漢方薬の美味しい飲み方
〜飲み時・剤型・マスキング〜
コンテンツ
1.はじめに 漢方薬の1番の難点:「味」
2.食前・食間っていつ? 漢方薬内服の正しいタイミング 2−1.食前:食事30分前、食間:食後2〜3時間 つまり空腹時 2−2.なぜ空腹時なのか:漢方的考察
2−3.なぜ空腹時なのか:科学的考察
2−4.食前でも食後でも大差なし:飲むことが一番大事!
3.漢方薬のカタチの違い エキス剤と煎じ薬
3−1.漢方薬本来の飲み方:煎じ薬(湯液)・原末・丸薬 3−1−1.湯液
3−1−2.原末 3−1−3.丸薬 3−1−4.料
3−2.煎じ方の実際:1回40分、1日3回、300ml内服
3−3.エキス剤の台頭:インスタントコーヒー VS ドリップコーヒー 4.漢方薬の「味」の意味 五行論から
4−1.五行論:全てを5つに分ける哲学
4−2.五臓:西洋医学と少し違う、漢方の仮想臓器 4−3.五臓と五味の関係
4−4.不足は最大の調味料?
5.それでもやっぱり飲みにくい! 医師が教える漢方薬の美味しい飲み方
5−1.粉薬の上手な飲み方
5−2.オブラートや服薬ゼリーを使用する 5−3.ココアやアイスと一緒に飲む:マスキング 6.まとめ
1.はじめに
漢方薬の 1 番の難点:「味」
漢方薬の難点と言えば、
「苦い」「匂いがきつい」「まずい」
などのイメージがある方が多いと思います。
しかし、時々「美味しく飲める」という患者さんもいらっしゃいます。
その違いは何なのでしょうか。
うまく飲める方法があるのでしょうか。
また、漢方薬は「食前または食間に服用」と書かれているものが多いですが、
そもそも食前や食間とはいつのことでしょうか。
食後に飲んではいけないのでしょうか。
本稿では、
漢方薬内服の正しいタイミング 漢方薬のカタチの違い 体質による味の感じ方の違い
味や匂いが嫌いな人のための漢方薬の飲み方
などについてまとめてみたいと思います。
2.食前・食間っていつ?
漢方薬内服の正しいタイミング
2−1.食前:食事 30 分前、食間:食後 2〜3 時間 つまり空腹時
「食間」というとよくある間違いとして、「食事の合間に飲んでしまう」とい うことがあります。
これは「食中」ですね。
食間とは、食後 2 時間から3時間して、食べ物が胃の中から無くなったタイミ
ングということです。
また、「食前」というと、食事の前に薬を飲んで、すぐに食事を始めてしまう 人も多いと思います。
しかしこれでは結局食べ物と一緒になってしまい、食後と変わりません。
この飲み方は「食直前」と言い、糖尿病の薬などで行われることがあります。
すぐに食べないと低血糖になる心配があるからです。
正しい食前とは、「食事の 30分前」のこととされます。
いずれにしても求められているのは、「胃の中に食べ物が無い状態で漢方薬を 入れ、少し時間を置くこと」であると思われます。
食前も食間もつまり空腹時
内服後は食事まで少し時間を空けて
2−2.なぜ空腹時なのか:漢方的考察
漢方の古典においては、服用のタイミングをはっきり書いたものは多くありま せん。
しかし漢方薬は食養生、つまり食事で病気にかかりにくく・治りやすくすると いうことの延長にあるものと考えられます。
栄養を取るように、しかしより薬効の強いものを使って治療できるようにした ものが漢方薬であるとすれば、ある種食事の代わりとしてもなり得るものかも しれません。
とすれば、それをしっかり吸収させるように、空腹時に内服させる、というの が、歴史的に受容されてきたと考えられます。
また、湯液では服用量も多く、食後では飲むのが大変、ということもあったか も知れませんね。
2−3.なぜ空腹時なのか:科学的考察
生薬には多数の「アルカロイド」という化学物質が含まれており、それが時に 効能と同時に、副作用の原因ともなります。
「麻黄ま お う」という生薬に含まれているエフェドリンもアルカロイドの一種で、神
経興奮作用により不眠や動悸、食欲不振などの症状が出ることがあります。
(「漢方薬は本当に安全?〜漢方薬の副作用の話〜」の項参照)
漢方薬は食事の代わり
空腹時の方が飲みやすく吸収されやすそう
アルカロイドの作用はpHが低いと弱くなると言われており、空腹で「胃酸が
強く、pHが低い」状態で摂取した方が副作用が少なくなる可能性があるとい う主張もあります。
ただ、逆に食後の方が胃もたれしにくいという人もいて、あまり確定的ではあ りません。
また、生薬は腸内細菌によって腸から吸収されやすくなるため、空腹時の方が 効果が出やすくなる、という考え方もあります。
以上のように、副作用を減らし、効果を上げるという科学的根拠は一応ありま すが、これは完全に実証されたとは言えず、食前と食後でどれほどの差がある のかははっきりしません。
空腹時の胃酸で副作用成分の吸収を減らし
腸内細菌の働きで効果が上がるかも
2−4.食前でも食後でも大差なし:飲むことが一番大事!
空腹時に内服するという一定の根拠はあり、できることなら食前や食間に内服 した方が良いというは共通の認識です。
しかし、食前・食間内服の1番の敵は、「飲み忘れ」です。
特に他の西洋薬は食後内服のものが多く、ついつい飲み忘れて漢方薬が余って しまう、ということもよく経験します。
飲まないよりは飲んだ方がいいに決まっていますから、飲み忘れてしまうよう でしたら食後に飲んでも、それほど大きな効果の違いは出ないと思われます。
漢方薬はできれば空腹時に内服
忘れるようなら食後でも OK
余った薬を捨ててしまう、などということの無いように、
服用の仕方で悩んだらまず医師や薬剤師に相談してくださいね。
3.漢方薬のカタチの違い
エキス剤と煎じ薬
やはり漢方薬と言うと多くの方が思い浮かべるのは、乾燥した草をゴリゴリと ひいている様子ではないでしょうか。
さすがにこれ(「薬研や げ ん」)はもうあまり使いませんが…。
しかし実際に処方されている漢方薬の多くは、袋に入った顆粒状のものです。
この違いは何でしょうか。
3−1.漢方薬本来の飲み方:煎じ薬(湯液)・原末・丸薬
漢方薬は本来、生薬を混ぜたものをお湯で煮出して飲むものです。
これを
「煎
せ んじる」
と言います。苦そう…
3−1−1.湯液
有名な「葛根湯」を始め、ほとんどの漢方薬では最後に「湯」がつきます。
これは「煮出して(煎じて)飲む」という意味で、その液体を「湯液とうえき」と言い ます。
3−1−2.原末
一方で、むくみやめまい、吐き気・下痢などに使う「五苓散ご れ い さ ん」という薬のよう に、
最後に「散」がつくものは、本来は生薬を(古くは上の写真の「薬研や げ ん」で)砕 いてそのまま飲むように書かれており、「原末げんまつ」と言われます。
3−1−3.丸薬
また、砕いた生薬を蜂蜜で固めたものは「丸薬がんやく」と呼び、
月経不順や更年期障害などの代表的な薬である「桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがん」が有名です。
3−1−4.料
現在では原末や丸薬も煎じて飲むことが多く、この場合には正確には「五苓散
『 料りょう』」や「桂枝茯苓丸『 料りょう』」と呼びますが、省略していることが多いで す。
3−2.煎じ方の実際:1 回40分、1 日3回、300ml 内服
漢方薬の種類、煎じ方にもよりますが、一般的なやり方としては、
① 土瓶などに600mlの水と、1回分の生薬を入れます。
② 沸騰したら弱火で40分ほど煮出します。
いかがでしょうか。
専用の煎じ器もありますが、時間は同じ様にかかりますし、
基本的に作り置きはできませんので、
1日3回、毎日これをやるのは大変だと感じると思います。
また服用する量も多く、味や匂いも強いのでなかなか飲みきれないかも知れま せん。
煎じ薬は手間がかかる。
服用量が多く、味や匂いも強い。
3−3.エキス剤の台頭:インスタントコーヒー VS ドリップコー ヒー
毎回一から煎じるのは大変、そこで登場したのが
「エキス剤」
です。エキス剤は、すでに抽出した液体から水分を飛ばして、粉末・顆粒状や錠剤の 形にしたものです。
何かに似ていますね。
そう、インスタントコーヒーと同じ原理です。
どうしても一般的な西洋薬の粉薬と比べると1回に飲む量は少し多くなるので すが(2.5g〜3.0g)、
煎じ薬に比べれば手間も掛からず、味や匂いの点からも飲みやすいと言えま す。
便利なエキス剤ですが、全ての点で煎じ薬より優れているかと言うと、そうと は言い切れません。
コーヒーで比較すれば、
やはり挽きたての豆で丁寧に淹れたコーヒーと比べると、
インスタントコーヒーは質が下がると言わざるを得ません。
漢方薬においても、
「効能としては煎じ薬の方が優れている」
と認識されています。
エキス剤は便利
しかし効能は煎じ薬に少し劣る
日本では
生薬も240種類ほどが保険収載
されています。煎じ薬も保険で使用することができますので、
時間に余裕のある方、興味のある方は煎じ薬を試してみてはいかがでしょう か。
4.漢方薬の「味」の意味
五行論から
漢方薬は味が悪いというイメージが強いと思いますが、
漢方の考え方では、「味」にも意味があるとされています。
これは
「五行論
ごぎょうろん」
という中国の古い哲学に由来します。4−1.五行論:全てを5つに分ける哲学
五行論では、全ての物事を
「木
も く・火
か・土
ど・金
こ ん・水
す い」
の5つの性質に分類 します。5つはお互いに影響し合い、隣のものを助け、対面のものを抑制します。
例えば木からは火が生まれます。これを
「相生
そう せい」
と言います。逆に水は火を消します。これを
「相克
そう こく」
と言います。これを様々なものに当てはめて考えます。
五行 木 火 土 金 水
五方 東 南 中 西 北
五時 春 夏 土用 秋 冬
五臓 肝 心 脾 肺 腎 五味 酸 苦 甘 辛 鹹
か ん※鹹か ん:塩辛い
4−2.五臓:西洋医学と少し違う、漢方の仮想臓器
「五臓」
について少し補足します。漢方では、
「五臓六腑
ご ぞ う ろ っ ぷ」
という仮想的な臓器を想定して、病態を理解する考え方があります。
これは西洋医学的な臓器とは必ずしも一致しません。
例えば「脾臓ひ ぞ う」と言えば、
西洋医学的には血液を作ったり免疫に関わったりする臓器ですが、
漢方では胃腸などの消化機能全般を支配すると考えています。
心・肺・腎などは比較的似ている面もあります。
4−3.五臓と五味の関係
ここで五臓と五味の関係を五行に当てはめますと、
「脾」が弱っている
(胃腸機能が落ちている)時は、「甘いもの」
あるいは「相生」の関係からその前の「苦いもの」
が良い。という考えになります。
※ここで注意が必要なのですが、摂取しすぎると逆に臓腑を傷めます。
昔は現在の様に強い味のものは少なく、
特に砂糖などの「甘」は強すぎて脾に負担がかかると考えられます。
現代では糖分の摂り過ぎで胃腸を悪くしている人も多いかと思います。
4−4.不足は最大の調味料?
「自分に足りないものは体が求める」という考えがあります。
野菜が足りていないと食べたくなり、美味しく野菜が食べられる、という具合で す。
漢方においても、
「その人に合った漢方薬は美味しく飲める」
ということを時に経験します。
苦くて飲みにくい漢方薬でも比較的抵抗なく飲めたなら、それは体質に合って いるということなのかもしれません。
また、味や匂いが治療に大切な要素であるなら、やはり煎じ薬のメリットもある と考えられます。
漢方では味も治療に関係する。
体質に合った漢方薬は美味しく飲める可能性がある。
煎じ薬の味や匂いにも意味があるかも知れない。
エキス剤も、インスタントコーヒーの様にお湯に溶いて飲むこともできます。
200mlほどのお湯に溶くとちょうど良いと思います。
その方がより元の飲み方に近づきますので、効能も高まるかも知れません。
味や匂い、量が受け入れられる様でしたら、是非試してみてください。
「そんなの絶対に無理だ」、という方は、次の章をご覧ください。
5.それでもやっぱり飲みにくい!
医師が教える漢方薬の美味しい飲み方
治療に有効なことが分かっている漢方薬や、
飲んでいて効果を感じているから続けたいと思っている漢方薬でも、
やはり味や匂いに抵抗があるという方も多いと思います。
せっかく効果がある可能性があるなら、飲めないのはもったいないですよね。
5−1.粉薬の上手な飲み方
まず、一般的な粉薬の上手な飲み方として、
① 先に水を口に含む
② 上を向いて薬を流し込む
③ 一気に飲み込む
というやり方がお勧めされています。
うまくできると、薬があまり口の中に触れずに飲み込めますので、味や匂いもそ れほど気になりません。
しかし、そもそも粉薬がうまく飲めない、という方もいらっしゃいます。
そこで、おすすめの方法をお示しします。
5−2.オブラートや服薬ゼリーを使用する
これも比較的一般的な方法かと思います。
漢方用の服薬ゼリーも市販されており、うまく飲める方であれば有効だと思わ れます。
これでも無理だという方は、次の方法を試してみてください。
5−3.ココアやアイスと一緒に飲む:マスキング
漢方薬の飲みにくさは、概ね「苦味」「酸味」そして「匂い」だと思います。
濃厚なものや、苦味を消しやすいものを一緒に飲むと、比較的飲みやすくなりま す。
これを
「マスキング」
と言います。個人の好みや個々の漢方薬の味の特徴によっても相性がありますが、
「アイスクリーム(特にチョコアイス)」
「ココア」
などが嫌な風味を消してくれることが多いようです。
特に小児領域などでよく使われています。
また、「コーラ」などが飲みやすいという方もいますし、
ご高齢の方なら「お味噌汁」に溶いて飲むと抵抗が無いかも知れません。
お薬との飲み合わせを気にする方も多いかと思いますが、
漢方薬内服のタイミングでもお話ししたように、
本来漢方は食事に近いものですから、
大量でなければあまり問題にはならないと考えます。
「苦手だから」とすぐに諦めてしまわずに、
自分なりに内服を続けられる方法を探してみてください。
どうしても味が受け入れられない時は オブラートや服薬ゼリーを使う
ココアなどと一緒に飲む
6.まとめ
最後にこの項の内容をまとめておきます。
① 漢方薬は空腹時の方が副作用が少なく、効果も上がる可 能性があるが、飲み忘れるようなら食後でも構わない
② エキス剤は便利、煎じ薬は面倒だが効果は高い
③ 体に合った漢方は美味しく感じやすい
④ 味や匂いで飲めない場合は、ココアやアイスと合わせる
と飲みやすい
自分に合ったやり方で続けることが一番大切だと思います。
疑問があれば医師や薬剤師に相談してくださいね。
漢方治療に興味のある方は消化器センター医師までご相談ください。