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学習療法スタッフ間コミュニケーション活動 の影響:コホート研究

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(1)

認知症高齢者の脳機能賦活に及ぼす学習者・

学習療法スタッフ間コミュニケーション活動 の影響:コホート研究

田 島 信 元 長 沼 君 主 石 毛 順 子

<問 題>

人間の認知機能、 身辺自立など自立的な社会生活機能の基盤となってい る前頭前野機能は、 高齢段階に至って機能不全を起こすと認知症などの症 状として現れ、 コミュニケーション能力や身辺自立などが不全状況を呈し てくる (川島、 2002)。 認知症高齢者の前頭前野機能改善策の一つとして、

近年、 読み・書き・計算・音読が前頭前野の機能を賦活するという知見の もとに、 認知症状の改善、 予防を目指す 「学習療法」 (川島ら、 2007) と いう新しい療法が注目を浴びている。

これは、 読み・書き・計算・音読を中核とする記号操作活動の遂行を通 して、 前頭前野の機能を刺激することで認知症の症状改善、 予防を目指す 療法であり、 読み・書き・計算・音読といった自己内記号操作活動にかか わる教材を学習するという側面と、 他方、 学習場面において経験する学習 者とスタッフ間に生起する社会的なコミュニケーションという記号操作活 動の側面がある (田島、 2003)。

読み・書き・計算・音読教材学習の脳機能賦活におよぼす影響について の実証的知見は、 すでにいくつかの先駆的研究で報告されてきた (例えば、

川島、 2002)。

1 2

1 . 東京外国語大学 2 . 国際教養大学

(2)

一方、 コミュニケーションと脳機能の関係についての先行知見は、 脳損 傷患者の観察により、 少なからず知見は得られてはいたが、 近年の脳機能 イメージング研究により、 さらに詳細な知見が明らかになりつつあり、 人 と人との自然な対面型コミュニケーションを行うことにより、 左右の前頭 葉や側頭葉が活発に使われていることが示唆されてきている (川島、 2002)。

こうした知見から、 学習者とスタッフ間のコミュニケーション活動自体に おいても、 さらに、 読み・書き・計算・音読の教材を介した学習者とスタッ フのコミュニケーションであればなおさら、 前頭前野の活性化を高め、 そ れを通して前頭前野機能としてのコミュニケーション能力や身辺自立性を 改善、 達成していくというプロセスが仮定される。

以上のような仮説のもと、 田島・長沼・石毛 (2007) は、 学習療法を体 験している介護老人福祉施設居住者および利用者における認知症高齢者の 前頭前野機能の賦活および認知機能、 日常生活機能の改善に及ぼす学習者 と学習療法スタッフ間の相互交渉のあり方の影響を検討した。 その結果、

学習者の様子やスタッフの働きかけなど、 両者の間でとり結ばれる特定の コミュニケーション活動のあり方は、 前頭前野機能、 認知機能だけではな く、 実践面では観察されていた生活機能の回復・向上 (川島ら、 2007) に まで有効であることが示され、 その影響の大きさが強く示唆された。

しかしながら、 以上の研究は、 学習者が学習療法を受けるようになって 半年たった時点からの半年間にわたるデータに基づいたものであった。 こ れは認知症高齢者という特殊性に鑑み、 学習者とスタッフの間に十分なラ ポールが成立していることを条件としたためであったが、 逆に、 学習療法 経験以外の要因、 すなわち日常の学習者・スタッフ間コミュニケーション、

あるいは学習者間コミュニケーションなどの要因も重なって影響を及ぼし た可能性は否定できない。 事実、 この研究と同じ対象者において、 まだ日 常的要因の変化が少なく、 その影響は低いと考えられる最初の半年間の学

(3)

習療法の効果は、 基本的には前頭前野機能賦活にのみ現れており、 認知機 能や生活機能への効果は明確には見られていないのである (

、 2003)。

そこで本研究では、 改めて新しい対象者を得て、 これを最初の対象者 (第一コホート) に対して第二コホートと呼び、 今度は学習療法を開始し た直後からの半年間を観察・分析の対象として、 学習療法における学習者・

スタッフ間コミュニケーション活動の影響性について再検討することを目 的とする。 これは、 追試的なコホート間比較だけでなく、 開始直後の半年 間においても、 続く半年間という異なる時期で示された田島・長沼・石毛 (2007) の学習者・スタッフ間コミュニケーション活動の影響性がみられ る か ど う か 、 と い う こ と を 吟 味 す る こ と に な る 。 そ の た め 、 先 の

(2003) が、 最初の半年は前頭前野機能に焦点化され るかたちでその影響性が見られたという結果にしたがい、 影響が及ぼされ ると考えられる従属変数は前頭前野機能賦活に焦点化して吟味してみる。

具体的には、 以下のような分析目的をたてて検討する。

( 1 ) 学習療法経験が前頭前野機能賦活に及ぼす影響の分析

( 2 ) 学習者とスタッフの行動が前頭前野機能賦活に及ぼす影響の分析 ( 3 ) 前頭前野機能賦活に影響を及ぼす学習者行動とスタッフ行動の関

係の分析

<方 法>

対象者:第二コホートとして新たに学習療法に参加した認知症高齢者は15 名 (男性 4 名、 女性11名) であった。 平均年齢は85.8歳 (79歳〜95歳) で、

福岡県大川市の介護老人福祉施設およびグループ・ホーム居住者である。

彼らはアルツハイマー型認知症と診断された方々、 ないし N 式老年者用 精神状態尺度 (NM スケール) および N 式老年者用日常生活動作能力評

(4)

価尺度で境界点以下の認知症状を示すと判定された要介護高齢者の方々で あった。

料:学習療法の教材と施行要領については、 読み・書き・計算・音読 課題を難易度順に順序化したシート (公文式教材) を使用し、 対象者ごと に学習が継続しやすい出発点の難易度と 1 回の学習量を調節した。 学習者・

スタッフ間のコミュニケーション (スタッフの学習者に対する関わり方と 学習者の学習状況) 測定については、 保育者・幼児間コミュニケーション・

チェックリスト (西野・田島、 1987) を高齢者用に修正した、 学習者行動 12項目、 スタッフ行動11項目からなる 「学習状況診断チェックリスト」 を 構成した (

参照)。

Table 1 学習状況診断チェックリスト項目

<学習者行動>

学習意欲:積極的に学習の場につくなど、 意欲的な状況 自主的開始:自分から積極的に学習を開始する状況

自力学習:学習者なりのペースで、 自力で学習を進めていく状況 スムーズな学習:途中で学習を中断せざるを得ないことが少ない状況 積極的応答:スタッフの課題に関する指示に積極的に応じる状況

積極的働きかけ:どうしたらよいか積極的に質問したり注文をつけたりする状況 自己評価・修正:指摘されなくても自分で自分の学習を評価したり訂正する状況 負の自己評価:「近頃、 物覚えが悪い。」 など自分のことを否定的に評価する状況 正の自己評価:「近頃、 調子がいい。」 など、 自分のことを肯定的に評価する状況 仲間間交流:学習者の間で会話などの交流がみられる状況

情緒表出:学習中に笑顔がみられる状況

やりとりのスムーズさ:スタッフとのやりとりがスムーズな状況

<スタッフ行動>

ラポール形成:はじめに気持ちよくていねいな声かけを行うなどの働きかけ 適切な課題提示:学習者に対し課題をはっきりと正確に呈示する働きかけ 学習者尊重:学習者のペースや、 やり方を尊重してかかわる働きかけ 対人感受性:学習者の身になって、 ていねいな助言を行うなどの働きかけ 間接的指示:学習者に考えさせるような問いかけや指示を出す働きかけ 応答性:学習者の質問や要望に、 即座に応答する働きかけ

学習者からの学び:学習者の発言や行為に指導者自身が新しい発見をすること 指導のスムーズさ:途中で学習が中断しないよう配慮するような働きかけ 指導の工夫:学習がうまくいかない時わかりやすく教える工夫をする働きかけ 次回への動機づけ:終了時に、 次回につながる声かけを行うなどの働きかけ 楽しさ:スタッフ自身、 指導していて楽しくなること

(5)

手続き:第二コホートの学習療法実践研究 (観察・調査) は2002年10月か ら半年間の予定で開始された。 対象者は月曜から土曜までの毎日、 施設内 の学習センターないしグループ・ホームの居間で学習した (学習時間は15 分〜20分)。 学習は、 一人のスタッフに平均二人の学習者がつくという個 別対応が可能な形式で実施された。 学習状況診断チェックリストによる測 定は、 学習療法開始直後から週一回、 各々の学習者ごとに、 スタッフによ りリッカート方式の 5 段階尺度に基づく評定作業が実施された。 学習療法 の効果測定は、 第 1 回 (学習開始直前)、 第 2 回 (学習開始後 3 ヶ月目)、

第 3 回 (半年後の観察終了時) の 3 回にわたって、 前頭前野機能検査

(

2000) が実施された。

<結 果>

( 1 ) 学習療法経験が前頭前野機能に及ぼす影響

まず、 学習療法を経験した学習者の前頭前野機能 (

) 得点の変化 の有無を、 学習療法経験の効果として検討した。 変化の差を際だたせるた めに、 調査対象者15名のうち

の値が上昇した上昇群 7 名と、 変化の 無かった平行群 8 名に分けた分析結果を、 表 1 、 表 2 および図 1 に示す。

分散分析の結果、 グループ (上昇群と平行群) と時期の間に有意な交互作 用が見られ、 単純主効果の検定の結果、

上昇群では第 1 回と第 2 回 および第 1 回と第 3 回の間で

得点に有意な差が見られたが (それぞ

)、

平行群ではいずれの回の間にも有意差は見 られなかった。 上昇群では学習開始時から

の値が高かったものの、

学習が進むにつれて、 さらに値が上昇しており、 前頭前野機能の改善が示 唆された。 また、 平行群も学習によって上昇こそないものの、 下降はせず に平行状態を維持しており、 通常は下降するのが普通である (川島、

(6)

2002) ことを考慮すれば、 両群の結果とも、 学習療法経験が前頭前野機能 賦活に影響を及ぼしていることを示唆していると考えられる。

表 1 上昇群・平行群の得点の平均 (標準偏差) グループ 第 1 回 第 2 回 第 3 回

上昇群 9.86 11.86 12.86 (N=7) ( 2.55) ( 2.85) ( 2.12) 平行群 7.13 6.25 7.13 (N=8) ( 4.49) ( 3.50) ( 4.29)

表 2 上昇群・平行群における得点の分散分析結果

時期 10.83 .000

グループ 7.13 .019

時期×グループ 13.58 .000 .001, .05

図 1 上昇群・平行群における得点の変化 4

6 8 10 12 14

1 2 3

(7)

( 2 ) 学習者とスタッフのコミュニケーション行動が前頭前野機能に及ぼ す影響

それではこのような

の値の変化は、 学習プログラムにおける学習 者やスタッフの行動とどのように関連しているのであろうか。 第一コホー トの研究 (田島・長沼・石毛、 2007) において、 「学習者状況診断チェッ クリスト」 を因子分析した結果、 学習者行動に関しては、 学習意欲、 自力 学習、 自主的開始、 やりとりのスムーズさ、 情緒表出、 積極的応答、 自己 評価・修正などの項目に高い負荷量を示す 「積極的学習態度」 因子 (

) と、 仲間間交流、 積極的働きかけ、 正の自己評価 (を避ける)、 負の自己 評価などの項目に高い負荷量を示す 「人間関係重視」 因子 (

) 、 スタッ フ行動に関しては、 対人感受性、 指導の工夫、 応答性、 間接的指示、 適切 な課題提示などの項目に高い負荷量を示す 「学習の足場作り」 因子 (

) と、 ラポール形成、 次回への動機づけ、 楽しさ、 などの項目に高い負荷量 を示す 「ラポール形成」 因子 (

) の 2 つずつの因子が得られたが、 本 研究の第二コホートにおいてはこの 4 因子に準拠し、 それぞれにおいて因 子負荷量の高かった項目を選択し、 合計得点を求めた上で、 上昇群、 平行 群における学習者行動およびスタッフ行動の各因子の得点としてその変化 を調べた。

まず、 前半12週の各因子の得点を平均したものを前期得点とし、 後半12 週のそれを後期得点とした上で、 学習者行動得点の前期から後期の変化の 分析結果を表 3 、 表 4 および図 2 に示す。 分散分析の結果、 グループ (上 昇群と平行群) と時期の間に有意な交互作用が見られた。 単純主効果の検 定 の 結 果 、

上 昇 群 で は 前 期 と 後 期 の 間 で 有 意 な 差 が 見 ら れ (

) 、 学習者の 「積極的学習態度」 「人間関係重視」 の両因子と もに得点が上昇していることが分かった。 一方で、

平行群では前期 と後期の間で有意な差は見られず、 行動に変化が無いことが分かった。 ま

(8)

た平行群は、 各因子の得点で、 前期では上昇群とは有意な傾向程度の差に 留まっていたものの (

) 、 後期になって有意な差が見られるよう になっており (

)、 の上昇と学習者の学習行動が関連してい ることがわかった。

表 3 上昇群・平行群における学習者行動得点の平均・標準偏差 因子 時期 グループ 平均値 標準偏差 N

「積極的学習態度」 () 前期 平行群 2.79 0.75 6 上昇群 3.31 0.23 7 後期 平行群 2.76 0.99 6 上昇群 3.72 0.17 7

「人間関係重視」 () 前期 平行群 2.88 0.24 6 上昇群 3.10 0.18 7 後期 平行群 2.95 0.28 6 上昇群 3.36 0.10 7

表 4 上昇群・平行群における学習者行動得点の分散分析結果

因子 0.31 .591

時期 8.56 .014

グループ 6.71 .025

因子×グループ 2.74 .126 時期×グループ 6.43 .028 因子×時期 0.11 .750 因子×時期×グループ 2.25 .162 .05

(9)

次に、 スタッフ行動得点の変化の分析結果を表 5 、 表 6 および図 3 に示 す。 分散分析の結果、 学習者行動と同様に、 グループ (上昇群と平行群) と時期の間に有意な交互作用が見られた。 単純主効果の検定の結果、

上昇群では前期と後期の間で有意に得点が上昇しており (

)、

平行群では有意な行動的変化が無いことが分かった。 また、 グループと因 子との間の交互作用に有意な傾向が見られたが、 単純主効果の検定結果か ら、 「学習の足場作り」 の因子では上昇群と平行群との間に差が見られな かったものの、 「ラポール形成」 の因子では両群の差に有意な傾向が見ら れ (

)、

上昇群において高いことが分かった。

:積極的学習態度、 :人間関係重視 図 2 上昇群・平行群における学習者行動得点の変化

2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

(10)

表 5 上昇群・平行群におけるスタッフ行動得点の平均・標準偏差 因子 時期 グループ 平均値 標準偏差 N

「学習の足場作り」 () 前期 平行群 2.59 0.31 6 上昇群 2.39 0.24 7 後期 平行群 2.66 0.53 6 上昇群 2.89 0.22 7

「ラポール形成」 () 前期 平行群 3.24 0.25 6 上昇群 3.47 0.25 7 後期 平行群 3.38 0.57 6 上昇群 3.88 0.10 7

:学習の足場作り、 :ラポール形成 上昇群・平行群におけるスタッフ行動得点の変化

2.0 2.5 3.0 3.5 4.0

表 6 上昇群・平行群におけるスタッフ行動得点の分散分析結果

因子 101.80 .000

時期 14.83 .003

グループ 1.73 .215

因子×グループ 3.95 .072 時期×グループ 5.78 .035 因子×時期 0.03 .873 因子×時期×グループ 1.73 .215

.001, .01, .05, :.10

(11)

( 3 ) 前頭前野機能に影響を及ぼす学習者行動とスタッフ行動の関係 これまでの分析により、

の変化と学習者およびスタッフ行動の変 化との間に関係があることが明らかとなったが、 次に、 学習者行動とスタッ フ行動との間係に焦点をあて、 スタッフ行動がどのように学習者行動に影 響を与え、 その結果どのように

の指標の変化に影響しているかにつ いて吟味してみる。 この点を明らかにするために、 前期と後期に分けてそ れぞれについて

、 スタッフ行動、 学習者行動の間の関係性をパス解 析によって検討した (図 4 参照)。 その結果、 前期においては、 学習者の

が高いほどスタッフの 「ラポールの形成」 (

) が高くなり、 それ が学習者の 「積極的学習態度」 (

) につながることがわかった。 そして そのことが

の変化に肯定的な影響を及ぼすこともわかった。 ただし、

学習者の 「人間関係重視」 (

) からの直接的なパスも見られ、 かつ、 そ の方がパスの値も大きく、 スタッフの行動は間接的な影響を及ぼしている ことも見て取れた。 後期も同様のパスが描かれ、 継続した影響があること が伺える。

以上の結果から、 初期段階での人間関係の構築が

の変化に強い影 響を及ぼすことが推察される。

(12)

<考 察>

本研究の目的は、 読み・書き・計算・音読といった記号操作活動に関わ る学習教材を介した学習者とスタッフ間コミュニケーション過程が、 前頭 前野機能賦活に及ぼす影響のあり方を検討することであった。 こうした学 習教材を体験することそのものにおいても、 体験のない統制群に比べると、

明らかに前頭前野を刺激する効果は認められたのであるが (

、 2003)、 学習療法過程における学習者とスタッフのコミュニケーショ ンそのものが貴重な記号操作活動である ( 、 1978) ことを考え るならば、 学習教材だけでなくコミュニケーションのあり方そのものも前 頭前野機能に及ぼす効果が予測され、 両者の相乗効果が期待された。

このような予測に対し田島・長沼・石毛 (2007) は、 十分学習場面に慣 れた段階から半年間、 認知症高齢者に対する学習療法の場を観察し、 学習 者とスタッフの行動をスタッフ自身の行動評定により指標化し、 それらの 関係を吟味した研究を報告したのであるが、 第一コホートと呼ばれた学習

FAB1

S2 L2

S1 L1

.757

.580

.982 .666

FAB2

S2 L2

S1 L1

FAB3 .888

.945

.733 .556

FAB:前頭葉機能検査

:スタッフの 「学習の足場作り」 :学習者の 「積極的学習態度」

:スタッフの 「ラポールの形成」 :学習者の 「人間関係重視」

図 4 および学習者・スタッフ行動間のパス解析結果

(数値は有意なパス係数)

(13)

者の様子やスタッフの働きかけなど、 両者の間でのコミュニケーション活 動のあり方は、 前頭前野機能、 認知機能だけではなく、 生活機能の回復・

向上にまで有効であることが示され、 その影響の大きさが強く示唆された。

そこで本研究は、 さらに確証的な証拠を得るために、 以上のような第一 コホートでの諸結果が、 学習療法開始直後からの半年間という異なる時期、

および異なる学習者とスタッフ (第二コホート) の間においても見られる のかどうかを検討するものであった。 ただし、 学習療法開始直後の半年間 では、 その効果は前頭前野機能賦活に焦点化されていたため (

、 2003)、 本研究でも前頭前野機能に焦点化して分析が進められた。

本研究 (第二コホート) の結果としては、 以下のようなことが明らかと なった。

( 1 ) 学習療法を経験することは、 半年間に有意に前頭前野機能得点が上 昇した上昇群、 および得点の有意な増加は見られないが、 通常予測さ れる低下は見られない平行群に分かれるという個人差は存在するもの の、 明らかな前頭前野機能促進効果が示唆された。

( 2 ) 上記のような前頭前野機能得点の向上ないし維持は、 学習者の 「積 極的学習態度」 と 「人間関係重視」 行動の両因子とも、 スタッフ行動 においては 「ラポール形成」 行動の上昇によって説明されることが示 され、 学習療法開始後半年間における人間関係構築の重要性が示唆さ れた。

( 3 ) 以上のような前頭前野機能得点の向上に影響する学習者行動とスタッ フ行動の関係については、 出発点での学習者の前頭前野機能の高さに 影響されてスタッフの 「ラポール形成」 行動が高まり、 それが学習者 の 「積極的学習態度」 行動の高まりに影響し、 そのことがその後に続 く学習者の前頭前野機能の高さに影響するという因果関係を示唆する パス、 および学習者の 「人間関係重視」 行動の高さが、 その後に続く

(14)

学習者の前頭前野機能の高さに直接影響を及ぼすことを示唆するパス が、 前期 3 ヶ月、 後期 3 ヶ月の両期間に同様に見られており、 ここで も学習療法開始後半年間における学習者―スタッフ間、 学習者同士の 人間関係構築の重要性が示唆された。

以上のような第二コホート研究の諸結果を、 先行の第一コホート研究 (田島・長沼・石毛、 2007) の諸結果と比較してみると、 次のようなこと が示唆される。

( 1 ) 学習療法経験は、 学習開始直後の半年間 (第二コホート) において も、 半年後からの半年間 (第一コホート) と同様、 前頭前野機能賦活 に強い影響を及ぼす。

( 2 ) 学習者・スタッフ行動については、 学習開始直後の半年間から (第 二コホート)、 半年後からの半年間 (第一コホート) に至るまで、 前 頭前野機能の向上に関連を持っている。 それはまず、 スタッフの 「ラ ポール形成」 行動が学習者の 「積極的学習態度」 に影響することを通 して、 後の前頭前野機能の向上を導くというパスを、 3 ヶ月ごとに測 定された

に対して一貫して (第二コホートの 2 期間、 第一コホー トの 2 期間を通して) 示していることに現れている。

( 3 ) しかしながら、 時期の違いによる特殊性も見られる。 学習開始直後 の半年間 (第二コホート) においては出発点の学習者の前頭前野機能 の高さにスタッフの 「ラポール形成」 行動が影響を受けているのに対 し、 後半の半年間 (第一コホート) はそれが見られないのである。 時 間の経過にしたがってスタッフが学習者のネガティブな行動にあまり 影響されなくなってくる自立化の過程が示唆されるところである。

( 4 ) さらに、 時期の違いによる特殊性として、 学習開始直後の半年間 (第二コホート) においては学習者の 「人間関係重視」 行動が、 直接

(15)

的に、 後の前頭前野機能の向上に影響するというパスが見られている のに対し、 後半の半年間 (第一コホート) においてはそれは見られな くなってくるのである。 まさに、 とりわけ初期段階における学習者−

スタッフ間、 学習者同士の人間関係の構築が、 学習療法経験の一貫し た前頭前野機能の向上への影響に重要な役割を果たすことが示唆され るところである。

以上のように、 学習者・スタッフ間コミュニケーション活動は、 学習開 始直後から、 記号操作活動を強く反映する学習教材を効果的に学習する条 件を提供するという道筋 (パス) によって、 前頭前野機能向上に貢献して いるように思われる。 すなわち、 学習者とスタッフのコミュニケーション 活動は、 学習活動の初期段階から、 あるいは初期段階には特に、 「人間関 係重視」 行動 (学習者) および 「ラポール形成」 行動 (スタッフ) を通し て人間関係を構築し、 学習活動の居場所づくりに貢献していることが、 学 習者の 「積極的学習態度」 を招いて、 最終的に前頭前野機能の向上に影響 を与え続けることになる、 ということが強く示唆されるのである。 そして このような学習成果=発達の道筋は、 人間の精神発達にとって、 まさに本 質的なものではないかと考えられるのである。

事実、 このようなことは、 人生の中で最も成長率の高い時期といわれる、

生まれたばかりの新生児期から 3 歳くらいまでの乳幼児の学習、 発達の状 況においても如実に示されているのである。 彼らは母親に代表される主た る養育者との間に密接な関係を自ら結ぶことから発達を示し始める。 この ことを愛着の形成過程として理論化した

(1969) は、 子ども自ら 生後半年から一年をかけて養育者との間に愛着関係を完成させるとし、 そ のことは、 その後に続く多くの実証研究で検証されてきた (田島, 2003)。

さらに、 その過程で生起する養育者との社会的対話に埋め込まれた情報を

(16)

養育者との間で、 さらに 1 歳以降発展するその他の人々との対話を通して 彼らとの間で、 知識や感情体験を共有するという形で学習していくことを Vygotsky (1978) が理論化している。 言い換えれば、 人間の初期に明確 に見られる人間の本質的能力とは、 他者とのやりとりを通して情報を共有 していくという学習能力と社会性の能力であり、 それゆえ、 学習の所産と しての知識や技能、 態度は、 対話の本質である言語ないし非言語情報およ び数概念を含む 「記号」 という形をとり、 記号として処理 (操作) され (

、 1966)、 最終的に社会的に共有されるという形で蓄 積されていくと理解されている。

以上のような、 一般的には社会的弱者であり、 学習能力も低いととらえ られている乳幼児期の学習能力を引き出す条件としての社会的対話という 文脈条件は、 同様に高齢者、 とりわけ、 認知症高齢者の場合においても通 用するものであると考えられている(田島・長沼・石毛、 2007)。 まさに、

社会的対話力が落ちた認知症高齢者には社会的な対話場面での学習の必要 性が強調される理由がここにあるといえよう。

(注) 本研究は、 日本科学技術振興機構のプロジェクト研究 「前頭前野機能発達・

改善システムの開発研究 (平成10−15年度)」 (代表者:川島隆太) における

「学習療法」 に関する実践研究の一環として行われた。 東北大学教授・川島隆 太氏をはじめ、 立命館大学教授・吉田甫氏、 日本大学教授・泰羅雅登氏、 社団・

道海永寿会・山崎律美氏、 日本公文教育研究会, くもん学習療法センター職員 の方々ら共同研究者に対し記して感謝申し上げる。

なお、 本論文の分担については、 田島が目的、 方法、 考察を執筆、 石毛が資 料の分析、 長沼が資料の計算と結果の執筆を担当したが、 全ての執筆過程を分 担者全員で吟味、 討論した。

(17)

<引用文献>

川島隆太 2002 高次機能のブレインイメージング. 医学書院

川島隆太・くもん学習療法センター・山崎律美 2007 学習療法の秘密:認知症に 挑む. くもん出版

! "! #!

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#)

西野泰広・田島信元 (編) 1987 保育・教育実習セミナー. 建帛社

. +) ,)- /)0(波多野完治ほか訳:新しい児童心理学, 白水社, )

田島信元 2003 共同行為としての学習・発達:社会文化的アプローチの視座. 金 子書房

田島信元・長沼君主・石毛順子 2007 認知症高齢者の脳機能賦活および認知機能、

日常生活機能の改善に及ぼす学習者・学習療法スタッフ間コミュニケーション過 程の影響. 白百合女子大学研究紀要, 43号, 107-124.

1!2 # (3 41 )5#)# #0). 3 #$)) 67 489-,)-

表 5 上昇群・平行群におけるスタッフ行動得点の平均・標準偏差 因子 時期 グループ 平均値 標準偏差 N 「学習の足場作り」 ( ) 前期 平行群 2.59 0.31 6 上昇群 2.39 0.24 7 後期 平行群 2.66 0.53 6 上昇群 2.89 0.22 7 「ラポール形成」 ( ) 前期 平行群 3.24 0.25 6 上昇群 3.47 0.25 7 後期 平行群 3.38 0.57 6 上昇群 3.88 0.10 7  :学習の足場作り、  :ラポール形成 図 上昇群・平行群におけるスタ

参照

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