地域・中小金融問題を中心として
著者 居城 弘
雑誌名 静岡大学経済研究
巻 10
号 3
ページ 1‑24
発行年 2005‑12‑01
出版者 静岡大学人文学部
URL http://doi.org/10.14945/00005834
論 説
「金融再生」 とリレー シ ョンシ ップバ ンキング
下地域・ 中小金融問題 を中心 として一
居 城 弘
は じめ に
90年代の長期 にわた る経済的不況 は、大量の不良債権 を抱 える金融 システムの不安定 を増大 さ せたが、97.8年 の大手銀行・ 金融機関の破綻 に至 り我が国金融 システムの危機的状況 はピークに 達 し、金融危機対策 は新たな段階 に移行 する。金融機関の破綻処理のためのスキームが早急 に構 築 され、破綻金融機関の処理のための受 け皿や、公的資金注入の枠組 み、不良債権処理 な どが整 備 された。 しか しその後 も不良債権処理 は経済の「デフレ」的状況が克服 されないなかで遅々 と
して進展 を見せず、金融不安 は地域経済の疲弊 と地域・ 中小企業 に対す る金融機関の貸 し渋 りや 貸 し剥が しの広が りのなかで、危機的様相 を深 めていった。我が国の経済・ 金融危機の深刻化 と
ともに、そ こか らの脱却 を求める内外の圧力・ 要請 もしだいに強 まっていった。企業が過剰債務 にあえぎ、銀行が不良債権 の処理 に明 け暮れ るという日本経済が はまり込んだぬかるみか らの脱 出策が模索 され、2002年9月30日 には「総合 デフレ対策」が打 ち出された。不良債権処理 と借 り 手企業の再生 を一体的に進 めるとともに、不良債権処理 に伴 うデフレ圧力の緩和 のため、雇用や 中小企業対策 な どの「安全網」の整備が もとめ られ、「財政措置」の追加 の方向が示 された。「総合 デフレ対策」の一環 として、「金融再生 プログラム」 は不良債権処理スキームの「転換・加速」 を 目指す もの としてまとめられた。従来 までの処理スキーム との違いや、産業再生 との関連 な ど、
論点 はきわめて多岐 にわたるが、本稿では、金融再生プログラムの全体的な検討ではな く、金融 再生プログラムが地域・ 中イヽ金融 にどの ような影響 を及ぼす こととなるか、それに対 して どのよ うな新たな対応策の必要が検討 されているかについて、主 として金融審議会や金融庁 な どによる 報告書 を中心 に検討 し、 とくに地域・中小金融 に焦点 を当てて、「金融 システム改革」の進展 を追 跡す ることを課題 とす る。
1
1我が国の金融 システムの これ までの流れのなかで、「地域・中小金融問題」が どの ように位置づ けられ、 これ に対 して どの ような「対応策」が とられて きたか を検討 した もの として、拙稿、「金融 システム改革論 における地域・
中小金融問題 について」(静岡大学『経済研究』9巻 4号、2005年)がある。本稿 はその ような問題意識か ら、 こ の論稿 に直接続 くもの として執筆 された ものである。
【1】『金融再生プログラム』
2002年10月 30日、金融庁は、「総合デフレ対策」の一環 としての金融行政の指針 として、『金融 再生プログラム』を公表 した。2日本の金融システム と金融行政に対する信頼 を回復するためには、
まず主要行の不良債権問題を解決することが必要 との認識から、2004(平成16)年度 までに主要 行の不良債権比率を現状の半分程度に低下させるととともに、「構造改革を支えるより強固な金融 システムを構築することをめざして、主要行の資産査定の厳格化、自己資本の充実およびガバナ ンスの強化などについて、行政の取 り組みを強化する方針を示 したもの」3でぁる。
大手行の不良債権 を2004年度 までにほぼ半分程度にまでに減少させるという政策 目標 を掲げて これを実施するためには、当然、相当に「強力な行政主導」による推進が必要なことはいうまで もない。それ と同時に、「改革のカロ速」がもたらす様々な摩擦や軋礫、さらには各方面への経済的 圧迫を含めた深刻な影響が増大することが予想されるのであって、金融の「構造改革」の推進に 当た り、次の3点にわたる金融システムの「枠組み」の構築 を提起することが必要 となった。① 新 しい金融システムの枠組み、②新 しい企業再生の枠組み、③新 しい金融行政の枠組み、がそれ である。それぞれについての内容や、その必要性についての政策当局の認識およびその根拠・ 背 景について見てお くことにしよう。
1
新 しい金融 システムの枠組 み(1)最初 に不良債権処理 の加速 が もた らす国民 の不安への対処 の必要 な ことが強調 され てい る。 それが「安心で きる」金融 システムの構築 として提起 された内容である。具体的には、金融 行政 に対す る国民の「信頼」確保 の重要性が問題 とされていること、 さらに決済機能の安定確保 のために「不良債権処理のカロ速等の政策強化 を進 める中で、預金者 にいたず らに不安 を与 えるこ
とのないよう、ペイオフの完全実施 を延期す る」ほか、「金融問題 タスクフォース」を設置 して、
処理 目標 の達成状況 をモニタ リングする体制 を作 った。
(2)中小企業貸出に対する十分な配慮
主要行の不良債権処理の加速 によって、中小企業の金融環境が「著 しく悪化」することについ ては金融庁 も認 めていた ことが ここか らも明 らかであろう。 そこで、中イヽ企業貸出の新たな担い 手の参入促進 をはか ること(銀行免許認可の迅速化、中小企業貸出信託会社 の設置推進
)、
健全化 計画での中小企業貸出計画の達成状況 を監視 し、達成度の低いケースでは、業務改善命令、改善 策の報告 を求 める。中小企業 の実態 を反映 した検査 を確保 し、借 り手企業 に対 して「金融検査マ 2全銀協編、『金融』2002年12月号、以下、「金融再 生 プログラム」の内容 についての引用 は この資料 による。3柴田 聰、「金融再生 プログラム」 について、全銀協編、『金融』2003年2月号
ニュアル別冊 (中小企業融資編
)」
の趣 旨・内容 を徹底す る。金融機関による不当な「貸 し剥が し」等が発生 しないようモニタ リング体制 を強化す る。「貸 し渋 り・貸 し剥が しホッ トライン」 を金融 庁内に設置 し、金融機関か ら貸 し渋 りや貸 し剥が しな どの不 当な扱 いを受 けた場合、直接通報で きるように受付窓 口を設置 し、通報 された内容 に重大 な問題があると判断 された場合、報告 を徴 求、検査、行政処分 を行 う。
金融庁 自身、中小企業金融の領域で金融機関の債権圧縮 とバ ランスシー ト調整、 自己資本比率 の維持・ 確保への圧力か ら、広範囲にわたって「貸 し渋 り・ 貸 し剥が し」が進行 している と認識 していることを確認 してお こう。
(3)不良債権問題終結 に向けた政府 の積極的関与 と具体的措置
経営が悪化 した大手行、経営難 に陥った金融機関の資本不足状況の発生 に対 して、以下での「特 別支援」枠組 みの下で政府 0日 銀が一体 となっての支援体制の整備が図 られる (日銀特融 による 流動性対策での金融危機対応、預金保険法 にもとづ く公的資金の投入 など
)。
「特別支援金融機関」における経営者の責任の明確化 をもとめること、管理方法(新勘定、再生勘定 に分離
)、
新 しい経 営陣による事業計画のモニタ リング、公的資金の迅速 な投入のための新制度の創設 についての検 討 な どが盛 り込 まれている。 これ については大手金融機関側か ら激 しい抵抗が行われた ことは記 憶 に新 しい ところである。経営危機 の認識の判断、公的資金投入、優先株の普通株転換 を通 じた 政府 による経営関与や、「実質国有化」な どの方向が盛 り込 まれた。4
2
新 しい企業再生の枠組 み①
不良債権処理の加速 は、借 り手企業の再生 を進める枠組みの整備 と車の両輪の関係 にあるとさ れる。そのためには、これまでの銀行 と企業のつなが りを断ち切 って、あらたな企業の再生、「整理」
の枠組みが必要 となるということであろう。従来の不良債権処理が金融機関だけに集中していたの に対 して、債務企業の側の企業再生 に対 しても本格的なメスを入れることとした点が、今回の措置 の重要な柱であるとの見方ができる。産業再生策の目玉 となるのが「産業再生機構」の創設である。
過剰 な債務 を抱 えて経営困難 に陥っているゼネコンや流通、不動産などの企業 を想定 し再生の可能 性 を模索する。官民の共同出資による「産業再生機構」は経営不振企業のなかで再建が可能 な企業 を選び (この選別が問題であるが
)、
その企業向け債権のうち、主力銀行 (メインバ ンク)以外の銀 行が保有する債権 を買い取 る。 これにより銀行間の利害衝突でまとまりに くかった再建・ 再編がや りやす くなるとの判断か らである。再生機構 は主力銀行 と連携 して再建 を支援する(主力銀行の持 つ企業情報や営業支援のノウハウも活用)こととされた。しか し、ここでの難問は再生可能な企業 を 4この点 については、公的資金の投入 による国民負担 についての言及がない こと、公的介入の態様 とその後 の展望が不明確であるとの批判がある。(賀来景英、『金融財政事情 』2002年11月 11日号、14ペー ジ
)
どう選別するかである。「 主力銀行 と企業の間で再建計画が合意 されつつあるなど、再生機構が再生 可能 と判断する企業」とされているが、政府が民間企業の存否や生 き死 にを判定 した り不振企業の延 命 に加担 しているといった批判 を免れないか らである。さらに、債権の買い取 り価格 について もその 水準 をめ ぐって難 しい問題があるし、人員の確保やノウハウの蓄積などについても難問山積である。
②
また「構造改革の加速」に とって、企業再生の新たな枠組みを、早期 に実現することが求め られた。 その柱 は以下の とお りである。
(1)「特別支援」 を介 した企業再生、特別支援金融機関 は、新経営陣の もとで以下の点での経 営努力 を求 められ る。《貸出債権のオフバ ランス化の推進》、これは破綻懸念先以下債権 について、
RCCや企業再生 ファン ド等 に売却 す る ことによって企業再 生 プ ロセスの加速 が求 め られ る。
《RCCへの売却価格である時価の参考情報 として自己査定の活用》。
(2)RCCの一層の活用 と企業再生、《RCCへの不良債権売却の促進》、企業再生のための制度的 枠組 みの整備
1)企業再生機能の強化、RCC内の人員確保、政府系金融機関(政策投資銀行、国際協力銀行
)
な どを活用 した企業再生 ファン ドの拡充な ど。
2)企業再生 ファン ド等 との連携強化、RCCの購入債権の早期回収・ 売却 について。
3)貸出債権取引市場の創設 (RCCや政府系金融機関の主導 による
)
4)RCCが保有す る大量の貸出債権 を対象ポー トフォリオ とす る証券化、資産担保証券化の促 進。
(3)企業再生 のための環境整備
1)関係府省への環境整備の要請、2)過剰供給問題等への対応、3)日銀 に対 して、金融 機関保有株式の価格変動 は経営不安定要因であるので、 日銀 による金融機関保有株式の買取推 進 を求 める。それ とともに、一層の金融緩和の期待が表明 されている。4)企業・ 産業再生 の
ための新たな仕組 み、機構の創設への準備が もとめ られている。
3
新 しい金融行政の枠組みここで、不良債権処理の加速のための金融行政の新たな枠組みが提示 された。
(1)資産査定の厳格化、銀行が貸 し倒れに備 えて積 む引当金積 み増 しを促す ものである。
その基準 として、割引現在価値 (DCF方式・ デイスカウン トキャッシュフロー、貸出先の将来 の収益見込みか ら逆算 して現在の債権価値 を判定す る仕組み)方式の採用 を打 ち出 した。金融支 援 を受 けている要管理債権 にこの新 しい方式が適用 され ると、大手行で引当金が三倍 に膨れ上が ると算定 されている。その他、特別検査の実施 によ り、 自己査定 と金融庁検査の格差 を公表 し、
格差是正への業務改善命令、財務諸表の正確性 についての経営者の宣言 を求めるな ど、従来以上 に厳格 な資産評価 を銀行 に迫 る内容である。
(2)自己資本の充実、評価の厳格化での最大の焦点であった「税効果会計」の見直 し、繰延税金 資産 の中核的 自己資本への参入限度 についての結論 は先送 りとされた。当初案では大手行が軒並 み資本不足 に追い込 まれ ると見 られている。 その他、 自己資本強化のための税制改正、無税償却 の弾力化、繰 り戻 し還付制度の凍結解除、欠損金の繰越控除機関の延長な どが当初案 にあったが、
これ も継続協議 とされた。
その他、ガバナンスの強化 に関 しては、外部監査人の機能強化や、政府保有優先株の普通株転 換 (の条件 を変更す ること)による実質国有化の道、政府が大株主 として経営者の更迭 な どの経 営刷新 を銀行 に迫 ることがで きるようになる。 また健全化計画未達成 についての業務改善命令な
ども盛 り込 まれた。
以上が「金融再生 プログラム」の基本内容である。 その後の対応 としては、2002年11月中に作 業工程表の作成・ 公表が行われた。 また これに関連 して、中小 0地域金融機関の不良債権処理 に ついては、主要行 とは異なる特性 を有す る「 リレーシ ョンシップバ ンキング」のあ り方について のアクションプログラムを策定することとし、翌年 3月 に公表 された。後 に見 るとお りである。
「金融再生 プログラム」についての評価 は
5、
これ までの ところ十分 には行われていない。本稿 の問題限定か らは、金融再生プログラムが、我が国の金融 システムの危機か らの脱出 と金融不安 の解消 を目指 した ものであるとして、それが中小・ 地域金融問題 にいかなる影響 をもた らす こと になったか、あるいは「金融再生プログラム」が実施 され ることによって、中小・ 地域金融 にい かなる影響・問題が及ぶ と認識 していたのかを明 らかにすることがポイン トである。それ は、「金 融再生 プログラム」の公表 と対 をなす もの として「 リンーシ ョンシップバ ンキングの機能強化」が公表 された こと、その関連 をいかに理解すべ きか という問題 に限定 しているのであるが、 ここ では本稿 に必要な限 りで、「金融再生 プログラム」についての評価 とその視点な どについて見てお
くこととしよう。
6
①
不良債権処理の加速について
「金融再生プログラム」の評価に関してのもっとも大きな論点は、不良債権問題の解決、その 5この点 に関 しては、吉田淳、『金融財政事情』、2004年8月23日、20‑24ペ ー ジ。お よび建部正義、「『金融再生 プロ
グラム』批判」、(信用理論研究会編 『信用理論研 究』22号 、2004年6月
)
6我が国の金融制度改革 を、金融審議会・ 金融制度調査会の検討・ 答 申、 さらには政策 当局の見解や認識 の検討 を 通 じて追跡 しようとい う筆者 の問題意識 か らは、「金融再生 プログラム」の立 ち入 った検討 は不可欠の作業 である が、本稿 では上述の課題限定の もとでの指摘 に とどめざるをえない。
処理の加速 についてであ り、 その点 にかん しては、問題 の収束・ 解決が もた らされた としての評 価が一方で は指摘 され る。 しか しその処理の進 め方について、 とりわ け資産査定の厳格化 に関 し ては様々な評価があ りうる。7たとぇば資産評価の変更が もた らす影響 は、債務者企業 に対 して も、
債権 を保有する金融機関に対 して も大 きな影響 を及ぼす ことになる。 その評価 において銀行 の自 己査定 と行政当局・ 金融庁の評価 に食 い違 いが生 じた際の問題が指摘で きよう。 したがって、 こ うしたケースにおいては不良債権 の認定やその評価 について も、あるいはそれに対す る対応 にお いて も異なった評価が出て くるであろう。その意味で こうした行政・ 施策の評価 は、 どのような 基準で行 うかによって困難 な問題があることは留意 しなければな らないであろう。 この点 をふ ま えた うえで、「処理の加速」 を評価す る立場か らの論評である。
金融庁顧間 として、 このプログラムの策定 にかかわった中原伸之氏 《前 日本銀行審議委員》の 見解 はほぼ以下の とお りである。
8
日本経済低迷の原因は、銀行の安易な貸出によって過剰貸出が起 こり、借手側 に過剰債務、過 剰設備、過剰雇用 という三つの過剰が生 まれた ことであ り、 したがって この過剰貸出の整理・ 圧 縮が必要 との認識である。主要行ではようや く貸出額の大幅な減少が進行するようになってお り、
これによる過剰の解決、つ まり不良債権問題 を解決する最後の機会であった。不良債権問題の処 理 に当たっては資産の査定、引当金の妥当性、 自己資本の良否 を含めて、「経済合理性」に基づい て実行すべ きだ と判断す る。つ まり経済合理性 とは「厳格 な査定」によって これ までのような先 送 りを行わせない という、金融機関の解決姿勢 に対する厳 しい批判がその趣 旨である。つ まり金 融再生 プログラムは、 このような金融機関 に対する不信感 を払拭す る必要があった。 さらに大 き な枠組 み として、 このプログラムが不良債権問題の終結 に向けて、達成すべ き目標値 と時期 を明 確 に決 めた ことの意義 は極 めて大 きい、 とする。
現状 では中原氏 は、主要行の不良債権問題 は一応終息 を迎 えつつあるととらえている。 その背 景 として、輸出の回復 と企業業績の回復があるが、 さらにより大 きな問題 としては、 日本経済が 抱 える不均衡、 さきの三つの過剰が「調整」 され、経済のバ ランスが とれてきた ことが非常 に大 きな要因であるとす る。 その他、株式の持 ち合い解消や、繰延税金資産 についての目途 もつ き、
UFJの経営統合 も解決の方向が しめされている。 こうしてデフレの原因 とされてきた不良債権問 題 の処理 も、04年 9月 期決算で半減 目標 の達成が可能 となった。
ただ し、主要行 は依然 として問題 を抱 えているという。①経費率の高 さ、②資本生産性、資本 効率性が低す ぎる。 したがって欧米 に匹敵す るROAや、ROEの水準 を目指す必要があるとす る。
7デフレ・不況 と不良債権処理の関係について小林慶一郎氏は、当面の不良債権処理は健全な経済成長の回復のた めには必要であ り、その出発点 として銀行の資産査定の厳格化が重要であるとする。同氏、「資産査定の厳格化が 日本経済再生の第一歩」、『金融財政事情』、2002年11月 11日号
8中原伸之、「金融再生プログラムの検証」、『金融財政事情』2004年8月23日号
‑6‑
そのためには個人取引 (リ テール)分野 の ビジネスモデル を変 えてい く必要がある。個人金融資 産の活用 と、それをいかに収益 に結 び付 けてい くかが今後 の邦銀 に とって最重要の課題であると す る。
中原氏の指摘の要点 は以上である。 そのほかに も、「金融再生プログラム」に関連 して多 くの論 点 について活発 な論議が重ね られて きている。 それ らの多 くは今 日において も係争中のテーマ と いって もよい ものである。注 目されている論点 として、以下 に項 目として整理・ 夕J挙してお くこ ととしよう。(1)公的資金の投入 をめ ぐって、
(2)、
資産査定 の厳格化、DCF(割引現在価値)方式 の導入、担保評価 の厳正化 について、(3)、
銀行 の自己資本問題、税効果会計、繰延税金資産 の資 本繰 り入れについて、(4)、
産業再生機構、産業再生、企業再生、再生可能 な企業の選別 《誰が ど のように》、主力行以外からの債権買取価格の基準の設定、15)経営悪化、資本注入、公的支援を受 ける金融機関の経営責任について、(6)、
金融行政のあり方 (98年の金融行政の転換、金融機関の 自己責任原則、市場規律による経営健全化、事後チェック型監督行政への転換、金融機関の破た ん処理制度の整備)、
公的資金注入 と行政の関与の継続・拡大の問題、(7)、
不良債権処理における、「整理・淘汰」と『再生』、等などである。いづれの問題 もきわめて重要かつ複雑な内容であるし、
引き続 き検討されなければならない論点である。われわれ もこうした論点に今後 とも継続的にか かわっていきたいと考えている。 しかしここでは本稿の課題に立ち戻ることにしよう。
② 「金融再生プログラム」 と中小・ 地域金融問題
「金融再生プログラム」は我が国金融システムの再生を目指 して、主要行を対象に不良債権間 題の処理の加速、2004年度 までに不良債権 を半減するということを「目標」としたが、それによっ て、決済機能の安定が揺 らぐという事態を回避 しなければならないことはいうまでもない。その ため「プログラム」は、不良債権処理による新 しい金融システムの枠組みの第一に、安心できる 金融システムの構築 を掲げ、決済機能の安定確保 をうたっている。ついで、中小企業貸出に対す る十分な配慮、中小企業再生をサポー トする仕組みの整備があげられている。 このことは大手行 を中心 とする不良債権処理の加速が、中小企業貸出の「圧縮・ 減少」をもたらし、中小企業、ひ いては我が国経済において中小企業が占めている大 きな位置にかんがみて、深刻な影響が及ぶこ とが十分に懸念されたからであると見ることができよう。実際、大手行の貸出構成に占める中小 企業向けの比率の高さから予測できるように、明 らかに大手行の不良債権処理は、中小企業貸出 に集中的な打撃を与 えるものであつて、すでにそれまでの不良債権処理の過程で、中小企業に対 しての「貸 し渋 り」、「貸 し剥が し」が広が り、深刻な影響が現実のものとなっていたのである。
したがって、大手行の不良債権処理の加速の実施において、中小企業貸出に対する十分な配慮が 不可欠のこととして、重要な政策課題 に上ってきたのであつた。そのため、「金融再生プログラム」
においては中小企業対策 を強 く意識す ることが必要であった。 このことは「今後 の対応」 として
「金融審議会第二部会」の下 に、「 リンーションシップバ ンキングのあ り方に関するWG」 を設置 し、報告書「 リンー ションシップバ ンキングの機能強化 について」 を取 りまとめた ことのうちに 明 らかである。 したがって、金融再生 プログラム と「 リレーションシップバ ンキング」の両者の 関連 を確認 した うえで、金融再生プログラムの「評価」におぃては、大手行の不良債権比率の半 減 の目標値の達成だけで これを見 ることは著 しく不十分・ 不適切であることがわかるであろう。
実際、周知の ところであるが、 この間、一貫 して銀行貸 出、 とりわけ中小企業向け貸出が減少 を 続 けている事実 に改めて注 目するべ きであろう。そのような連関をふ まえて、「 リレーシ ョンシッ プバ ンキング」の意義 を理解 しなければならないであろう。
この点 に関 してはしか し、先の中原氏 は次のように指摘 している。中小・ 地域金融機関の経営 については、地域 の企業や産業によってそれぞれ事情が異なることか ら「 リレーションシップバ ンキング」が提起 されたが、中原氏 自身は「金融検査マニュアル」は一つであって、中小企業や 中小・ 地域金融機関について も「経済合理性」 を重視 して考 えるべ きとしている。 これは、いわ ゆるダブルスタンダー ドとして考 えるべ きではない とい う趣 旨であろう6また、中小・ 地域金融 機関の資本効率の悪 さが どこまで許容 され るかは今後の課題であるとしている。地方経済は公共 投資 に過度 に依存 しているケースや、特定業種 に偏 っているケースな どがあるが、地方経済の再 生や地域金融機関の健全化 を図 るためには、あ くまで「経済合理性」にしたがって産業 を興 し、
会社 を経営することが必要であ り、それ を超 えて政府が何 らかの施策 を行 う場合 は、社会政策 と してであること、「経済合理性」と社会政策 ははっきりと峻別 して議論することが必要だ としてい るのである。
「金融再生 プログラム」や政府の対応 における「 中小企業 に対する配慮」については中原氏の ような指摘のほかにも、「手厚 い中小企業保護」は金融再生 とは逆行するとの見方があることも事 実である。「中小企業向け貸出の拡大義務づ けは銀行の収益拡大の阻害要因」とな りかねない とい うのである。大手銀行 の利 ざやは欧米の半分以下。資金需要が少ない中で銀行が量 を追い求めれ ば、金利引 き上 げは実現 しに くい。やみ くもに貸 し出 しを増やせば、新たに不良債権が増 えてし まう可能性 もある。つ まり、「過度の中小企業保護 は金融再生 との矛盾 をはらんでいる」との見解 である。安全網の強化が行 き過 ぎれば、淘汰 されるべ き企業の延命 に手 を貸 し、不良債権処理の 加速 という政策の目的か らかえって遠 ざかって しまう。
9
さらに、賀来景英 (大和総研)氏も、中小企業への過度の配慮 は金融の再生 に逆行するとの見解
9『日本経済新聞』2002年11月 5日
を表明 している
1°
。「金融再生プログラム」の中で は、中小企業貸出の優先度の高 さを指摘 してい る。そのための具体策 として、銀行 に中小企業向けの貸出目標 を定 めさせ、その未達への行政介 入の強化の方針・ 方向が指摘 されていることに強い疑義 を呈 している。そして、銀行 は、引 き続 き中小企業保護 とい う社会政策 の担い手 としての機能 を強い られ ると嘆 じている。 そして、中小 企業貸出の増加 は,預貸利 ざやの縮小 を導 き、経営 を圧迫す る要因 となるので、中小企業への過 度の配慮 は、金融再生 に逆行す る とい うのである。総括的 コメン ト
① 「金融再生プログラム」が、大手行に対 して不良債権処理の加速を求めつつ、中小企業貸出 に対する特別な配慮 を求めたことをどのように理解すべきであろうか。「金融再生プログラム」の 全体についての評価はここでの課題ではない。 しかし、再生プログラムにおいて、資産査定の厳 格化や自己資本の強化を求めているのは、それによって金融機関の経営基盤の強化・健全化を求 めているものであって、そこにおいて中小企業向け貸出に対 して特別な配慮を行 うこととは、な んら矛盾するものではない。中小企業向け貸出に対 してとりわけ厳 しい融資姿勢によって貸 し渋 りや貸 し剥がしが広がった事実は、金融庁 も認めていることであつて、そのような事態を容認す るような議論ははなはだ問題であろう。 また中小企業政策 と金融政策を峻別すべきとの議論 も間 題の多いところである。 この論調では中小企業向け融資 も大企業向け貸出も同一基準で判断すべ きであることになるが、それは中小企業向け貸出の縮小か ら資産査定の厳格化を求めることにな るとすれば、金融機関の公共性の観点からも問題であろうし、経済政策の二環 としての金融政策・
金融行政 としては当然の判断 ということができる。
② むしろ問題は、大手行が、大企業向け貸 し出しの後退するなかで、 これまでに中小企業貸出 を拡大させてきたこと、そこにおいて中小企業貸出を大手行にとっての限界的領域 と考えた り、
ましてや「社会政策」的見地から行つていたのでないわけであり、今後 も重要な銀行業務の分野 と位置づけている以上、中小企業貸出についての配慮を行 うことは当然 といわねばならない。 リ ンーションシップバ ンキングは大手行・ 主要行についても必要な視点ではないのか と思われる。
③ したがって、金融再生の課題 を進めようとすれば、自明のこととして大手行の中小企業金融 のあ り方 について も当然 に問題 とすべ きであつて、 これを大手行の問題か ら切 り離そうとするこ とも、中小企業金融の問題 を我が国金融の問題 の特殊領域のように位置づ けることも適当ではな い。つ まり、大手行 における中小企業問題 を明確 に位置づ けて議論す ることが求め られているの である。 この ことは「金融再生 プログラム」 とリレーションシップバ ンキングの両者の関連 をど
1°『金融財政事情』2002年11月 11日
の よ うに とらえるか とい うわれわれ の設定 した問題 に帰 って こざるをえない こ とを意味 してい る ので あ る。 つ ぎに、 リレー シ ョンシ ップバ ンキ ング について検討 す ることとした い。
【2】『リレーションシップバンキングの機能強化に向けて』
2003(15)年 3月27日 (金融審議会報告 〔金融分科会第二分科会〕
)
「金融再生プログラム」 は主要行の不良債権処理の力口速 をめざした ものであるが、中小・ 地域 金融機関 については、主要行 とは異 なる特性 を有す るもの として、 リレーションシップバ ンキン グのあ り方 を検討 し、その機能強化 を図る必要性 についての金融審議会の考 え方が まとめられた。
それが『 リンーションシップバ ンキングの機能強化 について』(20030平 15年 3月27日)である。H この報告 は、「中小・地域金融機関の融資機能 を積極的に活用 して地域経済の活性化 を目指 して い くべ きとの認識 にたって リレーションシップバ ンキングの機能強化 を求めた」 ものである。
そして、「平成16年度 (2003年度)までの2年間 を地域金融 に関する『集中改善期間』とした上 で、それぞれの中小0地域金融機関が本報告書の提言 に沿 って リレーションシップバ ンキングの 機能 を強化 し、中小企業の再生 と地域経済の活性化 を図るための各種の取 り組みを進めることに よつて、不良債権問題 も同時 に解決 してい くことが適当 と考 えられる」 とし、 このための行動計 画 として「 リレーションシップバ ンキングの機能強化 に関するアクションプログラム」が、翌3 月28日に公表 された。
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とくにここで注 目され るのは、大手行での不良債権処理のカロ速 との関連で この問題が取 り上 げ られた ことについてである。大手行の不良債権処理の加速が地域・ 中小金融機関にいかなる影響 を及ぼす と考 えられているのかが問題 である。「金融再生プログラム」について検討 した際にも指 摘 した点である。 この点 については後 に改めて取 り上 げることとしたい。
(1)まず最初 に、 リレー ションシップバ ンキングの意義 と有効性 についてである。『報告』は、 リ ンーションシップバ ンキングを、以下のように理解 している。「金融機関が顧客 との間で親密な関 係 を長 く維持す ることにより顧客 に関す る情報 を蓄積 し、 この情報 を基 に貸出等の金融サービス の提供 を行 うことで展開するビジネスモデル」 を指す として、貸 し手 と借 り手の長期的な関係 を 通 じて、貸 し手 は「借 り手の経営能力や事業の成長性 など定量化が困難な信用情報 を蓄積するこ とが可能」であ り、「借 り手 は親密な信頼関係 を有する貸 し手 に対 してはい一般 に開示 した くない 情報 について も提供 しやすい」として、リレーションシップバ ンキングにおいては、貸出に当たっ て必要なモニタ リング等のコス ト(エージェンシー コス ト)の軽減が可能 となる。 こうした機能
11全銀協編、『金融』2003年4月 号、報告の引用はこの資料による。
12全銀協編、『金融』2003年4月 号。
が発揮 されれば、金融の円滑化が図 られ、貸 し手借 り手の双方の健全性の確保が図 られ るとす る。
金融機関 と借 り手顧客 との長期的な関係 については、我が国ではメインバ ンクシステム として その役割が重視 されて きた ところであるが、 とくに中小企業等 において重要になって くると考 え る理由 として以下の点が指摘 され る。大企業の場合、直接金融への移行 が可能であるが、中小企 業や小規模事業者の場合、情報 の非対称性が大 き く、資本市場へのアクセスにも限界があるため、
その資金仲介 においては、 リンーションシップに基づ く貸出等 に依存す る必要性が引 き続 き高い こと、円滑な資金仲介 には地域 の実態 に根 ざした情報の活用が不可欠であるが、そのためには長 期的な リレー ションシップの構築・ 維持が これか らも有効であることが指摘 されている。
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(2)我が国の リンーシ ョンシップバ ンキングの現状
1)地域 の中小企業 に対す る金融の担 い手の中心 として期待 されるのは、いわゆる中小・ 地域金 融機関、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合である。 これ らは特定地域、業種 に密着 した営業 を展開 し、融資割合 において も地域 の中小企業や個人向けが多い。 とくに協同組織金融 機関の場合 にこの傾 向が顕著である。 ここでは大手行 において も中小向け融資 は重要分野 を占め ていることが留意 され るべ きである。
2)中小企業か ら見た中小・ 地域金融機関
高い借入依存度 の中小企業 に とって、中小金融機関の果たす役割 は、デフレ不況の長期化の中 で一層重要 となっていること、 さらに、中小企業の借入の長期化傾向の もとで、「中小・地域金融 機関 による中小企業 に対す る資金供給 は、《中略》一定水準の金額が長期固定的 に融資 され続 けて いるという意味でエクイテイ的な性格が強 くなってお り、我が国の中小企業 における自己資本比 率の低 さを補完す る役割 を果た して きている」 としている。 この ような資金供給が続 けられて き たのは、長期的な関係の中での情報の活用 による リンーシ ョンシップバ ンキングが有効 に機能 し てきた ことによる面が大 きい としている。
しか し近年、地方の中小企業のなかか ら、中小・地域金融機関の対応 に批判的な声が聞かれるこ と、た とえば事務的な対応、事業の将来性 に対す る評価の不十分 さ、担保や保証 に関 して、 とく に第二者保証・確保 に重点がおかれ、迅速 な資金供給が行われない例 な どが指摘 され るようになっ ている。いわゆる「貸 し渋 り、貸 し剥が し」批判 とな らんで、以下の点で問題点が指摘 されている。
ア)リ レーションシップの中か ら得 られる情報が十分活用 されず、担保や保証 に過度 に依存 じ た り、担保0保証 の取 り方や評価方法 に問題が あること、得 られた情報 を評価 し判断 して企業の
13リ レー シ ョンシップバ ンキングは、かつて 日本 に存在 していて実際 に行われていた ものであ り、それが石油危機 以降、 とりわ けバ ブル経済 において決定的 に破壊 されて しまったのであ り、 その回復・ 復活が機能強化 の中身 な のだ と考 えることもで きる。
将来性、発展可能性 の判断につなげてい くことが不十分であれば、担保・ 保証 に頼 るとい う傾向 か ら脱却で きない ことになるのだ とい う。
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イ)融資後の対応の不十分 さ、 これに関 してはやは り金融機関側での人材や専門的知識の不足 が背景 にあって取引関係のなかで、それ らが継続的にいかされていない現実があるか らであろう
としている。
3)地域経済か ら見た中小・ 地域金融機関
中小・ 地域金融機関は、地域 における預金・ 貸出、決済機能の中心的機能 を果た し、そこか ら 集積 され る地域情報のネ ッ トワークの中核的役割 を果たす ことが可能であ り、期待 も大 きい。 ま た、新産業、ニュー ビジネスの育成 はじめ、地域活性化 に向けた役割や地域開発や地方の公的金 融 における役割 において も重要な位置 を占めてお り、地方分権の進展 を展望 した ときにその役割 の質が大 き く変化す ることも予想で きる。問題 はこれ らの ことが今 まで十分 に行われてきている か どうかであって、不十分な ものであるとい うことであればその原因はどこにあるか現状 をふ ま えて明 らかにす ることである。地域密着や地域貢献が極めて当た り前のこととしてそのあ り方を 見直す契機が不十分であった り、情報公開の不足か ら理解が一般 に普及 していないこともある。
地域 の公的金融 に占める役割 は地方分権や財源の委譲 によって大 きな構造変化が将来生 じた場 合、抜本的な変化が必要になるであろう。 こうした角度か らの検討 も必要であ り、 さらに異業種 か らの参入の問題 についての評価 も加 えるべ きであろう。
4)利用者か ら見た中小・ 地域金融機関
一般預金者や利用者 に とっては、中小・ 地域金融機関は身近で多様 な金融サー ビスを提供する 存在であるが、利用者 にとって、「理解可能で信頼 に足 るデイスクロージャー」が十分行われてい ないこと、「地域貢献 の内容」が利用者の立場か ら見 えるようになっていない実態が指摘 されてい る。 この点 は筆者の具体的経験か らも明 らかである。た とえば、金融機関の窓口に出かけて、デ イスクロージャー誌 をいただきたい といった場合、 どのような対応が行われているであろうか。
明 らかに不十分・ 不適切 な対応が行われている例 を少なか らず見 ることがで きるというのが実態 である。 これは、企業 にとって収益 につなが らないことに労力 を割 くことを避 けようとしている か らであ り、仕方な くやっているというのが現実なのである。 これは最近ではホームページで公 開 していることで改善 されてきてはいるが、経営の基本姿勢にかかわることであろう。
5)コ ミッ トメン トコス トの顕在イいこついて
地域 に根 ざして営業 を展開する中小・ 地域金融機関が、取引先や地域へのコミッ トメン トにお いて、「信用 リスクに応 じた適正金利 よ りも低い金利での貸出 しを余儀 な くされて、過大な信用 リ この問題 に関 して、機能強化以降の動 きを伝 えるもの としては以下 を参照。「中小企業融資の新潮流」、『金融 ジャーナル』2004年4月号
スクを負担 した り、地域 における悪評 を恐れて、過大 な リスク負担、再生困難 な企業 との取引 を 継続 した り、採算性 を離れたサー ビスの提供 な どによるコ ミッ トメン トコス ト負担が増大 した り す る状況 に関 しては、健全性の観点か ら改善が必要であるとしている。15この点 は リンバ ンの本質 にかかわ る点で きわめて重要な問題 を含んでいる。報告 はこうした コ ミッ トメン トラス トの負担 は地域金融機関に とって避 けることが困難 な面のあることも否定で きないが、中小・ 地域金融機 関 において も健全性 の確保が求 め られ るのであ るか ら、 コ ミッ トメン トコス トの負担 は リンー シ ョンシップバ ンキングの当然の前提であるといった認識 は改め、適正 な金利・ 手数料 を確保 し てコ ミッ トメン トコス トの発生 を抑制 してい く必要が指摘 されている。
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それ を受 けて、今回の報告の核心的部分 をなす と思われ る「3、 リレーシ ョンシップバ ンキン グの機能強化の必要性 とその基本的考 え方」が述べ られているのである。
地域経済の現状や中小企業 にとって、 リレーションシップバ ンキングの役割への期待 はきわめ て大 きい。 しか し実態 は本来の リンーシ ョンシップバ ンキングのあ り方か ら乖離 している面があ るとする。乖離 しているということについては具体的には、中小・ 地域金融機関 における リレー ションシップバ ンキングの機能が不十分であること、種々のコ ミッ トメン トコス トの負担が大 き い こと、お よび経営状況 も、収益力の低下、財務体力の低下が著 しいことな どが指摘 され る。 し たが って現下の最重要課題 は、中小・ 地域金融機関の健全性確保 の観点か ら、 リレーションシッ プバ ンキングの長期 にわたる持続可能性 をいかに確保するかであるとい う。 そのためには、従来 の伝統的な業務運営のあ り方 を根本的に見直 し、 リレーションシップバ ンキングの思い切 った機 能強化が必要だ とす る。問題 はその内容・ 中身であるが、貸手、借手双方の 自覚 と努力、経営規 律 の確立、 リスクの認識、共同管理、 コス トの共同負担 を目指すべ きである とい う。
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《機能強化にあたっての基本的考え方》は、借 り手企業に適切な対価の負担、つまり 《信用 リ スクに見合った金利や手数料》をもとめつつ、円滑な資金供給や付加価値の高いサービスの提供 を行ってい くことであるとする。借 り手に対 して負担増を求めることが基本であるというのであ る。
ここに リレーシ ョンシップバ ンキングの本質が示 されていると思われ るが、金融機関が顧客企 業 との長期的な取引関係 のなかでの情報 に基づいて、企業の将来性や長期的な成長性 に対す る判 断 によって支援や経営改善 を積極的 に行 うこと、つ まりこうした機能強化 を図るうえで、適切 な 収益確保、経営の健全性 の確保 を強 めることが、 リンバ ンの機能強化 を持続可能 な もの とす るの だ とい う。 ここで問題 となるのは、 リンバ ンの機能強化 と収益の確保、顧客 に対 して信用 リスク
15多胡秀人、『 リレーションシップバ ンキング』、金融財政事情研究会編、54‑67ペ ージ
16地域 における不採算店舗の閉鎖、これに対する自治体か らの存続要請の場合、ここで指摘 されている考 え方か ら すれば、「政策的見返 り」 も必要だ ということとなろう。
17『金融 ジャーナル』、2003年6月 号
に見合 った金利や手数料 を求めることの両者の両立の可能性が まず問題 になる。機能強化 それ 自 体 は金融機関経営のコス トを増大 させ る傾向があると考 えられ るが、それ と金融機関 としての収 益確保 による経営の健全性 の追求 は果た して両立可能なのかが問題であろう。中小・ 地域金融機 関の経営の健全性の追求 に眼 目があるのだ ととらえるとすれば、そこにはかな り大 きな検討すべ き問題が潜んでいるように思われ る。
リンーションシップバ ンキングの機能強化 に向けた具体的取 り組み として多面的な問題領域での 取 り組みの提言が行われている。以下ではそれ らの主要項 目を整理 してあげてお くことにしよう。
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(1)中小・ 地域金融機関の取 り組 み としては、借 り手中小企業のライフステージに応 じた資金供 給、コンサルテイング、ビジネス・マ ッチングな どの問題解決型サー ビスの提供 についての取 り組 みがあげられている。 とくに①、創業企業に対する起業支援の強化、資金供給、情報の提供、 こ れに関して、事業の将来性にかんする「 目利 き』の養成、②成長期・ 安定期企業に対する円滑な 資金供給、経営相談等の実施、③早期事業再生に向けた積極的取 り組み、業績悪化企業に対 して、
情報の活用による早期事業再生、再生困難企業の見極めが指摘されている。業務改善に向けた取 り組みに関しては、貸出条件の見直 し、《担保偏重、過剰保証の見直 し》、資本 と融資の分離、一 定水準の金額が長期固定的に融資され続けている、事実上自己資本に類似する性格を有する「擬 似エクイテイ的融資」に関しては、長期的経営安定の見地からの見直 し、「デット・エクイテイ・
スワップ」方式の検討が必要 とされる。
9)情報開示等による規律に関 しては、①ガバナンスの強化による健全性の確保が、経営のチェッ クが働かないケース、一族経営、ワンマン経営の弊害等の除去・改善に結び付けてい くことが求め られること。②地域貢献についての情報開示、地域経済活性化に資する取 り組みの強化や、預金 が地域にどう還元されているかなどの実態について情報公開が重要である。
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(3)監督当局による規律
これについては、 1)中小・ 地域金融機関の実態に即 した多面的な評価に基づ く総合的な監督 体系の構築、2)中小・地域金融機関の不良債権の特性をふまえた処理の推進が挙げられている。
ここでは、 これまでの リンバンの基本的考え方を前提にして、中小・地域金融機関の不良債権に ついて、それが地域の構造問題そのものに起因するものが多数を占め、金融機関の融資が直接企 業の死命を決するようなケースも多いことが指摘 されている。それゆえ中小・ 地域金融機関の不 良債権処理は、その地域経済に与える影響を念頭に置 きつつ、地域 ごとの実情に即 し、貸 し手・
借 り手の双方が十分に納得がい く形で進められる必要があるとしている。 したがって中小・ 地域
18これ に もとづいて各金融機関が策定 した リレーシ ョンシップバ ンキングの機能強化計画の概要 は、以下 に総括的 に見 ることがで きる。『金融 ジャーナル』2003年11月号。
19情報 の意義 を重視 して、地域金融機関の課題 と問題点 を指摘 した もの として、木村温人、『現代 の地域金融』、 日 本評論社、2004年3月、66‑72ペ ー ジ
金融機関の不良債権問題への対応 においては、 まず、適切 な償却・ 引当により金融機関の健全性 を確保 しつつ、一定期間内に不良債権処理の体制整備 も含 めた リンーションシップバ ンキングの 機能強化 を進 めるべ きであるとしている。具体的 には、平成16年度 までの2年間 を地域金融 に関 す る「集中改善機関」 とし、各金融機関が リレーションシップバ ンキングの機能強化 と中小企業 の再生、地域経済の活性化の取 り組 みを進 めることによって、不良債権問題 も同時 に解決 してい
くことが適 当 としている。
これは不良債権問題の処理 において、達成 目標 の数値 目標 を定めないことによって、大手行 と は異なる処理の進 め方 を中小・ 地域金融機関に対 して認 めた ものである。 この点 は妥当な判断で あると考 えられ るが、金融庁 による金融検査の進 め方 と整合性 を持 った ものでなければな らない であろう
その他に報告では、 リレーションシップバンキングを取 り巻 く環境整備 として、①中小企業金 融の円滑化のための新たな工夫《政策金融機関の融資規模の縮減、証券化、信用 リスクデータベー スの整備等》や、② リレーションシップバ ンキングの基本的方向性 と整合的な公的金融のあり方 についての提言が行われている。
さらに、以上の機能強化のための具体的計画 として『リレーションシップバンキングの機能強化 に関するアクションプログラム』が提示され、各金融機関は『行動計画』の作成に取 り掛かるこ
ととなったのである。
【3】 リレーションシップバンキングの機能強化についての評価
【リレーションシップバンキングヘの取り組み状況と金融機関や金融庁側の対応、】
リンバ ンの評価 は、中小・ 地域金融機関の経営の健全性だけでな く、最終的には、その目標 と されている中小・ 地域金融の金融ニーズが、 どこまで充足 されたかによって判断 され るべ きもの と考 える。それは地域 の中小企業が様々な金融ニーズにかん して、金融機関による金融サー ビス の提供 をどの程度 に評価 しているか、従来 までの金融機関 との取引関係 において どのような不十 分 さを感 じていたか、今回の機能強化の集中改善機関においてその点が どこまで改善 されたかが 評価 の基準 となるであろう。 この点 に関 しては、ひ とつの手がか りを与 えるものは、金融庁 によ る調査ではあるが、いわゆる「利用者アンケー ト」(中小・地域金融機関に対す る利用者等の評価 に関するアンケー ト調査)第1回、第2回が不U用で きる。(第 1図、第2図、第3図を参照
)
さらに、中小・ 地域金融機関 において、 リレーションシップバ ンキングの機能強化 について、
その意義 についての理解や取 り組 み方、その進捗状況や、その成果 について どのように自己点検・
評価がなされているのかが検討 され るべ きであろう。 この点 に関 しては様々な角度か らの検証が
必要 になろう。建前 と本音 も含 めて。 これについては各金融機関の取 り組 み状況 についての報告 とその自己評価がひ とつの参考資料 となるであろう。そのほかに、 リンバ ンの機能強化の成果 に ついての金融機関側 による自己評価 な どを手がか りとす ることもで きよう。
以上の こととあわせて、 リレーションシップバ ンキングの機能強化 に関す る政策当局、金融庁 による評価 0判断 について検討す ることが必要 となろう。 ここでは金融行政 の立場 か らの、政策 目的 とその達成状況 についての評価である。
(1)まず金融機関の側の評価 について、その一つの例 として、地銀協 《全国地方銀行協会》会長・
瀬谷俊雄氏 によれば、2005年 3月 までの集中改善機関の取組 みについて、「全体 として不良債権処 理が沈静化 した ことが第一 に評価で きる。債務者区分の遷移 も劇的に改善 された、《中略》地域金 融が再生 とい う方面 に大 き く踏 み出 した ことは事実」 とし、事業再生の分野では新 しい金融手法 の勉強や、 ノウハ ウの共有化が進んだ。地域経済の活性化で も各行が地域の実情 に鑑 み、寄与で きるよう最善 を尽 くしているが、地域 によっては依然 として明 るい兆 しが見 えない ところがあ り、
地域経済の格差の広が りの中で金融機関の役割 を果たす上で、経営基盤の強化が求め られている ことを指摘 している。(行政機関側 か ら、リレー ションシップバ ンキングの本質が金融機関側 に正 し く理解 されていない との指摘があることについては
)、
収益性 の改善が進んでいない ことであろ うが、現状では金融の過剰供給状態 は改善 されていないので、金利競争面で どうして も低 い収益 になる。長期的取引関係の構築 という観点か ら、現状で安 い金利であって も忍耐強 く取引を堅持 すべ きで はないか。「選択 と集中」にかん して、利用者、 とくに借手の評価 については、金融機関 として高い信用力 を維持することと親 しみやす さを追求することは、審査が厳格 とい うことと不 良債権 をつ くらない とい う意味か らは、二律背反 になるのではないだろうか。 どの金融機関 も経 費節減 による収益改善 に血眼 になって取 り組 んでいる。その過程で不採算店舗 を撤退することは 営不U企業 としての判断であ り、 それ は利用者か らすれば不評で しかないだろう。第二者 による評 価 については現状 では問題があ り、時期 尚早ではないか。20
さらに具体的に、地域金融機関・ 地銀 に とっての リンバ ンのインパ ク トや、金融機関 としての 役割、新 しいビジネスモデルな どについての率直 な意見 に耳 を傾 けてみよう。
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1)地銀 に とって リンバ ンが与 えたインパ ク トとは、との質問にたい しては、「 とくに目新 しい こととは感 じなかった」、「地銀 は創業以来の リンーションシップバ ンキング とい う認識でやって きたので、そう大 きなインパ ク トは受 けなかったが、金融審報告 を読 んで、時代の変化の中で地 銀が求 め られている役割が変化 してきてお り、軌道修正す る意味で原点 に帰 って地域金融機関の
20『金融財政事情』2005年5月23日 劉『金融ジャーナル』、2003年11月号