東京南部と都心部における
緑化と二酸化炭素の現状に関する研究
榎本 毅
【要旨】
現在グローバルな観点で自然環境保全に関する対策が求められている状況にお いて,近年の環境変化は東京においても著しいものがある.このような状況のな かで本研究では,経済発展を自然環境問題の要因として捉え,東京南部と都心に おける二酸化炭素を通して緑地維持と緑化の問題点を明らかにする.はじめに,
自然環境変化が起きていることを示す既存研究および関連研究を示す.次に,二 酸化炭素の現状を把握するため,東京の産業データより東京南部と都心の二酸化 炭素の推移を考察する.この結果から地域差や種々の現状を明らかにし,環境保 全策としての対策を検討する.環境保全策をはじめとする地域環境の大幅な改善 を考慮することで,地域ごとの二酸化炭素・緑化の偏りを改善し,環境配慮の地 域づくりを検討する.
【キーワード】 二酸化炭素,緑地維持,緑化
1. はじめに
都市地域における熱環境は, 近年ヒートアイランド現象や地球温暖化現象によっ
て悪化しており,このような観点から自然環境保全に関する対策が求められてい
る.本稿では,経済発展を自然環境問題の要因として捉え,はじめに,自然環境
変化を示す既存研究や関連研究について検討する.続いて,緑化の温熱緩和効果 等を明らかにするために行政上の東京南部 (大田区) の 4 地域と都心部 (千代田区)
の 6 地域における現状について考察する.また,二酸化炭素の現状を把握するた め,各区の産業データより二酸化炭素の推移を考察する.
以下, 2 では熱環境緩和対策に関する先行研究について見てみる. 3 では,研 究対象地域及び研究方法について検討する. 4 では,都市化と緑化・二酸化炭素 等について考察する. 5 では,まとめを行う.
図 1 大田区の大森地域(北),調布地域(西),蒲 田地域(南),糀谷・羽田地域(東)の 4 地域
図 2 千代田区の 6 地域
2. 先行研究
緑化については, 樹木の温熱緩和効果の研究例として,大西他 [ 7 ],宮本 [ 17 ],
吉田他 [ 18 ] などの研究がある.大西他は IKONOS から抽出した樹木や草地と いった植生被覆のデータと名古屋市が整備した土地利用データを利用することに よって,季節ごとの地表面温度と空閑地・樹木・草地のそれぞれの関係を明らか にし,さらに,春と夏の昼間を対象に,空閑地を緑化した場合の熱環境緩和効果 を分析した.この結果,その効果は確保できる空間地の面積次第で変化するが,
そのポテンシャルは決して低くないことが示唆されたと確認している.
宮本は夏季から冬季にかけて,樹木の緑の量が異なる 4 測定点において,景観
の評価および温熱環境の測定と温冷感申告を行い,樹木の緑による温熱感の緩和 の程度を把握した.その結果, 4 測定点の景観評価に,樹木の緑という視覚刺激 の有無が大きく影響を与えていることを明らかにした.また,樹木の緑という視 覚刺激は,不快な温冷感と暖涼感を緩和し,温熱的快適感を増す効果があること が示唆されたと考えられると述べている.吉田他では樹木の植栽が常に温熱環境 を緩和するとは限らず,植栽による温熱環境緩和効果を利用する場合,樹木の適 切な密度と配置を検討する必要があることが確認されている.
3. 研究対象地域及び研究方法
3.1 研究対象地域
大田区は,東京都のほぼ南東部に位置し (図 3 ),面積は 60.66 km
2で, 2015 年 1 月 1 日現在,総人口は 707,455 人である
1.産業別事業数は,第 1 次産業が 19 事業所で 0.06 %,第 2 次産業が 7,263 事業所で 23.84 %,第 3 次産業が 23,181 事 業所で 76.10 % である
2[ 3 ].また,地理的に区内は,北西部の台地,南東部の低 地及び河川地域と埋立地に分かれている.台地部は,武蔵野台地の先端にあたり,
比較的小面積だがまとまった樹林地が,分散した形で残されている緑の多い地域 である.低地部は,ほとんどの地域が人工的環境に置き換えられていて,区内随 所にある社寺林等の小規模な緑地が点在する緑の少ない地域となっている. また,
東京湾に流入する多摩川の河川敷は,ほとんどが緑地として整備されているが,
そのほとんどの地域が運動場等である.そのなかで,河口部の大師橋緑地付近に 広がるヨシ原は,数少ない自然景観を残している.図 1 より埋立て地域を除いた 3 つの地域 (緑の多い地域,緑の少ない地域,河川地域) を,大田区のなかで,人 間と自然とのかかわりが深い地域としてまとめることができる.
千代田区は, 23 区のほぼ中央に位置し (図 3 ),面積は 11.64 km
2で, 2015 年 1 月 1 日現在,総人口は 56,873 人である.産業別事業数は,第 1 次産業が 15 事 業所で 0.05 %,第 2 次産業が 2,081 事業所で 6.49 %,第 3 次産業が 29,949 事業
1 改正住民基本台帳法が施工され,
2012
年7
月9
日から外国人を含めた数字となる.2
2012
年2
月1
現在の経済センサス―活動調査より.(大田区)所で 93.46 % である
3[ 8 ].また,地理的に区内の最高地点は約 32 m ,最低地点 は約 2 m で,地形は,皇居より東側に広がる低地部と西側へ連なる武蔵野台地の 東端に位置し,淀橋台および本郷台と呼ばれる台地部に分かれている.低地部に おいては,大田区と同様に盛土・埋め立て・掘削による人工的な環境に置き換え られている.また,地形も大田区と似ており台地部の淀橋台は大田区の田園調布 台・久が原台・荏原台と同じ地質でもある [ 14 ].
3.2 研究方法
現在,大都市の熱環境は,ヒートアイランド現象や地球温暖化現象によって悪 化しており,このような観点か ら自然環境保全に関する対策が求められている.
そこで, 本研究では,大田区と千代田区の数値データによって自然環境を把握し,
熱環境問題緩和対策において緑化による緩和対策が有効な方法であるか否かを,
問題点を含め明らかにする.
はじめに, 自然環境変化を示す既存研究や関連研究について検討する.続いて,
3
2012
年2
月1
現在の経済センサス―活動調査より.(千代田区)図 3 東京 23 区の地図
CO
2の現状を把握するために,大田区と千代田区のデータより CO
2の推移と一 般家庭の電気使用量・都市ガス使用量から CO
2排出量を考察する.また, 緑地維 持と緑化効果の問題点を明らかにするために大田区の 4 地域 (大森,調布,蒲田,
糀谷・羽田地域) および千代田区の 6 地域 (麹町,富士見,神保町,神田公園,万 世橋,和泉橋地域) に分け,それぞれの地域における現状について考察する.
さらに,熱環境問題緩和対策としての緑化対策と CO
2排出量低減について,環 境税等のアンケート調査をも参考にして考察する.
4. 都市化と緑化・二酸化炭素について
4.1 都市化
4.1.1 土地利用の変化
図 4 のように大田区においては, 1950 年の商業地 ( 80.1 ),工業地 ( 793.2 ),住 宅地 ( 1535.0 ) が, 2002 年の商業 ( 49.49 ),工業地 ( 253.75 ),住宅地 ( 2,204.28 ) となっている (単位 ㌶).住宅地の増加は, 大型小売店舗による中小店舗の減少と
図 4 住宅地・工業地・商業地の土地面積の推移
(東京都統計年鑑(1950〜2013)より作成)
0.0 500.0 1000.0 1500.0 2000.0 2500.0
(ha)
పᏩᆀ ᕝᴏᆀ ၛᴏᆀ工場の区外移転による住宅地への転換,という土地利用変化に数値的に一致する.
図 5 から明らかなように千代田区においては, 1950 年の商業地 ( 199.8 ),工業 地 ( 0 ),住宅地 ( 127.3.0 ) が, 2002 年の商業地 ( 305.43 ),工業地 ( 0 ),住宅地
( 49.4 ) となっている (単位 ㌶).住宅地の減少は商業地への転換,という千代田 区ならではの土地利用変化といえるだろう.
4.1.2 世帯数の増加
大田区全体では, 1966 年の人口 733,842 人が最も多く, 1975 年は 271,156 世 帯・ 690,770 人, 2002 年は 309,696 世帯・ 644,251 人, 2014 年は 364,676 世帯・
682,871 人と,人口は 1976 年 ( 268,928 世帯・ 683,734 人) 当時になっているが 世帯数が増加していることがわかる (図 6 ).
千代田区においても 2014 年は 30,429 世帯・ 54,160 人と, 人口は 1987 年 ( 23,392 世帯・ 54,164 人) 当時になっているが世帯数が増加していることがわかる (図 7 ).
両区における世帯数の増加は空調機器の設置に繋がり,ヒートアイランド現象 による電力需要の増加に影響があるものと思われる.
図 5 住宅地・工業地・商業地の土地面積の推移
(東京都統計年鑑(1950〜2013)より作成)
0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 300.0 350.0
(ha)
పᏩᆀ ᕝᴏᆀ ၛᴏᆀ4.1.3 エネルギーの利用
大田区における二酸化炭素の主要な排出源となるエネルギー消費
4は, 2000 年 度をピークに減少傾向で推移している. 2012 年度のエネルギー消費量は, 34,173 TJ (テラジュール) である. 1990 年度との比較では 3,036 TJ の消費減であり,
8.16 % 減に相当する (表 1 ).また, 2012 年度の構成比を見ると,家庭部門が 33.5 % と最大で,次いで業務部門 32.2 %,運輸部門 23.9 %,産業部門 10.4 % と なっている.また,千代田区はエネルギー消費量のデータを公表せず (※), CO
2排出量として掲載している. (※千代田区は統計データを秘匿扱いにしているために掲
載は省略している.)4 エネルギー消費量の単位は,
TJ (テラジュール)
を用いている.J
は熱量を表す単位( 1 TJ = 1,000,000,000,000 J )
である.端数処理の関係で,図・表の合計値等は一致し ないことがある.図 6 大田区の世帯数・人口推移
(大田区の数字(1947〜2016年)により作成)
0 100,000 200,000 300,000 400,000
0 200,000 400,000 600,000 800,000
䟺ୠᖈᩐ䟻
䟺ெཾ䟻 ெཾ ୠᖈᩐ
図 7 千代田区の世帯数・人口推移
(千代田区の行政資料集(1947〜2016年)により作成)
0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000
0 50,000 100,000 150,000
䟺ୠᖈᩐ䟻
䟺ெཾ䟻 ெཾ ୠᖈᩐ
表 1 部門別エネルギー消費量と合計値の推移 (単位:TJ)
年度
1990 1995 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
家庭部門9,636 10,701 11,230 10,967 11,385 11,141 11,100 11,677 11,324 11,454 11,226 11,313 11,787 11,422 11,446
産業部門10,150 7,912 6,027 5,402 4,919 4,540 4,671 4,557 4,483 4,623 4,709 4,154 3,821 3,912 3,541
業務部門7,499 9,837 11,860 11,570 11,809 11,853 12,144 12,389 12,306 11,896 11,789 11,267 12,028 11,058 11,020
運輸部門9,924 11,624 13,150 12,959 12,958 12,524 11,929 10,901 10,697 10,075 9,782 9,618 8,424 8,671 8,166
合計値37,209 40,074 42,267 40,898 41,071 40,058 39,844 39,524 38,810 38,048 37,506 36,352 36,060 35,063 34,173
*廃棄物部門は一般廃棄物の焼却量を基に排出量を算定しているためエネルギー消費量は算定してい ない.
4.2 緑化についての考察 4.2.1 調査結果
大田区における公園の樹木等の調査
5による公園の内訳は,大森地域 44 公園,
調布地域 24 公園,蒲田地域 42 公園,糀谷・羽田地域 30 公園で,これらの公園 における各公園の高木は大森地域 : 13,124 本,調布地域 : 7,697 本,蒲田地域 : 4,747 本,糀谷・羽田地域 : 6,687 本である.
また,千代田区における公園の樹木等の調査
6における公園の内訳は,麹町地域 5 公園,富士見地域 1 公園,神保町地域 3 公園,神田公園地域 2 公園,和泉橋地 域 3 公園,万世橋地域 4 公園で, これらの公園における各公園の高木は麹町地域 : 519 本,富士見地域 : 19 本,神保町地域 : 88 本,神田公園地域 : 17 本,和泉橋 地域 : 65 本,万世橋地域 : 101 本である.
図 8 ・ 9 は大田区の 4 地域, 千代田区の 6 地域の各総面積に対する樹木被覆地・
草地
7部分の割合を示したものである.
5
2003
年4
月1
日時点の調査結果であり,その後の調査の詳細は明らかではない.6
2016
年5 〜 6
月の筆者による現地調査.(工事中で調査できない樹木もあり.)7 樹木被覆地
:
樹木,樹林に覆われた土地.樹冠投影部分とする. 草地:
草本類に覆わ れた土地.図 8 樹木被覆地率・草地率・地域面積
(大田区みどりの実態調査 その1より作成)
ኬᆀᇡ ㄢᕱᆀᇡ ⵞ⏛ᆀᇡ ⢧ㆺ࣬⩒⏛ᆀᇡ 㸚 KD ᶖᮄ⿍さᆀ⋙ 㸚 ⲙᆀ⋙ 㸚 ᆀᇡ㟻✒ KD
図 8 ・ 9 の大田区・千代田区ともに緑の多い地域と少ない地域に一致している.
また,千代田区の麹町地域には皇居外苑,富士見地域には皇居・北の丸公園が含 まれているために樹木被覆率・草地率が高くなっている.
4.2.2 調査結果の検討
大田区は公園について 2013 年 6 月 (平成 25 年 6 月) の地域力推進会議で,区 長は公園整備の推進について報告をしている.この点を考慮すれば今後も公園等 の緑化費の大幅な削減はないと考えられる.
千代田区も 2009 年 (平成 21 年) に都内で唯一環境モデル都市に選定された経 緯から大田区同様に公園等の緑化費の大幅な削減はないと思われる.
また,大田区において面積が 10,000 m
2以上ある公園の 1 つで,都道 (中原街 道) に接している洗足池公園については,その気温・湿度の実測を行った
8.図 10 は,樹林内と街路における気温の推移で,樹林内と街路での気温差は 0.5 〜 5 ℃ で
8 定機器
:
温湿度,大気圧データロガー(測定高さ地上 1.5 m )
図 9 樹木被覆地率・草地率・地域面積(千代田区町丁目別緑被集計表作成)
16.9
33.9
4.6 2.2 3.6 1.5
3.5 4.4
0.2 0.1 0.5 0.4
478.3
340.3
102.8 73.5 72.0 97.2
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 550
䟺ha䟻
ᶖᮄ⿍さᆀ⋙(䟸)
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ᆀᇡ㟻✒(ha)
䟺䟸䟻あり,クールスポットとなっていることが確認できた.一方,立正大学付属立正 中高の屋上緑化の観測において温度低下の有効性をも確認することができた (図 11 ・ 12 )
図 11 立正大学付属立正中高の屋上緑化
図 10 樹林内と街路における気温の推移 (2011年8月6日)
25 27 29 31 33 35 37 39
䟺㛣䟻
䟺Υ䟻 පᅧහ ⾜㊨
4.3 公園維持についての考察 4.3.1 調査結果
大田区における公園維持管理費は公園整備および緑化推進に伴い,財政の悪化 が起こらない限り将来的にも維持可能である.千代田区においては 2009 年 (平成 21 年) に都内で唯一環境モデル都市に選定された経緯から緑化については,大田 区と同様に維持可能と考えられる (表 2 ).
表 2 公園維持管理費の推移 (大田区の数字および千代田区の行政基礎資料より作成)単位:千円
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
大田区
1,575,528 1,797,261 2,176,580 2,326,049 2,401,351 2,598,798 2,480,230 2,486,381
千代田区300,000 210,000 200,000 200,000 200,000 230,000 220,000 220,000
4.3.2 調査結果の検討
大田区は,公園について 2013 年 6 月 (平成 25 年 6 月) の地域力推進会議で,
区長は公園整備の推進について報告をしている.この点を考慮すれば今後も公園 維持管理費の大幅な削減はないものと考えられる.
また,環境税に関する支払意志額のアンケート調査による支払意志額と回答者 数の結果より [ 1 ] [ 2 ],仮に区の財政が逼迫した場合に緑地維持を執行すると仮定 した場合に予算を試算するうえでの支払意志額の平均は, 大田北地域は 2,417 円,
大田西地域は 2,473 円,大田南地域は 1,990 円,大田東地域は 2,111 円,住所記
図 12 立正大学付属立正中高の地表面と屋上緑化における気温の推移(2014年8月19日)
25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0 55.0
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ᒁ୕⥫ ᆀ⾪㟻
入なしは 2,615 円で,全体での平均 2,299 円に大田区の世帯数 ( 2009 年) 341,519 世帯をかけた仮想予算額は 785,152 千円である.この仮想予算額は, 2009 年度 予算額における道路維持費 1,776,407 千円と公園管理費 2,270,608 千円の合計額 の約 20 % に相当し,地域別の環境管理費 (公園維持管理費等) に活用できると考 えられる.
千代田区は 2009 年 (平成 21 年) に都内で唯一環境モデル都市に選定された. 住 民の意識も高いことが区民世論調査からもうかがえる.すなわち,区民世論調査 において二酸化炭素排出量削減目標を設けていることとその目標値との両方を知っ ている 15.2 %,目標値は知らなかった 56.1 % を合わせた 71.3 % の区民が関心を 持っていることになる.したがって,環境税に関するアンケート調査による支払 意志額の平均 2,299 円に千代田区の世帯数 ( 2009 年) 25,270 世帯をかけた仮想予 算額は 58,095 千円で,これまでの公園維持管理費の平均 2.2 億円の 26.4 % に相 当し,公園維持管理費等に活用できるであろう.
4.4 二酸化炭素についての考察 4.4.1 家庭部門の二酸化炭素排出量
大田区 (表 3 ) は家庭部門
9で殆ど LP ガスが使用されていないので,電気,都 市ガス,灯油について算定した. 2012 (平成 24 ) 年度の CO
2排出量は, 1990 (平 成 2 ) 年度に比べて電気が 18 % 増,都市ガスが 20 % 増,灯油が 39 % 減で,トー タルで 14 % 増と 2007 年の大田区地球温暖化対策地域推進計画『計画書』で予測 していたが,表 4 の新たに計算した 2012 年度の家庭部門の二酸化炭素排出量は,
1,095 千トンで, 1990 年度との比較では 375 千トンの排出増で, 52.1 % 増に相 当する.また,表 4 の新たに計算した家庭部門・産業部門・業務部門・運輸部門 は消費量を基に算定している
10.
9 大田区地球温暖化対策地域推進計画『計画書』
2007
年より.10 家庭部門は電気・都市ガス・灯油・
LPG .産業部門 (農林水産業・建設業・製造業)
は,電気・都市ガス・灯油・軽油・重油など.業務部門
(事務所・ビル・商店・学校・病院
等)は,灯油・重油・LPG .運輸部門 (自動車・鉄道)
は,ガソリン・軽油・LPG ・電
気・天然ガス( 2011
年から).千代田区の CO
2排出量は, 1990 (平成 2 ) 年度が 249.0 万 t であったのに対し,
2012 (平成 24 ) 年度は 234.9 万 t と,全体で 5.7 % の減少となっている.
部門別では, 2012 (平成 24 ) 年度は産業部門において 1990 (平成 2 ) 年度比 64.7 % 減少と大幅に減少したのをはじめ,運輸,家庭の各部門においても減少し ているのに対し,業務部門は 1990 (平成 2 ) 年度比 8.1 % 増加となっている (表 5 ).
表 3 家庭部門における両区の二酸化炭素排出量 (単位:千t)
1990 2008 2010 2012
大田区
720 924 923 815
千代田区106 110 102 94
表 4 大田区の部門別二酸化炭素排出量 (単位:千t) 注(*)
年度
1990 2008 2009 2010 2011 2012
家庭部門
720 924 893 923 1,007 1,095
産業部門
774 414 348 303 336 339
運輸部門679 677 662 582 607 581
業務部門
656 1,094 987 1,043 1,119 1,232
表 5 千代田区の部門別二酸化炭素排出量 (単位:千t)
年度
1990 2008 2009 2010 2011 2012
家庭部門106 110 105 102 91 94
産業部門
175 63 61 58 56 62
運輸部門
573 607 542 506 435 426
業務部門
1,635 2,128 2,023 1,971 1,738 1,767
* 2011
年度以降の電力の二酸化炭素排出量の増加は,東日本大震災に起因する原子力発電所の停止の影響による二酸化炭素排出係数の上昇にも起因している.
4.4.2 家庭部門における都市ガス・電力の二酸化炭素排出量
都市ガスの地域別二酸化炭素排出量は,一般家庭における過去五年間の都市ガ ス平均使用量の 32m
3/月 に排出係数 2.31 および世帯数 (表 6 ) を乗算したもので ある.
電力の地域別二酸化炭素排出量は,一般家庭における 2010 年の電力平均使用 量の 304.7 kwh /月 に排出係数 0.374 および世帯数 (表 6 ) を乗算したものであ る.
図 13 の都市ガス・電力における大田区の 4 地域の 1 人当たりの CO
2排出量は,
大森地域 : 1,178.7 kg ,調布地域 : 1,104.0 kg ,蒲田地域 : 1,171.6 kg ,糀谷・羽 田地域 : 1,131.6 kg である. 4 地域で最も少ない調布地域に比べると大森地域は 6.76 %,蒲田地域は 6.12 %,糀谷・羽田地域は 2.50 % の増加である.
図 14 の都市ガス・電力における千代田区の 6 地域の 1 人当たりの CO
2排出量 は,麹町地域 : 1,099.6 kg ,富士見地域 : 1,257.2 kg ,神保町地域 : 1,280.1 kg , 神田公園地域 : 1,365.1 kg ,万世橋地域 : 1,260.4 kg ,和泉橋地域 : 1,395.8 kg である. 6 地域で最も少ない麹町地域に比べると富士見地域は 14.33 %,神保町 地域は 16.41 %,神田公園地域は 24.14 %,万世橋地域は 14.62 %,和泉橋地域は 26.93 % の増加である.
CO
2排出量削減のためには,すくなくとも調布地域 (大田区) および麹町地域
(千代田区) を目指した排出量削減を行う必要がある.その後は,調布地域をも含 めた 4 地域と麹町地域をも含めた 6 地域がさらなる排出量削減に向けた取り組み
表 6 大田区と千代田区の 2010 年1月1日現在の地域別世帯数・人口 (筆者作成)
大田区 世帯数 人口 千代田区 世帯数 人口
大森地域
118,857 227,350
麹町地域7,603 15,588
調布地域
86,151 175,931
富士見地域5,427 9,732
蒲田地域
103,238 198,663
神保町地域3,208 5,650
糀谷・羽田地域
36,236 72,192
神田公園地域2,454 4,053
万世橋地域2,590 4,633
和泉橋地域4,632 7,482
に努力すべきであろう.
また,都市ガス・電力の CO
2排出量において電力は,大森地域 : 714.9 kg ,調 布地域 : 669.6 kg ,蒲田地域 : 710.6 kg ,糀谷・羽田地域 : 686.4 kg と麹町地域 : 667.0 kg , 富 士 見 地 域 : 762.6 kg , 神 保 町 地 域 : 776.4 kg , 神 田 公 園 地 域 : 828.0 kg ,万世橋地域 : 764.5 kg ,和泉橋地域 : 846.6 kg という数値も考慮すべ きである.
図 13 大田区の都市ガス・電力の二酸化炭素排出量 (筆者作成)
105,431
76,419 91,576
32,143 162,536
117,811
141,177
49,552
0 50,000 100,000 150,000 200,000
(t)
㒌ᕰ䜰䜽 㞹ງ図 14 千代田区の都市ガス・電力の二酸化炭素排出量 (筆者作成)
6,744
4,814
2,846
2,177 2,297
4,109 10,397
7,421
4,387
3,356 3,542
6,334
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000
(t)
㒌ᕰ䜰䜽 㞹ງ4.4.3 都市ガス・電力の二酸化炭素排出量と樹木の二酸化炭素固定量
大田区における公園の樹木等の調査における 2003 年 4 月 1 日時点の公園の内 訳は,大森地域 44 公園,調布地域 24 公園,蒲田地域 42 公園,糀谷・羽田地域 30 公園であった.これらの公園において 【全樹種統合の日本における都市樹木の 年間の CO
2固定量算定式 [ 16 ]】 の図 15 の各公園の高木の CO
2固定量は大森地 域 : 13,124 本 1,373,339.809 kg ,調布地域 : 7,697 本 1,063,210.795 kg ,蒲田地 域 : 4,747 本 673.708.220 kg ,糀谷・羽田地域 : 6,687 本 766.639.717 kg である.
調査結果より都市ガスの 4 地域の年間 CO
2排出量 305,569.312 t と電力の 4 地 域の年間 CO
2排出量 486,191.696 t の合計排出量は 791,761.008 t ( 791 千 t ) で,
2007 年時点の大田区地球温暖化対策地域推進計画『計画書』における 2012 年予 測での灯油を除いた 776 千 t と近い値である
11.
一方,千代田区における公園の樹木等の調査
12における公園の内訳は,麹町地 域 5 公園,富士見地域 1 公園,神保町地域 3 公園,神田公園地域 2 公園,和泉橋 地域 3 公園,万世橋地域 4 公園であった.
これらの公園における高木の CO
2固定量は,麹町地域 : 519 本 71.290.960 kg , 富士見地域 : 19 本 2.794.138 kg ,神保町地域 : 88 本 8.459.744 kg ,神田公園 地域 : 17 本 984.875 kg ,和泉橋地域 : 65 本 3.532.193 kg ,万世橋地域 : 101 本 6.702.468 kg であった.
また,淡路公園に隣接する企業の建物内と外部における樹木の高木数は 80 本 で,二酸化炭素の固定量は 2,198.146 kg である.
5. おわりに
本研究では,熱環境緩和対策において緑化による CO
2固定量の値がどのような 状況であるか,地域の現状を把握するために,緑化と家庭における都市ガス・電 力使用による CO
2排出について資料収集と調査を実施した.
11 東日本大震災に起因する原子力発電所の停止の影響による二酸化炭素排出係数の上昇が なければ当初の予測通りの近い値になっていたと考えられる.
12
2016
年5 〜 6
月の筆者による現地調査.図 15 大田区の都市ガス・電力の年間 CO2排出量と公園樹木の年間 CO2固定量
(筆者作成)
273.2
198.0
237.3
83.3 1,373
1,063
673.7 766.6
0 500 1000 1500
0 50 100 150 200 250 300
ኬᆀᇡ ㄢᕱᆀᇡ ⵞ⏛ᆀᇡ ⢧ㆺ䝿⩒⏛ᆀᇡ
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㒌ᕰ䜰䜽䝿㞹ງCO
2ᤴฝ㔖(
༐䡆) CO
2ᅖᏽ㔖䟺䡆䟻䟺䡆䟻
図 16 千代田区の都市ガス・電力の年間 CO2排出量と公園樹木の年間 CO2固定量
(筆者作成)
17,141 12,235
7,233
5,533 5,879
10,443 71.3
2.8 8.5 1.0 6.7
3.5 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 0
2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000
䟺䡆䟻
䟺䡆䟻
㒌ᕰ䜰䜽䝿㞹ງCO
2ᤴฝ㔖䟺䡆䟻CO
2ᅖᏽ㔖䟺䡆䟻地域に適合した熱環境緩和対策において,緑化による熱環境緩和対策は有効で あるとみなされている (大西他 [ 7 ]・宮本 [ 17 ]).また,樹木の樹冠部による日射 の遮蔽と蒸散の蒸発冷却作用により夏季の日中,樹林の中では周辺より涼しく感 じられる.一方,都市ガス・電力使用等による CO
2の排出を樹木が吸収する効果 はあるものの少ないために,各家庭における CO
2排出量の低減,あるいは地域の 緑化対策等による,より良い環境対策を行う指針としての研究とみなすことがで きるであろう.
また,大田区の大森地域・調布地域・蒲田地域・糀谷・羽田地域および千代田 区の麹町地域・富士見地域・神保町地域・神田公園地域・万世橋地域・和泉橋地 域の何れの地域が, CO
2排出量低減または緑化による熱環境緩和対策をすべきか 確認するための研究ともいえる.
緑化による熱環境緩和対策については,大田区の緑地において熱環境緩和の該 当箇所は 2011 年 4 月 1 日現在 144 箇所の公園が,その他に児童公園が 342 箇所 ある.千代田区は 2011 年 4 月 1 日現在 22 箇所の公園が,その他に児童遊園が 25 箇所ある.
なお,緑化による熱環境緩和対策をするうえで大田区 (図 8 ) の総面積に占める 樹木被覆地率の少ない蒲田地域,糀谷・羽田地域および千代田区 (図 9 ) の樹木被 覆地率の少ない神田公園地域,和泉橋地域の緑化を進めるうえでの指針としても 考慮すべきと考えられる.また,樹木被覆地率の高い富士見地域には皇居,北の 丸公園が含まれていることも考慮すべきである.
「 4.4.3 調査結果」 で示した大田区と千代田区 【全樹種統合の日本における都市
樹木の年間の CO
2固定量算定式 [ 16 ]】 の各地域における公園の高木の CO
2固定 量と都市ガス・電力の年間 CO
2排出量および大田区の 4 地域における環境税のア ンケート調査 [ 1 ] [ 2 ] による支払意志額 (全体での平均 2,299 円) の調査結果をも 考慮すると熱環境問題緩和対策としての緑化対策と CO
2排出量低減について,環 境税の導入は住民への提言としての理解が得られる有効な方法であると考えられ る.
一方,緑化対策と CO
2排出量低減については, 千代田区と大田区の各地域の都
市ガス・電力の年間 CO
2排出量のことも数値的に考慮すべき点であると思われ
る.
なお,今回の現状調査から明らかになったことは,大田区は千代田区に比べて 世帯数で 13.3 倍,人口で 14.3 倍にも拘らず,世帯からの家庭部門の CO
2排出量 は 8.7 倍である.ただし,千代田区の電気の排出係数は 1990 年度で固定してい る.また, 1 人当たりの都市ガス・電力の CO
2排出量は大田区 ; 1,152.062 kg , 千代田区 : 1,239.424 kg である.
これらのことから,環境モデル都市として低炭素社会の実現に向け取り組んで いくか,地域住民および地域企業の環境への理解を深める政策を推進すべきと考 えられる.
【参考文献】