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循環資源貿易構造と各国の循環型社会形成 ―

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(1)

はじめに

近年,経済発展が著しい新興国の資源需要 の増加等を背景に,循環資源貿易が拡大して いる。循環資源貿易は,各国の循環資源市場 における需給ギャップを緩和する機能を有して おり,各国の循環型社会形成において重要な役 割を果たすものと考えられる。しかし,循環資 源が有する環境汚染性のために,輸入国での不 適正な技術による処理過程で環境汚染が発生す る問題が生じている。この問題に対処するため に各国で貿易規制措置が取られる場合がある が,適正な循環資源貿易の機会の損失にもな り,貿易規制による環境汚染リスク管理が円滑 な循環資源貿易の障害になるといったジレンマ が生じている。ところで,循環型社会形成のた めの制度構築の鍵となるのは,拡大生産者責任

Extended Producer Responsibility:

以 降,

EPR

という考え方である。これは製品の生産,販 売,消費段階までの生産者責任を,製品使用後 から廃棄,適正な処分に至るまで拡大してより 効果的な管理体系をつくるものであり,循環資 源の供給主体側の責任範囲に着目した取組であ る。しかし,この制度は循環資源貿易の相手国

まで拡張することはできない。そこで考えられ るのが,循環資源の需要主体側の責任範囲に 着目した取組の可能性(1)である。具体的には,

循環資源貿易に係る環境汚染リスク管理におい て,循環資源に関する需要主体の調達責任を問 うことであり,途上国における適正な廃棄物管 理やリサイクル処理の能力向上を図る上でも有 効であると考える。何故なら,適正な調達責任 を有する企業は,適正な循環資源の輸入事業者 や処理事業者を調達先として積極的に評価する とともに,調達先に環境配慮面で不十分な点が あれば必要な投資として資金や技術面での支援 を行うことが期待されるからである。

 需要主体の調達責任に着目した管理体系の可 能性検討の手始めとして,本稿では,鉄スク ラップのうち分別品質が低いために有害廃棄物 が混載されて環境汚染が発生している「その他 くず」という分類を対象とし,その貿易構造の 分析を通じて環境汚染リスクが高い貿易パター ンを特定する。また,環境汚染リスクの高い国 における循環資源の需要主体の存在状況や環境 汚染リスクを把握し,それらの特性に応じた政 策課題を導出するものである。

第1節では,循環資源貿易の問題点を踏まえ

*早稲田大学大学院社会科学研究科 博士後期課程5年 論 文

循環資源貿易構造と各国の循環型社会形成

― 鉄スクラップ貿易構造から見た循環資源貿易の課題 ―

橋     徹

(2)

て需要側の責任範囲に着目した取組の必要性を 示し,本稿の位置づけと検討範囲を示してい る。第2節では,循環資源貿易構造分析に関す る先行研究レビューを踏まえて,鉄スクラップ 貿易構造分析の考え方の整理を行い,第3節で は,鉄スクラップを対象とした貿易構造の仮説 を設定しデータ分析を行っている。第4節では 政策的含意を導き出し,結語で結論と今後の研 究課題を整理している。

1.循環資源貿易の環境汚染リスクと  その管理

1-1.循環資源貿易に伴う環境汚染リスク 循環資源貿易の拡大によって,各国はより低 コストで循環資源の調達が可能となり,循環資 源の利用率が高まることで,市場全体での資源 効率性も高まると考えられる。しかし,循環資 源は廃棄物から分別や抽出を行った資源である ことから有害物質の残留等のリスクを有してお り,循環資源貿易によって環境汚染輸出入とな るリスクを孕んでいる。環境汚染リスク管理に ついては,有害性のある廃棄物の輸出入を管理 する国際条約であるバーゼル条約(2)にもとづ いた取組が行われている。有害性が明確な廃棄 物については,この条約下での管理で対処して いるが,中古品として,あるいは部品のリユー ス目的で輸出される廃自動車,廃家電等につい ては規制対象外となっている。輸出先で中古品 や部品のリユースなどが行われずに,金属のリ サイクルのための解体・分別等の処理において 環境汚染が発生するケースが報告されている

[細田2008]。また我が国では,廃家電等を国 内で解体・分別せずに,様々な金属スクラップ

が混在する雑品として輸出される場合があり,

輸入先での解体・分別作業時に環境汚染が発生 する可能性(3)がある[

OECD

2010]。以上のよ うな環境汚染リスクを管理するために,各国で 貿易禁止等の措置をとる場合がある。この場合 には,ごく一部の不正な貿易を取り締まるため に,多くの適正な循環資源の貿易の機会の損失 を招くこととなり,貿易規制による対応が円滑 な循環資源貿易の阻害要因(4)となっている。

1-2.循環資源の需要側に着目した取組 循環型社会形成は,我が国をはじめ国際社会 全般に3

R

という政策概念に従って進められて いる。リデュース(廃棄物の発生抑制),リユー ス(再使用),リサイクル(再生利用)という 優先度による取組によって,経済社会全体の資 源生産性を高め,最終処分地の不足という問題 に対応するものである。リサイクルという取組 は,資源の採取・調達→製品の生産→流通・販 売→消費→廃棄→最終処分といった直線的な物 質の流れに,廃棄→回収→リサイクル(分別・

解体・抽出等による循環資源化)→資源として の再利用というプロセスを連結させて物質循環 の環を形成することである。こうした物質循環 の環を形成するとともに,この物質循環の環の 中を流れる物量自体を低減させ,環境汚染性の 低い物質へと転換していくことが,循環型社会 形成の目標像である。この循環を形成するため に,多くの先進国では,先述のとおり

EPR

いう考え方での管理制度を導入している。これ は,循環資源のフローから見れば,循環資源の 供給システムの制度化に他ならない。フロー 上の環境汚染リスクもこの

EPR

を負う主体に よって対処するものである。しかし,中古品や

(3)

金属スクラップの雑品類の輸出先での環境汚染 リスクについては,例えば,海外に輸出された 廃家電等の流通を捕捉できたとしても,海外で のリユースやリサイクルについて,国内の

EPR

制度を拡張して適用することは現実的ではな い。そこで,考えられる手立てとして,今後は,

需要側の責任も設定し,供給側と需要側の双方 の責任による管理体制の構築が必要であると考 える。輸入国での需要主体の責任範囲に着目し た取組とは,具体的には,循環資源貿易に係る 環境汚染リスク管理において,循環資源に関す る需要主体の調達責任を問うことであり,途上 国における廃棄物管理やリサイクル処理の適正 な能力向上を図る上でも有効(5)であると考え る。

1-3.需要側に着目した取組の検討枠組み 1-2.で提示した,需要主体の調達責任に 着目した取組の可能性を検討するためには,第 1に循環資源貿易の構造を把握した上で,第2 に環境汚染リスクの高い貿易パターンを特定 し,第3にそのような貿易パターン下にある国 での,需要主体とリサイクルの特性を分析する 必要がある。また,第4に需要主体を中心とし た適正なリサイクルシステム構築の優良事例を 分析し,第5に環境汚染リスクの高い国での,

需要主体を中心とした適正なリサイクルシステ ム構築のあり方を提言するといった検討枠組み が考えられる。本稿では,第1の循環資源貿易 の構造分析,第2の環境汚染リスクの高い貿易 パターンの特定,第3の輸入国での需要主体と リサイクルの特性の概要把握を行うものであ る。

2.循環資源貿易構造分析に関する  予備的考察

 本節では,循環資源貿易と環境汚染,循環資 源貿易構造の決定要因に関する先行研究を概観 し,循環資源貿易構造の分析を行うための予備 的な考察を行う。

2-1.循環資源貿易と環境汚染に関する研究 基本的には,循環資源貿易によって貿易当事 国間の厚生が向上する。通常言われる貿易の 利益の他に,例えば,[

Grace, Turner, and Walter

1977]は,国際的なリサイクル市場の存在に よって,各国内のリサイクル市場の価格の安定 性が増すことを示している。しかし現実には,

循環資源貿易は環境汚染輸出リスクを有してい る。これまでの貿易と環境問題に関する多くの 研究成果から得られる最も一般的な結論は,環 境問題による外部性がある場合には,自国内で それを完全に内部化したうえで自由貿易を行う ことがファーストベストであるということであ る。循環資源貿易と環境汚染に関しても同様の 見解があり,例えば,[竹歳2009]は,循環資 源についての二国間の部分均衡モデルを用いた 余剰分析により,環境汚染という外部不経済に 対処する為に,貿易自体は制限せずに国内の 歪みを是正することがファーストベストであ ることを確認している。しかし,現実には環 境汚染が顕在化した場合には緊急に貿易制限 を行うケースも見られる。この点を扱った研 究として,[

Copeland

1991]は,廃棄物処理に 関する規制強化が,不法投棄発生の誘因となっ て環境汚染を増加させる可能性があることを示 し,それらを取締ることが難しい場合には,関

(4)

税を上げることで海外からの廃棄物流入フロー と不法投棄を減少させ社会的厚生を改善するこ とができることを示した。同様の研究として,

Puckett, J. & T.Smith

2002]は,潜在汚染可能 性が高い循環資源についての国際的な規制が無 ければ,市場原理に従って最も規制の緩い国に

E-waste

等の有害廃棄物が流れ着くことになり,

このような場合には

E-waste

の輸出を止めるべ きであると主張している。いずれも環境規制の 緩い国で汚染性の高い財が集積することを予見 している。また[

Rauscher

2001]は,有害廃棄 物の貿易について,バッズである有害物質の輸 出は,その輸入国から有害廃棄物の貯蔵・処理 を行うサービス(グッズ)を購入するものとみ なして,次のような結論を導いている。輸入国 において適切な政策がとられずに,有害廃棄物 輸入に伴う外部不経済が発生している場合,こ の貿易は輸出国の余剰を増加させ,輸入国の余 剰を減少させる。結果的に世界全体の厚生が低 下する可能性があるので,輸入国が貿易制限を 行うことはセカンドベストの政策として有効で あるとしている。

以上の研究成果を踏まえると,貿易に伴う環 境汚染リスクという外部不経済は,基本的には 国内で内部化しつつ,実際に汚染が顕在化する 場合には,貿易制限もセカンドベストとしてと るべき措置であることが貿易による厚生分析よ り導かれている。現実にも緊急的な貿易制限が 行われる場合(6)がある他,国によっては多く の種類の循環資源の貿易を禁止している場合(7)

もある。しかし貿易制限は,一部の不適正な貿 易を禁止するために,その他の適正な循環資源 の貿易機会をも失うことになることも事実であ る。先に示した,輸入国での循環資源の需要主

体による調達責任に着目する管理の取組は,直 接的な貿易制限ではなく,バッズを輸入してし まう事業者や不充分な設備で処理を行う事業者 を市場の中で淘汰する仕組みと捕らえることが できる。つまり,ファーストベストとしての輸 出国内での汚染リスクの除去を促し,セカンド ベストとしての貿易制限について,優良な循環 資源の貿易機会を逸しないような仕組みとして 機能することが期待される。

2-2.循環資源貿易の決定要因に関する研究

Pieter J.H.VAN Beukrering and MATHIJS N.

Bouman

2001]は,途上国と先進国における古

紙と廃鉛の回収率と利用率について,その決定 要因を回帰分析によって特定している。具体的 には,貿易開放度,人口密度,所得水準は,古 紙及び廃鉛の回収率と利用率について,途上国 及び先進国にかかわらず正の相関があることを 確認している。また,古紙及び廃鉛とも,途上 国と先進国間の比較では,途上国の方が循環資 源の利用率が高く,先進国は回収率が高くなる 傾向にあることを確認している。考えられる理 由として,途上国では相対的に低い労働コスト と低い技術的要求水準であること,先進国では 資源回収に対する政府の深い関与と,家庭や企 業,関連機関の高い参加意識があるためとして いる。さらに,循環資源の種類や国の所得水準 の違いにかかわらない共通の傾向として,循環 資源の輸入への依存度が高い国は,国内の循環 資源の回収率が低くなる傾向があることが見出 せる。[

Michida et al

2011]は,循環資源であ る鉄スクラップの分別品質は,輸出入国の所得 水準や環境規制の強度と正の相関があることを 検証(8)している。つまり,高所得国は,より

(5)

高い分別品質の鉄スクラップの輸出入が活発 で,低所得国はより低い分別品質の鉄スクラッ プの輸出入が活発であるということである。こ の現象の主な要因は,鉄スクラップの生産効率 の違いにあるとしている。つまり,労働豊富国 である低所得国は,低い分別品質のスクラップ を手作業でより高い分別品質にする作業に比較 優位があり,資本豊富国である高所得国は,同 質の金属廃棄物が豊富に賦存すること,鉄スク ラップを効率的に分別回収する高い技術力があ ることなどから,高い分別品質の鉄スクラップ 生産に比較優位があるとしている。この考察 は,鉄スクラップの供給側の効率性に着目した ものであるが,実際には,インフラ整備等が拡 大する国では,相対的に建設資材用途の鉄鋼製 品に需要があり,自動車や家電の生産が盛んな 国では,相対的に高品質の鉄鋼製品に需要があ ること等,需要側の要因分析も必要であろう。

また,各国が環境規制を強化することで,汚染 集約度が高く分別品質の低い鉄スクラップにつ いて,循環貿易市場での流通を減少させる効果 があるとしている。結果的に各国で発生する汚 染集約度の高い鉄スクラップは各国内で処理す ることになるが,低所得国内での適正な処理能 力形成は依然として大きな課題である。

以上の研究成果からは,循環資源の国内回収 や利用率は,その種類,及び各国の人口や経済 条件等によって決まるものであること,途上国 の方が循環資源の利用率が高く先進国は回収率 が高くなる傾向にあること,循環資源の輸入と 国内での回収は代替関係にあること,分別品質 の低い循環資源は所得の低い国へと輸出される 傾向があることが明らかにされている。より低 い分別品質とは,例えば廃家電の解体が全くな

されていない物件が金属スクラップの雑品類に 混載されている場合などである[

Michida et al

2011]。

3.鉄スクラップ貿易と環境汚染リスク  の分析

 本節では,前節の循環貿易に関する先行研究 踏まえて,鉄スクラップ貿易構造を対象とした 分析を行う。この分析で,環境汚染リスクの高 い貿易パターンを特定し,環境汚染リスクの高 い輸入国での需要主体やリサイクルの特性の把 握を行う。これらの結果は,今後の需要主体の 責任範囲に着目した環境汚染管理の検討におけ る基礎資料とするものである。

3-1.鉄スクラップの特性

分析の前提として,鉄スクラップの生産プロ セス,及び鉄スクラップの需要と供給に関する 特性について,それぞれ高所得国及と低中所得 国別に整理を行った。この整理を踏まえて,鉄 スクラップの貿易パターンに関する仮説を設定 した。

(1)鉄スクラップの生産プロセス

鉄スクラップの原料は,製造業の生産プロセ スから発生する鉄屑と市中に普及している鉄鋼 製品(家電,自動車,建築資材等)が廃棄され て発生するものがある。いずれも資本集約財か ら発生する廃棄物が原料となる。鉄スクラップ は廃棄物から資源化されたものであるため様々 な不純物が混じりやすい。そのため鉄スクラッ プの品質は,分別処理後の物質的な純度の高さ による(9)。最終的に純度の高い鉄鋼素材に再生

(6)

すべく,同質の物質による分類が行われる。そ の結果,どの分類にも属さない「その他くず」

という多様な形態での金属くずが混在したカテ ゴリーが生じる。「その他くず」には,未解体 の廃家電などが混入しており,輸出先での不適 切な処理によって環境汚染が発生する。

鉄スクラップの生産工程は,回収→分別・加 工処理→製鋼メーカーへ納入 である。加工 処理では,プレス(圧縮),シャーリング(切 断),シュレッダー(破砕),ガス切断といった 設備型の技術を用いる。分別と加工について如 何に効率的かつ高品質の分別を行うかが,生産 効率の重要な要因となる。高所得国では,全て の工程の機械化の割合が高く,作業に伴う環境 汚染防止設備や健康被害防止のための装備も備 わっている。低・中所得国では,手作業による 分別・加工処理の割合が多く,環境汚染防止設 備や健康被害防止のための装備などがないため に環境汚染や健康被害が発生している。

鉄 ス ク ラ ッ プ は

HS

コ ー ド で,「鋳 鉄 く ず

(7204

-

10

-

000)」「ステンレス鋼くず(7204

-

21

-

000)」「合 金 鋼 く ず(7204

-

29

-

000)」「錫 メ ッ キ く ず(7204

-

30

-

000)」「切 削・ 打 抜 き く ず

(7204

-

41

-

000)」「ヘ ビ ー く ず(7204

-

49

-

100)」

「その他くず(7204

-

49

-

900)」「再溶解インゴッ ト(7204

-

50

-

000)」に区分されている。我が国 からの輸出割合で最も多いのは「その他くず

HS

7204

-

49

-

900)」であり,財務省統計によれ ば,2010年では鉄スクラップ輸出全体の64

.

7

%

を占めている。このカテゴリーは雑品と称さ れ,最も分別品質が低く,未解体の家電製品な どが含まれて輸出される。これが先述の「その 他くず」である。

(2)鉄スクラップの供給特性

高所得国では一般に資本豊富国であるため,

資本集約財の消費や固定資本の蓄積量が多く,

そこから発生する廃棄物量も多い。つまり,高 所得国では鉄スクラップの原料が豊富に賦存し ており,同質の原料確保が容易な状況にある。

しかし,経済規模が大きいため,同質の原料だ けでなく「その他くず」も相当量発生する。生 産工程においては,相対的に労働コストは高 く,また機械化割合も高いため,より高品質の 鉄スクラップ生産において,生産効率性の高い 供給力を有している。以上のように,資源の賦 存量及び生産効率の点から,分別品質の高い鉄 スクラップ製造に比較優位を有している。

 低・中所得国では,一般に労働豊富国であ り,相対的に資本集約財の消費量や固定資本の 蓄積量も多くはないため,そこから発生する廃 棄物発生量も多くはない。したがって,低・中 所得国では,鉄スクラップの原料が希少であ り,同質の原料確保が困難な状況にある。ある 低・中所得国が工業発展路線上にあったとして も,鉄の市場における蓄積量が少なく,鉄を 使った製品が使用済みになり廃棄されるまでの タイムラグが長いため,経済成長に伴う需要増 に対して原料供給の不足が生じやすい。生産工 程においては,労働コストが低く手作業による 処理割合が高いため,分別品質の低い原料の鉄 スクラップ生産において,生産効率性の高い供 給力を有している。以上のように,資源の賦存 量及び生産効率の点から,分別品質の低い原料 による鉄スクラップ製造に比較優位を有してい る。

(7)

(3)鉄スクラップの需要特性

 鉄スクラップの需要主体は鉄鋼業である。鉄 鋼業はその生産技術の違いによって3つの基本 的な類型に区分できる[川端2005]。第1の類 型が,高炉法による銑鋼一貫企業である。これ は鉄鉱石等の原料から高炉で銑鉄をつくり,転 炉による製鋼工程で炭素成分等の調整を行い,

圧延工程により多様な鉄鋼製品を製造,という 銑鉄生産と製鋼,圧延が一貫した工程として整 備されるタイプである。転炉での製鋼工程で,

成分調整のために鉄スクラップを投入する。設 備規模や必要な投資規模が大きく,電力,水 道,港湾等のインフラの整備も必要となる。第 2の類型は,電炉法による製鋼圧延企業であ る。これは,製鋼工程と圧延工程のみを保有す る企業であり,製鋼工程では,電気炉を使って 主原料として鉄スクラップを利用(10)する。鉄 スクラップには様々な不純物が含まれているた め,生産する製品の用途は,建築・土木用が中 心となる。設備規模や投資規模は銑鋼一貫に比 べれば小規模であり,市場規模の小さい国や地 域でも成り立つ類型といえる。第3の類型は,

単純圧延企業であり,圧延工程のみを保有する 企業である。製鋼圧延企業よりも事業規模がさ らに小さくなるが,途上国などで工業化が進展 し,自動車や家電に利用する高品質の鉄鋼製品 生産が必要とされながら,銑鋼一貫企業が存在 しない国では,製鋼後の半製品を全て輸入で調 達し,圧延工程を大規模化してそれに特化する 場合もある。

 以上のような鉄鋼業の立地特性を踏まえる と,鉄スクラップは電炉による製鋼企業が立地 する地域での需要が高いと言える。また,銑鋼 一貫企業においても,一定程度の割合で鉄スク

ラップを利用することから,生産規模の大規模 な銑鋼一貫企業が立地する地域においてもある 程度の需要があるといえる。また,電炉の立地 は,市場規模の小さな国に適しており,銑鋼一 貫企業の立地は大規模な市場が存在する国に適 していることから,低・中所得国では電炉の立 地によって鉄スクラップ需要が大きく,高所得 国では,銑鋼一貫企業の立地によって,ある程 度鉄スクラップの需要があるといえる。ただ し,高所得国の中にも電炉による製鋼を拡大し て成長と遂げた国もあり,逆に低・中所得国に おいても将来の市場規模拡大を見通して銑鋼一 貫企業の立地が進んでいる国もある。

3-2.鉄スクラップ貿易構造に関する仮説 3-1.を踏まえると,供給側では資源賦存 量と生産効率,需要側は鉄鋼業における電炉企 業の立地を鉄スクラップの貿易パターンを決定 する要因として整理できる。そこで,それらの 決定要因について,低・中所得国,高所得国別 に各要因に関する特性を整理し,そこから導か れる貿易パターンを表3-1のように考察し た。また,これらの考察を総合して,表3-2 に低・中所得,高所得国に生じる貿易パターン の仮説を取りまとめた。総じて,高所得国から 低・中所得国へと低い分別品質のスクラップが 流れる傾向があり,これとは別に,工業化によ る発展路線に至らない低所得国において輸出特 化となる可能性がある。また,各貿易パターン の下での需要主体(鉄鋼業)の存在状況に応じ て環境汚染リスクが異なり政策課題も異なる。

3-3.データ分析による仮説の検証フレーム 所得水準の向上とともに鉄鋼需要が増加し,

(8)

表3-1 鉄スクラップ貿易構造の決定要因とその特性 所得水準

貿易の要因 低・中所得国 高所得国

鉄スクラップの原料で ある資本集約財の廃棄 物賦存量の差異

(工業化による発展路 線上にある国であるこ とが前提)

資本集約財の廃棄物賦存量は相対的に少な い。→国内回収の原料が割高なため,輸入に特 化する可能性がある。ただし廃棄物として は輸入できないので,分別品質の低いスク ラップや中古品を輸入する。

資本集約財の廃棄物賦存量は相対的に多 い。→国内回収原料が豊富にあるため,輸出に 特化する可能性がある。ただし廃棄物とし ては輸出できないので,分別品質の低いス クラップや中古品を輸出する。

鉄スクラップの生産コ

(原料以外のコスト要スト 因としての労働コス ト,設備コスト)

労働コスト,設備コストが低いため,鉄ス クラップ生産のコストは相対的に低い。

→国内需要が小さい場合には,国内回収の 原料に加え,分別品質の低い鉄スクラップ や廃棄物同然の中古品を輸入して,鉄スク ラップ生産を行い,輸出に特化する可能性 がある。→国内需要が大きい場合は,上記と同様の プロセスをとりつつ,輸入特化となる可能 性がある。

労働コスト,設備コストが高いため,鉄ス クラップ生産の生産コストは相対的に高 い。→労働コスト,設備コストは高いが国内需 要が大きいため,国内では高品質の鉄スク ラップ生産に特化し,余剰が海外の高所得 国へ輸出される。低品質品は,左記のよう な条件の低・中所得国へ輸出され,総体と して輸出特化となる可能性もある。

鉄スクラップの需要

(鉄スクラップは,電 炉での製鋼原料となる 割合が高いため,鉄鋼 業の規模が大きくかつ 電炉による生産割合が 大きい国での需要が高 い。)

・ 銑鋼一貫型の生産技術の導入により,

大規模な生産体制をとる国と,電炉による 製鋼技術の導入により小規模生産体制から 徐々に拡大していく戦略をとる国に区分さ れる。・低品質の鉄スクラップへの需要が高い。

→基本的に電炉による生産割合が高い国で の輸入需要が大きいが,電炉割合が小さく とも鉄鋼生産規模が大規模な国では輸入需 要が大きい。

・鉄鋼業規模は低・中所得国に比べて相対 的に大きい。銑鋼一貫型の生産技術導入国 が多いが,電炉による小規模生産設備の拡 充により規模拡大を図った国も存在する。

・高品質の鉄スクラップへの需要が高い

→基本的に電炉による生産割合が高い国で の輸入需要が大きいが,電炉割合が小さく とも鉄鋼生産規模が大規模な国では輸入需 要が大きい。

リサイクル政策,環境

政策 リサイクル促進,管理に関する制度を整備 している国は少ない。環境規制に関する制 度はある程度整備されているが実際の執行 力は弱い。

→リサイクルの主体はインフォーマルセク ターであり,政府の関与はほとんどない。

不十分な技術や装備で分別・解体等の処理 を行うために環境汚染や健康被害が生じて いる地域がある。

最終処分場の不足問題等から,リサイクル を促進する政策が実施されている。環境規 制制度は整備され,その執行能力も高い。

→行政的にリサイクル促進を図ることで,

鉄スクラップ回収量が増加し,供給過剰と なる可能性とともに輸出に特化する可能性 もある。

表3-2 鉄スクラップ貿易構造に関する仮説(まとめ)

低・中所得国 (1)工業化による発展路線上にある国は,鉄鋼業を需要先として鉄スクラップの需要があるが,

原料となる資本集約財の廃棄物賦存量が相対的に少ないため,分別品質の低いスクラップや中 古品の輸入特化となる可能性が高い。また,工業的な発展の初期段階では,電炉による小規模 な製鋼設備を拡充していく戦略をとる国が多く,電炉による生産割合の高い国への輸入需要が 特に高くなる。ただし,電炉による生産割合が小さくとも鉄鋼生産規模が大きい場合には,輸 入需要も高くなる。総じて,低・中所得国は輸入特化となる傾向にある。

(2)工業化による発展路線にない国あるいは粗鋼生産の無い国は,労働コストが低いことを活 かして,海外から分別品質の低い鉄スクラップや廃棄物同然の中古品を輸入して,国内で処理 を行い需要国へ輸出する場合があり,輸出特化となる可能性がある。

高所得国 (3)高所得国は,リサイクル促進政策等によって原料となる廃棄物の賦存量も回収量も多く,

国内需要に対して供給過剰となる可能性がある。労働コストが相対的に高いことや高品質志向 であることから,国内では高品質鉄スクラップの生産に特化し,余剰が高所得国へと輸出され る場合がある。分別品質の低いものは,需要の大きい低・中所得国へと輸出され,総体として 輸出特化となる可能性がある。

(4)高所得国でも,電炉による鉄鋼生産に特化し,あるいは鉄鋼業の規模や競争力の高い国で は輸入特化する可能性がある。

(9)

鉄スクラップ輸入需要も増加するが,鉄スク ラップの原料の国内賦存量も増加していくた め,鉄スクラップ輸入需要の増加率が逓減して いくことを確認する。そして,鉄スクラップの 貿易特化指数と所得水準との関係を見ること で,仮説(表3-2)に示した貿易構造が顕在 化していることを確認する。ここで,貿易パ ターン別の分類を行い,貿易パターン分類別に あてはまる国をリストアップし,各国の所得水 準,一人当たり鉄消費量,電炉による鉄鋼生産 割合,粗鋼生産額を比較することで,各国の詳 細な需要構造と貿易パターンとの関係について 考察を行う。

所得水準は一人当たり

GDP

,鉄鋼需要(鉄 消費水準)は一人当たり鉄消費量(最終製品 ベース),鉄スクラップ輸入需要は一人当たり の輸入量で示す。なお,一人当たり鉄消費量 は鉄スクラップの潜在的な国内賦存量を表す 指標でもある。全て2007年のデータで統一し た。また,対象とする鉄スクラップは,最も分 別品質が低く汚染集約度の高い「その他くず

HS

7204

-

49

-

900)」を対象とする。これらの指 標について,各国のデータを整理(11)し,上記 の分析を行った。各データの出所は,各国の 一人当たり

GDP

は世界銀行データ,一人当た り鉄消費量,電炉による鉄鋼生産割合,粗鋼 生産量は

Steel Statistical Yearbook

2010(

World Steel Association

),鉄スクラップの輸入データ は,

Commodity Trade Statistics Database

United Nations Statistics Division

)である。

3-4.鉄スクラップ輸入と経済発展

各国の所得水準と鉄消費水準(一人当たり鉄 消費量)との関係を図3-1に示す。所得水準

の向上とともに鉄消費水準も増加するが,その 増加率は低・中所得国の方が高所得国よりも高 い。所得水準が約10

,

000ドル

/

人あたりまでの 増加率が高く,それ以降の増加率は比較的緩や かである。10

,

000ドル

/

人前後での鉄消費水準 は約200~300

kg/

人である。また,図3-2に 各国のデータについて2001年~2010年の変化を プロットしている。概ね図3-1と同様の傾向 が見て取れる。図3-3~6は,図3-2の データから地域別に主な国をとりあげたもので ある。約10

,

000ドル

/

人までは鉄消費水準が増 加傾向にあり,高所得国では増加傾向が穏やか になり,中には減少傾向の国もある。これは,

高所得国のように高度に産業化が進むと,鉄鋼 の生産拠点の海外へ移転,鉄鋼製品の代替製品

(プラスチック等)への転換,技術革新により 製品当たりの鉄鋼使用量の減少などが進むため である

[

佐藤2007]。次に,図3-7に一人当 たり鉄スクラップ輸入量(12)と鉄消費水準との 関係を示す。鉄スクラップ輸入量は,鉄消費水 準が高くなるほど増加するが,その増加率は,

鉄消費水準が約200

kg/

人程度までがそれ以降よ りも高くなっている。図3-1と合わせてみる と,鉄スクラップ輸入量も低・中所得国におい て増加率が高く,高所得国では増加率が逓減し ている。これは,所得水準の向上とともに鉄消 費水準も上昇することで,国内で回収される鉄 スクラップ量が増加し,鉄スクラップの輸入代 替が進むためである。

3-5.鉄スクラップの貿易構造

 所得水準と鉄スクラップの貿易特化指数の関 係を図3-8に示す。図中に示すように,貿易 パターンを4つのカテゴリーに分類した。カテ

(10)

図3-1 所得水準と一人当たり鉄消費量

(2007年における各国データによる)

図3-3 所得水準と一人当たり鉄消費量

(アジア地域+アメリカ)

図3-5 所得水準と一人当たり鉄消費量

(ヨーロッパ地域)

図3-2 所得水準と一人当たり鉄消費量

(2000年-2010年の各国データによる)

図3-4 所得水準と一人当たり鉄消費量

(北米・南米地域)

図3-6 所得水準と一人当たり鉄消費量

(アフリカ地域)

1 10 100 1000 10000

0 10000 20000 30000 40000 50000 60000 70000 80000 90000

㋕ᶖ⾌᳓Ḱ 䋨kg/ੱ䋩

ᚲᓧ᳓Ḱ䋨䊄䊦/ੱ䋩 y = 0.1781x0.7384

R² = 0.702

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

0 10000 20000 30000 40000 50000

㋕ᶖ⾌᳓Ḱ 䋨kg/ੱ䋩

ᚲᓧ᳓Ḱ䋨䊄䊦䋯ੱ䋩

ᣣᧄ 㖧࿖

ਛ࿖

䉟䊮䊄䊈䉲䉝 䊙䊧䊷䉲䉝 䉺䉟 䊐䉞䊥䊏䊮 䉲䊮䉧䊘䊷䊦 䊔䊃䊅䊛 䉝䊜䊥䉦 䉟䊮䊄

0 100 200 300 400 500 600 700

0 10000 20000 30000 40000 50000 60000

㋕ᶖ⾌᳓Ḱ 䋨kg/ੱ䋩

ᚲᓧ᳓Ḱ䋨䊄䊦䋯ੱ䋩

䉟䉩䊥䉴 䊐䊤䊮䉴 䊄䉟䉿 䉴䊕䉟䊮 䉟䉺䊥䉝 䊘䊦䊃䉧䊦 䉴䉢䊷䊂䊮 䊐䉞䊮䊤䊮䊄 䊃䊦䉮

䊨䉲䉝 0

20 40 60 80 100 120 140 160 180

0 2000 4000 6000 8000

㋕ᶖ⾌᳓Ḱ 䋨kg/ੱ䋩

ᚲᓧ᳓Ḱ䋨䊄䊦䋯ੱ䋩

䉝䊦䉳䉢䊥䉝 䉦䊜䊦䊷䊮 䉣䉳䊒䊃 䉧䊷䊅 䉬䊆䉝 䊝䊨䉾䉮 䉼䊠䊆䉳䉝 䊅䉟䉳䉢䊥䉝 ධ䉝䊐䊥䉦 䉺䊮䉱䊆䉝 0

100 200 300 400 500 600 700

0 10000 20000 30000 40000 50000

㋕ᶖ⾌᳓Ḱ 䋨kg/ੱ䋩

ᚲᓧ᳓Ḱ䋨䊄䊦䋯ੱ䋩

䉝䊜䊥䉦 䉦䊅䉻 䊜䉨䉲䉮 䉝䊦䉷䊮䉼䊮 䊑䊤䉳䊦 䉼䊥 䉮䊨䊮䊎䉝 䊔䊈䉵䉣䊤 1

10 100 1000 10000

0 10000 20000 30000 40000 50000 60000 70000 80000 90000100000

㋕ᶖ⾌᳓Ḱ 䋨kg/ੱ䋩

ᚲᓧ᳓Ḱ䋨䊄䊦/ੱ䋩 y = 0.249x0.706

R² = 0.6465

(11)

0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 1000

0 200 400 600 800 1000 1200

㋕䉴䉪䊤䉾䊒 ャ౉㊂ 䋨Kg/ੱ䋩

㋕ᶖ⾌᳓Ḱ䋨Kg/ੱ䋩 y = 9E-05x1.9454

R² = 0.401

図3-7 鉄消費水準と鉄スクラップ輸入量

(2007年データによる)

11

Category4

Category3 Category2

Category1

図3-8 所得水準と鉄スクラップの貿易特化指数(2007年データによる)

ゴリー1は,所得水準が10

,

000ドル

/

人未満で,

完全輸出特化に近い(貿易特化指数が1

.

0に近 い)国々,カテゴリー2は,完全輸入特化に近 い(貿易特化指数が-1

.

0に近い)国々である。

カテゴリー3は所得水準が20

,

000ドル

/

人以上 で輸入特化傾向の強い国々である。カテゴリー 4は,所得水準の上昇によって,純輸入傾向か

ら純輸出傾向へと移行していくグループであ る。

(1)カテゴリー1

 図3-8に示す通り,所得水準が約10

,

000ド

/

人未満で,貿易特化指数が1

.

0の近くに一つ のグループがある。表3-3に貿易特化指数 0

.

8以上で所得水準10

,

000ドル

/

人未満の国を示 す。所得水準が5

,

000ドル

/

人未満で,鉄スク ラップについて完全輸出特化に近い国々では,

ウクライナを除き,工業化が進展していないた めに粗鋼生産規模が小さく鉄消費水準が低い。

 これらの国は所得水準が低いために,外貨獲 得源の一つとして,国内から回収した鉄スク ラップを近隣の需要国へ輸出する。また,国内 回収の鉄スクラップだけでなく,中古品として 輸入した廃棄物同然の自動車や家電製品を解体 して鉄スクラップを抽出したものも輸出してい

(12)

表3-3 カテゴリー1

国 名 所得水準

(ドル/人) 鉄消費水準

kg/人)

電炉生産割合

%

生産量粗鋼

(1000t

ウ ガ ン ダ 389 100 30

1,077 11.5 100 25 モ ル ド バ 1,231 64.2 100 965 フ ィ リ ピ ン 1,684 34 100 718 ウ ク ラ イ ナ 3,069 179.4 3.8 42,830 エルサルバドル 3,337 57.6 100 73 エ ク ア ド ル 3,411 77.8 100 87 チ ュ ニ ジ ア 3,483 78.5 100 80 ガ テ マ ラ 4,802 31.4 100 349 ル ー マ ニ ア 7,856 266.7 30.4 6,261 9,146 285.6 26.6 72,387 9,877 146.5 27.3 1,679

表3-4 カテゴリー2

(所得水準が 10,000 ドル/人未満)

国 名 所得水準

(ドル/人) 鉄消費水準

kg/人)

電炉生産割合

%

生産量粗鋼

(1000t

720 15.8 100 20

ベ ト ナ ム 835 66.4 100 2,024 1,105 41.2 58.5 53,468 エ ジ プ ト 1,630 72.2 83.9 6,224 インドネシア 1,923 26.9 100 4,160 2,651 278.4 9.2 489,288 3,761 53.6 63.2 881 コ ロ ン ビ ア 4,676 73.7 73.2 1,245 パ キ ス タ ン 5,920 15.8 13.8 1,090 アルゼンチン 6,603 115.3 51.9 5,387 マ レ ー シ ア 7,028 277.9 100 6,895 ウ ル グ ア イ 7,183 28.9 100 71 8,865 299.6 75.2 25,754

る可能性がある。小規模に存在する鉄鋼業は,

所得水準が低いことから電炉生産割合が非常に 高い。

所得水準が5

,

000ドル

/

人以上の国では,鉄消 費水準や粗鋼生産規模が5

,

000ドル

/

人未満の 国々よりも大きく,電炉による生産割合も低く なっている。ロシアは鉄鋼業が輸出産業として 発展している。

鉄スクラップについて完全輸出特化に近く なっているのは,国内の鉄鋼業が需要する鉄ス クラップ量よりも,国内から回収される鉄スク ラップ量が多くなっているためと考えられる。

これは,国内の鉄鋼業が銑鋼一貫型を中心とし ているため,所得水準や粗鋼生産規模の割には 鉄スクラップの需要量が相対的に小さいためで あると考えられる。

(2)カテゴリー2

図3-8に示す通り,所得水準が10

,

000ドル

/

人未満で貿易特化指数が-1

.

0に近くにあるグ ループがある。このグループの国々を表3-4 に示す。インド,中国,トルコを除いて概ね粗

鋼生産規模が小さく,中国,マレーシア,トル コを除いて鉄消費水準も低い。鉄消費水準が低 く粗鋼生産規模も低い国々が完全輸入特化に近 くなるのは,国内の製鋼需要に対して国内での 鉄スクラップ回収量が非常に少ないためである と考えられる。また,国内の製鋼需要だけでな く,近隣の鉄鋼需要国に向けた鉄鋼輸出のため に,国内の回収量よりも多くの鉄スクラップを 必要とし,輸入依存が高くなっている場合もあ ると考えられる。粗鋼生産規模が小さい国が多 いため,概ね電炉生産割合の高い国が多いが,

粗鋼生産規模の大きなインド,中国では,電炉 生産割合が他国に比べて低くなっている。粗鋼 生産規模が大きくてもインドネシアやマレーシ ア,トルコなどのように,電炉生産に特化して いる国もある。

(3)カテゴリー3

貿 易 特 化 指 数 が -0

.

8以 下 で 所 得 水 準 が 20

,

000ドル

/

人以上の国々について表3-5に 示す。所得水準が10

,

000ドル

/

人未満の国より も,粗鋼生産規模と鉄消費水準ともに大きい。

(13)

表3-5 カテゴリー3

(所得水準が 20,000 ドル/人以上)

国 名 所得

水準

(ドル/人)

鉄消費水準

kg/人)

電炉生産割合

%

生産量粗鋼

(1000t ポルトガル 21,845 280.0 100 1,400 韓国 21,653 1,042.6 46.5 51,517 ギリシャ 27,767 389.7 100 2,554 スペイン 32,130 604.9 77.9 18,999 イタリア 35,641 615.6 63.4 31,553

粗鋼生産規模が大きな国では,国内回収の鉄ス クラップでは国内鉄鋼業の需要が満たせず,鉄 スクラップ輸入依存となる。このグループで特 徴的なことは,韓国を除き,多くの国が転炉で はなく電炉生産により粗鋼生産規模の拡大を進 めてきたことである。

(4)カテゴリー4

 図3-8に示すように,カテゴリー4は貿易 特化指数が所得水準の増加とともに高まる国々 である。基本的に所得水準の上昇に応じて,鉄 スクラップの国内からの回収量が増加し,国 内の鉄スクラップ原料の賦存量の状況によっ て,純輸入や純輸出となっていると考えられる 国々である。高所得国が純輸出となる傾向があ り,低・中所得国が純輸入となる傾向が見てと れる。これは,「3-4.鉄スクラップ輸入と 経済発展」で確認した内容と整合的である。ま た,カテゴリー2は,カテゴリー4において輸 入特化している国々と重なる。アジア地域で は,タイ,シンガポール,日本がこのグループ に位置している(カテゴリー4について各国の 需要構造に関する表は省略)。

4.政策的含意

 3.のデータによる検証結果によれば,ま

ず,図3-1~7によって,所得水準の向上と ともに鉄消費水準も増加するが,国内における 資本集約財の廃棄物の賦存量とそこから回収さ れる鉄スクラップ量も増加し,鉄スクラップの 輸入代替が進むことが確認できた。また,鉄ス クラップの貿易特化指数と所得水準との関係分 析により,仮説(表3-2)で示した4つの貿 易パターンが全て確認できた。具体的には,第 1に予見した貿易パターンは,低・中所得国で 工業化路線にある国は,鉄スクラップの輸入特 化となる傾向があり,特に電炉割合の高い国や 粗鋼生産規模の大きい国は,輸入特化傾向が強 くなるというものである。これについては,カ テゴリー2の低・中所得国グループとして確認 できた。また,第2のパターンは,工業化によ る発展路線上にない国あるいは粗鋼生産が極端 に少ない低・中所得国は,廃棄物同然の資源を 輸入して鉄スクラップを抽出し,海外需要国へ の輸出に特化するというものである。これは,

カテゴリー1の低・中所得国グループとして確 認できた。第3のパターンは,高所得国は,供 給過剰となる傾向にあるため総体として輸出特 化するというもので,これは,カテゴリー4の 高所得国グループとして確認できる。最後に第 4のパターンは,高所得国であっても電炉によ る鉄鋼生産に特化し,あるいは鉄鋼業の規模や 競争力の高い国では輸入特化となるというもの で,これは,カテゴリー3の高所得国グループ として確認できた。

以上の点を踏まえて全体的な貿易構造特性を 整理すると次のようになる。分別品質の低い鉄 スクラップは,低・中所得国に集積する概ねの 傾向があることに加えて,低・中所得国で完全 輸出特化に近い国々と,高所得国で完全輸入特

(14)

化に近い国々が存在する。前者は,工業化によ る発展路線上に至らない国で,鉄スクラップ輸 出を外貨獲得源としていることが考えられ,後 者は,電炉による製鋼によって工業的な発展を 遂げた国である。

 また,各カテゴリー内の国での需要主体の存 在状況等を踏まえると,最も環境汚染リスクが 高い貿易パターンは,カテゴリー1の所得水準 が5

,

000ドル

/

人未満の低・中所得国グループで ある。国内での鉄の需要量と生産量が非常に少 ないにもかかわらず完全輸出特化に近いのは,

廃棄物同然の輸入中古品等から鉄スクラップを 抽出し,海外の需要国へ輸出している可能性が ある。インフォーマルセクターが不十分な技術 や装備で処理することで環境汚染や健康被害が 発生している国もあると思われる。例えばガー ナでは,中古電気・電子機器の輸入によってこ のような事態が生じていることが

NGO

によっ て指摘されている。ガーナで輸入される電気・

電子機器の約70

%

は中古品であり,その内の約 10

%

は従来の機能が損なわれた廃棄物同然のも のであるという。インフォーマルセクターによ るリサイクルや処理の過程で環境汚染や健康被 害のリスクが高いことが報告されている[

Yaw

Amoyaw-Osei

2011]。これらの国々では,鉄鋼

業等の需要主体が存在しないために,需要主体 の調達責任を問うような管理システムが適用で きない。したがって,政府がインフォーマルセ クターを直接管理する必要があるが,外貨獲得 源や雇用創出ともなっているため強く取り締ま ることが困難であり,管理のための財政力にも 乏しいことから,結局,汚染リスクは管理でき ないままに放置されるものと考えられる。

 カテゴリー2やカテゴリー4の低・中所得国

も環境汚染や健康被害のリスクはカテゴリー1 と同様に高いと考えられるが,需要主体である 鉄鋼業が存在するため,需要主体の調達責任を 問う管理手法が適用可能である。ただし,この カテゴリーの需要主体の多くが電炉生産を行う 小規模な製鋼企業であるため,調達先であるリ サイクル企業への技術や資本面での関与を行う 能力に乏しい可能性がある。この場合は,企業 間で共同組織や基金などを創設するなどの工夫 が必要であろう。

結 語

本稿では,循環貿易に伴う環境汚染リスクを 管理する枠組みとして,循環資源の需要主体の 調達責任を問う管理体系の必要性を示した。先 行研究を踏まえた考察から,この管理体系が,

国内での環境政策という点からも,貿易規制に よる汚染防止策という点からも,有効な政策措 置となる可能性を示した。しかし,本稿ではこ の管理体系の実際の有効性に関する検証は行っ ていない。ところで,この管理体系の類似例と して

CSR

調達(13)がある。このような類似の事 例の分析を通じた,循環資源貿易に伴う環境汚 染管理への適用可能性の検討については今後の 研究課題である。

また,鉄スクラップの貿易構造分析の結果,

汚染集約度の高い鉄スクラップは低・中所得国 に集積する傾向があることに加えて,低・中所 得国あるいは高所得国でも完全輸出特化に近い 国が存在することを明らかにした。低所得国の 中で,需要主体である鉄鋼産業がほとんど存在 しないにも関わらず,鉄スクラップの完全輸出 特化に近い国々が最も環境汚染リスクの高い貿

(15)

易パターンであることを示した。環境汚染リス クの大きさについて,調達責任を問うべき鉄鋼 業の立地の有無,鉄鋼生産規模,電炉か銑鋼一 貫,といった視点で評価を行ったが,今後は,

各カテゴリー国での実際の汚染リスクに関する 例証が必要である。さらに,循環資源貿易と各 国の循環型社会形成との問題の全体を分析する ためには,鉄スクラップ以外の貿易についても 分析を行う必要がある。例えば,銅スクラッ プ,アルミスクラップ等の金属類のほか,古紙,

廃プラスチック等を対象とすることで,循環資 源の原料を耐久消費財と一般消費財からの廃棄 物に区分した分析を行うことも考えられる。

〔投稿受理日2011.9.24/掲載決定日2012.1.26〕

⑴ もちろんEPRをこれらの途上国内で整備するこ とが考えられる。本稿では供給側と需要側の両方 からの管理体系が必要であるとの立場から,需要 側の管理体系に焦点を当てる。

⑵ この条約は,有害廃棄物等を輸出する際の輸入 国・通過国への事前通告,同意取得の義務付け,

非締約国との有害廃棄物の輸出入の禁止,不法取 引が行われた場合等の輸出者による再輸入義務,

規制対象となる廃棄物の移動に対する移動書類の 携帯義務等を規定したものである。

⑶ 例えば,家電製品の場合,家電メーカーはEPR に基づいた家電リサイクル法によって,自社の家 電製品の回収・リサイクル・最終処分に取組んで いる。しかし,海外へ輸出する中古品や雑品とし て扱われる場合には,家電リサイクル法の対象外 となる。

⑷ この他,循環資源貿易が資源需要の旺盛な新興 国等に大量に輸出されることで,国内リサイクル 産業の資源調達が困難となり,関連産業の衰退を 招くことが懸念される。リサイクル促進には,資 源の有効利用とともに廃棄物の最終処分量を減少 させるという効果も期待されており,リサイクル 産業の供給力不足はこの効果を損ねることになる。

⑸ 適正な調達責任を有する企業は,適正な循環資

源の輸入事業者や処理事業者を調達先として積極 的に評価するとともに,調達先に環境配慮面で不 十分な点があれば必要な投資として資金や技術面 での支援を行うことが期待される。

⑹ 中国は,日本から輸入した廃プラスチックを生 活ごみと判断し,2004年5月に廃プラスチックの 輸入を一時的に禁止する公告を発表した。その後,

2005年9月には輸入禁止措置が解除された。

⑺ ベトナムでは原則的に廃棄物の輸入は禁止され ている。ただし,製造工程の原料として使用可能 な一部のスクラップ類については輸入を認めてい る。また,中古電気・電子機器の輸入は原則禁止 されている。

⑻ 循環資源の貿易構造分析を行うために,重力モ デルとヘドニック価格形成モデルを組み合わせた モデルを用いた重回帰分析を行っている。

⑼ 鉄スクラップは諸々の不純物元素が鉄鋼に付着 して回収され,それをリサイクル材として溶解す ると不純物元素は鉄鋼中に混入する。混入した不 純物元素のうち銅,亜鉛,鉛,すず,珪素,アン チモン,ビスマスなどの物質をトランプエレメン トと称する。トランプエレメントが除去されずに 鋼中に蓄積され,その濃度が高くなると鉄鋼の強 度,加工性などの性質を低下させる。

⑽ 自動車や家電の製造に使用する鉄鋼製品は,不 純物の含有が少ない高品質製品が求められる。建 設用資材などは相対的に不純物の含有許容が大き く低品質鋼が利用される。鉄スクラップはその利 用によって不純物の含有率が高まるため,建設用 資材向けの利用が多い。

⑾ 各分析図において利用したデータ数は,図3-

1では97カ国のデータ,図3-2では111カ国に ついて2000年~2010年のデータ,図3-7では76 カ国のデータ,図3-8では91カ国のデータであ る。また,3-5.でカテゴリー別に示す各国の 需要特性データ(表3-3~3-5)については,

図3-8で利用した91カ国のうち,Steel Statistical yearbook 2010(World Steel Association)に利用可能 なデータがあるもののみを対象とした。

⑿ ここでいう鉄スクラップ輸入量は,輸入量から 輸出量を差し引いた純輸入量ではなく,輸入の絶 対量である。

⒀ 環境・労働・人権・倫理等に十分に配慮したサ プライヤーだけから原材料等の調達を行うもの。

(16)

サプライチェーンがグローバルする中で,原料生 産地において,例えば生物多様性を大きく損なう ような原料生産を行った場合に,国際社会(現地 国や国際NGO等)から批判を受けるとともに,

消費者から当該企業の製品の不買運動が発生する ケースもある。

参考文献

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竹歳一紀 2009.「第3章 東アジアの相互依存-循 環資源の国際移動-」『東アジアの経済発展と環境 政策』森晶寿編著 ミネルバ書房

細田衛士 2008.『資源循環型社会 -制度設計と政 策展望-』慶応義塾大学出版会

参照

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