論文内容要旨
N-ethyl-Lidocaine(QX-314)の脊髄反射に対する効果
生理系生理学(生体調節機能学分野)専攻 早川 周良
【背景】局所麻酔薬として広く使用されている
lidocaine(Xylocaine ○R)は、
脂溶性であるため細胞膜を通過して細胞内に侵入し、電位依存型
Na
チャ ネルの開口を阻害し、Na の流入を阻害する。これにより活動電位の発生 が抑制され、感覚の麻痺が生じる。しかしNa
チャネルはすべてのニュー ロンに発現しているため、あらゆる感覚を麻痺させてしまう。そこで侵害 受容器に特異的に発現している受容体、TRPV1 をゲートとして、これを 選択的に通過する麻酔薬を使えば痛みだけを抑制できると考えられた。TRPV1
は非選択的陽イオンチャネルであるため、lidocaine
の一部分が正 電荷を帯びたQX-314(N-ethyl-Lidocaine)が候補に挙がった。Binshtok
等(2007)はTRPV1
作動薬であるcapsaicin
とQX-314
を同時に投与する ことで、侵害受容器を特異的に麻痺させることができることを報告した。その研究では、
adult rat( in vivo )の後根神経節ニューロンの痛み刺激に対
する膜電位応答を用いて、痛み抑制の効果が評価された。本研究では、痛 み応答評価のin vitro
実験系として確立されている脊髄反射を用いた方法 により、QX-314およびcapsaicin
の効果を検討した。【対象と方法】新生ラット(日齢
0-3)をイソフルレンで麻酔し、L1
からL5
レベルの腰髄を背側および腹側根を一塊にして摘出し、人工脳脊髄液(ACSF)を流速 2.5-3ml/min
で継続的に灌流した。L3背側根を200 μs
パ ルス(5-20V)、1
回/分で刺激し、誘発される反射電位をL3
腹側根より記録 した。10
分間以上のコントロールを記録し、その後薬剤(capsaicin 10 μM, QX-314 10 μM, 100 μM, 1000 μM)を20
分間灌流液へ投与し、その後30
分以上洗浄した。【結果と考察】
capsaicin
単独投与では、反射電位は一時的に低下したが、その後投与前の大きさに戻った。capsaicin+QX-314 (10 μM, 100 μM)で は有意な反射の低下は認められなかったが、capsaicin+QX-314 (1000
μM)では、投与後、洗浄時、洗浄後 30
分すべてにおいて有意な低下が認められた。本研究の結果は、capsaicin と高濃度
QX-314
の同時投与によ り持続的な鎮痛効果が得られることを示唆する。ただし、高濃度のQX-314
による呼吸抑制等の中枢神経系の副作用の可能性が報告されており、今後 臨床適応を目指すには、QX−314の使用濃度の検討が重要となる。