環 境 法 に お け る 非 公 式 行 政 活 動
︱︱ その 許容 性と 法的 位置 づけ
︱︱
髙 橋 信 隆
は じ め に 一 非公 式行 政活 動が 必要 とさ れる 理由 二 非公 式行 政活 動の 特徴
ઃ 非公 式性
︵I nf or me ll
︶
協働 性︵ Ko op er at iv
︶ અ 行政 活動 性︵ Ve rw al tu ng sh an de ln
︶ 三 規範 執行 的な 非公 式行 政活 動の 出現 形態
ઃ 法行 為準 備的
︵r ec ht sa kt vo rb er ei te nd
︶な 非公 式行 政活 動
法行 為代 替的
︵r ec ht sa kt er se tz en d︶ な非 公式 行政 活動 四 非公 式行 政活 動の 許容 性と 限界
ઃ 許 容 性
非公 式行 政活 動に 対す る法 的要 求事 項 お わ り に
は じ め に
⑴
環境 保全 のた めの 手法 とし ては、伝 統的 に、 主と して 規制 的手 法が 用い られ てき たが
、と りわ け近 年の 新た な環 境問 題と の関 わり で、 執行 の欠 缺︵ Vo ll zu gs de fi zi t︶ や規 律の 欠缺
︵R eg el un gs de fi zi t︶ など の問 題点 が指 摘さ れ、 規制 的手 法の 不備
・欠 缺を 補完 する 各種 手法 の必 要性 が論 じら れて 久
( )
しい
。そ れに 伴い
、行 政と 企業 とが 環境 保全 を目 的と して 協定
︵V er ei nb ar un g︶ を締 結し たり
、自 主的 な取 決め
︵A bs pr ac h︶ を行 うな ど、 非公 式︵ in fo r- me ll か︶ つ協 働的
︵k oo pe ra ti v︶ な行 政活 動の 例が 散見 され るが
、こ れら の方 法を 用い た行 政活 動は
、今 日、 環境 法 の領 域に おい ては 半ば 日常 化し てい ると いっ ても 過言 では ない
。新 たな 環境 問題 の出 現に 伴い
、行 政は もち ろん の こと
、企 業も 積極 的に 技術 革新 を図 りつ つこ れら の問 題に 対応 せざ るを 得な い状 況に あり
、と りわ け、 環境 リス ク
︵U mw el tr is ik o︶ とい われ る人 類が 未だ 十分 に経 験知 を獲 得で きて いな い諸 問題 に対 して は、 環境 保全 技術 を日 常的 に進 化さ せつ つ、 それ に柔 軟に 対応 する こと が求 めら れて
(% )
いる
。換 言す れば
、そ こに は、 行政 が介 入す べき 基準 を 予め 設定 し、 その 基準 に基 づい て規 制的 手法 を駆 使す ると いう 従来 の方 法で は対 応で きな い現 実が 存す るし
、そ れ に代 えて
、あ るい はそ れを 補完 する もの とし て、 非公 式・ 協働 的な 活動 形式 に拠 らざ るを えな い必 然的 状況 も存 在 する と 。 ころ で、 一方 にお いて
、確 かに 環境 法の 領域 を中 心に 非公 式・ 協働 的な 行政 活動 が不 可避 的に 要請 され てい る とい う事 情は ある とし ても
、他 方で
、そ のよ うな 活動 方法 を用 いる こと は、 行政 行為 を中 心と する 伝統 的な 規範 執 行的 行政 活動 およ びそ れを 軸と して 形成 され てき た行 政の 行為 形式 論に も少 なか らず 影響 を及 ぼす であ ろう し、 更 には
、本 来的 には 二元 的対 立関 係を 前提 とし て観 念し てき た行 政と 私人 との 関係 につ いて
、両 者の 合意 を目 指し た 協働 関係 へと その 構造 を一 新さ せて しま う要 素も 内包 して いる
。
⑵
近代 法治 国は、﹁ 法律 によ る行 政﹂
︵G es et zm äß ig ke it de rV er wa lt un g︶ とい う基 本原 理に 端的 に示 され てい る よう に、 公権 力の 行使 から 私人 の権 利利 益を 保護 する ため に、 行政 活動 につ いて 規範 執行 的な
﹁形 式﹂ を要 求し て きた
。こ れら の﹁ 形式
﹂は
、か つて 君主 によ る専 制に 苦し めら れて きた 市民
︵市 民社 会︶ が苦 労の 末に 獲得 して き たも ので あ
(* )
った し、 した がっ てま た、 それ に基 づい て形 成さ れて きた 諸原 則に 従う 限り にお いて は、 行政 と私 人と が相 互の 合意 に基 づき 取決 めを した り、 両者 が協 働的 に活 動す ると いっ た関 係は
、伝 統的 な行 政法 学上 の行 為形 式 にお いて は、 その 前提 にお いて 基本 的発 想と して は存 在し てい なか った とい って も
(+ )
よい
。 しか しな がら
、と りわ けド イツ にお いて は、 三〇 年ほ ど前 より
、行 政と 私人 との 関係 につ いて のそ れま での 基本 的理 解を 見直 し、 そし てま た、 その こと を前 提に 行政 の非 公式 な活 動に つい ても 法的 もし くは 制度 的に 位置 づけ よ うと する 議論 が、 行政 法学 およ び行 政学 上の テー マと して 繰返 し論 じら れて きて
(, )
いる
。そ れを 環境 法に つい てみ る なら ば、 行政 の規 制権 限の 発動 に伴 う執 行の 欠缺 とい う課 題に 直面 し、 それ を克 服し
、も しく は補 完す る目 的を も って
、そ れら の非 公式 行政 活動 が論 じら れて
(- )
いる
。今 日、 ドイ ツに おい ては
、た とえ ばイ ンミ ッシ オン 防止 法
︵I mm is si on ss ch ut zr ec ht や︶ 水法
︵W as se rr ec ht 上︶ の有 害物 質の 排出 削減 もし くは 産業 廃棄 物に よる 汚染 地区 の原 状回 復な どと の関 連で
、こ れら の活 動形 式を 数多 くみ るこ とが で
(/ )
きる が、 そこ では
、問 題発 生の 要因 が複 雑に 絡み 合い
、場 合に よっ ては 問題 発生 のメ カニ ズム すら も十 分に 解明 でき てい ない 状況 にあ って も行 政と して の具 体的 な 対応 が求 めら れて おり
、そ れゆ え、 従来 から の規 範執 行的 な行 政活 動に 加え て、 ある いは それ に代 わっ て非 公式 の 行政 活動 が常 態化 せざ るを 得な い状 況が
、そ こに は存 在す る。 その よう な行 政と 私人 との 合意 を目 指し た非 公式 行 政活 動は
、伝 統的 な行 政法 理論 との 関わ りに おい ても 極め て重 要な 問題 提起 を内 在さ せて いる が、 極論 する なら ば、 国家 像そ れ自 体の 変化 をも 示唆 する 現象 とし て捉 える こと もで き
(0 )
よう
。 そこ で、 本稿 にお いて は、 とり わけ 環境 法領 域を 主た る対 象と しつ つ、 非公 式な 方式 を用 いて 行わ れて いる さま
ざま な類 型の 行政 活動 の許 容性 およ び限 界に つい て、 近年 のド イツ にお ける 議論 動向 を紹 介す るこ とと し
(1 )
たい
。
︵
︶ 規制 的手 法の 不備
・欠 缺と それ を補 完す るも のと して の﹁ 新た な﹂ 手法 の意 義お よび 法的 位置 づけ につ いて は、 髙橋 信隆
﹃環 境行 政法 の構 造と 理論
﹄信 山社
︵二
〇一
〇︶ 五頁 など 参照
。
︵%
︶ 筆者 は、 かつ て、 この 点に 関す る行 政や 企業 等の
﹁学 習能 力﹂
︵L er nf äh ig ke it
︶の 向上 の必 要性 につ き論 じた こと があ る。 髙橋
・前 掲書 註
︵
︶八 頁、 一二 九頁
、一 七三 頁、 一七 七頁
、一 九三 頁な ど参 照。
︵*
︶ J. Be ck er ,I nf or ma le sV er wa lt un gs ha nd el nz ur St eu er un gw ir ts ch af tl ic he rP ro ze ss ei mZ ei ch en de rD er eg ul ie ru ng ,D ÖV 19 85 ,S .1 00 3; W. Br oh m, Re ch ts st aa tl ic he Vo rg ab en fü ri nf or me ll es Ve rw al tu ng sh an de ln ,D VB l. 19 94 ,S .1 33 .
︵+
︶ 但し
、伝 統的 な行 政活 動に おい て、
﹁合 意形 成﹂ が皆 無だ った わけ では ない
。こ れに つい ては
、髙 橋・ 前掲 書註
︵
︶九 頁。
︵,
︶ Vg l. Be ck er ,D ÖV 19 85
︵F uß n. 3︶ ,S .1 00 3; H. Ba ue r, In fo rm el le sV er wa lt un gs ha nd el ni m öf fe nt li ch en Wi rt sc ha ft sr ec ht ,V er wA rc h. 78
︵1 98 7︶ ,S .2 41
;H .- G. He nn ek e, In fo rm el le sV er wa lt un gs ha nd el ni mW ir ts ch af ts ve rw al tu ng s- un dU mw el tr ec ht -Z wi sc he nb il an zz ur Er fa ss un g ei ne ss ei tz eh nJ ah re nb en an nt en Ph än om en s, Nu R1 99 1, S. 26 7; Br oh m, DV Bl .1 99 4︵ Fu ßn .3
︶, S. 13 3.
︵-
︶ He nn ek e, Nu R1 99 1︵ Fu ßn .5
︶, S. 26 7; M. Sc hr öd er ,K on se ns ua le In st ru me nt de sU mw el ts ch ut zr ec ht s, NV wZ 19 98 ,S .1 01 1, S. 10 16 .
︵/
︶ なお
、環 境法 の中 でも
、と りわ け経 済活 動に 関わ る領 域に おい て非 公式 行政 活動 の形 式が 用い られ るこ とが 多い よう であ る。 Vg l. M. Fe hl in g, In fo rm el le sV er wa lt un gs ha nd el n, in :W .H of fm an n- Ri em /E .S ch mi dt -A ßm an n/ A. Vo ßk uh le ,G ru nd la ge nd es Ve rw al tu ng sr ec ht s, Ba nd ,2 00 8, 38 Rd n. 23 m. w. N.
Ⅱ§︵
0︶ Br oh m, DV Bl .1 99 4︵ Fu ßn .3
︶, S. 13 9.
︵1
︶ した がっ て、 本稿 は、 非公 式行 政活 動を 法的 に明 確に 位置 づけ よう とす るも ので はな いし
、現 行法 およ び後 述の 環境 法典 参事 官草 案な どを めぐ って 繰り 広げ られ てい るド イツ の議 論を 紹介
・素 描し
、今 後、 非公 式行 政活 動に つい てい かな る方 向で 議論 がな され よう とし てい るか を 確認 しよ うと する にす ぎな いも ので ある こと
、し たが って また
、本 稿に 関連 する わが 国の 文献 もほ とん ど引 用し てい ない こと を、 予め お断 り して おき たい
。な お、 以下 の内 容に つい ては
、J .O st er ,D as in fo rm el l- ko op er at iv eV er wa lt un gs ha nd el ni m Um we lt re ch t- Be gr if fl ic he Ab gr en zu ng ,E rs ch ei nu ng sf or me nu nd re ch tl ic he Be we rt un g, Nu R2 00 8, S. 84 5f f. によ ると ころ が大 きい
。