NDC−770, 922
G.ファーカー(1677?一1707)の喜劇
西村好 弘
(昭和62年8月31日受付)
(使用テキスト)
George Farquhar ed. with lntroduction and Notes, by Wil−
liam Archer, Ernest Benn, London, 1949.
Foreword(はじめに)
北アイルランドのロンドンデリー生まれのファーカーは
貧乏な牧師の子として1677年又は1678年に7人兄弟の一人として生まれ,父の仕事を継ぐべく,ダブリンのTrinity Collegeに学んだ。大学では下僕として努める義務を負う
給費生であった。ファーカー家はけして身分の低い家柄で
はなかったともいわれ,彼の母親はエセックスの准男爵の 息子である司教のワイズマン博士の親戚筋にあたるとも言 われ,もしそうなら,アイルランドとイングランドの混血 ということになる。
大学時代,ありたいと願う自分と現実の自分との問の開 きにいら立ち,その結果,社会的に異質で,弁舌下手で,
冷静さと親切,卑下と無礼の両極端に走った。瀬りにして
いた母の親三筋の高位聖職者が1695年に亡くなったためか,キリスト教の教義に逆らう言動があったためか,大学
を中退してダブリンのSmock Alley Theatreで俳優に なった。そこで知り合ったRobert Wilkesにロンドンへ 出て劇作家になることをすすめられた。Cibberによるとファーカーは俳優としては声が悪く,常に自信に欠け,生 れつきの憶病者だったという。確信と決断力に欠けて,不
器用で,Drydenの『インドの皇帝』のグヤモンを演じていたときに相手の俳優を刺してしまった。2この結果俳優を あきらめてロンドンへ出るのが,1697年である。処女作が 発表されるのが1698年の12月であるから,その問,どうやっ
て生計を立てたものか。劇作家になる前にすでにOrrery伯爵の尽力で将校任命辞令を受けていたようだ。軍の士官 にもなり,中尉になってオランダに外征し,劇作が行き詰っ た1705一 6年にかけて第6作の『徴募士官』の題名通り,
徴募士官となって,リッチフィールドとシュロスベリーへ 赴く。
彼の作品のサー・ハリー・ワイルドエアのような陽気で お人よしなしゃれ者的な性格と,教会育ちの倫理道徳観の 強い潔癖な性格と,育つ過程の貧困さがファーカーに入り
混り,「貧乏は罪悪だ」とか,「安心は人間を堕落させる」
など,瞬間瞬間に時代を先取りするようなことばが輝く。
「財産のない女は美人ではない」というセリフ通り,ファー カーは1703年に結婚するが,相手のヨークシャーの若い婦
人は結婚にふさわしい財産相続人だということで,年700ポンドの女性と結婚したつもりであった。しかし,これは 騙しで,おまけに婦人は初婚ではなかった。ファーカーは
彼女を告発せず,優しい夫として彼女に仕えたという。結婚を含めて数年間にわたる不偶な生活のあと,『徴募士官』
の成功で幸運がよみがえったが懐を豊かにするほどのもの
はなかった。Orm・nd公爵のすすめで,急場の必要経費のために,将校任命辞令を売却してしまうが近いうちに次の 辞令を手に入れてやるという約束は果してもらえず,その 後の生活の見通しが立たなくなった。3St. Martin s Lane
の屋根裏部屋で生活に貧して寝ているところへWilkesが訪れて金を与え,最後の作をベッドで書くことになるが,
すでに第二幕を終えたととろで死を予感したという。芝居 が上演されて三日目に息をひき取った。そして,幼い娘二
人の養育をWilkesに頼む遺書をのこしている。人生を享受したいと願いながら,人生のごちそうにあり つけないという不安に怯えているのがファーカー像だ。幸 運に恵まれたいと切望しながら幸運から締め出しを食う。
幸せを願う余.り幸せになれない。4ペテンにかけられる者こ
そ最大の間抜けという見方が風習喜劇で確立されていたし,そんな間抜けはしゃれ者の資格なしと嘲笑されるのが 王政復古喜劇の特徴であったが,ファーカーはしゃれ者で ありたいと願いながらペテンにかかる甘さがあった。その 分だけ彼の人生は痛ましい。
彼が劇作を始める寸前に,J. Collierというピューリタ ンの牧師が王政復古以来の劇壇を不道徳で神に対して冒漬 的であるとして糾弾する論文が発表され,代表的喜劇作家 が槍玉にあげられた。教会育ちの彼にはJ.Collierの言い 分も,喜劇作家たちの気分も理解出来たが,.いつも貧困な 生活から抜け出すためにはみんなに喜ばれる作品を書くこ
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とが目標であった。あちらを立てて,こちらも立てること により,作品には一貫性を失うことすら生まれた。
Collierやその他の道徳家のように彼もドラマに理念を
与えたかった。5且D魏。πr580ηαomedy(1702)の申で「人 間を教育すると上品になり,それが芝居の有効なところで あり,喜劇の第一のねらいである」6と述べ,それまでの喜 劇を半ば批判した調子で『貞淑なカップル』と『双児恋敵』
の序文やプロローグで態度を表明している。これはJ.
Collierの言う「芝居の意義は道徳を推賞し,悪徳を非難
すること」7ということばに合わせたものだ。
そして描くしゃれ者はすべて善意に満ちた人物になって いる。道徳性を喜劇に持ち込む余り,感傷喜劇か否かの議 論も出て,王政復古喜劇の代表作家より一段低い評価を受
けて来た。
IThe Constant Couple『貞淑なカップルs(1699)
第二作にあたるこの作品は感傷主義の色あいを帯びるが
巧みな筋立てとよく描かれた喜劇的人物に満ち,Drury−Laneの劇場での初演では大成功を収めた。そしてその後
18世紀を通して人気のある作品として観衆に親しまれた。
この作品の人気は中心人物のサー・ハリー・ワイルドエア に負うもので表面的には王政復古喜劇の,放蕩にして道楽 なしゃれ者だが,その不品行を装いながら実は善意に満ち たお人よしである。
1 あら筋
第一幕 第一場(公園にて) ウィザードは思いを寄せる アンジェリカに恋文を送ったが開封されずに戻って来た。
彼の偽善者ぶりが見抜かれてしまったからだ。彼女の母親 のダーリング夫人は彼を評価しており,今後は夫人を頼り にアンジェリカ攻略を考える。今晩は気晴らしにルァウエ ル夫人を訪れようと考える。
市参事会員で商人のスマダラーが現われ,本を立ち読み している。ヴィザードが心の清純さを汚す法廷のそばで聖 書を開いて祈禧していると思い込み,敬腱な男だと賛える。
スマダラーが法廷へ来たのは訴訟のためだ。税関吏からス ペインのワインの樽の中味はフランスのワインだと指摘さ れたからだ。そこヘスタンダード大佐が現われる。軍隊縮 小政策によって,除隊の憂き目に会い,今は救済施設の無 料宿舎に入っている。軍隊を心よく思わないスマダラーは 大佐をバカにして弁護士の方へ走り去る。
大佐は明日,ハンガリーへ行くという。ロンドンに居て も,せいぜいチャリングクロスからラドゲイトの刑場まで 囚人の行進の太鼓たたきを無報酬でやる位の仕事しかない からだ。それだけの信義と勇敢さがあれば女性を口説いて 結婚出来るだろうと言われると,財産家の美人が居るが,
簡単には男を寄せつけない有徳な恋人だと言う。そこヘフ
ランダースで戦役を終えた勇敢で陽気なサー・ハリー・ワ イルドエアが現われる。
貴族の彼は魅力的な女性に魅かれて,イタリアへ行かず に帰国した。美人で機知に富み,有徳なルアウエル夫人だ と言うが,スタンダード大佐の恋人でもあり,ヴィザード の気晴らしの女でもある。恋敵として六頭立ての馬車を乗 りまわすパリ育ちのワイルドエアの自負心をつぶさねばな らない。ヴィザードはワイルドエアに大佐との決斗をすす めると,刺されるのはいやだし,ロンドン陪審の判決を受 けるのもいやだから,その女をあきらめると言う。そこで アンジェリカをすすめられる。
兄のタリンチャV一が現われる。商人で,伯父のウィザー ドの丁稚であったが,今は詐欺的な商取引をしながら,しゃ れ者を気取ってる。
第二場(ルアウェル夫人の下宿) 夫人はマドリッド,ベ ニス・パリをまわってロンドンにもどって,すでに沢山の 鴨がかかっている。娘のころに男に裏切られて処女を失い,
男に対する復讐心を燃やす男たらしである。しかし,パリ で知り合ったワイルドエアが忘れられない。ワイルドエア に嫉妬を起させることが出来ず,一計を案じて決斗の破目 に追い込んだが,今は生きているもの.やら,死んだものや らと案じる。
そこへ鴨の一人,スタンダード大佐が入って来る。一途 に夫人に思いを寄せているが,今は除隊の身の上となり,
夫人の恋人の資格がないので明朝イギリスを発つと言う。
夫人は自分の財産で一緒に暮らしましょうと心にもないこ とを言う。大佐は下心を夫人に披露する。即ち,ワイルド エアから夫人を探してほしいと頼まれたが,彼をペテンに かけて,夫人を斡旋してブローカーまがいのことをして金 を巻き上げ,夫人に捧げたいという。夫人はワイルドエア について,パリの舞踏会で一度,踊りのお相手をしたらい い気になって,それ以降,しつこく恋文をよこして悩まさ れたと告げ,これまで来た恋文の束をワイルドエアに渡し てほしいと頼む。大佐は,彼から金を巻き上げ,彼の鼻を つぶしてやると言って小荷物状の束を持って出て行く。夫 人は逆に,この大佐を手玉に取ってやると笑う。
第二幕 第一場(弟のクリンチャーの宿) 田舎に住む弟 がロンドンに出て来たが,兄は亡父の家督を継ぎ,贅沢な 生活をしている。兄が訪れ,イタリアの聖年祭,ジュビリー に出かけると言う。
第二場(ダーリング夫人宅) ヴィザードから紹介状をも らってワイルドエアが訪れる。彼が財産家で,地位があり,
まじめで信仰心が厚いと紹介されており,夫人は満足して 娘のアンジェリカを連れて来る。
二人は共に一目惚れしてしまう。アンジェリカは彼が縁 談相手だと思い,ワイルドエアはここが売春宿だと思って
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20ギニーの金貨を差し出す。彼女は愕然として退出する。
ワイルドエアは金額が少なかったと誤解する。そこへ弟の クリンチャーと下男が入って来る。ワイルドエアは金を貸 してくれと頼むが断わられ,金を取りに宿へもどる。
第三場(通り) ワイルドエアがアンジェリカに肘鉄砲を 食って来ると,大佐はからかって彼をほめあげ,ルァウエ ル夫人から解任状(恋人としてお払い箱)をことずかって 来たと言って手紙の束を渡す。ワイルドエアの虚栄心を持 ち上げておいて,一気に叩きつぶそうというわけ。ワイル ドエァは夫人とは人差し指と親指の間柄で,共に愛を誓い 合い,身も心も溶け合った仲だと言う。手紙の束の中に夫 人直筆の手紙があり,読むとワイルドエアへの色よいこと ばがある。そしてペルメルに宿をとっていると言う。
大佐は勝ち誇って退ち去り,ワイルドエアは夫人のあざ やかな手さばきとその機点のよさに感服する。そこヘヴィ ザードが来る。ダーリング夫人の紹介状でうまくいったか どうかたずねると,ワイルドエアはうまくいかなかったが ルアウェル夫人の居所もわかり,夫人の方にすると言う。
ヴィザードは予定が外れ,最後の手段は大佐とワイルドエ アとを対決させて一方を死なせ,他方を殺人の罪で吊し首 にさせてやろうと決意する。
第四場(ルアウエル夫人の宿) 夫人の愛人の一人,商人 で年配のスマダラーが訪れる。夫人を娼婦にしながら金を 出さないほどのけちで,おまけに夫人の財産に関する書類 まで預かり,財産をのっとらないとも限らない。夫人は彼 に金を催促しても,税やら,関税やら,船の遭難やら,女 房族の経費やら,銀行商いの低調やらを理由にして出さな い。夫人が訴訟を起こして,彼の信用をなくしてやると言 えば,徳が高く,信仰心が厚い世間から信じられているか ら大丈夫だと言う。沢山のギニー金貨を示して一つを口に 入れ,口うつしで一つ・ つ受け取れと言う。そして売春行 為を要求する。そこヘワイルドエアの来訪が告げられるの
でスマグラ「を隣りの部屋へ隠す。
フランスで別れて,二ヶ月ぶりの再会である。夫人の仕 継んだ決斗でフランス人伯爵がワイルドエアに殺されたよ うだ。夫人はこ・へ来てから大佐にしつこくつきまとわれ 悩まされていると言い,結婚してほしいと言い出す。ワイ ルドエアはすぐ承諾するが,しゃれ者の言うことを信用出 来ない。夫人は,フランスで,ある商人が彼に為替手形を 発行したが,ずるい取引をしたと言う悪い噂があると言い その商人はスマダラーだと言う。ワイルドエアに言わせれ ば,この数年間に500ポンド以上を騙し取られたと言う。
これから王立証券取引所へ行って,鞭打ちの刑に処してや ると興奮する。夫人はスマダラーが隣りの部屋に居ると教 えて出て行く。夫人はスマダラーがひどい目に会い,ワイ ルドエアは裁判沙汰になって苦しむことを願う。
第五場(同じ宿の隣室) スマダラーは乗船税関吏の厳し い検査で5,000ポンド相当の船荷を没収されて,その損失 を嘆いている。そこヘワイルドエアが入って来て,威圧す る。スマダラーは金の取り立てだと思い,持ち合わせがな いと言うと,そんな金のことより,お前をこうやって叩か せてもらうそと言って棍棒で叩きはじめる。スマダラーは 人殺しつ!重罪行為だ!とわめく。ワイルドエァは冷静に 叩き,なぐり倒す。床の上をころがりまわる間に,ポケッ
トから手帳がこぼれる。
夫人が入って来て,この手帳を拾ってしまう。夫人はワ イルドエアを責め,スマダラーを慰め,今夜,いたわって あげるからいらっしゃいと言う。スマダラーはワイルドエ アに決斗を申し込むと言い放つと,ワイルドエアはかぎタ バコを彼の目に投げつけ,スマダラーは目が焼けるほどに 痛いと悲鳴をあげる。
第三幕 第一場(通り) ヴィザードはワイルドエアが大
佐のことを間抜けだと言づていたと大佐に伝えると,大佐 は上品にも恋敵のワイルドエアにルアウエル夫人の居所を
教え,二人の恋人同志のとり持ち役を演じてしまったと悔いる。決斗を決意して,果し状を作り運び屋に持って行か せる。
第二場(通り) 兄のクリンチャーはしゃれ者を気取って,
イタリアの聖年祭に出かけるにあたって,ワイ.ルドエアか ら知恵を授かろうとワイルドエアを追って来る。ピストル を用意し,難船に備えて潜水着も用意したという。
ワイルドエアはアンジェリカを忘れ切れず,もっと金を 積むことに決める。
第三場(ダーリング夫人の家) アンジェリカは女のしと やかさとは男の隷従であり,愛に好みが許されない女の立
場の不幸を嘆く。そこへ母親のダーリング夫人に案内されて弟のクリンチャーが入って来る。アンジェリカはこんな 男には気がない。
そこヘワイルドエアが入って来て,前回の失礼を詫びて
今度は500ポンドまでならと言って求愛する。アンジェリカはワイルドエアから真実の愛のことばを求めるが,ワイ
ルドエアは彼女が高級売春婦だと思い込んでいる。アンジェリカも脇に落ちず,怒って出て行く。
ヴィザードが入って来ると,ワイルドエアはパリで50ギ
ニーの半額で伯爵未亡入の下側も買うことが出来たのにと
首をかしげると,ヴィザードは女の気取りで,寝室まで押し入ってほしいという意志表示だと言う。次回はブドー酒 の勢いを借りて押し入ってみると言う。ヴィザードはワイ
ルドエアに大佐からの伝言でピアザに行くように指示する。決労してワイルドエアが殺させることをヴィザードは 期待している。
第四場(ルアウエル夫人の宿の前の通り) バルコニーの
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上で兄のクリスチャーとルァゥエル夫人がいちゃついてい る。大佐は堕落した女だと腹を立て,その相棒を叩きのめ してやると怒って宿へ入って行く。
第五場(食堂)夫が帰って来たと言って兄のクリンチャー をおどす。クリンチャーがうろたえているところヘワイル ドエアを探しに運び屋が入って来る。夫人は一計を案じて グリンチャーと運び屋と服を換えさせる。そして,運び屋 を隣りの部屋に隠す。
大佐が入って来て,ワイルドエアの恋文の束を運ばされ て,ぬけぬけと出し抜かれたと怒り,夫人はいろいろ嘘を 並べたてるが,大佐の嫉妬深い目をごまかすことが出来な い。一緒にいたクリンチャーのことを冷めると,夫人はあ れはワイルドエアの下男だと嘘を言う。隣りの部屋から運 び屋を呼び出し,ワイルドエァのところへ帰す。大佐は疑っ たことを埋まるが夫人は怒って出て行く。
そこへ階下に隠れていた兄のクリンチャーが上って来
る。大佐を夫人の夫だと思い込む。大佐はワイルドエアと の果し合い状を運び屋に持って行かせたが,クリンチャー をその運び屋だと思う。ワイルドエアに会えたか確かめる が,タリン.チャーには何のことやらわからず,いい加減な 返事をして,大佐にさんざんなぐられる。
夫人はうまくいった,「志あれば成る」とほくそ笑む。
そこへさんざんなぐられたクリンチャーが出て来る。とり 換えた服を返してくれと言うが,すでに運び屋は行ってし まった。クリンチャーはイタリアの聖年祭に行くための大 切な晴れ着だから,怒って出て行く。
夫人は男たちを次々とたぶらかすが,男への復讐を誓っ てのことである。昔,オックスフォードシャーで15才の娘 のころ,三人の若者から一夜の宿を頼まれ,彼女の父は彼 等を泊めた。そのうちの一人はとても好感の持てる若者で もう一夜泊るようにすすめた。彼は彼女の部屋を訪れ,愛 を告白し,涙ながらに結婚を誓い,その夜,結ばれた。彼 は二週間したらオックスフォードから戻って来て,結婚す ると言った。そして,二日後に手紙で名前も身分も知らせ るということだった。そして彼女は「愛と名誉」と刻まれ た指輪を彼に与えて別れたが,それっきり。間もなく父は 亡くなり,家督を継ぎ,年3,000ポンドの財産を受けるよ うになった。ヨーロッパでも多くの宮延人たちに復讐した。
これから好色家のスマダラーを痛い目に会わせたり,彼の 甥のヴィザードにも手紙を書いて懲らしめてやると言う。
第四幕 第一場(コベントガーデン) 大佐とワイルドエ ァが顔を合わせ,大佐は決斗を申し込む。しかし,ワイル ドエアは准男爵で年8,000ポンドも入るのに無駄に命を失 いたくないと言う。おまけに喧嘩を商売にする大佐と斗う のは狂人だと言う。女のことで争う位なら,どんな女でも 譲ると言う。しかし,ルアーウエル夫人のような女には大
佐のような気性の男には無理だと言うと,それなら夫人が ワイルドエアに気のあるところを示させてみうと大佐は言 う。さて,どうやって証明するか。群衆を避けて二人は姿 を消す。
群衆に囲まれて運び屋のトム・エランドの女房が夫の服 を着ている兄のタリンチャ.一を責めている。美を殺したに 違いないと言う。トム・エランドはクリンチャーの十年祭 用の服を着て行ったというが信じてもらえない。群衆はテ ムズ川へ投げ込めと騒ぐ。警官が現われ,はじめは丁重に クリンチャーを扱うが,貴族でないことがわかり,持物の 検査をすると,ピストルが見つかる。そのため,ニューゲー
ト刑務所行きとなる。
さて,ワイルドエアと大佐はルアーウエル夫人の宿の近 くまで来る。どちらが夫人を口説けるか競ってみようとい うことになる。そこで30分後に居酒屋の『ラマー』で会う ことにし,ワイルドエアは夫人の大事な手鏡をもらっ.て来 て見せると言う。
第二場(通り) 弟のクリンチャーは下男の兄の放蕩ぶり を嘆き,死んでもらいたいと言っていると,運び屋のトム・
エランドがジュベリ一服を着て現われる。高く売りとばす ためには人に気づかれないようにコベントガーデンを通り 抜けて河辺まで抜け出ようとしている。弟のクリンチャー は彼を捕え,兄を殺して服を盗んだときめつけ,殺したと 正直に言えば半クラウンやるという。そこで,殺したと言 うと,これで家督を継げると.弟は言う。自分が聖年祭に行 こうと考え,服を脱ぎかえさせる。そして,トム・エラン ドに治安判事の前で兄を殺したと証言してもらう必要があ る。下男にトム・エランドを抑えておけと命じ,弟はアン ジェリカのところへ行き,求愛し,一緒に聖年祭へ出かけ ようと誘うことにする。
第三場(ルアーウェル夫人の家) 手紙でヴィザードを招 き,彼の伯父のスマダラーは夫人の注文通り女装をして,
夫入の乳母になりすまして来させている。このとき,ワイ ルドエアが現われる.と,夫人に求愛をはじめる。しかし,
夫人には二人の男を出し抜く計画があって大わらわ。改め て来るように言って追い出す。
部屋を暗くし,ローソクを持った下女がスマダラーを案 内し,こっそりポケットに二本のスプーンを忍び込ませる。
そして,夫人が来るまで押入れに隠れるように指示する。
次いでヴィザードを案内して来て,すでに夫人は押入れ の中に居ると伝える。ヴィザードはいつも明るい,人前で は禁欲主義者に振舞っているが,人の居ない暗闇では快楽 主義者。暗いのを喜ぶ。押入れの中のスマダラーは甥のヴィ ザードであることを知る。ヴィザードはてっきり夫人だと 思い,色欲まる出しで求愛する。スマダラーは夫人になり すまし,信仰心と高潔さはどうなっているのですかといな
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G.ファーカー(1677−1707)の喜劇 西村
すと,それは女を騙すだけでなく,財産を相続するためで あの老いぼれの商人のスマダラーを騙ますためだと言い,
スマダラーの悪口を並べる。どうせえげつない手口で築い た財産を派手に使ってやると言う。スマダラーは甥の魂胆 が見えて,財産を相続させまいと考える。このとき明かり が見えるのでヴィザードは退出する。
そこへ執事と下男たちが入って来る。どうしても二本の スプーンを探さねばならない。興れかが取ったに違いない。
スマダラーを見つけ,身体検査をするとポケットから二本 のスプーンが出て来る。泥棒として吊し首,魔女として火 あぶり,売春婦として市中ひきまわしにあわせてやると言 われると,夫人の乳母だと言う。夫人が現われるが,こん な老婆なんか知らないと言い,この女をニューゲートへ連 れて行けと命じる。
第五幕 第一場(ダーリング夫人の家) 夫人は娘のアン ジェリカにご.
黷ゥら気むつかしい貴族が結婚を申し込みに来るから,恥かしがらずに思い切った手を使ってものにす るように忠告する。ワイルドエアが現われるが,相変らず ここは売春宿だと思い込んでいる。高慢で気むずかしい女 に対応するためにワインを呑んで酔っている。アンジェリ カは無礼千万なワイルドエアに腹を立て下男たちに縛りあ げるように命じると,ワイルドエアは刀を抜く。金をばら まいて下男たちに金を拾わせ,連中を追い出す。そして,
彼女を口説きはじめる。そして財布を差し出すと,アンジェ リカは叩きつけ,ふみつける。
夫人が入って来ると彼は金を渡し.たのにアンジェリカが 横柄だと告げると,夫人になぜ金など渡したのかと言われ 彼は面くらう。実はヴィザードのペテンにかかってここを
すっかり売春宿だと思い込んでいたことに気づく。ヴィザードからの紹介状には結婚申込みとある。ヴィザードを 殺害して,法律によって自分の首に縄をかけるか,女と結 婚して自分の首を絞めるか。斗うのは憶病者のすること。
勇気を出して結婚すると決意する。
第二場(ニューゲイト.の牢屋) 兄のクリンチャーが投獄 され,ジュビリーへ行くつもりがホバーンからタイバーン への旅になると嘆いていると,看守に連れられて伯父のス マダラーが入って来る。彼は看守に金を握らせ,数通の手 紙をとどけるようにたのむ。釈放を求めるためだ。二人は 顔を合わせ,相手をくさしはじめる。
そこへ運び屋のトム・エランドが入って来る。クリン
チャーがジュビリ一服を返せと言えば,お前の着ているも のを脱げと言う。紳士にむかって何という口のきき方だと 言うと,ここは公共福祉の特別区で身分の上下などないと 言い,地下牢へ連れて行ってから,出所させてやると言う。
第三場(ダーリング夫人の家) ワイルドエアはアンジェ リカとの結婚が決まり,宴会の知らせを下男たちに伝えさ
せる。
大佐が現われるとワイルドエアは胱惚とした気分にさせ
てくれるのは女しかない。この世の傑作で神の微笑とは魅 力的な貞淑な女のことだと結婚を喜ぶ。大佐はすっかりル アーウエル夫人に鼻であしらわれて女に対して恨みをいだ くようになって,女を酷評する。男の苦悩と人生の災いは 女そのものだ。男に血道をあげさせるのも不貞な女だ。バ ジリスクのように破滅を逆なでし,肉体は天使のようだが 魂の方は下卑なものだと言う。
そこへ弟のクリンチャーが勲爵士然として聖年祭へ出か
けると言って入ってくる。兄が殺され,財産を相続し,こ
れで才人となって放蕩を尽せるという。そこへ毛布をまとって兄が出て来る。弟は兄が生きていることがわかると,
法的にはすでに死人になっていると言う。この兄弟に対し て,大佐はこのような間抜けが旅をすれば祖国の恥さらし で,外国の悪習を身につけて帰るとこれぞ当世風の礼儀作 法とばかり悪習をまき散らすにきまっていると言う。
このとき招かれざる客のルアーウエル夫人が現われる。
ワイルドエアは偽証者で拘束力のある誓いを忘れたかと言 い,これがその証拠と言って指輪を示す。これには「愛と 名誉」ということばが刻まれている。大佐は夫人の大佐へ の裏切りの罪には平然とかまえ,恥を感じないとはげしか らんこと。罪の代価を忍べと言う。すると夫人はこれぞ女 の誉れ,女の正義とは男たちを吊し首にするか溺死させる かの行為にあると言い,男を裏切る女の眼差し,好意の表 情,微笑,涙こそ称えられるべきものと言う。大佐は実に すばらしい人生訓だと言い,女性に真実というものがある とすれば,それはあんたにこそ真実性があると皮肉る。そ して,その指輪を指差し,あの12年前のことば,表情,涙 を信じていたし,夫人の真実性を抱き続けて来たと述べ,
12年前にその指輪を夫人から受け,ずっと大佐が指にはめ ていたと言う。ここではじめてその指輪に気づき,結婚を 約束した男が大佐であったことを知る。なぜ,あのとき戻 るといいながら戻らなかったのかを問うと,実は兄と喧嘩 となり,災いを避けるため,父が大佐を外国へ出し,ロン ドンから手紙を出したが夫人の手に届かなかったようだ。
3年後帰国すると夫人が国内に居ないことがわかり,夫人
を探し求めてフランダースへ行き,軍隊に入り,アムステ ルダムからの帰りの船で二人が顔を合わせたとき,お互い に気づかず,再び一目惚れしたが,婚約者が居ると言った ように,あくまでも真実を貫いて来たことを夫人に証明す る。夫人のかたくな気持がほぐれて二人は改めて結婚を誓 い合う。
そこヘスマグラーがヴィザードを探しに来る。そして,
彼は偽善者だと言い,彼の甥に財産を相続させないと言う と,美人はあんただって同じ穴のむじなだと言い,借金の
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津山高専紀要 第25号 (1987)
返済を要求する。大佐から手紙を見せられる。夫人の家で ワイルドエアにポケットから抜き取られたものだ。この手 帳にはスペインのワインの樽にフランスのワインを詰めて 密輸したことが記されている。夫人の一切の書類を返せと 迫り,次いで警察へ訴えるかどうか決めると言う。これは 大変だ。クリンチ.ヤー兄弟が,一緒に聖年祭へ行こうと誘 う。免罪のチャンスだからだ。みんなから,あこぎな商い をしない方がいいと言われ,強欲を捨てるようにからかわ れる。
2 場面解説.
ワイルドエアとアンジェリカの場面
①出会いの場(ll.ii.)
ヴィザードの紹介状をもって,ワイルドエアはダーリン グ夫人の家を訪れる。.ダーリング夫人も娘のアンジェリカ も縁談相手だと思っているが,ワイルドエアは娼婦を紹介 されて,売春宿を訪れたと思い込んでいる。二人は顔を見 合わすと,すぐ一目惚れしてしまう。
ワイルドエア (傍白)これぞ愛の支配力。天使のよ
うだ。え一と,いくら持ち合わせていたかな。20ギニーしかない。ジュピターにかけて言うが,これは 100ギニーに値する代物だ。
.アンジェリカ (傍白)この方かしら? 同じ人?
人柄が楽しい気分で見たところとても感じのよい 方。ああ見つめてばかりいないで沈黙を破ってほし
いわ。
ワイルドエア (傍白)何と清純なんだ。あの解しみ
深さは女の貞淑をひきたて,売春だって美しいものにしてしまいそうだ。あの堂々とした清純さが顔を 一面に漂うと,とてもことばをかけられない。
アンジェリカ (傍白)本物の愛の呪いと取り澄まし しかこの方の心を捕えておけない。もう私の心はと ろけちゃった。
ワイルドエア あのお,私は……。(傍白)どうも口 がきけない。でも,この女は売春婦なんだ。大丈夫。
(声を出して)要するにですね。(傍白)この偽善 者め,何と魅力的な罪深い女なんだ。
アンジェリカ (傍白)あの方も参ってるわ。何とか 気をしっかり持たなければ。(声を出して)あの,
何かお話があるように承りましたけど。.
ワイルドエア (傍白)何かお話だって? うまいこ とを言う。(声を出して)そうです。あの,鳴鳥な どお好きですか。
アンジェリカ (傍白)恋人にしては妙なことを言う わ。(声を出して)ええ。
ワイルドエア 籠の中で鳴いた鳥の中では最も奇麗な
ゴシキヒワ(金貨のこと)の巣がここにあります。
20羽ほどの。
アンジェリカ 20羽ですって.ノ それで?
ワイルドエア それでって,20羽です。20羽あればよ いと思いまして。
アンジェリカ (傍白)この人,頭がおかしいわ(声 を出して)ワイルドエアさん,もっと才知と作法を 身につけてから出直してらっしゃい。(退出)
ワイルドエア 才知と作法だって? 20ギニーあれば 才知と作法は十分だと思うが。現在,おれの持ち合 わせている才知と作法はこれだけだが。
アンジェリカとワイルドエアとの関係は誤解の上に成り 立っている。これはファーカーの筋立ての仕掛けである。
アンジェリカを慕うヴィザードはワイルドエアに彼女に美
徳なんて100ギニーも出せば金で買えるものというのでそれを信じて,金でアンジェリカを誘ったわけだ。1
さて彼女に肘鉄砲を喰ったワイルドエアは再び第三幕第 三場でダーリントン夫人宅を訪れる。、アンジェリカは真実 の愛のことばを期待するがワイルドエアは彼女が高級売春 婦だと思い込んでいるから,うまくいかない。
②誤解が解けて婚約する場面(v.i.)
最も有名な場面である。母親のダーリング夫人は娘にし とやかさを犯す破廉恥だなどと考えずに,特別な刺戟的な 手を使うように励ますと,アンジェリカは「形だけの上品 さは貞淑をもの怖じさせ,女を飾るブレスレットというよ りむしろ奴隷の鎖に見えてしまいます。仕掛けられない間 は鳩のように気さくで無邪気でいても,一旦,攻撃されれ ば鷹のように厳しく勇猛に反撃します」と悲壮な決意を明 かす。夫人は「彼の陽気を侮辱と勘違いしないように」と なだめ,ヴィザードの手紙通りすすめて真相を究明しよう ということで,ワイルドエアの訪問を待ち受ける。
ワイルドエアは酒の勢いを借りて登場する。
ワイルドエア 愛とブルゴーニュワインの喜びよ,あ なたを祝してたて続けに15杯も乾杯をして,杯ごと
にドジョウのような愛の矢を入れて呑み干しました。
アンジェリカ それで?
ワイルドエア それで,ワインは頭に上り愛の矢はわ が心に入りました。あなたが心の炎を消して苦痛を 和らげて下さらなければ,もう駄目です。
アンジェリカ 泥酔は紳士が無礼を装う見せかけで
す。弁解は過失同様,破廉恥ですもの。あなたはいつ たい誰にむかっておっしゃっているの? 状況次第 では半ダースもの下男を呼ぶ位の身分はあるのよ。
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G.ファーカー(1677−1707)の喜劇 西 村
ワイルドエア いや,私をお仕置して,毛布で胴上げ しょうというなら半ダースの下女の方がありがたい がね。舌のもつれはワインのせいだがその代り短刀 直入にしゃべらせてくれるわが先祖代々の屍にかけ て言うが,今度こそわが家紋とを重ね合わせるぞ。
アンジェリカ 誰か居ないかい?(数人の下男が入る)
この狂人を捕えて縛りなさい。
ワイルドエァ おっとつと,ブルゴーニュワインの方 が先だ。殺しはそのあと。それにしてもおれが勝利 のブルゴーニュを飲んで来たことを知っているのか (刀を抜く)
下男 御主人の仰せですから。
ワイルドエア そら金をくれてやる。(金をばらまく と四つんばいになって下男たちは金を拾う。彼は連 中を外へ叩き出しドアを閉める)腰抜け奴! 守護 神を手なづけこっちの味方にしたよ。
アンジェリカ 金に弱い恥知らず! こんなことで私 を裏切るなんて。
ワイルドエア 全軍勢を退却させてしまった。(彼女 を歩んで)さあ,将軍を捕慮にしましたよ。
アンジェリカ お願いです。名誉の聖なる名にかけて あなたの亡き父上の名にかけて,あなたの母上の貞 淑の評判にかけてお願い申し上げます。お腹立ちな さいませんように。すでに赤面を通り越すほどに私 を虐待なさいました。
ワイルドエァ あなたほどわけのわからない人は居な い。
アンジェリカ どのような狂気が,どのようなふしだ らな欲望の夢がそのようなことをなさるようにそそ のかすのでしょうか。よくご上下さい。わが心の輝 きは外に光いずるはず。私の振舞いに照らしてご自 分の誤りをお知り遊ばせませ。私の顔に現われてい るでしょう。
わが清純さは汝のふしだらを恥かしめん たとえこの身が無防備でも
汝自身わが身の防禦 汝の魂に寛大が宿るならば わがことばにそれを探さしめん わが燃ゆる眼光は汝の正義を探し求めん ワイルドエア(リズムをとりながらからかって)トー ル・ティ・ダム・ティ・ダム・トール・ティ・ディ ディ・ディダム。絶対ありそうもないことだがこの 女はまさしく『二人の女王』でも朗読しているんだ。
よし,おれもこの女の声色でやってやるか。
ああ,わがいとしのスタティーラよ そのように立腹なされて
汝の眼をこの身にふりそそがん
ブーツをはいた汝のしゃれ者を見てごらん。
アンデェリカ あなたこそ私をご別なさい,真面目に。
ワインのいやな臭い。それで目の前が見えないので す。私の非難の眼は怒りと徳高き誇りとで武装され ているのがおわかり?
ワイルドエア (傍自)この女は英雄詩に現われた最 初の女郎だ。(声を出して)あんたの美徳の細部に まで及んで議論するつもりはありません。どうぞ,
イングランドー番の有徳婦人で遊ばせ。四六時中神 にお祈りを捧げればいい。ですがね,そんなふうに
騒ぎたてるその美徳は何です? あなたの美徳はボックス席の前列を取ることが出来るわけ? 俳優 はとても美徳では食べて行けません。あなたの美徳 は六頭立て馬車を持つことを可能にするわけ? と んでもない。貞淑なご婦人方はみな歩いてらっしゃ る。あなたの美徳は都会の信徒席を得させるわけ?
いや,寺男にきいたら無理だと言うだろう。あんた
の美徳は杭刑で,あんたに代って刑に服してくれる? そんなバカなこと。それなら美徳が何の役に
立つというの? いいかい,あんたに50ギニー出し
たんだ。これで100ギニーだ。いまいましい。有徳の沈黙か。100,即ち,20が5つ。100ギニーだ。
この場はファーカーの特徴を示し,ワイルドエアという 人物には楽しいところがあるが,それはきらめきではなく 目眩(spin)である。ファーカーの場合,一定の実在感が ロマン的な筋立てや装飾と結びついて対比する。たえず流 行の装飾に古い現実主義のひねりを織り混ぜると共に,古
い時代のドタバタを織り混ぜる。2
控え目なアンジェリカはワイルドエアの放蕩のために不 幸になるが,とかく感傷的になり易いこの場面に喜劇が保 たれているのは呑んだくれのワイルドエアが彼女を遊び好 きの女だと思い,彼女の道徳ぶった抗議は擬英雄詩だと誤 解しているからだ。3そして彼のからかいにもかかわら.ず,
我々観客に彼が喜劇的で好感を抱かせる人物になっている のはアンジェリカの実像と想像の歪曲のためである。4 さて,アンジェリカは彼の無礼な放言に腹を立てるが,
ワイルドエアは100ギニーでも不満な娼婦に腹を立て,100
ギニーあったらどんなことが出来るか並べたてる。アンジェリカは財布を投げ捨て踏みつける。ワイルドエアはあ きれて,商売について女将とかけ合うと言ってダーリング
夫人を呼ぶ。彼は100ギニーも積んだと言えば,夫人はどうして100ギニーを出したかとたずねる。ワイルドエアは,
はやりのメヌエットを踊り唄いながら説明する。夫人と娘 が二人して怒り,侮辱もはなはだしいけど私たちを何だと
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思っているのかと問う。彼は売春宿の女将と娼婦を遠まわ しに定義してロンドンアラモードだと言い,「女将は上品 で,世話好きで,口の堅い年増の淑女で,接客日には常に 客のもてなしに努め,特上のお茶,私室,一組のトランプ などでもてなす」と言う夫人はあきれて,手紙が解き明か してくれるでしょうと言って彼に読ませ,誤解を解く。「彼 を夫になさればお嬢様は幸せになられましょう」という文 面でヴィザードにはめられたことに気づく。
アンジェリカ 私どもの受けた不当な扱いに対して償
うべきだなんて意気がつたりなさらないでしょうね。名誉棄損の賠償責任は自明のことですもの。
ダーリング夫人 もう何世代にもわたってわが家の血 は汚れのない名誉の清い管の中を流れてまいりまし たのよ。
ワイルドエア 恐れ入りました。(おじぎする)
アンジェリカ 女の評判とは実にひ弱い花で,ほんの 少しの非難の息でもかけられたら台無しにされてし まいますのよ。
ワイルドエア おっレやる通りで。(おじぎする)
ダーリング夫人 あなたの無礼な言語道断な振舞を思 い出して下さい。
ワイルドエア その通りで。(おじぎする)
アンジェリカ 私につけた安値を思い起して下さいま し。(退出)
ワイルドエア おっしゃる通りで。これほどまでに試 問された男もございますまい。
ダーリング夫人 あの悪党のヴィザードの仕業だわ。
しかし,のうのうとのさばってますわよ。ではこれ で。(退出しようとする)
ワイルドエア しばらくお待ち下さい。決斗以外には あなた方の受けた不当な扱いを償う方法はないもの でしょうか。
ダーリング夫人 それはたった一つ。思いついたらな さるといいわ。何のためにあなたをお迎えしたかわ かるでしょう?
ワイルドエア わかりました。(夫人退出)ついに退 引ならない破目になったぞ。巴町か,結婚か。民法 博士会館の結婚承認書かロンドン中央刑事裁判所の 宣告書か。あの男を殺せば,法がおれを吊し首にす る。女と結婚すれば,自分の首を締めることになる。
くそくらえっ! 憶病者は粘いを選ぶ。おれは結婚 を選ぼう。これが最も勇敢な行為だ。さあ,アンジェ リカ,(フェンシングで)行くそ。
アンジェリカの潔白を知って恐縮し,ワイルドエァは最
後に結婚するのも気の毒とか尊敬のためでなく,野釣がい やだからだ。5いわゆる王政復古喜劇に登場するヒーローに 比べると田舎くさいしゃれ者の臭いがするが,喜劇におけ る伝統的な放蕩者で,性道徳上の自由主義(libertinism)
の信条をもつ。「フランス帰り」(1.i1.)で,「踊りも歌 も乗馬も剣もこなし,多くの外国語もこなす」(IV.i.)しゃ れ者だ。「一切の情熱をユーモアたっぷりな陽気さに変え」
(1.i.)「ひょうきんなユーモアは偽りだって変装させ,
中傷だって課戸にしてしまう」(】V.i.)「機知とユーモア に富んだ人」(V.i.)で「快楽の仕事で多忙」(V.iii.)
である。「人生を大切にするから,一時間たりとも浪費し ない。快楽は手段であり,目的でもある。憂うつや心配に 私の人生を那魔だてさせない」(1.v.)ということばは,
ワイルドエアの人生哲学6である。「男の生命と喜びの.真髄 は女だ。心を胱惚とさせ,魂を狂喜させるのは可愛いい女 だ。神の創造した微笑,即ち,傑作は魅力ある,押しみ深 い女だ」(V.iii.)とする。「あなたの財産と地位」(ll.i
\)と言われるように貴族階級に属し,「教師の厳格さも,
学校のもったいぶったところもなく,上品で寛大な教養を 身につけている」(1.i。) 一時はスタンダード大佐と ルアウエル夫人をめぐって競う破目に陥るが,真面目だが 硬直して一途な大佐と異なり,ワイルドエアにとっては女 なんて快楽の手段にすぎない。女を争って決斗など思いも よらぬこと。女口説きをゲームにして,口説き競争を提案 する。「あんたは刀を抜け。私はかぎタバコ入れを抜く。
あんたは戦争で受けた傷を見せな。私は愛のキューピット の矢の傷を物語る。あんたは胸を張って大きく見せな。私 は流し目を送る。あんたは誓いなさい。私はため息をつき ます。あんたはサッサッと剣を突く。私はクーピーを踊る。
鷹がとまり木に舞い降りるように,夫人が私の腕に舞い降 りなければ,この舞踊教師は失格です」(IV.i.)と。彼 の道徳はけっして真面目にならないこと,恐縮しないこと,
読者に不快な刺戟を与えないことである。陽気になるきっ かけにでもならない限りぽ相手の挑戦をまともには受けな い07
アンジェリカはこの時代の男たちにはもっとも理想とす る女性で,一口で言えば道徳的で貞淑な女性である。教養 のあるところを示すが,やはり世間知らずで,純真無垢な 女で,ワイルドエアの過去にもかかわらず,そして,結婚 不可能にもかかわらず彼との結婚を望んでいる。
.ワイルドエアとアンジェリカの場面では劇の約束事が成
馴していないファーカー喜劇の不誠実と偽りを感じる。ファーカーの価値観と我々の価値観とが同じであるべきだ とは言わないまでも,同じ芸術的描写で双方の価値観がな いがしろにされ,混乱し,相殺し合ってしまうのはまずい。
もちろん承知の上でファーカーは彼の喜劇が必然的に陥い
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る危険性を最小限に食い止めているのだろうが。ワイルド
エアがアンジェリカをパボスの娘だと思うことをファーカーは許し,ワインをひっかけて彼の財布で彼女を買える と信じさせ,19世紀の批評家の共鳴を失わずに,彼女の道 徳観をからかうことを可能にさせている。ワイルドエアは 洞察力と誠実さを持っていることを表わすためには,どう しても酔っぱらっていなければならない。ワイルドエアが 飲んだくれで他人にかつがれる人物として登場させ
EtheregeやRochesterの友人のように振舞わせることで 多分Steeleが肯定するように仕上げているのはファーカーのうまい手口ではあるが。8
スタンダード大佐とルアウエル夫人の結ばれる場面 (v.iii.)
ルアウエル夫人は全男性への復讐心に燃え,次々に近づ く男たちをたぶらかす状況は第一幕第二場で明かされてい る。美人の過去については第三幕第五場で述べられている が,要するに処女を捧げ,結婚を誓い合って,相手に「愛 と名誉」と刻まれた指輪を渡したのだが,待てど暮せど男 がもどって来なかった。その後パリへ行き,社交界で男た ちに恨みを晴らしていたが,そこで知り合ったワイルドエ アだけはどうしても彼女にひざまっかせることが出来ず,
彼女の計略で決斗の破昌に陥らせて帰国したが,彼は果し て生きているやら死んだものやら。彼女の捕虜になった男 たちはスタンダード大佐を筆頭に,偽善者のヴィザード,
しゃれ者を気どるクリンチャー,けちんぼうな商人兼市参 事会員で,密輸で法延で係争中のスマダラーである。
一途に夫人に恋の炎を燃やす大佐は夫人の気を引くワイ ルドエアを恋敵として決斗を申し入れるが,ワイルドエア は決斗をする位なら夫人を譲ると言い,むしろ,堂々と夫 人の心を捕えるゲームをしょうともちかけ,大佐の持って いる指輪をワイルドエアは夫人に受けさせた。実はこの指 輪は夫人から昔,結婚の約束で受けたもので,夫人も大佐
もお互いに結婚を誓い合った仲であることに気がつかない。大佐にはトラブルがあって,彼女のもとへ帰れず永ら く外国ですごして来たが,昔の彼を思いつS けている。こ のゲームから昔のお互いであることが判明し,昔の愛を燃 やし続けて来たことを証明して結ばれる。
3 評価
この作品の筋立てには放蕩者のワイルドエアが純真無垢 なアンジェリカを見初めるが誤解のために生まれた侮辱の ために,意図に反してアンジェリカと結婚する破目となる ことと,過去の傷のために男へ復讐心から男たらしに専念 して来たルアウエル夫人がついに昔の誤解が解けて,結婚 を誓い合った男,スタンダード大佐に再会出来て結ばれる ことの二つである。
以上の二つの筋立てにからんで,信仰心が厚くて上品を
つくろって世間の目を欺く腹黒い偽善者,同じく信仰心が 厚く聖人ぶる物欲と色欲の旺盛な商人兼市参事会員,この 商人の徒弟であったが,今は父が亡くなり家督を次いで,
しゃれ者を気どり,聖年祭(イタリア)へ行って箔をつけ ようとする兄のクリンチャー,田舎から出て来て,兄を死 んだことにして家督を継ごうとねらう弟のクリンチャー,
これらの人物たちを繋ぎながら事件に発展させていく役割 の運送屋のトム・エランドなどが登場して,ドタバタの喜 劇の味付けがなされている。
スタンダード大佐はワイルドエアとは陰と陽をなしなが
ら,知性はある。しかし「信義を重んじる勇敢な男」(1.
i.)という評をとり,「気性には好感のもてる名誉に似た ものがある!(皿.v.)が直情的。慕う女性が自分の思う 通りにならないいらだちから,「女は男の苦悩であり,人 生の災いだ。男がもち上げ,忌々しくも崇める邪宗の像は 不貞な女だ。バジリスクのように破滅をねらって目は美し く輝き,雪下は悪鬼のうすら笑いのように危険なもので男 を惑わす偽りの心の女だ。気質は人間味とは逆だ。肉体は 天上のものだが魂は土くれだ」(V.iii.)と結んで,男の 建て前と本音が二極化している純情な軍人である。
ルアウエル夫人は美貌で男たちをひきつけないではいな
い女性だが,若き乙女のころ,オックスフォードシャーの 父の家に三人の若い旅人が一夜の宿をたのみ,そのうちの
一人がとても好青年ということでもう一夜の宿泊をすすめ,:二人は結婚を誓い合う仲になり,数日後に正式に結婚 を申し込みにもどるということであったが,その青年は兄 といさかいを起し,彼の父の配慮で彼を外国へ出して,連 絡が取れなかった。彼女は裏切られたと思い,.「私の処女 性と無警戒な純潔を信義のない男にもて遊ばれ」(1.ii.)
「守られれば天使にまで女性を高めるし,失えば野獣以下 にまで品位を下げるほどの宝物を私から奪い取った」(m.
v.)と考える堅気で貞淑な女性が,今は復讐心に炎えて,
心はピューリタン,身はもち崩したような生活を送る。流 行の悪習と石化させるような気取りの点ではルアウエル夫 人に及ぶものがないgほどの人物に仕上っている。
王政復古喜劇ではファッショナブルな社交界で洗練され
た行儀作法を描くことに主眼があり,支配的な道徳観に対 する誠刺が身上であったが,ファーカー作品は倫理的傾向 が強い。R. D. Humeも道徳的10と評している。
プロローグの中で「ご婦人方は安心して笑えましょう。
ここには悪口,中傷も,みだらな話もなく,わいせつなこ とを口走るしゃれ者も登場せず,卑語の隠喩など使ってい ませんから」と言うが,これはJ.Collierの劇壇に対する 警告と粛正を真正面から受け止めてのことだ。
喜劇の規範が改革の嵐に吹き荒れ,ファーカーは喜劇世
界の混迷状態から脱出する手段をかろうじて見つけた。そ
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津山高専紀要 第25号 (1987)
れは鳥の翼のように軽快にして敏速な手法であり,出来栄 えのよい場面では動きの軽快敏速さが批評眼を制覇してい る。11しかし,しめくくりはロマン喜劇のあどけない伝統 に終っている。
取るに足りない役のクリンチャーの下男ディッキーに,
H.Norrisが紛し,一夜にしてジュビリーのディッキーと いう異名を取った。RWilkesのセンセーショナルなほど のワイルドエア役の当り芸を見逃さないまでも,この
Norrisがこの作品を成功に導くのに貢献した12ようだ。ま
た,Shadwellの不出来な作品程度13という評もあり,この時代に受けたのは数多くの時事的話題と政治への言及が 多かったため13のようだ。ファーカーは何とかして感傷的 気分に陥らないようにしょうと努めるが,調子の統一の面 でも道徳原理の一貫性.においても欠陥のあることを認めて いる。それはファ・一一カーの傾向であり,感傷:喜劇を書く面 でCibberの継承.者であったことは驚くに値しない。14
H The Twin−Rivals『双子恋敵』(1702)第五作にあたるこの作品は感傷喜劇1だ。深刻で倫理観
が出た作品で,感傷主義を排そうとしたのだろうが。形式 的には喜劇だが,道徳的な男女の主人公たちが登場して社 会の悪徳と悪幣を暴き,社会問題劇の様相を呈する。
W.Bullockは産婆で女帯役のマンドレイク夫人を演じ
たが,その後,彼の演技は年増の女性たちの問での粗悪な 行儀作法の典型となった。2
Sir R. Howardの『委員会』(1662)は100年にわたって 劇場のレパートリーとなった作品だが,この中で忠実なア イルランド人のティーグの大失態によって有名になった作
品である。PepysはLacyが演じるのを見て言語に絶すると言い,ティーグの人物がことわざ(味方同志なのにお互 いにけんかし合うティーグの雄鶏のように,即ち,源氏の 共食い)にまでなったほどである。ファーカーはこの有名 な人物像から思いついたにちがいない。3
1 あら筋
第一幕 第一場(弟のべンの宿) 弟のべンは家督を相続
出来ず,せむしの奇形という苦難を背負い,2年前に双児の兄との争いにならないようにと,縁切れ金の1,500ポン
ドをつけて勘当され,投げやりな生活でぜいたくを極め,
今は無一文で借金のある身上である。そこへ呑み友だちの リッチモアが訪れ,クレリアからの恋文を預かってほしい と言う。そしてベンの口からこの恋文のことをふれまわっ てくれると女遊びにも都合がいいと言う。金に困っている ベンは少し金を貸してほしいと頼むがリッチモアは応じな いで出て行く。むしゃくしゃするベンはこの宿の主人で市
参事会員のボールダーダッシュにワインを持って来させる。今まで儲けさせてきたのだから,少し金を貸せと言う
と,これまでのべンの生活ぶりが批判され,請求書の払い も請求されて,ベンは恩知らずと罵って主人を蹴とばす。
このとき,ベンの父が亡くなったという知らせがとどく。
兄は5年前から外国へ行きっぱなしで,兄の居ないうちに