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号 学位授与の日付 平成

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Academic year: 2021

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全文

(1)

氏 名 原

はら

未来

学 位 の 種 類 博士(教育学)

学 位 記 番 号 人博 第

146

号 学位授与の日付 平成

31

年3月

20

日 課程・論文の別 学位規則第4条第2項該当

学 位 論 文 題 名 不可視化された低層孤立者の経験と<若者支援>

論 文 審 査 委 員 主査 教 授 濱谷 直人 委員 名誉教授 乾 彰夫 委員 准教授 杉田真衣

【論文の内容の要旨】

就学や就労をはじめとする社会的な活動に十分に参加しない/できない若者の存在が、

2000

年代以降「ひきこもり」 「ニート」等のワードを通じてクローズアップされ、 〈若者支 援〉と呼ばれる取り組みの対象となってきた。本研究は、こうした動向の背後で、同じく 社会的孤立状態にあるにもかかわらず、見過ごされ放置されてきた人々が存在するのでは ないかという問題意識の下に論じられたものである。

本研究はⅡ部構成から成る。第Ⅰ部では、社会的な活動に参加しない/できない若者の うち、誰が注目され、その背後で誰が/なぜ不可視化されてきたのか明らかにすることを 試みた。

まず、2000 年代前後からの「ひきこもり」「ニート」をめぐる言説や政策の検討からは、

もっぱら中流家庭子弟がその対象として注目されてきたことが明らかとなった。低階層で 不利な状況にある人々への注目を可能にする

NEET

概念も、日本型「ニート」として変質 し、 「ひきこもり」と混同されるなかで、低階層で無業状態にある人々への十分な注目には 至らなかった(1章)。しかし、古くからの貧困研究を紐解くと、断片的な情報ながらも、

無業状態にある若者が数多く存在している可能性が浮かび上がった。また、低階層の若者 たちの無業は非行問題と関連づけられることが多かったが、一部の研究では、他者関係を もたず孤立状態にある者たちの存在が示唆された。そこで、本研究が対象とした生活保護 世帯で主に無業状態にある若者への支援事業の対象者類型から、全体像の把握を試みた。

すると、同じく無業状態にあっても、非行系の仲間集団をもち「遊びまくる」ような者た ちと、他者関係をもたず孤立した状態にある者たちの双方が存在することが見えてきた(2 章) 。

以上から、本研究では、低階層で無業・孤立状態にある若者の存在を明らかにし、 「低層

孤立者」と名付けた。かれらは、従来可視化されてきた中流家庭「ひきこもり」の若者た

(2)

ちと同様、他者関係が乏しく非活動的な状態にあったが、まったくその存在が顧みられる ことなく放置されてきた人々であった。企業主義的統合を特徴とし、公的福祉制度が脆弱 な日本にあっては、学校や企業から離脱した者の存在をとらえることは難しく、ともすれ ば若者の無業や孤立は不可視の状態に置かれやすい。さらに、「低層孤立者」の場合は、無 業・孤立状態にある「ひきこもり」が中流家庭の問題として焦点化され、また、低階層の 無業は非行問題として回収されていくなかで、二重に不可視化され、社会的に認知されて こなかった。自ら支援機関に訪れることも少ないかれらは、本人(または家族)が必要と している限りにおいて〈支援〉の対象となる今日の〈若者支援〉体制のなかで放置され続 けてきたのである(3章) 。従来の〈若者支援〉領域だけでなく、貧困研究においても十分 に可視化されてこなかった「低層孤立者」の存在を可視化し同定したことが、第Ⅰ部の成 果である。

続いて、第Ⅱ部では、新たに同定した「低層孤立者」の無業・孤立をめぐる経験を明ら かにするとともに、かれらへの〈支援〉について考察することを試みた。まず、かれらの 経験を論じる際の視点と課題を明確にするために、中流家庭子弟を中心とした従来の「ひ きこもり」議論の検討をおこなった。そこでは、 「ひきこもり」状態をめぐって本人が葛藤 しているということが、一つの了解として実践上も研究上も示され続けてきたことがわか った。他方、支援機関に自ら訪れることなく、 〈支援〉を求めているとも限らない「低層孤 立者」の経験は、そうした「葛藤」を前提とした見方ではとらえ損ねる可能性がある。ま た、不可視化されてきた「低層孤立者」の経験に接近するためには、そもそも、かれらと いかに出会いかかわりをもつのかという極めて実践的な検討から始めなければならない。

以上から、第Ⅱ部では、 「低層孤立者」への〈支援〉実践を対象に据え、かれらにとっての 無業・孤立経験が、 「低層孤立者」にかかわる実践のなかでどのように見えてくるのか、実 践のあり方と共に論じることとした(4章) 。また、「低層孤立者」の経験と実践の分析に 際しては、

Narrative Inquiry(ナラティブ的探究、以下NI)と呼ばれる実践研究方法論の

視点に依拠した(5章) 。以上を土台に、第Ⅱ部では主に3名の「低層孤立者」(いずれも 男性)を取り上げ、かれらの経験やその〈支援〉について論じた。そのなかで明らかとな ったのは、以下のとおりである。

まず、 「低層孤立者」にとっての経験に注目して分析するなかで、無業や孤立状態は必ず しも「葛藤」になるとは限らないことが見えてきた。たとえば、幼少期から母や家族の支 えとなる出来事を積み重ねるなかで、長男・兄としてのストーリーを生きてきたと思われ る事例では、そうした自らのストーリーを生きるなかで結果的に無業状態に至っていた。

彼の場合、家族以外の他者関係が乏しい生活世界のなかで、ストーリーは家族内で共有さ

れ強められることで、無業状態が葛藤を感じさせることなく、また家族内でも問題化され

ることの少ない状態にあった(6章)。また、繰り返し無業状態を経験していたある若者の

ストーリー分析においては、ある一人の若者においても、その時々によって、無業状態に

多様な経験と意味が付与されていることが明らかとなった。ときには、無業状態が、自ら

(3)

の可能性をひらく新たなストーリーを再形成するための重要な期間になっていることもあ った(7章)。

以上からは、無業・孤立をめぐる状態を、「葛藤」 「困難」「問題」などと早計に結びつけ ることなく、当人がどのようなストーリーを生きるなかで生じたものなのかに視点をおき、

とらえる必要性が浮かび上がる。こうした視点は、従来可視化されてきた「ひきこもり」

の人々においても、イメージが先行するなかで不可視化されてきた経験があるかもしれな いことを改めて問うものだろう。

では、「低層孤立者」に「葛藤」がみられない場合もあるとすれば、〈支援〉はかれらの 何を〈支援〉するのだろうか。あるいは、そもそも〈支援〉は必要なのだろうか、という 疑問さえ生じうる。そこで、対象とした若者たちと〈支援〉のかかわりの変遷をふりかえ ってみると、そこには、若者たちが自らの幸福追求を支えるストーリーへと再ストーリー 化していくプロセスがみられた。自分事が後回しにされたり、その場をしのぐ側面が強か ったりするストーリーから、自身の行動や選択を下支えする新たなストーリーが形成され、

さらにそれが強められていた。その過程こそが、 「回復」ととらえうる重要な過程になって いることを踏まえ、本研究では「低層孤立者」への〈支援〉実践として、かかわりの実践 と、ストーリーの形成・再形成にかかわる実践の二つの必要性を明らかにした。

まず、 〈支援〉ニーズを表明しない人々にもかかわっていくことは、かれらを社会的孤立 状態のまま据え置かないという観点から必要である。また、本研究の対象実践からは、か かわりによって当初求めていなかった〈支援〉が重要なものとなっていく若者の様子や、

新たなストーリーを形成していくことでさらなる可能性にひらかれていく様子もうかがえ た。こうした可変性を等閑視することなく、 〈支援〉を拒否する権利と共に〈支援〉を受け 幸福追求をおこなっていく権利があるという視点から、再ストーリー化の環境を保障して いく〈支援〉の重要性を本研究では強調した。しかし、気乗りしない若者とかかわってい く初期の実践は容易ではない。当人の意思の尊重が重要であることは言うまでもないが、

スタッフには、若者の生きるストーリーを探究し、それに重なるかかわりを試行錯誤の末 におこなっていくことが求められる(6章) 。

また、かかわりが継続的・安定的なものになっていくと、スタッフは若者がおこなう再 ストーリー化のプロセスを、ストーリーの基となる体験の増加や、ストーリー化を促すか かわりなどによって、後押ししていくこととなる。さらに、新しく形成されたストーリー を強めていく過程には、多様な関係性の〈場〉や他者に若者の生きるストーリーを発信・

共有していく実践が存在した。従来、就学や就労といった状態像を「回復」や〈支援〉の

「ゴール」とみなすあり方に対し、本人の内面に注目することこそが重要であるとする研 究も少なくなかった。しかし、内面だけに着目する視点は、ともすれば若者個人の問題に 回収してしまう面も孕む。他方、本研究で再ストーリー化を重要なものとみなす視点は、

かれらの生きるストーリーという内的状況を重視しつつ、従来重視されてきた就学や就労

といった状態像を、かれらの再ストーリー化にかかわる重要な〈場〉の一つとしてとらえ

(4)

ることで、そうした〈場〉があるかという社会問題にも接続させていく視点をもつもので ある。そのような〈場〉や他者となり、またそうした存在を若者の周囲に広げていくこと が、再ストーリー化を支える〈支援〉に求められる事柄であることを、本研究では明らか にした(7章) 。

以上を経て、終章では、 「低層孤立者」の存在、経験、実践にかかわる総合的な考察をお

こなった。本研究では、これまで不可視化されてきた人々に注目するためにあえて「低層

孤立者」という名付けをおこなったが、それは若者を定義づけ、分断してとらえていこう

とするものではなく、むしろ今後似通った状況にある人々の経験や実践との異同が詳細に

検討される必要がある。その際、本研究が採用したストーリーという視点から若者の経験

や実践をとらえることは、若者の生きようとする主体性・能動性に着目する視点を提起す

る点で極めて重要になる可能性が高い。また、本研究では十分に論じることができなかっ

たが、スタッフもまたストーリーを生きる存在であるという視点は、今後〈若者支援〉実

践のあり方やスタッフの専門性を考えていく際に重要な視点となることが予期された。

参照

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