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西村好弘*

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T.オットウエイ(1652−1685)の喜劇

西村好弘*

(使用テキスト)

  The Works of Thomas Otway, in 2 vols, ed by J.C.Ghosh, Oxford at the Clarendon Press, 1932

FOREWORD(はじめに)

 トーマス・オットウェイ (Thomas Otway)は短命な劇 作家であった。これまで喜劇よりも悲劇で高い評価を得て

きた。英雄悲劇や喜劇の五作品の翻案作品と悲劇、喜劇の 五創作作品がある。

 フランスの歴史ロマンスのテーマに基づく『ドン・カル ロス』(1676)は真の劇作家の才能を示した作品。当時は賞 賛を†専し、GosseはSeventeenth℃entury Studies(p.279)の 中で、この作品はイギリスの押韻悲劇の最高作品と絶賛し ている。(1)この作は英雄悲劇の中でも最:高の作品であり、

詩形で書かれた悲劇の三指に入るもので、N.Leeの偉大な る悲劇のように、大変人気のあった芝居であった。(2)『タ イタスとべレニス』(1677)はラシーヌの『ベレニス』の優 れた翻案であり、『スカパンの悪企み』(1676)はモリエー ルの翻案である。この作品で優れた仕事師であることが判 る。筋立てを複雑にせず、逆に、二、三の小さな出来事を 完全に削除した。そして、それまでにないほど信頼に足る 翻訳である。(3)創作悲劇の二作は『孤児』(!680)と『救 われたベニス』(1682)である。

 『孤児』は、双子の兄弟カスタリオとポリドールは父を 後見入とする孤児のモニミアに恋心を抱く。ポリドールは 兄カスタリオのモニミアとの内密の結婚を知らず、やまし い暗殺計画を立ち聞きし、暗闇の夜に兄と会う約束をする。

二人の結婚の発覚によってポリドールは怒り、争いの中で、

兄に刺される。真実を知った兄は自殺し、モニミァも毒を あおる。

 『孤児』の筋立ては残忍な行為に発展するが、結末の悲

 * 一般科目 平成10年8月31日受理

哀感は議論の余地のないほどのものだ。この悲劇の力は累 積力によるものだ。筋の成り立ちの不自然さもその悲哀感 の中で忘れられてしまうほどだ。悲しみはほとんど女性の 優しさで描かれている。(4)モニミアは多くの点で感傷喜 劇の典型的なヒロインであるR.Steeleの『自意識過剰な恋 人たち』(1722)のインディアナの原型である。(5)哀れを 誘うような人物には比較にならないほど優れた技法を駆使

してうまく想像の世界を創り出した。(6)

 『救われたベニス』は、主人公ジャフィアがベニスの元 老院議員プリウリの娘ベルビデラと密かに結婚し、そのた めにプリウリの怒りを買い侮辱される。外国軍人ピエール は彼を対ベニス陰謀団に引き入れる。団長に預けられたベ ルビデラは彼から辱めを受けて逃げ帰り、夫から陰謀を聞 く。驚いた彼女は父を救うために、夫にお願いした結果、

団員の助命の言質を取らせることにするが父の救済は間に 合わなかった。ベルビデラは悩みのあげく発狂する。ジャ フィアは絞首台上のピエールを刺し殺し、自分も刃に倒れ、

ベルビデラも傷心の結果死ぬ。

 Popish Plot(1678)のカトリック教徒陰謀事件はTitus Oatesの作り上げたデマで,その陰謀が発覚したが、 P正ot DiscoveredはVenice Preservedが1682年に陰謀事件への避 け難い関連があっただろうといえるエピソードに基づくこ とを意味する。この芝居の政治的保守主義のテーマは腐敗 と不正を犠牲にしても政治的安定の必要性から、革命の恐 怖をもたらすよりも、この王政復古時代のイギリスの不平 等を受け入れる方がよいという精神構造への洞察を生み出 している。(7)Tory(王党派)という用語はPopish Plotの あとの時代に適用される。この作品は政治的テーマで王党 派の見解となって、』 アの事件に由来する。(8)この作品は 近代イギリス悲劇の中でも最高傑作の一つであp、この時 代ではせいぜいDrydenの『すべて恋のため』(1677)位し か並ばない。第四幕で王政復古悲劇の最高峰をなす。1618 年のベニスでの陰謀を主題としたが、イギリスの政治を映 す付随的なテーマと結びつけられている。もうろくの道化、

アントニオは戯画化されたシャフツベリー伯爵(イギリス

(2)

の政治家で、ホイッグ党のリーダー)である。61才の高齢、

饒舌、ポーランド王への思惑などが嘲けられている。この 笑劇的な場面は悲劇の本筋から逸脱しているが、妙に生か されている。⑨劇場では大成功をおさめtgし、ロングラ ンを記録したのはなぜか。どんな魅力、どんなインパクト があったのか。分析すると、四つの基本的な制作上の特質 があり、(1)話題となった政治批評、(2)感情伝達、(3)

政治的告白、(4)悲観的風刺である。オットウェイの元 の考えは(1)と(4)の組み合わせであった、と想像す る。しかし、その優れた素材をベルビデラ、ジャフィア、

ピエールに与えたが芝居にはすぐカットが入り、本質的に は主人公たちによる感情的表現手段として作り変えられ た。もしテキスト全体が入手できれば、例えば、アントニ オとNicky−Nacky場面も含めてオットウェイの複雑なアイ ロニーを無視出来ないものだったろうに。(10)オットウェ イの本当の名声は最後の二作の悲劇で、LeeやDrydenにな らって無韻詩を採用した。(ll)

 1668年から1678年までの間にセックス喜劇の大ブームが 起きた。Bettertonの『好色な未亡人』(1669)に始まり、

Etheregeの『当世風紳士』(1676>に至る。この間、ショッ ク戦術が確実にエスカレートしていった。セックス喜劇の 流れはけして魔術的に終わったわけではない。Rawlinsの

『トムのエキス』(1677)、Behnの『男たらし』(1677)、

そして、チャールズニ世のお気に入り作品のDurfeyの『首っ たけの夫』(1677)と進んでいく。そしてDrydenの騒々し

く浮かれ叫び、スキャンダルー杯の『優しい看守』(1678).

で、ついに上演三日で上演禁止となった。現代の学者は Wycherleyの『田舎女房』(1675)を王政復古期のドタバ

タの全盛期だと思っているのは、1677年と1678年の喜劇を 読んだことがないからだ。とにかく、セックス・ブームは

自ら燃え尽きた。(12)

l Friendship in Fashion 『当世風友情』(1678)

 『孤児』に比べてこの作品の優越性は、初演以来100年 間は『孤児』よりもはるかに有名な作品とされ、Etherege のジャンルに踏み込んで達成した社交的振舞の喜劇であ る。(1)この『当世風友情』は性的裏切りとロンドン社 会の偽りの友情を描き『救われたベニス』の背信の原型を なしている。(2)この芝居は文学的な質の良さよりも客を 楽しませる作品だ。歌に踊りにパントマイム、ボードビル など、笑劇を演技力のある俳優たちによって上演されたよ うで、客の笑い声も混えて賑やかな舞台になったことだろ

う。

 1.あ ら 筋

第一幕(セント・ジェームズ公園の遊歩道のマル)

 面をつけた女から渡されたと言って、召使いがトルーマ ンのところへ短い手紙を持ってくる。名前がなく、文面で は、お互いによく知り合っている間柄で、恋を打ち明けた もの。読み終えたら焼き捨てて欲しいとある。有徳ぶった 35歳位の女(グッドパイル夫人)からのもののようだ。そこ ヘグッドバイルとバレンタインが近づく。腹が減ったので、

三人でめしでも食おうということになるが、バレンタイン はトルーマンのいとこのマラジーン(しゃれ者)とコヴェ ント・ガーデンのシャチレーン亭で約束をしていると言 う。結局、他人のスキャンダルをまき散らすあんな奴は今 日は抜きにしようということになる。そこで、グッドパイ ルの家で会食をし、夜は楽しい仲間を交えて、楽士を呼び、

女房には好きなようにしていいと許可して、外へ出すと言 う。トルーマンのお目当てのビクトリア、魅力あふれるカ ミラ、バレンタインの昔の恋人だったスクイーミッシ夫人 たちである。

 とにかく、準備をするからと言ってグッドパイルが先に 家に帰ったすぐ後に、マラジーンが近づいて来る。いいか げんな男で、あることないことを話す。(「道化たちによる 笑劇的な場面の場」1.2ユ2〜268)となる。マラジーンは

2ギニーほど貸してくれと頼み、トルーマンは貸.し与えて 立ち去る。さらに、バレンタインが決闘に行こうとマラジー

ンを誘うがケイパーとソーンターが見えるので、この連中 と楽しむことにして断り、バレンタインも立ち去る。

 マラジーンはケイパー(舞踏師)とソーンター(女街)

にたかろうと近づく。話によると、グッドパイルは今夜舞 踏会を開くという。マラジーンは宮廷に行かなければ、そ こへ行くと言う。そこにスクウィーミッシ夫人がやって来 る。夫人はビクトリアからの連絡で舞踏会のことを知った と言う。夫人を捨てたバレンタインに話が及ぶと、彼は道 義に欠け、育ちの悪さが際立つと言って、夫人は彼をくさ す。彼は才人として評判の高いカミラに夢中なため、夫人 は嫉妬している。ここで夫人お得意の悲劇論に及び、得意 顔となる。(「スクイーミッシ夫人の悲劇論と道化たちの場」

1.413〜444)となる。ケイパーとソーンターが夫人をほ め上げると夫人はいい気になる。夫人にすすめられて、ソー ンターはフランス六六りの歌をうたう。夫人からグッドパ イルの舞踏会へ誘われて、ケイパーが夫人の手をとり、マ ラジーンが女役のソーンターの手をとって、舞踏会へ向か

う。

第二幕(飲食店)

 グッドパイル夫人は下女を使って恋文を届けさせたト

(3)

ルーマンをはじめ、男たちがここへ会食に来ると聞いた。

地階で会食をしているという。(「夫にかまってもらえない 夫人の反撃の場」H.8〜77)となる。そこへひょっこり

ビクトリアが現れる。夫人はビクトリアがトルーマンに すっかり惚れている姿を見せてしまい、弱みを握っている

と決めつけて、ビクトリアを当惑させる。そして、なにげ なく、グッドパイルとも関係があるようなことをほのめか して、ビクトリアを慌てさせる。

 グッドパイル夫人と下女が一時退出すると、ビクトリア と二人になりたくて、グッドパイルが忍び込んで来る。ビ クトリアは夫人にグッドパイルとの情事がバレているので はないかと不安を打ち明ける。そこで、グッドパイルは親 友のトルーマンを酔わせたら、今夜、トルーマンの愛を受 け入れて恋仲であることを実証するように勧める。実はこ こらで、グッドパイルはビクトリアとの密通を終えようと 考えている。

 そこへ夫人が入って来る。グッドパイルは夫人にトルー マンをビクトリアに勧めていたところだと言う。そして、

ビクトリアは夫人に巻き返して、あまりすんなりと、この 取りなしを受け入れたら、あなたは嫉妬するのじゃないの

とやり返す。夫人はトルーマンに心を寄せているからだ。

 そんな時、階下からバレンタインに追われてカミラが逃 げ込んで来る。バレンタインは発情したかのようにカミラ を捕まえようとする。トルーマンも上がって来て、全員が 集まったところでワインで乾杯となる。夫人はトルーマン に匿名の恋文のことをほのめかすと、トルーマンは夫人の 罠を警戒して夫人に対応する。グッドパイルは夫人に今日 のところは夫婦でないことにし、お互いを気にしないこと にする。下女のレティスは興を添えるために歌をうたう。

 そこへ、スクイーミッシ夫人が四人の男を引き連れて訪 れる。夫人は礼儀作法についてはやかましい女で、血縁の 若いサー・ノーブル・クラムジーは紳士の作法を学びに夫 人のもとへ上京している。これら五人が加わり、階下では 楽士が待機して、踊りが待たれている。サー・ノーブルは 太っていて、資産家であることを鼻にかける田舎者で、ワ インをがぶ呑みしてメロメロになっている。

第三幕(グッドパイル邸)

 酔っぱらってグッドパイルが現れる。密通し続けてきた ビクトリアをトルーマンに押しつけて、カミラを自分のも のにしたいと考えている。そこヘトルーマンとバレンタイ ンが現れる。ところがグッドパイルの計略を女房のグッド パイル夫人から聞いて、トルーマンはこの計略に乗ってこ ない。恋人を友人に転嫁しようと計ったグッドパイルにト

ルーマンは仕返しにグッドパイルの女房を寝取ってやろう と考える。しかしグッドパイルはうまくいったと思いこん でいる。

 そこヘマラジーンが寄ってくる。グッドパイルに嘘をつ いて、スクイーミッシ夫人を尾行させたと告げる。人に一 杯食わせるのが才人だと思っている低俗な男で、コメデイ ア・デラルテをよく見るらしく、物真似がうまい。みんな の勧めでアレッキーノを演じてみせる。(「愚劣な才人マラ ジーンとコメディア・デラルテの場」III.75〜101,138〜

175)となる。その中で家クイーミッシ夫人がサー・ノー ブルにしつこくからまれる。資産家であることを鼻にかげ ながら、サー・ノーブルは蛮からに振舞うことが才人のな す業だと思っている。露骨に夫人に迫り、結婚を申し込む。

マラジーンが仲人をしてやると言って夫人をはやし立て る。マラジーンは女優のトードリー夫人と恋仲のようだが、

スクイーミッシ夫人はバレンタインに捨てられて、バレン タインはカミラに夢中だ。夫入は仕返しにこの恋の邪魔を してやると言う。

 舞踏師のケイパーと女街のソーンターがスクイーミッシ 夫人を探して近づく。グッドパイル夫人がバイオリン弾き を呼んで、お待ちかねだと言う。ケイパーはバレンタイン に頼みがあると言う。実はカミラに夢中で、結婚を望んで いるので、グッドパイルに彼女を口説くのをやめうと言っ てほしいと頼んで二人は退出する。グッドパイルはこれま でトルーマンの恋人のビクトリアと睦まじくしておいて、

今はカミラがお目当てだ。トルーマンはバレンタインと手 を結び、グッドパイルに仕返しをしてやろうと誓い合う。

 そこヘグッドバイルが陽気に歌いながら入って来る。そ してトルーマンがビクトリアにもっと情熱を燃やさせよう と、そそのかすようなことを言う。

 そこへ楽士の一団を連れてスクイーミッシ夫人が登場す る。田舎踊りを始めようと、ケイパーはカミラと、ソーン ターはビクトリアと、グッドパイルはスクイーミッシ夫入 と、トルーマンはグッドパイル夫人と、それぞれペア.とな る。マラジーンは楽士たちの演奏の調子合わせをするが、

下手な演奏に腹を立てる。グッドパイルもカミラへの求愛 の機会を失って苛立ち、マラジーンに八つ当たりする。二 人の小競り合いを収めようと、スクイーミッシ夫人はマラ ジーンにスコットランドの歌をうたうことを勧める。バレ ンタインがバグパイプよりもっと好かないとケチを付ける と、結局、アイルランドの歌がうたわれる。あまり聞き慣 れない節まわしだが、いい曲だとスクイーミッシ夫人は喜 ぶ。バレンタインが夫人の機嫌を伺うが、夫人は動じない。

トルーマンはバレンタインに遺恨があるようだからやめろ

(4)

と言い、オールドミスを怒らせる位ならランカシャーの女 を怒らせる方がまだ安全だと言う。他方、グッドパイルは この雰囲気を壊すためにマラジーンに出て行くように命じ る。そして、楽士たちには演奏を命じるbグッドパイル夫 人は結婚して一年にもならないのに、夫はビクトリアを恋 人に持ち、ビクトリアをトルーマンに押しつけて、今度は カミラに近づこうとし、夫に見放されて独身のような生活 のために、トルーマンと密通している。ケイパーのお目当 てのカミラにグッドパイルが求愛しサー・ノーブルの恋人 のビクトリアにソーンターが結婚を申し込み、あっちでも こっちでもトラブルが生まれ、サー・ノーブルがビクトリ アを連れ出すと、ケイパーとソーンターが後を追い、その 成り行きを確かめようとスクイ』ミッシ夫人はトルーマン を誘って出ていく。残ったグッドパイルとカミラの場とな るが、バレンタインは二人の成り行きを確かめようと隠れ

る。

 グッドパイルはカミラに言い寄るが、自惚れの強いめか し屋であることを見抜かれている。カミラが彼の愛の告白 に応じないので、これからは彼はいつも彼女に付きまとい、

風刺詩を書いて、その中の女はカミラだと解るようにする と脅かす。彼女は残酷でひねく.れた方だと言えば、彼は曲 解して彼女が彼に気があると思い込む。彼女は彼に夫人の

ことに触れると、「恋する男にとって、女房について触れ られることは情熱に冷や水をかけられるようなもの」と言 い、恋人のバレンタインのことを持ち出すと、「友人とは 共に会食し、共に笑う間柄であって、友のために命を捧げ ても、友のために喜びを捧げたりはしない」と言い、密会 の場所を指定するが、彼女は応じない。そこで、バレンタ インが来ると言ってグッドパイルに退去させる。

 二人が楽しそうに見えたのでバレンタインは嫉妬に燃え て、二人は言い合いになる。そんなところをスクイーミッ シ夫人が垣間見て、彼への復讐に燃えて計略を思いつく。

バレンタインは、信用できないグッドパイル故に、カミラ にまで不信感を抱いたことを謝り、仲直りして、求婚し、

承諾を得る。彼女は庭園の左側の歩道で、暗くなったらグッ ドパイルと会う約束をしたが、うるさい彼を追い払うため に嘘の約束をしたと言う。スクイーミッシ夫人は場所と時 間を盗み聞きするが、てっきり二人の密会だと誤解して・

カミラからバレンタインを奪い取ってやると決意する。二 人は、この件でグッドパイル夫人にカミラの代役をさせる

ことにする。

 二人が退出すると、スクイーミッシ夫人は下女のブル ジェットに、カミラのモーニング・ガウンを真似て、先日 作ったガウンと面を取って来るように言いつける。

 グッドパイルに操を奪われて、今は捨てられて沈んだビ クトリアが現れる。夫人は計略を打ち明けずにはいられず、

これから晴らす恨みを話す。カミラより先に行ってバレン タインに会い、カミラが来たらその不名誉を世間に知らせ て、バレンタインが夫人に行った非道を暴露すると言う。

 夫人が去ったあと、グッドパイルが来る。ビクトリアを 見ると、「新しい恋人を求めるときに古い恋人に出会うの は旅のうさぎ以上の凶徴だ」と言う。彼はカミラとの密会 に心弾ませているところへ、トルーマンとバレンタインが 現れる。意味ありげなことばを交わし合ってグッドパイル は出て行く。トルーマンは同じ庭園の上手の隅にある洞穴 でグッドパイル夫人と密会をすることになっていて、その ころには夫人は彼の腕の中に抱かれて不倫が行われている だろうと笑う。

第四幕(夜の庭園)

 グッドパイルはカミラとの密会を楽しみに暗い庭園に やって来る。グッドパイル夫人の方はトルーマンとの密会 のためにやって来るが、この夫人をグッドパイルはビクト リアだと思いこむ。そこで、彼女から身を隠すようにして 遠退く。さて、夫人とトルーマンが落ち合い、洞穴の岩屋 で共に乱れようと夫人を連れて行く。バレンタインは木陰 に隠れて二人の行動を確かめる。この光景をマラジーンも 目撃している。

 グッドパイルの方はカミラを待ちわび、スクイーミッシ 夫人はカミラになりすまして、バレンタインと結ばれるこ とを願って、「楽しみはこっちのもの。つけはカミラに」

とほくそ笑む。はだけた服装のグッドパイルをバレンタイ ンだと勘違いして、彼をそそのかすように走り去ると、グッ ドパイルは後を追う。「何のためらいも無い欲望への迎合」

の場である。

 そこへ、愛の楽しみを終えてトルーマンとグッドパイル 夫人が出て来る。トルーマンはグッドパイルがこの庭園に 来ているので、もし万一出会ったらどう理屈をつけようか と心配する。夫人の方は愛に夢中で、二度とビクトリアを 近づけないことを彼に誓わせたりする。人の気配を感じて 二人が逃げ去ると、結ばれたグッドパイルとスクイーミッ シ夫人が出てくる。ところが、お互いの相手がバレンタイ ンとカミラでないのに驚く。

 スクイーミッシ矢人はグッドパイルでもまんざらでもな かった様子だがグッドパイルはこんな女を楽しんだ自分の 狂った味覚を嘆く。カミラを逃し、ビクトリアには浮気さ れて、こんな女も含めて女というものを呪う。今、男と女 の姿が見えたが、どうもその女がビクトリアのようだと思

(5)

い込み、追おうとするが、スクイーミッシ夫人が放さない。

そんなところヘマラジーンが歌いながら近づく。

 グッドパイルはマラジーンに明かりを借りてこいと命じ る。間もなく明かりとともにトルーマンとグッドパイル夫 人が近づいて来る。夫人は慌てて顔に面をつける。グッド パイルは夫人がビクトリアだと思い込み、捕まえる。相手 の男がトルーマンであることを知って驚くと、手が弛み、

夫人は逃げ去る。ビクトリアと一緒だからといって答めら れる筋は無いとトルーマンは言う。妙にグッドパイルがビ クトリアの心配をするのはおかしいと言うと、グッドパイ ルは家系の名誉のためで、自分の管理下にある血縁の女に 気を使うのは当たり前だと言う。長いことビクトリアを自 分の恋人にしてさておいて、今度は友人の女房にさせよう なんて汚いと、トルーマンが指摘して、喧嘩となる。両者 が剣を抜いて戦いが始まったところヘバレンタインが顔を 出し、止める。つづいてグッドパイル夫人が現れてグッド パイルは驚く。

 夫人はわが不幸の元凶はどこに居るのと言い,ビクトリ アにわが幸福を奪われてきたと嘆き,殺して!とわめく。

汚れたべヅドだったことを知らないうちに死にたかったと 言う。親戚だというのでビクトリアと仲良くしてきたが、

私の理性を失わせるほどの敵であったなんて。さあ、尼寺 へでも,納骨堂へでも,閉じ込めなさいと言う。バレンタ インはスクイーミッシ夫人にグッドパイルと恋愛ごっこと 気晴らしをしていたわけね、と口をはさむ。グッドパイル は開き直って、馬車を呼べ、田舎へ行く、と言い、ビクト

リアはこれまで恋人だったし、今も恋人だし、今後も恋人 だろうけど、それがどうした?と言って、女房にお別れだ と告げる。

 サー・ノーブルと舞踏師のケイパーと歌手のソーンター が近づくが、グッドパイルの話し声が聞こえて、ビクトリ アはおれの恋人だ、と主張して、サー・ノーブルとグッド パイルとが対立する。この時グッドパイルには獲物の女が 目に映り、一同を女房の方に差し向けて出て行く。スクイー

.ミッシ夫人は仮面舞踏会で楽しもうと先に出て行き、面を つけて行くように、トルーマンとグッドパイル夫人に勧め て、ケイパーとソーンターが一足先に行く。こんな二人が 来てくれたので二人の密通がバレずにすんだと喜ぶ。しか し、立ち聞きをしたマラジーンは世間にバラしてやろうと 考える。

 グッドパイルは田舎へ行くために馬車の手配をし、仮面 舞踏会を止めにすると宣言するが、グッドパイル夫人は4 時問以内に夫の方から脆いて来ると言う。これまで女が修 得してきた、そして、しゃれ者たちがもてはやしてきた女

の気取りと生意気で、夫の最も嫌う安ピカの間抜け(舞踏 師と歌手)に惚れているように見せて、夫をじらせてやる、

と言う。

 ところが、バレンタインが現れて夫人とトルーマンとの 不義密通が露見したと伝える。夫人は夫に証拠を掴ませな いように煙に巻いてやると自信ありげな口調で、さっそく 私室に閉じこもって、美の方で屈服するまで夫と口をきか ないと言って、部屋に引っ込む。

 グッドパイルが来て、夫人について尋ねると、レティス はグッドパイル様がビクトリア様に大声をあげられたと き、夫人は私室の窓辺にいらっしゃって、驚かれ、制止を 振り切って、ご主人様への怒りに燃えて飛び出されました、

と夫人の潔白を主張する。グッドパイルは本当は女房だっ たのにビクトリアと取り違えたのではないかと疑い、マラ ジーンのあいまいな証言で、姦婦の夫になったと失望して

いる。

 このとき、ビクトリアが悲嘆に暮れて現れる。グッドパ イルの愛人で、今は捨てられたことをマラジーンによって 町中の評判になってしまうからだ。マラジーンは情報屋。

グッドパイルはビクトリアにただすと、ずっと外出してお らず、やはり、ビクトリアと取り違えた女は女房だ。ビク トリアは夫人を探して私室に入ったが、その時k居なかっ た、と言う。実にしたたかな女房だ。じっくりと女房を詮 議するとして、マラジーンが近づいて来るので、すべて吐 かせてやろうと言う。

 脅しと5ギニーでついに吐かせる。即ち、グッドパイル はビクトリアをトルーマンに押しつけようとしたのだろう が、トルーマンはグッドパイル質入と不義密通をし、バレ ンタインがその取り持ちをしたと。ビクトリアは今夜の出 来事についてまったく知らぬふりをすること。マラジーン

は夫人のスキャンダルを町中にまき散らすこと。グッドパ イルは田舎へ行くふりをして、みんなが安心して楽しんで いるところへ戻って払うかす。また女房が恋しくなってぶ りかえしにならないか、とビクトリアは問うが、グッドパ イルは「女房なんて着古した服みたいなもので、着ている 亭主にとっては恥となるだけ」と言い、束縛されることな

く愛を楽しみたいと、歌をうたう。

第五幕(ビクトリアの私室)

 (「ビクトリアの嘆きと復讐への決意の場」V.1一一・15,

38〜142)となる。スクイーミッシ夫人が訪れる。スクイー ミッシ夫人は、今グッドパイルとすれ違ったがそっけない 態度で扱われたことを悲しむが、そんな女たらしのところ が女を夢中にさせると言い、ビクトリアには他人の恋人を

(6)

奪ったりして申し訳ないけど、お互いに親友になりましょ うと言う。

 ここヘサー・ノーブルとマラジーンが酔って入って来て 二人の女性を淫婦呼ばわりしてからかう。ビクトリアはう まく逃げ出すと、スクイーミッシ夫人は乱暴されそうに なって大声で助けを求める。召使いたちが飛び込んで来る。

マラジーンは逃げて、サー・ノーブルだけが残るが、そこ ヘケイパーとソーンターが入って来る。

 はじめは、サー・ノーブルがしらばくれた態度を取ると、

ケイパーとソーンターは高飛車に出て、喧嘩をふっかける。

サー・ノーブルが啖呵を切ると、二人は引き下がる。二人 を助けるかのようにバイオリンの音が聞こえる。一同が入 場して、開放的なお祭り騒ぎが始まる。鬼の居ぬ間に楽し もうというのがグッドパイル夫人である。このとき、ビク トリアから手紙が届く。夫のグッドパイルが田舎へ行くの は見せかけであって、夫人とトルーマンの密会を暴く計画 だと知らされる。そして、マラジーンには用心するように 忠告されている。このどさくさの中で夫人はトルーマンと 楽しむため、カミラの協力を得るために呼びにやる。

 予定通りトルーマンが訪れる。夫人はトルーマンに夫の 計略を説明し、二人が一緒のところを発見したときの証人 になるために、マラジーンが雇われていると伝える。そこ で、夫を嫉妬に狂わせ、いよいよというところで裏をかく 計略があるので、トルーマンにマラジーンを押さえ込んで ほしいと頼む。

 マラジーンが現れるとトルーマンはマラジーンに、グッ ドパイルに雇われていることを白状させる。そして、余計 なことをすれば首を切ると脅して、トルーマンのそばから 離れないように命じる。グッドパイルが仮面舞踏者になり すまして二人の女を連れて来るという連絡が入る。トルー マンはマラジーンを連れて引っ込み、夫人は変装の策士と

しての才能を駆使して、迎え撃つ。

 さて、売春婦を連れてグッドパイルが面をつけて入って 来ると、夫人は夫であることに気づかぬふりをして、丁重 に迎え、宴会の用意をさせると言い、トルーマンが居ない と居ても立っても居られないと述べて退出する。央人や召 使いたちが居なくなると、グッドパイルは面を取り、女房

とトルーマンの密会の場を押さえてやると言い、売春婦た ちを妾にして、思う存分好き勝手をさせてやると言う。

 さて、楽士たちの音楽と共に一同が入場する。夫人は先 頭に立って乱痴気騒ぎをかき立て、今ごろ夫は田舎で一人 寂しく過ごし、借家人や借地人から家賃や地代を集めてい るだろうが、そんな金で私はこんな楽しみが味わえる、と 挑発的なことを言い、トルーマンを悦びの主、征服者、守

護神と呼び、首ったけであることを口にする。トルーマン は二人の楽しみをグッドパイルと彼に雇われているマラ ジーンには知られないようにしようと言うと、グッドパイ ルは我慢出来ずに面を取る。グッドパイルは下男たちに命

じて、いかがわしいケイパーとソーンターを捕えて、縛り 上げておくように命じる。そして、夫人をなじって、情欲 を満たすのにトルーマンのような男なしでは居られなかっ たのかと言う。トルーマンは決闘でもなんでも、受けて立 つと啖呵を切る。夫人は夫にあなたの心を乱すようなこと をしていないでしょうと言い、嫉妬深さを非難する。グッ ドパイルはトルーマンとのいちゃついた振舞を非難iする と、夫人は夫への計略が成功したことを喜び、田舎へ行く というのが装いだったことを知っていたと言う。だから、

仕返しに、わざとトルーマンとの親密さを演技したと言う。

グッドパイルは夫人に、昨夜庭園でトルーマンと過ごした と言い、マラジーンに証言させようとする。バレンタイン が現れて、トルーマンは親友だが、もしグッドパイルに失 敬があったのならグッドパイルの満足のいくようにしま

しようと、対決の方向へ促す。

 マラジーンが連れて来られるが、すでにトルーマンに脅 されていて、グッドパイルに言っていた証言を覆す。グッ

ドパイルは怒り、本当のことを言うまで先の二人と一緒に 引き具を付けて縛っておけと命ずる。そして、(「不倫事件 の結末の場」V.684〜736)となる。夫と妻の立場は逆転

して、夫人は不義密通を続けることだろう。

 さて、バレンタインはカミラと挙式したと報告する。

サー・ノーブルはビクトリアと結婚することになる。

 2.場 面 解 説

道化たちによる笑劇的な場面(1.212一一268)

バレンタイン:今日はケイパーとソーンターの二人と  一緒じゃないのか。食ったり呑んだり、世界中どこ  にいってもいつも一緒だが。

マラジーン:どうしてあんな胸の悪くなる奴らといつ  も居ると思うのかね。愚鈍で、おしゃべりで、踊っ  て歌う輩だ。たしかに、つき合っては居る。どうし  てか俺にもわからんのだが、気分がむしゃくしゃし  て、笑いたくって、一、二時間あいつらをからかっ  てやりたい時にはな。しかし今日は、どうあっても  あんたたちに付いて行くよ。

トルーマン:はっきり言うが、今日はだめだ。どうし  てお前は友達を困らせるんだ。

マラジーン:ホー、冗談じゃない。俺を振り払おうと  するのか。何だって解ってらあ。ごまかしは俺には

(7)

 通じないよ。だめだ。

トルーマン:痛い目に合わせにやあだめか。行かせな  いよ。

マラジーン:行くそ。

トルーマン:たのむ。

マラジーン:だめだ。

トルーマン:腕つくでも?

マラジーン:通じないだろうね。

トルーマン:俺はこっちへ行く。(歩き去る)

マラジーン:俺も行く。

トルーマン:俺はもうしばらくここに居よう。

マラジーン:俺も同じだ。急ぎやあしねえ。

バレンタイン:マラジーン、気をつけろよ。トルーマ  ンを怒らせるぞ。ひつぱたかれることになるぞ。

マラジーン:ひっぱたくだって?申し訳ないけどね、

 あんた、あまり物わかりが良くないね。俺は奴の扱  いにはなれてんのさ。奴のことには気ずか.うな。俺  が奴のじらし方を見せてやる。おい、ジャック。

トルーマン:お前は生意気でうっとうしい奴だ。

マラジーン:うるせえな。俺は離れねえぞ。

トルーマン:よしっ、お前の鼻を引っ張ってやる、

マラジーン:何を言ったってだめだ。どうにでもしや  がれ。

トルーマン:やってやろうじゃないか。どうだ、これ  で。(はなを引っ張る)俺たちのことに出しゃばるな。

マラジーン:おい、ジャック、冗談もほどほどにしろ  よ。本気でないことはわかっている。お願いだ。連  れて行ってくれ。

トルーマン:この嘘つき野郎。本気でないだと!これ  でもわかんないのか。(蹴飛ばす)こんな冗談はい  かがかね?

マラジーン:それじゃあ、トルーマン、一緒に食えね  えのか?

バレンタイン:本当のことを言うとな、トルーマンは  昨夜、喧嘩があったんだ。そのケリをつけに行くん  だ。それで、荒れているんだ。じゃあ、こうしよう。

 行きたけりゃ行くがいい。お前にも戦ってもらおう。

マラジーン:そんなことなら断るよ。意に逆らってま  でして、知らない連中に入り込みたくないからね。

 トルーマン、俺の評判に誓って言うが、今の態度は  上品じゃねえな。あのなあ、昨夜はゲームをやって、

 金をすっちゃった。お願いだ。次に会うまで2ギニー  貸してくれ。

 どの研究家も指摘するように、笑劇を喜劇に仕上げると ころに、多少の無理がある。この作品を通して騒々しい、

そして歌と踊りとパントマイムの盛り込まれたボードビル のような芝居になっている。マラジーンはしゃれ者で、ふ わふわ野郎たち(butterflies V.658)と言われる三人の道 化の一人。マラジーンに対する評価は鼻持ちならない嘘つ き(L42)、陰口をたたく(1.46〜7)、他人のスキャンダ ルを言いふらす(1.47〜8)、失敬で手に負えぬ(1.50〜1>、

仲問も腹黒くて、いい人問ぶる(1.51〜2)、知り合いに なればつけ込んで、平気で部屋に入るし、借金を踏み倒す

(1。52〜5)、邪悪で意地悪で生意気(IV.581)な人格だが、

芸達者で仮面舞踏会や騒ぐ宴会には欠かせない。場面解説

「愚劣な才人マラジーンとコメヂア・デラルテ」を参照。

売春婦たちとも精通し、「この町のどんな売春婦もまるで 俺が女街ででもあるかのように、面と向かってごろつきだ の悪党だのと言う」(IV.583〜5)と言われるが、「こういつ た混乱した色恋ざたにはとっさの判断の出来る抜け目のな い男」(IV.214〜5)と評価され、重宝がられながら、い ろいろとありつこうと群がる蝿や蛾のような人物である。

スクイーミッシ夫人と道化たち(1.413〜444)

ケイパー:夫人はこの新しい芝居にはお出かけなさい  ますか。

スクイーミッシ夫人:いいえ、初日に観ましたわ。好  かない芝居でしたわ。

マラジーン:夫人、町のたちの悪い人物は出てきませ  んでしたけどね。

スクイーミッシ夫人:まあ、殿方、町なんて判断の尺  度にはなりません。何んといっても悲劇ですわ。人  を感動させるものなんかありませんでした。心を動  かすようなそんな悲劇じゃなくちゃ。

ソーンター:誰の作品か、ご存知でいらっしゃいます

 か。

スクイーミッシ夫人:ええ、その詩人は私の下宿に来  て、読み聞かせてくれましたもの。まだほんの駆け  出しで、書き始めてまだ間がないの。その上、宮廷  人たちとほとんど、いや、まったく言葉を交わした  こともないのね。だから人物の行動に沢山の不作法  を犯かさせているわ。

ソーンター:私も気に入りませんでしたね。歌があり  ませんでした。

ケイパー:いやいや、踊りもなかった。

マラジーン:そりゃあ人気を博すのは無理だ。歌も踊  りもないんじゃね。

(8)

スクイーミッシ夫人:近頃の喜劇は卑狸だわ。狼褻で、

 吐き気を催させるようなことばかり。あんなのを風  刺や術策と思い違いをしてるんです。どの作並にも 機知というものがない。だって、紳士役の人物が紳  士になってない。みな愚かで、思い上がっていて、

 恥知らずなしゃれ者ばかり。さもなければ、不作法  で、行儀の悪い呑んだくれ。フン!宮廷の優れた行  儀作法も知らない人たちが、喜劇を書くなんて、こつ  ちが恥ずかしくなるわ。宮廷で通用する術策や盤勲  な身のこなしなど、まったく知らないんですもの。

 いやだわ。

マラジーン:そのような事柄で上達しようと思うな  ら、スクイーミッシ夫人に相談すべきでしょう。

スクイーミッシ夫人:まあ、マラジーンさん、大変丁  重なお方。世間の人たちは悪意に満ちていて、あな  たを取るに足らな人だとレッテルを貼っています  わ。私はいつもあなたが極めて寛大で心の広い方で、

 一目置くべき人物だと思ってました。

 オットウエイの喜劇三作品はEtherege喜劇の伝統に対す る反動として特徴づけられる。この作品の人物の中で、流 行の社交界を代表するのがスクイーミッシ夫人とお供の道 化たちである。(3)スクイーミッシ夫人はWycherleyの『田 舎女房』(1675)からの借り物だが、最新の文芸批評に通じ ていたと思われる。彼女の批評的おしゃべりの中に、肉欲 の賛美があったりする。彼女の人生の中心的興味は性だか らだ。従って、文学の中心的関心は性的になる。悲劇が感 動的だとするのは愛を好むからだ。(4)粗々しくて風刺 的なセックス喜劇の傾向をもつ作品。この怒りはオットウ エイの人生におけるある種の個人的な苦痛と失望を映す証 拠があり、プロローグは世間の親たちに子供を詩人にさせ ないように(Pro.18〜21)と警告し、作家が耐えねばなら ない批判(Pro.24〜5)の愚痴をこぼす。ドラマの本題から 逸れて風刺を投げかけて(1.420〜40,III.145−64)、まさ

しく復讐のジェスチャーとして読むことが出来る。(5)

 この愚痴や風刺はほかの詩人ならユーモアと言えるのだ が、オットウエイの全作品と実生活での貧困を考慮すると 世間に対する反感と取ることができる。スクイーミッシ夫 人の喜劇に対する批評はオットウエイ自身に対する世間評 を夫人に言わせて客を笑わせたと思われる。

 どの男からも求められない唯一の女であるこの夫人は誰 の物でもなく、男の世界では絆だの、交流だの、裏切りだ のといった可能性を示す値打ちも持ち合わさない。彼女の 位置は他人のじゃれ合いや性交を眺めるだけで、性の市場 に加わる唯一のチャンスは特定の持ち物になっていたり、

望まれたりしている女と間違われる場合だけだ。⑥本当 の愛(true love)とか貞節といったものへの懐疑が生まれ る。こういつたテーマが扱われるときの畏敬心の欠如が生 まれる。「本当の愛ってこの世で最大の楽しみだわ」(III.

640〜1)と、スクイーミッシ夫人は、王政復古喜劇の全範 囲の中で他には見当らないほどに不道徳で人を食い物にす る、女である。(7)

 ケイパーは舞踏教師であり、ソーンターは女街で、マラ ジーンと共に、「共に才能(歌と踊り)のある男たち」

(II.498)と言われている。スクイーミッシ夫人は「口が悪 く、芝居を非難して酷評する。仮面舞踏会や集会には必ず 出かけ、男たらしで気取り屋だが、なにか年増っぽい。宮 廷や町の不義密通を論述し、社交の才能のある人間や生ま れの良い人間を高く評価し、踊りには目がない」(1.90〜

7)、「礼儀作法と上品についての批評家」(II.285〜6)、

「ふざけと本気の見境のつかぬ女」(III.219〜29)、「愚か な気取り屋で気まぐれなジプシー」(III.357〜8)、「気取っ たあつかましさ」(IV.149・一一・50)と言われ、うわべだけと は愚かな女(8)で、内面的で本質的なものを見ようとしな い吐き気を催させる女である。

 取り巻き連中のこれら道化役の三:人は恋の取り持ち役に なり、スパイになり、批評家になり、批評の的になり、こ の芝居の運の尽きたヒステリックな騒ぎの気分に有意義に 貢献している。(9)

グッドパイル失人(II.8〜77)

レティス:奥様、バレンタイン様はすてきな礼儀正し  いお方ですわ。

グッドパイル夫人:何ですって!酔っぱらっている時  にお前にからんでキスされたからでしょう。いやよ、

 私はトルーマン、そう、トルーマン、トルーマンが  恋しい。

レティス:奥様はどうしてトルーマンさんにうっとり  してしまうのかしら。私が選ぶとすれば、ご主人様  の方が気持ちのいいお方だと思いますけど。

グッドパイル夫人:その気があるなら、お前にくれて  やるよ。夫は人が望むような夫だわ。もう二週間も 顔を合わせていないし、午前4時前には帰らないし、

帰ってくれば、別々のベッドにこそこそ入り、午後  まで寝ている。それから起きると仮釈放されて、ま  た出ていく。生身の人間にはとても耐えられない。

レティス:でも、いつだつて真っ先に奥様のご機嫌を  伺っていらっしゃるでしょう。

グッドパイル夫人:それがあの人の手なのよ。丁度、

(9)

 負債者が返済出来ないときにはいつも盤勲に振舞  い、謝意を尽くすようにね。なるほど、夫は私に望  む通りの自由を許してくれているわ。でもそれだけ  のことって、神のみぞ知るだわ。

レティス:それで、外出して、食欲を増すけど、帰っ  てきて満たされないっていうことですか。

グッドパイル夫人:夫は私のことを他愛ないおバカさ  んだと思っているなんて、笑っちゃうわ。私が満足  していて、潔白で、無害な生きた亀ぐらいに思って  いるのよ。我慢の権化だとね。

レティス:貴重な妻ですこと。

グッドパイル夫人:夫も自分は申し分ないと思うが故  に、愛に盲目になっている。

レティス:奥様をよく思ってらっしゃる、あのお人好  しで、完壁で、善意いっぱいの無害な夫を出し抜こ  うなんて、心で思ってらっしゃるのですね。

グッドパイル夫人:夫を出し抜く?何ていうことを、

 レティス。夫を出し抜くなんて。今度そんなことを  言ったら、永久にお前のことを良く思うのをやめる

 よ。

レティス:それでは今朝のトルーマンさん宛ての恋文  はどういうことになりますの?

グッドパイル夫人:彼を私の友人にして、出来ること  なら、夫の情事で私を出し抜いているのは誰なのか  を暴露するためよ。だって、どうも恋敵が居るみた  い。私って、真実が知れてもビクトリアは私からは  当たり前のものしか受けていないって思い易いの

 よ。

レティス:まあ、ビクトリア様は旦那様の親戚に近い  お方。奥様とご一緒にこの家で生活されていらっ  しゃる。その上、旦那様はご自分の家名を汚すよう  なことはなさいませんわ。

グッドパイル夫人:あんたってバカね、レティス。血  が近いなんてなこと、一番配慮されないことよ。最  近々にしんだけど、親戚は今日では親戚の者同志が  お互いに優しくしたがる唯一の点らしいわ。

レテイス:ええ、奥様。奥様が旦那様に会えば、丁度  奥様がお持ちの愛の喜びを独り占めするみたいに、

 優しく、いとおしくお相手なさっていらっしゃるで  しょう。どうして真実を隠し通せましょうか。それ  に、トルーマン様は旦那様のお友達でいらっしゃる。

グッドパイル夫人:ああ、もし夫を出し抜くことに同  意出来れば(天はそれを禁じているけど)、夫の友  達とだわ。だって、そういう立場の人は二重の守秘

 義務が生まれるの。私の名誉のため、自分の名誉の  ため。でも、レティス、あんたは暇だから、こんな  話を長々と出来るのよ。もう悪い考えは頭の中にし  まって。どんなことより、私、一番いやなことなの。

レティス:でも、奥様、何人も思い浮かべるだけなら 罪にはなりませんわ。いつも気分よくしているのは 難しいように、ときには乱れた考えを思いめぐらす  ことがないと難しいですわ。でも、トルーマン様が 奥様のお疑いのように、ビクトリア様に気があるな  んて思えたらお笑いですわね。

グッドパイル夫人:それも結婚をもくろんでいたら  ね。ふらふらしているしゃれ者っていうのは何でも

お見透しだと思って女房を手に入れる場合と同様に 恋人を手に入れられるだろうかと疑うことなどあま  り体験しても意味がないと考えている。

レティス:その上、すこし経つと、他人の女房を寝取  ることに血道を上げるから自分の家では夫婦間でど

れほど楽に事が運ぶかなど夢にも思わない。

 夫は結婚して一年もしないのに下宿している親戚のビク トリアと不義を重ね、「どんな自由も女房には認めている」

(1。65〜6)と言われるように夫人は放ったらかしにされて いる。夫人は夫の友人のトルーマンに思いを寄せている。

一方では「みだらな行為の好きな女」(1.74〜5)と夫は言 い、有徳な女とも思われ、「信じ易い単純さ」(II.165)、

疑ったりしない「豊かな信頼感」(II.166)と夫は思い、

夫人は夫にそう思わせている。トルーマンから「結婚生活 には付きものの堅苦しい厳格さからは解放された独身生活 をお楽しみのようで」(III.365〜7)といわれる生活である。

「どんな時でもどうすべきかを心得ていて、どんな若い女 よりも夫の操り方を知った実に頭の良い方」(IV.481〜4)

と夫人の抜け目なさを評して、下女のレティスは夫人の頼 もしさを感嘆する。

 男にとって、権威の秩序、即ち、名誉の維持が、実は、

その崩壊を容易にするということを、夫人は知っている。

性の秩序を男が確信することも彼女には有利であることを 知っている。夫人は積極姿勢をとりトルーマンに誘い水を むける。「夫なんて切れ味の悪い刃物。それに比べて、妻 と面倒見のよい恋人(Guardian Angel Lover)は勝利者だ、

ということを世間に知らせましょう」(V.398〜400)と。

男の友情の虚構と男が二人の女を所持することとが維持さ れる限り、裏切りはエロチックに機能する。(10)夫人は「性 行為は交際者たちがお互いに親切し合うのに求める唯一の 方法」(II.52〜3)と言う時、友情とは空の器となり、そ れ自体がごまかしとなり、騙しとなる。欲望は社会的要素

(10)

の痕跡すら失っている。社会崩壊の喜劇を著した第一人者 がオットウエイで、Shadwe11の後期の芝居と似た構想を持 つ。それは恒常的祭礼的喜劇(comedy of constant festivity)

でもある。(11)

愚劣な才人マラジーンとコメディア・デラルテ(III.75〜

101, 138−175)

マラジーン:この間、俺のやったことを話してやろう  か。とびきりの冗談ってやつだ。

バレンタイン:はじめてみてくれ。

マラジーン:歩いていると、びっこの奴が後について  きやがって、物乞いするんだ。才気必発、愉快な発  作にかかって奴に尋ねたんだ。どのくらいそんな状  態でいるのかねつて。奴は頭を振って、生まれつき  だって。そこでだ,俺はどうしたと思う?

バレンタイン:そんなこと、悪魔のみぞ知る、だ。

マラジーン:それで俺の才能を示してやった。木製の  二二の義足をつまつかせてやった。そして自分の仕  事に向けて威風堂々と退ち去った。

トルーマン:それがお前の才気ってやっかい?

マラジーン:そうだ、こういう才気と物まねだ。俺、

 真似がうまいんだぞ。パンチネロだって、スカラムー  シュだろうと、アルレッキーノだろうと、道化劇の  プリティーマン王子だろうと、何だってやって見せ  るぞ。手押し車のガタゴトの音だって。

トルーマン:手押し車のガタゴト?

マラジーン:そう、その通り、手押し車のガタゴトっ  て言った。それだけじゃない。親心と子豚たちだっ  てやれる。ジュージューいってるソーセージだって、

 蒸している時のマトンの肩肉だろうと、密室の中の  ハエの音だって、やってのけることは出来るぞ。

トルーマン:まあ、妙なものをよく見る観察効果って  いうやつだな。

マラジーン:チエッ、何でも見るのを趣味にしちやあ  いねえよ。要は技巧だ。見たけりゃ、見せてやるよ。

 (中 略)

スクイーミッシ夫人:誓って言うは。この人、ロンド  ンの舞台の誰よりも上手な演技力。私は見たことが  あります。イギリスのコメディアンはフランスやイ  タリアにはかなわない。それに、詩人もいない。

サー・ノーブル:いないなんて、僕が居ますよ。三幕  まで書き上げて、題もつけた。悲劇に仕上げるつも  りだ。

スクイーミッシ夫人:悲劇を書くなら私に相談しなさ

 いよ。優しくて、とろけるようなものを中に入れて  ね。きっと人の心を動かすわ。女性たちはみな、有  徳の婦人にすることよ。

サー・ノーブル:心を動かすだなんて。そんなの読ん  だことないし、笑っちゃうよ。すばらしい筋立てで、

 悪ふざけがぎっしり詰まっている。

スクイーミッシ夫人:まあ、ばかばかしい。

マラジーン:称号は勲爵士だぞ。勲爵士が称号だ。

サー・ノーブル:じゃあ、え一と、題はこうしよう。

 愛の愉快な騙し、別名、犬のボバディロの気分を漂  わせた皇帝チャールズ五二の生と死、なんてのは?

マラジーン:ハ、ハ、ハ_,.。

バレンタイン:サー・ノーブル、ますます喜劇だよ。

サー・ノーブル:でも悲劇に決めたんだ。ボバディロ  が死ななければならないからね。喜劇だなんて。ぼ  くは喜劇を書くのなんて軽蔑するよ。喜劇的なもの  がほとばしり出るような作品を知っているけど。し  らふの時にもっと中身について話そう。

スクイーミッシ夫人:マラジーンさん、アルレッキー  ノを演じてみて。あんたの演技はとても自然で、そ  れをみていると、まるでルーブルかホワイト・ホー  ルにでも居るような気になるわ。(マラジーンの演  技がはじまる)ああ、もう止めて。体が破裂しちゃ  う。他に何か楽しいものはなかったかしら。

トルーマン:えらく気取っていて、滑稽な女がいいな。

 彼女の全人生が見当違いの連続みたいな。女のとこ  とんバカで虚栄心がつよくて、魅力のない腐ったよ  うな女は1駄目だ。

 サー・ノーブル・クラムジーはスクイーミッシ夫人の身 内で、ロンドンで紳士を目指して夫人のもとで磨きをかけ ている(II.290 一・ 3)。最後に使い古しの女房(battered wife>とでもいうべきビクトリアと結婚するが、「立派な巨 体は並みの食事と少々のビールでは維持出来ない」(II.

442〜3)、「体の高貴な風采と豊かさに似合った英雄的な風 貌」(II.446〜8)、「高貴な勲爵士」(H.460)、「高い地位

しか評価出来なくて沢山の土地や称号が好きな(祖父はほ んの鍛冶屋だったのに)そんな土くれの雑種犬」(II.489 一・・92)、「年2000ポンド」(II.494)の男である。

 イタリアのコメディア・デラルテは王政復古と共に1660 年10月にはロンドンに姿を現わし、王は芝居小屋の建設に 認可を与えている。ロンドン大火の直前だが、!666年8月 にはPepysは奥方など同伴でMoorefieldsまで馬車で出かけ て、大変面白かったと記録にある。パンチネロはBarth−

olmew Fairの例年のアトラクションの一つになっていた。(12)

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