内歯車の歯末にトロコイド干渉歯形を有する インボリュート内歯歯車ポンプの研究
第 1 報 : ポ ン プ 作 用 の 理 論 と 設 計 用 限 界 線 図
岸 佐 年
1. 緒 言
イ ンボ リュー ト内歯歯串ポンプはイ ンボ リュー ト外歯歯串ポ ンプに比べ,小形に設計でき るばか りでな く,吐出量及び吐出圧力の脈動が極めて少な く,閉 じ込み圧縮及 び膨張が非常 に少ないので,逃げ帯がな くて も閉 じ込みに伴な う弊害はほ とん ど起 こらない ことが明 らか に されている1).普通のイ ンボ リュー ト内歯歯車ポ ンプでは,高圧側 と低圧側 との 間の漏れ 止めのために,内歯車 とピニオ ンの両歯先の空間に三 日月形の仕切 りを入れなければな らな い.本研究では三 日月形の仕切 りを必要 としないイ ンボ リュー ト内歯歯車ポ ンプについて考 察 した.すなわち本来な らば内歯車の歯切 り時には, ピニオ ンカッタに より, トリミングを 生 じないように歯切 りす る.従 って トロコイ ド干渉 も生 じない.本研究では意図的に内歯車 切削時に内歯車の歯末に トロコイ ド干渉を生じさせて,内歯車の歯末部を トロコイ ド干渉歯 形 とした異形の歯形 とし, しか るのち ピニオンカッタと同形同大の ピニオ ンを この内歯串に
表
1
使用記号の説明m : Modul e
ac: Cut t erpr e s s ur eangl e
ab: Oper at i ngpr e s s ur eangl e
αL L ,αk 2: Pr es s l l r eangl e satadd endum c i r c l eofpi ni o nandi nt e r nalgearr es pec・
t i vel y
αd : Pr e s s ur eangl eatpoi ntwher e t he t r oc hoi dali nt er f er enc e cur ve J ol nSt O i nvol ut et o ot hpr o別ei ni nt er nalge art oo t h
Zl ,Z2: Numberoft eet hofpi ni onandi nt e r nalgearr e s pect i ve l y
i:Ge arr at i o ( ‑Z2 / Zl )
xl,Xg:
Addendum mo di 丘c at i onc oeai ci e nti npl n1 0nandi nt er nalge arr e spec t i vel y hk l ,h如 : Addendum di vi de dbymod ul ei npl nl Onandi nt e r nalge arr e s pec t i vel y
Tl l ,r 1 2:Out s i der adi iofpi ni onandi nt e r nalge arr e s pec t i vel y( mm)
r d :Radi usofc i r と 1 edr a wnt hr oug h t hepo i ntwher et het r oc ho i dali nt er f er enc e cyr vej oi nst ot hei nvo l ut et o ot hpr o 丘I ei ni nt er nalge ar( mm)
r g l ,
1・g
!:Bas ec i r c l er adi iofpi ni onandi nt er nalgearr e s pect i ve l y( mm) α:Cent er ‑ di s t anc e( mm)
♂ 1 , ♂ 1 ㌔
♂l′;Rot at i o nalangl eofpi ni on
亡:
Rat eofPar t i t i on
8:Cont actr at i o
*
昭和54
年10
月 日本機械学会北陸信越支部信越地方講演会において発表** 機械工学科 助手
原稿受付 昭和5
5
年9
月26日長野工業高等専門学校紀要 ・第11 号
組み合わせ,内歯車のイ ソポ リ、ユー ト歯形部分 とピニオ ンのイ ンポ リュ「 ト歯形 とのかみあ いにより内歯車を回転 させ,かづ内歯車歯末の トロ占イ ド干渉歯形部分 とピニオ ンの歯先か どとの接触に よって高圧側か ら債圧倒への漏れを防 ぐように し,普通のイ ンボ リュー ト内歯 歯車ポ ンプにおけ る三 日月形仕切 りの役 目をなさしめ ようとす るものである. このことに よ りイ ンポ リュ‑ ト内歯歯車ポ 1/プの部品点数が減 り,構造 も単純 とな り,製作の容易化,ポ ンプの小型化等種 々の利点が得 られる.そ こで このような内歯歯車ポ ンプのかみあい状態を 理論的に明 らかに し,それに もとず く数値計算に よって内歯歯車ポ ンプ設計用の限界線図を 作製 しポ ンプ成立可能領域を示 した.表
1
は本文に使用す る記号の説明である.2 .
内歯歯車ポンプの原理図
1
は歯末に トロコイ ド干渉歯形を有する内歯車 とピニオ ンとのかみあい状態を, ピニオ ンの1/4
ピッチ回転 ごとにそれぞれ( a ) ,( b ) ,(
C) ,( d)
により示 す. ピニオ ンの 回転方向 を(C) 図 1 ポソプ作用の説明図
内歯車の歯末に トロコイ ド干渉歯形を有するインポ1)ユー ト内歯歯車ポソプの研究
3
反時計方向とすれば,かみあいは( a )
‑(b)‑(
C)
‑(d)‑( a )
のごとき状態を繰 り返 えす.図1
(a)は ピニオ ンの歯先か どと内歯車の尖 った歯先か どとが接触に入 った 癖間を示 し,その歯 に先行す る隣 りの ピニオ ンの歯先か ども内歯車の トロコイ ド干渉歯形部 と接触 している.従 って‑ ッチ ソグを施 こした部分の体積がまさに閉 じ込 め られた瞬間である。吐出 ロを図示の ごとく設けると, この閉 じ込 まれた体積部分は ピニオ ンの回転に伴なって吐出ロに連なる.図で明 らかなごとくピニオ ンの歯先か どと内歯車の トロコイ ド干渉歯形部分 とは,常に少な くとも一組は接触 しているので,両者の歯先空間 と吐出 ロに連なる部分 との間の仕切 り作用 が満足 され吐出ロに連なる部分か らの逆流は起 こらない. よって吐出口に連 なる部分におけ るピニオ ンの回転 に伴な う歯間体積の減少分に相当す る体積が連続的に吐き出され,ポ ンプ の吐 きし作用をなす ことが理解できる.もしピニオ ンが時計方向に回転すれば,(a)‑(d)‑(C)
‑(∂)‑ (〟)のごときサイ クルをなし, これはポ ンプの吸込作用 となることが理解できる.従 って図示 とは対称に左側に も吐出口 (吸込 口)を設ければ, ピニオ ンの時計 あるいは反時計 方向回転に対 して,ポ ンプの吸込み及び吐出し作用がなされポ ンプとして使用可能 となる.
3 .
内歯 歯 車 ポ ンプ に な り得 るた め に 満 足 す べ き条 件図
2
に示す ごとく,は じめに ピニオ ンカ ッタと内歯車 とが ピッチ点P
でかみあい, この状 態か ら出発 してピニオ ンカッタと内歯車が時計方向に回転 し, ピニオンカッタの刃先か どが 内歯車の歯先円とピニオ ンカッタの歯先円との交点Aに至 るまでの ピニオ ンカッタの回転角 を Olとすれば△0 1 02 A
に注 目して次式を得 る.図
2
ピニオンカッタ歯先かどで創成される内歯事の トロコイド干渉歯形長野工業高等専門学校紀要 ・第11号
c o s
(01 ‑i nvαk l +i nvα b )
ただ しr k 2 2 ‑
rk1 2 ‑
a22
ark1i nvαb ‑i nvαC I2 t anα農
芸a
‑
i‑( Z 2 ‑ Z l ) 芸
r k l ‑im( zl ・2 hk l ・2 xl )
r k 2
‑号m(Z2 ‑2hk2・2x2 )
r g 1 ‑号mzIC OSac
r g 2 ‑号‑ Z2C O S ac
c o s ak
1‑普(1)
( 2 )
図
2
に示すごとく, カッタ刃先か どに よる トロコイ ド干渉によって内歯車の歯先歯厚の半分 が削 り取 られ るとす ると,内歯車歯末の尖 った歯先か どはA点の位置で削 られ る.内歯車の かみあい ピッチ円上歯厚の半分に相当す る 角は( 冗 / 2 Z2 ‑i nvαC ‑2 x2 t anα 。 / Z2 +i n vα b )
であ るか ら次式が成立す る.c o s
(;・i nva
b・孟‑i nvα
C‑讐警 ) ‑壁篭 慧 定
(3) は じめにZl ,Z2
を定め, xl
を与えた時,式( 1 ) ,( 2) ,( 3)
を同時に満足す るx2
とO
lを 求める.このO
lを Ol* とす る.読 ( 1 ) ,( 2 ) ,( 3 )
を同時に満足す るZl ,Z2 ,XIx2
の値に 対 し,図2
に示す ごと くピニオ ンカッタの刃先がB
点においてまさに トロコイ ド干渉をは じめ ようとす る瞬間を考える.
O TB
の長 さをr k
21とし, B点の圧力角 をαk
2'
とす れ ば,△01 02 B
に注 目して次式を得る.c o s (
el ‑i nv a k l +i nv ab ) ‑ か
つyk2 1 2‑ rk1 2‑a2 2arkI
c o s ( ? Ii nvαb‑i nvak 2 ・ ) ‑a2' rk2 2ark2 ′ 2 rk1 1 2
( 4)
(5)
内歯車の歯末に トロコイ ド干渉歯形を有するインポT)ユー ト内歯歯申ポンプの研究
5
ただ しc o s a k 2 ′ ‑ 告 ( 6 )
読 ( 4 ) ,( 5 ) ,( 6 )
を連立 して満足す るe
lとr k 2 'を求め, この C1
を 01′ とす る. これ らC 1
書.
el',rk2′が次の条件を満足す るな らば, ピニオ ンカッタと同形同大の ピニオ ンを この 内歯車にかみあわせれば,ポ ンプとして使用できる.すなわち ピニオ ンの歯先 と内歯車歯末 の トロコイ ド干渉歯形部分 との接触に よる仕切 り作用を満足す るための条件 として,仕切 り 率を 亡とすればこ‑篭 諾 ≧1
・ 0
さらに どこオ t/と内歯車 とのイ ンポ T)ユー ト歯形部分のかみあい率を Sとすれば
E =柄
i‑空竺 牢
+a坐
・≧1. 0
7 r m C O Sac
4 .
数値計算 とフロ「チ ャー ト 以上の理論式に もとずいて数値計算を 行なった. 計算 には 本校の 電子計算機FACOM 23 0 ‑ 25
を用いた. このポ ンプの ピニオ ンは内歯車の切削に用いた ピニ オ ンカッタと同形同大の ものでなければ な らない.そ こで手持の種 々のモジュー ルの ピニオ ンカ ッタの転位係 数 が ほ ぼ
0 . 1
であったので,∬1‑0.1 と固定 した。ま た
m= 1 ,hk 1
‑1 . 2 5 ,h
k2‑1 . 0
と し た. いま(Zl+1)≦Z2≦(Zl+5)の範囲で Zl とZ2の組み合わせを考え, 各 々の組 み合わせに対 し式 (1),(2),(3)を連立 し て解いてx
2とe̲ I( ‑el 牛 )
を求める.つ ぎにそれ らZl,Z2,Xl,x2 の値を式 (4), (5),(6)に代入 し,式 (4),15),(6)を連立して満足す るel(‑eュ′)と
I r k
2'
とを求め, 読(7)か ら仕切 り率 亡を,式 (8)か らイ ンボ リュー ト歯形部分のかみあい率 Eを計 算す る. こ の よ うな計算を
ac ‑2 00
,1 4. 50 ,2 5
0について1 0
≦Zl≦5 0
の範囲で 行なった.なお後に述べ る設計用限界線 図作製のため,現実の歯車かみあいでは 有 り得ないがZlお よび Z2の歯数の組(7)
(8)
図
3
フローチャー ト長野工業 高等専門学校紀要 ・第
11号み合わせを
0 . 1
きざみに細か く計算 した.図3
は フローチ ャー トの大略を示す.5.
内歯歯車ポンプ設計用限界線図数値計算の結果を用いて. 内歯歯車ポ ンプ設計用限界線図 を 作製 し 図 4
( ac ‑2 00 )
,図 5( ac ‑1 4.50 )
,図6 ( αC ‑250 )に示す. a6‑200
について 言えば, 計算に よって求め られたZl , Z2 , x2の値か ら ( Z2 ‑Zl ) ‑1に対 しては x2 ≒0.9 5, ( Z2 ‑Zl ) ‑2
に対 しては x2≒0 . 5 0
,( Z2 ‑Z) ‑3
に対 してはx2 ≒
0.
27,( Z2 ‑Zl ) ‑4
に対 してはx2 ≒0 . 1 3
なることがわか り,この
x
2の曲線を太実線で図4に示す. また仕切 り率 ;を表わす曲線を破線で, イ ンポリュ
ト歯部形分のかみあい率E
を表わす曲線を細実線でそれぞれ図中に示す.m a B 一D
uJ
aluニ0竜 9 ‑ P L a q E
コN
乙36 35 34 33
333! 2 0 2 9 2 27 26 25 2 2 2 21
21 1 1 ー 1 8 3 2 0
98 6 5 4 7
14
X 上 声 q1 3
‑I 日
e飢 i 刃
=‑ 1
tD 2 3 O 0 0
託 f Q l 2 7 ′′
一 一 ね 5 0 W ̲ y J ′ ^ Jン ■
2 Z = 1 Q S 6 / ′ ^
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3‑ ア ノ / ′ ′
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ノ′≠1
二 /メ:細 ̲
′′′= 1 20 αB
も久 2
MK 1
t140
;=400 1 0 2
.1 5 .
Nu mb e ro fl e e l ho fp i n i o nZt
図 4 設計用限界線図 ( αで ‑2 00 )
内歯車の歯末に トロコイ ド干渉歯形を有するイソポリュート内歯歯串ポンプの研究
7
J D a B I D
UL a
lu
.I p 舌 a l P L a q u J n
N仏 4 4 4 4 3 3 3 3 3 3
33‑01‑
狩 Q 1 8 J . ‑ . . 1 = . 畠e ‑ ‑ ‑ : i e : ニ f 印0 1 3 1 L . α 5 2 0 )
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L
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I 5 .9 ‑ 6 ̲ ′ ′ ノ′ ′ ′ ′
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l
3 *y ′ ′
′ ′′ ′′t 24 ′ ′ ノ ′ ′ ′ ′
′′晶 o = ‑ ′ J J ′ ′ ̲ ′ ′ / ノ ′ ノ ′′ I ′ . ′ ′ ′′
i′
l・Z
l.+ c
㌫ lもKXlt F1
Z==0.F1uX)4
2.
15 5 9
l8 5=lz≧
血
‑ t= 1 20 1 pl l l ‑si れ2 C ( C
.‑,. 6 7
Nu mb e r o fl e e I h o f, p i n i o n Z.
図5 設計用限界線図
( α C ‑1 4 . 50 )
以上のことに より,内歯歯串ポ ンプの成立可能領域は 亡
≧1 ,
8≧1および ( Z2 ‑Zl ) ≧1
の限 界線に因 まれた範囲であることがわか る.ただ しαC ‑1 4. 5
0についてはこ≧1
が限界線には な らず, ピニオ ンの切 り下げ限界が これに代る (図5
参照).6.
結 冨内歯車の歯末に トロコイ ド干渉歯形を与 えることに より,三 日月形仕切 り無 しのイ ンボ リ ュー ト内歯歯車ポ ンプが製作可能であることを理論的に明 らかに した.またその理論に もと ず く数値計算により,イ ンボ リュー ト内歯歯車ポ ンプの設計用限界線図を作製 した.今後は
この設計用限界線図を用いて内歯歯車ポ ンプの設計製作を試みたい.
8 長野工業高等専門学校紀要 ・第
11号王
a a l
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3
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425g.‑ L m
1Nu mb e ro fI e e I ho fp i n i o n Z 一
図 6 設計用限界線 図 ( a, ‑2 So )
本研究は信州大学工学部精密工学科教授 両角宗暗先生の御指導のもとに行なった先生 と の共同研究の一部である.ここに先生の御指導に対 して心 より感謝を申し上げます.
参 考 文 献