ちと同様、他者関係が乏しく非活動的な状態にあったが、まったくその存在が顧みられる ことなく放置されてきた人々であった。企業主義的統合を特徴とし、公的福祉制度が脆弱 な日本にあっては、学校や企業から離脱した者の存在をとらえることは難しく、ともすれ ば若者の無業や孤立は不可視の状態に置かれやすい。さらに、「低層孤立者」の場合は、無 業・孤立状態にある「ひきこもり」が中流家庭の問題として焦点化され、また、低階層の 無業は非行問題として回収されていくなかで、二重に不可視化され、社会的に認知されて こなかった。自ら支援機関に訪れることも少ないかれらは、本人(または家族)が必要と している限りにおいて〈支援〉の対象となる今日の〈若者支援〉体制のなかで放置され続 けてきたのである(3章) 。従来の〈若者支援〉領域だけでなく、貧困研究においても十分 に可視化されてこなかった「低層孤立者」の存在を可視化し同定したことが、第Ⅰ部の成 果である。
続いて、第Ⅱ部では、新たに同定した「低層孤立者」の無業・孤立をめぐる経験を明ら かにするとともに、かれらへの〈支援〉について考察することを試みた。まず、かれらの 経験を論じる際の視点と課題を明確にするために、中流家庭子弟を中心とした従来の「ひ きこもり」議論の検討をおこなった。そこでは、 「ひきこもり」状態をめぐって本人が葛藤 しているということが、一つの了解として実践上も研究上も示され続けてきたことがわか った。他方、支援機関に自ら訪れることなく、 〈支援〉を求めているとも限らない「低層孤 立者」の経験は、そうした「葛藤」を前提とした見方ではとらえ損ねる可能性がある。ま た、不可視化されてきた「低層孤立者」の経験に接近するためには、そもそも、かれらと いかに出会いかかわりをもつのかという極めて実践的な検討から始めなければならない。
以上から、第Ⅱ部では、 「低層孤立者」への〈支援〉実践を対象に据え、かれらにとっての 無業・孤立経験が、 「低層孤立者」にかかわる実践のなかでどのように見えてくるのか、実 践のあり方と共に論じることとした(4章) 。また、「低層孤立者」の経験と実践の分析に 際しては、
Narrative Inquiry(ナラティブ的探究、以下NI)と呼ばれる実践研究方法論の
視点に依拠した(5章) 。以上を土台に、第Ⅱ部では主に3名の「低層孤立者」(いずれも 男性)を取り上げ、かれらの経験やその〈支援〉について論じた。そのなかで明らかとな ったのは、以下のとおりである。
まず、 「低層孤立者」にとっての経験に注目して分析するなかで、無業や孤立状態は必ず しも「葛藤」になるとは限らないことが見えてきた。たとえば、幼少期から母や家族の支 えとなる出来事を積み重ねるなかで、長男・兄としてのストーリーを生きてきたと思われ る事例では、そうした自らのストーリーを生きるなかで結果的に無業状態に至っていた。
彼の場合、家族以外の他者関係が乏しい生活世界のなかで、ストーリーは家族内で共有さ
れ強められることで、無業状態が葛藤を感じさせることなく、また家族内でも問題化され
ることの少ない状態にあった(6章)。また、繰り返し無業状態を経験していたある若者の
ストーリー分析においては、ある一人の若者においても、その時々によって、無業状態に
多様な経験と意味が付与されていることが明らかとなった。ときには、無業状態が、自ら