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土木学会論文集 B3( 海洋開発 Vol. ), 73, No. 2, I_31-I_35, ロシア北極圏の石油 ガス開発の現状 本村眞澄 1 1 工学博士, 石油天然ガス 金属鉱物資源機構 ( 東京都港区虎ノ門 2 丁目 10 番 1 号, 虎ノ門ツインビルディング西

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ロシア北極圏の石油・ガス開発の現状

本村 眞澄

1

1 工学博士,石油天然ガス・金属鉱物資源機構

(〒105-0001 東京都港区虎ノ門2丁目10番1号,虎ノ門ツインビルディング西棟18階)

E-mail: [email protected]

北極圏に埋蔵する石油・天然ガス資源に関しては,1970年代より多くの調査・研究が行われて来た.以 来30年以上の年月を経て,近年ついに,ロシア北極圏での石油・天然ガス生産が一部で始まった.また,

新たな油田発見も明らかになった.本論は,その主導的存在であるロシア北極圏の石油・天然ガス開発の 最近の動向を紹介するとともに,北極圏での石油・天然ガス開発の意義について言及したものである.

Key Words : Arctic, oil and natural gas ,LNG, Russian Arctic,

1. はじめに

この10年,北極の氷が縮小するというニュースととも に,北極海航路が人々の注目を集めるようになった.北 極海が通れるようになった,東アジアと欧州が近くなり 海運上のメリットが生じたという理由で,通過地(transit)

としての北極圏が注目を集めている.2017年末から,ロ シアのヤマル(Yamal)半島でLNGの生産が開始され,

夏季は主に北極海航路・ベーリング海峡を通って,中国 等のアジアへ輸出される.

筆者の所属先(当時は石油公団)がケンブリッジ大学 のGonville & Caius Collegeの主宰する「ケンブリッジ北極 大陸棚プログラム」(Cambridge Arctic Shelf Programme, CASP)に参加したのは1978年のことであった.この時 からすでに,ロシアを含む北極圏の氷の状況や石油・ガ スに関しても膨大な量のレポートが提出され,ソ連側で は1980年代から北極海大陸棚での石油ガス探鉱が進めら れた.2013年になってバレンツ海からロシア領北極海と しては最初の石油生産が開始されたが,基本的なスタデ

ィは,実際のビジネスよりも30年以上先行していた形に なる.石油やガスの生産は通年の操業であり,夏季に輸 送できるということだけでは意味をなさない.当時から 北極は,事業展開の場として,即ち目的地(destination)

としての可能性が見込まれていたのである.

2014年にはロシアのカラ海で巨大油田が発見され,そ の石油の大きな可能性が明確に認識された.この年から の油価の下落もあり,北極海での油田開発はブレーキが かかっているが現状であるが,調査活動の進展によりそ の資源ポテンシャルは当初議論されていたよりも遥かに 高いと見込まれており,10年~20年というスパンで見る と,石油・ガス分野での北極海の重要性は高まってくる ものと思われる.

2. 日本企業の関心

2016年の12月15-16日,ロシアのプーチン大統領が

来日し,経済分野でも政府間12件,民間68件の合意が

表-1 2016年12月16日、プーチン大統領訪日時に日露で合意した北極関連の事業

日本側参加者 露側参加者 内 容 備 考

国際協力銀行 Yamal LNG Yamal LNGへの融資 2億ユーロ

三井物産 Novatek ロシアでの上流・液化事業、LNG・炭化水素の供給、資

機材・技術の提供、およびLNG市場の共同開拓の覚書

Novatekの次のLNG計画 はArctic LNG 2

三菱商事 Novatek ロシアでのLNG事業及びLNG・液分炭化水素の供給で

戦略的協力覚書

同上

丸紅 Novatek Arctic LNG 2事業における上流・中流事業、LNGの供給、

輸送のアレンジ、ガス関連のインフラ事業等の覚書

Arctic LNG 2への参加意 思を表明

(2)

結ばれ,その内エネルギー分野では23件の合意書が交わ された.この合意には北極圏でのLNG事業関連が4件 含まれている(表-1).

まず,国際協力銀行(JBIC)がヤマル半島のLNG事 業に2億ユーロの融資を行い,同事業の資金調達に協力 する.他,商社3社がヤマルのLNG も手掛けているロ シアの独立系ガス企業ノバテック(Novatek)と,北極圏 でのLNG事業に協力する.特に,丸紅の協力案件には ヤマルLNGの後継プロジェクトであるArctic LNG 2が 明記されている(後述).日本企業の北極圏への進出が,

間近に迫っている.

3. 北極圏開発におけるロシアの優位性

現状,北極海での石油・ガス開発が進行しているのは ロシアだけとなっている.アラスカ沖チャクチ(Chukchi)

海で探鉱井を掘削していたシェル(Shell)は,大きな成 果を挙げられず,2015年9月に撤退を表明した1).同様 に,ノルウェーのスタットオイル(Statoil)も11月にチ ャクチ海から撤退を決めた.グリーンランドの東岸も,

かねてから有望性が指摘されているが,掘削に着手する には更なる地震探鉱調査を行い,基本的な地質データを 積み上げて解析してゆく必要がある.

一方,ロシアの場合,陸域の高緯度地域に広がる油ガ ス田地帯を擁する堆積盆地(図-1中の緑色部分)が北極 海まで延長している.バレンツ海はチマン=ペチョラ堆 積盆地の,カラ海は西シベリア堆積盆地のそれぞれ北方 延長に当たり,北極海大陸棚の中でも,際立って高い炭 化水素ポテンシャルを有している2)(図-1).

海底地形について見ると,北極海の大陸棚の面積では,

ロシアが6割を占めておりその中でも前記のバレンツ海,

カラ海は広い面積を有している.更に,氷の状況に関し ては,メキシコ湾流が入り込むバレンツ海は冬季でも凍 結しない.カラ海も流氷は2m以下の厚さで,冬季も砕

氷タンカーによる航行が可能である.即ち,北極海沿岸 5 か国の中で,ロシアは石油ポテンシャル,大陸棚の面 積,氷の状況の3点で,いずれも最も恵まれている.

4. 生産を開始したペチョラ海のプリラズロ ムノエ油田

ロシア北極海での石油・ガス開発の主要な場所である バレンツ海とカラ海の開発状況を図-2に示す2).この内,

バレンツ海ではその丁度中央に当たる位置に,世界でも 第7位の埋蔵量規模を有するシュトックマン(Shtokman)

ガス田がソ連時代末期の1988年に発見され,ロシア連邦 の時代となって西側技術を導入して開発が試みられた.

しかし,離岸距離が550kmという技術的に厳しい条件下 で,2013年に事業は棚上げ状態となった.

現在事業が進捗しているのは,バレンツ海南東部のペ チョラ(Pechora)海と呼ばれている陸域に近い水深19m の場所で 1989 年に発見されたプリラズロムノエ

(Prirazlomnoye)油田で,ガスプロムネフチ(Gazprom

Neft)が操業に当たっている.2011年2月に着底式のプラ

ットフォームが設置され、2013年12月生産が開始され,

ロシアで最初の,かつ唯一の北極海での生産油田となっ た.2016年の生産量は対前年比150%増の日量4.3万バ レルで3),決して大規模ではないが,北極圏最初の油田 として操業経験の積み重ね,環境技術の錬磨の場として 重要である.2013年の生産開始に当たっては,氷海での 原油流出対策の技術が確立されていないとして,グリー ンピースの一団がプラットフォームに乗船して抗議活動 を行った.これに対して,プーチン大統領は,この乗船

図-1 ロシアの堆積盆地(緑色部分)と北極海大陸棚への延長2) (本村, 2016)

図-2 ロシア北極圏のバレンツ海カラ海における石油ガス開発2)

(本村, 2016)

(3)

を「海賊行為」として逮捕したが,その後釈放している.

ガスプロムネフチは,世界の主要石油・ガス会社が組 織する北極域での石油漏出対策技術を研究する「Arctic Oil Spill Response Technology Joint Industry Programme(JIP)」

に,ロシア企業として初めて参加した.JIPは2012年12 月,流氷の下に拡散した石油についての経過観察,実際 の状況に近い環境での分散剤の実験,および視界不良や 氷に覆われた地域での石油流出の検知や場所の特定など についての研究を行うため,複数地域でスタートしたも のである.極地における環境問題に対する世界的な取り 組みの一端が見て取れる4)

ちなみに,2014年5月31日,ノルウェー気候環境省 は,バレンツ海の新規背斜構造の試掘に反対するグリー ンピースの申し立てを却下したとスタットオイルが伝え た.5月27日から,グリーンピースは掘削装置に乗り込 むなどの妨害活動をしたが排除された.グリーンピース によるこのような行動の対象はロシアに留まらないが,

現場サイドはいずれも排除する方向で対処している.

5. カラ海での巨大油田の発見

2014年は,ロシア北極海で大規模な油田の発見のあっ た年として,石油関係者の間で長く記憶されることにな るだろう.ロシア国有石油のロスネフチ(Rosneft)と米国 石油メジャーのエクソンモービル(ExxonMobil)が共同 でカラ海の East Prionovozemelsk(EPNZ)-1鉱区で掘削し たUniversitetskaya-1号井が,わずか1坑で10億バレルの 石油の賦存を確認した.この油田はPobeda(勝利)と名付 けられた.北極の氷の海の下に大規模な石油地帯が出現 した瞬間である.

図-3に見る通り,カラ海のすぐ南のヤマル半島には数 多くのガス田があり,またソ連時代にはカラ海において ルサノフ(Rusanov)とレニングラード(Leningrad)と いう2つの巨大ガス田が発見されていた 5).即ち,この 地域は長らくガスの賦存地域と見られていた.しかし,

より深部には石油層が発達していることが,1980年代に ヤマル半島南東部に位置するノボポルト(Novo Port)ガ ス田を深掘りすることで確認された(図-4).ただ当時,

深掘りのできる掘削装置の数が少なく,また石油を輸送 する手段である石油パイプラインの敷設に膨大なコスト が掛かることから,石油狙いの事業は本格化しなかった.

冒頭に記した通り,北極海での氷が薄化する傾向にある ことから,生産原油を海上輸送することが現実的になっ てきたために,このような石油を対象とするプロジェク トが動くことになった.

2014 年のウクライナ問題に起因する対ロ経済制裁で,

同年9月,北極海,大水深,シェール技術が禁輸の対象 となった.ロシアの北極海開発は技術的に大きな障壁を 抱えることになり,更に同年夏から始まった油価の下落 は,ロシアのみならずアラスカ沖など米国での取り組み にも影を投げかけた.最近になって,ノバク(Novak)

エネルギー相は北極圏での石油・ガス生産は,油価が

$70-100 のレンジにあれば採算が取れると発言している

6).北極海での大規模な油田開発投資は現状では取り組 める状況にないが,将来の油価上昇を見据えて,当面は 広域の評価作業のような地道な仕事を,常日頃しっかり と積み上げて行くものと思われる.ロスネフチもそのよ

図-3 カラ海でのPobeda油田の発見 (諸データからJOGMEC作成)

図-4 ヤマル半島のガス田とヤマルLNG、Arctic LNG 2の位置

(JOGMEC作成)

(4)

うな態勢で臨もうとしている.

国有ガス会社ガスプロムもこの2月,2017年にカラ海 のレニングラード・ガスコンデンセート田で探鉱井の掘 削を開始する計画であると述べた7) .これは,前述の通 りソ連時代にガスプロムの前身のガス工業省が発見した ガス田であるが,この時期に掘削を計画するということ は,より深部で石油の賦存を確認することが目的と思わ れる.開発に先行する期間に,当然このような新規探鉱 と評価事業を行うことには大きな意味がある.

6. ヤマルの LNG 事業

2009年9月24日,プーチン首相(当時)は世界のLNG 関 係 企 業 を ヤ マ ロ ネ ネ ツ 自 治 管 区 の サ レ ハ ル ド

(Salekhard)市に招集し,新規事業としてヤマル LNG 計画を公表した.ロシア政府はヤマル半島での巨大ガス 開発を奨励するために税制優遇措置を打ち出した.本件 は 2008 年時点ではガスプロムが担当する予定であった が,その後独立系第1 位のノバテック(Novatek)が LNG 技術の獲得を目指して名乗りを上げた.この 2009 年 9 月というタイミングは,バレンツ海のシュトックマン・

ガス田のLNG計画が大きく停滞した時期と重なる.現 状ではノバテックが50.1%を保有する他,外資としてト タール(仏)20%,CNPC(中)20%,シルクロード基金

(中)9.9%が参加している.

LNGのソースとなるガス田は,1974年に発見された もので,埋蔵量は1兆2,560億m3(44兆立方フィート),

西シベリアとしては中堅クラスと言える .サベッタ (Sabetta)港に550万t/年規模のLNGトレーンが3系列建 造中で,合計で1,650万t/年となる.各トレーンは2017 年後半,2018年,2019年前半にそれぞれ完成する予定で,

2017 年末にも第1船の出荷が見込まれている(図-4 参 照).

ヤマル半島の向いのギダン半島ではサルマノフ

(Salmanov)ガス田を中心にしたArctic LNG 2が,ノバ テックにより,ヤマルLNGの後継事業として計画され ている.日本の三井,三菱,丸紅はこれへの協力を表明 した.

ヤマルLNGにおける輸送ルートに関しては,夏季の 北極海(Northern Sea Route)経由と冬季のスエズ運河経 由が想定されている.夏季は,北極海航路を経由してア ジア太平洋地域にLNGを輸送する.冬季には,ヤマル LNG プラントから北極圏用タンカーでベルギーのゼー ブリュージュ(Zeebrugge)ターミナルまでLNGを輸送 し,同ターミナルで通常のタンカーにLNGを積み替え た後,スエズ運河を経由してアジア太平洋地域へと向か う(図-5).

7. 北極圏資源開発に参加する意義とは?

最後に,北極圏でのエネルギー資源開発に参画する意 義に関して述べたい.

エネルギー資源開発は当然ビジネスを指向すること が前提であるが,特に北極圏は氷海技術や環境保全技術 を開拓できる場であり,新たな産業として確立してゆく というチャレンジングな面に意義がある.

エネルギー安全保障の観点からも,新規有望地域を常 に開拓して行くことは,世界の資源量のパイを拡大させ るもので,長期にわたって資源供給の安定を促進すると 言える.

しかし,北極海の資源開発の意義はこれに止まらない.

油ガス田の開発とは,多額の投資を行い,インフラを作 り,雇用を生み,環境を保持するルールを作り,油ガス 田のある主権国と長期にわたる利益の配分を確定するこ とである.資源開発はその土地からの「資源収奪」を行 っているのではなく,「地域秩序の構築」という形で参加 者すべての総意のもとに,プラスサムを志向して遂行さ れるものである.

これこそが,文明という営みであり,その及ぶ範囲は 極地の油ガス田という点のみにとどまらず,輸送インフ ラを通じて周辺域から市場にまで影響を与えるものであ る.

8. まとめ

石油ガス分野でのソ連・ロシアの北極への関心は、1970 年代から徐々に高まって行った。下に列挙したように、

まだソ連時代の1980年代から、北極海で油ガス田の発見 がなされるようになり、ソ連崩壊後の停滞を克服した

2010年代に、そのいくつかが生産開始にまで漕ぎ着けた。

1975年:ケンブリッジ北極大陸棚プログラム(CASP)発足 1988年:バレンツ海でシュトックマン・ガス田発見 1989年:ペチョラ海でプリラズロムノエ油田発見 1991年:カラ海でレニングラード・ガス田発見

2008年:米国地質調査所(USGS)が北極圏の資源量調 査

2009年:ヤマルLNG事業計画外資募集計画発表 2011年:RosneftとExxonMobilが北極海等で戦略的提携

2013年:ヤマルLNG最終投資決定(FID)。事業化へ

2013年:シュトックマン・ガス田の開発計画を棚上げ 2013年12月:プリラズロムノエ油田生産開始

2014年7月:米EUが対露経済制裁、北極圏技術供与を禁 止

(5)

2014年8月:ヤマル半島ノボポルト油田が洋上出荷開始 2014年9月:Rosneft/ExxonMobilカラ海でポベダ油田発見 2017年12月:ヤマルLNG初出荷予定

ただし、シュトックマン・ガス田のように大規模であ っても技術的困難さから開発が棚上げとなるもの、ポベ ダ油田のように政治的な理由から技術供与が止められ、

開発が停止しているものなど、一筋縄ではいかないもの もある。しかし、いずれも開発断念ではなく、いずれ時 が来ればこれらも開発投資への道が開けるものと期待さ れる。ここに見られるのは、資源地域としての北極海の 可能性の高さと、技術的困難はあっても、すこしずつ克 服して行こうとするロシア及び国際的な石油ガス産業の 努力の姿勢である。

参考文献

1) Bloomberg : Shell Halts Alaska Offshore Exploration after Failing to Find Enough Oil, 2015/9/28.

2) 本村眞澄:ロシア北極圏のエネルギー資源開発,石 油・天然ガスレビュー,Vol.50 No. 1,2016.

3) Interfax, 2017/1/26.

4) GazpromNeft : GAZPROM NEFT JOINS INTERNA- TIONAL ARCTIC OIL SPILL RESPONSE TECHNOL- OGY JOINT INDUSTRY PROGRAMME,

http://www.gazprom-neft.com/press-center/news/1100051/, 2014/3/19.

5) Oil and Gas Journal, 1991/10/06 6) PRIME, 2017/3/22

7) PRIME : Gazprom to start drilling at Leningradsky block in Kara Sea 2017, 2017/2/01.

(2017.2.2受付)

OUTLOOK FOR THE OIL AND GAS DEVELOPMENT IN THE ARCTIC SEA Masumi MOTOMURA

It was 2008 when the study of US Geological Survey pointed out that the Arctic region is blessed with huge oil and gas potential. Now the energy industries especially in Russia have been tackling Arctic oil and gas development and have so far accomplished a number of results, i.e. the first oil production at the Prirazlomnoye offshore oil field in the Pechora Sea, the first LNG project at the northeast Yamal Pen- insula, which will start production late 2017, and the first oil discovery in the Kara Sea beneath the gas bearing horizons. As the oil price fell down and the activities in the Artic will shrink for a certain period but a new exploration activity will be made even at the low oil price to prepare the field development in the future.

参照

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