行 政 処 分 の 公 定 力 と 刑 事 裁 判 に 関 す る 覚 書
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ドイ ツに おけ る刑 事裁 判所 によ る行 政行 為の 適法 性審 査権︱ ︱
人見 剛
一 は じ め に 二 刑事 裁判 にお ける 行政 処分 の適 法性 審査 の諸 相 三 刑事 裁判 にお ける 行政 処分 の適 法性 審査 に関 する わが 国の 学説 四 ドイ ツに おけ る刑 事裁 判所 によ る行 政行 為の 適法 性審 査 一
は じ め に 行政 処分 の公 定力 の限 界問 題の 一つ とし て、 刑事 裁判 にお ける 先決 問題 にお いて 行政 処分 の適 法性 審査 が可
( )
能か
、と りわ け違 法と 判断 され た行 政処 分の 効果 を刑 罰の 構成 要件 の認 定に おい て否 定し て科 刑の 是非 を判 断す る こ
とが 可能 であ るか
︵刑 事裁 判に おけ る行 政処 分の 違法 の抗 弁の 可否 と呼 ばれ る︶
、と いう 問題 が論 じら れて きた
。 本稿 は、 時間 的制 約の ため に、 この 問題 につ いて 包括 的な 検討 を加 える もの では なく
、わ が国 の裁 判例 から 筆者 の目 にと まっ たも のを ピッ クア ップ して 若干 の整 理を 試み た上 で︵ 二︶
、日 本の 学説 状況 を一 瞥し
︵三
、︶ 関連 する
ドイ ツの 学説
・判 例の ごく 一部 を紹 介す るも ので ある
︵四
︶。 まこ とに 中途 半端 な、 文字 通り の﹁ 覚書
﹂に 過ぎ な いも ので ある が、 磯部 力先 生の 立教 大学 退職 記念 の論 集に 是非 とも 加わ りた いと の一 心で 急遽 執筆 に臨 んだ もの で ある
。大 方の ご批 判を 仰い だ上 で、 今後 も考 究を 深め てい きた い。
︵
︶ 無効 の行 政処 分に は公 定力 は生 じな いと する のが 通説
・判 例で ある から
、刑 事裁 判所 が先 決問 題の 中で 争わ れて いる 行政 処分 が無 効で ある と 1 判定 すれ ば、 その 法効 果を 否定 して 独自 に科 刑の 是非 を判 断す るこ とが でき る。 刑事 事件 の裁 判所 には
、こ の限 りで の、 行政 処分 の有 効・ 無 効の 判断 権は 認め られ てい る。 公安 委員 会に よる 道路 通行 の禁 止・ 制限 違反 が問 われ た事 件で
、最 判昭 和三 七年 四月 二〇 日︵ 刑集 一六 巻四 号四 二七 頁︶ は、 実際 に設 置さ れ た道 路標 識が 単な る指 導標 識で あっ て通 行を 禁止 する 効力 を有 さず
、﹁ 有効 な道 路通 行の 禁止
・制 限処 分は なさ れて いな かっ た﹂ とし て無 罪の 判決 を下 した
。処 分の 無効 ない し不 存在 が刑 事訴 訟で 認め られ た事 例と いえ る。
二 刑事 裁判 にお ける 行政 処分 の適 法性 審査 の諸 相
ઃ
問題 の生 ずる 事案 の諸 類型 刑事 裁判 にお いて、科 刑の 是非 を判 断す るに 必要 な先 決問 題と して 行政 処分 の適 否が 問題 とな るケ ース には 種々 のも のが ある が、 これ まで の裁 判例 や学 説に 鑑み ると
、次 のよ うな 事案 が区 別で きる と思 わ
( )
れる
︵い ずれ も、 それ
ぞれ の場 合に 関連 法令 上刑 事罰 が設 けら れて いる こと は当 然の 前提 であ る︶
。
①改 善命 令・ 中止 命令 のよ うな 私人 に作 為・ 不作 為等 の義 務を 課す 内容 の処 分が なさ れた とき に︵ ある いは 申請 に基 づく 許認 可等 の処 分に
、作 為・ 不作 為等 の義 務を 課す 負担 が附 款と して 付さ れて いる とき に︶
、当 該私 人が その 義務 を履 行し ない 場合
。
②許 可処 分等 が職 権で 取消
・撤 回︵ ある いは 停止 さ︶ れた にも かか わら ず、 許可 等を 要す る行 為を 被処 分者 たる
私人 が行 った 場合
。
③許 可等 の申 請に 基づ く処 分に つい て、 申請 拒否 処分 がな され たに もか かわ らず
、許 可等 を要 する 行為 を申 請者 たる 私人 が行 った 場合
。
④私 人の 申請 が認 諾さ れて 許可 処分 等が なさ れ、 許可 等を 要す る行 為を 当該 私人 が行 った とこ ろ、 当該 処分 が違 法で あっ たと され た場 合。
⑤上 記の 場合 以外 に、 行政 処分 がな され てい るこ とが 刑事 罰の 成否 に影 響を 及ぼ して いる 場合
。
各類 型の 具体 的事 例 前述 した 五つ の諸 類型 に、 それ ぞれ に該 当す る裁 判例 をい くつ か挙 げて おこ う。①の ケー スに 該当 する 事案 とし て、 建築 基準 法九 条一 二項
︵九 八条 一号
︶に 基づ く工 事中 止命 令に 対す る違 反事 件が ある
。大 阪地 判昭 和三 九年 七月 二九 日︵ 下刑 集六 巻七
・八 号八 八三 頁︶ は、 処分 が違 法で ある こと は建 築審 査会 への 不服 申立 等の 方法 で是 正を 求め るべ きで あっ て刑 事事 件で 主張 する こと は失 当で ある と判 示し て有 罪の 判決 を 下し た。
②の ケー スと して
、他 人の 交通 事故 の身 代り 犯人 とな った 者が
、そ れを 理由 に運 転免 許を 取り 消さ れた 後、 自動 車を 運転 した とこ ろ、 その 運転 後に 身代 りの 事実 が判 明し て免 許取 消処 分が 取り 消さ れた とき でも 無免 許運 転罪 が 成立 する とさ れた 水戸 地判 昭和 四九 年六 月七 日︵ 判タ 三一 六号 二九 八頁 が︶ ある
。そ こで は、 免許 取消 処分 の違 法 は重 大で ある が明 白で はな く、 当然 無効 とは いえ ず、 公定 力の 理論 は、 この 免許 取消 処分 に妥 当し
、そ の職 権取 消 がな され るま で免 許取 消処 分の 効力 は存 続し
、職 権取 消の 効力 は、 自ら の欺 罔行 為に よっ て処 分対 象者 とな った 被 告人 に対 して は遡 及し ない とさ れた
。
③の ケー スと して
、ま ず、 公衆 浴場 の営 業許 可申 請が 拒否 され たに もか かわ らず 営業 を行 った 者が 公衆 浴場 法違 反に 問わ れた 事件 につ いて
、大 阪高 判昭 和四 一年 一一 月三
〇日
︵下 刑集 八巻 一一 号一 四四 四頁 は︶
、右 不許 可処 分が 違法 であ るこ とは 明ら かで ある とし つつ
、不 許可 処分 が違 法で ある から とい って 右営 業に つい て許 可が ある こと に はな らな いと して
、有 罪判 決を して
( )
いる
。
また
、身 体障 害者 であ る被 告人 が自 動車 運転 免許 申請 をし たが
、運 転不 適格 者と して 申請 を拒 否さ れた にも かか わら ず、 生計 維持 のた めに 無免 許の まま 運転 して 公訴 が提 起さ れた 事案 につ いて
、東 京地 判昭 和四 五年 四月 二七 日
︵判 時六
〇一 号一
〇九 頁︶ は、
﹁仮 に被 告人 が自 動車 の運 転適 格者 であ り、 かつ 運転 操作 の技 能を 有し てい るの に、 かか る適 性能 力が ない と判 定さ れた とし ても
、直 ちに 無免 許で 自動 車を 運転 して もよ い理 由に はな らな い。 係官 の 処分 に不 服で あれ ば、 法的 な救 済手 段を 通じ て、 該処 分の 是正 を求 める べき であ る﹂ と判 示し て有 罪と した
。
④の ケー スに 該当 する 事案 とし て、 虚偽 申告 に基 づき 税関 長の 輸出 許可 を得 て貨 物の 輸出 がな され た事 件に 関す る最 決昭 和四 五年 一〇 月二 二日
︵刑 集二 四巻 一一 号一 五一 六頁 が︶ ある
。最 高裁 は、
﹁こ のよ うな 事実 関係 のも とに おい ては
、本 件輸 出許 可が
、重 大か つ明 白な 瑕疵 ある 行政 行為 であ るか ら無 効の もの であ ると は解 され ず、 した が って その 輸出 は、 税関 長の 有効 な許 可の もと にな され たも のと いう べき であ るか ら、 その 本犯 につ いて 虚偽 申告 罪 の成 立が 認め られ ると して も、 無許 可輸 出罪 は成 立し ない もの とい わな けれ ばな らな い﹂ と判 示し た。 他方
、国 際運 転免 許証 が不 正手 段で 入手 され た事 件に つい て、 その こと の故 に﹁ 直ち に無 免許 運転 罪の 成立 を認 める こと はで きな いが
、本 件の 国際 運転 免許 証は
、適 正を 有す るこ とを 実証 した 上で 発給 を受 けた もの では ない 以 上…
…こ れを 所持 する 自動 車運 転者 につ いて 無免 許運 転罪 の成 立を 認め た第 一審 判決 及び 原判 決は
、結 論に おい て は正 当で ある
﹂と した もの とし て、 最決 昭和 五三 年三 月八 日︵ 刑集 三二 巻二 号二 六八 頁︶ が
( )
ある
。
⑤の ケー スと して は、 著名 な最 決昭 和六 三年 一〇 月二 八日
︵刑 集四 二巻 八号 一二 三九 頁︶ があ る。 そこ では
、交 通
事故 を理 由と して なさ れた 運転 免許 停止 処分 が確 定し た後
、刑 事裁 判で はそ の前 提と なっ た事 実の 証明 がな いと し て無 罪に なっ た事 案に おい て、 別に 速度 制限 違反 罪に 関し
、こ の処 分歴 を理 由に
︵反 則金 制度 の適 用を せず 公︶ 訴が 提起 され た。 この よう な公 訴の 提起 が違 法で ない かが 争わ れた のに 対し
、最 高裁 は、
﹁本 件免 許停 止処 分は
、無 効 では なく
、か つ、 権限 のあ る行 政庁 又は 裁判 所に より 取り 消さ れて もい ない から
、被 告人 を反 則者 に当 たら ない と 認め てな され た本 件公 訴の 提起 は、 適法 であ る。
﹂と 判示 して いる
。 また
、個 室付 浴場 が児 童福 祉施 設の 周辺 では 営業 でき ない とさ れて いる 下で
、個 室付 浴場 業の 開業 を阻 止す るた めに 付近 地に 児童 福祉 施設 の設 置許 可が なさ れ、 それ にも かか わら ず該 営業 が開 始さ れた ため 風営 法違 反と して 刑 事裁 判と なっ た余 目町 ソー プラ ンド 事件 も、 この ケー スに 当た る。 最判 昭和 五三 年六 月一 六日
︵刑 集三 二巻 四号 六
〇五 頁︶ は、 県知 事が
、専 ら個 室付 公衆 浴場 の建 設を 阻止 する 目的 で、 その 近所 に、 児童 福祉 法に 定め る児 童福 祉 施設 の設 置を 許可 した こと が国 家賠 償訴 訟に おい て違 法と され た判 決︵ 最判 昭和 五三 年五 月二 六日 民集 三二 巻三 号六 八九 頁︶ をも 引用 しつ つ、 当該 認可 処分 は﹁ 行政 権の 濫用 に相 当す る違 法性 があ り、 被告 会社 のト ルコ 風呂 営業 に 対し これ を規 制し うる 効力 を有 しな い﹂ と判 示し
、﹁ 原判 決及 び第 一審 判決 は、 犯罪 構成 要件 に関 連す る行 政処 分 の法 的評 価を 誤っ て被 告会 社を 有罪 とし た﹂ と述 べて
、そ れら を破 棄し て無 罪判 決を 行っ た。 なお
、前 述の 免許 停止 処分 の効 力が 問題 とな った 昭和 六三 年最 決の 事案 にお いて
、最 初の 違反 行為 につ いて 免許 停止 処分 がな され ると とも に刑 事裁 判も 提起 され
、そ こで は無 罪の 判決 が下 され てい る。 この よう に一 個の 法令 違 反行 為に 対し て行 政処 分と 刑事 罰の 両方 の措 置が なさ れる 場合
、行 政処 分が 先行 し、 後に 刑事 罰の 科刑 をめ ぐっ て 刑事 訴訟 で審 理さ れる こと があ る。 この 時に 刑事 事件 の裁 判所 が、 先行 した 行政 処分 に拘 束さ れる こと は、 通常 あ りえ ない
。そ もそ も、 この よう な場 合は
、刑 事裁 判で 審理 され る犯 罪の 構成 要件 とし て行 政処 分の 効力 等は 含ま れ てい ない ので ある から
、そ の拘 束力 を問 題と する 余地 はな い。 行政 庁と 刑事 事件 の裁 判所 が、 それ ぞれ 独立 に法 令