を引き起こし アレルギーという病気を引き起こしてしまいます。このように、感染症という病気を防ぐ ために発達した免疫システムは、本来反応すべきでない異物にも反応してしまうと、様々

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な病気を引き起こします。その病気の中に、炎症性腸疾患があります。炎症性腸疾患は、 クローン病と潰瘍性大腸炎の二つの病気がありますが、どちらも腸管の免疫システムが腸 内細菌を認識し、過剰な免疫応答(炎症反応)が起こっています。その結果、患者は、腹 痛、下痢、下血などに悩まされます。炎症性腸疾患は、免疫系の異常(私たちの身体の遺 伝的素因)と腸内細菌などの外界の異常が複雑に絡み合って発症する疾患であるため、そ の病態の理解が難しく、まだその根本的治療法が確立していない難病です。さらに、この 30 年の間に日本では炎症性腸疾患の患者が急激に増加してきています。腸内細菌は、私た ちに栄養素を作り出してくれますが、細菌である以上は免疫システムが認識し排除すべき 異物そのものです。それにも関わらず、健康な状態では、免疫システムは腸内細菌を認識 して炎症反応を引き起こすことはありません。そこには、腸管に特有の免疫応答制御シス テムが存在しているからです。 3. 粘膜免疫 消化器のように、上皮細胞に覆われた組織を粘膜組織と呼びます。例えば、呼吸器や泌尿 器もすべて上皮細胞によって覆われた粘膜組織です。粘膜組織に共通しているのは、どれ も外界と交通口を有していることです(消化器では口と肛門;呼吸器は鼻;泌尿器は尿道 など)。すなわち、外界と接していて異物が侵入してくる可能性が極めて高い組織なのです。 中でも消化器は、上で述べたように、食事成分や腸内細菌などの異物(腸内環境因子)が 常に存在しています。我々は、これらの異物に常に晒されている腸管の上皮の直下にいる 免疫細胞の活性がどのように制御されているのかを解析しました。免疫システムは、細菌 などの異物を認識した際に極めて素早く作動する自然免疫細胞(マクロファージや樹状細 胞)と自然免疫細胞によって教育され精緻な免疫反応を繰り広げる獲得免疫細胞(B 細胞や T 細胞)から成り立っています。この中で、細菌を認識すると素早く作動する自然免疫細胞 が、腸管粘膜組織では、細菌に反応し て炎症反応を起こさないことを明ら かにしました。さらに、細菌に反応し ない分子機構として、自然免疫細胞の 活性を抑えるインターロイキン10 (IL-10)という因子を自ら産生するこ とが重要であることを見出しました。 そして、細菌に反応してしまうと、炎 症性腸疾患を発症してしまうことを 明らかにしました。このように、腸管 の粘膜免疫システムは、腸内細菌に反 応しないシステムを構築しているこ とを明らかにしたのです(図 2)。

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4. 腸内環境因子 次に、腸管腔に存在している食物や腸内細菌(腸内環境因子とまとめて呼びます)の中 から、腸管の粘膜免疫システムに作用する因子を解析しました。実験的に腸内細菌のない 完全無菌マウスを作成し、腸管内容物の様々な因子の濃度を測定すると、アデノシン 3 リ ン酸(ATP)が通常のマウスでは高濃度測定できるのに対し、完全無菌マウスの腸管内容物 では激減していること、すなわち腸管内腔で ATP が腸内細菌に依存して産生されているこ とを見出しました。ATP といえば、これまで細胞の中で作用し、ATP が加水分解される際に エネルギーを放出することにより細 胞活動を支える分子として広く知ら れています。この ATP が細胞の外ど ころか、腸管内腔という体の外側で 腸内細菌依存性に作られていたので す。さらに、この ATP の作用を解析 したところ、腸管粘膜組織に存在す る自然免疫細胞に作用し、獲得免疫 (T 細胞)の活性化を誘導すること、 作用が行き過ぎると食物アレルギー を引き起こしてしまうことも明らか になりました。すなわち、ATP が腸 内細菌に依存して産生され、免疫シ ステムに作用する腸内環境因子であ ることを見出しました(図 3)。 5. 消化管上皮層 粘膜免疫は、たとえ上に述べたように特殊な自然免疫細胞の制御システムが存在してい ても腸内細菌に直接晒されると炎症性腸疾患を誘導します。それは、粘膜免疫と腸内細菌 の間に存在する消化管上皮細胞を実験的に傷つけると、ひどい腸管炎症が起こることから も証明されています。言い換えると、消化管上皮層には、普段粘膜免疫と腸内細菌を出会 わせないようにするメカニズムが存在していることを示唆しています。実際、健康なマウ スの大腸を解析すると、腸内細菌は消化管上皮層と接することはなく、消化管上皮層の直 上には細菌が存在していません。しかし、大腸において粘膜免疫と腸内細菌を分け隔てる メカニズムは不明でした。そこで、大腸の上皮細胞に特異的に発現している分子を探索し、 Lypd8 という分子に着目しました。この分子の機能を解析すると、大腸上皮細胞から分泌さ れ、運動性の高い鞭毛をもつ腸内細菌の鞭毛に直接会合し、その運動性を止めることによ り、腸管粘膜組織への侵入を抑制していることが明らかになりました。鞭毛を持つ腸内細

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菌は、私たちの生命活動に必要な栄養素を作り出してくれるため、腸内に棲息してもらわ なければなりません。 しかし、運動性が高い ため、自ら運動して私 たちの身体に侵入して くる可能性があります。 その危険性を Lypd8 が 腸内細菌の鞭毛に会合 し、抑制しているので す。実際、Lypd8 を欠 損させるマウスを作成 すると、鞭毛をもつ腸 内細菌が腸管粘膜組織 に侵入し、腸管炎症が 発症しやすくなってい ました(図 4)。さらに、 炎症性腸疾患の患者で は、Lypd8 の発現が著しく減少していて、炎症性腸疾患の病態との関わりも示唆されました。 6. 腸管恒常性維持機構の解明に向けて このように、腸管の恒常性を維持する機構は、粘膜免疫、腸内環境因子、消化管上皮層 のそれぞれに特有のメカニズムが存在していることを明らかにしてきました。さらに、我々 が明らかにした消化管上皮層による腸内細菌のブロックメカニズムは、これまでにない新 たな腸管の恒常性維持機構であり、今後この概念に基づいた炎症性腸疾患の病態解明、新 規治療法の開発に向けた取り組みが進展していくことが期待されます。 皆さんに、少しでも腸管粘膜免疫システムに魅力を感じていただけますと幸いです。 腸管粘膜免疫システムはまだまだそのメカニズムの解明の端緒が切り開かれたところに すぎません。近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)が注目され、炎症性腸疾患以外にも様々 な疾患に関わっていることが明らかになってきています。しかし、腸管粘膜免疫システム を理解しない限りは、腸内細菌叢と疾患の関係性は明らかにならず、疾患の克服には至り ません。皆さんの中から一人でもこの分野に興味を持っていただき、この分野を切り開く 方が出てきてくれることを祈っております。 最後にこの場をお借りして、全ての共同研究者の先生方、研究室のスタッフ、学生の皆 さまに感謝とお礼を申し上げます。さらに、免疫学研究の魅力をご教示いただきこの分野 の研究に導いていただきました岸本忠三先生、免疫学研究のイロハからご指導いただき免 疫学研究者として育成いただきました審良静男先生に、心より感謝申し上げます。

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用語解説

炎症性腸疾患

大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍をひきおこす疾患の総称で、臨床症

状や病理学的な特徴の違いによりクローン病と潰瘍性大腸炎に大きく分けられている。

どちらも、遺伝的素因(疾患を発生させるリスクの遺伝的因子)だけで起こる疾患でなく、

毎日食べる食事成分や腸内細菌などの腸内環境因子の異常が相まって発症する疾

患である。近年、日本でクローン病および潰瘍性大腸炎の患者数が急激に増えてきて

いる(欧米では、昔から患者数が多いことが知られている)。この理由として、食生活の

欧米化による腸内環境因子の変化が考えられている。

粘膜免疫

上皮層に覆われた消化器、呼吸器、泌尿器などの組織を粘膜組織と呼ぶ。粘膜組織

の上皮の直下には粘膜固有層と呼ばれる組織が広がるが、ここに多数の免疫細胞が

存在している。消化器の粘膜組織には、人体で最大数の免疫細胞が存在するともい

われている。免疫システムは、本来、細菌などの異物を認識し排除するシステムである。

しかし、すぐそばに存在している膨大な数の腸内細菌に免疫システムは反応性しない。

また、毎日食べる食事成分も私たちにとっての異物であるが、食事成分に対しても免

疫システムは反応性しない。このように、免疫組織に存在する免疫細胞と異なり粘膜

組織に存在する免疫細胞はユニークな機能を有しており、粘膜免疫と呼んでいる。

自然免疫

私たちの身体に侵入してくる異物を非自己として認識し排除する免疫システムは、自

然免疫と獲得免疫から成り立っている。自然免疫はマクロファージなどの異物を貪食

する細胞から成り立っており、獲得免疫は B 細胞、T 細胞から成り立っている。微生物

が侵入してくると、まず自然免疫が微生物を認識し活性化され、獲得免疫を活性化さ

せていく。

B 細胞、T 細胞

リンパ球と呼ばれる免疫細胞の仲間。B 細胞は抗体を産生し、この抗体が異物を認識

し排除する。T 細胞は、例えば病原微生物の一種であるウイルスが感染した細胞を認

識し、感染した細胞ごと殺すことによりウイルスを排除する。また、病原微生物の一種

である病原細菌を貪食したマクロファージを活性化し、細菌の排除に関わる。

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腸内細菌叢

小腸、大腸に棲息する細菌の総称。1,000 種類以上の腸内細菌が棲息しているものと

考えられている。多くの腸内細菌は少しでも酸素に触れると死んでしまうが、腸管、特

に大腸の内腔は酸素がない環境となっており、腸内細菌が住み着きやすい環境を提

供している。住み着いた腸内細菌は、私たちが持っていない酵素により摂取された食

事成分を代謝し、様々な栄養素を作り出し、私たちの健康維持に貢献している。また、

B 細胞や T 細胞を教育することも近年明らかになっている。毎日摂取する食事成分と

共に、腸管内腔に存在するものとして「腸内環境因子」の一つと呼ばれている。

消化管上皮層

消化器、呼吸器、泌尿器などの粘膜組織を覆う外界との境界を構築する細胞層を上

皮層と呼ぶ。その中でも小腸、大腸の消化管の上皮層は一層の上皮層だけで外界と

の境界を築いている。

アデノシン3リン酸(ATP)

アデノシンと呼ばれる化合物にリン酸基が 3 つ会合したもの。細胞内でリン酸基を 1 分

子が離したり結合したりすることでエネルギーの交換を行い、細胞の活動に重要な役

割を担っていることが知られている。近年、細胞内だけでなく細胞外にも ATP が存在し

て、細胞間の情報伝達を担っていることが明らかになっている。

鞭毛

細菌が持っている毛状の器官の一つ。回転することにより、細菌が遊泳(運動)するた

めに必要な推進力を生みだす。

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フ ェ ー ズ ド ア レ イ 気 象 レ ー ダ の 研 究 開 発 と 今 後

大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 牛 尾 知 雄 は じ め に 近 年 の 急 速 な 都 市 化 や 社 会 の 高 度 化 等 の た め , 豪 雨 や 竜 巻 な ど 局 所 的 か つ 短 時 間 に 甚 大 な 被 害 を も た ら す 大 気 現 象 が 重 要 な 社 会 問 題 と な っ て い る 。 こ こ で は , こ の よ う な 災 害 を も た ら す 積 乱 雲 あ る い は 雷 雨 を 測 る 最 新 の レ ー ダ 技 術 を 取 り 上 げ , そ の 取 り 組 み を 紹 介 し た い 。 な お , 本 稿 は こ れ ま で 筆 者 が 行 っ て き た 講 演 録 に 手 を 加 え て 修 正 し た も の で あ る 。 豪 雨 を 生 み 出 す 積 乱 雲 神 戸 市 に 都 賀 川 と い う 川 が あ る 。 こ の 川 は 普 段 , 幼 児 が 遊 ん で い る よ う な 流 量 の 少 な い , 近 隣 の 住 民 に 非 常 に 親 し ま れ て い る 川 で あ る が , 20 0 8年 7 月 2 8 日 , 突 然 の 豪 雨 に よ っ て わ ず か 十 数 分 で 氾 濫 し , 4 人 の 死 者 を 出 し た 。 近 年 , 竜 巻 の 被 害 も 度 々 報 告 さ れ て お り , 2 0 12 年 5 月 に は つ く ば 市 で , 2 0 13 年 9 月 に は 埼 玉 や 千 葉 で 竜 巻 が 発 生 し , 家 屋 が 損 壊 す る な ど の 大 き な 被 害 が 出 た 。 住 民 の 話 で は , 「 台 所 で 食 事 を し て い た ら , 突 然 音 が し た 。 見 上 げ る と 屋 根 が な く な っ て い て , 初 め て 竜 巻 と 気 付 い た 」 。 つ ま り , 「 何 の 前 触 れ も な く 突 然 来 て , 気 付 い た 時 に は 過 ぎ 去 っ て い る 」 「 非 常 に 局 所 的 だ が 甚 大 な 被 害 を も た ら す 」 と い う の が , 突 然 の 豪 雨 や 竜 巻 の 被 害 の 特 徴 で あ る 。 そ し て , こ れ ら の 現 象 は 増 加 傾 向 に あ り , 地 球 温 暖 化 の 影 響 と も い わ れ て い る 。 実 際 , 1 時 間 当 た り の 降 水 量 が 50 ㎜ 以 上 の 発 生 件 数 を 見 る と , 1 9 78~ 20 0 8年 で 増 加 傾 向 に あ る こ と が わ か っ て い る 。 こ の よ う な 雷 , 竜 巻 , 豪 雨 の 生 み の 親 は 積 乱 雲 で あ り , こ の 積 乱 雲 の 発 達 を い か に 予 測 し , 減 災 に 結 び 付 け て い く か , そ の 研 究 が 今 後 ま す ま す 重 要 に な っ て い く と 思 わ れ る 。 フ ェ ー ズ ド ア レ イ 気 象 レ ー ダ こ の 積 乱 雲 の 観 測 に 威 力 を 発 揮 す る の が 電 磁 波 を 用 い た レ ー ダ リ モ ー ト セ ン シ ン グ 技 術 で あ る 。 レ ー ダ は , パ ル ス 状 の 電 波 を 標 的 に 向 か っ て 照 射 し , エ コ ー が 返 っ て く る ま で の 時 間 を 計 っ て , 目 的 物 を 探 知 し , 距 離 を 測 る の が そ の 原 理 で あ る 。 こ の 原 理 を 用 い て , 現 在 , 大 型 の レ ー ダ 観 測 網 が 日 本 や 米 国 全 土 を 覆 う よ う に 整 備 さ れ , 日 々 の 予 報 や 警 報 に 使 わ れ て い る 。 し か し , 前 述 し た 数 十 分 程 度 の 短 時 間 に 被 害 を も た ら す 積 乱 雲 や 竜 巻 , マ イ ク ロ バ ー ス ト ( 航 空 機 の 離 着 陸 に 大 き な 被 害 ) に 至 っ て は そ の 生 成 発 達 か ら 被 害 を も た ら す ま で の 時 間 が 短 く , 通 常 の 大 型 レ ー ダ で は , 一 回 の 3 次 元 観 測 に 5 分 か ら 1 0 分 程 度 の 時 間 を 要 す る た め , 十 分 な 観 測 が 難 し か っ た 。

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2 こ れ が , 上 記 の よ う な 短 時 間 に 甚 大 な 被 害 を も た ら す 豪 雨 や 竜 巻 な ど の 予 知 や 予 報 , 迅 速 な 警 報 を 阻 害 す る 主 要 な 要 因 の 一 つ で あ っ た 。 そ こ で , 東 芝 と N IC T ( 情 報 通 信 研 究 機 構 ) , 大 阪 大 学 は , フ ェ ー ズ ド ア レ イ 気 象 レ ー ダ ( 図 1 以 下 , PA WR ) の 共 同 研 究 開 発 を , 産 官 学 の 連 携 に よ っ て 行 っ た 。 図 1 フ ェ ー ズ ド ア レ イ レ ー ダ の 外 観 ( 左 ) と ア ン テ ナ ( 右 ) P A WR は , 通 常 の パ ラ ボ ラ タ イ プ の ア ン テ ナ と 異 な り , 2 m ×2 m の 板 状 の ア ン テ ナ が 首 振 り せ ず , 傾 き を 固 定 し た ま ま , 地 表 か ら 天 頂 ま で 全 仰 角 を 同 時 に 観 測 す る 。 さ ら に 1 0 ~ 3 0 秒 か け て 一 回 転 す る こ と で , 全 方 位 を 3 次 元 観 測 す る 。 即 ち , 仰 角 は 電 子 走 査 , 方 位 角 は 機 械 走 査 と な っ て い る 。 P AW R を 従 来 の 大 型 レ ー ダ と 比 べ る と , 一 度 に 観 測 で き る 仰 角 は 1 0倍 以 上 に 増 え , 観 測 時 間 は 1 0分 の 1に 短 縮 さ れ た の で , 約 1 00倍 以 上 の 性 能 向 上 が 達 成 さ れ て い る と 言 え る 。 図 2 は , PA WR に よ っ て 2 01 3 年 7 月 13 日 , 大 阪 北 部 か ら 京 都 に か け て 線 状 の 降 水 帯 が 進 行 す る 様 子 が 観 測 さ れ た も の を 3 次 元 で 可 視 覚 化 し た も の で す 。 こ の よ う に , 数 多 い 仰 角 数 の 観 測 に よ っ て 3 次 元 的 に 隙 間 の 少 な い 密 な イ メ ー ジ が 作 成 さ れ て い る こ と が わ か る 。 さ ら に 詳 細 に 降 水 の 内 部 構 造 を 見 て み る と , 30秒 毎 の 観 測 に よ っ て 積 乱 雲 内 部 の 降 水 構 造 の 変 化 が 可 視 化 さ れ て い る こ と が わ か る 。

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図 2 大 阪 北 部 か ら 京 都 に か け て 形 成 さ れ た 線 状 の 降 水 帯 例 え ば , 図 3 に 20 13 年 8月 5日 に 観 測 さ れ た 事 例 を 示 す 。 こ の 図 に 示 さ れ て い る よ う に , 上 空 で 降 水 の 塊 が 形 成 さ れ , 徐 々 に 高 度 が 下 が り , 雨 と な っ て 地 表 に 落 ち る ま で を , 3 0秒 ご と に 観 測 す る こ と に 成 功 し て い る 。 図 3 フ ェ ー ズ ド ア レ イ 気 象 レ ー ダ が 捉 え た 上 空 で 発 達 し た 降 水 が 地 上 へ 落 下 す る 様 子

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4 こ の よ う に , 上 空 で 降 水 の 塊 が 形 成 さ れ て , 地 上 に 落 下 す る ま で , 数 分 以 上 の 時 間 が か か る た め , 上 空 の デ ー タ を 適 切 に 解 析 す る こ と に よ っ て , こ れ ま で 以 上 の 精 度 で 豪 雨 の 予 知 や 警 報 を 行 う こ と が で き る 可 能 性 が 高 い 。 一 方 で , 大 型 レ ー ダ は デ ー タ 更 新 が 5 分 お き な の で , ゲ リ ラ 豪 雨 の 卵 や 竜 巻 の 発 生 を 捉 え て も , 警 報 な ど の 発 出 が 遅 れ る 可 能 性 が あ る 。 本 レ ー ダ の 開 発 後 , そ の 社 会 的 な 反 響 は 大 き な も の が あ っ た 。 ほ ぼ 全 て の 新 聞 社 が , 本 レ ー ダ の 開 発 記 事 を 掲 載 し , ま た ニ ュ ー ス で も 数 多 く 取 り 上 げ ら れ た 。 ま た , 平 成 2 8年 度 か ら は 中 学 校 の 理 科 の 教 科 書 に P A WRが 掲 載 さ れ て い る 。 さ ら に , ア メ リ カ 地 球 物 理 学 会 誌 に も 写 真 付 で 紹 介 さ れ 、 “ Na tu r e” に も 記 事 が 掲 載 さ れ た 。 P A W Rを 使 っ た 社 会 実 験 20 1 4 年 , 内 閣 府 は 「 戦 略 的 イ ノ ベ ー シ ョ ン 創 造 プ ロ グ ラ ム 」 ( SI P ) を 開 始 し た 。 こ の 中 で , こ の 研 究 ( P AW Rと 既 存 レ ー ダ を 併 用 し て 豪 雨 や 竜 巻 の 発 生 を 予 測 す る 技 術 を 高 度 化 し , 避 難 勧 告 , 河 川 管 理 , 土 砂 災 害 予 測 , 鉄 道 運 行 管 理 な ど に 活 用 す る 研 究 ) が 採 択 さ れ , 現 在 , そ の 実 証 実 験 を 関 西 で 実 施 中 で あ る 。 各 種 レ ー ダ で 集 め た 厖 大 な デ ー タ を コ ン ピ ュ ー タ で 高 速 解 析 し , 結 果 を 大 阪 府 の 土 木 事 務 所 な ど に 設 置 さ れ た 端 末 に 配 信 , ゲ リ ラ 豪 雨 が 予 測 さ れ た 場 合 に は 端 末 の ア ラ ー ム が 鳴 る こ と に な っ て い る 。 さ ら に , 東 京 オ リ ン ピ ッ ク で は , 研 究 の 成 果 を ゲ リ ラ 豪 雨 の 短 時 間 予 報 と 観 客 の 早 期 避 難 誘 導 と い う 形 で 生 か す 計 画 が 進 行 中 で あ る 。 ま た , こ の SI P の プ ロ グ ラ ム で は , さ ら に 進 ん だ レ ー ダ の 開 発 も 進 め ら れ て い る 。 雨 滴 は 極 小 だ と ほ ぼ 円 形 で あ る が , 大 き く な る に 従 い , 落 下 中 に 空 気 抵 抗 を 受 け て 扁 平 す る 。 こ の 雨 滴 の 扁 平 率 を 計 測 す る 偏 波 フ ェ ー ズ ド ア レ イ 気 象 レ ー ダ の 開 発 を 今 , 行 っ て い る 。 こ の 偏 波 レ ー ダ で は , 正 確 な 降 雨 量 の 推 定 が 可 能 で あ り , そ の 機 能 に 高 速 性 を 付 加 し た フ ェ ー ズ ド ア レ イ レ ー ダ は , 次 世 代 の レ ー ダ シ ス テ ム の 一 つ の 形 で あ る と 期 待 さ れ て い る 。 そ し て , 今 後 の 気 象 レ ー ダ は , フ ェ ー ズ ド ア レ イ 型 の レ ー ダ に 取 っ て 代 わ っ て い く で あ ろ う 。 以 上 , 見 て き た よ う に , 電 磁 波 計 測 技 術 の 進 歩 に よ り , こ れ ま で 良 く 見 え て い な か っ た 事 象 を 可 視 化 す る こ と が で き , そ こ か ら 新 た な 応 用 が 見 え て き て い る 。 今 後 の 実 証 実 験 の 結 果 に 期 待 し た い 。 最 後 に , こ の 場 を お 借 り し て 深 く 御 礼 を 申 し 上 げ た い 。 受 賞 の き っ か け と な っ た フ ェ ー ズ ド ア レ イ 気 象 レ ー ダ は , 情 報 通 信 研 究 機 構 と 東 芝 と の 産 官 学 の 連 携 プ ロ ジ ェ ク ト に よ っ て 研 究 開 発 さ れ た 。 こ の プ ロ ジ ェ ク ト の 予 算 化 , 実 行 ま で 数 多 く の 関 係 者 , 学 生 達 の 尽 力 な し で は 一 切 の こ と が 成 り 立 た な か っ た と 言 っ て も 過 言 で は な い 。 こ こ に 伏 し て 深 謝 し た い 。 ど う も あ り が と う ご ざ い ま し た 。

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5 用 語 解 説 レ ー ダ 電 波 を 対 象 物 に 向 けて 発 射 し , 対 象 物 に よ って 反 射 あるい は 散 乱 され た 電 波 が受 信 さ れ る ま で の 時 間 を 計 測 す るこ と に よ っ て , 対 象 物 ま で の 距 離 や 対 象 物 に 関 す る 情 報 を得 る電 子 システム の総 称 。 フ ェ ー ズ ド ア レ イ 気 象 レ ー ダ 多 数 のアンテナ 素 子 を配 列 し,それぞれ の素 子 における送 信 及 び受 信 電 波 の位 相 を 制 御 す る こ と で , 電 子 的 にビ ーム 方 向 を 変 え る こ と がで き る レー ダ 。 パラ ボラ アン テ ナ を 機 械 的 に 回 転 さ せる レー ダ と 異 な り, 瞬 間 的 に ビーム 方 向 を 自 由 に 変 化 させ る ことができるため ,特 に高 速 走 査 を必 要 とされる用 途 に向 い てい るとされる。 降 水 の 3 次 元 立 体 観 測 一 般 に配 信 される レーダ観 測 情 報 は , 地 図 上 にマッピングされた地 上 付 近 の ( 2 次 元 ) 降 雨 分 布 の み で あ る が , 雨 は 上 空 の 雲 中 で 生 成 さ れ 成 長 し な が ら 地 上 に落 下 してくるため ,上 空 の降 水 ( 雪 ・ 霰 ・ 雨 など ) の 3 次 元 構 造 を観 測 することで ,大 雨 の メカ ニズム解 明 や 1 0 ~3 0 分 程 度 の 短 時 間 予 測 が可 能 とな る。 既 存 の気 象 レ ーダ で も , 通 常 3 次 元 観 測 を 行 っ てお り ,「 ゲ リ ラ 豪 雨 の 卵 」 や「 竜 巻 の 親 雲 」 な どが観 測 されてい るが,それら のよ り詳 細 な鉛 直 構 造 や時 間 変 動 が求 め ら れてい る。

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