第5回韓国語海外短期語学研修実施報告
―改正点に焦点を当てて―
松本久美子
キーワード:短期語学研修 協定校 交換留学 単位認定レベル
はじめに
2007年8月に第1回韓国語研修が実施されてから5年が経過した。この研
修は基本的に教養教育の必修科目である初修外国語「韓国語Ⅲ」を履修した 学生を対象としており、指定されたコースを修了すると「韓国語Ⅳ」の単位 として認定される。研修先は長崎大学の協定校である慶煕大学校国際教育院 で研修期間は3週間である。研修開始からこの5年間の間に、いくつか問題点が出てきたが、一番検討 を要する事項は、研修実施時期と単位認定レベルであった。研修実施時期に ついては、初年度からその問題が認識されており、相手校と協議を重ね、第 4回研修(2010年度)から9月の派遣に切り替えた。この結果、前期期末テ ストの終了時期にかかわらず学生が研修に参加できるようになり、参加人数 も大幅に増加した。しかし、プレースメントテストの結果、単位認定の対象 とならないレベルに配置された学生が全体の約60%に上ったため、早急に認 定レベルの見直しが必要となった。そこで第4回研修(2010年度)実施直後 から単位認定対象レベルを引き下げる方向で検討を重ね、第5回研修(2011 年度)から変更レベルでの単位認定が行われるようになった。つまり、第5 回研修は第4回までの懸案事項をひととおりクリアして実施された研修だと 言える。
本稿では第1回(2007年度)から第5回(2011年度)までに検討され変更 された事項を整理するとともに、これら改正点、特に単位認定レベルの変更 に焦点を当てて第5回研修の報告を行う。また、今後の課題についても若干 の考察を加える。
1.第1回研修(2007年度)から第5回研修(2011年度)までの変更事項 変更事項としては以下の3点が挙げられる。
① 派遣時期:8月の3週間 → 9月の3週間
② 派 遣 先:3校 → 1校
③ 単位認定レベル:初級Ⅱ → 初級Ⅰ中間
変更に至った経緯と変更後の状況については以下に述べる。
1-1.派遣時期の変更とそれに伴う派遣先の限定
慶煕大学校国際教育院は夏季短期課程を2つの時期(1次・8月と2次・
9月)に実施している。第1回研修(2007年度)から第3回研修(2009年度)
までは8月の課程に派遣していたが、本学の前期期末試験の終了日の関係か ら参加できない学生が存在したため、慶煕大学校国際交流処および国際教育 院と協議を重ねた。第3回研修(2009年度)の派遣時に8月派遣から9月派 遣に変更することに対して双方の合意が得られたため、第4回研修(2010年 度)から9月派遣に変更することができた1。
韓国語研修の開始にあたっては、派遣先としてはソウルにある協定校3校
(慶煕大学校・成均館大学校・梨花女子大学校)が指定されており、それぞ れの大学が持つ夏期課程に派遣可能であった。しかし、成均館大学校と梨花 女子大学校については9月に実施する課程を持っていなかった。そのため、
第4回研修(2010年度)から派遣先は自動的に慶煕大学校に限定されること になったが、これによる韓国語研修への影響はない。
表に示されるように、第1回研修は参加希望者が4名であったため、夏期 プログラムに対して交換留学枠8名を持つ慶煕大学校に全員派遣し、第2回・
第3回についても参加希望者が8名以内であったため第1回と同様に慶煕大 学校に派遣していた。第4回は研修時期の変更によって参加人数が18名と大 幅に増加し交換留学枠を超えたが、慶煕大学校国際教育院は同院の語学プロ グラムに参加する協定校の学生に対して、交換留学枠外の場合、授業料の30 パーセントが割引されるため、学生の負担も少ない。また、同院からは事前 に参加人数が増えても受け入れ可能であるという返答を得ていた。よって、
第4回・第5回とも問題なく全員を慶煕大学校に派遣することができている。
<韓国語研修:第1回から第5回>
*( )内は単位認定者数
通常、学生交流の覚書締結において夏期語学プログラムが交換留学枠対象 とされることはまずない。2011年度は慶煕大学校との学術交流協定および学 生交流の覚書の更新年(第1回目)にあたっていたが、覚書の内容を変更す ることなしに無事協定を更新することができた。今後も慶煕大学校は韓国語 研修のための派遣先として、その交換留学枠(1年間に2名、夏季短期課程 の場合は8名)を全て韓国語研修で使用する予定でいる。一方、成均館大学 校と梨花女子大学校については、2010年度が学術交流協定および学生交流の 覚書の更新年であったが、韓国語研修を修了した学生の3年次、4年次での 半期もしくは1年の交換留学先として協定を維持することにした。
1-2.単位認定レベルの変更とその結果
韓国語研修に参加し長崎大学の必修科目である「韓国語Ⅳ」の単位に認定 されるためには、韓国語担当教員によって指定されたレベル「初級Ⅱ」以上 で研修を受ける必要があった。成績評価については協定校が判定した成績(100 点満点)を長崎大学の成績評価基準に読み替えることになっている。参加学 生は国際教育院で実施されるプレースメントテストによってレベル分けされ るが、毎年そのレベルに達していないと判断される学生が出ていた。2007年 度から2009年度は韓国語研修への参加人数が少なかったため、単位認定レベ
年 度 2007年度 第1回
2008年度 第2回
2009年度 第3回
2010年 第4回
2011年 第5回 研 修 校 慶煕大学校
国際教育院
慶煕大学校 国際教育院
慶煕大学校 国際教育院
慶煕大学校 国際教育院
慶煕大学校 国際教育院 研 修
期 間
8月6日~
8月24日
8月4日~
8月22日
8月3日~
8月21日
8月30日~
9月17日
9月5日~
9月23日 参 加 日 8月8日
(2日遅れ)
8月6日 (2日遅れ)
8月6日
(3日遅れ) 8月30日 9月5日 参加者数 4
(3)
6
(5)
1
(0)
18
(7)
12
(12)
ルの変更の必要性が明確ではなかったが、2010年度は研修時期の変更により 参加人数が増加し、この問題が顕著となった。
国際教育院の正規プログラムでは初級レベルは低いレベルから順に、「入門」
「初級Ⅰ」「初級Ⅱ」の3レベルのみであるが、夏季短期課程では、これに加 え「初級Ⅰ中間」というレベルが存在し、4レベルに分けられている。そこ で、第1回から第4回までのプレースメントテスト結果をもとに検討を重ね、
「初級Ⅱ」ではなく、レベルを一つ下げて「初級Ⅰ中間」以上を単位認定レ ベルとするのが適当ではないかという結論に達した。2010年度後期中に変更 案を外国語科目委員会に提出、全学教育実施委員会を経て、2011年度前期中 に全学教務委員会の了承を得、第5回の研修(同年9月)を新しい単位認定 基準で実施することができた。この変更により、第5回研修では参加者12名 全員が「初級Ⅰ中間」以上のクラスで研修を受け、全学教育必修科目「韓国 語Ⅳ」の単位として認定された。詳しくは次に述べる。
2.第5回研修(2011年度)
2-1.研修実施準備段階での考慮点
第4回研修実施後の参加学生に対するアンケート調査で特に単位認定にか かわる回答内容から、第5回実施準備段階で考慮した点について述べる。
2011年度の研修実施に当たっては4月の募集案内から5月の研修説明会ま
での間には単位認定レベルを「初級Ⅱ」から「初級Ⅰ中間」に変更できるか どうか、全学教務委員会での了承がまだ得られていない段階であったので、参加を希望する学生たちに認定レベルの変更について明言できない状態であっ た。変更が確定し、正式にアナウンスできたのは7月に実施した出発前オリ エンテーション時においてである。
前年度に単位認定が受けられないことに強い不満を持った学生がいたこと から、2011年度の研修説明会では、単位認定レベルの変更については審議中 であるがまだ決定していないこと、プレースメントテストの結果によっては 単位認定が受けられない可能性が大いにあることを前年度の数値を示して明 確に説明した。また、同時に、研修の主たる目的は単位認定にあるのではな く、実践的な語学力の養成、異文化理解等にあるのであり、これまでの研修 後のアンケート調査でも、研修参加者のほとんどが語学力の向上、異文化理 解、視野の広がり等、さまざまな研修による効果を実感していることを伝え
た。
研修説明会後、参加申し込みをした学生は12名であった。単位認定レベル の変更が確定していないことが参加人数に影響したかどうか定かではないが、
参加者数は2010年度より6名減少した。
前年度のプレースメントテストで「初級Ⅰ」レベルと判定された学生が18 名中4名いたことから、テスト対策として、参加者12名が申込書を提出した 際に、研修先である国際教育院で使用されるテキストの文法項目一覧と語彙 リストを手渡した。前年度までは出発前オリエンテーションで配布していた ものだが、できるだけ早く事前学習を始めたほうがいいという判断のもとに、
例年より1か月早く配布することとした。
出発前オリエンテーションにおいても、プレースメントテストの種類と内 容、それに対する事前学習の必要性を説明し、どのような準備が必要か具体 的に示した。これは第1回から行ってきたことだが、2011年度はこの指導を 更に強化し、面接試験の練習日を設けた。国際教育院のプレースメントテス トでは筆記試験だけではなく面接試験が重視されるが、この面接試験でほと んど何も答えられない学生が存在したからである。面接でのインタビュー項 目は筆者が用意し、面接自体は韓国人留学生に協力を依頼して実施した。練 習に参加した学生は12名中4名と多くはなかったが、全員熱心に取り組んで いた。次回からは出発前オリエンテーション時に面接練習の時間を設けるこ とができればと考えている。
2-2.プレースメントテスト結果
国際教育院でのプレースメントテストの結果は、参加者12名中、「初級Ⅰ中 間」が10名、「初級Ⅱ」が2名で、全員単位認定対象レベルのクラスでの研修 となった。最終試験の結果も単位認定基準を満たしており、帰国後長崎大学 での所定の手続きを経て全員単位が認定された。これは第1回実施以来初め てのことであった。しかし、純粋にプレースメントテストの点数だけから言 えば、初級Ⅰレベルで研修を受けたほうが適当であると思われる学生が4人 程存在していたが、第1回から第4回までの研修に参加した学生の勉強態度 に対する評価が全般的に高かったこと、また長崎大学については単位認定が 関係することから、熱心に取り組めば授業についていけるであろうという国 際教育院の判断で、全員「初級Ⅰ中間」以上での研修となった2。
研修後の参加学生に対する聞き取り調査では、プレースメントテストの点 数にかかわらず、全員が「プレースメントテストは難しかった」「もっと勉強 しておけばよかった」と答えている。試験の結果が発表され、全員認定レベ ルで研修が受けられるとわかったときの学生の喜びと安どの表情を見て、学 生にとって認定レベルで研修を受けることの重要性を再認識させられた。
かといって、韓国語研修は研修に参加すれば全員が単位をもらえる研修を 目指しているのではない。単位認定レベル変更に当たって、「初級Ⅰ」レベル から認定対象にしてもいいのではないかという意見も存在した。「初級Ⅰ」に すれば、全員問題なく認定レベルでの研修となるであろう。しかし、学習内 容から言えば、やはり「初級Ⅰ中間」からが妥当である。短期間ではあるが 研修に参加することで、留学の面白さと厳しさを体験し、語学力を伸ばし、
異文化理解を深め、視野を広げ、自分自身に自信をつけて、新たな視点を持っ て現在と将来について考えるきっかけとしてほしいと考えている。
2-3.学生による評価
第5回研修後(2011年度)のアンケート調査によれば、参加者全員が韓国 語の上達、韓国文化理解、視野の広がり等、さまざまな研修効果を実感して いる。また、研修の全体評価に当たる2つの設問①この研修に参加すること は価値がある/参加してよかったと思うか、②この研修を他の学生に推薦で きるか、に対して、12人中11人が最高位の評価(5段階評価で5)を付けて いる。
長崎大学の韓国語の授業における1クラスの人数は40名程度で、逐次日本 語での説明が行われる。これに対し、国際教育院での授業は1クラス15名以 下で、クラスでの使用言語は通常韓国語のみ、韓国語で聞いて韓国語で答え るという割合が圧倒的に高くなっている。少人数で、しかも韓国語のみで行 われる授業に対する研修参加者の評価は高い。「最初の1週間はクラスについ ていくのが大変だったが、その後は大丈夫だった。」「町にでかけて実際に韓 国語が通じたときはとても嬉しかった。」という声に代表されるように、初め は耳もなれず戸惑っても、1週間ほどで自己の上達が感じられるようになり、
韓国語学習に対する意欲が増していくようである。
3.今後の課題
韓国語研修実施のために韓国の大学と協定を結ぶ際に重要視したことの一 つに、「留学生の受け入れ体制が十分に整備されていること」が挙げられる。
これは、もちろん危機管理の問題が重要な案件であることもあるが、研修開 始当初は引率教員の予算がはっきりした形で確保されていなかったため、将 来的には引率なしでの研修実施を考えてのことであった。第1回から筆者が 引率を担当しているが、この間、派遣先である慶煕大学校国際交流処と国際 教育院の担当者と毎回会合を持ち、問題点について調整し、連携を強化して きた3。単位認定レベルの変更が完了すれば、引率教員なしでも十分に研修実 施可能であると考え、2011年度から引率教員なしの実施を検討していたが、
参加学生へのフォローアップインタビューの結果、参加希望学生が研修参加 を決定する要因の一つに引率の有無が関係していることが判明した。学生の 精神的な安定も考慮すると、やはり協定校でのプレースメントテストが終了 し研修クラスが決定するまでは引率があったほうがいいという結論に達した4。 現在までのところ、韓国語研修の引率は筆者が担当している。より多くの学 生が安心して参加できるようにするために、今後筆者が何らかの理由で引率 が不可能になった場合、代わりに引率を担当できる教員を確保しておく必要 があると思われる。
第5回研修後のアンケート調査で、「チャンスがあれば、また留学してみた いと思うか。」という設問に対し、「いいえ」と答えた学生は1名のみで、「ど んな留学に興味があるか」という設問に対しては、「短期語学研修」が6名、
「交換留学(半年もしくは1年)」が5名であった。これまでも研修後、参加 者から交換留学に関する相談を何件も受けてきている。また、研修参加者で 3年次もしくは4年次に実際に交換留学生として韓国の協定校へ半年もしく は1年間留学した学生も数名ではあるが出てきている。ちなみに2012年2月 末には2010年度の韓国語研修に参加した学生3名が韓国の協定校へ1年間の 交換留学に出発した。
韓国語研修の場合、長崎大学用のテーラーメイドのコースではなく、慶煕 大学校国際教育院の持つ既存の語学課程(夏季短期課程)に交換留学枠を使 用して派遣している。このため、参加学生は交換留学枠外の学生も含めて全 員が、研修期間中協定校から交換留学生としての待遇を受けることになる。
このことが参加学生の交換留学についての認識を高める一因となっているの
ではないかと思われる。
研修前オリエンテーションでは交換留学に興味がある場合はソウル滞在中 に成均館大学校や梨花女子大学校など、慶煕大学校以外の協定校を見学して おくように指示している。韓国語研修をどのようにして交換留学(半年もし くは1年)につなげていくか、また、研修後留学を希望しながら経済的な理 由や留年等の問題で交換留学に出られない大多数の学生に対してどのような フォローができるかが、今後の課題である。
1 この経緯については、松本(2010)で詳しく述べた。
2 筆者は第1回研修から韓国語研修担当教員として引率も行っており、プレー スメントテストの結果は国際教育院夏期研修担当者から毎回報告を受けて いる。
3 研修時期の変更が成功した要因として、引率教員が毎回相手校担当者と直 接会って話をし、信頼関係を築いてきたことが挙げられる。
4 最長で1週間、最短で4日の滞在で引率を終えて帰国している。
[参考文献]
松本久美子(2002)「国際教育交流と大学の国際化―第2回AIEJ/ユネスコ青 年交流信託基金JAFSA国際交流担当者プログラムに参加して―」『長崎大学 留学生センター紀要』第10号
pp.85-102
松本久美子(2008)「学生交流と大学の国際化―海外短期語学留学プログラム
「第1回韓国語研修」を一例として―」『長崎大学留学生センター紀要』第16 号
pp.97-110
松本久美子(2011)「韓国語海外短期語学研修の現状と課題―4年間の研修を 振り返って」『長崎大学留学生センター紀要』第19号
pp.35-41
(留学生センター准教授)