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(1)

企業管理の構造

菅家正瑞

−.序

企業活動の合理化を課題とする「企業管理」

(Unternehmungsftihrung)は,その発展に ともなって二重の体系もしくは構造をもつも のと解されている。それは,また,企業の発 展にともなって発展・分化した経営の二重構 造に対応するものとして把握されているので ある。しかし,企業の発展は,経営の構造の 分化をさらに促進し,今や企業の構造は二重 構造から三重構造へと発展・分化し,それに 対応して企業管理も二重の体系・構造から三 重の体系・構造をなしているものと考えられ る。

そこでわれわれは,企業管理の構造に関す る上の展望のもとに,企業の最高管理意思決 定論としての企業政策論(Unternehmungs−

politik)を展開しているウルリッヒ(H.

(1)

Ulrich)の所論の検討を介して,企業管理の 三重構造化の所以をのべることとする。

注(1)ここで検討するウルリッヒの所論は,彼の次 の著書である。

H.Ulrich,th2temehmungqblitik,1.Aun.,

Bern・Stuttgartl978.

二.企業管理と企業政策

ウルリッヒの企業政策論を検討するまえ に,われわれはまず,彼の企業管理に関する 主張を見ておかなければならない。なぜなら ば,企業政策は企業管理の最も重要な部分を

なすものであり,企業管理に関する基本的認 識が企業政策にも浸透していると考えられる

からである。

(1)

ウルリッヒによれば,企業は環境適応シ ステムとしての社会的制度として把握され る。すなわち,企業は生産的社会的システム

(einproduktivessozialesSystem)であると 同時に,開放的社会的制度(eine offenen,

gesellschaftsbezogenenInstitution)であり,

環境との相互依存的関連性の中で,その目標 設定と行動の自律性が制限されている存在 である。この生産的社会的システムの形成

(Gestaltung)と運営(Lenkung)の行為の 総体をなすのが企業管理(Unternehmungs一 飽hrung)にはかならず,それは管理システ ム(Fiihrungssystem)として,作業システ ム(operatives System)と一体となって企 業システム(Unternehmungssystem)を構 成している。

さて,ウルリッヒは,管理過程を三つの次 元から分析し,企業管理を立体的に把握する。

第1の次元は,管理過程の「機能」(Funk−

tionen)である。管理過程は,意思決定(entschei−

den),実行(in Gang setzen),統制(kon−

trollieren)という機能の循環過程であり,

同時に情報処理過程(Informationsverar−

beitungsprozess)である。管理とは,入力

情報を処理して出力情報に変形し(=意思決

定),出力情報を命令等の形で執行システム

に伝達し(=実行),執行システムの情報を

統制情報として入力する(=統制)システム

(2)

とみなされる。

2

の次元は,管理過程の「階層

J(Stu fen)

である。企業管理は,企業政策

(Unter nehmungspolitik) 

,計画

(Planung)

,処理

(Disposition)

という三つの階層に区分され,

それらは部分システムとして全体システムで ある企業管理システムを形成する。最上階層 に位置づけられるのが,企業政策システムで ある。企業政策システムでは,一般的長期的 な企業の最高目標と原則が決定され,それら が計画設定にあたって守られるべき計画方針

(Planungslichtlinien)

として下位階層の計 画システムに伝達される。計画システムでは,

与えられた計画方針の範囲内で,いろいろの 期間のさまざまな計画が設定され,それらが 最下層の処理システムに伝達される。処理シ ステムでは,この諸計画の中で処理的意思決 定や命令が秩序づけられて,執行的活動に対 する直接的な指導が行われる。

3

の次元は,管理過程の「段階

J(Pha sen)

である。管理意思決定は,努力される べき目標

(Zie

l ) ,投入されるべき手段

(Mit te

l )   ,用いられるべき方策

(Verfahren)

いう三つの段階をもっ。これらの意思決定は,

内容的に相互依存的関連にあり,目標だけで はなく手段と方策が決定されてはじめて全意 思決定過程が完結するのである。

管理過程の以上の分析に基づいて,ウルリ ッヒは,管理を三次元的に分類し,図 1のよ うに立体的に把握している。

以上のように,企業管理に関するウルリッ ヒの所論を概略的にのべたが,次に彼の企業 政策に関する所論を見て行くことにする。ま ず彼は,企業政策の基本的で一般的な特質を,

前述の管理の階層,段階,機能という三次元 的把握に関連せしめてのべている。

階層の次元からみれば,企業政策的意思決 定は, r 根 源 的

J(originar) 

,  r 一般的

J(allge

図 管 理 の 過 程

mein) 

,  r 長期的

JOangfristig)

という特質

をもっ。企業政策的意思決定は,企業の最上 階層の意思決定であり,全ての意思決定の出 発点をなすものであるから,それは根源的な 特質をもっ。またそれは,企業全体に関連し,

基本方針あるいは原則として下位階層に与え られるから一般的な特質をもっ。さらに,そ れは,計画や処理の階層で具体化されて現れ る将来の企業行動の基本方針を長期的に決定 するから,長期的な特質をもっ。

次に,段階の次元からみれば,企業政策的 意思決定の内容的特質が把握される。目標に 関連すれば,企業政策階層で決定されなけれ ばならないのは,長期的で一般的な最高企業 目標である。この企業目標は,単一ではなく,

多くの目標を含んだ目標体系をなしているこ とが注意されなければならない。手段に関連 すれば,企業が長期的に使用しうる給付能力

(Leistungspotentia

l )   ,すなわち経営資源が決 定されなければならない。方策に関連すれば,

長期的目標の達成のために給付能力をどのよ

うに配分するかという基本的な戦略

(Strate

(3)

g i e n ) が決定されなければならない。

機能の次元からみるならば,企業政策的意 思決定における強い機能的緊密性の必要性と

、ぅ特質が示される。企業政策においては,

意思決定,実行,統制の機能的結合が特に強 調されなければならない。なぜならば,企業 政策的意思決定は一般的なものであるので,

企業所属者の活動に対する影響力が不足する 危険性が極めて大きいからである。したがっ て,企業政策システムは,計画システムと処 理システムと一体となって,管理システムに 統合されなければならない。

われわれは,ウルリッヒの企業モデルとの 関連からも,企業政策的意思決定の特質を把

t

屋することができる。

まず,開放モデルという企業の観点から,

企業政策の本質的意義が明らかになる。企業 政策で最も重要なことは,企業環境の要請に 対して企業の全体行動を調整すること,すな わち環境に適応 (Anpassung) することであ る。企業政策の課題は,企業と環境との問に 継続的均衡を達成し変化する環境の中で企 業の存続を確保することに求められるのであ

る 。

次に,生産的システムという企業の観点か らみると,企業政策的意思決定の内容的重点 が明らかになる。企業は元来経済的給付の生 産のためのシステムであるから,企業にとっ

て最も重要な市場や市場給付に関する基本的 な意思決定は,企業政策の重要な内容をなす のである。

企業政策に関するウルリッヒの以上の論述 は,極めて概略的ではあるが,企業政策の特 質とその本質的意義を明快にのべていると解 される。企業政策は,統合された管理システ ムの不可欠の中核的部分システムであり,管 理システムの全体的関連性の中で,企業政策 と他の部分システムとの結合が確保されなけ

ればならない。しかもそれは,環境適応シス テムとしての企業の中心的システムをなすも のにほかならず,環境適応による企業の維持

‑存続を確保するという,企業の最重要課題 を果たすものであり,われわれは,そこに企 業政策の本質的意義を見出すことができる。

注 ( 1 )

以下の論述に関しては,次を参照されたい。

拙著. ff'企業政策論の展開J.千倉書房,昭和63 年,第4章 ウルリッヒの企業政策論.112頁以 下。

Ul

rich. a.  a. 

0 . .  S

.  13ff.  (2) 

Ul

rich

, 

a.  a. 

0 . ,  

S.  18.  (3)  Vg

  , . l U1

rich

, 

a.  a. 0.

, 

S. 18ff. 

三.企業政策の構造

前述したように,ウルリッヒによれば,管 理システムは情報処理システムとして捉えら れるから,企業政策システムもまたひとつの 情報処理システムであり,企業政策的意思決 定過程は情報処理過程である。すなわち,重 要な事実に関する情報が企業政策システムに インプットされ,それらが適切な方法で企業 政策的意思決定に処理され,それが基本方針 や原則等の形で企業政策システムからアウト プッ卜される

(1)

それでは,アウトプットとしての企業政策 的意思決定は, どのような特徴をもっている のであろうか。ウルリッヒによれば,それに は次のような一般的必要条件が要求される。

それらは,普遍妥当性,本質性,長期的有効 性,完全性,真実性,実現可能性,緊密性,

明瞭性という八つの情報特性である。これら は,企業政策的意思決定に対する絶対的な条 件ではなく,意思決定に際しての常識的な注 意すべき方針として理解されるべきものであ る。最初の三つの特性は,先にあげられた,

一般的・根源的・長期的という企業政策的意

(4)

思決定の特質に相応するものと解され,これ らが企業政策的意思決定に固有の情報特性で あり,他のものは企業管理の意思決定全般に 要求される情報特性であると解される。

次に,アウトプットとしての企業政策的意 思決定の内容はどのようなものなのであろう か。内容に関しては,すでに管理の段階とい う次元から,企業目標,給付能力,戦略とい う区分がなされている。ウルリッヒは,その まえに,企業政策の全体を三つの部分に区分 する。しかし,それらは企業活動の部分に限 定されるものではなく,その全ての段階と領 域とを含む包括的特質をもつものである。そ れらは,

I

理想的企業像

J(Unternehmungs‑

leitbild)

, 

I

企 業 構 想

J(U nternehmungs‑

konzept)

, 

I

管理構想

J(Fuhrungskonzept) 

と称されるものである。それらは,どのよう な内容のものであり,そこにはいかなる関連 があるのであろうか。

(1)理想的企業復

ウルリッヒによれば,理想的企業像とは,

将来の企業の総括的特色づけとして,最も一 般的な企業政策的意思決定である。それは,

企業の一般的特性をのべたものであり,数多 くの具体的な企業政策的意思決定を原則的に 総括したもので,それらをより一般的で本質 的なものに還元したものである。したがって,

それは,企業政策の第一次的で最も根源的部 分をなすものであり,企業の自由を極めて一 般的に限定し,自律的に制限し,特定の目標 設定,目標方向,行動方法を確定する。

そこで,理想的企業像を展開する場合に重 要なことは,将来の企業をきわだたせるべき 最も本質的なメルクマールを作り出し,しか も「現実的な理想像」としての未来観念に努 力することである。まず,全体としての企業 が考察され,最も本質的なものに努力が集中 されなければならない。その際,ウルリッヒ

は,社会関連的システム

(gesellschaftsbez ogenes System)

としての企業という彼の基 本的観念から出発し,企業の環境(社会)に おける機能に注目する。

企業は何よりもまず,経済

(Wirtschaft)

という生活領域に属する生産的システムであ るから,その主要機能は,物的財貨と用役の 生産と分配による欲求充足によって第三者に 貢献するという,経済的なものであることに は疑いの余地はない。したがって,理想的企 業像では,まず第 1に,充足されるべき欲求

(Bedurfnisse)

の特色づけが行われなければ ならない。次いで,特定の欲求を満足せしめ る特定の市場給付

(Markt1eistungen)

を特 色づけることも,企業の本質的メルクマール である。さらに,企業の経済的機能におい て は , 努 力 さ れ る べ き 市 場 地 位

(Markt‑

stellung)

と地理的範囲

(geographischen Reichweite)

が決定されなければならない。

市場における企業行動に関する原則的決定,

企業外に分配されるべき利潤に関する問題も 理想的企業像に属するのである。

ところで,われわれは,企業は現代社会に おいて,経済的機能のみならずそれ以外の機 能をももつことに注意しなければならない。

ウルリッヒものべるように,企業は生産的シ ステムであると同時に,人間社会

(menschl

iche  Gesellschaft)

に組み入れられている社 会的システムでもあるからである。そこで,

彼は,理想的企業像を展開する場合,社会的 環境領域

(soziale Umweltebene)

における 企業の機能を特色づける必要性を主張する。

彼によれば,このような社会的問題の大部分 は,国家と企業との関連に尽きるものである。

しかし,そのような問題以外にも,企業は,

環境保護,宗教,芸術,教育,健康等の問題

に直面し,それらに対する基本的態度の決定

が,理想的企業像の展開に際して現われうる

(5)

ことが示唆されている。

企業と環境との関連だけではなく,企業の 内部に目を転じてみるならば,企業の形成

(Gestaltung)

に関する原則の問題が現れる。

ま ず , 経 済 的 形 成 領 域 (

wirtschaftliche  Gesta1tungse bene)

では,その形成の基本原 則の決定,例えば生産性原理あるいは経済性 原理を一般的行動原則とするのかが問われる こととなる。社会的形成領域

(sozia1eGes旬ln gsebene)

では,協働者

(Mitarbeiter)

と協 働者管理

(Mitarbeiterfuhrung)

に関する基 本的態度としての指導理念の展開の問題が現 れる。技術的領域

(technologischeEbene) 

でも,その目標観念が理想的企業像に取り入 れられうるであろう。

(2) 

企業構岩

ウルリッヒによれば,企業構想は, r われ われの企業政策のモデルでは中心的地位を占 める」ものである。理想的企業像とは,将来 実現しようとする企業の理想的観念であり,

したがって,それは,極めて抽象的で一般的 な内容であることを特色とする。そこで,こ の理想的観念は,企業政策の領域でさらに区 分され具体化される必要がある。このような 抽象的で一般的な理想像は,決して実践的で 具体的な企業活動を指導することができない からである。理想的企業像で示された極めて 一般的な意図が,計画設定へと移行しうるよ うに具体化された企業政策的意思決定の全 体,それがウルリッヒの企業構想の概念であ る 。

企業構想の段階で,理想的企業像に表現さ れている極めて一般的な意図と目標方向が固 有の具体的な企業政策的意思決定に転換さ れ,さまざまな計画の設定へと移行される。

それは,理想的企業像と計画とを結合する架 橋をなすものである。その意義を,彼は次の ようにのべている。「企業政策的管理過程の

この中核が放棄されるならば,……理想像の 基本観念は単に熱弁的特徴をもつにすぎず,

次に続く計画と処理の管理者によって,具体 的遂行に役立つ意思決定規則として解釈され ることはほとんどない。」

それでは,企業構想とはどのような内容の ものなのであろうか,そしてそれはいかなる 構造をなしているのであろうか。

ウルリッヒは,企業構想の内容を二つの次 元から区分している。第 1の次元は,前述し た管理の段階である。目標,手段,方策とい う管理の段階に相応して,企業構想において も , r 企業目標

J(U ntemehmungsziele)

,  r 給 付能力

J(Leistungspotentia

l ) ,   r 企業戦略」

(U nternehmungsstrategien)

と L 、ぅ内容的 区分が行われる。企業政策はもちろん企業目 標を含むものであるが,それのみではない。

そこには,目標達成のために企業が意のまま にする手段(給付能力)と,目標達成のため に手段を投入する際の原則的方式(企業戦略) に関する意思決定をも含むものである。なぜ ならば,そうでなければ目標設定が手段と方 式の有効性を考慮することなしに行われると いう「真空での意思決定」の危険があると同 時に,企業政策の特徴はこれらの手段‑方式 領域にも関連せざるをえなし、からである。

企業構想の内容的区分の第

2

の次元は,企 業活動の「領域

J(Ebenen)

である。企業活 動は,以下でのべるように三つの領域に区分 することができ, しかもそれらは部分的な企 業活動として把握されるものではなし企業 の全体的活動を視野に入れた包括的特質をも つものなのである。そこから, r 給付経済的

構想

J(Leistungswirtschaftliches Konzept)

, 

「財務経済的構想

J(finanzwirtschaftliches  Konzept)

,  r 社会的構想

J(soziales  Konzept) 

という三つの企業構想が区分される。文献や

実践では,企業政策は企業の機能領域にした

(6)

がって部分政策(例えば,販売政策,調達政 策,人事政策等)に分類されることが多い。

しかし,ウルリッヒによれば,このような分 類では,個々の機能領域が全体から孤立化し てしまい,部分政策内での細分化が進むばか りで,機能領域の聞の包括的考察が排除され てしまい,合目的々ではない。そこで,彼は,

より総合的で分析的な上述のような分類方法 を採用するのである。

企業構想を上述のように三つの部分構想に 分類するのは,企業現象が三つの区分される べき思考的領域に把握され形成されるという 観念に基づいている。これらの領域とは,物 的‑貨幣的・人間的次元

(materielle

geld massige und humane Dimension)

である。

概略的にいえば,企業現象は,物的次元では 物量・時間・空間・技術によって規定される 変形の過程として,貨幣的次元では貨幣値の 変化の過程として,人間的次元では人間聞の 過程として現れる。このような局面的考察方 法は,抽象的ではあるが孤立的に捉えられが ちな現象の相互の結びつきを把握しうるとい う長所をもっ。しかし同時に,各部分局面聞 の相互不可分性が無視されるという短所をも つので,この点が注意されなければならない のである。

給付経済的構想では,企業の物的領域から 出発し,生産されるべき給付,投入されるべ き物的給付能力,用いられるべき方式の種類 と範囲が決定される。

財務経済的構想では,企業を貨幣経済的側 面から把握し,努力されるべき貨幣的目標(流 動性,収益性,利潤)が決定され,そのため に投入されるべき貨幣手段と戦略とが決定さ れる。

社会的構想では,物的にも貨幣的にも把握 しえない企業の人間的・倫理的側面が把握さ れ,企業管理の人間的・社会的価値観念が具

体化される。

以上のように,ウルリッヒは企業構想の内 容を二つの次元から区分し,そこに次の図

2

で示されるような企業構想の構造を把握して いる。

2:企業構想の構造

給付経済的 構 想 財務経済的 構 想 構 想社会的

企業目標

給付能力 企 業 構 想

企業戦略

(3) 

管理構組

ウルリッヒによれば,企業構想が決定され

たならば,次に企業を管理の観点からながめ

ることが必要になる。すなわち,企業構想か

ら企業管理にどのような要請が生ずるのかを

明らかにしなければならない。企業が具体的

に活動するためには,企業政策的目標と基本

方針という重要な基本的意思決定だけではな

く,管理者の行う数多くの具体的意思決定が

必要だからである。前述のように,企業管理

の職分は企業の形成と運営である。管理者と

は,この形成と運営の職分が委任されている

協働者である。管理職分は多数の管理者によ

って遂行されざるをえないから,管理活動も

分業的協働の体系の中で行われなければなら

ない。このように見れば,企業管理自体も形

成され運営されるべき企業の部分システムに

(7)

ほかならない。管理構想は,このような「管 理の管理」という意味での基本的意思決定を 行う目的をもつのである。

企業の質は企業管理の質に決定的に依存す るから,企業政策の領域では質的に高度な企 業管理を展開することがその課題となる。管 理構想は,企業管理の高度な継続的展開のた めの基本的範囲を決定するのである。具体的 には,管理の諸手段

(Fuhrungsinstrumen‑

tarium)

の形成と管理者によるそれらの利用 に関する目標と原則を設定すること,すなわ ちいわゆる、「管理の方針

JCFuhrungslichtli nien)

を決定することである。

企業構想と同様に,管理構想においても重 要なことは,一方では個別的な詳細問題に没 頭することなく,他方では一般的かっ抽象的 にならぬような多様性を示すことである。そ こで,ウルリッヒは,分析にとっての大まか な網として,管理構想を次の

4

つの部分構想 に分類して検討している。管理システム,組 織構想

(Organisationskonzept)

,管理方法

CFuhrungsmethodik) 

,管理能力

(Fuhrungs potentia

l)というのがそれである。

この分類によって,企業管理の多面的観察 が可能となり,また各部分構想には特別な考 察方法が取り入れられる。各部分構想につい て概略的にのべれば,管理システムでは,シ ステム志向的考察方法により,管理の全階層 において,意思形成と意思遂行過程は全体構 想に基づき構築されるべきことが示される。

管理方法では,管理とは特定の方法的構想に よって実行されるべき過程の全体として理解 される。組織構想では,組織問題が全体企業 に関する長期的基本秩序にしたがって設定さ れる。管理能力では,人間的考察においては,

以上の三つの構想から生ずる管理者への要請 を決定することが重要である。

以上が企業政策に関するウルリッヒの所論

の概要である。彼の所論からも明らかである ように,彼の企業政策概念において中心的役 割を演じているのは,企業構想である。そこ で,次に節を改めて,彼の企業構想に関する 所論にさらに詳しく立ち入り,その検討を試 みることとする。

(1) Vg

  , . l

Ulrich

, 

Unternehmungstolitik

, 

S. 29.  (2)  Vg

  , . l

Ulrich

, 

a.  a. 

0 . ,  

S. 29f. 

次を参照のこと。

拙著, w前掲書j], 128頁。 (3)  Vg

  , . l

Ulrich

, 

a.  a. 

0 . ,  

S. 3

1 f f .  

(4)  Vg

  , . l

Ulrich

, 

a.ι0.

, 

S. 91(5)  Ulrich

, 

a.  a. 0.

, 

S. 91.  (6)  Vg

  , . l

Ulrich

ιa. 

0 . ,  

S. 99ff.  (7)  ul巾h

a.  a. 

0 . ,  

S. 99.  (8)  Ulrich, a.  a. 0., S. 99.  (9)  Ulrich

, 

a.  a. 

0 . ,  

S. 32.  (10)  Vg

  , . l

Ulrich

, 

a.  a. 

0 . ,  

S. 18

1 f f .  

(11)  Ulrich

, 

a.  a. 

0 . ,  

S.  181. 

( 1 2 )  

以上の論述については,次も参照のこと。

拙著, w前掲書j], 120頁以下。

四.企業政策の目標

前にのべたように,ウルリッヒはその企業 政策論の中核をなす企業構想を二つの次元か ら構造化する。一つは,目標決定,手段決定,

方式決定の区分であり,もう一つは,企業活 動の給付経済的領域,財務経済的領域,社会 的領域の区分である。ここでは特に,目標決 定の問題を取り上げることとする。したがっ て,以下では,企業政策領域における企業目 標についての一般的問題と,各部分構想にお ける企業目標の問題が取り上げられる。

企業政策的意思決定過程における論理的出 発点は,企業目標の決定である。企業目標の 検討に際して,彼は,企業は同時に多くの最 高目標を追求するという観念から出発する。

すなわち,彼は,理論的観点ではなく実践的

(8)

観点から,企業の単一目標構想を排して,複 数目標構想の上に立ち,それらの最高企業目 標聞に矛盾のない目標体系を展開すべきこと を主張する。しかし,彼自身ものべているよ うに. r そのような最高企業目標の体系を展 開することは,企業政策の領域での最も困難 な課題なのである。」

企業目標とは,企業独自の活動によって達 成されるべき将来の状態または事象である。

したがって,目標という概念には自由選択の 観念が結びついており,自然法則や第三者の 行動によって必然、的に現れる状態や事象であ る 与 件 (

Gegebenheiten)

とは決定的に区別 される。それは,意思決定過程の成果である。

目標決定は,それに続く目標遂行過程にとっ て極めて重要である。「合理的行動は,目標 決定に基づいてのみ可能である。目標が明白 に一義的に決定されればされるほど,それだ け目標志向的行動は合理的に行われる。」そ こで,企業の部分領域では,明白な部分目標 が設定されなければならず,階層をなす部分 目標から構成される,企業全体を含んだ「包 括的目標体系

J(umfassendes  Zielsystem) 

が展開されなければならな L 、。そのためには,

そこから部分目標が導出される明白な企業の 最高目標

(obersteZiele)

が決定されなけれ ばならない。これが,企業構想における最も 重要な課題をなすのである。

周知のように,企業の最高目標に関しては,

単一目標論と多目標論というこつの観念が対 立している。例えば,企業目標を抽象的な「企 業の存続

J(Uber1eben der Unternehmung) 

という単一目標に見出すことは,理論的考察 にとっては合目的々であるかもしれない。し かし,企業政策の実践的展開を目ざすウルリ ッヒは,このような単一目標論を排除する。

彼によれば,このような抽象的な企業目標の 定義は,企業管理の実践では明らかに意義が

ないし,また企業の実際の部分目標は単一の 最高目標に包括されないことを実践では認め ざるをえないからである。そこで,ウルリッ ヒは,理論的立場からではなく実践的立場か ら,多目標論の観念のもとに企業目標の考察 を進めることとなる。

企業目標を考察する際のウルリッヒの目的 は,企業の管理者に,自己の企業に関して,

最高企業目標の矛盾のない体系を設定しうる 方式を示すことにある。その場合,出発点と なる基本認識は,多くの目標は同一線上に並 立しうるし,並立する目標聞には,次の三つ の関連が成立するということである。それら の関連とは . r 目標調和

J(Zielharmonie). 

r

標 中 立

J(Zielneutralitat). 

r 目標対立」

(Zeilantinomie)

である。目標調和とは,あ る目標への努力が他の目標の達成をも促進す るという関連であり,目標中立とは,ある目 標への努力が他の目標の達成を促進も問害も しないという関連であり,目標対立とは,目 標相互間に矛盾があるという関連である。目 標体系を形成するためには,目標対立を除去

し,少なくとも目標中立を達成し,目標体系 の調和化

(Harmonisierung)

を目ざさなけ ればならない。

目標体系の調和化のためには,まず第 1に 目標対立を認識して除去しなければならな い。その方法として,ウルリッヒは目標の種 類を次の二つに分ける。二分法的目標

(dichot

mische  Ziele)

と容量的目標(

dimensionale  Ziele)

というのがそれである。二分法的目 標とは,それが達成されるか否かが問題とな る目標であり,容量的目標とはそれがどれほ ど達成されるかが問題となる目標である。彼 によれば,企業政策のレベルで問題となる目 標は,ほとんどが容量的目標であるのだが,

その目標の特定の達成度の決定については,

二分法的目標の問題が現れるという。すな

(9)

わち,容量的な目標方向

(Ziellichtungen)

と二分法的な特定の目標値

(Zielgrossen)

とは区別されなければならないのである。目 標方向には対立が存在しないが,目標値すな わち目標の達成度に対立の可能性が存在しう ると解されるのである。

このように,目標対立の可能性が存在する にもかかわらず,ウルリッヒは次のように主 張する。企業管理の実践では,二分法的目標 は元来同時的に努力されるので, 目標対立は 生じないのが通常であると。もし,実践にお いて目標対立が生じたとすれば,その原因は,

容量的目標に関して,対立する目標値が決定 されるという「誤った

J(falsch)

目標が選 択されたことにあるのである。目標方向が不 一致なのではなく,同時に達成しようとする 目標達成度に問題があるのである。したがっ て,重要なことは,相互に一致しうる目標値 あるいは要求水準

(Anspruchsniveau)

を決 定することである。この問題を解決するため には,まず重要な目標方向に関して,対立が 現れない最低水準

(Mindestniveau)

を決定 し,対立が生ずる上限まで目標値が高められ る。今や,最低水準と上限値の間に,対立を 含まない最高企業目標のさまざまな組み合せ が存在しうる。その中から,多様な許容され る

(zulassig)

目標値の組み合せを比較して,

特定の一つの目標体系が選択されなければな らない。その基準となるのは, r どの目標組

み合せがわれわれの理想的企業像に最も相応 するか

?J

ということである。

目標対立を除去する方法として,ウルリ ッヒはさらに, r 時間的直列化

J(zeitliche  Hintereinanderschaltung)

の方法を示して

いる。それは,目標は同時に達成できなくて も,順次的には達成できるという考えに基づ くものである。このような時間的な重点の形 成は,実践では極めて重要であり,特に長期

的目標体系の実現のためには優先的手段をな す。企業政策の領域では,長期的な時間の拡 がりの中で,企業目標の時間的な重点の配分 が行われ,それによって目標対立が回避され

うるのである。

(1) Vg

  , . l Ul

rich

, 

Unternehmungspolitik

, 

S.  100ff.  (2) 

U1

rich

, 

a.  a. 

0 . ,  

S.  101. 

(3) 

U1

rich, a.  a. 0., S.  101. 

(4)  Vg

  , . l

E.  Heinen

, 

Grundlagen  betriebswirt schaftlicher Entscheidungen. 

Da

Zielsystem  der  Unternehmung

, 

2.  Aufl.

, 

Wiesbaden 197 ,1S. 94  ff. 

(5) 

U1

rich

, 

a.α. 

0 . ,  

S.  103104. 

五.企業構想の構造

企業構想を構造化する際のウルリッヒの次 元の一つは,管理の「段階」であった。そこ に,われわれは,企業構想の目標,手段,方 式を理解することができた。もう一つの次元 は,企業活動の「領域」である。そこに,わ れわれは,給付経済的構想,財務経済的構想,

社会的構想という企業構想の三構造を理解し うることとなる。次に,それらの構想とはど のようなものであるのかを,企業目標を中心

として見ていくこととする。

(1) 

給付経済的構出

いうまでもなく,企業の中心目標は,第三 者に対する財貨と用役の生産である。市場経 済においては,企業の存立は,給付生産によ って企業の環境の欲求をどれほど充足しうる かに依存している。したがって,給付生産と その需要の決定があらゆる企業政策の中心で あることは明白である。そこで,企業には,

企業を市場に向けて調整すること

(Ausrichtung des Unternehmens auf den Markt)

,すなわ ち,企業全体を給付生産に向けて,その範囲,

構造,特質において調整するとし、ぅ絶対的要

(10)

請が生じ,それが企業構想の中心的指導理念 をなすのである。そこで,給付経済的構想は,

製品の販売という外部志向的領域と,生産と 製品開発という内部志向的領域に関連する。

そして,これらの両領域を,製品・市場目標 に関連せしめて決定することが,給付経済的 構想の目的なのである。しかも,ウルリッヒ によれば,極めて重要なことは,販売・生産

・研究政策を分離した部分領域としてではな しそれらを特定の市場・製品目標に調整し 統一する,一つの全体構想として把握するこ

となのである。

給付経済的企業目標として,ウルリッヒは

「市場目標

J

と「製品目標」とを区別する。

市場目標の決定に際しては,いかなる市場で いかなる市場地位と販売量が努力されるべき かの決定が重要である。製品目標の決定では,

製品の種類,品質,生産量の決定が重要であ る。これらの決定は, もちろん相互に密接 に関連しているので,その決定のためには,

「企業の製品・市場構想

J(ProduktMarkt Konzept)

が展開される必要がある。

(2) 

財務経済的構岩

企業の物的局面に関する給付経済的構想と は対照的に,財務経済的構想では,企業と企 業現象の貨幣的局面

(geldmassigeAspekt) 

に注目する。企業の貨幣的考察は,企業自体 が貨幣交換経済の構成部分であり,企業の存 立が貨幣生計

(Geldhaushalt)

に依存してい

るから,重要なことである。

財務経済的企業目標として,ウルリッヒが あげるものは次の三つである。「支払い準備 目標

J(Zahlungsbereitschaftsziele)

, 

I

収益 目標

J(Ertragsziele)

, 

I

経済性目標

J(Wir tschaft1ichkeitsziele)

がそれである。

ウルリッヒによれば,企業の存立は,企業 への適切な貨幣要求に適時に応じうることに 依存するから,充分な「支払い準備」の維持

は企業の基本的目標である。支払い準備は,

全ての収入と支出の差から生ずる,その時々 に意のままになる支払い手段の総額であり,

一般的には「流動性

J(Liguiditat)

として表 現される。原則的に重要なことは,

I

努力さ れるべき支払い準備を,貨幣の流れを本質的 に決定する値の間の関係として定義するこ と」なのである。

彼によれば,財務経済的企業目標の中心的 なものは,貨幣価値的成果の達成,すなわち

「利潤獲得

J(Gewinnerzielung)

である。

利潤獲得は,企業の支配的な主要目標である ことは明らかであるが,同時にそれは自己目 的ではなくて他の目的のための手段でもあ る。多くの別の目標が利潤によって達成され るから,企業目標体系の中で利潤目標は特有 の地位を占めている。ところで,会計制度に よって測定される利潤概念は,財務経済的成 果目標の可能性の一つにすぎない。そこでウ ルリッヒは,この目標の名称として「収益目 標

J(Ertragsziele)

という概念を用いる。そ の内容としては多様なものがあげられるので あるが,彼はそこに次の三つの基本的な収益 目標を示している。「純利潤

J(Reingewinn)

, 

「キャッシュ・フロー

J(Cashflow)

, 

I

収益 性

J(Rentabi1itat)

がそれである。

純利潤は財務的純収益を絶対的値として把 握したものであり,それは貨幣的に評価され る全ての収益と費用の差として測定される。

実際の貨幣在高と計算的に測定される純利潤 とは,期間と評価に影響されて一致しない。

したがって,長期的な未来期間に関連する企 業政策においては,期間・評価問題に影響さ れない成果値の利用が重要である。そこで,

「資本収支計算

J(Kapitalflussrechnungen) 

特に「キャッシュ・フロー」が重視されるこ

ととなる。絶対的成果値として,

I

余剰価値」

(Mehrwert)

や「填補額

JCDeckungsbei

(11)

trag)

も用いられるが,これらは他の値と組 み合わされて,目標や尺度として用いられる。

相対的な値としての財務経済的目標は,収 益性である。それには,例えば. r 資本収益 性

j

(総資本収益性と自己資本収益性). r 投 資収益性j

.

r 販売収益性」がある。この中で

どれが財務経済的目標の決定に用いられるべ きであるかについては,異論のあるところで ある。ウルリッヒは,絶対的値と相対的値の 両者の収益目標を同時に,財務経済的目標体 系に取り入れることが合目的々であることを 主張している。さらに,彼が重視する収益尺 度はキャッシュ・フローである。長期的考察 において,将来に必要な企業の財務的手段の 問題にとって,貨幣の純流入は最も言明力あ る値であるからである。収益性に関しては,

企業の全体活動に関連する総資本収益性と販 売収益性が重要な企業政策的目標値とされて いる。しかし彼は総括的に,財務経済的企業 構想では,多数の収益目標を決定することが 有意義であるとのべている。それらの間には,

相互依存的関連が成立するので,値は独立的 に決定しえないことが注意されなければなら ない。

収益目標の「高さ

j(Hohe)

の決定に際し ては,財務的手段の余剰は自己目的ではなく て,目的のための手段であることが忘れられ てはならない。つまり,利潤分配と自己金融 という収益利用目標も決定されなければなら ないのである。

経済性目標を決定する場合の尺度となるの は,企業活動の効率性の測定であるというこ

とである。必要なのは,自己の企業活動の効 率性を反映し,影響しえない要因の作用をで きるだけ排除しうる目標値である。そのよう な指標は多数存在するので,ウルリッヒは,

どれが企業政策的目標値として適切であるか は普遍的にいうことはできず,それは個々の

企業ごとに決定されなければならない,との べるにとどまっている。

(3) 

社会的構岩

ウルリッヒによれば,企業は二つの観点か ら社会的制度である。すなわち,企業は,一 方では大きな人間社会

(menschliche Gese

llschaft)

の構成部分であると同時に,他方 では企業自身も小さな人間社会なのである。

今日では,企業の環境への作用や企業内部の 現象を,純粋な経済的思考から完全に把握す ることができないのは明白である。企業は経 済的目的のためにつくられた制度なのではあ るが. r 経済」は社会全体の中で孤立しえな いので,企業活動は非経済的価値にも触れ,

企業が非経済的価値からも判断されることは 回避できないのである。そこにいかに多様な 理解があろうとも,いわゆる「企業の社会的 責任

j(soziale  Verantwortung  der  Unter nehmung)

が存在していることは,今日で

は一般に承認されており,それにはもはや異 論のないところであろう。そこで,この社会 的責任の境界を示しその中を企業の目標と 行動原則で満たすことが,ウルリッヒののべ る社会的企業構想、の意味をなすのである。

社会的企業構想を,ウルリッヒは外部的社 会的構想と内部的社会的構想とに二分する。

外部的社会的構想で問題なのは,他の二つの 構想で未だ把握されていない目標と行動規範 を決定することである。内部的社会的構想で 問題なのは,協働者の欲求を把握し,そこか ら目標・給付能力・戦略を導出することであ る 。

ウルリッヒによれば,外部的社会的構想と は,社会的問題の解決への貢献

(Beitragzur  Losung gesellschaftlicher Probleme)

を行お

うとする企業の意思の表現である。この構想

の出発点は,社会的問題を把握することであ

る。社会的構想の目標すなわち「社会関連的

図 3 :企業管理の立体的構造 注 ( 1 ) 藻利重隆. w 経営学の基礎(新訂版)J1. 25~27  頁参照。 ( 2 )  藻利重隆. w 労務管理の経営学(第二増補版 ) J J

参照

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