色調可変型デスクを用いた知的生産性に関する研究
−オフィスワークにおける集中度遷移の評価−
A Research on Intellectual Productivity Using the Color Variable Desk
Evaluation of the Transition of Concentration Ratio in the office work
1W120027-1 飯田 羊 指導教員 長 幾朗 教授
IIDA Yo Prof. CHOH Ikuro
概要:本研究は、オフィスにおける知識創造性の啓発、およびオフィスワーカーの実務効率の向上について提案 したものである。時代の流れに伴い知識創造の重要性が謳われる現代において、今一度知識創造理論に基づいた オフィス空間の再定義を行い、同時にデスクワークにおける知的生産性の評価をリアルタイムで行う手法を試み た。知識創造理論において他者との交流における知識成長の重要性を提示し、個人作業と他者間における交流の サイクルを効率的に誘発する提案を行った。実務における集中度を身体の動勢から測定し、これらをデスクトッ プの配色や色調として提示し、集中を喚起し、あるいはリラクゼーションのための離席を促すことを試みた。
キーワード:オフィス空間、デスクワーク、知的生産性、集中度
keywords: office space , desk work , intellectual productivity , concentration ratio
1.オフィス空間の再定義
インターネットの普及、人工知能の台頭に伴う高度 情報化社会の現代において、人間にしか出来無い仕事 の価値、創造性の重要性が広く提言されている。いか に効率的に、そして短期的な周期において新たな価値 を創造し、いかに社会へアウトプットするかは各企業 における最大の課題とも言える。以上の理由より彼ら の働く基盤であるオフィス空間をオフィスワーカーの 創造性を高めるサイクルを生み出すように再構築する 必要がある。本章では野中氏による知識創造理論 (SECIモデル)に基づき、それぞれの段階におけるオフィ スワーカーの行動とその発生場所を提示した。その中 で知識創造における共同化の段階、所謂他者との交 流の機会が全業務内容の2割にも満たないこと、加え て個人作業の割合が8割と著しく高いことがわかった。
よってオフィス空間内の知識創造性の向上のために、
1)効率的な自席での作業 2)共同化での他者との交流 の誘発 の2つを要素として定めた。以上の要素の解 決のために本研究ではデスクワークの方法論、及び 知識創造性を高めるための起点となるデスクワーク の知的生産性を高めることに焦点を当てた。以下に 本研究におけるオフィス空間内での知識創造性を高め るためのデスクワークの実現すべき目標を提示する。
1)デスクワークの集中時間比率を最大化し、トータ ルの作業時間を短縮する
2)作業効率の低下に伴い、他者との交流を誘発す る(離席を促す)
2.知的生産性の評価にあたって
前章において示したデスクワークにおける方法論を 実現するために、実作業空間におけるリアルタイムで の知的生産性の評価が必要になると考えられる。知的 生産性の低下に伴う、デスク上からのフィードバック をオフィスワーカーに与えることで離席が促され、結 果としてSECIモデルサイクルの全段階における効率 化を期待出来る。さらにオフィス空間全体の知識創造 性の向上が見込まれる。また実空間におけるリアルタ イムでの評価の必要性を考慮したため、本研究では知 的生産性の評価法に生理指標計測による評価を用い た。しかし、生理指標計測による評価はデメリットが 2つ挙げられる。1つ目は特別な機材が必要となるこ と。2つ目は生理指標と知的生産性の関係性が不明瞭 なことである。よって次章においては上記の課題2つ を解決するために、生理指標の選定、及び選定され た生理指標と知的生産性の関係性の明瞭化を目的と した実験を行う。
3.オフィスワーカーの体の変化による集中度の推定 本章では生理指標と知的生産性の関係性の明瞭化 を目的とした実験を行った。実験方法は、平仮名・
カタカナ・漢字の三種類の単語カードを、先頭の文字 の母音(い・う・お)、加えて意味の種類(動植物・
1
2 地名・人工物)を判断し腑分けする作業である。同 難易度のタスクを連続的に出題することで、その回答 時間の差異から集中状態・非集中状態の判定を行っ た。同時に椅子に取り付けた加速度センサーから取 得した体の移動量と回答時間の値を比較することで、
生理指標と知的生産性の関係性の明瞭化を行った。
その結果、体の移動量がデータ上において一時的に突 出するタイミング、つまり体の態勢を変えた時点、及 び体の移動量が急激に上昇した頂点(以後「Jump」) を境に単位時間あたりの回答時間の標準偏差に特徴 を確認出来た。Jump点を境に標準偏差はマイナス成 長の後、ある一定の期間後に標準偏差がプラス成長を していることが分かった。つまりJumpの直前には一 問当たりの回答時間に大きなバラつきが現れ、Jump 後そのバラつきは減少することが分かった。以下図 を示す。
図1 jumpを境にした集中状態遷移モデル
つまりJumpを境にして非集中状態と集中状態の切り 替えを行っている事がわかった。以上の結果より知的 生産性の低下を段階ごとに理解することが可能となっ た。
4.色調変化による可変型デスクの提案
前章で得られた結果を基に制作した色調可変型デ スクのプロトタイプにより、その有効性を検証した。
Jumpを基準点として、集中状態が非集中状態へと変 わるタイミングでデスクの色調を変化させ、被験者に は色調の変化を確認した時点で小休憩を挟んだ。実 験内容は前回と同じタスクを課した。以下に色調変 化のタイミングと理想的な集中状態の推移モデルを提 示する。
図2 色調変化と集中状態の関係図
図3 プロトタイプの写真
その結果、色調可変型デスクを使用した際の方が、
使用前の結果に比べて集中時間比率が上昇しているこ とを5名の被験者のうち4名で確認出来た。また集中 時間比率の計測法として下田らが提唱するCTR法を用 いることで、習熟度に依存しない評価結果を得ること 出来た。またアンケートによる主観評価、SD法によ る印象評価においても良い結果を得ることが出来た。
6.結論
本実験の結果より、Jumpを境に集中度に同期した 形でデスク上の色調を変化させることから、知的生産 性を向上させることが明らかとなった。また集中度に 同期した色調の変化から、自分の集中状態を視覚的 に把握し、知的生産性の低下を自覚することでオフィ スワーカーの離席を誘発することが可能であると思わ れる。提示したオフィス空間における知識創造性を高 める要因の2つを解決し得る可能性を本実験及び提 案によって提示出来た。今後は実オフィス空間におい て実験を行い、他者との接触回数の測定を予定してい る。しかし今回の実験において被験者12名のうち Jumpの確認出来た7名に対しての有用性を示すことに 留まっているため、作業時間を延長することにより多 くのオフィスワーカーに対して最適な色調変化のタイ ミングが提示出来るようにすることを今後の課題とし たい。
参考文献:
1)野中郁次郎(1990) , 『知識創造の経営:日本企業の エピステモロジー』, 日本経済社
2) 下田宏、宮城和音、内山晧介、大石晃太郎、石井 裕剛、大林史明、岩川幹生(2013) ,『作業への集中に 着目した知的生産性の定量評価法』
図表出典一覧:
図1:飯田「jumpを境にした集中状態遷移モデ ル」,2016
図2:飯田「色調変化と集中状態の関係図」, 2016 図3:飯田「プロトタイプの写真」, 2016