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富山大学公開講座 「′いとか らだの心理学」
第 3回 :「 ̀い身症 について 一逆説的に学ぶ心身症―」
富山大学総合診療部 北 啓 一朗
Kei―ichiro Kita: Paradoxical explanation on psychosomatic diseases
は じめに
らい身症」 とい う用語 は世間一般 に広 く受 け入 れ られている割 には誤解や誤用が多い言葉である。
また医療者の中に も誤解があ った り、世間の誤用 をそのまま利用 した りしている面 もある。本講習 会ではD己ヽ身症」について、誤解 を正 しなが ら理解 を深 めていただ くとい う方式で レクチ ャーを行 っ た。
誤解 1:心 身症 という病気がある
日本心身医学会 による心身症 の定義 は以下の と お りである。
「身体疾患の中でその発症や経過 に心理社会因 子が密接 に関与 し、器質的ない し機能性障害が認 め られ る病態をい う。 ただ し、神経症や うつ病な ど,他 の精神症状 に伴 う身体症状 は除外す る」。
ここに明記 されているとお り、心身症 とは病態 をさ している言葉であ って、胃潰瘍や気管支喘息 とい った疾病 (病気)と 同列ではない。元来、心 身医療 は「病を診ず に人を診 よ」とい う言葉がある ように、疾病を抱えた人 (患者)を 単 に臓器の故 障 した状態 とみなすのでな く、 よ り全人的 に把握 し対応 しようとす る動 きか ら生 まれた。現在の保 険診療で は、背景 にある心理社会的な面 にも配慮 してい くことが患者理解や治療 に重要である場合
に、 0さ身症)と い う呼称が併記 され ることにな る。例えば、胃潰瘍の多 くは ピロ リ菌感染か非 ス テロイ ド系消炎鎮痛剤の服用が原因であ り、 ピロ リ菌の除菌や制酸剤の内服で ほとん どの場合治癒 に至 る。 ところが、患者 の中には内視鏡で見 る限 り潰瘍 は良 くな っているのになかなか症状が良 く な らない場合があ り、その際患者の話 を聞 き込む ことで背景 に不規則な食生活や過度の飲酒があり、
更 にその背景 には会社での勤務形態や人間関係、
家族内の問題が明 らかにな った とす ると、その こ とを話題 として改善で きる点 を模索 してい くこと が症状緩和 に役立つ と考え られ る。 このような場 合、心療内科ではカウンセ リングや短期精神療法、
認知行動療法、薬物療法 などのアプローチを行 う が、 そのよ うな症例 には「胃潰瘍 │い身症)」 と病 名をつ けることで、上述 のアプローチが保険診療 内の治療 として認 め られ る (図 1、 2)。
極論すれば全ての患者 には何 らかの心身症的側 面 はあることになるが、全てを同様 にアプ ローチ す る必要 はない。 あ くまで「心身症 と して対応 し た ほうが上手 く行 く」場合 にのみ心療内科 的なア プ ローチが行われる。
まとめ :「 心身症」 は様々な疾患 にみ られる病態 であ り、独立 した疾病病名ではない。
誤解 2:心 身症 とは精神病である
これ も心身症の定義 において 「神経症や うつ病 など,他 の精神症状 に伴 う身体症状 は除外す る」
と明記 されていることか ら精神病でないことは明 らかである。上述 のよ うに、隔い身症」 と して扱 うことが多い身体疾患 としては、緊張性頭痛、過 換気症候群、過敏性腸症候群 などの機能性疾患が 多 い。 ただ し、現実 には誤解 されて も止むを得 な い面がある。
第一 に、心身症の定義その ものに無理がある。
現実的には明確 な妄想 を訴える統合失調症や希死 念慮の著 しい大 うつ病 などを除いて、 どこか ら精 神病で どこか ら神経症でどこか ら心身症 という明 確 な線 引 きは困難 で あ る。 また、 現在 の DSM―
IV(米 国精神医学会 による精神疾患 の診断 ・統 計 マニュアル)に は神経症や心身症 とい う概念 は な く、不安障害、感情障害、人格障害、身体化障 害 な ど に分 類 され て い る。 ま た WHOに よ る ICD‑10(国 際疾病分類)と DSM― IVに は概念 や 分類 に一致 していない点がある。 しか も以上のよ うな用語の使 い分 けは専門家の中で も必ず しも統 一 されてお らず、学会発表などにおいて も様々な 概念が混同 して用 い られている場合がある。専門 家が誤用 していては一般 に誤解が生 じて も仕方が ない。
第二 に、標榜医の問題がある。心身医学会の認 定を受 けると 日らヽ療内科」 を標榜す ることがで き るが、実際には精神科医が 日心療内科」 を標榜 し ていることがほとん どである。精神科医が らとヽ療
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内科」 と標榜 し敷居を低 くす ることで、多 くの不 安障害、感情障害、人格障害、身体化障害の患者 が適切な治療を受 ける機会が増えた意義 は大 きい。
一方で 隔さ療内科=軽 症の精神科疾患を診 るとこ ろ=プ チ精神科」 とい うイメージが定着す ること とな った。 そのため 乃い療内科 =軽 症の精神科疾 患 を診 るところ=プ チ精神科」 とい うイメージが 定着す ることとな った。
第二 に、臨床医の態度の問題がある。臨床医の 中に も 「心身症」の概念を誤解 されていると思わ れ る場面が多々ある。極端 な場合では検査 に異常 を認 めないのに症状が多 くあるので 「心身症」、
精神疾患 と思われ るが最初 に精神科 を紹介す るの は患者が嫌が るだろうか ら 隔い身症」 として心療 内科 に紹介す る例 は少 な くない。
まとめ :心身症 は基本的には体の病気であるが、
精神病の身体症状 と区別 しに くいことが ある。現在の診断基準や実際の臨床現場 にも混乱がみ られる。
誤解 3:心 身症 は心の弱 い人がなる
「病 は気か ら」 は真実の一面ではあるが、あま り強調 しす ぎると、「気持 ちが弱 いか ら病気 にな るのだ」 といった精神論 になり、かえ って患者 を 追 い詰 めることになる。我 々の経験では、心身症 の発症 と心の強い弱 いとは関係 しない。む しろ職 場や周囲に過剰 に適応 して きた人が,とヽ身症 を患 う
ことが多 い。
まとめ :心身症の発症 に関 して、心の強 さ弱 さは
1華三:翠撃翠警肇彗奎響嘔華奪
│ 1深 夜までの残薬 │
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関係ない
誤解 4:ス トレスがな くなれば健康 になる ス トレス [stress]とは元来物理学 の用語であ り、物体が荷重 を受 けたとき荷重 に応 じて物体 の 内部 に生ず る抵抗力 (応力)を 意味す る。医学用 語 としては種々の外部刺激が負担 として働 くとき、
心身 に生 ず る機能変化(=ス トレス反応)と 定義 され、 ス トレスの原因 となる要素 をス トレッサー とい うが、 日常会話ではス トレスとス トレッサー は混同 して用 い られている。
「ス トレスのせ いで胃が痛 くな った」 など、 ス トレスは何か と悪者 にされがちであるが、 ス トレ スと無縁 な人生 はあ りえない。同 じ状況で も人 に よ り反応 は様 々であ り、同 じ人で も状況により反 応 は異 なる。確かに過度のス トレッサーは時に健 康 を害す るが、適度 なス トレッサーは生体の機能
を高めるもので もある。
まとめ :適度なス トレスは必要である。
誤解 5:ス トレス (反応)と は気持ちの問題であ る
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↑反ショック相
1 ショック相 抵 抗 力 ↑( 適応 状 態 )
副 腎 皮 質 ホルモン ↑、白血 球 ↑ 生 体 反応 の 疲 弊
図 3は ス トレッサーが負荷 された生体の反応を 系時的に示 した ものであ り、 セ リエはこれを一般 適応症候群 と名づ けた。
この図の如 く、ス トレス反応 は全身反応であり、
気の持 ち方だ けが反応す るもので はない。 また、
ス トレッサーとしては精神的ス トレスだけでな く、
睡眠不足や過労、飲酒などの生活習慣 なども挙 げ
られ、 こち らも全身 に負荷す るものである。
まとめ :ス トレス反応 とは全身の反応である
誤解 6:「 自律神経失調症」 という病気がある 自律神経 とは呼吸、循環、発汗 など、意識 しな くとも体の機能 を調節 している神経である。 この 神経の機能 (調子)の 乱れによると思われる動悸、
息切れ、 ほて りなどがあると 「自律神経失調症」
と診断 され ることが多い。漠然 とした愁訴で、 そ れに見合 うだけの器質的異常が認め られない状態 につ け られ る暫定的な名称 であ り、 「自律神経失 調症」の明確 な定義 はない。 また、 いわゆる自律 神経失調症で は自律神経 に器質的な異常 を来 たす ことはない。本当に自律神経 その ものに障害が起 きるのは、糖尿病性神経障害 などごく一部の病気 に限 られ る。実際には「うつ病」「不安障害」などの 身体化症状であることもある。
まとめ :「 自律神経失調症」 は漠然 と した名称で ある。実際には「うつ病」「不安障害」と し て治療すべき病態 も含 まれている。
誤解 7:心 療内科 はどこも同 じである
日本心身医学会 は、他 の臓器専門別学会 と異 な り、フらヽ身医学 に興味のある臨床医の集 まりであ り、
学 際的 な学 会 で あ る (図 4)。 標榜 科 と して の
「心療 内科」 を掲 げる場合、 まず各専門領域 の認 定医、専門医資格を取得 した上で 日本心身医学会 の認定医を取得 しな くて はな らない (図 5)。 そ
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抵 抗 力
のため、「心療 内科」 を標榜す る医師の<本 来 の 専門科 >が 何科かによ って、得手不得手 ある。心 身医学的なアプローチは共通 していて も、 <本 来 の専門 >が 婦人科であれば更年期障害 などを多 く は扱 って も、気管支喘息を扱 うことは少 ないと思 われる。同様 に、内科医であれば身体診察 は行 っ て も、更年期障害や月経前症候群 などを扱 うこと は少 な くなる。患者 自らが全てを自己判断で きる わけで はないが、 疇い療内科」 と併せて標榜 して いる診療科名 に注 目 して、 ある程度 自分の症状 に あ った科を受診す るのが望 ま しい。 もちろん、担 当医は必要 に応 じて適切な施設 に紹介す るので、
最初の選択 にあま り神経質 になる必要 もない。
ちなみに、全国には日らヽ療内科」専門の医局 ・講 座 を もつ大学が数校 あるが、基本的には内科医 と
しての トレーニ ングを受 けている。
まとめ :心 療内科医にはそれぞれの専門領域があ る。
誤解 8:心 身症 は全て治すべきである
患者本人 にとっては病の体験 は決 して快適 な も のではないが、だか らといって、一様 にす ぐ症状 を取 り除 くのが良 いともいえない。例えば、大震 災や津波 などの自然災害後、被災者が一時的に抑 うつ状態 にな った り、睡眠障害 にな った りす るこ とが知 られている。 このような体の反応 は異常 な (非日常的)体 験での正常 な反応 と捉え ることも 可能である。近親者を亡 くした後 の一連 の心理状 態の変化 は 「喪の作業」 と呼ばれ、 ある程度の否
認や怒 り、虚無感、身体 の不調 などは受 け入れが たい出来事 に対 して働 く心 の安全装置 とも言われ ている。 その意味では、ある程度 このような状態 に 「浸 る」時期がないと、 そのよ うな状態か らは 抜 け出せないのが正常 とも言える。 そのよ うな反 応 を全て忌避すべ きもの として対応せず、病 の意 味 について考えてみることも時 には重要である。
また、心身症 は様 々な システムの歪みに対す る 反応 として生 じる場合がある。例えば、 神 経性 無食欲症 の子供 は、 (両親 の不仲 などによ り)破 綻 しそ うな家族関係 を、 自分が病気 になることで なん とかつな ぎとめている、 と理解 した方が良 い 場合がある。 その場合、 い くら本人 に食べ ること の大事 さを説いて も本人 は良 くな らない。む しろ、
家族 に理解 を求 め、家族の態度が変われば、患者 は病気 になっている必要 はな くなるのである。
システムの歪みは家族関係に限 らない。例えば、
ワーカホ リックのサ ラ リーマ ンは自分が仕事中毒 であることに気づかないので、深夜 までの残業や 休 日出勤 もス トレスとは感 じていない。 しか し、
体 は音 をあげているので出勤前 になると腹痛や下 痢 に悩 まされ た りす る (過敏性腸症候群)。心身 症 とい うと、何で も気 になる神経質な人、 とい っ たイメージがあるが、実 はこのサ ラリーマ ンのよ うに心 と身体の間のつなが りがない人 こそが′い身 症 にな りやす く、 このような性格傾向をア レキ シ サイ ミア (ale対thymia:失 感情症)と 呼ぶ。 こ の場合、心身のつなが りを理解 し、普段の生活を 振 り返 ってみ ることが重要である。
まとめ :心身症 になることでバランスをとってい る場合があ り、症状を取 り除 くことだけ を考えず、その人力ヽい身症 にな った意味 を考えていくことが重要である。
誤解 9:心 身症 は医者が治すものである 心身症の治療法 は実 に多様である (図 6)。
まさに百花績乱で決定打がない、 とも言えるが、
いずれに しろ、よ りよい医師患者関係を構築 し、
様 々なアプローチを通 して最終的には患者 さんの 認知が変わ り、行動が変容 してい くことを期待 し
11輔朧
・ 医師患者関係
・ 心理学的アプローチ
ーカウンセリング、交流分析、自律訓練法
―森日療法、内観療法行動科学的アプローチ ー 認知行動療法
― バイオフィードバック療法
・ 薬 物 療 法
― 抗不安薬、抗うつ薬
・ そ の 他
―絶食療法、家族療法 て い る。
高血圧、糖尿病 などの生活習慣病 (成人病)な どと同様、心身症のマネー ジメ ン トにおいては患 者 さん 自身の主体的な関 りが重要 となる。医師は 様 々なア ドバイスをす ることはで きるが、個 々の 症例の答えは、患者 さん自身が見出す ことが多い。
症例 Aさ ん 45歳 女性
20代の頃か ら片頭痛発作があ り、その都度市販 の痛み止めを飲んでいた。最近では一 日中 こめか みか ら首筋にかけて頭痛が続 き (ヘルメットを被 っ ているよ うな重 い感 じ)、 いつ もの薬 で はよ くな
らないため来院。
典型的な緊張型頭痛の症例であるが、生活背景 を伺 うと慣れないパ ー ト仕事やお姑 さんの世話、
言 うこと聞かない子供の ことなどがス トレスと感 じているとの ことだ った。 このような場合、筆者 は心理社会的ス トレスが頭痛の原因であると端か ら断定 しないよう、注意深 く話を伺 うように して いる。 その理由は第一 に語 られたス トレスと表現 される症状 との因果関係 は不明な点が多 く、真 に 相関があるかは断定で きない こと、第二 に何が原 因かの 「悪者探 し」 に汲々 として も、実際には取 り除 くことが難 しか った り、取 り除いて も別の要 因が症状を悪化 させ るなど して、問題の解決 にま で至 らない ことが多 いか らで あ る。 患者 さんが
「ス トレスのせいで」頭痛があ る、 と語 られた場
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合 も、それ も患者 さんの見方の一つtと して話 を 伺 う。 このよ うに患者 さんの生活背景や思 いをま るごと聴 いて い く中で、 患者 さん は自 ら解決策 (対応策)を 見 出す ことが多 い。 Aさ んの場合、
週末 に子供 とテニスをす るようになった ら家庭内 もうまく回 り、肩 こりも減 って、頭痛のコン トロー ル も良 くな ってい った。「週末 に子供 とテニスを す る」 とい う対策 は、当然緊張性頭痛の患者 さん 全てに効果があるものではない。医師がAさ んに 授 けた もので もな く、 Aさ ん 自らが見出 したこと に意味がある。 その意味では医師の仕事 は患者 さ んが極端 な思考や行動 に迷 い込 まないように支え てい くことは重要であるが、医師の勝手 な思 い込 みを押 し付 けるのは厳 に慎むべ きである。
まとめ :心身症の治療 は医師 と患者の共同作業で ある。
心身症 には様 々な誤解や偏見が見 られ るが、臨 床現場では接す ることの多い、 あ りお、れた病態で ある。急性肺炎のように完全治癒を目指すべ き場 合 もある一方、先 にあげた高血圧症 や糖尿病 など と同様 に、 うま く付 き合 ってい く態度 も心身症の 診療では要求 され る。 この事 に関 して、 ニーバー の祈 りといわれる詩を紹介する。
O Gοち Gjνe s
Sθ″θ′J″ン ′ο ασσやtW力 α′Cα″ο′bθ ε力α″gθこ Coνraga ゎ c力α″gθルッカα′s力ο″′グbθ σ力α″gθこ
∠′グ ″7sJο″ ゎ グ,s′J4νrs乃滋θο″θノリ″ ″θ οttθみ
И″θ ″.
( 訳) 「 ネ 申よ、 願 わ くば わ た しに、
変 え ることので きない 物事 を受 けいれ る落ち着 きと、
変 え ることので きる 物事 を変え る勇気 と、
その違 いを常 に見分 ける知恵 とを、
さず けたまえ アーメ ン」
これは米国の神学者 ライ ンホール ド・ニーバー