● 図 書 紹 介 ●
262
本書は,著者が静岡大学 を停年でご退職になるに あたって,それまでに執筆 された論文のうち,生涯 学習に関するものを中心に集大成 されたものである。
序説 となっているが,生涯学習の基本的理念やその 実際的な展開について充実 した考察が行われている。
内容 としては,著者のこれまでの関心であったイ ギリスの状況 と大学内お よび静岡県の生涯教育にか かわる委員などの立場か らとらえた静岡県の状況が 多 くなっている
。イギリスは,生涯教育が提唱され る以前か ら伝統的に大学のエクステンションや継続 教育など,実質的に生涯教育 ・生涯学習が発達 して いる社会であ り,その実情の詳 しい考察は,これか らのわが国における生涯学習の推進に多 くの貴重な 示唆を与えて くれる
。また,静岡県は生涯学習推進 において,掛川市など全国的に注 目されている地域 のある県で,その実情についての分析 ・考察は, 日 本全体の生涯学習のこれか らの発展 を考えるうえで 重要な方向を示 して くれる。
しか し, 日本学校教育学会 としてとくに注 目した いのは,学校についての基本的 ・原理的な論が詳 し
く展開されていることである。全体構成は,第
1部
「 生涯学習の課題 と展望」,第 2部 「 生涯学習施策 の展 開」,第
3部 「イギ リス継続教育の研究」 とな っているが,第
1部第
3章 において , 「 生涯学習社
会における学校」について,「 学校の基本的性格 」 「 社
会的諸勢力 と学校 」 「 両親 と学校」 とい う三つの視 点か ら論 じられている
。生涯教育は,ユネスコが主催 した成人教育推進国 際会議でラングランによって提唱されて世界各国が 注 目するようになったものであることは,つ とに人
・ 口に胎泉 しているといってよいであろうが,ラング
図書紹介
ラン自身は学校教育の重要性 を強調 していたにもか かわ らず,成人教育 を推進する会議で提唱 されたこ とか ら,また,わが国では,『 社会教育の新 しい方 向‑ユネス コの国際会議 を中心 として‑』 (日本ユ ネスコ国内委員会) として紹介 されたことなどか ら, 学校教育は生涯学習論議のなかで蚊帳の外 におかれ て きたきらいがないわけではない。 また,生涯学習 社会 においては,学校の重要性 は相対的に低 くなる
と考えるむ きもないわけではない。
しか し,ラングランの言 を引 き合いに出す まで も な く, 自主的 ・主体的な学習 を基本 とする生涯学習 を普遍化するためには,やは り学校教育, とくに義 務教育が土台 として しっか りしていな くてはならな い。その意味において,著者が,学校の基本的な性 格 について,原理的,法的,政治的などの諸点か ら 詳 しく論 じ,さらにイギ リスにおける親の学校選択 権や親の学校管理権 について考察 しているのは,ま さに現下のわが国の学校教育改革を推進するにあた って,時宜 を得たもの といいたい。
( 上越教育大学 新井郁男)
●東京書籍,A 5 判,335 頁,3,
800円 ( 本体)
263