経済性に着目した建物規模の推定に関する研究 山元 悠也1,荒木 俊輔1,硴崎 賢一1
Presuming Method of Building Scale with Economical Efficiency Yuya YAMAMOTO, Shunsuke ARAKI and Ken’ichi KAKIZAKI
Abstract
:In urban planning and development, it is important to share the common visual image of between experts and citizens. For this purpose, feature urban must be visualized without detailed plans. In this paper, we propose a presuming method for building scale with economical efficiency. Our system computes total floor space by using rent income fixed asset tax and several other cost for building management.
Keywords
:建物規模(Building Scale
),
経済性(Economical Efficiency
),
延床面積(Total Floor space)
1 九州工業大学大学院 情報工学研究科
1.
はじめに近年,住民参加型のまちづくりが多くの市町村で 行われている.この際,専門知識をもたない住民た ちがまちの将来イメージを共有するためには,まち の将来像を具体的でかつ,根拠のある方法で可視化 する必要がある[1].
そこで我々は,まず都市計画における用途地域に 設定されている建蔽率などの規制値を用い建築可能 な最大形状の推定を行った.この方法では,規制値 いっぱいに建築を行う都市の中心部においては,高 さが実際の建物と近くなるために現実らしく見える ことがある.しかしながら,この方法は都市の中心 部以外では使うことができず,建物の種類による形 状の特徴を反映させることができない.
そこで,本稿では土地や建物に関する経済性に着 目することで,建物の規模を推定する手法について 提案する.
2.
規制情報に基づく建物形状の推定我々は数多くの建築物に囲まれて暮らしているが,
それらの使用用途や規模・形状などは,様々な法律 や条例等によって規制されている.
本章では,まちなみの形成において重要な要素で ある建物の規制と,それらの情報から建物形状を生 成した場合の問題点について述べる.
2.1.
都市計画における建築規制都市計画では,「風致地区」「防火地域」などの区
域を設けることで土地の適正な利用と都市環境の保 全を図っている.その中でも土地利用計画の基本と なる「用途地域」内では,建蔽率(建築面積の敷地 面積に対する割合)に代表される建築物の平面的な ボリュームの規制と,容積率(延床面積の敷地面積 に対する割合),斜線制限に代表される立体的なボ リュームの規制がある.これらは,「住宅地域」「商 業地域」などの用途地域の種類ごとに異なる規制値 が定められている(表
1
).表
1
用途地域による建築制限の例用途地域 指定建 蔽率(%)
指定容 積率(%)
高さ制 限(m)
主な建築 可能建物 低層住宅地域
50 100 10
戸建住宅 中高層住宅地域60 200 -
住宅・マ ンション 商業地域70 600 -
商業施設 工業地域60 200 -
工業施設2.2.
規制情報を用いた建物の可視化用途地域内の建築規制の数値情報を用いて,建築 可能空間の可視化を行った.図
1
と図2
は,それぞ れ住宅地域と商業地域における規制値を与え,建築 面積が最大となるようにしたときの建築可能空間で ある.図
1
では,建築可能空間よりかなり小さい領域に 建物が建てられており,図2
では建築可能空間をい っぱいに使って建物が建てられていることが分かる.しかしながら,実際にはすべての建物が建築制限 いっぱいに建てられているわけではなく,この範囲 内のどこに,どのような底面形状をもち,どれくら いの高さの建物が存在するのかは知ることが困難で ある.このような場合,乱数を与えることでその形 状を決定することがある.しかし,それによって用 途地域や建物の種類によって異なる形状の特徴を表 現できるわけではない.例えば,住宅地域において は3階まで建築可能であっても2階建てや平屋にす ることが多く,建蔽率や容積率などの規制値に対す る実際の使用値の比(充足率)が小さくなる傾向が あるが,商業地域において充足率は大きくなる.そ のため,乱数によって割り当てられた建物群は一見 実際の都市を反映しているようではあっても,その 規模や形状には根拠がないという問題がある.
図
1
住宅地域における建築可能空間と建物モデル図
2
商業地域における建物モデル3.
オフィスビルの規模の推定2章で示した問題のため,根拠があり,かつ現実
に近い形でまちを表現するためには,規制情報以外 にも他の条件を考慮する必要がある.そこで,我々 は土地や建物に関する経済性に着目することで建物 の規模を推定する手法を提案する.そのアプローチ として,賃料収入によって運用されるオフィスビル を対象に,収益と不動産の取得価格,利回りなどの 関係から建物規模の推定を行う.本章では,まずオフィスビルの規模を推定する方 針を記し,その際用いる各パラメータの算出方法に ついて述べる.
3.1.
規模を推定する方針我々はまず,オフィスビルの形状の特徴に着目し た.一般的にオフィスビルの各階の面積は一定であ ることが多いため,延床面積は建築面積と階数の積 で表すことができる.また,一階あたりの高さもほ ぼ一定であるため,階数をもとに高さを求めること ができる.よって,逆に建物の高さを求めるために は延床面積と建築面積がわかればよい.
一方,投資の対象としてのオフィスビルは,他者 にオフィス空間を貸し出し,その収入を得ることで
運営されている.そして,この収入と維持管理費な どの差額から初期投資である建築費や土地の購入費 などを回収している.このことから,投資額や収入 額,必要経費などの間には一定の関係があると考え られる.そこで我々は,不動産の分野で使われる利 回り(投資額に対する収益の割合)に着目した.利 回りには,収入と投資額の関係のみを考慮した表面 利回りと,収入から税金や建物の維持管理費などの 必要経費を差し引いた額と投資額の関係を考慮した 実質利回りがある.このうち表面利回りは収益を大 まかにとらえる際に便利で,広く用いられている指 標である.しかしながら,これはあくまで物件を購 入した時点での指標であるため,実際の投資では必 要経費を考慮する必要がある.
以上のことから我々は,実質利回りの定義を変形 した①式を立式し,これを満たすときの延床面積を 算出することにした.
実質賃料による収入
=不動産取得価格×実質利回り+必要諸経費
…① 以下の節では,各項の算出方法について説明する.
3.2.
実質賃料による収益の算出オフィスビルの賃料に,経営上生じる維持管理費 や固定資産税などの税,保険料といった必要諸経費 を含んだものを実質賃料という.一般的にオフィス ビルの賃料は単位面積あたりで表されるため,オフ ィス全体の収入は実質賃料と賃貸可能な床面積を乗 じたものとなる.さらにこれを,収益力の評価指標 であるレンタブル比(ビルの延床面積に占める賃貸 可能な床面積の割合)を用いて表すと,
実質賃料による収入
=実質賃料×延床面積×レンタブル比
となる.ここで平均賃料は地域ごとのオフィス賃料 の相場を設定し,レンタブル比は80%とした.
3.3.
不動産の取得価格の算出本稿では不動産として土地と建物を考える.我々 は,これらの税務上の評価額を参考に不動産の取得 価格を算出した.以下に土地と建物の評価額の算出 方法を述べる.
3.3.1.
土地の評価額市街地において土地の評価額は「路線価方式(市 街地宅地評価法)」によって決定されることが一般
的である.これは,各道路に標準的な宅地の1㎡当 たりの価格(路線価)を設定しておき,路線価をも とに道路に面した土地の評価額を土地の奥行,間口,
形状などの宅地の状況に応じて計算する方法である.
図
3
に路線価図の例を示した.この図中で,例え ば”300E”の道路に面する標準的な宅地の1㎡あたり の価格は30
万円であることを意味している.路線価は一般に公開されており,誰でも自由に閲 覧することができる.我々は,この情報と敷地面積 から土地の評価額を算出した.すなわち,標準的な 宅地において土地の評価額は,路線価と敷地面積を 乗じたものになる.
図
3
路線価図の例3.3.2.
建物の評価額建物の評価額は,評価の時点において対象となっ た家屋と同一の家屋をその場所に再度新築した場合 に必要とされる建築費を基礎とし,建築後の年数の 経過による減価率などを考慮して決定される.しか しながらこの算出方法は複雑であり,また計算式の 各項の値を一般的に公開されている情報から取得す ることは困難である.
そこで我々は,建物取得時の課税評価額と建築価 格の比率は7割程度である[3]という関係を活用し,
建築価格から建物の評価額を算出した.すなわち,
建物の評価額
=建築費×
70%
=単位面積あたりの建築費×延床面積×70%
である.ここで,単位面積あたりの建築費は「建築 統計年報」
[4]
の工事費予定額に拠った.3.4.
必要諸経費の算出我々は,必要経費として建物の減価償却費,維持 管理費,不動産にかかる税金を考慮した.以下にそ れらの算出方法を示す.
3.4.1.
建物の減価償却費と維持管理費時間の経過に伴う資産価値の減少分を期間の経過 に応じて費用化した場合,その費用部分のことを減 価償却費という.この算出には定額法を用い,
建物の減価償却費=建築費×
90%
÷法定耐用年数 を計算することで求めた.なお,オフィスビルの法 定耐用年数は50
年である.建物を運営するうえで生じる維持費は建物取得価 額の
2%
,管理費は適正賃料の2%[5]
と設定すること で,それぞれ算出した.3.4.2.
不動産にかかる税金不動産には,その評価額に対して固定資産税と都 市計画税が課税される.そのため,税額は3.3. 節の 土地と建物の評価額に税率を乗じることで算出した.
4.
評価提案手法によってオフィスビルの規模をどの程度 推定できるか確認するために評価を行った.本研究 はある範囲の建物規模を推定し可視化することを目 的としているため,個別の建物に対してではなく,
ある領域ごとの評価が必要である.そこで,福岡市 の商業地域内にある区画の半分(図 4の網目部分)
を対象に延床面積を比較した.この区画のオフィス ビルはほとんどが8,9階であるが,3,4階の建 物も含まれている.
評価の結果,実質利回りを5%と仮定したとき,
推定した延床面積に対する実際の延床面積の割合は
0.69
となった.ここで容積率の充足率が50%
に満た ない建物を除いて再度推定したところ,この割合は0.85
となり,実際の延床面積に近づいた.それでも現実の延床面積との間に差が生じた原因 としては,調査年度により路線価や単位面積当たり の建築費が異なること,鉄筋コンクリート造などの 建物の構造を考えていないことが考えられる.
充足率が50%未満の建物がこの区画に存在してい る理由は,今後調査する必要がある.
図
4
対象とした区画5.
まとめ本論文では,経済性を考慮することで一定範囲内 にある建物の規模を推定する方法について提案を行 った.その結果,現実の延床面積と比べてある程度 近い推定結果を得ることができた.
今後の課題としては,広範囲の建物を可視化する 際に建物の種類のばらつきを考慮することが上げら れる.展望としては,オフィスワーカー一人あたり の専有面積などの数値情報を別に与えることで,昼 間の人口といった取得したいと考えている.
参考文献