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偽痛風を契機に診断された副甲状腺機能亢進症

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Academic year: 2021

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全文

(1)

K e y W o r d s :偽痛風、CPPD disease、副甲状 腺機能亢進症

論文要旨

 偽痛風を含むピロリン酸 Ca結晶沈着症は内 分泌・代謝疾患を合併しうる。

 当院で経験した 78 歳女性は、 4 年前に足関 節の疼痛から偽痛風と診断され、以来頻繁に発 作を繰り返していたが、多関節炎と下肢筋力低 下のため当院へ救急搬送となった。X線での関 節内石灰化所見と関節液中のピロリン酸 Ca 結 晶より偽痛風と診断した。加えて血液検査で高 Ca 血症を認め、intact-PTH 高値、Ca 排泄率正 常で、頸部超音波検査と

99m

Tc-MIBI シンチグラ ムの所見から原発性副甲状腺機能亢進症と診断 した。短期の NSAIDs とプレドニゾロンの内服 により偽痛風の症状は消失、現在はシナカルセ ト内服により血清 Ca値のコントロールは良好 である。

 副甲状腺機能亢進症の治療で偽痛風発作が予 防されるか否かは不明であるが、本症例では治 療開始後 2 ヶ月にわたり激しい偽痛風発作が出 現しておらず、血清 Ca値コントロールによる 偽痛風抑制の可能性が示唆された。

諸言

 偽痛風はピロリン酸カルシウム結晶沈着症(CPPD disease)の 1 型である。CPPD disease の発生に は電解質や有機物の代謝異常が関係している場 合があり、内分泌・代謝疾患の合併が指摘され ている。このことを認識し、他の症状を予防す るために診断・治療を行うことが重要である。

今回、偽痛風と副甲状腺機能亢進症の合併例を 経験したので、文献的考察を交えて報告する。

本文

 患者は78歳女性。発熱、筋痛、関節痛、筋力 低下を主訴に当院へ救急搬送となった。

【現病歴】

  4 年前に足関節の疼痛から偽痛風と診断され、

以来頻繁に発作を繰り返していた。 2 年ほど前 から家族が歩行時の筋力低下に気付いていたと のこと。 3 ヶ月前から鎖骨から上腕部にかけて の疼痛と発熱が出現し、激しい前胸部痛のため 起き上がれない日もあった。半月前からは下肢 筋力低下が進行して生活に支障を来すようになっ た。入院 2 日前、歩行中の転倒により近医へ救 急搬送され、高熱を認めたため精査を行ったが、

インフルエンザ陰性、胸部 X 線でも肺炎像を認 めなかった。入院前日には筋力低下と歩行困難 により当院内科を紹介受診したが、翌日も症状 は改善せず、当院救急外来へ搬送となった。

【既往歴】

虫垂炎(高校生時)

卵巣嚢腫術後(27歳時)

偽痛風(74歳時)

VPC頻発 / 左室壁運動軽度低下(77歳時)

胆嚢炎

【内服薬】

ミノドロン酸50mg 1 錠分 1 起床時(月 1 回)

レボフロキサシン250mg 2 錠分 1 夕食後 姫路赤十字病院誌 Vol. 40 2016

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偽痛風を契機に診断された副甲状腺機能亢進症

臨床研修部 杉本茉里恵、井上翔太郎、太田  友 内科 山中龍太郎、細谷 武史、林  玲加

綱島 陽子、廣政  敏、香川 英俊

(2)

【家族歴】

RA・膠原病なし 神経筋疾患なし 父:胃癌(52歳で死亡)

母:転倒による水頭症(84歳で死亡)

妹:骨粗鬆症なし

【生活歴】

ADL:自立(独居)

飲酒:なし

喫煙:過去も含めなし

【職業歴】

体育教師(幅跳び・投擲)

【入院時身体所見】

 入院時のPS は 3 - 4 程度であり、元来独居で ADLは自立していたことを考慮すると、明ら かに低下していた。

 38.4℃の発熱を認めた他、バイタルサインの 異常はなかった。側頭動脈の触知は良好で、項 部硬直や jolt accentuationなど髄膜刺激徴候はな かったが、頸部に運動時痛があり、自力で頸部 を挙上できなかった。胸腹部に特記すべき異常 所見を認めなかった。

 両側胸鎖関節・肩鎖関節と膝関節・足関節に 著明な圧痛があり、とくに右膝関節は激しく腫 脹し関節液貯留が明らかだった。また右側優位 の下肢筋力低下に加え、下肢屈筋群の把握痛を 認めた。

【入院時検査】

 血液検査(Table.1)では炎症反応上昇に加

え、補正 Ca13.4mg/dl と高Ca 血症を認めたが、

疾患特異的な異常所見は指摘できなかった。

 胸部 X線では肺野に異常陰影を認めなかった。

心電図、腹部超音波検査、胸腹部単純CT では 特記事項なく、心臓超音波検査でもvegetation 指摘されず、熱源は不明であった。

【鑑別診断】

 以上より、多関節炎と高Ca 血症のそれぞれ

F i g .1 入院時身体所見

    T a b l e .1 入院時検査所見

(3)

に対し、個別に診断的アプローチを行った。

<多関節炎>

 足関節の症状が以前の偽痛風発作時と類似し ていることや、過去にも頻回に偽痛風発作を繰 り返していたことから、偽痛風を最も疑った。

また感染性関節炎の除外が重要と考えられた。

追加検査として、関節 X線撮影と右膝の関節穿 刺を行った。関節 X 線(Fig.2)で肩関節、膝 関節、足関節に偽痛風に特徴的な線状・顆粒状 の石灰化所見を認めた。関節液(Fig.3)は黄 色混濁で、顕微鏡による観察では多数の好中球 浸潤を認めたものの細菌像を認めず、悪性疾患 を示唆する異型性も指摘されなかったが、小棍

棒状のピロリン酸 Ca結晶が証明された。以上 より偽痛風と診断した。

<高 Ca血症>

 精査のため血液検査(Table.2)を施行したと ころ intact-PTH146pg/ml と高値、P2.2ml/dl と低 値であったことから、原発性副甲状腺機能亢進 症を最も疑った。鑑別疾患として家族性低 Ca 尿性高 Ca 血症が挙がったが、Ca 排泄率 1.9 と 正常であったことから除外された。頸部超音波 検査(Fig.4)では甲状腺左下極に血流豊富な 低エコー性腫瘤を認め、副甲状腺単腺の腫大が

  F i g .2 関節 X 線

F i g .3 関節液

T a b l e .2 高 C a 血症精査

F i g .4 頸部超音波検査

(4)

疑われた。

99m

Tc-MIBI シンチグラム(Fig.5)で は甲状腺左下極に取り込みの亢進を認め、異所 性の取り込みは指摘されなかった。以上の所見 を総合し、副甲状腺腫による原発性副甲状腺機 能亢進症と診断した。なお各種ホルモン値は年 齢相応で、下垂体 MRI もサイズ・形状ともに 正常所見であり、入院時の CT 検査でも異常所 見を認めなかったことから、MEN Ⅰ型は否定 的であった。

【入院後経過】

 偽痛風に対しては入院 3 日目から N S A I D s を投与したが症状は軽快せず、完全な解熱も得 られなかった。したがって入院 6 日目からプレ ドニン20mg/day 内服を追加したところ、入院 9 日目には完全な解熱が得られ症状も消失した ため、プレドニンは漸減、終了した。並行して 進められたリハビリテーションにより速やかに 自力歩行可能となり、入院20日目、リハビリ テーション目的に転院となった。(Fig.6)

 副甲状腺機能亢進症に対しては、本来は手術 が根治療法であるが本人が希望しなかったため、

入院18日目からシナカルセト25mg/day内服に よる治療を開始した。入院から41日目の外来受 診時には、補正 C a 値10.7m g / d l とコントロー ル良好であった。(Fig.7)

     F i g .7 副甲状腺機能亢進症の入院後経過      F i g .6 偽痛風の入院後経過

F i g .5 M I B I シンチグラム

(5)

【考察】

 CPPD disease には偽痛風発作に加え、筋痛を 生じる偽リウマチ性多発筋痛症など多彩な病型 が含まれる

1 )2 )

(Table.3)が、関節内のピロリ ン酸Ca 血症の存在と関節X 線写真での石灰化 所見のみで診断可能である

3 )

(Table.4)。CPPD

disease の発生には電解質や有機物の代謝異常

が関与している可能性があり、副甲状腺機能 亢進症もその一つだ

4 )

(Table.5)。したがって

CPPD disease と診断された場合には血液検査に

よる合併疾患のスクリーニングが推奨されてい る。とくに若年者など偽痛風として非典型的な

場合には、合併疾患を考慮する必要性が高い。

 CPPD disease における副甲状腺機能亢進症の 合併率は 2 -15%である

5 )

。逆に副甲状腺機能 亢進症における CPPDの発症リスクは約 4 倍で

6 )

、合併率は3.8-40%とばらつきがあるが、こ れは 50 歳以上で合併率が著明に増加すること が原因と考えられる

7 )

。副甲状腺機能亢進症で は年齢層が上がるほど、また骨代謝障害を有す るほど CPPD diseaseを発症しやすく、高 Ca 血 症の期間の長さが CPPD disease の発症に重要と 推測されている

7 )8 )

 本症例では 4 年前から偽痛風発作を頻回に 繰り返しており、したがって副甲状腺機能亢進 症の治療により偽痛風発作を予防できるか否か が今後の経過において最も重要な点である。文 献によると合併疾患の治療を行っても CPPD

disease の進行抑制や改善には効果が期待でき

ない

9 )

。また副甲状腺機能亢進症の治療により 血清Ca 値のコントロールが良好となっても慢 性関節炎が遷延した症例報告が、少なくとも 2 件存在する

10)11)

。しかし偽痛風発作に限定し た記載は見受けられず、結論は不明である。本 患者は副甲状腺機能亢進症の治療を開始してか ら 2 ヶ月にわたり、激しい偽痛風発作を生じ ることなく経過しており、この事実は血清 Ca 値のコントロールにより偽痛風が抑制されるこ とを示唆している可能性がある。今後とも治療 を継続し、長期的な経過観察を行う必要がある。

結語

 CPPD disease には内分泌・代謝疾患が合併し うる。若年者などの非典型的な場合は特に、血 液検査で内分泌・代謝疾患をスクリーニングす ることが推奨される。CPPD disease における合 併疾患の治療意義は、CPPD disease の改善や進 行抑制ではなく合併疾患による新たな症状出現 の予防であるが、本症例では副甲状腺機能亢進 症の加療を開始してから 2 ヶ月にわたり、激 しい偽痛風発作を生じることなく経過しており、

この事実は血清 Ca 値のコントロールにより偽

T a b l e .4 C P P D d i s e a s e の診断基準

(文献3より改変)

T a b l e .5 C P P D d i s e a s e の合併疾患

(文献9より改変)

T a b l e .3 C P P D d i s e a s e の臨床病型

(文献1より改変)

(6)

痛風が抑制されることを示唆している可能性が ある。

参考文献

1 )Rosenthal AK, Ryan LM, McCarty DJ. Calcium Ptrophosphate Crystal Deposition Disease, Pseudogout and Articular Chondrocalcinosis.

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& Wilkins, Philadelphia 2005. p.2373-2396 2 )Paul Mac Mullan, Geraldine McCarthy.

Treatment and management of pseudogout:

insights for the clinician. Therapeutic Advances in Musculoskeletal Disease. 2012, vol.4, no.2, 121-131

3 )Martel W, McCarter DK, Solsky MA, et al.

Further observations on the arthropathy of calcium pyrophosphate crystal deposition disease.

Radiology 1981; 141: 1-15

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188-202

5 )Hamilton EBD. Diseases Associated with CPPD Deposition Disease. Arthritis and Reumatism, 1976, vol.19, no.3, 353-357

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9 )UpToDate: Clinical manifestations and diagnosis of

calcium pyrophosphate crystal deposition(CPPD) disease

10)Mitsui H et al. A case of Pseudogout Associated with Hyperparathyroidism and Gout. JJBM.

1983, vol.1, no.2, 73-77

11)Stockman A, Darlington LG, Scott T et al.

Frequency of chondrocalcinosis of the femoral

heads in gout: a controlled study. Ann rheum

Dis. 1980, 39: 7-11

参照

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