熊本大学学術リポジトリ
筋力トレーニングに対する加圧の効果
著者 藤竹 晃平, 肥合 康弘, 大石 康晴
雑誌名 熊本大学教育学部紀要 自然科学
巻 57
ページ 75‑81
発行年 2008‑12‑19
その他の言語のタイ トル
Effects of KAATSU on Muscular Training URL http://hdl.handle.net/2298/10651
熊本大学教育学部紀要,自然科学 第57号,75-81,2008
筋力トレーニングに対する加圧の効果
藤竹晃平’・肥合康弘2・大石康晴3
EffectsofKAATSUonMuscularTraining
KoheiFuJImAkKEl,YasuhiroHIAI2andYasuharuOIsHI3
Abstract
KAATSU-trainingwithlowerintensityandloadingisconsideredtohavesignificanteffectsonourskeletal musclesInthisstudy,ten-healthyUniversitymalestudentswereperfOrmedtwotimesofmusculartraining withthesamevolume,frequency,intensity,andperiodwithorwithoutKAATSU,toestimatetheeffectsof KAArSUonmusclepowerandmusclevolumeandarea・
FollowingthetrainingwithKAATSUperfOrmedby2096oflrepetitionmaximumfOr4weeks,the increasesincross-sectionalareaandthevolumewereobservedinupper-armmuscles,aswellastheincreasein musclestrengthIncontrast,thosechangescouldnotbeobtainedfOUowingthetrainingwithouttheKAATSU・
TheresultsindicatethatthemusculartrainingwithKAATSUisusefUlfOrincreasethemusclepowerand volume,eveninlowerloadingandshortperiod.
1.緒ロ 遅筋線維と,酸素をほとんど使わず活動し筋力発揮が 高い速筋線維がある.また,速筋線維は遅筋線維より
も筋肥大を起こしやすい.よってレジスタンストレー ニングで筋肥大,筋力向上を起こすためには速筋線維 の動員が重要となる.通常筋肉はサイズの原理に従い,
運動単位の小さな遅筋線維から動員され,運動強度が 上がるにつれ運動単位の大きな速筋線維を動員する.
一般にlRMの20%という低強度の負荷では,速筋線 維はほとんど動員されないため筋肥大は起こらず,筋 力も向上することはないしかし加圧トレーニングは 低強度の負荷にもかかわらず,筋肥大と筋力向上が生 じる(TakaradaetaL2000)これは,血流の制限によ り酸素が十分に供給されないため酸素を必要とする遅 筋線維が活動しにくくなり,相対的負荷強度の増大が,
酸素をあまり必要としない速筋線維もまた動員される ためと考えられている.つまり,低強度の負荷でも,
高強度の負荷をかけている時と同じような状況が生じ るというものである.さらに加圧による低強度ト レーニングを行った結果,高強度のトレーニングの3 倍もの成長ホルモンが分泌されたことが報告されてお り(Kraemeretall991;TakaradaetaL2000;VimetaL l998),これが筋肥大,筋力向上に大きく関与すると 考えられている.
筋力の向上はスポーツ選手にとって不可欠のもので ある.現在さまざまなスポーツ現場で行われているレ ジスタンストレーニングは筋肥大,筋力向上のために 効果的な方法であるが,筋肥大を引き起こすためには
lRM(repetitionmax,最大拳上筋力)の65%以上の強 度が必要であり(CamposetaL200Z;Kraemeretal 2004;McDonaghetaL1984),さらに筋肥大が生じるには通常3,4ケ月の期間が必要であるとされている (JonesandRutherfOrdl987;StaronetaL1994;AbeetaL 2000).
血流を制限して低強度(20%oflRM)のレジスタ ンストレーニングを行う加圧トレーニングは,一般に 行われている高強度のレジスタンストレーニングに代 わるトレーニング方法になるかもしれない加圧ト レーニングとは血流を制限することによって,低強度 (20%oflRM)の運動でも,高強度の運動と同じ効果 が得られると言われているトレーニングである.最近 の研究では,高頻度の加圧トレーニングにより,2週 間という短い期間でも筋肥大が起き,その程度は3,
4ヶ月の通常の高強度レジスタンストレーニングと同 程度であったことが示されている(AbeetaL2005)
レジスタンストレーニングによる筋肥大,筋力向上 の程度を決定する因子の1つとして,筋線維組成が拳 筋肉には,主に酸素を使って活動し筋力発揮が低い
’ポディートーク
2熊本大学医学部保健学科放射線技術科学専攻 3熊本大学教育学部生涯スポーツ福祉課程
(75)
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藤竹晃平・肥合康弘・大石康晴げられる.速筋線維と遅筋線維の割合は筋肥大,筋力 向上の程度を決定するうえで非常に重要であり,速筋 線維の割合が多い人間の方が少ない人間よりも筋肥大,
筋力向上に有利であるしかし人間の筋線維組成はほ とんど遺伝的に決まっていて,トレーニングによって 大きく変化することはないつまりレジスタンスト
レーニングによる筋肥大,筋力向上の程度は筋線維組 成などの遺伝的要素にも大きく依存しているのである.
これまでの加圧トレーニングを用いた研究ではその ほとんどが被験者を2群にわけ,一方の群は加l圧し もう一方の群は加圧せずに同一トレーニングを行い,
筋肥大,筋力向上の程度を検討してきた.しかしこの 方法では筋線維組成などの個人差が考慮されておらず,
トレーニング応答に対する個人差の影響が大きいと考
えられる.したがって,本研究では,個人差をなくすため同一 被験者に対して,加圧をしない4週間の低負荷トレー ニングと加圧を加えた4週間の同一トレーニングを実 施し加圧の効果を検討した
LIT-KAATSU直後に,体重,胸囲,右上腕囲を測定
した.4最大挙止筋力(lRM)測定
被験者はトレーニング開始前,LIT終了直後.LIT- KAATSU終了直後にベンチプレス,アームカール ベントオーバーロウイングの3種目のlRMを測定し た補助なしで,指定した可動域全体で適切なフォー ムで拳上した時点で成功とみなした測定時に使用す るウエイトは,指定した可動域全体で動作ができなく なるまで,25kgきざみで増加させた.挙上に失敗し た場合,2回の再挑戦まで認めた.
5.筋横断面積および筋容量測定
MRIを用いて上腕部の横断面を撮影し面積測定 ソフトCellTraceⅡandJWwinで筋横断面積,筋量を 測定した.MRIの撮影は右上腕骨の近位端骨頭と遠 位端骨頭の中点から,近位方向に5枚,遠位方向に10 枚の合計15枚を上腕骨に垂直に1cm間隔(中点から 近位方向に45Cl、遠位方向に9.5cmの範囲)で撮影
Ⅱ.方法
した.L対象
被験者は,健康な男子大学生10名(平均年齢 219±0.9歳,平均身長1732±7.6cm,平均体重 703±59kg)とした過去に加圧トレーニングの経 ,験がある者はいなかった.被験者には,本研究の趣旨 等(目的,効果,意義,危険性など)を十分に説明し 参加への同意を得た上で実験を開始した被験者は lRMの20%の負荷での低強度トレーニング(Low intensitytraining,LIT),および'司一負荷で加圧ベルト を用いた低強度加圧トレーニング(LITKAATSU)
の両方を行った.なお,トレーニングは加圧トレーニ ングの有資格者の指導のもとで行った
6統計処理
トレーニング前,LIT後,LIT-KAATSU後にそれぞ れで得られたデータは平均±標準偏差で表しその比 較にはPairedStudent-tTbstを用いて統計処理を行い,
危険率5%未満を有意とした
Ⅲ結果
lベンチプレス,アームカールベントオーバー ローイングlRMの変化
ベンチプレスlRMの変化について図1-Aに示し た.LITでは変化がなかったのに対し,LIT-KAATSU では有意な増力Ⅱがみられた(+38%).アームカール IRMの変化について図l-Bに示した.LmLIT‐
KAATSUともに有意な増加がみられた(LIT,+29%,
LlT-KAATSU+10%).ベントオーバーロウイング lRMの変化についてl-Cに示したLITでは変化は なかったがLlT-KAATSUでは有意な増加がみられ た(+5.0%).
2トレーニングプロトコール
被験者は,はじめにLITを週3回の頻度で4週間,
その後,約3週間の休養期間をおいた後,LIT- KAATSUを同様に4週間それぞれベンチプレス,
アームカールベントオーバーロウイングの3種目を,
各lRMの20%の負荷で30回3セット,休息時間30 秒で行ったLIT-KAATSUは両腕の付け根に専用 の加圧ベルトを巻いて行った加圧ベルトの圧力は,
加圧トレーニング男性初心者の平均的な値である l30mmhgとした.
2身体的特徴の変化
体重と胸囲については両トレーニングの影響は認め られなかった.右上腕囲はLITでは変化はなかったが LIT-KAATSUでは2%の有意な増加がみられた.
3.身体測定
被験者はトレーニング開始前,LIT直後,および 3.右上腕筋の最大筋横断面積および筋容積の変化
筋力トレーニングに対薑する加圧の効果
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図1-A
(Kg)
85 80 75 70
65
60
PRE UT KAATSU
図l-B
噸753197531く444433333
PRE UT KAATSU
図l-C
烟753197531く777766666
PRE UT KAATSU
図1
トレーニングによるベンチプレス(A),アームカール(B),ベントオーバーローイング(C)
[の変化PREはトレーニング前の値を示す.*,p<005
のlRMの変化78
藤竹晃平・肥合康弘・大石康晴図'2
A
冠 。「・ロ・IinWI1X汪守甸悪1房写
IlPif絶iFli露1 rL P弓 【ThTZ=IF寺万一W山西局汀1賊 一Z:15Kけ1Wn節房、Z万卒派慈;WF司一.示2丁写室孔戸忘己qTH研FFFh 円
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図'2
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2)
(cm
57
**
55
53 47.0
51 45.37 45.07
49
47
45
43
PRE ロ、 KAATSU
図2加圧トレーニング前(Pre)と後(Post)における右上腕筋最大横断面のMRI画像の比較 (A)およびトレーニングによる右上腕筋横断面積の変化(B).PREはトレーニング前の値を示す.
**,p<0.01
10名の中で最も肥大率が大きかった被験者の右上 腕筋の最大横断面積部位のMRI画像を図2-Aに示し たこれは,上・腕骨の中点から遠位方向に55cmの同 一部位にあたり,LIT-KA(TSUにより筋横断面積が 126%増加した図2-Bには,各トレーニング後の 最大筋横断面積の変化を平均値で示した最大筋横断 面積はLITでは変化はなかったがLIT-KAATSUでは 43%の有意な増加が認められた.
次に右上腕筋容積の変化について図3に示した 右上腕筋容積はLITでは変化はなかったが,LIT- KAATSUでは36%の有意な増加が認められた
4相対筋力の変化
相対筋力の変化について図4に示した
相対筋力の変化について図4に示した相対筋力は,
最大筋横断面積の単位面積あたりのベンチプレス lRM(kg/cm2)の値で表した相対筋力はLIT,
LIT-KAATSUともに有意な変化はみられなかった
Ⅳ、者察
これまでのほとんどの先行研究では,筋力トレーニ ング効果への加圧の影響を検討するために被験者を
「加圧をする群」と「しない群」の2群に分けてト
筋力トレーニングに対する加圧の効果 79
j
30000000000
師4208642086く7776666655PRELITKAATSU
図3トレーニングによる右上腕筋容積の変化.PREはトレーニング前の値を示す.*,p<0.05
(kg/cm2) 298765432
■□●●●■●●11111111
1.482
1.474
1.482
PREUTKAATSU 図4トレーニングによる相対筋力の変化.PREはトレーニング前の値を示す.
本研究で用いた最大拳上回数(lRM)の20%とい う負荷強度は,通常の筋力トレーニングではほとんど その効果は認められない.そのため,最大筋力の増加 や筋肥大を目的とする場合には通常lRMの70%~
100%の負荷でトレーニングを行う必要がある.しか しながら本研究では,ベンチプレスベントオーバー ロウイングにおいて「加圧をした場合(LIT‐
KAATSU)」のみ最大筋力(1RM)の有意な向上がみ られたこの結果は,lRMの20%という低強度にもか かわらず加圧により筋肥大・筋力向上を起こすことを 示すものである.また,今回の研究では,アームカー レーニングを行ってきた.しかしこれらの2群間では,
筋肥大,筋力向上の程度を決定する大きな要因となる 筋線維組成の違いや肥大応答など,トレーニング応答 の個人差を配慮していないという欠点がある.
このため,本研究では,これまで考慮されてこな かったトレーニング応答に対する個人差を解消するた め,被験者に「加圧をしなかった場合(LIT)」と
「加圧をした場合(LIT-KAATSU)」の同一低強度レジ
スタンストレーニングを負荷し,それによる加圧の効
果を検討した
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藤竹晃Zlz・肥合康弘・大石康晴ルにおいて「加圧をしなかった場合(LIT)」でも有 意なlRMの向上がみられた.これは,他の2種目と 違いアームカールのみが単関節運動である点が考えら れる.一般にlRM向上の要因として,筋肥大に加え て神経系の改善や挙上動作技術の向上などの要因が挙 げられる.単.関節運動であるアームカールは,他の2 種目と比べlRMテストの動作基準を設定することが 難しく,テスト結果が挙上動作技術により大きく左右 される可能性があり,今回のlRMの向上は挙止動作 技術が向上したためだと考えられる.
れが直接パフォーマンスに影響すると考えられる競技 には,加圧トレーニングは非常に有効であると考えら
れるV、謝辞
本研究にあたり,MRI撮影に協力していただいた 熊本大学医学部保健学科伊藤雅浩先生,ならびに加 圧トレーニングに協力していただいたクローバーズ4 のスタッフの皆様に心から感謝いたします.さらに 被験者として参加いただいた熊本大学教育学部生涯 スポーツ福祉課程の学生の皆様に改めて感謝の意を表
します.
最大筋横|折面積の単位面積あたりのベンチプレス IRMの重量で表した相対筋力(kg/cm2)は,「加圧を しなかった場合(LIT)」「加圧をした場合(LIT- KAATSU)」ともに有意な変化はみられなかった筋 肥大は,筋線維そのものの肥大のほかに水分含有量 の増加などの理由も考えられる.仮に今回生じた筋 肥大の主な要因が水分含有量の増加に起因するのであ れば,相対筋力は低下する.したがって,相対筋力に 有意な変化がなかった今回の結果は,筋肥大が筋線維 そのものの肥大によるものであり,これが筋力の向上 に寄与したと判断される.類似した結果が下半身の加 圧トレーニングで報告されている.2週間の下半身の 低強度加圧トレーニングを行った研究報告(Abeet aL,2005)では,スクワツトでの筋力が168%向上し
さらにMRIを用いて下半身の筋横断面積を測定した 結果85%の筋肥大が認められた.同時に相対筋力 に変化はなく,加圧トレーニングによる筋肥大が筋線 維そのものの肥大だということが明らかにされている.
Ⅵ、参考文献
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本研究により,トレーニングに対する個人差の影響 (適応応答の違い)を排除した上で,非常に強度の低 いトレーニングに対して加圧トレーニングが有効であ ることが明らかとなった具体的には,加圧を施すこ とにより,lRMの20%の低強度で週に3回,4週間の レジスタンストレーニングを行うことにより,上腕筋 の有意な肥大,筋量の増加および筋力向上が認められ
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resistancetraining:progressionandexerciseprescriptionMed SciSportsExerc36:674-688.加圧トレーニングにより筋肥大,筋力向上が認めら れた研究は多数報告きれているがスポーツパフォー マンスへの直接的な影響について検討した研究はほと んどみられないスポーツ現場において,加圧トレー ニングがこれまでの一般的なレジスタンストレーニン グに代わるトレーニングになるためには,加圧トレー ニングがスポーツパフォーマンスへ与える直接的な効 果を検討することが必要であろう.ウエイトリフティ
ングや投てき種目といった筋力への依存度が高く,そ
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