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西村好 弘

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NDC 770, 922

G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇

西村好 弘

(使用テキスト)

The Plays of George Etherege, ed. by

Michael Cordner, Cambridge Univ. Press.

Foreword(はじめに)

 正義に基づかず,物事の本質に基盤を持たないものが美 しいはずがない。機知の基礎は真実性であり,良識がその 根底で作用していないような考え方は,値打ちがない,ユ

とAddisonはフランス人批評家Bouhoursのことばを引 用して,18世紀に入ってからwitについての意味を限定

している。これは王政復古時代が機知の尊ばれた時代で,

中には駄酒落なども機知と錯覚する傾向があったからだ。

 機知と判断力とは理性の時代にあっては文章を書く上で の頼みの綱で,機知は必然的に判断力の補助的な役割とな る。ホッブスが言うように(Leviathan,1661, Part I.

Ch. V皿)機知は素早い想像の特徴を備え,二つの異質な ものの間にある共通性を感知する能力を持つ。この敏速な 思考を時として,思いつき(fancy)とも呼ばれる。逆に判 断力とはこ者の差異を見極める能力のことである。不穏当 な隠喩は二つの異質なものを一緒くたに混同することから 出発する。それは明確な判断力を犠牲にして素早い想像を 用いるからだ。しかし,この素早い機知気転は理解を促す

働きをする。この隠喩(metaphor)とは異なり,たとえ

(similitude)は冷やかなほどに明快である。王政復古期 の風習喜劇は観念(idea)喜劇でもある。作風は知的なも ので心の働きに助けられ,途方もない気分や衝動や行動な どに頼って解明しようとする。まさにことばの芝居である。

そこにはShaw流の冷やかささえある。王政復古期の観

客は説教を聞くみたいに聞き耳を立て,流れの意味合いを つかみ,その意図するところをことばの優雅さ,即ち,そ の観念を把えるその正確さとその見事さを鑑賞した。当意 即妙(repartee)のやりとりは生活描写の手段となってい

る。2決闘や果し合いがなくてもことば自体がとても重要

な行為である。3会話は行為であり,ことば,衣裳,振舞い,

その他の外観的なものそれ自体が重要である。なぜなら,

それらは個人の私生活,即ち,その人の本質から切り離さ れているからだ。それらの外観は社会的な制約や,その他

の制約を目に見える形で暗黙のうちに了解し℃いることを あらわし,この制約に反抗する人間の本性から切り離され たものと考えられるからだ。4

 この時代の紳士作i家たち,.Lord Rochester, Lord

Dorset, Sir Charles Sedley, Sir George EtheTege, Duke

of Buckingham,それにDrydenはそれまでになく無作法

な文学を作り出したが,それはある種の写実の文学であっ

た。それ自体は誠に人為的・作為的でありながらも,現実

をよく写し出している。ふしだらな新たちを描き,自分達 の放蕩を描き,自分達のやった子どもつぼくて,はめを外し た戯れを描いている。5

 Spenceによればエサレッジはこれまで見たこともない

ほどのめかし屋(fop)で,まさしくサー・フォップリング・

フラッターその人だ。それでいてドリマントを自分ぴった

りに,才気あふれる上品ぶった放蕩者に仕上げている。6 それほど興味のある男ではないが,非常に魅力のある,驚

くべきほどに手応えの確かさのある男で,「優しいジョー ジ」「いい加減なエサレッジ」「目の前に投げ出された野卑

な快楽の中をあてもなくさまようエサレッジ」などと,

Southerneは彼を評している。7王政復古期の社会の特質 は心の高尚な怠惰であり,チャールズニ世はその最たる 人8であったが,エサレッジも,この時代にふさわしい人 物であった。30才のころには職業もはっきりしない無名の

男であった。多分,良い家系に生まれ,資産があり,パリ

とその当時のフランス文学には造詣が深かったと思われ

る。g彼はチャールズニ世の命をうけて,作家活動を止めて,

ドイツのラティスボンへ大使として赴くが,そのラティス

ボンからの膨大な資料としての手紙をFujimuraが分析す

ると,彼のくったくのない放蕩な生活態度と感情のおもむ くままに振舞う自然流がうかがえる。10そしてこの資料の 中に写し出される人物像は本物の才人(true wit)で,愛

想がよく,機知に富み,懐疑的で,世慣れていて,寛大で ある。11彼の作品は純粋に芸術品であり,何かの目的で書 かれたのではなく,まさに,作品自身のために書かれ,

一111一

(2)

Drydenのことばを借りれば楽しみを提供するために書か

れた。彼は何ら倫理的刺戟に動かされることはなかったし,

彼の喜劇も,自由気ままな雰囲気の中でのみ実を結ぶ,あ り余るほどの豊かな動物的エネルギーから生まれたもので.

ある。12モリエールもJonsonも道徳喜劇を書いたのに対

して,エサレッジは風習喜劇を書いたのである。13そして,

イギリス喜劇の新しい派の創立者であり,当時の散文体の

創始者である。、4Middletonは長年にわたって彼の時代

の実際のロンドンの情景を忠実に作品の中に再現したが,

その手法は.B. Jonsonの気質の風刺的性格とその時代の ドラマの筋立てにおけるロマンチックな傾向から影響を受

けているが,気分としてはエサレッジやDrydenの世俗性 に極めて近く,15風習喜劇はMiddletonの系列に入るか

も知れない。

 処女作『喜劇的復讐,桶の中の恋』はJohn Evelynが『桶 の中の恋』という滑稽な芝居を見て来たと書きしるしてい

るのが1664年4月27日であり,4月の初演と考えられる。

この作品はLincol㎡s lnn Fieldsの劇場でDukes Com・

panyによって上演され大成功を収めた。. John Dowesに よればこの喜劇の快演のお陰でそれ以前のどの喜劇よりも 劇団は高い評価と利益をうけたという。しかし,この作は 1726年12月16日以降今日に至るまでロンドンでの上演の記 録がない。

 第二作『出来ればやるさ』も同劇団によって同劇場で,

1668年2月6日に初演された。Pepysの日記によれば午 後2時半に劇場に着いたときには入りきれない客1,000人

が溢れていて,彼は女房が先に行っていたお陰で入れたと ある。しかし芝居の方は何とバカバカしく,よいところな

しで誰も楽しんでいなかったとある。役者が下手でエサ

レッジも失望するほどのみじ.めな初演だったようだ。

 第三作『当世紳士』は8年後の1676年3月11日に同劇団 によってDorset Garden劇場で初演され,大成功を収め たが,後にSteeleは『スペクティター紙』65号(1711年 5月15日付)で「この有名な作品全体が品行,良識誠実

さとは真反対の作品であり,美徳と清廉潔白の崩壊の上に 成立するもの以外の何ものでもない」と非難している。し

かし,これは商人階級の道徳主義的な見方で,その後 Steeleの考え方は否定され,王政復古喜劇の中で最もす

ぐれた作品の一つに位置づけられている。

I The Comical Revenge『喜康ll的復讐』(1664)

 主人公のサー・フレデリックは後に結実するCongreve

のミラベルの先駆をなす人物で,カーテンが開くと何か新 しいものを観客は感じ取ったにちがいない。つまらぬこと を問題にする気質(straw−splitting of humours...気質喜劇 を指す)ではなく,この時代と様式のまっただ中から喜劇

の世界にとび出して来た紳士である。彼は機を捕えてはそ れを警句にする。しとやかに機に応じられる間は,その一 瞬一瞬で彼は生きている(しとやかに応じられなくなると,

粗野,粗暴になる)。「男というのは酔ったときには弱点を さらけだすが,女はしらふのと.きに弱点をさらす」(Lii

69−70)のことばはイギリス喜劇の中で新しい響きをも

つ0 1

 この作品に町の当世風な男たちを登場させ,巧みなこと ばと洗練された趣好を盛り込んで快活な楽しい気分を作り 出している。この第一作が認められて,エサレッジは社交 界の身分の高いお歴々やジ;ントリーの中に混って,中心

的な才人たちの花形となった。Pepysはこの作品を「実

に愉1央」と言い,Evelynは,「滑稽」と言い, Langbaine の記録によれば「好評を博した」とある。2

 題名の示す通り四つの復讐が四つの次元の異なる筋立て の中で展開される。悲劇的調子すら帯びる準英雄的な恋と

名誉の物語はキャブレットで語られ,貴族階級に属し

high plotとなる。 low plQtには二つあり,その一つはク ロムウェルの時代にサーの称号をもらった間抜けなサー・

ニコラスが二人目詐欺師にペテンにかけられる話。もう一 つは下男下女たちの世界でフランス人ドゥフォイが女中た ちを追いまわし,逆に下女に桶漬けにされる笑劇的な突飛

な行為。次がhighとlowの両方の世界にまたがりながら,

金持ちの未亡人との恋のかけひきをするしゃれ者,即ち,

この作品のヒーU一とヒロインの物語である。

 この作品は王政復古喜劇の全趨勢を定め,中心テーマを 提示し,このテーマはその後,一定不変のものとなった。

この第一作でおどろくべき直観力をもってエサレッジはこ

の時代の最も発展性のある素材に手を伸ばしたのであ

る。3

 1 あら筋

第一幕第一場(サー・フレデリック邸の寝室の前の廊

下) ビュフォート侯の下男が使いにやってくる。サー・

フレデリックの下男ドゥフォイによると,主人は朝方に泥

酔して帰り,寝るようにすすめたらなぐられて,旦那は深

酒のため,おれは怪我のために頭が痛いとばんそうこうを 撫でながら怒っている。

第二場(サー・フレデリックの寝室) サー・フレデリッ

クはドゥフォイにばんそうこう代に1クラウンの借りにし

ておくから怒るなと慰める。ビュフォート侯が伺うことを 告げて下男が退ち去ると,篭かき,松明持ち,楽士,客室のメ ードなど,昨夜の飲み遊びのっけがやってきた。それぞれに 金を渡してすませ,怒鳴り込んで来た女だけを中に呼び入 れる。深夜に.「売女!売女!」とわめき散らし,夜警を叩き のめすやら,窓ガラスを壊わすやらでこの女の主人(娼婦)

はその地域では恥ずかしくて住めなくなったほどだと苦情

(3)

G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇 西村

を並べられて,金で解決して女を帰す。さてビュフォート 侯が訪れて,ベビル侯の宴に誘われる。ビュフォート侯はサ

ー・

tレデリックのいとこでベビル侯のところへ下男とし

て入り込み娘のグレイシアーナと恋仲で,結婚を待つばか

りである。

第三場(ウィードルの宿) ウィードルとパーマーの二人 の詐欺師は親しくなったばかりのカモのサー・ニコラスか ら金を巻き上げる計画をたて,パーマーは富裕な牧場主に

扮して3時に居酒屋で落ち合うことにする。すれ違いに

サー・ニコラスがやって来る。そこで最近間抜けな男と結 婚したばかりの婦人が居て,その女との色事をす・めると サー・ニコラスは乗ってくる。そこで同じく居酒屋で落ち 合うことになる。

第四場(ベビル侯邸) 姉のグレイシアーナがビュフォー ト侯を待ちわびていると,妹のオーレリアがブルース大佐 からの手紙を持って来る。オーレリアはブルース大佐に片 思いしているが,父親がブルース大佐を家に近づけないほ どの嫌いようである。一計を案じたオーレリアは姉に夢中

のブルース大佐を姉に接近させて家に引き入れようと考

え,ブルースに恋文まで書かせて姉に届ける。しか.し,姉 は受けとらない。今晩は晩さん会。姉のグレイシアーナと

サー・フレデリックを結ばせようとべビル侯は決めてい

る。ベビル侯の妹の未亡人はサー・フレデリックとの結婚 を望み,妹のオーレリアは姉の方に向いているブルースを 自分の方に引きたいと願っている。

第二幕 第一場(ベビル侯邸) 未亡人リッチ夫人とサー・

フレデリックが庭に出ての夕涼みは愛し合う二人の語らい の場なのだが,未亡人は彼に愛を告白させようとし,彼は 未亡人に体を受け入れさせようとする愛のかけひきの場。

そこヘサー・フレデリックの下男のドゥフォイが現われ

て,未亡人に下女のべティーは彼の愛の告白を少しも受け 入れてくれないと陳情すると,嫌いではないベティーは彼 のからかいの調子に腹を立て,復讐してやると誓う。

第二場(ベビル侯邸) 相思相愛のビューフォート侯とグ レイシアーナだが,許されぬ恋をグレイシアーナは悲しむ。

実はブルースが兄のロビスの親友でビューフォート侯の西 翠になるからだ。ブルースは色事師の名をはせていたが,

持ち前の英雄的美徳が蒔いた種をうまく刈り取り,兄のロ ビスと親友になり,お互いに血縁になるために父親のべビ ル侯を口説いて,彼の人柄と地位を見込んで一且は縁談が 決まったようだ。一方,妹のオーレリアの方は何たる悲し いことと悲嘆に暮れて下女のレティティア相手に傷をいや している。

第三場(居酒屋) ウィードル,パーーマー,サー・ニコラ スが集まると,家畜を責つた大金をとどけに来たという知

らせでパーマーが下へ降りている問に,ウィードルは

サー・ニコラスに例の美人は今日は都合が悪くなったから とり止めで,ここは楽しく飲んでサイコロの賭博をすすめ る。二人で組んでパーマから大金を巻き上げようというわ け。負けたら,そこはウィードルとパーマは知り合いの仲 だから,ツケで勝負すれば負けは取りもどせるという。パー マーが大きな袋をもって上って来て,.サイコロの話をきく とそんなゲームを知らないと嘘を言う。サー・ニコラスは いよいよこのカモから金を巻き上げようと乗り気になる。

第三幕 第一場  (居酒屋) 勝負が終ってサー・ニコラ

スはだまされて1,000ポンドもの借金となり,明朝8時迄

に払わねばならない。

第二場(コヴエント・ガーデン) 深夜にバイオリン弾き や松明持ちなどを先頭にサー・フレデリックは未亡人の家 までやって来た。通りがかりのベルマン(町の触れ役)か ら鐘を取り上げて,ベルマンを装い,鐘を鳴らしながら大 声でどなる。「亡くした夫が恋しくて眠られぬ未亡人よ,

起きろ。お前に喜びをとりもどせる代物がここに居る」と。

未亡人はサー・フレデリックの悪ふざけを受けないでいる と外で大騒ぎをする。仕方なく未亡人は彼を中に入れる。

第三場(未亡人の家) 仮面舞踏会をしょうと一同を中に 呼び入れ,サー・フレデリックは未亡人に求愛するが応じ てもらえず,仕方なく一同ひき上げる。

第四場(サー・フレデリックの宿) 主人からの言いつけ

で下男のクラークはサー・フレデリックを待っている。ドゥ フォイの話によると,朝帰りは週に.6・7回だという。待 つ問,ドゥフォイはパリでどうして今の主人に見込まれて 召使いになったか話す。

第五場(野原) 借金を払わないということでサー・ニコ ラスはパーマーと決闘することになるが,いざ勝負となる とサー・ニコラスは響けて決闘をとりやめ,借金が払えな いときは財産を出すという証文を書く。

第六場(ベビル侯邸) ロビスは親友のブルースとグレ

イシアーナとを結婚させるように父ベビル侯に再度す・め るがはねのけられる。ブルースは人殺しの疑いが晴れて釈 放されて出獄して出て来る。グレイシアーナの気持ちはフ ランス宮廷の作法を身につけたビューフォート侯に傾いて いるが,ブルースには憐みや同情を示したものの愛情を告 漉したことはなかった。しかし妹のオーレリアは姉を責め,

ロビスはグレイシアーナを非難し,ブルースにビュー

フォート侯と決闘するようにす・める。もし敗れたら,次 にロビスが闘うという。オーレリアは悩み苦しむ。

第七場(ベビル邸の庭) グレイシアーナはビューフォー ト侯に愛していることを打ち明け,ブルースの一人合点に

は困ったことと話しているところへ,ブルースとロビスが 現われる。ブルースはビューフォート侯を恋仇と決め,名

誉にかけてもグレイシアーナを自分のものにしようとして

一 113 一

(4)

刀を抜く。グレイシアーナはビューフォート侯をかばい,抱 くようにして刀を抜かせない。見せつけられたブルースと

ロビスはビューフォート侯に捨てゼリフをはいて退場す

る。ビューフォート侯はこのままにしておくと争いが長び くだけだと言って今後の波乱を予想させる。

第四幕 第一場(ベビル侯邸) ブルースの使いとしてロ ビスがビューフォート侯に決闘を申し入れる。サー・フレ デリックがビューフォート侯の助人にやって来る。グレイ シアーナは思う人と兄が決闘することになり悲しみも大き

い。

第二場(居酒屋) パーマーは豪華に着飾りベビル侯に化 け,ウィードルの娼婦グレイスをリッチ未亡人に化けさせ てドープウェル夫人の家に送り.込んだ。サー・ニコラスは 破算寸前でサー・フレデリックを真似た身なりで金持ちの

リッチ夫人を手に入れようと必死である。しかし,果して ベビル侯が妹の未亡人にす・めてくれるかどうか不安がる が,ウィードルは身ぎれいで才覚もあり男らしいサー・ニ コラス以外に再婚の候補者はいないことをベビル侯は認め ていると勝手な話をする。

第三場(ドープウェル夫人宅) パーマーは侯爵の姿,グ レイスは貴婦人の姿である。そこヘサー・ニコラスがワイ

ン3本を居酒屋の小僧に持たせてウィードルと一緒にやっ

て.来る。サー・ニコラスはグレイスに下品なほどに求愛し 追いまわす。この二人を結婚させて,サー・ニコラスの財 産を徹底的にしぼり取ろうというのである。

第四号(野原) 第一次内乱の折,父親がブルースに殺さ れ,その息子がブルースを死刑にすべく買収したが,その もくろみが発覚してブルースは釈放された。この怨念を晴

らすべく,ブルースとロビスは4,5人の賊に囲まれる。

ビューフォート侯とサー・フレデリックが助っ人になりブ ルースを窮地から救う。

 さて,決闘となるが,ブルースは戦意を失っているが,

けしかけられてようやく戦いとなる。しかしブルースは剣 を落し,二度までも命を救われ,生き延びてもグレイシアー ナの愛をとりもどすことは出来ないと考え自害する。重傷 のブルースはべビル侯の邸に運び込まれる。

第五場(ベビル候邸) 幸福の気分は吹き飛び悲しみだけが ふくれ上る。ブルースの行為にベビル侯は同情を示す。妹 はブルースの気の毒さは姉のせいだと非難し,姉は愛だけ でなく名誉もあることを今後の行動で証明すると何かを決 意している。

 ビューフォート侯はグレイシアーナのために名誉ある行 動をとったと告げると,決闘などを避けるようにお願いし たにもかかわらず,私を裏切ったと怒り,ビューフォート 侯は愕然とする。

第六場(未亡人リッチ夫人の家) 下男のドゥフォイは梅

毒のためか,とにかく酔ってもいないのに階段の陰でごろ ごろしている。御者が持って来た桶をドゥフォイが眠って いるうちにかぶせてしまおうと下女のべティーとレティス が合意する。ドゥフォイが目をさますとおどろき,桶を壊 そうとするが壊れない。バイオリンに合わせてみんなでは やしたて,そのまわりを踊りながらまわる。さんざんから かって一同退出する。

第七場.(同上) サー・フレデリックが決闘で死んだとい うことで死体が運び込まれる。未亡人は嘆き悲しむが,こ のとき,桶に入ったドゥフォイが入ってきて一か月どろき,

サー・フレデリックもおどろいて起き上ってしまう。未亡

人はもう少しで胸の内をすべて打ち明けてしまうところ

だったと胸をなで下し,こんどはもっと巧妙な手を使って 仕返しをしてやるからと何かを企んで出て行く。

第五幕 第一場(ベビル侯邸) 手術の終ったブルース

の病床ヘオーレリアが来て,今までのブルースに愛を抱い ていたことを告白し,今,求めているものは愛よりも慈悲 であり,墓の中には自分の灰も入れてほしいと言う。ブルー スは感激し今ほど命が恋しく思うことはないと言うが,医 者からは助からないと宜告されている。

 次いでグレイシアーナが訪れて,ブルースの愛と自分の 幸せに盾ついたことを告註し,ブルースが命を落せば彼女

は一生結婚しないで喪に服すと言う。ブルースはビュー

フォート侯こそ高潔な人でグレイシアーナにふさわしい男 は彼しか居ないと言う。

 ビューフォート侯は名誉と思ったことが彼女の意に反し 当惑し,彼女に嫌われ・ば,生きている心地はないと嘆く。

第二場(夫亡人の家) サー・ニコラスはサー・フレデリッ クの姿に化けて未亡人と結婚するつもりで訪れた。未亡人 は怒って彼を追い出すが,外で執行吏の集団相手に剣を抜 いて闘うと,逮補されないようにサー・ニコラスを中へ再 び入れる。ひどい酔い方で彼は眠ってしまう。

 ドゥフォィが主人を救おうと出て来るとべティーは彼を

桶から出してやる。未亡人とべティー以外は変装した

サー・ニコラスとサー・フレデリックの区別がつかない。

サー・ニコラスは未亡人から金を巻き上げてくやしがらせ てやろうという計略で,バイオリン弾きを執行吏に仕立て

上げて,200ポンドの借金が払えないために逮補される筋

立てである。未亡人は200ポンドを出してサー・フレデリッ

クを救う。

 目をさましたサー・ニコラスは未亡人と結婚するつもり で,この未亡人は下唇が盛り上って,キスも濃厚だ(未亡 人に化けていたグレイスのこと)とサー・フレデリックに 言うと,嫉妬にかられてサー・フレデリックは未亡人に腹 を立てる。このとき武装したドゥフォイが出て執行吏に襲

いか・る。執行吏がバイオリン弾きで,200ポンドがだま

(5)

G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇  西 村 されてサー・フレデリックに巻き上げられたことがわかる

と未亡人は怒り,サー・ニコラスと結婚してやると言う。

 サー・フレデリックはどうしてここにサー・ニコラスが 居るのか膀に落ちない。このとき外でベビル侯(実はパー

マー)がサー・ニコラスを連れて来いと使いをよこす。

サー・フレデリックはそのべビル侯をつかまえて来いと皆 に命じ,パーマーであることが判明する。そしてウィーード ルとパーマーの詐欺行為が解明されてサー・ニコラスを借 金から救い出し,妹と結婚することをす・める。

第三場(ベビル侯邸の庭) グレイシアーナはオーレリ

アの下女のレティティアとあずまやに入り苦しい心の内を 打ち明けている。物陰ではビューフォート侯を求めて悲し み,人前では彼を嘲笑わねばならない。すべて名誉のため。

ブルースが生きられればビューフt一ト侯と結婚するが,

亡くなれば彼への追悼として独身を通すと決意をもらす。

これを立ち聞きしたビューフォート侯は喜び勇み出て,ブ ルースの命はとりとめたと報告する。

第四場(ドープウェル夫人の家) ウィードルと未亡人に 変装したグレイスがサー・ニゴラスとべビル侯に変装した パーマーを待っている。サー・ニコラスは使いを田舎へ走 らせ,財産の書類を持ってくることになっている。そして,

サー・ニコラスとグレイスを結ばせようというのである。

 そこヘサー・フレデリックも一緒にやって来る。執行吏 たちもやって来てウィードルを逮捕する。即ち,1000ポン ドの借金があるからだという。即ち,ウィードルとパーマー とが結託して,賭博でサー・ニコラス.とウィー.ドルにIOOO ポンドずつの借金を作らせた。サー・ニコラスから1000ポ

ンド巻き上げたら二人で山分けして,形ばかりのウィード ルのIOOOポンドの借金を破棄する予定だった。サー・フレ デリックはパーマーを懲らしめて,サー・ニコラスの借金 の証文を破棄させ,ウィードルの借金の証文をパーマーか ら取り上げ,サー・ニコラスに譲渡した。従ってウィード ルは,サー・ニコラスに1000ポンド払わなければ逮捕であ

る。

 ウィードルとグレイスがひらあやまりにあやまって赦し を乞うと,サー・ニコラスはその1000ポンドをグレイスの 自筆金にし,ウィードルがグレイスを女房にするように提 案する。そしてグレイスの下女ジェニーと:パーマーを結婚 させることにする。サー・ニコラスとサー・フレデリック の妹を結婚させるということで,全員ベビル侯の邸へ行き,

その席で逮捕を解除するという。

第五場(ベビル侯邸) ブルースが他人の手を借りて登場 する。オーレリアは彼の快方へ向う姿を喜び,愛の炎を押 し殺し,耐え,その結果,喜びが一層大きくなったと述べ,

それにしてももっとはっきり愛を告白すればよかったと言 う。父親のべビル侯は二人の結婚を認め,これでグレイシ

アーナもビューフォート侯と結婚出来る。

 サー・フレデリックと未亡人が登場し,お互いに相手に

愛を告白させようとするが,双方ともに応じず,これで永 遠の別れということになる。お互いの意地の張り合いを見 てベビル侯が仲人となって二人をとりもち,結婚すること

になる。

このとき,喜び一杯のサー・ニコラスとしょんぼりして

いるウィードルとパー一一マーの三人がそれぞれ花嫁をつれて 入って来る。サー・ニコラスは,サー・フレデリックの妹 だとばかり思っているが彼の娼婦のルーシーであることが 明かされる。ウィードルとパーマーは不幸の仲間が増えた と喜ぶと,サー・ニコラスは執行吏を呼んでいかさま師た ちを逮捕してもらうと怒ると,サー一一・フレデリックは今,

1000ポンド払わなければお前が逮捕されると言う。サー・

ニコラスは母親や近所の人たちに育ちのいい有徳な女だと 嘘をつかねばならないと嘆くと,悪ずれた女は徳を装うの もうまいから心配するなとなぐさめる。そして,ドゥフォ イにはべティを指す。ベティががっかりすると,ドゥフォ イがベティをなぐさめて,結婚しないで,これからもっと 仲よくしょうと言う。

 さて外の執行吏とは変装した楽士たちであった。結婚式

の祝いが陽気にはじまり,ベビル侯は今夜の主人の権限を

サー・フレデリックに与える。サー・フレデリックは サー・ニコラスをウィードルの借金の証文から解放する

が,いつでも執行出来るように保管すると言う。サー・フ レデリックは未亡人にむかって,出血の儀式がはじまると いうのに,どうも処女膜が破れるなんてことはみんななさ そうだなと言って笑わせ,我々の運命なんてほんの小さな 事件で左右される。しかし警戒ばかりしていたら幸運は把 めないと言って終わる。

 2 場面解説

High Plot(高貴な筋立て) ビューフォート侯とグレイ シアーナは相思相愛の仲で結婚式を待つばかり。ところが 恋仇のブルースがネイズビーの戦いで,人殺しを問われて 投獄されていたが,疑いが晴れて釈放された。グレイシアー ナの兄のロビスは友情と名誉のためなら,たとえ血を流し てでも闘うという直情的な男でブルースの親友である。ブ ルースはロビスとの友情が元で血縁関係を結ぶためにグレ イシアL・一ナを愛しはじめた。しかし,グレイシアーナはブ ルースの情熱に応えたのではなく,彼への憐れみの情を示

しただけであった。ブルースを慕う妹のオーレリアはブ

ルースの願いを達成させようと姉にブルースの恋の強さを 吹き込み姉を困らせた。オーレリアは「私の悲しい運.命が あなた(ブルース)の傷手のあだになっていることがわか らないのね」(皿.Vi.132−3)と独白する。ビューフォー ト侯はフランス宮廷仕込みの風習を身につけた魅力的な男

一115一

(6)

でこのビューフォート侯に恋人を奪われたと思い込むブ

ルースはロビスからの勧めで,.決闘することになる。

 決闘を前にして,ブルースは彼に恨みを持つ数人の賊に 襲われ,危ないところをビューフォート侯に助けられる。

これでブルースは戦意を失うが,「義務を果たした・S一けの こと。さあ,構えろ,義務には恩義など伴わない」(】V,

iv.55−6)と言われ,決闘となる。しかし,ビューフォー ト侯の方が剣術の腕は上で,ブルースを刺す前に剣を止め る。二度までも命を救われたブルースは生き延びてもグレ イシアーナの気持をとりもどすことは出来ないと言って,

自害して重傷を負う。看病にあたる妹のオーレリアの愛情 を知って生きる意欲を持ち,彼は怪我から回復する。

 ビューフォートは「運命にまかせていると,いつまでも この対立が続く」(皿.Vii.50−1)と思うのに対し,グレ イシアーナは「野戦場に出かけて行ってブルースに会った りしないで。あなたの心は私のもの。私に与えて下さった その心をあの荒くれ者にさらすつもり?あの人たちは名誉 心というものがないのよ。友だちだって譲れるようなゲー ムに平気で名誉を賭けたりするんですから。さあ,その怒 りのために,愛を曇らせることがないことを証明して」(IH.

vii.42−55)という。これが結婚条件(Proviso)である。

High Plotの倫理観(IV.v.32一一51)

ビューフォート侯 ここに征服者は勝利を忘れ,何に  も勝るあなたの目の前に誉れを差し出します。グレ  イシアーナ,あなたの賎しき下僕があなたよりの審  判を求めんがために,戦いに勝利してもどりました。

勝利を喜んで下さい。名誉に対して不実であるなら,

 あなたに対しても不義ということになる。

グレイシアーナ 不実な方,裏切りを許してもらえる  とお考えですか。悪い予感に気を取り乱して,ため  息にのどをつまらせ,涙に溺れんばかりに,あなた  のはやる気持を静めるよう,昨夜お願い申し上げた  折,あなたは決して戦いませんと約束なさいません  でしたか。退ち去って,自分の勝利に酔うがいい。

 私の敵となって野戦場に出向き,今,私の憎む人,

 私の悲しい運命の邪悪な手先となってもどって来ら  れた。寛大な恋人の誠実さを試めすために,あなた  に愛を装ってみただけのことだった。(退出)

ビューフォート侯 ああ,天よ,わが運命の何たる奇  妙,何たる残酷。愛のために保たれた運命が,憎し  みによって滅ぼされるとは!

 「私のために血を流し,私のために死ぬ」(v.i. 84)人 こそ寛大な情熱を持つ,夫にかなった人と考え,「ビュー フォートの恋仇が助かればビューフォートと結婚しよう。

しかし,私のためにブルースが命を落とすことになれば,

哀悼の意を貫き」(v.ii.34一一5),一一生独身を通すと誓う。「我

が魂は運命によって,何と妙な方向へ連れて行かれるので あろうか。わが慕う人を憎んでいるふりをしなければなら ない。嘲笑を装って彼の姿を避けねばならない。あの人の 姿が見えないのが最大の悲惨なのに」(V.i.103−6)と嘆き,

愛は名誉によって引き裂かれる。

 このhigh p玉otの部分はすべて韻文で書かれ,散文の部

分と対比をなし,悲劇の様相さえ呈するが,男に寛容さ

(generous)(V. i.83)を要求するあたりは,王政復古期 のヒロインの特徴である。

 この作品の英雄的筋立て(heroic plot)は愛と名誉のも つれで,この時代の英雄劇の様相を呈し,名誉の法規とで もいうようなものがあって,それが人物たちの行動と態度 を規制し,愛と名誉の葛藤の中で絶えずこの法規が愛より 勝っている。4

Low Plot(低俗な筋立て)①従僕ドゥフォイ 未亡人の

下女のべティーを恋するフランス人のドゥフォイはいんぎ んに,嘲笑的に,ベティーに言い寄り,彼女はその失敬な からかいに腹を立て,今度仕返しをしてやる(ll.i.77)

と言う。彼はみんなに叩かれ,生傷が絶えず,顔色も冴え ない。「イギリスの外科医の奴め,桶の蛇口を止めやがる から,水液がどんどん上って来て,肩から頭の中まで入っ ちゃった」(且.i. 12−4)と言うように,梅毒をわずらって いる。ひどく泥酔して,ころがって眠っているときに首と 腕だけ出て,底の抜けた桶をベティーに着せられて,ダル マのような姿だ。この場面がこの作品のもう一つの題名『桶 の中の恋』になっている。

ドゥフォイの場面(IV.vi.22−77)

ベティ さあ,やかましい音でこの紳士の目を覚まし  て頂戴。(バイオリン弾きが演奏する)

レティス 目脂で瞼は堅く閉されて,手はとどかない  し。(ドゥフォイは目を覚ましはじめる)旦那,手  を貸しましょうか?

ドゥフォイ 何しやがるんだ,畜生。これは何だ。お

 れはびっくり箱か?誰だ,おれをこんな中に入れ

 てやがつた奴は。

ベティ お早よう,旦那。今朝も薬を飲むんだろう?

ドゥフォイ 飲まねえよ。お前なんかこそ,悪魔に呑  まれちまえ!こんな目に合わせやがつたのはお前だ

 な?おれはイギリス中の女中を片っ端からぶつ殺

 してやる。

レティス 旦那,一杯やるかい?中味が体にいい飲

 み物が入ったビンがここにあるよ。

ドゥフォイ お前までが畜生,おれを苦しめやがって。

(7)

G.エサレッジ(1634一ユ691)の喜劇 西村

 こんな侮辱はありゃあしねえ。

ベティ 旦那,とても格好いいよ。そら,愛の告白で  言い寄ってごらん。冷たくあしらったりしないから

 さ。

ドゥフォイ 悪魔のいとこなんかと結婚出来るかって  んだ。ばかやろう。

レティス じゃあ,この人ったら女房をどうするつも  りなんだろうね。女房を入れる余地がないけどね。

ベティ 旦那,どうして頭を中へひつ込めないのかね。

レティス 外は嵐が吹きまくっているんだよ。

ドゥフォイ てめえの処女膜こそしまっておけだ。ざ  まあみろ。

御者 手袋とかリボンとか,何かフランス製品の売り

 物はないのかね。そうやって屋台を構えてらっ

 しゃつて,旦那。

ドゥフォイ あるともよ。使い勝手のいいホールダー  はどうかね。畜生/こいつを壊せないだろうか。

ベティ 旦那,汗が出て来たわ。この桶は体にいいわ

 よ。

ドゥフォイ もう我慢がならねえ。こいつを壊すか,

 おれの首を折るかだ。てめえら,みんな吊し首にし  てやるからな。(出ようともがく)

レティス そら,わめきはじめたわ。頑張って!

ベティ 彼の気持を落ちつかせるために早い曲にし

 て。(曲がはじまり一同まわりで踊る。ドゥフォイ  は桶を身につけたままよちよち歩く)かたつむりが  お家をしょって,上手上手。あんたの女房じゃなく  て残念ね。女房だったらほんもののかたつむりにし  てあげるのに。頭に角が生えてね。

ドゥフォイ 我慢しか他に仕方がない。悪い売女たち  だ。畜生!何も言うまい。

ベティ すてきな舟だわ。よく浮くわよ。馬洗い池へ  連れて行かない?

レティス 機.嫌のいいうさぎみたいにふくれっ面に  なってきたわよ。置いて行きましょうよ。

御者 旦那,これで失礼つかまる。

ドゥフォイ ウー,首をくくることも出来なきゃ,溺  れ死ぬことも出来ない。身を隠して,飢え死でもし  よう。こしゃくなイギリス人に笑われてたまるか。

 ウー。

 ドゥフォイは梅毒の苦痛をベティの嘲笑のためだと言っ て彼女のせいにしたが,その仕返しをされた。

 エサレッジにおいてはシェークスピア同様,性病はから かいの対象となる。この病気は社会的な問題ではなく個人 的なもので,個人的な不幸でしかなく,丁度,酒の呑みす

ぎが肉体的苦痛をもたらすのと同じだ。5ここの発汗桶は 17世紀の一般的な梅毒の治療法であった。6機知の才がな

いためにフランスでお払い箱になった男で,簡単に人にか

つがれ,鈍重で不器用で物笑いの種となる人物である。7 サー・フレデリックが楽士を警官に変装させると,ドゥ

フォイは主人を窮地から救おうと,かぶとをかぶり,大刀 を手にして楽士たちに襲いか・るが,このような変装はこ の当時の秩序であり,この芝居が楽しいバーレスクになっ ている。8

②許欺師たち ペテンにかけられるサー・ニコラスは,母 が昔ベティーの祖父の酪農場で働いていた女で,父が並み 外れて王に対して不敵,不義を働いたことが称えられて,

オリバー・クロムウェルから勲爵士の称号が与えられた。

才能もなく,虚栄心だけは強いが世間知らずで,成り上り だから,勲爵士が板についておらず,コピー人間(mirror of knighthood)(V. ii.123)である。カモ(deer)で半バ カ(half−wit亡ed)(1. iii.81)と目をつけられ,親しく近 づいたウィードルから恋のアバンチュールを持ちかけられ て,「貧欲な魚で,釣人が糸を垂らさないうちに魚の方か らとびついた」(1.iii.・81−5)。居酒屋で待ち合わせるが,

相手の立入が来られないということになって,飲んで陽気 になったところでサイコロ(box and dice)(II.iii.117)

の賭博に誘われる。即ち,ウィードルの友人のパーマーは 金持ちだから,ウィードルと組んで勝ち,金を山分けしょう というわけ。もし負けてもウィードルが頼んでツケで勝負 を続ければ,負けも取りもどせると。結果はパーマーに負 けて,共に1,000ポンドの借金となり,サー・ニコラスは 払わないと言うので決闘となる。しかし,サー・ニコラス は怖じ気づいて,明日までに支払うという証文に署名する。

そこでウィードルはサー・ニコラスにサー・フレデリック に化けて,結婚を望んでいる金持ちの未亡人のリッチ夫人 に結婚を申し込むことを勧める。実はウィードルの娼婦の グレイスをリッチ夫人に化けさせて;結婚させ,とことん まで,サー・ニコラスから汁を吸い取ろうというわけ。

 しかし,一連の詐欺行為をサー・フレデリックに見破ら れて,楽士を警官に変装させて一同を捕え,借金の証文を 取り上げる。ウィードルはグレイスと,パーマーはグレイ スの下女ジエニーと,サー・ニコラスはサー・フレデリッ クの妹だと思っていたフレデリックの娼婦のルーシーと無 理矢理結婚させられる。

 業の誉れ(master of art),素早い手さばきで鳴らすパー マーは「干しぶどう酒の不思議を知っているだろう。お前 は玉の興だ」(v.iv. 76−9)と言われて,これは死刑の執 行猶予だ。本来なら絞首刑なんだからと納得する。頭の回 転が早く,ことば巧みに人をそそのかし,悪徳の数ほど美 徳を心得ているペテン師のウィードルは「若い相続人みた

一 117 一

(8)

いに手に入れないうちに財産に手をつけてしまった。(グ レイスの腹をさすりながら)この肉入りパイをはじめに切 り開いたときに,本当は結婚祝いまでお預けにしておくべ きだったとは」(v,iv.60−4)と観念する。

 このサー・ニコラスが滑稽なのは愚鈍で田舎者であるば

かりでなく,ピューリタンの祖先を持つからであり,g

ウィードルはこの時代の世俗的な生活によく見られる人物

の写真的な肖像画である。10この事実はRichard Head:

protezts Redivz rus: or the Art of Wheedling, or lnsinuation,

London,1675.の出版物でも明らかだ。このペテンの筋立

てはエリザベス朝の数多い喜劇の中心的な常套手段であ

り,11Middletonの『ミカエルマス開廷期』(1607)のう さぎ捕り劇の再現であり,特にエセックスの紳士(エセッ クス生れで育ち(Essex・calf)はバカという意)のイメージ の苦境は,サー・ニコラスのそれと酷似している。12

主人公のサー・フレデリックと未亡人のリッチ夫人

サー・フレデリックはしゃれ者(gallant)である。「女な んて手品師のトリックみたいなもので,純情な奴には神秘 的に見えるが,本質的にはペテン師の塊だ」(1.ii.197−9)

と考え,「女なんて魚みたいに,餌を引き離すと貧欲に釣針 に飛びかかってくる。とても用心深いから容易にだまされ

ない代りに自分のペテンにひっか・るんだ」(1.ii,

225−230)という女性観だ。そして「頓着しない振舞い」

(careless carriage)(1.ii. 218)をし,深夜の2時にウィー

ドルの娼婦の宿を訪れ,近所中に響きわたる音をたて,ド アを開けないからといって.「売女!売女!」とわめき,何 人もの松明持ちを引き連れて大行進をし,突然の・しり声 をあげ,お巡りさんともめて投げとばし,窓ガラスを次々 に壊わしたりする(1.ii.76−146)。未亡人リッチ夫人か らはっきりした結婚の色よい返事が得られず,毎晩酒と女 に浸り,失敗をしては翌日しらふのときに謝まったりする。

苦情を言って来た女がますますしゃべろうとすると,口を

手で抑えて「しゃべらせちゃいかん。5,6軒の紙工場の

音よりもやかましくなる。この女に比べりゃあ,引き潮の

ときのロンドン橋なんて静かなもんさ」(1.ii,125一・8)と 機知に富むことばがとび出す。ここはロンドンを舞台にの せたりするエサレッジの敏捷さ13の際立ったたくみな描写

である。

 さて,ヒーローのサー・フレデリックは飲んだくれで遊 び人。ヒロインの未亡人はすでに結婚を体験して男を知り 尽している。彼は自分が魅力的であるということを心得て 未亡人が彼を愛しているということを知っていて,何とか して男の目の前で彼女に愛を告白させたいと願っている。

そのためにからかい気分で,彼女に愛を告白しては身をか わす。未亡人の方はすでに彼に心を奪われているが,彼に ひざまずかせるまでは男に対して優位を保とうとする。

二人の恋のかけひきで男女の相克がたくみに扱われてい る。14互いに顔を合わせるチャンスを作ると,

その①(ll.i.17−100)

サー・フレデリック どこへ連れて行こうってんで

 す,未亡人。何を企らんでいるの?

未亡人 お庭を散歩して,涼しいあずまやでひと休み  するだけよ。

サー・フレデリック そんなみだらな物陰になんかと  ても行けませんよ。きっと愛の告白でもしょうとい  うんでしょうけど,おれの心はとても繊細だから,

 そんなこと打ち明けられたら破裂しちゃう。

未亡人 ひどい思い上りね。そんなふうに変に気取る  のはあなたの機知のせい?それともあんたの人柄な  の?

         (中  略)

サー・フレデリック ここに座って身を寄せ合ってワ  インでも飲もうよ。だいぶせかされたのでね,ねん  ごろに馴れ馴れしくする気になってきた。

未亡人 まあ,フリース屋か,あんたの行きつけの飲  み屋にいるみたいに,序すり合わせて私に飲ませよ  うっていうの?

サー・フレデリック そう,どうやったら満足いたYh  けるか。ぼくが普段睦まじく親しんでいるもののど  れかになってもらいたいんだ。

未亡人 まあ,私にどんな女になれっていうの?さあ  言いなさいよ。

サー・フレデリック そんなどっちだなんて罪深いこ  と言えやしませんよ。ああ,そんなふうに考えたら  たまらない。どうしてもそのどれかになってほしい。

         仲   略)

サー・フレデリック その唇に誓ってね。

未亡入 だめよ。やめて。

サー・フレデリック どっちが思い上りかな?おれが  キスをしたがっていると思った?

未亡人 敵の近くに置かれ・ば用心深くなるのはあた  り前でしょう。

サー・フレデリック 守りに自信があるというなら,

 どんな守りにするわけ?この恐るべき敵の接近に

 ラッパを鳴らすわけ?

未亡人 訓練を積んだ兵士にはそんなもの不要だわ。

 いざ戦いとなればラッパなんて使わない。鐘が合図

 よ。

サー・フレデリック なるほど退却の鐘か?

未亡人 どうして?

サー・フレデリック こっちは総動員かけて危険な火

(9)

G.エサレッ.ジ(1634−1691)の喜劇  西 村 を鎮火させるが,未亡人の方は激しい炎に包まれて

悲鳴をあげるから,ますます炎は燃え上る。

 サー・フレデリックのこの横柄な求愛はCongreveの ミラベルとミラマント夫人の愛へ連なり,Farquharの

サー・ハリー・ワイルドエアーで終結する。15

 次に,一人寝の未亡人を慰めてやろうと真夜中に未凹め 家の窓の下に楽士を連れて来てセレナードを歌い,通りか かったベルマンの鐘を取り上げて騒ぎ,中へ入れてもらっ て仮面舞踏会でもしょうと押しかける。未亡人を誘惑する つもりである。

その②(皿.iii.1−45)

サー・フレデリック こんな破目になるとは思わな

 かった。恋のために夜眠れないなんてことは以前に  はなかったことだ。…未亡人,おれに腹を立てない  でね。おれの恋心を茶化すと危険なんだ。まだはじ  まったばかりで,調子を取るようにしないと危ない  んだ。

未亡人 どうしろって言うの?

サー・フレデリック キスと,こういう猫可愛がりで,

 こうやって。(彼女にキスをする)

未亡人 だめよ。あんまりお行儀が悪ければ里子に出  しちやうから。あんたが思うほど,そんなの好きじゃ  ないのよ。

         (中  略)

サー・フレデリック 冷たい女だな。それじゃああん  たのメイドを貸してくれ。おれの愛情の強さをたし  かめたいんだろうから,あんただと思って彼女をう  んと可愛がってやるから。

未亡人 もし警官に監獄へでもしょっびかれたら知ら  せなさい。保険金代りに(みだらなことの好きな)

 仕立屋でも送り込んでやるから。

サー・フレデリック 勝手に寝やがれ。お.れの不幸よ  りもっと悪かろうに。さあ演奏開始だ。おれたちが  来ていることを広く知らせよう。あばよ,未亡人。

 一人虫なんて可哀そうに。膝でも抱いて寝な!

 このあっけらかんとした,さばさばした気分はエサレッ ジの後に続く作家たちにとって喜劇的なスタイルの手本に なっている。エサレッジの仲間たちはこの二人の場面を見 て,よほど意識的にエサレッジに反発でもしなければ,あ

われなほどにそれまで手本にして来たJonsonにもどるこ

とが出来なかった。16

 次にサー・フレデリックは未亡人の同情を買おうと死を 装う。未亡人が嘆き悲しみはじめ,「この人の死の埋め合

わせばこの世にない。なんて私は不幸な女。私の唯一の喜 びだったこの人なしにどうして生き延びられようか。何た る悲しみ」(W,vii.20−3)と本音を告白した途端にドゥフォ イが桶を着て入って来て,その姿に一同びっくりし,サー・

フレデリックもとび起きてしまい,笑いが起きて夫人は出 て行こうとする。

その③(IV.vii.4−58)

サー・フレデリック お願いだ,聞いてくれ。これま  で女を狂わせてきた悪魔にかけて。

未亡人 サー・フレデリック,誓いなんていいのよ。

サー・フレデリック こっちを向いて。微笑だけ見せ  て。そう,そういうふうに。キスをして,仲直りし  よう。(未亡人ふき出す)いくらあんたに財産があ  ろうと,二度と息の感じられるところまで近づくこ  とはなくなるよ。これ以上そばに居ると,未亡人,

 あんたにはもっと不都合なことだが,嫉妬心とイン  ポに襲われそうだ。(出て行こうとする)

未亡人 聞かなかったの?とても生き延びられない

 ほどあんたを愛している女に,そんなにいらいらす  ることないでしょう?

サー・フレデリック 未亡人,男の欲望が強くて,あ  んたもおれくらいに夢中になるまで寝かせたくない  位なんだ。(出て行く)

未亡霊 まあ,なんて幸運な出来事だったんでしょう。

 でなかったらあの人は私の女の弱さをいいことに高  慢になったでしょうから。サー・フレデリック,用  心のために,私が愛を告白する前に,もっと巧妙な  手をあんたに試してあげるから。

 次いで借金で首がまわらなくなり,執行吏にサー・フレ

デリックが逮捕され,200ポンド用意しないと監獄送りに

なるという知らせを聞いて,未亡人は200ポンドを出し,

その囚人を家の中へ連れて来るように指示する。(V.ii.

63−70)。実は楽士を執行吏に仕立てたわけで,未亡人は出 し抜かれたことに腹を立て,「ええ,自分への懲らしめと して,あんたを苦しめるためにも,前代未聞の呑んべえと 結婚してやるから」(V.ii.165−7)とくやしがる。サー・

フレデリックは「この金がなくなるまではあんたの邪魔だ てはしないよ。金のなくなるころにはそのばかげた誓いも 破棄されているんだろうよ」(V.ii.174−6)と言い,ポケッ トの金貨をチャラチャラ鳴らしながら勝ち誇る。そして,

「この2時間位は腹を立てますように。そうすれば仕返し したことになる」(V.ii.187−9)とつぶやく。

 愛はすでに双方とも告白しているが,双方の願う告白で なく,大団円までお互いのじゃれ合いが続く。

一119一

(10)

その④(V.v.43−89)(Proviso)

サー・フレデリック おや,未亡人。こいつらの結婚  式につられてここへ?よだれが出てるよ。

未亡人 そんなもの望んでいたら,あんたに身をまか  せていたでしょうに。

サー・フレデリック そんな意地を張って。おれと結  多して仕返しをしてやろうと思っているくせに。だ  が,この守り神のエンジェル貨幣がある限り,あん  たの呪いなんて効かないよ。鷹匠は鷹が獲物を攻撃  する前に褒美を与えたりしないだろう?

未亡人 空腹になれば,おとりにまた舞いもどるわ。

サー・フレデリック この世の空しさをもう少し味

 わったら,シュンとして自暴自棄になるかもしれな  いね。

未亡人 その空しさを同じように体験して,苦しんで  いる女と結婚すればいいわ。

サー・フレデリック とんでもない。そんな立派な道  義に基づく女をとても誘惑なんてする気はないね。

 いいかい。万一おれが善良で金をあんたのもとへ返  すといったら,えらそうに構えてぼくの好意を認め  ようとはしないだろうからね。

未亡人 あんたが感謝の気持を示すなんてあり得ない

 わ。私をそんなに間抜けだと思って?二束三文の

 品物をとりもどすためにあり帯すべてをゲームに賭  けると思って?

サー・フレデリック 未亡人,そうなさったらどう

 かって言ったんだ。少し用心深すぎるよ。とてもあ  んたにはおれはっとまらないね。お別れだ。

未亡人待ちなさいよ。さあ,お別れの握手をしましょ

 う。

サー・フレデリック だめだ。このおれの体(手のこ  と〉を知ったら別れられなくなるよ。そう,触って  確かめてごらん。(手を差し出す)

ベビル侯 妹よ,お前の好みを以前から知っていた。

 わしにまかせろ。サー .■フレデリック,さあ,彼女  を取りなさい。お互いに幸せになるんだ。

未亡人 ではあんたをわが家に受け入れる今,下女た  ちをせっせと彼女達の持ち場に就かせて頂戴。

サー・フレ.デリック 亡くした夫に非難されないな

 らば。結婚初夜のあの悪弊の掟がないならば。未  亡人,どんな古いしきたりがまだ残っているのか  い?おれは三組も縁組をさせた。ベビル侯,今  日ばかりは,この私に彼等を迎えにやるわがまま  をお許し願いたいのですが。連中を連れて来る  と,この喜びの日を倍増させることになるでしょ

し21te一一一一一一一一.

 どんなに短かかろうと未亡人のしめくくりの結婚承諾条

.件(Proviso)(V.v. 80−2)はエサレッジのどの作品にお いてもこの手段を拡大し,この期の喜劇を風靡して『世間 の習い』で完結することになる意義を持っている。17

 3 評価

 二つの対立する世界,即ち理想の世界(high plot)と

世俗の世界(low plot)が歌と踊りの網をなして描かれ,

その両極を突飛に,そして幻想的に統一させている。18こ の作品の面白さはheroとdupe, witとfool, gentleman

とfopの対比であろう。サー・フレデリックと未亡人の 世界は名誉に打ちのめされている規律の社会から飛び出

し,一方ヴォードビル的な行いしかない低俗な社会に

ちょっかいを出して楽しむ。

 主人公たちに機知が少し欠けているのはリッチ夫人が未

亡人のために,彼女は性的欲望が強いと考えられ,機知に 富んだ若い女の真剣さを失い,さらりとかわしていくから であろうか。この主人公たちはお互いに結婚しようと心に 決めているが,どんな形で結婚することになるのか,即ち,

愛のかけひきが興味の焦点になっている。重要なのは人柄 ではなく,二人の間で交わされるからかいであり,その軽 妙さと無頓着の装いである。未亡人のリッチ夫人は風習喜 劇のヒロインの三つの不変な貢物を備えている。即ち,機 知才覚と美貌と財産と。1gそして,サー・フレデリックは

この機知才覚と美貌と財産と結婚する。20

 サー・フレデリックの快活さ,目先のきく洞察力,意地

の悪さなどは才人の証であるが,礼儀i正しさの標準からは 逸脱し,行動には尊大なところが際立ち,ドリマントやミ

ラベルの基準に従えば騒々しさといい,粗暴な行為といい,

彼はtrue witの資質に欠けてしまう。

 この作品にはロマンチックなFletcher流の筋があり,

ペテンと賭博と騒々しさと酒酔いのMiddleton流の筋,

そしてドゥフォイのまわりには沢山の笑劇的な場面が密集 している。22Fletcherの『ムシューL一・トーマス』(1619)

の冷笑的なメアリーに言い寄るトーマスのように無鉄砲

で,そ・つかしい,かなり粗野なしゃれ者のサー・フレデ リックがメアリーに対応するリッチ未亡人に求愛する。手 を変え,品を変えて策を仕組むこのような状況設定の発端

はBeaumontとFletcherに負うところが大きい。23モリ

エールの『才女気取り』(1659)の陽気さと爽快さに感激

したという印象は劇の出だしにあり,モリエールの常套手 段のstaccato dialogtteの多用も目立つ。24

 この作品の成功は笑劇的な要素に依るものだと1655年1

月4日にPepysが書きしるし,その限界をはっきりと指

摘している。それは身の動きの面白さであって機知による

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