協同課題における貢献度と自己関与度が自己評価に 及ぼす影響
著者 服部 美保, 神山 貴弥
雑誌名 同志社大学教職課程年報
号 8
ページ 3‑16
発行年 2019‑02‑25
権利 同志社大学教職課程年報編集委員会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2018.0000000377
論文
協同課題における貢献度と
自己関与度が自己評価に及ぼす影響
服 部 美 保・神 山 貴 弥
(同志社大学大学院心理学研究科・同志社大学心理学部)
Effects of Contribution and Self-relevance on Self-evaluation in a Cooperative Task
Miho Hattori & Takaya Kohyama The present study examined effects of contribution and self- relevance on self-evaluation in a cooperative task. 67 junior students who had job hunting intention participated in this study. Individual task was a ten-question survey which extracted from a common employment test, the SPI test. We manipulated self-relevance by information whether the survey extracted from the SPI test or not.
Cooperative task following individual one was that a pair of participants guessed together what the object under the panels was.
Participants were feed-backed the false numbers of correct answers (3 or 9) on individual task, and the panels were removed according as the numbers; participant contribution (high or low) on cooperative task was manipulated by the numbers. We measured self- evaluations before and after the tasks. The results revealed that the high contributors increased self-evaluation than low ones regardless of self-relevance. Based on this result, points of attention in doing cooperative learning were described.
Key Words: cooperative task, contribution, self-relevance, self- evaluation.
目的
近年、教育現場において協同学習の活用が推進されている。協同学習とは、
グループ成員が共通の目標に向かって相互依存的に課題を遂行し、互いを高 めあうような学習方法である(Johnson, Johnson, & Holubec, 1998)。従 来の研究では、協同学習を経験することが生徒たちの自尊感情を高め、友人 の学習態度へ肯定的認知をもたらすと報告されてきた(Blaney, Stephen, Rosenfield, Aronson, & Sikes, 1977;蘭,1983)。一方で、各成員間の実 力の差は貢献度の差に結びつき、他者との比較を生じさせると考えられてい る(室山・堀野,1994)。自己評価維持モデル(Tesser, 1984)から検討し た場合、例えば自己関与度の高い、つまり自分にとって重要な領域で協同課 題を達成したとしても、自身が協同課題に貢献できなければ、自己評価は低 下すると考えられる。しかし、協同課題が自己評価に及ぼす影響を自己評価 維持モデルが予測し得るかどうかはまだ検証されていない。したがって、本 研究では協同課題における貢献度と自己関与度が自己評価に及ぼす影響につ いて検討することを目的とする。
自己評価維持モデルとは個人が競争場面において、自分自身に抱いている 相対的な良さといった自己評価を、常に維持し続けたいと感じる過程につい て説明したモデルである(Tesser, 1984)。この自己評価を維持する過程に 関わる要因として未知より既知の人、既知の人の中でも年の離れた者より近 い者のほうが自己評価に影響を及ぼしやすいといった他者との心理的近さ、
他者より上手く遂行できたかどうかという自身の遂行結果、そしてその遂行 領域が自身にとってどの程度重要かを示す自己関与度の3つが挙げられる(磯 崎・高橋,1988)。
自己評価を維持する過程には、比較過程と反映過程の2つが想定されている。
比較過程には、自己の優れた結果によって自己評価が向上する過程(ポジティ ブな比較過程)と自己の劣った結果によって自己評価が低下する過程(ネガ ティブな比較過程)がある(下田,2010)。ポジティブな比較過程は、遂行 領域に対する自己関与度の高低に関わらず、自己の遂行結果が心理的に近い 相手より優れている時、ネガティブな比較過程は、遂行領域に対する自己関 与度が高く、自己の遂行結果が心理的に近い相手より劣る時に生じる(下田,
2009a)。他方、反映過程は遂行領域に対する自己関与度が低い時、自己の 遂行結果が心理的に近い相手より劣っていても栄光浴により自己評価が向上 する過程である(下田,2009a)。ただし、反映過程が生じるためには心理 的に近い者の成功が一般の人々にも認められるような大きな成果である必要 がある。そのため、反映過程は日常生活で想定されるような競争場面では生 じにくいと考えられている(下田,2009a)。
このような自己評価維持モデルに基づく競争場面での自己評価の変化は、
誰がどの程度協同課題に貢献したかが明確となる場合においても生じると考 えられる。なぜなら、自分と相手が各々どの程度協同課題に貢献したかが明 確になるのであれば、競争場面と同様に自分と相手の成果の比較が行われる からである。また、自己評価維持モデルにおいて、比較過程や反映過程が生 じるのは比較が可能な心理的に近い相手の場合であるが、上記のような協同 課題場面では貢献度の比較が必然的に行われることから、相手との心理的近 さに関わらず比較過程や反映過程が生じると考えられる。
つまり、協同課題場面においても、自己の遂行結果が相手より優れている 時に自己関与度の高低に関わらず、ポジティブな比較過程が生じるであろう。
なお、自己評価維持モデルでは言及されていないが、自己関与度の低い領域 より高い領域において自己の遂行結果を高く評価するとの研究結果(Tesser, Campbell, & Smith, 1984)を考慮すれば、遂行領域における自己関与度 が低い場合より高い場合のほうが、自己評価が高くなると考えられる。それ は、自己の遂行結果が高い時の方が低い時よりも喜びや満足感を得て、自己 評価が高くなると予測されるからである。
他方、自己の遂行結果が相手より劣る場合、自己関与度が高い時はネガティ ブな比較過程が生じるであろう。そして、自己の遂行結果が相手より劣る場 合でも、自己関与度が低い時には反映過程が生じるであろう。上述の通り競 争場面では一般の人々にも認められるような大きな成果が得られる場合に反 映過程が生じるとされているが(下田,2009a)、協同課題場面では相手の 成果の大きさに関わらず、反映過程が生じやすくなると考えられる。なぜな ら、競争場面では相手の成果が一般の人々にも認められるような成果でなけ れば栄光浴は得られないが、協同課題場面では相手の成果は自分たちの協同 課題の達成に繋がり、それが自分たちの評価に結びつくと考えられるからで
ある。
このように、協同課題における貢献度が自己評価に及ぼす影響は、自己評 価維持モデルから検討することが可能である。しかし、そのような研究は未 だ行われておらず、本当に自己評価維持モデルが協同課題における貢献度の 自己評価に及ぼす影響を予測し得るのかは未解明のままである。
そこで、本研究では競争場面で想定される個々の遂行結果が協同課題場面 においては貢献度として機能すると考え、そのような貢献度の高低と課題の 自己関与度の高低が、協同課題を通して自己評価にどのような影響を及ぼす のかを、自己評価維持モデルに基づいて検討することを目的とする。本研究 では先行研究にならい、ポジティブ感情得点からネガティブ感情得点を差し 引いた得点である、相対的なポジティブ感情得点(Pleasantness)を自己 評 価 と し て 使 用 す る(Beach, Tesser, Fincham, Jones, Johnson, &
Whitaker, 1998;下田,2009b)。また、自己評価維持モデルに従って比較 過程・反映過程が生じる場合、自分よりも優れた相手との比較においては状 態自尊感情が高まり、逆に劣った相手との比較においては状態自尊感情が低 下することが報告されている(磯部・浦,2002)。このことから、状態自尊 感情を自己評価維持モデルで仮定される自己評価の一つとみなす。
仮説は、以下の通りである。仮説①協同課題後、貢献度の高い者は貢献度 の低い者よりも、Pleasantnessと状態自尊感情が高い。仮説②協同課題の 貢献度が高い場合、課題後、自己関与度の高い者は自己関与度の低い者より も、Pleasantnessと状態自尊感情が高い。仮説③協同課題の貢献度が低い 場 合、課 題 後、自 己 関 与 度 の 高 い 者 は 自 己 関 与 度 の 低 い 者 よ り も、
Pleasantnessと状態自尊感情が低い。
方法
実験参加者 本実験の参加者は大学3年生67名(男性17名,女性50名;平 均年齢21.06歳,SD=.78)で、「卒業後、一般企業への就職を重視し、就 職活動を行う人」という条件で募集した。
実験計画 貢献度(H・L)、自己関与度(H・L)、そして測定時期(課 題前・課題後)の3要因配置計画であった。なお、貢献度と自己関与度は実
験参加者間要因、測定時期は実験参加者内要因であった。
実験課題 実験課題は2種類あり、参加者が1人で行う個人課題とペアで行 う協同課題を各々Power Pointで作成した。パーソナルコンピューターは DellのVOSTRO 3450で、Power Point 2016を用いた。
まず、個人課題は就職活動を重視する実験参加者にとって自己関与度が高 いと考えられる、SPIの問題(江澤,2015)から10問抜粋し、3択問題とな るように修正を加えた(Figure1)。実際の正答率は5割程度になるよう操作 するため、事前に30名を対象に予備調査を行い、10問中5.2問正解するよう な問題を作成した。解答には1問15秒の制限時間を設け、参加者はPC画面 上に提示された右下の円図形が時間経過と共に消えていくことで残りの時間 を確認することができた。PC画面上に示された三択のうち、いずれかの選 択肢をクリックした場合、あるいは制限時間内にいずれの選択肢も選ばなかっ た場合は、自動的に次の問題へ進むよう設定されていた。個人課題終了後、
PC上で貢献H群は9問、貢献L群は3問正解したという偽の正答数が示され、
その正答数を協同課題に反映したと見せかける画面(Figure2)を提示した 後、協同課題の説明を行った。
次に、協同課題として4行5列に区切られたパネルが表示された画面を参加 者に提示した(Figure3)。その後、個人課題の正答数によってパネルが開 く仕組みであること、その背後に隠されている写真が何であるか当てること が最終的な目標であることを参加者に伝え、参加者と相手の各々の偽の正答 数に応じてパネルを開いた。貢献度を操作したため、開くパネルの数は参加 者の実際の正答数に関わらず、偽の正答数に応じてあらかじめパソコンにプ ログラミングされたとおりに表示されるものとした。1度目に開くパネルは
Figure1.個人課題出題画面 Figure2.正答数反映画面
第1問 経費が安くあがる A. 成績があがる B. ご相談にあがる C. 雨があがる
課題に反映しています…
くよう両群を統一した。
参加者は各々のパネルが開いた時点でパネルの下に隠された写真の回答を 用紙に記入し、1度目で正解が書かれた場合は、再度同じ回答をしても良い ことを伝え、2度目のパネルも続けて開くよう教示し、回答を記入させた。
不正解であった場合も同様に、2度目のパネルを開くよう伝え、回答を記入 させ、最後に口頭で正解を伝えた。
質問紙 本実験では従属変数であるPleasantnessと状態自尊感情を課題 の前後に、そして、性別と年齢、貢献度・自己関与度の高低を課題後に調査 した。
1.課題への貢献度 協同課題の結果に対する貢献度を分配させる1項目 (「課題の結果に対するあなたとパートナーの貢献度を合計して100になる ように分配して下さい」)を作成し、数値分配法で評定させた。
2.課題への自己関与度 磯部・浦(2002)の手続きに基づき、個人課題 の自己関与度を測定する1項目(「この種の課題で良い成績をとることが自分 にとってどの程度重要か」)を作成し、「1.全く重要でない」から「6.非常
Figure3.協同課題パネル画面 Figure4.3枚開示画面
Figure5.12枚開示画面
1 7
13 19
15 9 11
17
3 5
2 4
8 10
6 12
18 14
20 16
1 7
13 19
9
17
5
2 4
8 10
6
12 18
14 20 16
1 7
13 19
9
17
5
4 関与H群、関与L群共に課題への 貢献度が低い方(貢献H群では相 手のパネル、貢献L群では参加者 自身のパネル)が先に開かれるよ うに設定した。1度目に開くパネ ルは3枚(Figure4)、2度目に追 加で9枚のパネルを開き、最終的 に12枚(Figure5)のパネルが開
に重要である」の6段階で評定させた。
3.Pleasantness Beach et al.(1998)の手続きに基づき、川人・大塚・
甲 斐 ・ 中 田(2011)が 翻 訳 し た The Positive and Negative Affect Schedule(PANAS)の日本語版尺度より、ポジティブ、ネガティブ感情 尺度が共に10項目ずつの合計20項目で、「1.全く当てはまらない」から「6.
非常によく当てはまる」の6段階で評定させた。その後、ポジティブ感情合 計得点からネガティブ感情合計得点を差し引いた得点をPleasantness得点 とした。
4.状態自尊感情 箕浦・成田(2016)が作成した2項目の状態自尊感情を 測定する2項目(「今、自分にはいろいろな良い素質があると思う」と「今、
自分のことを好ましく感じる」)について、「1.当てはまらない」から「5.
当てはまる」の5段階で評定させ、2項目の合計得点を状態自尊感情得点とし た。
手続き 講義の一部の時間を利用して、実験参加者募集を行った。その際、
参加者には「個人課題と協同課題が気分に及ぼす影響」を検討するという偽 の目的を伝えた。1回の実験につき参加者は2名で行い、室内をFigure6の ような配置とした。なお、各実験条件には参加者をランダムに配置した。
初めに実験参加者を着席させた後、実験の目的と課題の説明を行った。本 実験の流れを伝えた後、Pleasantnessと状態自尊感情を測定する質問紙に 回答してもらった。その後、ペアの顔が見える位置まで立って移動するよう に伝え、簡単に互いの自己紹介をさせてから、自分の席に座るよう促した。
Figure6.実験室での配置
机 机
机
実験参加者
実験参加者 実験者 P
P
次に、個人課題と協同課題の説明を 行った。個人課題がSPIの試験に基 づくものだと教示した群を関与H群、
何も教示しなかった群を関与L群とし た。関与H群の参加者に対しては「ま ず、個人課題では就職の際に問われる SPIの問題の一部を三択で解いてもら います。SPIとは、日本で最も多く使 われている採用テストです。新卒採用 で実施する企業が非常に多く、近年の
就職活動期間の短縮に伴い、企業は初期段階で実施するSPIを以前よりも 重視する傾向にあります。実際のSPIは、各企業により得点の合格ライン が定められており、就職活動を行う上では出来るだけ高得点をとることが重 要となります。」と教示を行った。関与L群の参加者に対しては、個人課題 がSPIの問題集から抜粋したものであることや、SPIに関する情報は一切 伝えなかった。その後、両群に個人課題そのものの説明として個人課題は全 10問あり、1問15秒の制限時間が設けられていると教示した。2人の解答が終 了したら、協同課題の目的は20枚に区切られたパネルの下の被写体を当てる ことであり、自身と相手の個人課題での正答数に応じた枚数のパネルが取り 去られることを伝えた。この時、前述した実験的操作より、個人課題の正答 数が多いとフィードバックされた群を協同課題における貢献H群、正答数が 少ないとフィードバックされた群を貢献L群とした。協同課題への解答が終 了したら、再びPleasantnessと状態自尊感情を測定する質問紙に対する回 答を求めた。そして、操作チェックを質問紙で行った。全ての項目への回答 が終了した時点で質問紙を回収した。
最後に、参加者に本実験の目的が「協同課題における貢献度と自己関与度 が自己評価に及ぼす影響を調べること」であると告げ、実験の操作についても 説明した後、改めて実験への参加に同意するかどうかについて、口頭で尋ね た。その後、本実験の内容を第三者に漏らさないように頼み、実験を終了した。
結果
操作チェック
協同課題において、貢献H群は貢献L群よりも、関与H群は関与L群より も高い得点を示しているか確認するため、実験者が操作した貢献度と自己関 与度を各々独立変数とする対応のないt検定を行った。
1.課題への貢献度 課題後に参加者へ尋ねた課題への自己の貢献度を従 属変数として分析を行った結果、群間に統計的に有意な差が認められ(t(63)
=21.50,p<.001,d=5.33)、貢献H群(M=72,SD=12.38)は貢献L 群(M=11.73,SD=10.29)より自分の貢献度を有意に高く評価した。
2.課題への自己関与度 課題後に参加者へ尋ねた課題への自己関与度を
従属変数として分析を行った結果、群間に有意傾向が認められ(t(65)=1.86,
p<.10,d=.08)、関与H群(M=4.27,SD=1.35)は関与L群(M=3.68,
SD=1.27)よりも課題に対する自己関与度が高くなる傾向にあった。
自己評価の検討
課題の自己関与度および貢献度の違いが、PANASによって得られた課題
後のPleasantnessと状態自尊感情の得点に及ぼす影響を検討するため、独
立変数を測定時期、貢献度、自己関与度とする3要因の分散分析を行った。
1.Pleasantness Pleasantnessの得点を従属変数として分析を行った 結果、測定時期の主効果(F(1,63)=11.30,p<.05,
η
2=.02)と貢献度 の主効果(F(1,63)=4.90,p<.05,η
2=.06)、そして、測定時期と貢献 度の交互作用(F(1,63)=34.31,p<.01,η
2=.07)が有意であった。一 方で、自己関与度の主効果、測定時期と自己関与度の交互作用、貢献度と自 己関与度の交互作用、そして測定時期と貢献度と自己関与度の交互作用は有 意でなく傾向も見られなかった(ps> .10)。測定時期と貢献度の交互作用が有意であったことから、各測定時期におけ る貢献度について単純主効果の検定を行った(Figure7)。課題前の貢献度
Figure7.測定時期と貢献度がPleasantnessに与える影響
(エラーバーは標準誤差)。**はp<.001,†はp<.10を示す。
-6 -4 -2 0 2 4 6 8 10 12
課題前 課題後
Pleasantness
測定時期
貢献高群 貢献低群
** **
†
の単純主効果は有意でなく傾向も見られなかったが(p> .10)、課題後は、
貢献H群(M=8.82,SD=10.13)が貢献L群(M=-3.15,SD=11.77)
よりも有意に高かった(F(1,63)=19.28,p<.001,d=1.09)。
2.状態自尊感情 状態自尊感情の得点を従属変数として分析を行った結果、
貢献度の主効果(F(1,63)=8.0,p<.05,
η
2=.09)、そして、測定時期 と貢献度の交互作用(F(1,63)=25.28,p<.001,η
2=.04)、測定時期と 自己関与度の交互作用(F(1,63)=4.38,p<.05,η
2=.01)が有意であっ た。一方で、測定時期の主効果、自己関与度の主効果、貢献度と自己関与度 の交互作用、そして測定時期と貢献度と自己関与度の交互作用は有意でなく 傾向も見られなかった(ps> .10)。測定時期と貢献度の交互作用が有意であったことから、各測定時期におけ る貢献度について単純主効果の検定を行った(Figure8)。課題前の得点は 有意でなく傾向も見られなかったが(p> .10)、課題後の得点は、貢献H 群(M=6.94,SD=2.03)が貢献L群(M=4.71,SD=1.95)よりも有 意に高かった(F(1,63)=21.54,p<.001,d=1.12)。
また、測定時期と自己関与度の交互作用が有意であったことから、各測定 時期における自己関与度について単純主効果の検定を行った。課題前の自己
Figure8.測定時期と貢献度が状態自尊感情に与える影響
(エラーバーは標準誤差)。**はp<.001,*はp<.05を示す。
1 3 5 7 9
課題前 課題後 状
態 自 尊 感 情 得 点
測定時期
貢献高群 貢献低群
* ** **
関与度の単純主効果は有意でなく傾向も見られなかったが(p> .10)、課 題後の得点は関与H群(M=5.40,SD=2.57)が関与L群(M=6.24,
SD=1.88)よりも有意に低い傾向にあった(F(1,63)=3,28,p<.10,
d=.37)。
考察
本実験の目的は、課題前後において、協同課題への貢献度と、個人課題に 対する自己関与度が自己評価に及ぼす影響について検討することであった。
分析の結果、協同課題後は自己関与度の高低に関わらず、貢献度の高い者は 貢献度の低い者よりも、Pleasantnessと状態自尊感情が高かった。つまり、
仮説①は支持されたが、②と③は支持されなかった。このことから、協同課 題場面においては自己関与度の高低に関わらず、貢献度が高い者は貢献度の 低い者よりも自己評価が向上することが示された。
まず、仮説①について室山・堀野(1994)は協同課題における高貢献者と 低貢献者との間で、自尊感情に有意な差がなかったと報告している。この説 明として、すべてのペアが協同課題を解くことができなかったために低貢献 者は相手の足を引っ張ったことへの罪悪感が大きく、自己像に対する防衛的 な反応として自尊感情を低下させなかったと説明している。それに対して本 実験では協同課題そのものを解決することができたため、貢献度の差により、
単純に自分の課題成績への評価がなされたと考える。したがって、貢献度の 高さがそのまま自己評価に反映したのであろう。このことから、競争場面と 同様に(例えば下田,2009b)協同課題場面においても、自己関与度に関わ らずポジティブな比較過程が生じることが示された。一方で、競争場面では ネガティブな比較過程は自己関与度が高い場合に生じることが示されている が(例えば下田,2009b)、本研究の結果、協同課題場面では自己関与度に 関わりなくネガティブな比較過程が生じることが示された。
次に仮説②と③について考察する。協同課題における自己評価に自己関与 度が影響しなかった点について、自己関与度の操作が不十分であった可能性 が考えられる。なぜなら、関与H群の自己関与度得点は6点中4.27点で尺度 上も自己関与度が高い値を示したが、関与L群は3.68点で尺度上はほぼニュー
トラルな値であり、自己関与度が低かったとは言い切れないからである。ま た、自己関与度の得点差も有意な傾向に留まっており、この点からも自己関 与度の操作が不十分であったことがうかがえる。従来の自己評価維持モデル で想定される競争場面において、自己関与度を操作する場合、参加者自身の 最も得意とする科目や領域を想起させたり、不得意な分野を挙げさせたりす ることが多い(磯崎・高橋,1988;下田,2009a)。しかし、本研究では就 職活動を目前に控えた参加者を募った上で、関与H群にのみ、個人課題は企 業の採用に関する判断材料のひとつとなるSPIの問題であるという情報を 与えた。つまり、個々に重要な領域を自ら設定させるのではなく、実験者か ら参加者自身が重要だと認識するであろう情報を提供するに留まったために 自己関与度を高めるには至らなかったと考えられる。一方で、関与L群には 自己関与度を下げるような教示を積極的に行っていなかったために、自己関 与度を下げることができなかったと考えられる。今後検討を重ねていく上で、
個々に重要な領域を選択させ、その領域に対応した個人課題を設定する必要 がある。本研究では反映過程の生起を検証することができなかったが、自己 関与度を上手く操作することができれば、協同課題場面においても反映過程 が生じることを検証することができるかもしれない。
このように、本実験では、協同した結果、共通の目標を達成することに成 功したとしても成員間で貢献度に差があった場合、貢献度が高い者は自己評 価を向上させ、貢献度が低い者は自己評価を低下させることが分かった。一 方で、競争場面で想定される自己評価維持モデルが、協同場面における自己 評価の変化を予測可能かについて明らかにすることは出来なかった。しかし、
協同課題が解けた際の協同課題における貢献度が自己評価に及ぼす影響につ いて検討した研究はこれまでになく、協同課題に貢献できないことで自己評 価が低下する可能性を示したという点において有意義であったと言える。た だし、本実験ではペア同士の直接的な関わりが自己紹介のみであるため、実 験結果を学校の授業内で行われているような協同場面にまで一般化すること が困難である。今後は、学校現場で実践されている協同場面を想定し、参加 者同士が自由に意見交換をし合いながら協同課題を解決した結果、自己評価 にどのような影響が及ぼすのかについての研究を進める必要があるであろう。
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要約
本研究では、協同課題における貢献度と課題への自己関与度が自己評価に どのような影響を及ぼすのかについて検討した。就職活動を予定している大 学3年生67名が本実験に参加した。実験は個人課題と協同課題によって構成 された。個人課題は就職採用試験でよく用いられるSPIから抜粋した10問で、
それがSPIからの問題であることを伝えるか否かによって自己関与度を操 作した。一方、個人課題の後に行う協同課題は、ペアで20枚に区切られたパ ネルの下の写真の被写体を当てるものであった。参加者には個人課題の偽り の正答数(多・少)がフィードバックされ、その正答数に応じた枚数のパネ ルが取り去られた。つまり、個人課題での正答数に応じて協同課題での貢献 度(高・低)が操作された。この両課題の前後で測定した自己評価を分析し た結果、自己関与度の高低に関わらず、協同課題における高貢献者は低貢献 者より自己評価が向上した。この結果から、協同学習を進める上での留意点 を述べた。
キーワード:協同課題、貢献度、自己関与度、自己評価