1.研究の背景と目的
現代日本語の文字言語においては、主に4種類の文字種を使用する。漢字、ひらがな、
カタカナ、アルファベットである。これらの文字種の使い分けに関しては、「標準的」と 見なされる大まかな基準が存在し、社会的に共有されている。しかし実際には、この大ま かな基準を外れた「非標準的な表記」が多数観察される。
4種類のいずれを用いることも可能であるにもかかわらず1種類が選択される時、その 背後には何らかの要因が働いている。文字種が選択される際の要因(以下「文字種選択要因」)
にはどのようなものがあり、それらはどのように関わり合っているのか。それを明らかに し、現代日本語における文字種選択要因および表記行動の全体像をモデルとして示すこと が筆者の目標である。そのためにはまず、文字種選択要因を洗い出す作業が必要となる。
本稿はその作業の一環である。
文字種選択要因を考えるとき、言語の「形式」と表記主体の「意識」、コミュニケーショ ンの「場面」という異なる面から、しかし各々を考慮に入れて検討を行う必要がある⑴。 本稿は、それらのうち形式の面、つまり形を取って現れている文字を切り口にするもので ある。特に、「非標準的なカタカナ表記」⑵に焦点を当てる。
先行研究においては、形式面における「文字列への埋没回避」が、非標準的なカタカナ 表記がなされる要因の一つとしてしばしば指摘されてきた。本稿では、文字列への埋没回 避を主な目的として選択されたと解釈可能な非標準的なカタカナ表記がどのくらい存在す るのかを、テレビ番組の文字情報における実例をもとに検証する。そして、文字列への埋 没回避が主な目的と解釈可能な非標準的なカタカナ表記と、それ以外の非標準的なカタカ ナ表記、それぞれのなされた語がどのような属性を持つのかを提示し、非標準的なカタカ ナ表記がなされる要因を多角的、総括的に検討するための示唆を得る。
2.先行研究と本稿の位置づけ
本稿が対象とする「非標準的なカタカナ表記」がなされる要因を探究した先行研究は数 多く、明らかになった要因は多種多様である。そのうち「形式」の面では、「平仮名が続 きすぎて読みにくいときや、その語を特に強調したいときなどにも片仮名が使われる」(佐 竹秀雄 2005, p.34)といった「文字列への埋没回避」や「語を強調し目立たせる」意図が要
テレビ番組の文字情報における非標準的なカタカナ表記
── 「文字列への埋没回避」の観点から ──
増 地 ひとみ
因となっていることがしばしば指摘されてきた。
「ひらがなが続くためカタカナにした」というのは確かに納得できる要因であり、直感 的な印象としても大多数の日本語使用者の同意を得られるものであろうが、従来の研究は 実例を用いた検証によるものではなく、あくまで印象のレベルでの指摘にとどまってい る。また、どのような条件のもとで、どのような語が文字列への埋没回避のためにカタカ ナ表記されるのかという点まで踏み込んだ考察はなされていない。
そこで本稿では、「文字列への埋没」を「ある語の最初の文字とそれに前接する文字が 同じ文字種である、または最後の文字とそれに後接する文字が同じ文字種である状態」と 定義し、文字列への埋没回避を主な目的として選択されたと解釈可能な非標準的なカタカ ナ表記がどのくらい存在するのかを、実例をもとに数値化して検証する。そして、文字列 への埋没回避が主な目的と解釈可能な非標準的なカタカナ表記と、それ以外の非標準的な カタカナ表記、それぞれのなされた語がどのような属性を持つのかを提示し、非標準的な カタカナ表記がなされる要因を今後多角的、総括的に検討していくにあたっての示唆を得 る。
なお、本稿では、埋没回避を「主な目的とする」という表現を用いるが、埋没回避だけ を要因としてそれらの非標準的なカタカナ表記がなされていると主張するものではない。
非標準的なカタカナ表記がなされるにあたって、文字列への埋没回避以外にはどのような 要因が想定され、それらの要因はどのように関わり合っているのか。本稿は、それを明ら かにするために、想定される要因によって実例を仕分けする作業の一環となるものである。
本稿では、調査対象としてテレビ番組の文字情報を利用する。テレビ番組の文字情報の 種類には、登場人物の発話を文字化したものと、内容の要約や説明などに使用されるもの とがある。両者においては表記のあり方が異なることが想定されるが、テレビ番組は画像 が伴うため両者の区別がしやすい。また、番組のジャンルによる分類も可能である。今後、
文字情報の種類やジャンル間で比較を行い、要因の関わりを見る際に適した資料であろう。
さらに、インターネットが普及した現在においてもテレビは訴求力の高いメディアであ り⑶、言語生活への影響力が大きい。横山詔一(2014)が提唱する「文字環境のモデル」
では、「社会的使用頻度」の高さが個人の表記の選択に影響し、それがさらに「社会的使 用頻度」に影響を与えていくというサイクルが示されている。現代の日本人の言語生活と、
この文字環境のサイクルにおいて、テレビ番組の文字情報における表記は大きな役割を果 たしていると考えられる。しかしながら、テレビ番組の文字情報は『現代日本語書き言葉 均衡コーパス(BCCWJ)』などのコーパスに含まれていない。本稿で扱ったデータは、日々 流通しているテレビ番組の文字情報の全量に比べれば極めて微量ではある。それでも、こ こでテレビ番組の文字情報に現れる非標準的なカタカナ表記に関して埋没回避という観点 から記述しておくことは、文字種選択要因を考察する上で有意義であると思われる。
3.調査の概要─調査対象および方法
非標準的なカタカナ表記を、前接・後接する文字種との関係によって分類し数値化する
ため、非標準的なカタカナ表記に前接する文字および後接する文字に文字種ごとに数字を 付与する。これにより、非標準的なカタカナ表記が現れている文字列の環境(以下「文字 列環境」)を記号化し、計量できるようになる。
ある非標準的なカタカナ表記が、文字列への埋没回避の役割を果たしている場合でも、
表記主体が埋没回避の意図を持って非標準的なカタカナ表記を選択したとは限らない。本 稿では、非標準的なカタカナ表記がなされる要因を洗い出す目的のもと、客観的に検証可 能な表記結果である文字の種類によって機械的に分類を行う。そして、まずは形の上で埋 没していないと認められる「非埋没形」がどのくらい存在するのかを明らかにする。次に、
それらのうち「文字列への埋没回避を主な目的として選択されたと解釈可能な非標準的な カタカナ表記」がどのくらい存在するのかを検証する。本稿では、ある表記がなされるに あたって、表記主体に実際に「文字列への埋没回避を目的とする意図があったかどうか」
は考慮せず、「文字列への埋没回避を主な目的として選択されたと解釈可能かどうか」に 焦点を当てる。そして、「文字列への埋没回避を主な目的として選択されたと解釈可能な 非標準的なカタカナ表記」以外については、「埋没回避が目的でないと想定」して稿を進 める。
以上を踏まえ、次の5つの観点から検証と考察を行う。
1.非標準的なカタカナ表記は、どのような文字列環境でどの程度出現しているか。
2.非埋没形と認められる非標準的なカタカナ表記は、どの程度存在するのか。
3.埋没回避を主な目的として選択されたと解釈可能な非標準的なカタカナ表記は、どの 程度存在するのか。
4.埋没回避を主な目的として選択されたと解釈可能な非標準的なカタカナ表記がなされ る語は、どのような属性を持っているか。また、埋没回避が目的でないと想定される 非標準的なカタカナ表記がなされる語は、どのような属性を持っているか。
5.以上の結果から、非標準的なカタカナ表記がなされる要因に関して何が示唆されるか。
◇調査対象:非標準的なカタカナ表記 1,829件
用例の出典:テレビ番組60本におけるテロップ(画面上に表示される文字情報)および画面 内の文字情報(スタジオで使用されるボード等)⑷。2011年1〜4月放映分29本、2012年10〜
11月放映分31本(番組の詳細は末尾にまとめて掲げる)
※全番組ジャンルのうち「報道」「教育・教養・実用」「スポーツ」「その他の娯楽番組」
を対象とした⑸。「音楽」「ドラマ」「アニメ」「映画」では自然発話を文字化したテロップ が観察されないため、対象外とした。
※上記60本に加え、その他の番組から随時個別に収集した文字情報も対象とした。
◇調査方法:対象となった番組を録画し、テロップおよび画面内の文字情報を表示される 表記のとおり1行単位で Excel に入力した。改行されて2行で表示される場合は2行分の 扱いとなる。次に、非標準的なカタカナ表記を含む行を行単位で抽出した。非標準的なカ
タカナ表記された語のうち、文字種選択の余地がない、つまり前後の文字種に関係なくカ タカナ表記されると考えられる固有名詞⑹は調査対象から除外した。また、性別(「オス」「メ ス」)、化学物質名、助数詞⑺、「カラオケ」⑻も除外した。全く同じ文字からなる行は1行 とし、1行に複数の非標準的なカタカナ表記が含まれる場合は複数件として数えた結果、
異なりで1,829件の非標準的なカタカナ表記が対象となった。
非標準的なカタカナ表記に前接・後接する文字種は、前接または後接する文字が「ない」
場合を含め、各々8種類ある。すなわち「なし」「漢字」「ひらがな」「カタカナ」「アルファ ベット」「数字」「記号」「スペース」⑼である。「なし」の場合は0、「漢字」の場合は1、「ひ らがな」は2、というように、前接・後接する文字に、文字種ごとに数字を付与して記号 化した(表1参照)。例えば、文字列環境「00」は、非標準的なカタカナ表記の前にも後に も文字が一切ないことを示す。「12」は、非標準的なカタカナ表記の前に漢字、後にひら がなが接していることを示す。これら全てを組み合わせると、前接文字種・後接文字種に よって作られる文字列環境は64種類となる。この64種類の文字列環境にある非標準的なカ タカナ表記を数えた。なお、今回の調査ではカタカナ表記された部分を取り出し、その前 後の文字に数字を付与したため、例えば「スゴい」は「スゴ」の前に文字がなく、後にひ らがなが接している「02」となる。
非標準的なカタカナ表記の属性を見るにあたっては、『かたりぐさ』⑽により品詞情報と 語種情報を付与した。本稿における用例の下線は、筆者による。
4.調査結果
以下、3で提示した5つの観点に従って結果を示す。
4‑1.非標準的なカタカナ表記が出現する文字列環境
非標準的なカタカナ表記の出現状況を文字列環境ごとに集計すると表1のとおりである。
非標準的なカタカナ表記の出現数が多い文字列環境は、22(439件)と02(423件)の2種 類である。一方で、非標準的なカタカナ表記が全く出現しない文字列環境や、出現数が10 件以下の文字列環境も多く存在し、文字列環境ごとの差が大きい。
4‑2.非埋没形と認められる非標準的なカタカナ表記
非埋没形と認められる非標準的なカタカナ表記はどの程度存在するのか。非埋没形を
「ある語の前あるいは後に文字がある。かつ、その語の最初の文字も最後の文字も同じ文 字種に接していない」状態であると定義すると、非標準的なカタカナ表記が非埋没形とな る文字列環境は、表1から00、03、07、13、23、30〜37、43、53、63、70、73、77を除い た45種類である。これらの環境で出現した非標準的なカタカナ表記の合計は1,663件とな る。これは全体(1,829件)の90.9%に当たり、非埋没形かどうかという形式の面から単純 に見るならば、従来指摘されてきた「文字列への埋没を回避するためにカタカナ表記され ている」という印象は妥当であると言える。これらの語において、カタカナは語と語の境
目を示す役目を果たしている。該当する実例としては、例1・2などが挙げられる。
例1 型破りのカラ破り! (出典:「めざましテレビ・第2部」)
例2 今日は俺がホンモノを (出典:「情報7days ニュースキャスター」)
4‑3.埋没回避が主な目的と解釈可能な非標準的なカタカナ表記
4‑2では、非埋没形と認められる非標準的なカタカナ表記は1,663件(全体の90.9%)との
【表1】 文字列環境(前接・後接文字種 組み合わせ)一覧 および 非標準的なカタカナ表記の出現状況
0:文字なし 1:漢字 2:ひらがな 3:カタカナ 4:アルファベット(AL と略)
5:数字 6:記号 7:スペース
環境 前接 後接 件数 環境 前接 後接 件数 環境 前接 後接 件数 00 なし なし 70 30 カタカナ なし 3 60 記号 なし 9 01 なし 漢字 117 31 カタカナ 漢字 0 61 記号 漢字 22 02 なし ひらがな 423 32 カタカナ ひらがな 4 62 記号 ひらがな 29 03 なし カタカナ 9 33 カタカナ カタカナ 0 63 記号 カタカナ 1 04 なし AL 2 34 カタカナ AL 0 64 記号 AL 0 05 なし 数字 2 35 カタカナ 数字 0 65 記号 数字 0 06 なし 記号 65 36 カタカナ 記号 0 66 記号 記号 24 07 なし スペース 32 37 カタカナ スペース 1 67 記号 スペース 0 10 漢字 なし 37 40 AL なし 0 70 スペース なし 28 11 漢字 漢字 29 41 AL 漢字 0 71 スペース 漢字 15 12 漢字 ひらがな 85 42 AL ひらがな 0 72 スペース ひらがな 49 13 漢字 カタカナ 3 43 AL カタカナ 0 73 スペース カタカナ 0 14 漢字 AL 2 44 AL AL 2 74 スペース AL 0 15 漢字 数字 1 45 AL 数字 0 75 スペース 数字 1 16 漢字 記号 16 46 AL 記号 0 76 スペース 記号 15 17 漢字 スペース 6 47 AL スペース 0 77 スペース スペース 11 20 ひらがな なし 101 50 数字 なし 0 合計 1,829 21 ひらがな 漢字 89 51 数字 漢字 1
22 ひらがな ひらがな 439 52 数字 ひらがな 0 23 ひらがな カタカナ 4 53 数字 カタカナ 0 24 ひらがな AL 4 54 数字 AL 0 25 ひらがな 数字 2 55 数字 数字 0 26 ひらがな 記号 69 56 数字 記号 2 27 ひらがな スペース 5 57 数字 スペース 0
結果を得た。しかしながら、これらの1,663件の中には、埋没を回避するためであれば漢 字やひらがなを使用すればよい例が含まれている。それらはわざわざあえてカタカナ表記 されたと見なすことができ、埋没回避以外の要因が働いて出現したものと解釈できる。
それでは、埋没回避を主な目的として選択されたと解釈可能な非標準的なカタカナ表記 は、どの程度あるのか。結論から述べると、1,829件中442件(全体の24.2%)である。この 結論に至った根拠は以下のとおりである。
まず、非埋没形のうち、埋没回避のためにカタカナ表記が選択でき、かつひらがな表記 が選択できない文字列環境は、次の13種類である。
02、12、20、21、22、24、25、26、27、42、52、62、72
これらはすなわち、「前接あるいは後接文字種がひらがな」であり、なおかつ「前接・
後接文字種いずれもカタカナではない」文字列環境である。例えば01や10、51などのよう に「前接あるいは後接文字種が漢字」であり、なおかつ「前接・後接文字種いずれもひら がなではない」文字列環境の場合は、埋没回避が目的であればひらがなを使用すればよい ため、埋没回避のためにカタカナが選択されたとは言えず、ここでは対象外となる。
これら13種類の文字列環境で現れた非標準的なカタカナ表記は、1,295件であった(表 2)。しかし、この中には、埋没回避が目的ならば漢字を用いることも可能な例も存在する。
例えば表2の文字列環境24の例「もう一度見たい!動物のギモン SP」は、「もう一度見た い!動物の疑問 SP」としても埋没は回避できる。つまり、この「ギモン」のカタカナ表 記には、埋没回避の意図以外の要因が優勢に働いている可能性が高い。先に挙げた例2も 同様である。そして埋没回避の意図については、働いた可能性と働かなかった可能性のい ずれも想定でき、形式からは判別できない。
そこで、実例を要因によって仕分けするという本稿の目的を達するため、次に上記1,295 件から漢字表記が可能な非標準的なカタカナ表記を除外する。対象となるのは、「漢字が あり、かつ漢字を使用しても埋没しない」例である。上記「ギモン」や表2の文字列環境 62の例「ラク」などが該当する。これらを以下「使用可能な漢字がある」と称する。除外 後の「A.漢字表記が存在しない」例(以下、Aを付して示す)と「B.漢字を使用すると埋 没する」例(以下、Bを付して示す)が、本節の焦点である「埋没回避を主な目的として選 択されたと解釈可能な非標準的なカタカナ表記」に該当する。12と21では漢字を使用する と漢字が続いて埋没する例が大勢を占めるが、21においては、漢字を使用しても送り仮名 が存在することによって埋没が回避できる例も含まれる(例えば「そろそろヒキ始めてる」⇒
「そろそろ引き始めてる」)。それらは「使用可能な漢字がある」に分類する。反対に02、22、
62、72においては、漢字を使用すると送り仮名が存在することによってひらがなと連続し、
後接部分が埋没する例が含まれる(例えば「タカさんハズレてそう」⇒「タカさん外れてそう」)。 これらも「使用可能な漢字がある」に分類する⑾。なお、ここでは使用可能な漢字が常用 漢字かどうかは考慮しない。「凄い」「綺麗」など、常用外であっても漢字表記が観察され る語も少なからず存在するためである。
結果、1,295件の非標準的なカタカナ表記のうち、「A.漢字表記が存在しない」あるい
は「B.漢字を使用すると埋没する」ものは442件であった(表2)。これらは、文字列へ の埋没回避を主な目的として非標準的なカタカナ表記が選択された可能性が高く、形式の 面においても実際に埋没回避の役割を果たしていることが確認できるものである。
442件の具体例として、例えば次の3、4などがある。カタカナ表記されている部分を ひらがなに置き換えてみると、カタカナ表記によって埋没を避ける効果が確認できる。
例3 こんなにコリコリしてなかった (出典:「ペケ×ポン」)
例3 こんなにこりこりしてなかった
例4 それにしてもソックリね (出典:「ザ!世界仰天ニュース」)
例4 それにしてもそっくりね
例3 よりは3が、4 よりは4が読みやすいのは明らかである。テロップは短時間で消 えるため、他の媒体以上に、埋没を回避する工夫がなされているはずである。松田真幸
【表2】 カタカナ表記が埋没回避のために選択できる文字列環境 0:文字なし 1:漢字 2:ひらがな 3:カタカナ 4:アルファベット(AL と略)
5:数字 6:記号 7:スペース
環境
前接 後接 例(・・・は省略部) 合計
件数
使 用 可 能 な 漢 字 が ある
A.漢字表 記 が 存 在 しない
B.漢字だ と 埋 没 す る 02 なし ひらがな マネしたくなる・・・ 423 311 112 0
12 漢字 ひらがな 毎月ゴミが出る 85 0 23 62
20 ひらがな なし インド進出のワケ 101 87 14 0
21 ひらがな 漢字 鼻づまりカンタン解消法 最新版公開 89 14 22 53 22 ひらがな ひらがな 彼はマジメな生活して 439 323 116 0 24 ひらがな AL もう一度見たい!動物のギモンSP 4 4 0 0 25 ひらがな 数字 ボクはコノ0.11がありますから 2 2 0 0
26 ひらがな 記号 赤ちゃんがケガ!? 69 56 13 0
27 ひらがな スペース 沢山あげなアカン 時間を 5 4 1 0
42 AL ひらがな ─ 0 0 0 0
52 数字 ひらがな ─ 0 0 0 0
62 記号 ひらがな 落ちにくい湯アカも、ラクにピカピカ! 29 23 6 0 72 スペース ひらがな そこ イチャイチャするの・・・ 49 29 20 0 合計 1,295 853 327 115
A・B 計 442
(2001)の実験結果によれば、ひらがなが連続した文字列よりも漢字仮名交じり文のほう が単語の認知は容易になる。その点で例3と4においてカタカナは漢字と同等の機能を果 たしていると考えられる。ほかに、A・Bに該当する語の例として、「ぎくしゃく」「ぐさ り」などの副詞類、「ずれる」「ばてる」などの動詞類、「うざい」「ぼろい」などの形容詞 類、「ぶす」「ぶれ」「はがき」などの名詞類が見られた。
なお、例3はオノマトペであることが、そして例3・4ともに発話を文字化したもので あることが、カタカナ表記された要因の一つであると解釈することもできる。また、そも そも本稿の調査対象は、表示時間が短いという時間的な制約を持つ文字資料である。今後 文字種選択要因を洗い出し、要因同士の関わり方も含め総合的に考察を行う際には、オノ マトペであることや元が発話であること、資料の特性なども考慮する必要があるが、ここ ではあくまで埋没回避に観点を絞って集計を行っている。
4‑4.非標準的なカタカナ表記がなされる語の属性
①埋没回避を主な目的として選択されたと解釈可能な非標準的なカタカナ表記がなされ る語(以下、①を付して示す。442件)は、どのような属性を持っているのか。また、②埋没 回避が目的でないと想定される非標準的なカタカナ表記がなされる語(以下、②を付して示 す。1,387件)は、どのような属性を持っているのか。①②各々に属する語を「品詞」「語種」
「漢字に関わる条件」の観点で集計すると、表3〜5のとおりである。
4‑4‑1.埋没回避が主な目的と解釈可能な非標準的なカタカナ表記がなされる語の属性
表3〜5にあるとおり、①埋没回避を主な目的として選択されたと解釈可能な非標準的 なカタカナ表記がなされる語の40.7%は、副詞である。語種の面では88.7%が和語であり、漢字に関わる条件の面では、A.漢字表記が存在しない語が73.3%を占める。
ここからさらに「品詞」「語種」「漢字に関わる条件」の3つの観点を統合して集計する と、表6のとおりとなる。品詞のうち、出現数5以下のものは除き、438件を対象とした。
①埋没回避が主な目的と解釈可能な非標準的なカタカナ表記は、表4でも見たとおり和 語への偏在が確認できる。A.漢字表記が存在しない和語では表6に挙げたどの品詞にお いても現れており、特に副詞は①全体442件中175件(39.6%)を占める(4‑3で挙げた例3な どが該当)。
4‑4‑2.埋没回避が目的でないと想定される非標準的なカタカナ表記がなされる語の属性
表3〜5にあるとおり、②埋没回避が目的でないと想定される非標準的なカタカナ表記 がなされる語の55.6%は名詞(一般)である。語種の面では67.8%が和語であり、漢語も 17.5%を占める。漢字に関わる条件の面では、使用可能な漢字があるにもかかわらずカタ カナ表記された語が75.5%にのぼるという結果である。ここからさらに「品詞」「語種」「漢字に関わる条件」の3つの観点を統合して集計する と、表7のとおりとなる⑿。4-4-1の①同様、品詞のうち出現数5以下のもの、および「そ
【表3】 非標準的なカタカナ表記語(品詞別)
①埋没回避が主な目的 ②埋没回避が目的でない
品詞 件数 比率 件数 比率
名詞
一般 115 26.0% 771 55.6%
代名詞 9 2.0% 114 8.2%
形容動詞語幹 39 8.8% 130 9.4%
サ変接続 16 3.6% 26 1.9%
略語 0 0.0% 2 0.1%
接尾辞 0 0.0% 2 0.1%
数 0 0.0% 4 0.3%
その他 1 0.2% 0 0.0%
動詞 34 7.7% 54 3.9%
形容詞 28 6.3% 104 7.5%
副詞 180 40.7% 87 6.3%
感動詞 17 3.8% 82 5.9%
連体詞 0 0.0% 4 0.3%
助詞 0 0.0% 0 0.0%
助動詞 3 0.7% 1 0.1%
その他 0 0.0% 6 0.4%
合計 442 1,387
【表4】 非標準的なカタカナ表記語(語種別)
①埋没回避が主な目的 ②埋没回避が目的でない
語種 件数 比率 件数 比率
和語 392 88.7% 940 67.8%
漢語 22 5.0% 243 17.5%
混種語 21 4.8% 151 10.9%
その他・不明 7 1.6% 53 3.8%
合計 442 1,387
【表5】 非標準的なカタカナ表記語(漢字に関わる条件別)
①埋没回避が主な目的 ②埋没回避が目的でない
漢字に関わる条件 件数 比率 件数 比率
使用可能な漢字あり(*) 0 0.0% 1,047 75.5%
A.漢字表記が存在しない 324 73.3% 161 11.6%
B.漢字だと埋没する 115 26.0% 171 12.3%
その他・不明 3 0.7% 8 0.6%
合計 442 1,387
*「使用可能な 漢字あり」のうち
①埋没回避が主な目的 ②埋没回避が目的でない 件数 比率(対 全体) 件数 比率(対 全体)
常用漢字 ─ ─ 551 39.7%
常用外 ─ ─ 496 35.8%
合計 ─ ─ 1,047 75.5%
【表6】 ①埋没回避が主な目的と解釈可能な非標準的なカタカナ表記 和語漢語混種語その他・不明計 名詞 (一般)
漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 2956(30)9(4)13(9)141(0)203379(43)3 名詞 (代名詞)
漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 81(0)081(0)0 名詞 (形容動詞語幹)
漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 2413(11)2(2)02415(13)0 名詞 (サ変接続)
漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 151(0)0151(0)0 動詞漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 286(4)0286(4)0 形容詞漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 204(1)4(4)0208(5)0 副詞漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 1755(1)01755(1)0 感動詞漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 1701700 計漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 031673(36)00022(15)00019(15)1041(0)20320115(66)3 合計438 ※漢有:使用可能な漢字あり、漢A:漢字表記が存在しない、漢B:漢字だと埋没する、漢他:その他・不明 ※( )内の数字は、( )の前に示した数に含まれる常用漢字の数 ※「計」欄以外の数値「0」は省略した。
【表7】 ②埋没回避が目的でないと想定される非標準的なカタカナ表記 和語漢語混種語その他・不明計 名詞 (一般)
漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 414(203)2276(36)1128(75)20(11)536(28)125(14)232(25)45(0)610(331)27126(61)8 名詞 (代名詞)
漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 96(17)111(11)4(4)1(1)1(1)101(22)112(12)0 名詞 (形容動詞語幹)
漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 12(10)41(0)45(40)2(2)64(63)2(2)121(113)45(4)0 名詞 (サ変接続)
漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 11(0)22(0)7(7)4(4)18(7)26(4)0 動詞漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 48(32)5(5)1(1)53(37)01(1)0 形容詞漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 87(8)45(0)7(7)1(1)94(15)46(1)0 副詞漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 12(3)617(0)6(2)1(0)18(5)618(0)0 感動詞漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 2(2)471(1)15(9)1(0)6(5)1023(16)572(1)0 計漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他漢有漢A漢B漢他 682(275)141103(48)1205(137)029(18)5119(109)129(18)232(25)145(0)01,038(546)156166(84)8 合計1,368 ※漢有:使用可能な漢字あり、漢A:漢字表記が存在しない、漢B:漢字だと埋没する、漢他:その他・不明 ※( )内の数字は、( )の前に示した数に含まれる常用漢字の数 ※「計」欄以外の数値「0」は省略した。
の他」は除き、1,368件を対象とした。
②埋没回避が目的でないと想定される非標準的なカタカナ表記は、使用可能な漢字があ る和語において、表7に挙げたどの品詞においても現れる。特に名詞(一般)の場合、② 全体1,387件中414件(29.8%)であり、そのうち203件は常用漢字で書くことが可能な語で ある(表2の20の例などが該当)。使用可能な漢字がある漢語においても、動詞・形容詞以外 の品詞で現れている(表2の24、26、62の例などが該当)。
4‑5.非標準的なカタカナ表記がなされる要因を多角的、総括的に検討するために
4‑2で見たように全体の90.9%が形の上では非埋没形と認められても、「使用可能な漢字 がある」などの条件を加えていくと、①埋没回避が主な目的と解釈可能な非標準的なカタ カナ表記は全体の約4分の1にまで減少する。これは、一つの非標準的なカタカナ表記に 複数の要因が働いていることを裏づける事実である。また、注目すべきは、表5で見られたように、②埋没回避が目的でないと想定される非 標準的なカタカナ表記の75.5%は使用可能な漢字があってもカタカナ表記されている点で ある。しかも39.7%は、常用漢字で書けるにもかかわらずカタカナ表記されている。②が なされる文字列環境を確認すると、大きく次の3通りがある。
a カタカナ表記にする必然性がない文字列環境(00、01など)
b カタカナ表記にすることでかえって文字列に埋没する文字列環境(03、13など)
c 4‑3で見た13種類の文字列環境において、漢字が使用可能であるにもかかわらず漢 字ではなくカタカナが使用されている場合(02、22などの一部)
aはさらに、次の2通りに大別できる。
a−Ⅰ 漢字・ひらがな・カタカナのいずれを選んでもよい環境(00、04など)
a−Ⅱ ひらがなを選んでもよい環境(01、10など)
このように、②埋没回避が目的でないと想定される非標準的なカタカナ表記は、漢字が あって埋没させずに使用可能である語や、漢字が使用できない(漢字がない、または漢字だ と埋没する)場合でもひらがなで書ける語に現れる。要因同士の関わり合いという観点か らは、②においては埋没回避以上に優先される要因があって働いていることが明らかと なった。そして b のような例も見られることから、積極的に何らかの意図のもと非標準 的なカタカナ表記が選び取られている可能性が示唆される。
次に①と②の属性を比較すると、②の非標準的なカタカナ表記は、①に比べ、漢語を表 記する際に多種類の品詞で現れる。表4で見たとおり、②においてはもともと①よりも漢 語のカタカナ表記の比率が高いのであるが、そればかりでなく①では全く見られなかった 名詞(代名詞)、名詞(サ変接続)、副詞、感動詞においてもカタカナ表記が現れるのが② の特徴である(表6・7)。例えば「ちょっとボク…」「ホントにピタッと当たる」などが あり、これらも積極的に非標準的なカタカナ表記が選ばれている例と言えそうである。
では、①埋没回避が主な目的と解釈可能な非標準的なカタカナ表記の方は、埋没回避を 第一の目的としてカタカナ表記されたのかと言えば、そうとも言い切れない。例えば4-3
で述べたように、発話を文字化したテロップは、先行研究で指摘されてきた「口調などを 反映させる」(佐竹秀雄 2005, p.48など)狙いによってカタカナ表記された可能性がある。ま た、埋没回避以前にオノマトペであることがカタカナ表記を促すとも推測される。①にお ける埋没回避は、「ほかの要因によって非標準的なカタカナ表記がなされた結果、埋没回 避もなされた」という二次的・副次的にもたらされた結果であり、単に埋没回避だけを目 指した表記というのはごく少数である可能性が示唆される。
ここで4‑1で提示した表1を見ると、前接・後接文字種ともにひらがなである22の文字 列環境において非標準的なカタカナ表記が多く出現するのは、当然のように思われる。現 代日本語においては、助詞や活用語尾は原則的にひらがなで書かれるためである。しかし、
表2で示したように22には使用可能な漢字がある語が439件中323件含まれており、必ずし もカタカナで表記する必要はない。非標準的なカタカナ表記がなされる要因を考えると き、一律に「前後をひらがなに挟まれているから」とは言えない。
また、表1において、例えば02における出現数は423件、72における出現数は49件である。
両者はいずれも「前接文字がなく後接文字種がひらがなである」点で共通しているにもか かわらず、非標準的なカタカナ表記の出現数が大きく異なる。これには前接文字種が「な い」環境と「スペース」の環境との絶対数の違いも関わってくるが、02と72における出現 数の違いが何によってもたらされているのかを知るには、各々の環境で現れている実例と その属性を、個々に詳細に見ていく必要がある。
以上のように、非標準的なカタカナ表記がなされる要因は各々の実例ごとに個別的であ り、要因同士の関わりは複合的、重層的である。その仕組みを明らかにするには、埋没回 避に「品詞」「語種」「漢字に関わる条件」を観点として加えた本稿における仕分けからさ らに進んで、他の属性を加味して実例を仕分けしていく作業が必要である。その際の観点 として、まずは客観的に仕分けが可能な属性による分類を行うべきであろう。冒頭で述べ たとおり先行研究で指摘されてきた要因は多種多様であるが、「特殊な表現効果を生み出 したり」(佐竹 2005, p.49)「広く一般に定着している語感を弱化させ、若者特有の感覚・感 性・感情などを表現しようとする」(則松智子・堀尾香代子 2006, p.30)など、表記主体の意 図に由来しており客観的な判定が難しい要因もある。まずは「オノマトペかどうか」とい う属性で副詞を分けたり、「意味」という属性によって名詞(一般)を分けたり、「複数の 読みがあるかどうか」などによって漢字表記のある語をより細かく分けたりすれば、客観 的に仕分けが可能である。その上でカタカナによる表現効果なども要因として組み込んで いくのが順当であろう。
2で述べたようにテレビ番組の文字情報という特性を利用すれば、「元が発話かどうか」
という属性に加えて「番組のジャンル」という属性によっても客観的な仕分けが可能であ る。番組ジャンルと非標準的なカタカナ表記がなされる語の品詞の間には相関関係が認め られることを増地(2013)で述べたが、同じく名詞(一般)で和語であっても「ゴミ」「メ ド」「ワケ」のように報道番組でもそれ以外の番組でも非標準的なカタカナ表記が現れる 語が存在する一方、「ナゾ」のように報道番組では現れない語も存在する。これらのこと
から、非標準的なカタカナ表記がなされるにあたって、番組ジャンルの影響を受けやすい 語と受けにくい語が存在するものと予想される。番組ジャンルという非言語的な側面と、
語の属性という言語的な側面の両面から立体的、複合的に要因を捉え、記述することが可 能であると考えている。
5.まとめと今後の課題
本稿が調査対象としたテレビ番組の文字情報においては、形の上で非埋没形と認められ る非標準的なカタカナ表記は全体の90.9%であった。そして、①文字列への埋没回避を主 な目的として選択されたと解釈可能な非標準的なカタカナ表記は全体の約4分の1であっ た。文字列への埋没を回避しようとする意図が、一定数の非標準的なカタカナ表記の選択 要因となっている可能性が示唆された。一方で、埋没回避は二次的・副次的な要因であり、
単に埋没回避だけを目指した表記はごく少数である可能性も見て取れた。②埋没回避が目 的でないと想定される非標準的なカタカナ表記においては、埋没回避以上に優先される要 因があって働いていることが明らかであり、何らかの意図のもとで積極的に非標準的なカ タカナ表記が選び取られている可能性がある。
本稿では、埋没回避という狭い観点、また、「品詞」「語種」「漢字に関わる条件」とい う限られた属性による仕分けを行い、数字から読み取れることに焦点を絞って述べてき た。しかし実際には、非標準的なカタカナ表記がなされる要因は実例ごとに個別的であり、
かつ複合的、重層的である。
非標準的なカタカナ表記がなされるにあたっては、どのような要因がどのように関わり 合っているのか。本稿は、それを検討するために、想定される要因によって実例を仕分け する作業の一環に過ぎない。しかし、今後の分析にさらに加えるべき観点を明確にし、見 通しを示すことはできた。本稿で提示した結果にそれらの観点を加え、要因同士がどのよ うに関わり合って非標準的なカタカナ表記がなされているのかという仕組みを多角的、総 括的に考察し、記述するのが次の課題である。これは言い換えれば、どのような条件が揃っ た時に非標準的なカタカナ表記が現れるのかを明らかにする試みである。稿を改めて述べ たい。
注
⑴ 蒲谷宏(2006)においては待遇コミュニケーションにおける場面・意識・内容・形式の「連動」
という捉え方の重要性が論じられており、本稿もそれらは連動していると捉える。「形式」は、「意 味」に対する語形などを指す術語として用いられるのが一般的であるが、本稿における「形式」は コミュニケーションにおける上記の4側面の一つとしての「形式」である。したがって、文字種は 形式の一側面である。
⑵ 「非標準的なカタカナ表記」は則松智子・堀尾香代子(2006)、「非標準的表記」は佐竹秀雄(1989)
において使用された術語である。本稿においては、「非標準的なカタカナ表記」は外来語以外をカ タカナ表記したものを指すものとする。
⑶ 「新聞離れ」は全世代共通の傾向として見られる一方、テレビ視聴時間は若年層では減少、シニ ア層で増加、全体では微減という傾向を示す。(NHK 放送文化研究所 2011)
⑷ テロップと画面内の文字情報は、いずれも同じ番組制作者が一定の方針のもと作成し、表示時間 が短いという条件も同じであるため、本稿では両者ともに調査の対象とした。
⑸ (株)ビデオリサーチの視聴率データを参考に、過去に視聴率が高かった番組を主に選定した。視 聴率の高い番組の文字情報は、人々の言語生活への影響が大きいと考えられるためである。視聴率 データは、現在は2013年以降分のみ公開されている。http://www.videor.co.jp/data/ratedata/
⑹ 固有名詞には、「ヒロシマ」「フクシマ」「ニッポン」などの地名も含まれる。こうした非標準的 なカタカナ表記の例については、稿を改めて述べたい。
⑺ 「3カ月」「1コ」など、前接する文字が洋数字・漢数字に固定しているため。
⑻ 「カラオケ」は、カタカナ表記されるにあたって文字列環境の影響を受けないと考えられるため。
⑼ 「なし」と「スペース」の違いについて:「なし」は、その語の前か後に文字が全く存在しない場 合である。「スペース」は、スペースを挟んでその前か後に文字が存在する場合である。例えば「無 理です マジで」の「マジ」の前接文字種はスペースである。
⑽ 独立行政法人国立国語研究所 研究開発部門 第一領域によって作成された、言語研究、自然言語 処理用の語種情報データである。http://www2.ninjal.ac.jp/lrc/index.php
『かたりぐさ』に掲載がない語については、類似の語を参照し、筆者の判断で語種情報を付与した。
なお、『かたりぐさ』で外来語とされる語のうち、「鞄」などをカタカナ表記したものは本稿では「非 標準的なカタカナ表記」として扱う。
⑾ 02、22、62、72はもともと後接文字種がひらがなであり、漢字を使用することでひらがなの送り 仮名が生じても、漢字部分の後接文字種はひらがなのまま変わらないため。
⑿ 属性「名詞(一般)/漢語/漢他」の5件は、「不細工」を省略した「ブサ」を含む語と「普通」
を省略した「フツ」を含む語である。
【用例出典】
テレビ番組の文字情報(用例件数1,829件):2011年1〜4月放映 29番組、2012年10〜11月放映 31番 組 合計60番組、その他随時収集したもの。
以下、「番組名」放送局の順に示す。2回以上使用した番組は、放送局の後に回数をかっこに入れて 示す。放送局の「総」は「NHK 総合」、「日」は「日本テレビ」、「T」は「TBS」、「フ」は「フジテ レビ」、「朝」は「テレビ朝日」の略である。
「ニュース・気象情報」総(2)、「NHK 7時58ニュース」総、「首都圏ニュース845」総(4)、「首 都圏ネットワーク」総、「ニュースウオッチ9」総(2)、「NHK ニュースおはよう日本」総、
「NEWS23クロス」T(2)、「NEWS ZERO」日、「NHK ニュース7」総(2)、「報道ステーション」
朝(2)、「LIVE 2011/2012 ニュース JAPAN」フ(2)、「news every.第1・2部」日、「そうだっ たのか!池上彰の学べるニュース」朝、「爆笑問題のニッポンの教養」総、「サンデーモーニング」
T、「真相報道バンキシャ!」日(2)、「ダーウィンが来た!」総(2)、「Mr.サンデー」フ(2)、「ク ローズアップ現代」総(2)、「ためしてガッテン」総(2)、「あさイチ」総、「情報7days ニュース キャスター」T(3)、「めざましテレビ・第2部」フ、「満天・青空レストラン」日、「がっちりマ ンデー!」T、「これが世界のスーパードクター 第14弾」T、「すぽると!」フ(2)、「S・1」T、
「サンデースポーツ」総、「ぴったんこカン・カン」T、「世界一受けたい授業」日、「行列のできる 法律相談所」日、「ペケ×ポン」フ、「笑点」日、「ぷっすま」朝、「マツコの知らない世界 SP」T、
「もしものシミュレーションバラエティー お試しかっ!」朝、「鶴瓶の家族に乾杯」総、「SMAP
× SMAP」フ、「世界の果てまでイッテ Q !」日、「ザ!世界仰天ニュース 2時間 SP」日、「い きなり!黄金伝説。」朝、「中居正広のキンスマスペシャル」T
【参考文献】
NHK 放送文化研究所(2011)『国民生活時間調査報告書 2010年』NHK 放送文化研究所(世論調査部)
蒲谷宏(2006)「「待遇コミュニケーション」における「場面」「意識」「内容」「形式」の連動について」
『早稲田大学日本語教育研究センター紀要』19 pp.1-12
佐竹秀雄(1989)「若者の文章とカタカナ効果」『日本語学』8(1) pp.60-67
佐竹秀雄(2005)「現代日本語の文字と書記法」『朝倉日本語講座2 文字・書記』林史典編 pp.22-50 則松智子・堀尾香代子(2006)「若者雑誌における常用漢字のカタカナ表記化─意味分析の観点から」
『北九州市立大学文学部紀要』72 pp.19-32
増地ひとみ(2013)「テレビ番組の文字情報における文字種の選択─番組のジャンルと語用論的要素 に注目して─」『早稲田日本語研究』22 pp.24-35
松田真幸(2001)「日本語文の読みに及ぼす文節間空白の影響」『基礎心理学研究』19(2) pp.83-92 横山詔一(2014)「文字環境と単純接触効果」『国語研プロジェクトレビュー』5(1) pp.19-31
※本稿は、日本語学会2014年度春季大会(2014年5月19日)での発表に基づくものです。ご教示を賜 りました先生方、皆様方に厚く御礼申し上げます。