143
デザインにおける色彩学習の原点
米 田 明 生*
(昭和55年10月31日受理)
AStudyontheOriginofColorStudy
in Design Education
Akio YONEDA
(Received,October31,1980)
1.はじめに
多くの離島を有する長崎県は,地域による教育的較差をなくする意図をもって,昭和52 年より本島と離島,都市部と周辺部での教員の広域人事交流を実施してきた。そのため諸 種の条件や規則を定めた行政措置によって本年度(昭和55)は,最初の交流者がもとの地 域にもどってきた。人事交流によってもたらされる本来の教育的効果や意義は未だ今後に のこす問題も多いと思われるし,また一方的に,しかも三年間の教員の交流だけが地域較 差や教育の均等化につながるのかと言う疑問など当然であろう。このような各種の問題は 別にして,交流者から等しく聞かれることは本島と離島,都市部と周辺部の生徒の質のち がいであった。これを美術教育についてみるならば,とくに色彩感覚,色彩の色数の豊富 さと言う点に顕著にあらわれていると思われる。その一例として北高来郡から長崎市に赴 いた中学校教師は,「トニカク生徒の作品の色の豊富さにびっくりした」と言う。当面の人 事交流はこの逆の感慨も必然に生じさせることと思われる。しかしこのような地域較差を,
生徒の生活環境や各種の教育条件の相違によるものと,半ば当然視しながらも,その要因 のメカニズムとそれらをもととした学習へのアプローチは追求されなければならないだろ う。けれどもその要因とて予想の域を出ず,細部についてなお多くの不明な点を有して いると思われる。湯本信夫(1)は似たようなケースを理科の問題で行っているが,いずれも較 差の要因と傾向をみることによって学習指導に多くのヒントを得ようとするところにかわ
りはない。即ち美術教育における生徒の色彩への関心と感覚練習など,重要な関わりをも つとともに,指導上多くの示唆を含むものとの考えに基づき本研究を行った。そのため都市 部と郡部の生徒を研究の対象として選び,彼らの色彩への興味・関心,色彩やデザインヘ の意識などを把握するための調査を行ったのでその結果を報告する。
*長崎大学教育学部美術科教室
2.調査方法
都市部と郡部の生徒の色彩,デザインに対する関心と意識の様相を調査するため,対象 として選んだのは長崎市立緑ケ丘中学校と南高来郡国見町立国見中学校である。前者は大 規模校に属するがあらゆる意味で長崎市内の平均的な中学校である。後者の位置する国見 町は島原半島の北東部の有明海に面する人口1万2千余の町で,世帯数の6割ちかくが農 漁業者(昭和50年国勢調査)である。またこの学校は長崎県が指定するへき地級地でもな
く,近隣に島原市をひかえた都市周辺地の学校として選定した。
調査はこの二校の1年生徒へのアンケート調査とし,各質問に対して「ある」,「ない」,
r少しある」のような用意された答を選ばせ,特別な理由等ぽ文章で記述させた。なお調 査の実施時期は昭和55年6月から7月である。
3.結果と考察
結果の集計は都市部の生徒206名,郡部の生徒163名に対して行った。
①色彩への興味・関心とその時期
表1 色彩への興味・関心について
口
ノ¥
彩への興味・関心
かけの場
Aある B少しある Cない
a 家
ま 図 そ
ノゴ
/j 中 お 都市部 23/22
22
49/55 52
28/23 26 郡 部 8/16
2
46/51 48
46/33 40
a b C d
都市部 20/16 18
35/28 32
40/49 44
5/7
6
46/40 43
2/43
心の時期
a b C d
都市部 14/10 13
61/54 57
11/15 13
14/21 17 郡 部 14/13
13
32/40 37
22/17 19
32/30 31
習への積極性 ㈱
a b C a b C
都市部 53/60 57
8/46
39/36 37
33/18 26
12/69
59/76 65
郡部 29/4739
3/33
68/50 58
23/31
27 23/6
16 54/63
57
圖 %
家庭で
まちやデパートなど 図工や美術の授業 その他
小学3・4年 小学5・6年
中学生になって おぽえていない
a 知りたいと思う b 知りたいと思わない c どちらでもよい
同率であり,これには女子が大きな要素をしめていることも注目してよいであろう。おそ らく近隣の島原市などでの体験がそのきっかけの場となったものと思われる。
一方都市部では,c・図工や美術の授業で,b・まちやデパートで,a・家庭での順に明確 な差があらわれているが,これには男女のうけとめ方にかなりの差があることが興味ぶ かい。つまり男子は,まちやデパートと家庭での契機がいずれも女子より高率であり,さ
らに図工や美術の授業と大差はない。これに対し女子は図工や美術の授業とするのが圧倒的
に1 くおよそ半数がこれに属する。これを元の人数の比でみれば都市部の女子の38%は授 業が契機となったことになる。男子はこの傾向に反して学校の授業より外的な刺激に敏感 に反応してこれが契機の場となった要素が大きいことをあらわしている。しかし郡部では 同様な傾向は家庭での契機にとどまり,まちやデパートでの契機は女子が大きく男子を上 まわっている。即ち郡部の女子は学校の授業の次にかなり大きな要素でまちやデパートを 敏感にうけとめていて,全体の傾向は都市部の女子と同じパターンを示していることがわ かる。(図1)
これらの現象は今後とも継続しながら,また多角的に分析しなければならないが重要な ことは男女の意識やその差異にとどまらず,色彩,デザインの教材とその取りあげ方に多 くの示唆をもつものと思われる。
さて,このような色彩的関心をよぶきっかけの時期はいつごろはじまるのであろうか。
表1・ハがその結果である。この表にあらわれていることは子どもの発達やさらには発達 課題とも深く関わる問題であり,さらに多方面での検討を要することも多いと思われる。
そこでこの表にしたがってその傾向をみるために図2を得た。これによれば,都市部も郡
(%)80
50
13
!〜\
! 、
/ / ! / ! !!
!
部部市
都郡
\一一N一/
!
4小学・年 3 6小学・年 5 中学生になつて おぼえていない
図2 色彩にはじめて関心をもった時期
147 デザインにおける色彩学習の原点(米田)
部もともに小学3・4年には13%の同率の関心であり,つづく小学5・6年に最高を示し,
順次下降する傾向であることがわかった。ただ都市部に比し郡部の生徒は,小学5・6年 の最高値が都市部より著しく低くその差は20%になる。そのうえ中学では都市部より高率 を保っていることで明らかに郡部では多くが中学校へずれ込んでいる。つまり発達の傾向 は同じパターンが見られるものの,両地域にみる発達の差は顕著であることがわかった。
これを表1・イとの関係でみれば,都市部では52%の生徒が既に小学校の時期に色彩につ いての何らかの興味や関心を得て中学に入学しているのに対して,これが郡部では30%
にしか達していない。また郡部ではまだ40%が色彩的関心をもったことがないとしているか ら色彩関心の時期は中学校入学後に,少なくとも1年の2学期以後にひき続きもち越され るものと解される。図2はこのことをよく示しているし,較差の第一の要因ともみられる。
図2の通り色彩的関心の高位を示す小学5・6年は,子どもの発達の一般的傾向とも一 致して興味深い。即ち身体的には年間発育量の最高の年令にあたるし,また服装や持ち物 に気をつけるいわゆるおしゃれ心の芽生える時期(2)とも符合するとともに,他律から自律 へと質的転換のたかまるときでもある。これらの時期が小学5・6年とほぼ時を同じくし ていることは,とりもなおさず,この時期の美術教育が大きな要因となるばかりか,それ 以後に及ぽす重要な位置をしめると思わざるを得ない。何故ならば先の表1・ロによって,
色彩関心のきっかけの場が他ならぬ図画工作の授業であったことを考え合わせれば,小学 校での美術教育の重要性を改めて認識せざるを得ないものである。この考えに基づけば,
必要なことは小・中学校の教育の連携プレーであり,小学校・中学校を通しての教育の一 貫性こそが真に重要な課題と思われる。このことからみれば,教員の人事交流も横レベル にとどまらず,縦のレベル,すなはち小・中学校の交流も合わせて必要なことと思われる。
現実は免許その他の関係で必ずしも容易ではないが一考に値する問題であろう。
次は色彩への興味・関心をもったことがある生徒と,もったことがない生徒へ同じ質問 をした結果の考察である。表1・二と(ホ)がこれを示す。質問内容は「今後,色の性質 やつかい方(調和)について,もっとも知りたいと思いますか」に対して興味をもった組 が,もたない組に比して高率で「思う」と積極的な構えであることは注目してよい。この 積極傾向は都市部がより顕著で57%であり,特に女子は60%の多くを占め,色彩学習への 意欲を示している。これに対して,興味を持たなかった組は20%台に留まり,逆にどちら でもよいと言う成りゆき傾向が半数を越えて高率であった。(図3)
これを全体の人数の比でみれば,中学1年1学期の時期まで都市部でも約17%の生徒は 色彩に関心をもったことはなく,しかもなりゆき傾向を示し,郡部では同じく23%,つま り1クラスの4人に1人弱の生徒がこれに属することを意味する。この点では教師のきめ 細かい導入と指導の余地が多く残されていることをあらわしていると思われるものである。
またこの興味をもたなかった組で目をひくことは,都市部の男子が同じ女子より高い率で 積極性を示し,逆に郡部では男子より女子が積極傾向を示していることである。さらにこ の組で郡部の男子がきっぱり「…知りたいとは思わない」と23%をマークしていることで あろう。とりわけ,この欄の男女合計比を全体の人数の比で都市部との比較をみれば,都 市部が2.3%に対して郡部では6.4%となり,わずかな数値となる。しかしこのことは,郡 部では都市部に比し3倍の新たな美術嫌いか,もしくは消極的なおちこぼしを生む要素を
(%)60
30
都市部
知りたいと思う 知りたいと思わない どちらでもよい
関心をもったことのある組囲 関心をもったことのない組[二ニコ
(%)60
30
郡 部
知りたいと思う 知りたいと思わない どちらでもよい
図3 色彩学習への積極性
孕んでいると言えるであろう。なおこの要素は,両地域とも男子が女子の2倍(都市部)
〜4倍(郡部)をしめている特徴もあらわれている。これは先の美術教師の言の第二の要 因とも考えられる。
② 造形原理とその活用について
造形原理について,中学1年ではとりあげられていない(中学校学習指導要領昭和44年 版)。しかしアンケートの対象とした生徒は小学時には小学校学習指導要領昭和43年版に
よっているので,これによれば,中学年より漸次とりあつかわれ,高学年にいたっ.ては明 確なかたちで目標化されている。即ち第6学年の目標「(3)調和や変化のある美しさなどを 理解させ,色や形などの構成をくふうして表現する能力を高める」とし,またデザインの 内容には,変化と統一の美的調和による表現がうたわれている。このことは先に述べた小・
中学校の不連続な一面とみなされなければならない。なぜなら,中学校においては既述し た通り,変化と統一の造形原理の取り扱いは2年からであり,それに伴った現行美術教科
149 デザインにおける色彩学習の原点(米田)
書(発行数4種)は,いずれもその取り扱いはない。また,現実に小学校の図画工作にお いて,意識的に学習指導要領の目標通りに学習されていたかは,多くを疑問としなければ ならないが,ここにも地域の較差を生む要因がひそんでいると思われる。事実小学校教師 の造形原理に対する意識の相違は大きく,かつこの学習の取り扱いには多くの差異がある
と思わざるを得ない。それゆえ変化と統一の造形原理が,中学1年の調査対象者にどのよ うに受け止められていて,それが実際の身のまわりの造形品にどう関わっているかを問う ことで生徒の意識をみたものである。こうして表2を得た。しかし表2イ・ロ・ハ・二に ついては郡部の生徒のおよそ70%は白紙であり,残り30%足らずの記入による数値で,正 確なデーターは得られず残念であるが,その傾向をみるにとどめざるを得ない。
先ず,表2・イによる造形原理の重要性の認識については大部分が大切であると思って いて,都市郡がさらに高率を示しているが,これを実際の造形品にたしかめたものは半数 に満たない(表2・ロ)。しかし中学1年で造形原理が取りあげられていない(採用されて いる美術教科書)ことからみれば,両方の地域とも極端に低調な傾向はみられなかった。
ただ次のハ・ホの表によれば,これら造形原理の作品への意識的な活用とその理解は今後
ロ.実際の絵やテザ インにたしかめた ことがあるか
ハ.その結果よく 納得できたか a 納得できた b 少しわかっ
た c わからなか
った
二.よくわからな いのはどれか a 変化と統一 b リズム C バランス d モーション
bデザ
めた
Aある Bない A思う B思わない
イ.変 ズム ど大 都市部 41/45
3
59/55
7
89/90
0
11/10
0
郡 部 24/37
1
79/82
9
62/78
0
38/22
0
a b C a b C
都市部 19/13
6
72/69
1 9/18 3
47/48
7
43/48
5 10/48
郡 部 35/10
2 53/786
12/12
2
20/25
2
80/50
7 0/251
なつ﹀
a b C d
都市部 20/25
2
41/43
2
21/18
0
18/14
6
郡 部 25/40
3
50/20
3 0/403 25/Ol1
表2 造形原理とその活用について
イ.変化と統㍉リ匿1(%)
スム,バランスな ど大切だと思うか
ホ.自分の作晶 に生かそうと したのとがあ るか a ある b 少しある c ない
へ.変化と統一,リ ズムなど生活(都 市・庭園・建築・
室内・家具・装飾な ど)に生かされて いると思いますか
A思う B思わない C考とえがたなこい
都市部 69/74
1 2/11
29/25
8
郡 部 59/65
2 11/37
30/32
1
の学習に多くよらなければならないことは言う までもないことであろう。即ち都市部において よく納得できなかったとするのが,このなかで 極めて高率を示しているからである。さらに表 2・二と図4によれば,諸原理のなかで最も生 徒に納得(理解)され難いのはリズムであるこ とがわかった。このリズムについては旧学習指 導要領(昭和43年版)では第4学年の目標になっ ているうえ,デザインの内容に表現に生かすこ
とがあげられているが,都市部でも42%と他と
大差がある。ここでリズムについてW・D
ティーグ(3)のことばを引用するまでもなく極め て重要なこの造形原理の理解と活用は強調され すぎることはないと思われる。
また表2・へについては,これら造形の原理 が実生活の造形品にどのように生かされている かという質問内容によって,生徒の生活との結 びつきと造形品との関心の度合いをみようとし たものであり,また郡部の生徒も全員回答した。
しかし生徒はこの問に対して予想的観測によっ
(%)
50
30
L_」 櫛 首め
変化と統 リズム
1謹ヨ都市部 Eニコ郡 部
バランス
図4 わからない造形原理
モーション
て回答したむきもあると思われるし,質問内容そのものが少々難しくかつ漠然としている ところから双方の傾向をみるだけで,この表からは際立った点はみられない。ただ予想的 回答はあったにせよ,生活造形品への関心度は,双方とも女子が男子より高くかつ総体的に みれば郡部の62%に対して都市部は71%と,都市部が10%ちかく高い関心度を示している。
これは先の表1・イの色彩の性質や機能への関心とほぽ一致する数値であることは興味ぶ かい。即ち表1・イの「ある」と「少しある」の合計はそれぞれ74%と60%を示している。
これを偶然の一致とすることはできない。その理由は色彩の関心と興味はそれのみではな く,当然形態や,他の造形要素を伴うものであることによるからである。子どもには色彩 がより鮮烈な感情や印象をひきおこすことで,それが造形美への関心の契機となることは しばしば経験することである。それゆえ,生徒は生活造形に真撃な受けとめ方をしていて,
色彩関心は同時に造形全般についての関心とみてさしつかえないであろう。表1・イと表 2・へはこのことをよく表しているといえよう。
③ 授業と生活とのつながりについて
生活造形品への関心がそれほど低くなく,60〜70%代に達しているとすれば,生徒は現 在のデザインの授業を生活との関連でどのように捉えているのか,表3はその集計である。
これによれば,「わからない」とするのが,双方とも30%に達しているものの,現状維持型 が,半数ちかくを示していることは注目される。さらに生活との関連を望んでいるのは都 市部に多く28%と郡部を10%ほど上まわっている。しかしそれにも拘わらず 生活に役立っ
151 デザインにおける色彩学習の原点(米田)
表3 授業と生活との関連について イ.生活との関係は
ノ\
ロ.役立っているか
A B C A B C D
都市部 31/24 28
42/37 40
27/39 32
47/48 48
8/2
5
26/14 20
19/36 27 郡 部 20/18
19 52/51
51 28/31
30 35/34
34
6/5 6
28/22 26
31/39 34 A 生活と関係ある方がよい
現在のままでよい わからない
立っている理由
A ためになっている ためにならない 将来ためになるかも わからない
a b C d e f
都市部 6/1
3
22/27 25
5/5 5
25/40 33
41/27 34
1/0
0
郡 部 3/0
2 8/1310
ll/ll ll
20/55 37
56/21 39
2/0
!
圃 %
将来美術関係に進む 室内装飾や家具の選択や配置に 美術を趣味としている
服装や生活用品の色の柄や形の選択に イラストや漫画・年賀状などに その他
ている と自覚している割合は都市部に多く,およそ半数ちかくの48%を示している。こ れに対して郡部では51%が「現在のままでよい」としながら,「ためになっている」と考え ているのは34%にすぎず,「将来ためになるかも」とする悠長未来型が都市部よりやや上 回っているのが特徴である。この都市部と郡部の違いの大きな要因として考えられること は,両地域の生徒の 生活 に対する意識の違いをあげなければならないと思われる。つ まり,父母の仕事や手伝いを通しての生活経験の豊かさが,逆に生活への結びつきを阻止 する結果として表れたと思われる。また同時に,都市部の生徒が美術の授業により現実的 な受けとめ方をしているうえ実生活の多様な要素を反映していることが指摘できるであろ う。それは次の表3・ハにこのことがよく表れている。つまり,都市部では,「美術を趣昧 としているから」とするのは少数のうえ,e・イラストや漫画,年賀状などに(34%),d・
服装や生活用品の色・柄や形の選択に(33%),b・空内装飾や家具の選択や配置に
(25%),といずれも実用的理由におよんでいるのが,郡部では逆に「美術を趣味としてい るから」は都市部の2倍余りをしめる。他はe・(39%),d・(37%)に集中していること によるものである。またこのことは,生活造形品に多様な関心を持ち,かつ接する機会が 多い都市部の生徒には美術を趣味とする数が少なく,逆に郡部により高い割合(11%)で あることを浮き彫りにした興味ある結果をもたらしている。しかしこれも即断はできない ものの,都市部の生徒の学習塾通いや生活環境の違いによる一般的な趣味の傾向との関連 も考え合わせなければならないであろう。いずれにしてもこのなかで郡部の生徒の11%が 美術を趣味としていることは注目に値するし十分尊重されなければならないと思われる。
④家庭の要因について
さて家庭的要因が郡部においてかなり高い比率を占めていることは先の表1・ロによっ
て明らかになった。しかし,都市部ではそれほど高くないのは,両地域にどのような家庭 的条件の相違が潜むものか,この点についてまとめたものが表4である。この表の(1)
については家庭における美術・工芸品の有無とそれらについて父母との話し合いの場を問 題とした。また家族に絵を描いたり,美術への関心のある人の有無についても家庭におけ
る美術的環境とみなして質問項目とした。
家庭における美術・工芸品の有無は,それがとりもなおさず美術的環境になるとは限ら ないが,それらを置くことでインテリアの構成要素となし,家族で楽しむ場の設定を基準 として考え,次のロ表との関連でみることとした。それによれば,いずれも郡部より都市 部の方が家庭的美術環境に恵まれている結果しか出てこない。即ち,美術工芸品の有無は 73%(都市部)に対し,59%(郡部),話し合いについては53%(都市部)に対して21%(郡 部)であり,また家族の美術への関心については圧倒的な48%(都市部)に対して17%(郡 部)であることによるものである。またわずかな差異ながら表4・イによって都市部は絵
表4 家庭の要因について
(1)家に美術工芸品など飾ってあるか
イ.それはどんなものか
ロ.それらの物につ いて話し合ったり したことがあるか
(2)
イ.自分の部屋 A.もっている B.もたない
C.共同で
それはどんなものか
Aある Bない
医
油絵・
かけ軸Ic 焼物な
木彫品 絵の複 都市部 68/78
3
32/22
7
郡 部 56/62
9
44/38
1
a b C d e
都市部 26/25
5
20/23
2
24/19
1
20/19
0
10/14
2
郡 部 22/18
0
25/30
8
21/24
2
26/21
4 6/7
物につ たり るか
ある ない いる いない
都市部 54/51 53
46/49
7 都市部
47/48
8
53/52
2
郡 部 17/25
1
93/75
9 郡 部
14/20
7
86/80
3
図 %
油絵・水彩 かけ軸 焼物など工芸品 木彫品 絵の複製印刷品
ハ.家族に絵を描いた り,よく美術展に行 く人がいるか
A B C A B C D
都市部 57/48
53 15/8
12 28/44
35 65/60
63 16/15
16 17/24
20 2/11
郡 部 49/40 44
15/10 13
36/50 43
86/90
88 9/7
8 2/32 3/02
ロ.住 宅
A.自宅(マンション)
B.借家(一戸建)
C.共同住宅(アパート,社宅)
D.その他
153 デザインにおける色彩学習の原点(米田)
画作品(油絵・水彩)が多いのに比し,郡部では掛軸や木彫品が目立っている。これらの 美術工芸品について父母に尋ねたり,このことについて話し合ったりした割合を,元の人 数の比でみれば,38.7%(都市部)に対して12.4%(郡部)になる。以上のことから表1・
ロ及び図2との関連は考えられず,その要因は他にみなければならないと思わざるを得な い。即ち先の表1・ロ及び図2によれば,色彩関心のきっかけの場を家庭とするのが,都 市部に比べ郡部がはるかに高率を示している。しかし都市部の方がどの項目においても有 利な美術的環境を有していることによるものである。このことを逆にみれば都市部は郡部 に比べ多くの家庭的美術環境に有利な立場にありながら,そこが色彩関心のきっかけの場 とはなり難い他の有利な条件が備わっていることを意味する。
さらにこの表の(2)・イの,自由に飾ったりできる自分の部屋を持っている率は53%(都 市部)に対し44%(郡部),住宅の様子は自宅であるか否かをみれば63%(都市部)に対し て88%(郡部)と,マイホームの都市部の住宅事情は郡部より著しく悪い。一方郡部の生 徒は都市部のそれに比し自分の個室は恵まれていないが,マイホームでは圧倒的に多く恵 まれている。したがって,郡部の生徒は多くの時間を父母や兄弟姉妹と生活を共にする割 合が多いことに他ならない。しかしこのことが直ちに色彩的関心のきっかけの場となると は言えないが,一つの契機が生まれる割合が高くなる可能性は考えられる。それゆえ郡部 の生徒は家庭的美術環境は都市部に比し悪いにも拘わらず関心のきっかけの場となった割 合が高いと言わざるを得ないし,勿論それに至るまでには社会的環境が大きく左右してい
ることは十分考えられるところである。
4.結 論
都市部と郡部の中学1年の生徒を対象にした色彩の興味・関心とデザイン及びデザイン の授業の意識を調査した。その結果興味あるいくつかの点が明らかになった。
その第一は色彩への興味・関心は両地域とも小学3・4年頃より漸次高まり,小学5・
6年で最高の割合に達し以後減少しながら中学までひき続くパターンを示すことである。
ただ郡部では小学5・6年で同様に最高値を示しながらその割合は都市部より20%低く その後の下降もゆるやかで中学生になってはじめて興味・関心をもったものがかなりの数 で残ることであった。これが都市部と郡部の色彩的様相の差異の大きな要因とみられる。
また色彩関心の契機となった場は両地域とも他ならぬ図工や美術の授業が圧倒的に多く を占めていて,この傾向は特に都市部の女子に顕著であった。この点に関して女子が授業 に依存し,男子はまちやデパート(都市部)家庭(郡部)での割合が次に多く,契機の場 に男女の差異が大きくみられ,意外な結果がわかった。さらには,色彩学習への積極性は 関心をもったことのある組が積極性が顕著で,無関心組は著しく低調か消極的な成り行き 傾向を示すことであった。この傾向は特に郡部に強いことと,郡部には興味・関心をもっ たことがない生徒が未だ40%いることなどが,都市部と郡部の差異の要因の一つともなっ ている。これらのことから特に郡部の生徒には色彩へのガイダンスと感覚体験の必要性が 感じられたことである。なお色彩については小学校での動機付けとそれに伴う学習がより 重要で小中学校の教育の一貫性の必要もこれらによって導きだされた。
第二に生徒の造形原理と日常の造形品への認識は高く,両地域とも真撃な受けとめをし
ていることがわかったが,都市部が郡部に比べ高い意識を示した。また両地域ともリズム についてはよくわからないとしているのが目立った。
第三は美術,とりわけデザインの授業と生活との関わりについては両地域の生徒の半数 近くが現在のままでよいとしている。この傾向は郡部に強いが,生徒のためになっ.ている かという意識については逆に都市部に多く約半数がこれに属する。郡部では半数以上が現 在のままでよいとしながら,役立っているとしたのは全体の%であった。このことは都市 部と郡部の生活のちがいが如実にあらわれていると思われるものである。
第四は家庭的美術環境については郡部より都市部が多くを恵まれているうえ,家族が美 術にっいて関心をもっている家庭が約半数に達していることがわかった。それゆえ郡部の 生徒が家庭を色彩関心のきっかけの場としている割が高いことの要因を家庭に見い出すこ とはできなかった。しかし郡部の生徒は都市部に比べ多くの時間を家族とすごしているこ とが伺え,かつ立地する社会環境からみれば家庭がひろい意味での生活体験の場,教育の 場となっていることが考えられた。
以上のことから都市部と郡部の生徒の意識や傾向には明らかな差異や相違点がみられた。
そしてそれらの要因のいくつかは把握できたものと思われる。これは限られたこの地域で の調査ではあるが,その結果はデザインにおける色彩学習に多くの示唆をもつものと思わ れる。今後はデザイン教材と指導過程や発達課題などとの関連において検討されなければ ならないと思われる。さらに地域における教育研究会の意義と機能がより重視されなけれ ばならないが,それらの交流もまた必要なことと思われる。
なお本調査のために御協力下さった両中学校長ならびに教頭先生,美術担当の諸先生 方に厚くお礼申します。
参 考 文 献
(1)佐藤正編著 子どもから大人へ 学芸図書 昭和54 P.206〜207
(2)同上 P.72
(3)W・DTeague DesignThisDay GKインダストリアノレデザイン研究所訳美術出版社昭和44 P.150
(4)学習指導要領 小学校昭和43年版,昭和52年版。中学校昭和44年版,昭和52年版。
(5)塚田敢 色彩の美学 紀伊国屋書店 昭和53
(6)Herbert Read Education Through Art植村鷹千代他訳 美術出版社 昭和28
155 デザインにおける色彩学習の原点(米田)
参考資料
※ 記入のしかた=そうだと思う項目の記号を○印でかこんでください。
あなたの男女の別を記入してください。
A,男 B.女
①自然界の色,街の色,教室や居問の色など,私たちは多くの色彩に囲まれて生活しています。また色 彩は,生活や仕事の上で目じるしや信号の役目を果したり,男女のちがい,学校や学年のちがいなど,
区別や分類のためにつかわれたりします。さらに,人は色によって多くの連想をしたり,色によって感 情がはげしくなったり,あるいはおだやかな気分になったりもします。そこでこのような色について,
あなたはどのように考えておりますか。
イ.今日までにこのような色の性質について考えたり,興味をもったことがありますか。
A.ある B.少しある C.ない
ロ.(AまたはBと答えた人)そのようなきっかけとなった場所はどこですか。
a.家 で b.まちやデパートなどで C.図工や美術の授業で d.その他
ハ.(AまたはBと答えた人)そのきっかけはいつごろですか。
a.小学3,4年 b.小学5,6年 c.中学生になって d.おぼえていない 二.(AまたはBと答えた人)そのきっかけはどんなことでしたか。わかりやすく書いてください。
ホ.(AまたはBと答えた人)今後,色の性質やつかい方(調和)について,もっと知りたいと思います か。
a.思う b.思わない c.どちらでもよい
へ.(上の問イ.でCと答えた人)今後,色の性質やつかい方(調和)について,もっと知りたいと思いま すか。
a.思 う b.思わない c.どちらでもよい
②イ.美術の時間に,変化と統一とか,リズム,バランス,モーション(動き)などについて学習しまし たね。これらのことがらは,絵やデザインでは大切なことと思いましたか。
a.思わない b.思 う
ロ.これらのことを実際の絵やデザインにどのように生かされたりしているか,たしかめたことがあり ますか。
a.ある b.ない
ハ.(あると答えた人)その結果,よくなっとくできましたか。
a.できた b.少しわかった c.わからなかった 二.(bやcと答えた人)よくわからないのは次のどれですか。
a.変化と統一 b.リズム c.バランス d.モーション
ホ.(上の問ロ.であると答えた人)これらのことがらを自分の作品に生かそうとしたことがあります か。
a.あ る b.少しある c.な い
③これらのことがらは,私たちの身のまわりの生活(都市のようすや庭園,建築,室内,家具や道具,
装飾など)に生かされていると思いますか。
A.思う B.思わない C.考えたことがない
④みなさんが今日まで学習してきた美術,とくにデザインの授業は,生活に深くかかわり,もっと身近 かな学習をしたがよいと言う考えがありますがみなさんはどう考えますか。
A.もっと生活と関係がある方がよい B.現在のままでよい C.わからない
⑤上のような考えで美術の授業をみれば,美術はみなさんの生活に生かされ,役立っていると思います か。
A.ためになっている B.ためにならない C.将来ためになるかも D.わからない
イ,(Aと答えた人)それはどんな理由によるものですか。
a.将来美術関係に進むから b.室内装飾や家具の選たくや配置に c.美術を趣味としているから
d.服装の色や柄,生活用品の形や色などを選ぶとき e.イラストや漫画,年賀状などに
f.その他(理由)
ロ.(Bと答えた人〉それはどんなことをしたらよいと思いますか。デザインについて書いてください。
⑥ みなさんは,いま自由に飾ったりできる自分の部屋をもっていますか。
A。もっている B.もたない C.兄弟,姉妹と共同で
⑦みなさんの家には,絵や彫刻や美術工芸品など,飾って家族でたのしんでいますか。
A.飾ってある B.な い イ.(Aと答えた人)それはどんなものですか。
a.油絵・水彩 b.かけ軸 c.焼物などの工芸品 d.木彫品 e.絵の複製印刷品
ロ.(Aと答えた人〉家族でそれらの品(美術品)について話し合ったり,あなたが父母に尋ねたりした ことがありますか。
a.ある b.ない
⑧みなさんの家族に絵を描いたり,又は描かなくてもよく美術展覧会や美術館にみに行く人がいますか。
A.い る B.いない
⑨あなたは現在どんな住宅に住んでいますか。
A.自分の家(マンションも含む) B.借家(一戸建 C.共同住宅(アパートや社宅) D.その他