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幼児における共感性と知能との関係

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

幼児における共感性と知能との関係

著者 今井 靖親

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 25

号 1

ページ 163‑169

発行年 1976‑12‑25

その他のタイトル The Relationship between Empathy and

Intelligenee in Kindergarten Children

URL http://hdl.handle.net/10105/2570

(2)

幼児における共感性と知能との問係

今  井  靖  親 (心理学教室) (昭和51年4月30日受理)

Dymond (1949)は共感性(Empathy)を「他人の思考や感情を想像的に自己の中に移し、他 人の心理的世界をつくりあげる能力」と定義しているが、共感性の発達には、被験者の年齢、性、

知能、社会的・文化的背景など、さまざまな要因が関連していると思われる。

共感性に感する従来の研究を調べてみると、年齢と性の要因については、比較的多くの研究者 によって、共感性との関連が検討されている。たとえば、共感性と年齢との関係については、

Burns &Cavey (1959)、 Feshbach & Roe (1968]、 Borke (1971)、今井(1974)らによっ て報告がなされている。いずれの研究においても、年齢が進むにつれて共感性は高まる、という 点では一致した結論が得られているのは当然としても、では、共感性は何歳ごろから発達し始め

るのか、という点では研究者の間で見鮎がさまざまに分かれている。共感性の性差についても、

性差ありとする研究者と、性差なしとする研究者に分かれ、これまた一致した結論には達してい ない現状である。

ところで、被験者の年齢や性と同様に、知能も共感性を規定する重要な要因であると考えられ るが、共感性と知能との関連については、 Taft (1955)とTagiuri (1969)が、その論文の中で、

パーソナリティ特性を判断する能力とIQとの間に正の相関があることを指摘しているものの、実 験的な接近をおこなったものとしては、 Rothenberg (1970)の研究以外にはないようである。

この研究において、 Rothenberg は小学校3年生と5年生の子どもを対象として、言語性知能と 非言語性知能の両面から共感性と知能との関連を調べ、小学校3年生までは非言語性知能が、また

5年生では言語性知能が、社会的感受性(social sensitivity)と正の相関があると報告してい る。しかし、彼女の研究においては、言語性知能はPPVTにおける「語い理解力テスト」で測 定したものであり、また非言語性知能もwi seの「横木模様テスト」で測定したものであるの で、厳密な意味で「言語性知能」、 「非言語性知能」と言えるかどうか疑問である。

そこで、本研究においては、幼児を対象として、共感性と知能との間にいかなる関連があるか を検討する。

方      法

被験者 奈良保育学院附属幼稚園児35名(男児17名、女児18名)。その年齢の範囲は、 5歳2か 月から6歳2か月で、平均年齢は5歳7か月であった。

実験期同 実験場所 知能検査は1975年5月28日から7月12日にかけて、共感性検査は7月14 日から7月18にかけて、奈良保育学院の面接室でおこなわれた。

実験材料・用具(1)WI SC知能診断検査用具(Wechsler,D.日本文化科学社) (2)同検査手引 書(3)ストソプウオ、ソチ(4)「喜び」 、「悲しみ」 、「怒り」 、「恐れ」の4つの情緒場面を叔述した 短いストーリーとそのスト‑I)‑の具体的場面を描写した3枚連続の刺激図版各3種類ずつ、合 計12種類(36枚(5)被験者の言語反応を記錨するための記録用紙。

163

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164 今 井 靖 親

手続き 実験はすべて個別的に実施された.まず貴初に被験者の知能測定が行われ、次に共感 性の測定が行われた。共感性の測定においては、実験者は初めに1組の短いストーリーを話して

聞かせ、同時にそのストーリーの具体的場面を描写した3枚1組の刺激図版を呈示した。 3枚め の図版(スト‑I)‑)を呈示し終ると、各被験者に対し、「このお話の中に出てきた『さつちゃん』

(または『まきおくん』 )は、この時どんな気持がしたでしょうか。どんな気持になったか言っ てください」と教示し、刺激図版に登場する主人公の情緒状態について、直接言語報告するよう に求めた。この手続きが合計12回くり返された。被験者の言語報告は逐語的に記録用紙に記入さ れた。なお、実験者は、被験者の回答に対して、すべて「はい」と応答した。

採点方法 知能検査では手引書に従って各下位検査の評価点,言語性IQ、動作性IQ、全検査IQ、

が算出された。共感性検査では被験者が物語の主人公の気特を的確にとらえた表現をしている場 合には2点を与え、主人公の気持を的確にとらえた表現ではないが、全く誤った回答とも言えな

い表現に対しては1点を与え、誤った回答や意味不明の表現には0点を与えた。

結    果

表1には、仝被験者のwi seにおける平均IQと標準偏差を示した VIQは「言語性検査に おける知能指数」 、 PIQは「動作性検査における知能指数」 、 FIQは「全検査における知能指 数」である。表2には、仝被験者の情緒場面別の平均共感性得点と標準偏差を示した。

表1 全被験者の平均IQと標準偏差 VIQ PIQ FIQ

×  113.23 120.69 119.83 SD   9.48   9.23   8.66

表2 仝被験者の平均共感性得点と標準偏差 喜 び 悲しみ 怒 り 恐 れ 全 体 束 4.94  2.69 1.51 3.71 12.86 SD 1.45 1.56 1.25 1.67  3.50

次に、共感性得点の高い者を最上位から10名選び、これを共感性上位群とし、また、共感性得 点の低い者を最下位から10名選び、これを共感性下位群とし、両群の情緒場面別平均共感性得点 と標準偏差を示したものが表3である。さらに両群のVIQ、 PIQ、 FIQ と標準偏差を示したも のが表4である。

上記の結果にもとづいて、 2 (群:共感性上位群と下位群) ×2 (知能:VIQとPIQ)の分散 分析をおこなったところ、表5のような結果が得られたoすなわち、知能の主効果は有意であ‑

たが(F ‑12.61 、df‑1と18、P<.005 、群の主効果は有意ではなかったoまた、群と知

能の交互作用は有意であった(F ‑6.75、 df ‑1と18、 P<‑001)そこで単純効果の検定をお

(4)

こなったところ、共感性上位群において、 VIQ よi) PIQが有意に高かった t ‑4.34、 df‑

18、 P<.001  これを図示したのが図1である。

表3 群別・情緒場面別の平均共感性得点と標準偏差 恐 l

X

)   D り   s

i f l B

のs

L

悲一× のS

・ 川

= ・

推工

劇 共 れ) (全 体)

SD 夫 sD

2 6

5 2

8 3

5 6

1 0

1 0

2 1

0 5

1 7

1 0

7 2

3  1

>

﹂ ^

^ 9   7 0   1 5   8 5   3

群群 位位 上下

1.08 16.5 1.12 1.50 8.6 2.91

表4 群別の平均IQと標準偏差 共感性   VIQ PIQ FIQ 上位群 × 110.5  123.4  119.8 SD 10.54   8.52   9.12

X 117.7  119.7  121.9

1

SD 8.24   9.54   9.79

表5 分散分析表

Source SS    戯  MS F Between‑Ss 2663.27 19

A (3)    30.62    30.62

error (b) 2632.65 18 146.26

Within‑Ss 1644.50 20

B (知能    555.02 1 555.02 12.61***

A X B    297.03 1 297.03  6‑75 error (w)  792.45 18  44.03

Total     4307.77 39

* p<.OS *** p<.005

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166 今 井 靖 親

表6は共感性上位群、下位群における知能検査(下位検査)の平均評価点と標準偏差を示した ものである。これにもとづいて、各下位検査において、群間に統計的な有意差があるか否かをJ検 定で調べたところ、 「組合せ問題」にのみ両群間の有意差が認められた t ‑3.ll, df ‑18, p

<.Ol)。

表6 WISC下位検査における群別平均評価点と標準偏差

共感性  知 識 理 碗 算 数 類 似単 語 絵画完成 絵画配列積 木組合せ 符 号 上位群 ×  9.3 11.4 12.3 13.9 11.3 11.7 14.1 12.7 16.7 12.6

SD 2.53 1.69 1.90  3.15  2.24  2.43  2.90  2.83 1.19  2.20

下位群 天11.7 12.6 12.5 15.2 11.7 11.9 13.4 12.1  14.8 12.8 SD 2.76  2.29  2.46 1.72 1.85  3.75  2.51 2.02 1.40  2.93

lif^^^^^^^^^^^^ES

表5に示したように、分散分析においては群の主効果は有意でなかった。すなわち、共感性上 位群と下位群の共感性得点には統計的な有意差は兄い出せなかった。そこで、表3にもとづき、

情緒場面別に両群の共感性得点の差についてt検定をおこなってみたところ、 「怒り」の情緒場 面においてのみ、両群間の共感性得点に有意差が認められなかったが、 「喜び」 、 「悲しみ」 、

「恐れ」の3つの情緒場面においては、両群間の共感性得点に統計的な有意差が認められた(そ れぞれt ‑2.62,df ‑18,p <.05 ;t ‑5.63,df ‑18,p <.001 ;t ‑5.20,df‑18,p <.001)

次に、表4、表5に示したように、共感性上位群と下位群について、 VIQ,PIQ.FIQを比較し てみたところ、いずれにおいても統計的な有意差は兄い出されなかった。すなわち、本研究では、

共感性の高低が知能の高低と関連があるという明確な結果は得られなかった。これは、共感性と 知能との間には正の相関があるというTaft (1965)やRothenberg (1970)の研究結果とは異なっ ている Rothenberg (1970)の研究と本研究とを比較してみると、 本研究の被験者は幼児であ り、 Rothenberg (1970)の研究における被験者は小学校3年生と5年生であったが、彼女の研究 ではVIQ ‑110.6 (SD ‑ll.9) 、 PIQ‑109.7 (SD ‑18.4)であったのに対し、表1に示し たように、本研究における被験者は知能段階が中またはそれ以上の者に限られ、結果として知能 段階が普通以下の被験者を対象とした検討が十分になされなかったと言えよう。

さらに、共感性の高低と知能構造との関係を検討したところ、表4、図1に示したように、本 研究では、共感性上位群において、 VIQよりもPIQのほうが有意に高いことが明らかにされた。

Rothenberg (1970)は、小学校3年生では非言語性知能が、また、 5年生では逆に言語性知能 が、彼女の言う「社会的感受性」と正の相関があると報告している。幼児を対象とした本実験に おいては、彼女の研究における小学校3年生の結果と類似した結果が得られたと言えよう。しか しながら、初めに述べたように、 Rothenberg (1970)の研究における「言語性知能」とは、

PPVTの「語い理解力テスト」のみによって測定された能力であり、また、「非言語性知能」と は、 wi seの「積木模様テスト」のみによって測定された能力であるので、本研究のように、

それぞれ5種類のsub‑testから成る「言語性テスト」 、「動作性(非言語性)テスト」でおこな

った測定のほうが、はるかに妥当性、信頼度の高い結果が得られると考える。

(6)

ところで、 Wechsler 茂木・安富・福原訳1972)は、 wiseについて、「動作性検査」で は、「主に基本的な知覚能力や部分と全体を理解する能力」が測定されると述べているが、本研究 の結果から、共感性上位群は、「言語性知能」に比して、このような能力がすぐれていると考えて

よいであろう。

最後に、各下位検査において、共感憧上・下両群の間に差があるか否かを調べてみたところ、

「組合せテスト」の得点において両群間に有意差が認められた(表6参照)。 Wechsler 茂木・

安富・福原訳1972)は、「組合せテスト」 ‑の正しい反応は、「部分と全体の関係を理解する能力 に依存する」と解釈している。これにより、共感性上位群は下位群よりも、部分と全体の関係を 把握する認知的な能力がすぐれていると結論づけてよいのではなかろうか。

要     約

本研究の目的は、幼児における共感性と知能との関連性について検討することであった。まず、

35人の幼稚園児(平均年齢5歳7か月)にwi seが実施され、ついで共感性が測定された。

共感性の測定においては、被験者に3枚の彩色画が呈示され、同時に3枚の絵について短い物 語が話された。喜び、悲しみ、怒り、恐れの4つの情緒場面について、各3組の絵が用意された。

それぞれの絵について、物語の呈示が終ると、実験者は被験者に物語の主人公の気持を述べる ように求めた。被験者の回答内容によって、 0, 1 点の共感性得点が与えられた。 35名の中 から共感性得点の高い者を10名選び、これを共感性上位群とし、同じく低い者を10名選び、これ を共感性下位群とした。両群のVIQ、 PIQ, FIQ と下位検査の評価点が比較された。おもな結 果は次のとおりである。

(1)共感性上位群と下位群のVIQ, PIQ, FIQ には統計的な有意差は認められなかった。

(2)共感性上位群において、 PIQ は VIQ よりも有意に高かった。

(3)共感性上位群における「組合せテスト」の評価点は、下位群のそれよりも有意に高かった。

以上の結果から、全体と部分の関係を理解する能力は、幼児における共感性の重要な要因であ ると推測された。

く附記〉 本研究の実験を快くおひき受けてくださった奈良保育専門学院附属幼稚園の先生方、

ならびに、検査の実施と資料の整理にご協力くださった天理市立三島幼稚園の糸井伸子先生に

厚く感謝いたします。

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168 引 用 文 献

Borke, H. 1971 Interpersonal perception of young children : Egocentrism or empathy?

Develpm. psycho!., 5, 2, 263・ 269.

Burns, N. & Cavey, L. 1957 Age differences in empathic ability among children.

Cand. J. PsychoL, ll, 4, 227‑230.

Dymond, R. F. 1949 A scale for the measurement of empathic ability.

J. Consult. PsychoL, 13, 127‑ 133.

Feshbach, N. D. & Roe, K. 1968 Empathy in six and seven‑year‑olds.

Child Develpm., 39, 133 ‑ 145.

今井 靖親 1974 幼児・児童における共感性の発達 奈良教育大学紀要第23巻第1号.

Rothenberg, B. B. 1970 Children's social sensitivity and the relationship to interpersonal compe‑

tence, interpersonal comfort, and intellectual level. Develpm. Psychol., 2, 3, 335 ‑ 350.

Taft,R. 1955 The ability tojudge people. Psychol. Bull, 52, 1, 1‑23.

Tagiun, R. 1969 Person Perseption. In Lindzey, G. & Aronson, E.

(Eds.), The Handbook of Social Psychology, vol. 2, 2nd Edn., Massachussetts : Addisorl‑Wesley, Pp. 395 ‑ 449.

Wechsler, D. 1958. The measurement and appraisal of adult intelligence. Williams & Wilkins.

茂木茂八、安富利光、福原真知子(訳1972 成人知能の測定と評価 日本文化科学杜.

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The Relationship between Empathy and Intelligence in Kindergarten Children

Yasuchika Imai

Department of Psychology, Nara University of Education, Nara, Japan (Received April 30, 1976)

The present investigation was designed to examine the relationship between empathy and intelligence in kindergarten children.

35 kindergarten children (mean age of 5yr. 7mo. ) were administered the Wechsler Intelligence Scale for Children (WISC) and then their empathy was measured.

In the assessment of empathy 5 was presented three colored-pictures told a story com- posed of three pictures. Three sets of three pictures were constructed for each of the following four emotional situations : angry, fear, happy, and sad. After the presentation of each story, E asked 5 to state how he felt about the emotional reaction of the central fig- ure. The degree of empathy was scored 0, 1, 2 points based on Ss' statements.

10 of 35 & were selected fron highest end of the distribution of the empathy scores (HE group) and were selected from the lowest end (LE group). The VIQ, PIQ, FIQ, and the scores of the subtests of HE group were compared with those of LE group.

The main results obtained were as follows :

(1) Between HE group and LE group there was no statistically significant difference in the VIQ, PIQ, and FIQ.

(2) In the HE group, the PIQ was significantly higher than the VIQ.

(3) The mean score of the object assembly test for HE group was significantly higher than that for LE group.

From these results of the present study, it may safely be concluded that the ability of

understanding the relation between the whole and the parts is an important factor of empa-

thy in kindergarten children.

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