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中国の大学における新しい体育授業の試行的実践

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

中国の大学における新しい体育授業の試行的実践

王, 雪蓮

https://doi.org/10.15017/1807137

出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(人間環境学), 論文博士 バージョン:

権利関係:Fulltext available.

(2)

平成 28 年度博士論文

中国の大学における新しい体育授業の試行的実践

王 雪蓮

(3)

目次

序章

Ⅰ はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

Ⅱ 中国大学生の健康状態と生活習慣について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

Ⅲ 大学体育と社会的スキル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

Ⅳ 中国大学体育の現状と目指すべき方向性及び授業研究の必要性・・・・・・・・・ 8

Ⅴ 本研究を実施する意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

Ⅵ 本研究の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

第 1 章 中国の大学生の健康度と生活習慣

第 1 章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

研究Ⅰ 健康度・生活習慣の実態

目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

研究Ⅱ 健康度に及ぼす生活習慣の影響

目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

(4)

研究Ⅲ 体育系と非体育系の大学生における健康度・生活習慣の比較

目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

第 1 章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35

2 章 中国の大学生の体育授業に対する期待と満足感

第 2 章の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36

研究Ⅰ 体育授業への期待尺度の作成

目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37

方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37

結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38

研究Ⅱ 体育授業に対する満足感尺度の作成

目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48

方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48

結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49

研究Ⅲ 健康度の変化と体育授業に対する満足感との関係

目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51

方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51

結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52

(5)

第2章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54

3 章 価値と魅力を有する大学体育授業プログラムの実践効果の検討

目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55

方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55

結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57

考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60

4 章 総合論議

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62

引用文献

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66

資 料

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75

公表論文

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83

謝 辞

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84

(6)

序章

Ⅰ はじめに

情報化社会の進展に伴って,知識の更新速度は速くなり,不断の自己学習と自己啓発が

要求されるようになっている。中国においても,教育への投資が増加し,それは子女への

教育費の増加にとどまらず,成人教育費用の増加にも至っている。さらに,英会話スクー

ル,修士課程・博士課程への進学,海外留学など積極的に出費して何かを学習しようする

人々が増加している。その一方で,中国ライフスタイル白書(日本能率協会総合研究所,

2007)では,青少年が運動・スポーツを行う時間は減少し,発育発達や健康に悪影響が及 んでいるという指摘がなされている。また,一人っ子は,両親から一身に愛情を受けて育

ち,「小皇帝(男児の場合)」,「小公主(女児の場合)」とも呼ばれる過保護の子どもが増加

し,様々な問題を抱えていることも指摘されている。

大学生の生活に目を向けてみると,中国では,多くは,高校までは実家から通学してい

るが,大学へ入学すると学生寮に住むことが多くなり自立的な生活を始めることになる。

大学生の時期は,次世代を担う若者たちが,自らの生活を見つめ直し,どのように行動す

るかを自らに問いかける時期であるとも言える。中国では10月に新学期が始まるが,新入 生は最初の1ヶ月間に,軍隊の指導官から軍隊的な訓練を受ける。朝9時頃から夕方まで,

軍隊流の姿勢や歩き方などの練習が毎日繰り返される。そのことによって,新しい自立的

な生活を行うための基礎となる忍耐力を鍛え,困難と戦うという強い気持ちを培おうとし

ている。

(7)

しかし,高校までは規則的な生活習慣を維持していたが,大学へ入学後に生活習慣が不

規則になる学生が多いという現状もある。長時間,インターネットカフェでゲームに夢中

になる,普段の授業のためには勉強しないが学期末試験の前だけ勉強する,一日に一食し

か摂らない,あるいはインスタント食品ばかりを食べている,などの学生が存在するとい

う点は,日本とあまり変わりはないかもしれない。一方で,勉学に真剣に取り組む学生も

多いが,そのような学生は放課後も毎日のように学校の講義室に残って自主勉強し,運動

をする機会をほとんど有してしない。実際,中国の大学生の約66%が運動不足であると感

じており,普段よく運動をするという大学生は約19%に過ぎず,脊椎痛などを訴える学生 の増加も認められている(浦, 2007)。また,馬と張(2009)は,2,150名の中学生の余暇活

動について調査し,81%が数学や英語などの塾に通い,11%は何にもせず,スポーツ・運

動に参加している中学生はわずか7.6%しかいないことを示し,低年齢時代からの運動不足

を指摘している。このような現状を考えると,大学生が充実した学生生活を送ることがで

きるようにするために,また生涯にわたって豊かな人生を送るための基礎になる心身の健

全な育成や健康の維持・増進のために,定期的に規則的な運動ができる環境を提供できる

「体育授業」の必要性は,十分に強調されるべきと思われる。

学校における体育教育のあり方に関して,中国教育部(日本の文部科学省に相当する)

は,高等教育における体育課程の新しい指針を作成している。そこでは,「健康第一」とい

う基本的な指導理念が打ち出されており,加えて,運動に対する興味・関心を誘発するこ

とや学生の体育意識を培うことの重要性,さらには,学生側からの要求や期待に応えるこ

との重要性が強調されており,学校体育の必要性が,国レベルでも唱えられている(毛,

(8)

2009)。

このような国家方針を受け,近年中国の大学も,運動不足の解消や授業の魅力の向上を

目指した,様々な試みを行っている。例えば,1 年間の必修体育授業を 2年間に延長した 大学も見受けられるようになった。また,かつては,多くの大学において,選択スポーツ

種目を学生が選択する自由はなく学校側が決めており,選択できたとしても陸上競技やバ

スケットボールなどの種目に限定されていた。現在では,選択しうるスポーツ種目も増加

し,女性に人気があるエアロビックダンス,卓球,バドミントン,水泳などの授業が開講

されている大学もある。中国の大学体育授業も,現代の日本と同様に,学生の選択する余

地が広がり,新しい時代に変わってきたと言うことができるかもしれない。

Ⅱ 中国の大学生の健康状態と生活習慣について

World Health Organization(2009)は,健康について「肉体的,精神的,及び社会的に完 全に良好な状態であって,単に疾病また病弱が存在しないということだけではない」と規

定しているが,中国では,「4次元健康観」(図1),「健康の5要素」(図2)などの健康観

や枠組みが提示されている(浦, 2007)。中国において,健康は,人類の存在,経済の発展,

社会の進歩,民族の興衰を保証するものであると見なされている(馬,1996)。また,中国

国務院が打ち出している「教育改革,全面素質教育」では,健康は青少年が国と国民のた

めに貢献しようとする際の大前提であり,中華民族が繁栄していることの表れであると述

べられている(馬, 2009)。

(9)

1. 4次元健康観(浦, 2007) 図2. 健康の5要素(浦, 2007)

近年,学生の健康状態や生活習慣に対する社会的な関心も高まってきている。1985年に は,新中国の成立を機に「第一回全国学生体質健康状況調査」が実施され,1987年には「全 国学生体質健康調査制度」が制定された。これは,4 年に一回,中国全土にわたって体力

や健康状態などの調査を行うというものである(浦, 2007)。

このような健康に対する関心は,心理的側面にも向けられるようになってきた。経済発

展や社会競争の激化は,中国の大学生にも多面的なストレスを生み出しているものと考え

られる。日本では,物質的豊かさを享受できるようになってきた一方で,精神的には豊か

とは言えないような事象も多く,心の健康の問題が注目されているが,中国においても様々

な精神的あるいは行動的な問題が現れている。1989 年に中国教育部によって実施された

「全国大学生の心理健康に関する無作為調査」によると,様々な程度の心理疾病を有する

学生は20.2%であった。その後行われた3回目の調査で24%にまで上昇し,最近の調査で

はさらに上昇していることが報告されている(焦, 2007)。このようなことから,精神的な健

康の維持・増進についても,そのための健康教育を行うことが急務であると考えられてい

(10)

る。

日本では,川畑ら(1989)により生活習慣(食生活,栄養,身体活動・運動,休養,心の

健康など)の問題が論じられており,健康の維持・増進に対する考え方の発展が見て取れ

る。特に,木内ら(2008),長弘ら(2002)では,運動頻度が高い者ほど健康度や生活習慣

が良好であるという傾向が示されており,運動を習慣化することにより食生活や休養のあ

り方,健康度などが改善する可能性があると指摘されている。これらは,九州大学健康科

学センター(1998)でも報告されている。規則正しい睡眠習慣,継続的な運動・スポーツ

を行うことや趣味を持つことは,精神的健康を向上させるために重要な役割を担っている。

また,主観的なストレスに強いライフスタイルを持つ者は,うつを抑える可能性がある(森

本, 1987)。佐藤(2003)は,Goldbergらが開発したGHQ(The General Health Questionnaire)を 用いてライフスタイルと精神的健康との関係を検討し,食事の不規則性は精神的健康に強

く影響するということを明らかにした。飯島・森本(1998)も,ライフスタイルは身体的健

康だけではなく,精神的健康にも関連することを指摘した。富永ら(2001)は,UPI(University Personality Inventory)を用いて,精神的健康と睡眠時間とが負の関係にあることを示した。

さらに,睡眠,朝食,間食,飲酒,喫煙,運動,適切体重の維持といった生活習慣が健康

と関係していることは,古くより示されている(Belloc & Breslow, 1972)。例えば,睡眠習

慣が心身の健康に重要な役割を持っていることがしばしば報告されている(李, 2010; 佐々

木・中川, 2002)。

ところで,1990 年代までに行われた健康に関する研究では,健康度,ストレス,栄養,

運動,睡眠などといった変数が取り上げられているのだが,これらの健康関連変数を同時

(11)

的に扱うような研究は必ずしも多くなかった。しかしながら,生活習慣や運動習慣を含め,

人々の健康を包括的に捉え,その具体的な改善策を提示するためには,個人の健康度や生

活習慣を総合的に把握する必要があると考えられる。このような状況に鑑みて,徳永ら

(2001, 2003, 2008)が,「健康度・生活習慣診断検査(DIHAL.2)」を開発した。この質問

紙尺度は,健康度に関わる3つの因子(身体的健康度,精神的健康度,社会的健康度)と,

生活習慣に関わる 9 つの因子(運動行動・条件,運動意識,食事のバランス,食事の規 則性,嗜好品,休息,睡眠の規則性,睡眠の充足性,ストレス回避行動)によって構成

されており,広範囲の健康度や生活習慣が,同時にかつ簡便に測定できるようになって

いる。

中国においても,21世紀になり,精神的健康度とライフスタイルの研究が多く見られて

いる(Jing & Wu, 2007; Ma et al., 2009; 毛, 2009; Margareta et al., 2005)。一方で,前述したよ

うに,青少年・学生に対する健康教育に関する様々な方針を打ち出されており,学生の健

康や生活習慣も調査されているのだが,そこで用いられた調査項目は,構造化されていな

いものがほとんどであり,学生の健康状態や生活習慣の実態が包括的に把握されていると

は言い難い。そのため,中国の学生の健康状態と生活習慣や運動習慣との相互関係や,そ

れぞれの規定要因についても,不明な点が多い。大学体育教育の目的のひとつが,運動習

慣や生活習慣を改善し,健康度を高めることにあることから,これらの変数間の相互関係

や因果関係を明らかにしておくことは,中国の健康科学研究における重要な課題であると

言えるだろう。

(12)

Ⅲ 大学体育と社会的スキル

体育授業では,単に健康になることではなく,社会的調整能力を培うことも重要である

と言われている(胡ら, 2007)。すなわち,日本では,コミュニケーションスキルを含む社

会的スキルの低下が,社会的な問題として取り上げられるようになってきており(橋本,

2008),アフリカ社会においても,Pitan & Adedeji (2012) により,コミュニケーションス

キルは大学生が順調に社会に適応するために重要な役割を持っていると指摘されている。

近年では,日本や世界各国と同様に,中国でも,青少年の「社会的スキル」が注目される

ようになってきた。これには様々な理由があると考えられるが,最も注目されている要因

に,1970年代後半に始まり,20年以上継続されてきた「一人っ子政策」がある。一人っ子

には,社会的スキルに関する問題が多く存在すると指摘されている(候, 2003).加えて,

IT技術が発展し,都市部の若者の間で携帯電話やインターネットが普及し,間接的メディ アによるコミュニケーションが多くなってきた。羅(2002)による大学生の余暇時間に関す

る調査でも,インターネットカフェで過ごしたことがある大学生は,男性で約87%,女性

で約71%という結果が示されている。このような間接的コミュニケーションの増加もまた,

中国の青少年の社会的スキルの低下をもたらしている可能性があると言えるだろう。これ

までの社会的スキルに関する研究においては,測定尺度の作成が注目される(例えば,

Riggio, 1986) とともに,「社会的スキルは,感情の表現や心理的な変数と関係し,他人と

の交流の役に立つ」というような結果を示す研究がなされてきた(Danish et al., 2002;

DiTommaso et al., 2003; Uchiyama et al., 2011)。

このような現状の中,Wen & Lu(2007)は中国の大学生の社会適応能力についての研究

(13)

を行い,毛 (2002)はアメリカにおける社会的スキルの概念や,社会的スキルを測定する代

表的な尺度が,中国に導入されてきた経緯などについて概観している。また候(2003)は,

菊池 (1988) が開発したKiSS-18という社会的スキル尺度を用いて,中国の大学生を対象 に研究を行っている。さらに毛(2003)は,この尺度が中国の青少年に適用できるかどうか

を検討し,日本の高校生と同様,中国の高校生の男女間に社会的スキル得点の有意な差が

ないこと,また,中国の学生の方が,自己主張傾向が強いことを明らかにしている。

社会的スキルは,構造的に,認知的側面と行動的側面の両方を含んでいる概念であるが,

学習の原理と技法を用いることで体系的に教えることができ,またそのようにして教える

べきものと考えられている(相川, 2009)。日本の大学体育の授業研究においても,授業で課

題に取り組むことができることと社会的スキルの高さの間に正の関係があることが明らか

にされており,社会的スキルは,教育をより効率的に実施するための必要条件とも見なせ

るものである(佐々木, 2004; 島本・石井, 2007)。

体育授業には,身体的健康教育の場としてだけでなく,社会的相互作用を通して友人を

作る場,あるいはコミュニケーションスキルを含む社会的スキルの育成の場としての機能

もある(中村, 2006)。このように,大学生の社会的スキル問題に対し,大学の共通教育科目

として開講されている体育授業は,多大な貢献をする可能性を有していると言える。

Ⅳ 中国大学体育の現状と目指すべき方向性及び授業研究の必要性

これまでにも述べてきたように,中国では,大学における体育教育を,健康づくりや社

会的適応への第一歩などと位置づけている。しかし,実際の教育現場においては,運動技

(14)

術の指導を中心とした授業は行われているものの,健康の改善や社会性を高めるようなプ

ログラムはほとんど実施されていない。その一方で,学生の健康問題に対し,体験学習の

場としての大学体育がどのような機能を果たしうるのかという問題については,様々な指

摘がなされている。例えば,体育は「身体的活動を通して心身を健康にするとともに,全

人的な発展をもたらすことを目的とし,立派な社会的国民に育てることを最終の目標とし

た社会文化または教育課程」などと考えられている(浦, 2007)。また,体育の機能として,

教育,運動・娯楽,競争意識の養成,政治・経済・文化の伝達などが挙げられている(鮑,

1995)。つまり,学校体育は,人間教育の手段のひとつであり,学生を健康にすると同時に

学生の知力,心理的能力,社会適応能力を促進するものであると見なされていると言える

(胡ら, 2007)。これまでのところ,体育授業において,目標設定や動機づけなどの研究が行

われており(Barkoukis et al., 2008; Chen &Ennis, 2004; Lonsdale et al., 2001; Pearman III et al.,

2014),体育授業は学校教育で新たな役割を担うことが期待されていると考えられる。

日本においても,近年,学生のメンタルヘルスの悪化,コミュニケーション能力の欠如,

体力の低下などが指摘されており,大学の抱える問題の 1 つとなっている(橋本, 2006; 佐

藤ら, 1996)。そして,大学における保健体育授業やスポーツ実習授業を通して,健康の維

持・増進や生活・運動習慣の改善を目指した「教育」を積極的に行うことは,現代の重要

な課題であると考えられている(徳永・山崎, 2008)。すなわち,大学生の健康状態や生活・

運動習慣は,体育授業を通して,意図的に変容させることができると考えられる。

もちろん,全人的な教育効果を考えるのであれば,体育授業の受講期間だけではなく,

その後のライフスタイルへの影響をも考慮して,教育プログラムを構築・評価する必要は

(15)

あるだろう(木内ら, 2008; 津田ら, 1998)。より健康的な生活を送るために,良好なライフ

スタイルを保つことが重要である。大学のライフスタイルは,以降の成人期へと踏襲され

る可能性があるため,大学一年の時に適切なライフスタイルを選択することは重要である

と考えられる。

言い換えれば,体育授業は,運動・スポーツや健康に関する科学的知識を教授するだけ

でなく,健康維持・増進スキルの獲得や日常生活場面での身体活動の増進にも資するもの

であるべきである。スポーツ経験も,学生の性格や個性の発展の役に立つことが示唆され

ている(上野・中込, 1998)。しかしながら,知的エリート教育を主眼とする中国の大学にお

いては,必ずしもその重要性が認識されているとは言えないようである。また,日本では,

知識や態度を教授するだけではなく,学習した内容を学生が実践・練習することができる

場であるという点において,体育授業は重要であるということが指摘されているが(竹中,

2001),中国においても,このような大学における体育活動の意義に対する理解を深めてい く必要があるだろう。さらに,身体活動・運動が健康の維持・増進に果たす役割が強調さ

れている今日において,大学在学中の身体活動量を維持・増進する教育が必要なことも指

摘されている(馬, 1996)。学校体育授業は,学生に規則的な身体活動を提供し,学生の健康

増進に寄与すると考えられるものであり(荒井ら, 2005; Fairclough & Stratton, 2005),運動

を習慣化することによってその他の生活習慣や様々な種類の健康度が良好なものになるこ

とが示唆されている(山崎ら, 2004),このことからも,大学における体育の重要性を強調し

ていくことが期待されている。

中国,日本に関わらず,一般的な大学生に対する健康教育の場としては,共通教育科目

(16)

(いわゆる,一般教養科目)として開講される体育授業が挙げられる。体育の授業は,取

り上げる課題の特性上,比較的少人数で行われることが多い。また,行動の自由度も高い

ため,健康教育の場としてだけではなく,社会的スキル育成の場あるいは友人形成の場と

して機能することが指摘されている(中村, 2006; 佐々木, 2004; 島本・石井, 2007)。体育授

業において,体育教員は,学生のコミュニケーション力等の向上に資する効果的な授業プ

ログラムをデザインする必要があるが(Gülay et al., 2010; Salamuddin & Harun, 2010),この

ような場は,高校から大学生活への移行を円滑にし,学生一人ひとりを学問的,社会的な

「成功」へと導くきっかけを作る場であるとも言え,大学全入時代間近の日本においては,

その重要性はますます高まっているようである(木内, 2008)。

また,米国の大学における健康関連カリキュラムでは,「生涯を通じて」,「学外で」,「一

人で」行える活動(例えば,ウォーキング,ジョキング,エアロビックダンスなど)が強

調されている(竹中, 2001)。さらに,「運動の楽しさや喜びを味わう」ことは今日の学校体

育の学習目標のひとつともなっているが(藤田・杉原, 2007; 伊藤・織奥, 1998; 徳永・橋本,

1980),体育授業において生じる楽しさのようなポジティブな経験は,内発的動機づけと密

接に関係していると指摘されている(Ferrer-Caja & Weiss, 2000; Hassandra et al, 2003; 伊藤,

2003; Papaioannou & Bebetsos, 2006; Vanden Auweele et al., 2006)。つまり,体育授業で楽し さが重視されることにより,上達のための努力,学習,協力行動が導かれると考えられる(賀

川, 1984; Standage et al., 2003).このような点から見ても,学生が楽しみながら自発的に活

動できる体育授業を,積極的に構築していく必要があると考えられる。

これまでにも述べてきたように,身体活動や運動が健康の維持・増進に果たす役割が強

(17)

調されている今日,大学在学中に身体活動量を維持・増進するような健康教育が必要なこ

とは明らかである。また,そのために実践的な学習活動が必要であり,それにふさわしい

場としての体育授業の重要性が示唆されている(浦, 2007)。加えて,体育の授業は大学新入

生の学問的,社会的適応を同時にサポートできる絶好の場であると指摘されている。しか

し,中国の教育現場では,事実上,このような教育の効果を測定・評価しようという動き

は見られていない。大学体育についても,健康教育や社会への適応を目指すような取り組

みが大学生にどのような効果をもたらすのかについての議論は,ほとんど進んでいない状

態である(毛, 2009)。

現代では,国や地域を問わず,体育教育に求められている主な役割に,青少年の現在及

び将来の身体的,心理的あるいは社会的健康を増進させることがあると考えられている。

中国では,体育授業は,「小四門」(音楽,体育,美術,労働という四つの授業)のひとつ

と言われ,それを行うかどうかは,学校教育において,あまり大きな影響はないと考えら

れている,また,授業では,「放羊式」という,放任主義的な形式が多いことが報告されて

いる (劉, 2013)。このような状況を踏まえて,大学においても,体育授業をどのように構

築すればよいのかを検討する必要があると考えられる。中国において,大学体育の授業は,

かつては指定されたコースを受講しなればいけないことが多かった。近年では,学生が授

業コースを自由に選択できるようになってきた。30 の大学の体育授業内容の調査(王,

2009)により,体育授業で体力測定の意義や内容について教えている大学は約 16%しかな

く,授業以外の場で体力測定の目的や意義などを周知しようとしている大学は 7%もない ことが示されている。このように,中国の多くの大学は,体力測定の意義や健康教育につ

(18)

いての理解が十分でないまま体育教育が実践されているおり,学生の健康増進という目的

の達成は必ずしも容易ではない。

一方で,体育の授業コースを自由に選択することができる大学が増加しつつある現状で

は,学生の関心を引き,要求を満たすような授業のあり方を検討していくということも行

っていかなければならないだろう。

このような様々な問題が提起されている中国の体育・スポーツ科学領域において,大学

の体育授業に関する研究はほとんど行われていない。大学生の心理的,社会的健康を含む

健康状態や,運動・生活習慣の実態が十分に把握されているとは言えず(焦, 2007),大学体

育に対して学生がどのような授業を望んでいるのかについても把握されているとは言い難

い。あわせて,中国の大学生の「健康度・生活習慣」を包括的に捉えるような尺度や,授

業への期待や授業での満足度を評価するような尺度も整備されていない。中国における大

学体育授業の効果を検証するためにも,このような尺度を開発し,整備していくことが求

められよう。

体育授業やスポーツ実習を通して,健康の維持・増進や生活習慣の改善を指導すること

が重要であることは先にも述べたが,大学生の健康問題を吟味してみると生活習慣に起因

していると思われる事象が多く,健康教育においては講義の内容を理解するだけではなく,

行動を変容させ,健康行動を習慣化することも求められている(山崎ら, 2004)。つまり,学

校教育を通して,日常の生活習慣行動を実際に変えることで,健康維持・増進を図ること

が必要であると考えられている。中国において,このような観点から大学体育授業を実践

したり,その教育効果を検証するような研究は皆無である。具体的な行動の変化をもたら

(19)

しうる行動科学的アプローチによって,健康的・活動的ライフスタイルを構築しようとい

う視点は,中国の大学体育教育の現場へも積極的に導入されるべきであろう。

さらに,日本では,学生の期待に応えつつ,行動変容をもたらすような大学体育の授業

プログラムの開発を目指して,根上(2006)により,体育授業の三元論・相互干渉モデルが

提案されている(図3)。

3. 体育授業の三元論的・相互干渉モデル(根上, 2006)

このモデルでは,体育授業の中に存在する「価値ある教育」,「魅力ある活動」,「挑戦・冒

険的経験」は相互に対立する関係にありながら,時には互いに一方を要素として取り込み,

相補的関係において活性化するものであると考えられている。特に,一般教育的な体育授

業では,「価値」及び「魅力」の共存が重要であり,両者を備えた授業モデルを構築するこ

とが,現代体育における重要な課題であると指摘されている(橋本, 2008)。しかし,「価値

ある授業」と「魅力ある授業」の両立には様々な制約がある。教師から見た「価値ある授

業」の様相が様々である一方で,学生にとっての「魅力ある授業」に対しても,教師によ

(20)

って一貫した認知がなされていない場合が多く,両者の相補性を十分に生かした授業の実

現には,なお,多くの理論的考察や試行が必要であると思われる。

Ⅴ 本研究を実施する意義

以上の論議を踏まえると,中国の大学体育において,体育授業を学生にとって魅力のあ

る授業とすることを視野に入れながら,健康状態や生活習慣を改善し,社会的スキルを獲

得させるような価値のある授業に作り上げていくことを検討すべきであると考えられる。

そして,このような観点に則った体育授業プログラムを開発し,実践することが期待され

る。また,それらの効果を検証するための授業研究も,積み重ねていくことが必要である

と思われる。

Jiang & Wu (2007)は,大学生のライフスタイルと精神的健康の関係について検討し,望

ましいライフスタイルは良好な対人関係と有意に関係していることを明らかにしている。

また,胡ら (2007) は,大学体育授業は,学生の社会への適応を促進する役割を果たすと

論じている。Xiao (2007)やSun & Ji (2010)も,大学体育授業における身体活動が,大学生

の社会適応能力や自己調整能力の育成,余暇身体活動への参加に役立つことを実証してい

る。したがって,大学体育授業は健康の維持・増進に資すると同時に,将来社会に適応す

るために必要な様々な能力を培う場としても機能すると考えられる。

しかし,中国における学生の体育教育・健康教育を扱う分野では,これまで,個々の健

康度や生活習慣あるいは社会的スキルを扱う研究は行われているが,それらを総合的に扱

おうとする研究はほとんど見られない。その理由として,健康度や生活習慣を包括的に測

(21)

定する尺度が少ないことが挙げられる。本論文の研究では,徳永ら(2001, 2003, 2008)が

作成した健康度・生活習慣診断検査(DIHAL.2)を活用し,健康度を身体的,精神的,社

会的の3側面から,また生活習慣を運動習慣,食事習慣及び休養の3側面から,それぞれ 同時に測定した。中国の大学生に対する,この尺度の有効性が確認できれば,より包括的

な評価が可能になり,研究の進展が期待される。また,これまで,中国においては,体育

授業では学生の要求を重視するべきであると主張されている(毛, 2009)。しかし,そのよう

な学生の要求を測定する研究は多くない。

以上の議論を踏まえると,中国の大学体育において,学生にとって「魅力」のある授業

とすることを視野に入れながら,健康状態や生活習慣を改善し,社会的スキルの獲得させ

るような「価値」のある授業に作りあげていくことを検討すべきであると考えられる。そ

のためには,必要な測定尺度を構築し,上記のような観点に沿った体育授業プログラムを

開発し,さらに実践して,それらの効果を検証するための授業研究を積み重ねていくこと

が必要であると思われる。

Ⅵ 本研究の課題

本章では,価値と魅力がある授業プログラムとして,学生の期待に応えつつ,健康度や

生活習慣に関わる知識を教授するとともに,コミュニケーションスキルを含む社会的スキ

ルの向上を意図した授業を構築する必要性を論じてきた。また,先行研究の成果から,健

康度は生活習慣やコミュニケーションスキルを含む社会的スキルと関連しており,体育授

業はこれらの向上に役立つことも示唆されている。そこで,本研究では,中国の大学生の

(22)

健康度や生活習慣,及び学生が授業に期待していることとそれに対する満足度を明らかに

した上で,それらの向上が期待される体育授業プログラムを構築し,実践し,その効果を

検証することを目的とした。

本論文では,図 4 に示すように,まず第1章で,健康度や生活習慣を改善するような「価

値ある授業」の構築に必要な基礎的情報を得るために,「健康度・生活習慣診断検査

(DIHAL.2)」の中国語版を用いて,中国大学生の健康状態および生活習慣を調査し,その

実態を確認し,また,健康度と生活習慣の関係を検討する。続いて第2章では,学生の期

待に沿うような「魅力ある授業」の構築に必要な情報を収集するために,体育授業への期

待と満足感を明らかにする。そして第3章では,第1章と第2章の研究で得られた結果を 参照しながら,体育授業プログラムを作成し,その実践を通して効果を検討する。

(23)

4. 本論文の研究フローチャート図 第1章 中国の大学生の健康度と生活習慣

(価値ある授業にかかる調査)

序章 先行研究のまとめ,本研究の課題

第2章 中国の大学生の体育授業に対する期待と満足感

(魅力ある授業にかかる調査)

第3章 価値と魅力を有する大学体育授業プログラムの実践効果の検討 研究Ⅰ

健康度・生活習慣 の実態

研究Ⅱ 健康度に及ぼす 生活習慣の影響

研究Ⅲ 体育系と非体育

系の比較

研究Ⅱ 体育授業に対する 満足感尺度の作成 研究Ⅰ

体育授業への 期待尺度の作成

研究Ⅲ 健康度の変化と 満足感との関係

(24)

第1章 中国の大学生の健康度と生活習慣

第1章の目的

本章では,「価値ある授業」の構築に必要な基礎的情報を収集し,具体的な改善方策の立

案に役立たせるために,中国の大学生の健康度や生活習慣を総合的に把握することを目的

とした。研究Ⅰでは,徳永・橋本(2001)が開発した「健康度・生活習慣診断検査(DIHAL.2)」

を用いて,中国大学生の健康度(身体的健康度,精神的健康度,社会的健康度)と生活習

慣(運動習慣,食事習慣,休養)を調査した。研究Ⅱでは,中国の大学生において,生活

習慣が,健康度の自己評価にどのように影響を与えているかを検討した。研究Ⅲでは,運

動・スポーツとの関わり方の影響を検討するため,体育系学生と非体育系学生の比較を行

った。

(25)

研究Ⅰ 健康度・生活習慣の実態

目的

本研究では,体育の授業を受講する中国の大学生の身体的,精神的,社会的健康度,お

よび,運動,食生活,休養という生活習慣に関わる調査を行い,その実態を明らかにする

ことを目的とした。

方法

調査対象者

調査対象は,中国大連市にあるH大学の大学1年生300名(女191名, 男109名)であ った。調査は,200X年6月に,必修体育授業の時間の一部を利用して実施した。

調査尺度の中国語版の作成

「健康度・生活習慣診断検査(Diagnostic Inventory of Health and Life Habit, DIHAL.2, 中

学生~成人用」(株式会社トーヨーフィジカル, 2003年発行)の原版を,中国語に翻訳した。

原版と内容的に一致させるために,日本に長年留学し,現在は中国在住のD大学に勤務す る体育教員2人がチェックした。翻訳に際しては,基本的に日本版の意図を変えないよう にした上で,中国語で理解しやすい表現にした。

調査内容

本尺度は,健康度,運動,食事,休養という4つの下位尺度で構成されている。さらに,

健康度は,身体的健康度,精神的健康度,社会的健康度という3つの因子からなる。また,

(26)

運動には運動行動・条件,運動意識の2つの因子が,食事には食品のバランス,食事の規 則性,嗜好品という3つの因子が,休養には休息,睡眠の規則性,睡眠の充足度,ストレ スの回避という4つの因子が含まれており,全部で12因子,47項目で構成されている(表 1)。回答方法は,中国語版においても,原版と同じように「あてはまらない」~「よくあ

てはまる」という5件法を用いた。

1. 健康度・生活習慣診断検査の内容

統計処理

統計処理として,まず中国語版尺度の内的整合性の分析,及び検証的因子分析を行った。

次に,各下位尺度の得点を算出し,中国の大学生の健康度,生活習慣のパターンを検討し

た。さらに,健康度と生活習慣の相関関係を検討した。すべての統計処理は,SPSS18.0及

びAMOS18.0を使用して行った。

3. 食 事・・・食品のバランス(7),食事の規則性(4),嗜好品(2)

4. 休 養・・・休息(3),睡眠の規則性(3),睡眠の充足度(4),ストレス回避(4) 回答は5件法

健康度・生活習慣診断検査

(Diagnostic Inventory of Health and Life Habit: DIHAL.2) 表1. 健康度・生活習慣診断検査の内容

尺度名 因子名 ( )内は質問項目の数

1. 健康度・・・身体的健康(4),精神的健康(4),社会的健康(4) 2. 運 動・・・運動行動(5),運動意識(3)

(27)

結果及び考察

尺度の信頼性および妥当性の検討

中国語版尺度の内的整合性を検討するために,Cronbachのα係数を算出したところ,全

体でα=.88,下位尺度ごとではα=.85〜.88であった(表2)。妥当性については,検証的因

子分析を行った(図5)。すべての因子間の共分散を想定したモデルで分析を行ったところ,

適合度指標はGFI(Goodness of Fit Index)=.852,CFI(Comparative Fit Index)=.724,AGFI

(Adjusted Goodness of Fit Index)=.803,RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)

=.085を示した。GFIは,通常0から1までの値となり,モデルの説明力の目安となる。1

に近いほど,説明力のあるモデルと言える(小塩, 2004)。AGFIは,値が1に近いほどデ ータへの当てはまりがよい。また,「GFI> AGFI」であり,GFIに比べてAGFIが著しく低 下するモデルはあまり好ましくない(小塩, 2004)。CFIは1に近いほどモデルがデータに

うまく適合している(小塩, 2004)。RMSEAは.05以下であれば望ましく,.1以上であれば

適合度はよくないと言われている。以上のことから,本尺度は,各下位尺度の信頼性(内

定整合性)は備えているが,全体の構造にかかるモデル妥当性については十分とは言えな

かった。

2. 健康度・生活習慣診断検査尺度の信頼性

尺度 α系数

① 健康度 .87

② 運 動 .88

③ 飲 食 .86

④ 休 養 .85

⑤ 生活習慣②~④ .80

⑥ 健康度・生活習慣①~④ .88

表2. 健康度・生活習慣診断検査中国語版の信頼性

(28)

5. 健康度・生活習慣診断検査尺度の検証的因子分析 GFI=.852 CFI=.724 AGFI=.803 RMSEA=.085

(29)

このような結果を踏まえて,以降の分析では下位尺度ごと,あるいは因子ごとの分析を

行うこととする。今後,健康度と生活習慣をより体系的に捉えようとする際には,尺度の

因子構造を,更に詳しく検討する必要があると考えられる。

各因子の得点

表3には,中国の大学生の健康状態と生活習慣の各因子の得点を示している。原版の因 子別,尺度別,合計点の判定表(表 4)に従って得点を評価すると,健康度は,身体的健 康,精神的健康,社会的健康のいずれも「3(もう少し)」と判定され,生活習慣の総合得

点も「3(もう少し)」と判定される。さらに,運動は運動条件および運動意識のいずれも

「3(もう少し)」,食事は食事バランスと食事規則性が「3(もう少し)」,嗜好品が「5(非

常に優れている)」,休養は休息,睡眠の充足度,ストレス回避が「3(もう少し)」,睡眠の

規則性が「4(やや優れている)」と判定された。

3. 健康度・生活習慣の下位尺度及び因子の得点

尺度 因子 M SD Min Max 身体的健康 13.92 2.52 7 20 精神的健康 14.45 2.32 7 20 社会的健康 13.57 2.8 4 20

合計 41.94 5.06 27 57

運動習慣 27.12 27.12 14 40

食事習慣 46.40 7.18 25 65

休養 46.68 7.15 25 66

生活習慣合計 120.20 15.07 81 166 表3. 健康度・生活習慣の下位尺度及び因子の得点

(30)

4. 健康度・生活習慣の因子別,尺度別,合計得点の判定表

以上により,嗜好品得点(高得点ほど,飲酒・喫煙が少ない)については,中国の大学

生は優れていることが明らかになった。中国では,飲酒及び喫煙が18歳から認められてい るが,今回調査をした大学ではそれらが禁止されているということが大きく影響している

と考えられる。また,睡眠の規則性に対しては,「やや優れている」と判定されたが,今回

の調査対象者は全員が学生寮に住んでいるおり,毎日の消灯時間や起床時間などが決めら

れている。このために,よい結果が示されたものと考えられる。その他,運動条件,運動

意識,食事バランス,休息,睡眠の充足性,ストレス回避については,「もう少し」という

判定であり,改善する余地があると考えられる。特に,睡眠規則性(やや優れている)と

睡眠充足度(もう少し)の結果には注意すべきである。学生寮では,毎日の消灯時間と起

床時間は決まっているが,学生は必ずしも十分な睡眠時間が確保できておらず,朝目覚め

たときの気分もよいとは言えないことがわかった。このような結果から,学生の睡眠の質

は,あまりよくないと推測できる。

尺度 因子 1 (かなり低い) 2 (やや低い) 3 (もう少し) 4 (やや優れている) 5 (非常に優れている)

身体的健康 410 1113 1416 1718 1920 精神的健康 4~9 10~12 13~15 16~18 19~20 社会的健康 4~8 9~11 12~14 15~17 18~20 合計 1232 3338 3944 4550 5160 運動行動・条件 5~9 10~14 15~19 20~23 24~25 運動意識 37 810 1112 1314 15

合計 8~18 19~24 25~31 32~37 38~40

食事バランス 7~15 16~20 21~26 27~31 32~35 食事規則性 47 811 1215 1618 1920

嗜好品 2 3~4 5~6 7~8 9~10

合計 1332 3341 4250 5158 5965

休息 3~4 5~8 9~11 12~13 14~15

睡眠の規則性 3 4~5 6~9 10~12 13~15 睡眠の充足度 46 79 1012 1315 1620 ストレス回避 4~9 10~12 13~15 16~18 19~20 合計 1429 3037 3846 4752 5370 生活習慣合計 35~89 90~107 108~124 125~142 143~175

康 度

生 活 習 慣

表4. 健康度・生活習慣の因子別,尺度別,合計得点の判定表

(31)

研究Ⅱ 健康度に及ぼす生活習慣の影響

目的

研究Ⅰでは,中国の大学生の生活習慣と健康状態の実態を調べた。これらに加えて,中

国の大学生における健康状態に影響する生活的な要因を明らかにすることは,大学におけ

る健康教育に資すると考えられる。そこで研究Ⅱでは,中国の大学生の生活習慣が健康状

態にどのように影響しているのかを検討した。

方法

調査対象者

本章研究Ⅰと同様に,中国の大学1年生300名(女191名, 男109名)を対象とした。

調査尺度

本章研究Ⅰで作成した「健康度・生活習慣診断検査(DIHAL.2)中国語版」を使用した。

統計処理

相関分析及び強制投入法による重回帰分析を実施した。すべての統計処理は,SPSS18.0

を使用して行った。

結果及び考察

健康度・生活習慣の各因子の得点間の相関係数

各下位尺度及び各因子の得点間の相関係数を表5に示す。生活習慣の下位尺度である運

(32)

動,食事,休養は,それぞれ身体的健康,社会的健康と有意な相関を示した。さらに運動

条件,運動意識は身体的健康及び社会的健康と,食事のバランスと食事の規則性は身体的

健康及び社会的健康と,休息,睡眠の規則性,睡眠充足度は身体的健康及び社会的健康と,

それぞれ有意な相関を示した。嗜好品と健康度との間には,有意な相関は認められなかっ

た。ストレス回避は,身体的健康,精神的健康,社会的健康のいずれとも有意な相関関係

を示した。

5. 健康度及び生活習慣の各因子の得点の相関係数

生活習慣と健康度の重回帰関係

生活習慣と健康度の関係を検討するために,生活習慣の9つの因子を独立変数,健康度 の3つの因子を従属変数として重回帰分析(強制投入法)を行った。

生活習慣及び健康度の各因子の得点間の単相関係数は表6のとおりである。身体的健康 は,運動条件,運動意識,食事規則性,食事バランス,休息,睡眠規則性,睡眠充足度,

表5. 健康度及び生活習慣の各因子の得点の相関係数

身体 .197** .209** .224** .317** .334** .022 .379** .386** .314** .520** .525** .618**

精神 .005 .077 .030 .017 -.002 .077 .019 .080 .019 .025 .128* .084

社会 .411** .276** .413** .480** .239** -.027 .434** .303** .185** .291** .339** .392**

健康度 .328** .292** .354** .432** .298** .032 .438** .397** .268** .432** .508** .563**

条件 -- .529** .957** .328** .069 -.122* .237** .350** .056 .225** .288** .316**

意識 .529** -- .753** .220** .103 -.125* .182** .258** .114* .235** .274** .307**

運動 .957** .753** -- .329** .089 -.138* .246** .360** .082 .255** .317** .351**

バランス .328** .220** .329** -- .442** .014 .884** .474** .266** .203** .291** .432**

食事規則性 .069 .103 .089 .442** -- .050 .797** .173** .613** .201** .146* .422**

嗜好品 -.122* -.125* -.138* .014 .050 -- .150** -.030 .012 -.047 .010 -.020

食事 .237** .182** .246** .884** .797** .150** -- .397** .483** .229** .267** .494**

休息 .350** .258** .360** .474** .173** -.030 .397** -- .181** .354** .479** .693**

睡眠規則性 .056 .114* .082 .266** .613** .012 .483** .181** -- .322** .193** .637**

充足度 .225** .235** .255** .203** .201** -.047 .229** .354** .322** -- .425** .765**

ストレス .288** .274** .317** .291** .146* .010 .267** .479** .193** .425** -- .711**

休養 .316** .307** .351** .432** .422** -.020 .494** .693** .637** .765** .711** --

生活習慣 .600** .498** .636** .742** .611** .013 .798** .645** .562** .562** .576** .833**

* P<.05, **P<.01

休養 嗜好品 食事 休息 睡眠

規則性 睡眠

充足度 ストレス 因子 条件 意識 運動 バランス 食事

規則性

(33)

及びストレス回避との間に有意な相関を示したが,嗜好品との間には有意な関係は認めら

れなかった。精神的健康は,ストレス回避とのみに有意な相関が見られた。社会的健康は,

運動条件,運動意識,食事規則性,食事バランス,休息,睡眠規則性,睡眠充足度,及び

ストレス回避との間に有意な関係が認められたが,嗜好品と間には有意な関係は認められ

なかった。

6. 健康度と生活習慣の単相関関係(有意な係数のみ)

また,重回帰分析の結果は表7に示す。身体的健康を従属変数とした場合,食事の規則

性,睡眠の充足度,及びストレス回避が身体的健康を有意に規定していることが示された。

睡眠時間が十分であり,朝目覚めた時の気分がよく,ストレスをうまく解消しており,気

分転換がうまくできている学生は,毎日よく眠れており,食欲もあり,勉強や仕事ができ

る体力があることがうかがわれた。精神的健康を従属変数とした場合,生活習慣と精神的

健康との間に有意な重回帰関係は認められなかった。社会的健康を従属変数とすると,運

動条件,食事バランス,睡眠充足度,及びストレス回避が有意な標準偏回帰係数を示した。

表6. 健康度と生活習慣の単相関関係(抜粋)

身体的健康 精神的健康 社会的健康 運動条件 .197** .411**

運動意識 .209** .276**

食事バランス .317** .480**

食事規則性 .334** .239**

嗜好品

休息 .386** .303**

睡眠規則性 .314** .185**

睡眠充足度 .520** .291**

ストレス回避 .525** .128* .339**

*P<.05, **P<.01

(34)

運動やスポーツをするためにより多くの時間を費やし,運動やスポーツの友人・仲間に恵

まれている学生,あるいは食事の栄養バランスがよく,睡眠時間が十分で,ストレスをう

まく解消しており,よい人間関係を保てている学生は,毎日の生活はより充実し,教養・

趣味的活動をより多く行い,自分の人生に希望や夢を持ち,様々な行事あるいはクラブ・

サークルに参加していることがうかがわれた。

7. 健康度と生活習慣の重回帰関係

これらの分析より,中国の大学生においては,食事の規則性,睡眠の充足度,適切なス

トレス回避,運動実施の意思や条件が整っていること,食事バランスなどの生活習慣が,

身体的あるいは社会的健康に影響していることが確認された。

身体的健康β1 精神的健康β2 社会的健康β3

運動行動・条件 .240***

運動意識

食事バランス .349***

食事規則性 .182**

嗜好品 休息

睡眠規則性

睡眠充足度 .313*** .118* ストレス回避 .317*** .140*

R2 .436*** .341***

*P<.05, ** P<.01, *** P<.001 β:標準偏回帰係数

表7. 健康度と生活習慣の重回帰関係

(35)

研究Ⅲ 体育系と非体育系の大学生における健康度・生活習慣の比較

目的

中国の大学生において,運動を習慣化していることが予想される体育系学部所属学生と

非体育系学部所属学生に,健康度や生活習慣に違いが見られるかを検討することを目的と

した。

方法

調査対象者

調査対象としたのは,中国大連市にあるL大学の体育系学部所属学生195名(女100名, 男 95名; 平均年齢=21.01, SD=1.20)と,非体育系学部所属学生 195名(女114名, 男81

名; 平均年齢=21.73, SD=.93)であった。調査は,201X年6月に,必修体育授業の時間の 一部を利用して実施した。

調査尺度

本章研究Ⅰで作成した「健康度・生活習慣診断検査(DIHAL.2)中国語版」を使用した。

統計処理

統計処理としては,まず,群(体育系学部,非体育系学部)ごとに男女差を t 検定によ り分析した。続いて,群間での違いを同じく t 検定で検討した。すべての統計処理は,

SPSS18.0を使用して行った。

(36)

結果及び考察

学部内での男女比較

各群(学部)内における健康度及び生活習慣の男女差を検討するために,t 検定を行っ

た。結果は表8に示した。

8. 体育系,非体育系別に見た健康度・生活習慣得点の性差

体育系学部の男性は女性より身体的健康度,社会的健康度,運動習慣,食事習慣,及び

休養において高く,精神的健康のみ女性の方が高かった。このような結果から,体育学部

の男性は,女性より毎日よく眠っており,勉強や仕事ができるような体力があり,食欲が

あることがうかがわれた。また,体育系学部の男性は,女性よりも教養・趣味的活動,地

域のいろいろな行事参加,あるいはクラブ・サークルに積極的に参加していることがうか 男性(95) 女性(100) 男性(81) 女性(114)

*P<.05, **P<.01

④~⑥生活習慣 142.20±17.68 2.85** 127.86±16.01 126.74±15.67 .49

⑥休養習慣 55.64±7.95 52.06±8.29 3.08** 50.37±6.89 134.89±18.17

⑤食事習慣 52.26±6.57 49.88±8.67 2.16* 47.77±6.32

49.54±6.77 .84 49.07±6.08 1.45

④運動習慣 34.29±4.41 32.95±4.34 2.15* 29.73±4.85 28.13±5.25 2.16*

①~③健康度 42.03±4.49 41.82±5.31 .30 40.04±4.60 41.79±4.89 2.53*

③社会的健康 17.06±2.71 15.90±2.93 2.87** 14.62±3.04 14.10±2.56 1.30

②精神的健康 8.32±3.38 10.65±3.61 4.65** 10.95±3.09 13.20±2.67 5.44**

①身体的健康 16.65±2.78 15.27±2.91 3.39** 14.47±2.90 14.49±2.54

M±SD t 値

.06 表8. 体育系,非体育系別に見た健康度・生活習慣得点の性差

体育系 非体育系

M±SD t 値

(37)

がわれた。運動習慣では,体育系学部の男性は,同学部の女性に比べ,運動やスポーツを

行う友人・仲間が多く,運動やスポーツのための時間を多く取っていた。また,運動を続

けることは生活習慣病の予防などによいことであり,運動やスポーツをすると楽しい気持

ちになるというような意識を持っていた。さらに,一日の食事バランスも良好であった。

精神的健康度に関しては,体育系学部の女性は男性よりも大学での集団生活に適応してお

り,対人関係がよく,勉強も滞りなく行うことができていることがうかがわれた。

一方,非体育系学部においては,精神的健康度は,体育系学部の結果と同様に女性が男

性より高くなっていた。運動習慣については,男性は女性よりも高い得点であり,男性の

方が,より運動に関わっていることがうかがわれた。

このように,体育系,非体育系のいずれの学部においても,女性の精神的健康度は,男

性よりも高く,Li & Wang(2007)の研究結果とも一致していた。日本では,徳永・橋本(2001)

の研究において,健康度と生活習慣の得点には,男女の有意な差はないと報告されている

が,中国と日本における違いが文化の差によるものなのか,大学やサンプルの特性による

ものなのかについては明らかでない。今後,引き続き検証を続ける必要があるだろう。

学部間の比較

体育系学部と非体育系学部を比較するために,t検定を行った(表 9)。健康度について は,体育系学部の男性は,非体育系学部の男性よりも,身体的健康度と社会的健康度の得

点が高く,精神的健康度の得点が低かった。この結果から,体育系学部の男性は,睡眠,

食欲,体力といった身体的な健康,及び,大学生活の充実,地域活動への参加といった社

会的健康は比較的恵まれているが,一方で,グループ生活への適応,勉強がはかどるなど

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