業績評価システムのチ ェンジ研究 : 知見 と課題
近 藤 隆 史 ・窪 田 祐 一
相 原 基 大 ・福 田 直 樹
Abs t ract
Re c e ntr e s e a r c hi nma na ge me nta c c o unt i nga dvoc a t e ds t r a t e gi c pe r f o r ma nc eme a s ur e me nts ys t e ms .Ma nyJ a pa ne s ec o mpa ni e sha ve i mpl e me nt e dpe r f o r ma nc eme as ur e me nts ys t e ms ,s uc ha s" ma na ge 一 me ntbyo b j e c t i ve s"o r" ho s hi n l k anr i
".Mo r e o ve r , t he yr e c e nt l ybe ga n c hangl ngi t sper f or manc eme as ur eme nts ys t e mswi t habal anc ed s c o r e c a r da ndpa y‑ f o r ‑ pe r f o r ma nc el i nka ge.Thi spa pe rpr o vi de sac r i t i ‑ c a lr e vi e w o ff i ndi ngsf r o m e xi s t i ngr e s e a r c ho nma na ge me ntac c o unt ‑ 1 ngC ha nge ,pe r f o r ma nc eme a s ur e me nt ,i nc e nt i vepl a n,a ndma na ge ‑ me ntc o nt r o l .Wee mp ha s i z et hede s i gna ndus eo ft hes t r a t e gi cpe r f o r 一 ma nc eme a s ur e me nts ys t e msa nddi s c us sanumbe ro fr e s e a r c hi s s ue st o bee xpl o r e di nf ut ur er e s e a r c h.
Key words:St r a t e g icpe r f or ma nc eme a s ur e me nt;Pa y‑ f o r ‑ pe r f o r 一 ma nc ei nc e nt i ves ys t e ms;Pe r f or ma nc ema na ge me nt ;I nt e r a c t i vec o n‑
t r o l ;Ma na ge me nta c c o unt i ngc ha nge
1.はじめに
本稿の 目的は,業績評価システムのチ ェンジ研究 としての実証課題を提示 することである。
近年の激化する競争環境のもと,業績評価システムのチ ェンジが加速 して
いる。業績評価システムのチ ェンジは,システム設計 とシステム利用の 2 つ
の側面で進んでいる。 ここで,業績評価システムのチ ェンジ研究 として,環
境の変化に合わせて,業績評価システムの設計面 と利用面 とが どの ように変
化 し,組織成果にいかなる影響を及ぼすかの探求を試みたい。また,本稿で
着 目する業績評価システム とは,目標管理や方針管理, 最近ではバ ランス ト ・
スコアカー ド ( BSC) な どの業績評価 に関連する様 々な経営技法や制度を基礎
に しなが ら,そ こに報酬 が明示的 に リン クした成果報酬システム ( 梶原 ,
2 0 0 1 )あるいは報酬連動型業績評価システム( 横井,2 0 0 3 ) である。
本稿の構成は以下の とお りである。次節では,業績評価システムのチ ェン ジの概念について概説する。 3 節 と 4 節では,業績評価システムの設計面 と システム利用面について,それぞれ先行研究か ら知見を整理 し,チ ェンジ研 究に向けた課題を提示する。 5 節では,組織成果への影響を財務成果 と組織 メンバーの意思決定 ・行動 に分けて考察する。最後 に,本稿をま とめ,業績 評価システムのチ ェンジ研究の今後の方向性を提示する。
2 .業績評価システムのチ ェンジ
業績評価システムに関 しては、一時点での環境 との適合性にではな く,環 境変化に合わせて どの ように変容す るかの解明が求め られている。
従来, 日本企業における組織のコン トロール メカニズムにおいて,業績評 価システムによるコン トロール よりもクラン コン トロール1 が重視 されて き
た( 梶原 ,2 0 0 1
) 0Da ni e le ta l . ( 1 9 9 5 ) は,品質戦略,マネジメン ト ・コン ト ロール ・システム,そ して報酬 との関係に着 目し, これ らの一貫 した関係へ の当てはま りが, 日本企業 よりも米国企業の方がよいことを明 らかにした。
日本企業 において,成果報酬システムあるいは成果連動型業績評価システ ム( 以下,成果報酬システム)は,単体のシステム として導入されてきたわけ ではない。成果報酬システムは, 日本企業に根付いている経営手法である目 標管理や方針管理 と関係がある。 目標管理は,成果報酬システムにおける業 績評価のために用い られる場合が多い。 目標管理では,組織 目標をブレイク ダウン し目標が個人へ割 り付け られる。 しかし, 目標割 り付けの段階におい て,組織 と個人 との 目標の整合性が十分確保 されてはいなかった。一方,方 針管理は,TQM の発想か ら結果 よりもプロセスを重視する形で,会社方針 から部門,課,そ して個人へ と管理項 目を展開させ るものである。 しかし, この方針管理において も,プロセスを適正に反映させる業績指標の整備が不
1
クラン コン トロールについては,Ouc hi( 1 979 )を参照されたい。
十分であることが多かった。 また, 目標管理 と方針管理の どち らも報酬 との リンクは稀薄であ った。
近年,競争環境の激化か ら, 目標管理や方針管理 における業績評価のあ り 方が見直され,業績評価システムのチ ェンジが加速 している。 また, この よ うな業績評価 システムのチ ェンジには BSCも関わっている。例 えば,ある 調査では,成果報酬 システムにおけ る業績評価の部分 に BSCを適応 する 日 本企業 は 50 % を超 える と報告 されている( 横井 ,2 0 0 3 ) 0 BSCを本格的に導 入 しないまで も,BSCの発想 を取 り入れて業績測定 ・評価 システムの見直 した り, 目標管理 あるいは方針管理 を一新す るために BSCの導 入す る企業 も相当数存在 している
2。この ように,業績評価システムのチ ェンジは, インセンテ ィブ と戦略遂行 の
2っの方 向で進んで きた。 インセンテ ィブに関 しては, 目標管理 ,方針管 理 ,あるいは BSC と報酬 との リン クが強化 されて きた。戦略遂行 に関 して は,戦略を組織全体 に浸透 させ,戦略の遂行状況 を追跡するために,財務指 標だけでな く非財務業績指標が多 く選択 され,戦略的な業績評価 を実現す る 方向に進んで きた。 これ ら 2 つチ ェンジを経なが ら, 日本企業 において成果 報酬システムが形成 されて きた。また,業績評価システムにおけるインセン テ ィブ と戦略遂行のチ ェンジの方向性は, とくに 日本企業だけに限 った こと ではない。
業績評価 システムには,報酬 との リンケージ,戦略的な業績指標の選択, そ して業績 の評価方法 な どのシステム設計面のチ ェンジだけではな く,シス テム利用面のチ ェンジ もある。従来, 目標管理や方針管理が業務改善や人材 育成のために利用 されて きた。加えて,システム設計面での戦略性が高まる ことで,戦略創発 ( または業務プロセス改革)のために利用 されることが想定 される。本稿では,システム設計面だけではな く, この ようなシステム利用
2
BSC と目標管理 ・方針管理 との関係の詳細については,乙政 ( 2005) ,加登 ( 2004) ,西
居 ( 2005) な どを参照 されたい。
面 も業績評価システムのチ ェンジの要素 として捉 えている。
3 .システム設計面
業績評価システムの設計面 として, ここでは,報酬 との リンケージ,戦略 的な業績指標,そ して業績の評価方法 について取 り上げる。報酬 と業績評価 システム との リンケージは, 日本企業では成果報酬制度 として注 目されるよ
うにな り,欧米では比較的早 くか ら論 じられて きた管理会計研究の主要テー マである。戦略的な業績指標 は, とくに ,BS C の登場以降,非財務業績指 標 に管理会計研究者 の関心が多 く寄せ られている。業績の評価方法について は,非財務業績指標 を含む業績評価 システムの もとでの戦略的な業績評価の あ り方が模索 されている。以下,先行研究をもとにそれぞれを個別に考察す る。
3 . 1 報酬 との リンケージ 先行研究 における論点
業績評価システムの設計面 を考 える上で,業績評価 システム と報酬 とをど の ように連動 させ るかは重要な課題である。業績評価システム と報酬 との リ ンケージに関する先行研究のなかで取 り上げ られて きた主な論点は,インセ ンテ ィブ ・プランにおいて,業績指標が財務か非財務か,主観的か客観的か, そ して個人報酬 における個人業績かチーム業績かの選択 についてである。
第 1の財務か非財務 かの業績指標の選択は,エイジ ェソシー理論 における
イソフ ォーマテイブネス原則 に依拠 して解明が試み られて きた。 イソフ ォー
マテ イブネス原則 による と,エイジ ェソ トである組織 メンバーの努力 ・行動
を,外的なノイズの影響を受けやすい財務業績指標では十分 に評価で きない
ため,組織 メンバーにインセンテ ィブをあたえる費用が増加 して しまう。 こ
れを回避するため,組織 メンバーの努力 ・行動を より適切 に評価 でき,将来
の財務業績指標の先行指標 としての非財務的業績指標 に高いウ ェイ トをお く ことによってインセンティブ費用が最小化 される。
ボーナス契約 における業績指標 の ウ ェイ ト付 け について,I t t nereta l . ( 1 997) では CEO を対象 に調査 した結果,インフ ォーマテ ィブネス原則 に基 づ く仮説 が支持 された。具体的には,探索型戦略が重視 されるほ ど,品質重 視の戦略が重視 さるほ ど,産業規制 が厳 しい状況であるほ ど,そ して業績不 振 に陥 っているほ ど,非財務業績指標へのウ ェイ トが高 くなることが明 らか にされた。I t t ne randLar c ker( 2002) で も,同様の調査が現場作業者 を対象 に実施 され,インフ ォーマテ ィブネス原則に基づ く仮説がよ く支持 された。
第 2は, インセンテ ィブ ・プランにおいて,主観的な業績指標 とリンクさ せ るか,それ とも客観的な業績指標 に リンクさせ るかの問題である。個 々の 組織 メンバーのおかれた状況を加味 した柔軟 な業績評価のためには,管理者 による主観的な判断が有効である とされて きた ( Ecc l e s,1 991;Kapl anand Nor t on,1 996) 。 しか し,主観的判断には評価者か らのバ イアスが入 りやす
い とい う問題がある。 I t t nere tal . ( 2003) は,BSCにおけるインセンテ ィブ ・ プランについて,心理学 をベースに, ( 1 )主観的な指標 には管理者のバ イア スが含 まれ るため,客観的指標 に高いウ ェイ トがおかれる,( 2 ) 主観的指標 であって も具体的な 目標あるいは同条件のグループ と比較 される場合は,主 観性が実質的に吸収 されるため,明確な 目標が設定 されている指標 にウェイ トがおかれ る, ( 3) 主観的な指標であ って も単一ではな く複数の指標 に基づ く評価であれば,主観性は実質的に吸収 されるため,その場合は複数指標 に 高いウ ェイ トがおかれ る, ことを明 らかにしている。 この ように,主観的 と いって も, 目標設定のあ り方,指標の数 と密接 に関係 し,それぞれがインセ ンテ ィブ ・プランに及ぼす効果は異なっている。
第 3 の個人の報酬を個人業績 に リン クさせ るか,チーム業績 に リンクさせ
るかの問題は,コンテ ィンジ ェンシー理論 に依拠 して解 明されて きた。近年,
原価企画 にみ られる職能横断チームやチーム営業組織な ど,個人が 日々の業
務の場面でチーム組織へ従事する割合が高まる とともに,個人の インセンテ ィブ ・プランにおけるチーム業績の重要性が高まっている 。Sc o t ta ndTi s ‑ s e n( 1 9 9 9 ) は,コンテ ィンジ ェンシー理論 に依拠 して, ( 1 ) 管理者がチーム組 織 に従事するは ど個人報酬の決定 におけるチーム業績のウ ェイ トが高まる, ( 2 ) チーム業績q) ウ ェイ トが高いほ どチーム業績が改善 され る, ことを明 ら かにしている。
検討課題
チ ェンジ研究に向けた課題は,先行研究が依拠す る理論的パースペ クティ ブに関係 している。先行研究か ら,成果 と報酬 との リンケージについて,非 財務業績指標あるいはチーム業績 と報酬 とを リンクさせ ることの有用性が概 ね示 されて きた。 しか し,それぞれの研究が依拠す る理論的パースペクティ ブは, Me r c ha n te ta l . ( 2 0 0 3 ) も示唆 している通 り,経済学 と心理学 ( あるい は行動科学)の二領域の どち らかに偏 っている傾 向がある。インセンティブ ・ プランを設計する際,報酬を,財務 か非財務か,主観的か客観的か,あるい は個人業績 かチーム業績 かの どち らの指標 にウ ェイ トをお くか とい う選択 は,それぞれ独立 した問題ではな く,同時に検討 されなければな らない。そ れ らの問題 を包括的に捉 える一貫 した理論的パースペ クテ ィブに基づ く経験 的証拠が望まれる。
第 2は,報酬を リンクさせ ることでインセンテ ィブが有効 に機能する条件
に関 してである。報酬 に関する先行研究では,ボーナスな どの金銭的報酬が
主に取 り上げ られて きた。 日本企業の実務 において も,成果に連動 した金銭
的報酬が組織 メンバーの動機付けに有効であると考 え られている。 しかし,
あ らゆ る状況において,成果 に連動 した金銭的報酬が組織 メンバーの動機づ
けに有効 に機能す るか どうかは不明である。先行研究では,チーム組織 にお
ける金銭的報酬の有効性が示唆されている。 しか しなが ら,同 じチーム組織
といって も,京セラアメーバ経営み られる小集団の場合は,アメーバの成果
を金銭的報酬には リンクさせていないことが組織 メンバーの動機付けの上で 重要であるといわれている( 三矢ほか,1 9 9 9 ) 。また,組織構造の他にも,金 銭的報酬の効果は,組織 メンバーの意思決定環境 (とくにタスク特性)の違い によっても異なることが明 らかにされている( 梶原 ・谷 ,2 0 02 ) 。このように, 報酬 との リンケージについては,意思決定環境や組織構造を含む昨今の変化 の著 しい環境要因が業績評価システムに及ぼす影響について注視 してい く必 要がある。
3. 2 戦略的な業績指標 先行研究における論点
戦略的な業績指標は,BSCの 4 つ視点に関連 して先行研究では扱われて いる。 組織 メンバーの意思決定 ・行動および結果を多面的に測定するために, 財務指標 に加え,複数の非財務業績指標の選択がなされてきた。戦略的な業 績指標 とは,このように,業績指標の多様性が増す ことを意味 している。さ らに,戦略的な業績指標 には,業績指標間の因果関係 もある。業績指標の多 様性および指標間の因果関係の議論 は,コンティンジェンシー理論に依拠 し
てお り,競争戦略および組織構造 との関係に焦点が当て られている。
業績指標の多様性について,Ba i ne sa ndLa ngf i e l d‑ Smi t h( 2 003 ) は,( 1 ) 差
別化戦略へのシフ トが高度な管理会計システムの導入を促進 し,( 2 ) 高度な
管理会計システムの導入が,非財務業績指標の採用 を促進するという因果関
係を明 らかにしている。高度な管理会計システムの導入が,なぜ非財務業績
評価指標の採用を促進 させるかについては次のように説明できる。例えば,
ABCが単なるコス ト計算ではな く,顧客価値の向上 に貢献 した り,原価企
画がコス ト低減だけでな く,高いレベルの品質,納期を同時達成 させるよう
に組織 メンバーをコン トロールするな ど,高度な管理会計システムは,伝統
的なもの と比べ,顧客満足 に不可欠な差別化要因に組織の関心を向けさせる
からである。
一方,起業家型戦略に分類 される組織で も,多様な業績指標を有 している という結果が示 されている ( Bo uwe nsa ndAbe r ne t hy,2 0 0 0 ) 。 このことは, 必ず しも高度な管理会計システムの導入を介さず とも多様な業績指標を保有 する傾向にあることを示唆 している。同様 に,起業家型戦略の組織は,業績 指標の多様性を高めることの他に,業績指標間の因果関係を重視するという 結果 も示 されている ( Ma l i naa ndSe l t o,2 0 0 4 ) 0
次に組織構造に関 してである。組織構造の違いが業績評価システムの設計 に影響を及ぼす というのは管理会計研究の共通認識である。 これまで主に, 組織構造おける組織の分化 と統合の側面 ( La wr e nc ea ndLo r s c h,1 9 6 7 ) と機 械的か有機的かの側面 ( Bur nsa ndSt a l ke r ,1 9 6 1 )が着 目され,経験的証拠 の蓄積がなされてきた。例えば,職能別組織に関 しては,( 製造 と比べ)マー ケテイングや研究開発 といった組織のなかで も相対的に高い環境不確実性に 直面 している部門は, より広範な管理会計情報を重視する傾向にあることが 明 らかにされている ( Br o wne l l ,1 9 85;Cho ng,1 9 9 6;Mi aa ndChe nha l l , 1 9 9 4 ) 。 同様 に,有機的組織は,機械的組織 に比べて,広範で未来志向な管 理会計情報を重視 していることが明 らかにされている ( Co r do na ndNa r a ya ‑ na n,1 9 8 4 ) 0
組織構造の一形態 としてチーム組織について先に述べた。業績指標の多様 性はチーム組織 とも関係 している。厳 しい競争環境の もと,QCDのますま す高いレベルの達成が市場か ら要求 されるなかで,顧客対応のスピー ドとク オ リティの両面を改善するため,チーム組織で対応 しようとする企業が増え ている 。Sc o t ta ndTi s s e n( 1 9 9 9 ) は,部門内チームおよび部門横断チームに 着 目し,それ らチーム組織 と業績指標の選択 について考察 している。そこで は,チーム組織の採用が財務指標だけでな く非財務指標を含む より包括的な 業績指標の選択 と正に関係 していることが示 された 。Ba i ne sa ndLa ngf i e l d‑
Smi t h( 2 0 0 3 ) では,チーム組織の採用が非財務業績指標の採用を促進 させる
という因果関係が明らかにされている。 この ように,チーム組織 も業績指標
の多様性を促進する規定因である.
検討課題
第 1 の課題は,業績指標の多様性 および指標間の因果関係に影響 を及ぼす コンテクス ト要因の拡充である。先行研究のなかで業績指標の多様性 を高め るコンテクス ト要因 として取 り上げ られたのは,競争戦略 とチーム組織 を含 む組織構造 であった。因果関係に関 しては,競争戦略のみであ った。他 にも
コンテクス ト要因 としては,意思決定環境がある。 コンティンジ ェンシー理 論 に依拠 した管理会計研究で広 く一般的に取 り上 げ られる変数 である0
意思決定環境 と業績指標の多様性 は,組織は意思決定環境の不確実性 を低 減 させ るために,情報 システムの強化 によ り組織の情報処理能力を向上 させ る とい う情報処理パ ラダイム ( Ga l br a i t h,1 9 7 7 ) の観点 か ら捉 えることがで きる。不確実性の高い競争環境の もとの もと,あ らゆる意思決定の予測が困 難な状況に企業は直面 している。企業が,その ような環境の ともで,業績評 価システムのなかに非財務業績指標 をより多 く組 み込み多様性を高め ようと するのは,環境の不確実性を吸収 しようとするか らである。 この ように,莱 績指標の多様性 に影響 を及ぼす コンテクス ト要因 として意思決定環境は見逃 せない。
情報処理パ ラダイムに基づ く不確実な意思決定環境への対応は,業績指標 の多様性だけではない。指標間の因果関係を重視することで も対応可能であ る。 とい うの も,成果報酬システムでは,最終成果である財務業績 を強 く意 識 される傾 向にあるため,組織は,不確実な環境 において も財務業績 までの 因果経路を非財務業績指標 によりで きる限 り明確 に しようとすか らである。
この ように,業績指標 の多様性 とともに,業績指標問の因果関係 をいかに構 築するか とい うことも,戦略遂行において重要な設計課題である。
チ ェンジ研究の観点か らする と,業績指標の多様性および業績指標間の因
果関係 を,意思決定環境 との関係か ら検討することが求め られる。
第 2の課題は,業績指標の多様性 と業績指標間の因果関係における トレー ドオフの問題 と関係 している。 コンテ ィンジ ェンシー理論によれば,意思決 定環境の不確実性が高 まるほ ど,差別化あるいは探索型の戦略が重視 される ほ ど,そ して,有機的組織あるいはチーム組織へのシフ トが進むほど,業績 指標の多様性が高まることになる。 しかし,業績指標が多過 ぎて も,それ ら 指標間あるいは戦略 との整合性が損なわれる恐れがあ る。業績指標の多様性
と指標間の因果関係 に対 して,組織は どち らを優先するのか,あ るいはどの ようにバ ランスを とるのか重要な課題である。 さらに,多様性 と因果関係 と の トレー ドオフが,組織の コンテクス ト要因 よって, どの ように異な り変化 す るのか,そして組織成果にいかなる影響を及ぼすのかは,業績評価システ ムのチ ェンジの実態 を解明する上で重要な点である。
3. 3 業績の評価方法 先行研究 における論点
業績の評価方法は,組織 メンバーの意思決定 ・行動 に影響 を及ぼし,報酬 額 を左右する重要な課題である。業績評価の方法 として,Cho we ta l . ( 1 9 9 4 ) は,管理可能性原則 と相対的業績評価の 2 点を取 り上げている。以下, これ
ら2つに関 してそれぞれ検討する。
管理可能性原則は,管理者の権限の もとにある管理可能な業績 についての み評価すべ きである とする原則である。組織 メンバーの評価の公平性や個 乍 人のモチベーシ ョンを維持するためには,業績評価の設計において管理可能 性原則は看過で きない。そのため,成果報酬システムに関する多 くの先行研 究で も管理可能性の概念が扱われている ( At ki ns o ne ta 1 . ,1 9 9 7;Ba i ma n ,
1 9 9 0;Fr o we ta 1 . ,2 0 0 5;I t t ne ra ndLa r c ke r ,2 0 0 2 ) 0
しかし,管理可能性の概念は変化 してお り,その適用 も多様化 している。
Si mo ns( 2 0 0 5 ) は,管理者 の権限 と責任 を最適化す るこ とに よって高業績が
実現する と主張 した。 この最適化のためには,管理範囲,責任範囲,影響範
囲,支援範囲の 4 つの範囲を検討す ることが有効 である とい う。 ここで,管 理範囲は管理者 に権限を委譲する経営資源 ( 人材,資産,インフラな ど)の範 囲であ り,責任範囲は評価基準の範囲である。影響範囲は他部門や他の組織 メンバーの仕事 に影響を及ばず範囲であ り,支援範囲は周囲か らの援助の程 度である。
Si mons( 2005 ) は,組織 メンバーの創造性 と起業家行動 を引 き出すために は,責任範囲を管理範囲 よ りも広 くする必要があることを指摘 している。 こ の ことは,管理可能性原則 に意図的 に反 したコン トロールを意味する。同様 に,Fr o w e ta l . ( 20 05 ) で も,管理者が管理可能性の欠如 を積極的な挑戦の機 会 と捉 える場合があることを指摘 している 。At ki ns o ne ta l . ( 1 9 9 7 )は,管理 可能性原則 によって,管理者の創造的な行動が抑制 され,組織 におけるイノ ベーシ ョンが減 る可能性 を示唆 している。
次に,相対的業績評価 とは,組織 メンバーを評価する際,同様 の不確実な 環境 に直面する他の組織 メンバー と比較 した うえで,当該組織 メンバーの業 績を評価する方法である。それに対 し,組織 メンバーがおかれた環境の不確 実性に関わ らず,管理不能要因を含んだまま組織 メンバーの業績 を評価する 絶対的業績評価 もある。評価 される側の組織 メンバーか らしてみれば, 自ら の管理不能な要因に考慮 した業績評価を望むのは当然である。従 って, とく に,不確実性の高い環境 においては,相対的業績評価が有効である といわれ ている。Ma l i naa ndSe l t o( 2 0 0 1 )は,BSCの指標 を用いて組織 メンバーのモ チベーシ ョンを高めるのに相対的業績評価が有効である と論 じている。 しか し,相対的業績評価は,費用対効果の観点か らして も常 に効率的ではない。
そ こには,組織 メンバーがおかれていた状況や同僚 と比較 す る際 に用 いる
データの入手が困難な ことや収集 されたデータの正確性 に問題 がある と指摘
される( 西居,2 00 5 ) 。 また必ず しも相対的評価が,管理可能性原則 に依拠 し
て消極的に利用 されるわけではない。例 えば,外部のベス トプラクティス と
相対 させて業績 を評価する外部ベンチマーキングの活用は, より高い 目標の
達成 に効果的である といわれている ( Ka p l a na ndNo r t o n,1 9 9 6 ) 0 検討課題
以上の論点は,日本企業が活用 している成果報酬システムにも当てはまる。
日本企業 における成果報酬システムには,競争の激化 とともに,戦略の実現 に向けて組織 メンバーの創造性 を高め るこ とが求め られ るようになってい る。そのため,管理可能性原則を遵守 しそのまま適用するのではな く,組織 メンバーが管理可能 な部分を超える責任 を負わされている場合が多い。 しか しこの場合は,管理者の創造的活動が期待で きる反面,その分, 目標が十分 に達成で きな くなる とい うリスクも高 まるだろう。成果報酬システム として 重要なのは,その リスクに見合 ったベネフ ィッ ト( 報酬)が与 えられているか, また,達成で きなかった場合 どの ように対処す るかである。十分な報酬が与 え られなければ,組織 メンバーは努力を怠 るだろうし,反対 に著 しい減給だ とリスクテイクを控 えた りもする。従 って,業績評価の設計が適切になされ ていない と,組織 メンバーの当該システムに対する不満を煽 るだけである。
相対的評価は,組織 メンバーのそれぞれおかれている状況を加味 しするこ とで,メンバーの不公平感を抑制で きる一方で,その ような相対的評価によ って報酬格差がつかな くなるとい う逆機能は, 日本企業では よくある失敗事 例の一つである。先の相対的評価の非効率性の問題 と合わせて考 えると ,( 1 ) 相対的評価だけでな く,絶対的評価 と組み合わせ るのが現実的であること,
( 2) 組織 メンバーの公平感や費用対効果だけでな く,戦略性 を重視するな ら ば,外部ベンチマーキングを活用するのが有効であるかも知れない。
しか し,以上の議論 は,必ず しも経験的に明 らかにされているわけではな
い。先行研究 も規範論 として とどまっている。チ ェンジ研究の観点か らする
と,管理可能性原則では,組織内外の環境 に応 じて,管理者の責任範囲 と管
理範囲の大小関係が どの ように変化す るのか,それ ら範囲の設定 が組織成果
にいかなる影響を及ぼすのか,相対的評価 について も同様 に,それに影響を
及ぼすコンテクス ト要因,組織成果 との関係の解明が求め られる。
4. システム利用面
戦略創発のためのシステム利用
梶原 ( 2 00 1 )は,マネジメン ト ・コン トロール としての成果報酬システムに 着 目し,その 目的は,報酬により組織 メンバーのインセンティブを高めるこ とで,戦略を効率的 に実現することであるとした。戦略の実現に対 して,先 行研究では,予算管理システム ,BSC ,プロジ ェク ト管理システム,新製品 開発のための各種マネジメン トツールな どのイン ター ラクテ イブ ・コン ト
ロール ( Si mons, 2000) の有効性が実証 されてきた ( Aber ne t hyandBr owne l 1 , 1 999;Bi s beandOt l ey,2 004;Davi l a,2000)3
0インターラグティブ ・コン トロール研究の対象 として,例えば,予算管理 システムが着 目されているのは,( 1 ) 予算が企業の中長期の利益計画や戦略 と直結 した管理会計システムの代表格である , ( 2) 予算管理の一連のプロセ スを通 じて トップか らミドル,さらにロワー とあ らゆる階層の組織 メンバー が関与する,そ して, ( 3) 予算 目標達成のためには,上司 と部下 といった組 織階層間でのインターラクシ ョンが鍵になる,か らである。 これ ら 3 つの点 から同様 に BSC も,戦略を反映 した多様な業績指標が設定 されているため, 戦略遂行に不可欠な情報がそこに集結することが想定される 。Si mons( 2000) も, BSC について, イン ターラクテ ィブ ・コン トロールの対象 として有効 なツール と捉えている。
Si mons( 2000) は,報酬システムな どの業績評価 システム もインターラク テイブ ・コン トロールのために管理者によって選択 されるシステムの一つで あることを示唆 している。 しかし,インターラグティブ ・コン トロールにお
3
当分野 に関する詳細な レビューに関 しては,相原 ・近藤 ( 2 0 0 4 ) を参照 されたい。
いて報酬 を明示的に扱 った実証研究は皆無である。報酬システムについては これまで,組織 メンバーのオペ レーシ ョナルなレベルでのモチベーシ ョンの 向上が第一で,戦略 との リンケージあるいは戦略 目標の達成が強 く求め られ ることがなかったか らであろう。
しかし,本稿で着 目している業績評価システムは,戦略を反映 した多様な 業績指標の もと,成果 と報酬を連動 させることで戦略を有効に実現すること が重視 される。従 って,成果報酬システムな どの業績評価システムについて
も,管理者 によって,予算管理システム, BS C な どと同様 にイン ターラク ティブ ・コン トロール として選択 される可能性は決 して低 くない。さらに, 目標管理制度を利用 した公式な場は,上司 と部下 とのインターラクシ ョンに も適 している。 インターラグティブ ・コン トロールが機能する場 として,こ れまでにも,予算編成会議,原価企画会議な ど公式の会議体が取 り上げ られ て きた( 谷 ,1 9 9 2; 谷ほか ,1 9 9 3 ) 。従 って,インフラ面か らして も,成果報 酬システムがインターラグテイブ ・コン トロール として利用される余地は十 分にあると考 えられる。
先行研究の論点
インターラグテイブ ・コン トロール研究では,コンティンジェンシー理論 に依拠 し意思決定環境,競争戦略がコンテクス ト要田 として取 り上げ られて きた。意思決定環境 について,Da vi l a( 2 0 00 ) は,医療機器 メーカーの製品開 発マネジャーを対象に,製品開発プロジェク トを とりま く市場 ( 技術) 環境の 不確実性を取 り上げた。結果,意思決定環境の不確実性が高まる と,開発計 画悼報,顧客情報,予算情報,開発成果情報,製品原価見積,収益性情報 と いった製品開発関連の情報システムがインターラグテイブ ・コン トロールに 利用 される程度が高まることを明らかにした。
一方,競争戦略については,探索型 か防衛型の戦略の違いが,ある特定の
情報システムをインターラクティブ ・コン トロールに利用するか否かのコソ
テクス ト要因 として取 り上げ られている。 Abe r ne t hya ndBr o wne l l ( 1 9 9 9 ) で は,探索型戦略を とる組織は,防衛型の組織 と比べて,予算管理システムを インターラクテ イブ ・コン トロールのために選択 していることが発見 され た。 このことは,戦略の変化の程度が大 きい探索型の組織では,インクリメ ンタルな戦略の創発が要求される一方で,戦略の変化の程度が小 さい防衛型 の組織 では, イン ク リメン タル な戦略創発 の依存度 は小 さい とい った, Mi l e sa ndSno w( 1 9 7 8 ) の組織の環境適応モデルを反映 している。
検討課題
チ ェンジ研究の観点か らすれば,業績評価システムのいかなる設計がイン ターラグティブ ・コン トロールに利用 される傾向にあるのかが主な課題 とな る。
業績評価システムのシステム設計面 とインターラグティブ ・コン トロール との関係については ,Si mo ns( 2 00 5) の権限 と責任の議論が参考 になる。管 理範囲 よりも責任範囲を広 く設定することで,管理者の戦略的な行動を刺激 することがで きることは先にも示 した。加えて,責任範囲は,組織階層 とも 関係 し,一般的には,上位階層はど責任範囲は広 く,下位階層は ど責任範囲 は狭 くなる とい う。 また, . Si mo ns( 2 0 05 ) は,責任範囲に合わせて設定 され る業績指標 にも違いがあることを指摘 している。例 えば,責任範囲が狭い場 合は,費 目別予算によって与えられた特定業務のための予算数値が,逆に広 い場合には市場シ ェア,顧客満足度,使用資本利益率などが,業績指標 とし て使用 されることを想定 している。具体的な業務の 目標数値 よりも,市場シ ェ ア〇〇% ア ップや顧客満足向上 といった業績指標の方が,管理者の戦略的 で,知恵を絞 った行動が 目標達成には求め られるか らである。
ここか ら示唆されるのは,成果報酬システムがインターラグティブ ・コン
トロール として利用 されるかどうかは,管理者の管理範囲 と責任範囲が どの
ように設定 されているか ということと業績指標の選択に依存するということ
である。いずれにして も,業績評価システムのシステム設計面 とインターラ クテ ィブ ・コン トロール との関係について,経験的な証拠は持ち合わせてい ない。そのための実証研究が望まれる。
第 2は,システム利用の 目的に関 してである。 インターラグテ イブ ・コン トロール に関する先行研究では,情報システムのインターラグテ イブな利用 の側面 しか着 目されて こなかった。 しかし,先 にも述べた通 り,成果報酬シ ステムにおいては,戦略 との リンクが強化 されるに従い戦略創発が期待 され ているとはいえ,業務改善 ( または人材育成)は, 目標管理や方針管理 におけ る従来か らのメイン タスクである。企業 によっては,戦略創発 とい うよりも, 業務改善や人材育成 をより強化 させ ようとするかも知れない。従 って,業績 評価システムが, ( 1 ) 業務改善 ( または人材育成)目的のみに利用 されるのか,
( 2 ) 戦略創発 目的のみに利用 されるのか,それ とも ( 3) 二者択一ではな く併用 されるのか, とい う選択 に関す る問題が起 こる。システム利用 に関するこれ ら3つの選択パ ターンは,先 に示 したシステム設計の影響 を受けるかも知れ ない し,当該企業のおかれた状況に依存するかも知れない。 これ らの問題の 検討がシステム利用 におけるチ ェンジの解 明につながるであろう。
第 3 は,Si mons( 2 000) が示す理念システム と境界システム との関係であ
る。成果報酬システムを活用する日本企業 において,厳 しい 目標のもと,短
期的に成果をあげることが求め られ るだけでな く,さらに成果に報酬が リン
クすることで,組織 メンバーにはプ レッシ ャーが重 くの しかかる。昨今, 冒
本企業で品質問題が危ぶまれている。 もし,成果報酬システムが適切に設計
され,運用 されているな らば,その ような問題は発生 しないだろう。品質問
題 をは じめ 日本企業が直面 している経営危機は,Si mons( 2000) が示す企業
の理念システム と境界システムがそ もそ も整備 さていないのか,それ とも成
果報酬システムの影響があま りにも大 き く,理念 ・境界システムの効果を阻
害 して しまってい るのか, とい うこ とが考 え られ る。Si mons( 20 0 0) は,マ
ネジメン ト ・コン トロール としての情報システムは,理念 ・境界 システムの
もとで活用 されるべ きである と主張する。成果報酬システムの利用面を検討 する際は,理念 ・境界 システム との関係,いわば コン トロールの多重性を想 定する必要 もあるだろ う。
5 .組織成果への影響
業績評価システムのチ ェンジが進んで も,必ず しも組織成果が改善 される という保証はない。業績評価システムのチ ェンジが進行する反面,期待 され た成果をあげていない企業 も少な くない。む しろ,近年の 日本企業 において は,とくに成果報酬システムの問題点や逆機能が指摘 されることの方が多い。
この ように,業績評価 システムのチ ェンジ と組織成果 との関係は看過で きな
い 。
組織成果 には,財務成果の他に,組織 メンバーの意思決定および行動 レベ ルでの成果が含 まれる。財務成果に関 しては,近年 ,非財務業績指標が財務 成果 に及ぼす影響 について管理会計研究者の関心が多 く寄せ られいている。
以下,財務成果および意思決定 ・行動のそれぞれについて個別 に検討する。
5. 1 財務成果
I t t ne ra ndLa r c ke r( 1 9 9 7 a) , I t t ne ra ndLa r c ke r( 1 9 9 7 b), I t t ne re ta l . ( 1 9 9 9 ) ,
I t t ne re ta l . ( 2 0 0 2 ) では,非財務業績指標 によって把握 される業務 プロセスの
組織的な取 り組みが財務成果に与 える影響が検討 されている。業種な どによ
り影響関係に違いは見 られるが,いずれの研究において も非財務業績指標 を
用いた業務プロセスの組織的な取 り組みが財務成果 に有意な影響 を与 えてい
ることが解明されている 。Ba i ne sa ndLa ngf i e l d‑ Smi t h( 2 0 0 3 ) では,非財務
業績指標 の採用が財務成果の改善を促進 させ る とい う因果関係が明 らかにさ
れている。以上の研究では,業績評価システムを直接取 り上げていないが,
財務成果 に及ぼす非財務業績指標の影響が示 されている。
I t t ne ra ndLa r c ke r( 1 9 9 7 C ) では,品質に関する非財務業績指標 にウ ェイ ト をおいた業績評価システムが財務成果に負の影響を及ぼす ことが明 らかにさ れている。この ように,非財務業績指標の選択 と財務成果 との関係について, 一貫 した解析結果は得 られていない。さらに,非財務業績指標の選択がなぜ, どの ようにして財務成果に正または負の影響を及ぼすのかに関 して十分な議 論の展開は難 しい。 この点に関 して,業績評価システムの設計面だけでな く
システム利用面 か らのアプローチが有効 かも知れない。
5 . 2 意思決定 ・行動
業績評価システムのチ ェンジが組織 メンバーの意思決定 ・行動 に及ぼす影 響については, 日本企業における成果報酬 システムの問題 ・逆機能か ら探 る ことがで きる。加登 ( 2 0 0 4 ) は,成果報酬システムの問題 ・逆機能 について, 目標管理の不備,報酬のあたえ方か ら指摘 している。 目標管理の不備 に関 し ては,多 くの企業 において,( 1 )財務 ・非財務指標の安直な羅列 ,( 2 ) 複数 目 標 に関す る悪意的なウ ェイ トの設定 ,( 3 ) 評価 における上司による主観的判 断, ( 4) 個人評価 とグループ評価の窓意的なバ ランスの設定,な どか ら,成 果報酬 システムが機能 す るための前提が崩壊 してい る と警鐘 を鳴 らしてい る。 これ らの問題 か ら推察 されるのは,例 えば,業績指標間の リンケージが 戦略遂行 に対 して不明確なために,組織 として一貫 した戦略行動が とれなか った り,部下が上司の顔色を過度に うかがった り,部下が都合の悪い情報を 上司に提供 しな くな り情報格差が増 した り,グループ業績の評価が暖味なた め機会主義的行動 にでた りすること,である。
報酬のあたえ方 について も,実際,人件費圧縮のツール として しか使われ
ていなかった り,業績 をあげて もほ とん ど格差のつかない給与体系になって
いるケースが多い とい う。 これでは,達成 した業績 に対 して報酬 を与 え,組
織 メンバーのモチベー シ ョンを向上 させる とい う成果報酬システム本来の 目
的が十分達成 されない。
これ らの問題点 ・逆機能は, 業績評価システムの設計面か らだけではな く, システム利用面から生 じるかもしれない。 Mar gi ns on( 2002) では,インター ラクテ ィブ ・コン トロールが同僚の戦略行動 を阻害す る機会主義的行動 を ケースのなかで観測 している。 しか しなが ら,業績評価システムの設計面お よび利用面 と上記の意思決定 ・行動 との関係について,経験的証拠 を十分持 ち合わせていない。
6.おわりに
本稿では,まず,( 1 ) 業績評価システムのチ ェンジの概念について概説 し, ( 2) 業績評価システムを構成するシステム設計面 とシステム利用面について 先行研究に基づ き知見を整理 し,チ ェンジ研究に向けた課題を提示 した。 さ
らに , ( 3) 組織成果 との関係について も同様に考察 した。
以下,業績評価システムのチ ェンジ研究の方向性を提示することで本稿の 終わ りとする。第 1 の方向性は、業績評価システムのチ ェンジがインセンテ ィブ と戦略遂行を促す条件の解明である。業績評価システムのチ ェンジがイ ンセンティブ,戦略遂行の 2つの機能を果たす方向に進むためには, ( 1 ) 莱 績評価システムの報酬への リンクにおけるチ ェンジ、 ( 2) 業績指標の選択に おけるチ ェンジ , ( 3) 業績の評価方法 におけるチ ェンジ , ( 4) 業績評価システ ムの利用におけるチ ェンジ,の 4 つの要素におけるチ ェンジ間でのフイット が問題になる。先行研究では,業績指標の多様性 と業績指標間の整合性,管 理可能性原則 とイノベーシ ョン,不公平感 とインセンティブ強化などの複数 の トレー ドオフ関係が指摘 されている。業績評価システムのチ ェンジによっ てこれ らの トレー ドオフ関係がいかなる適合性をもって対処 されるかの検討 により,業績評価システムのチ ェンジ と組織成果 との相互関係に関する豊か な知見を得 ることが期待で きよう。
第 2 の方向性は,業績評価システムのチ ェンジの実証研究q )ための分析モ
デルの開発である。 ‑前節までの議論では,業績評価システムのチ ェンジ一般 に影響を与える要因を検討 してきた。 しかし,システム設計面お よびシステ ム利用面のチ ェンジを一貫 して説明できる分析モデルないため,その開発が 求め られる。一方,企業個別の業績評価システムのチ ェンジのプロセスの詳 細は,企業横断的な大量サーベイだけでは限界があ り,定性的な調査,分析 が求め られる。 この点,近年の管理会計チ ェンジ研究
4では,制度論的パー スペクテ ィブ ( Bur nsa ndSc a pe ns ,2 0 0 0 ) に基づ くチ ェンジのプロセスを対 象にした経時的なケース研究に関心が寄せ られている。業績評価システムの チ ェンジが進行するプロセスに関する洞察により, 意思決定環境のチ ェンジ, 企業の戦略のチ ェンジ,組織のチ ェンジ,業績評価システムのチ ェンジの動 的な関係の検討が可能になる。
第 3の方向性は,わが国における業績評価システムのチ ェンジ一般の実態 解明である 。Sul a i ma na ndMi t c he l l ( 2 0 0 5 ) は,管理会計チ ェンジの 5 つの分 類を示 した( 表 1 ) 。彼 らが示す分類は,業績評価システムにも当てはめるこ
とがで きる。本稿で取 り上げた成果報酬システムを中心 とした業績評価シス
表 1 管理会計チ ェンジの分類
追加 管理会計 システムの拡張 のための新 システムの導 入 ( 例 :非 財務業績評 価パ ッケージ,品質原価計算 システムな どの初 めての導入)
入替 既存 の管理会計 システム との取 り替 え としての導 入 ( 例 :伝 統的原価計 算 と ABC との入替 ,固定予算 とフ レキシブル予算 との入善 )
出力改善 管理会計 シ ステムの情報 出力の改善 ( 例 :差 異分析 の結果 を月次 か ら週 次報告 への変更,定量的情報 をグ ラフ ィカル に表現 す るように変更) 運用改善 管理会計 シ ステムの運用 の改善 ( 例 :既存 の原価計算 システムの も とで
実際の配賦率 を使 うのではな く予定率の利用 に変更,固定費 と変動費 の 分類 を見積ベースではな く回帰分析 を利用 す るように変更)
廃 止 入香 を ともなわない管理会 計技 法 の廃 止 ( 例 :予算制度 の廃 止 ,損益分 岐点の休止)
S u l a i ma na n dMi t c h e l l ( 2 0 0 5 ) ,p. 4 2 6 を一部修正
4