直接操作による実物体志向インタフェースの研究
〜「情報を触る」Info-Materialの提案〜
A Research on a Real-Object Oriented Interface with Direct Manipulation
~A proposal of “Touch Information, Info-Material”~
1W090160-0 黄王 瑞碩 KIO Mizuhiro
指導教員 長 幾朗 教授 Prof. CHO Ikuro
概要: 今日、コンピュータや家電を含む電子機器は広く普及し、生活に欠かせないものとなった。一方で、それらの操 作は依然リモコンや複雑なメニュー構造のような難解なインタフェースに依存しており、各機器間での操作方法の統一 もできていない。これらの問題点によって、今後増え続ける電子機器の操作習得は、人々にとって非常に大きなコスト となっており、従来の入出力装置やGUIという概念自体が、インタフェースの発展の足枷となっている。本研究では、
実物体の具現化情報を直接操作することで、インタフェースを極限まで透明化する「Info-Material」という概念を提案 する。それにより、操作習得の学習コストを軽減し、新しいインタフェース概念の構築を目的とする。
キーワード:実物体志向インタフェース、直接操作、Info-Material
Keywords : Real-Object Oriented Interface, Direct Manipulation, Info-Material
はじめに
本論文は、現状のインタフェースの不自然性と問題点を 指摘、既存のインタフェースについて述べた概念を再定 義し、それらを組み合わせたインタフェース概念の構築 を目的とする。「Info-Material」という概念を提案し、
具体的なプロトタイピングによって現状の課題と今後の 展望を考察していく。
1. インタフェースの現状と問題
コンピュータの登場以来、CUIに始まり、GUIからタッチ インタフェース、フィジカルインタフェースなど、我々 を取り巻くインタフェースの環境は大きく変わってき た。一方で、多くのインタフェースは未だにディスプレ イとポイント装置に頼りきりであり、その考え方は人間 の自然な行為からかけ離れた存在となっている。事実、
多くのインタフェースの操作習得にかかる学習コストは 我々を悩ませており、そのために目的の仕事に集中でき ないことが問題となっている。Donald A. Normanの7段 階モデルから考えても、現状の入出力装置に頼ったGUI などのインタフェースはすでに限界を迎えており、新た な転換期に差し掛かっていることは明白だ。ジェスチャ による操作が実用化され始めた今こそ、今後のインタ フェースを考えるべきタイミングだと言える。現状のイ ンタフェース概念の問題点を、
1. 学習コストの増加
2. 入出力装置によるGUIの限界
以上の2点に絞り、考察と提案を展開していく。
2. 直接操作とインタフェースの透明化
直接操作という概念は、 B.Shneidermanが1980年代に 提唱したものだ。その定義は、
1. タスク空間において対象の変化が連続的に表示され る
2. ユーザーの身体動作によって操作される 3. 操作を漸進的に進行・後退できる
4. 対象への作用と影響が直ちにフィードバックされる 以上のこととされる。今日のディスプレイや、マウスな どのポイント装置は直接操作の代表例と言える。直接操 作の有用性は、インタフェースの意味距離と表現距離を 近づけることである。それによって操作習得の学習コス トは格段に下がり、インタフェースの意味距離と表現距 離が限りなくゼロになった時こそ、直接操作がその究極 の形に達する時である。意味距離と表現距離がゼロに近 いということは、インタフェースの存在感が限りなく透 明に近いということであり、インタフェースそのものを 透明化し、日常において意識されないようにデザインす ることが、今後のコンピューティングにおいて目指すも のと言えよう。
3. 実物体志向インタフェースの適用
実物体志向インタフェースとは、手で触れることのでき る実物体でコンピュータの情報を操作するインタフェー スのことを言う。MITメディアラボの石井裕が提唱する タンジブル・ユーザー・インタフェース (以下、TUI)が 代表例である。人間は本来、実物体を使って物事を整 理・記録したり、考えたりすることを得意としてきた。
付箋やノートを使って記録をしたり、小石で計算をした りと、その例は様々だ。この、人間が本来得意としてい る行為をインタフェースに取り入れることは非常に自然 な流れであり、それによって、未習熟者にとっても使い やすいインタフェースとなることが実物体志向インタ フェースの利点である。また、実物体志向インタフェー スのもうひとつの利点として、実物体を扱う動作が行為 者の意図を表しているという点が挙げられる。例えば、
ドライバーを手にとったら、これからネジを回そうとし ていることが推測でき、第三者がそれを補助しやすくな る。また、従来のインタフェースでは視覚と聴覚のみで しかフィードバックを与えられなかったが、実物体志向 インタフェースでは触覚による表現が可能であり、より 多彩なフィードバックが可能となる。先の項では直接操 作について述べたが、ユーザーとコンピュータの距離を 近づけるその特性から、実物体志向インタフェースとの 親和性が非常に高い。次章では、直接操作の発展による インタフェースの透明化という概念と、実物体志向イン タフェースの概念を融合させることで新たなインタ フェースの概念を提唱していく。
4. 「Info-Material」の提案
本章では、前述した直接操作と実物体志向インタフェー スの概念を組み合わせ、「Info-Material」という概念を 提案する。Info-Materialは、インタフェースを極限まで 透明化した「情報に触る」インタフェースの概念であ る。その定義は以下である。
1. コンピュータ内の情報は実物体として具現化され、
実物体が入出力装置を兼ねる
2. 具現化情報を身体動作で操作することで、コン ピュータ内での操作が処理される
3. 具現化情報に対する操作のフィードバックがリアル タイムで提示される
4. 内部処理を担当するコンピュータ本体は一般には不 可視とし、ユーザーが向き合うのは入出力装置を兼 ねた具現化情報のみである
この条件をもとに、コンセプトモデルである「ビデオ キューブ」をデザインし、プロトタイピングによる実験 検証を行った。その結果、Info-Materialとビデオキュー ブの基本的な部分については有用性が実証されたが、一 部に課題点を残した。
図1 Info-Materialのイメージ
5. 結論
本論文を通して、現状のインタフェースの不自然性を問 い、新しいインタフェース概念の提案と検証を行った。
その結果、ユーザーとコンピュータ間に介在してギャッ プを広げる入出力装置を持った、GUIなどのインタ フェースは不自然であり、その代替案として、コン ピュータ内の情報を実物体として具現化した、人々の生 活に自然に溶け込むようなインタフェース環境が有効で あるという結論を得た。
参考文献
1. 黒川隆夫:『ノンバーバルインタフェース』, 電気情報 通信学会, pp 69-99, 1994
2. 岡田謙一, 西田正吾, 葛岡英明, 仲谷美江, 塩津秀和, 共 著 :『ヒューマンコンピュータインタラクション』,情報 処理学会, pp 64-181, 2002
3. Hiroshi Ishii: 『Tangible Bits:Beyond Pixels』, MIT Media Lab, 2008
4. Donal A. Norman:『Direct Manipulation Interfaces』, HUMAN-COMPUTER INTERACTION Volume 1, 1985