香 川 大 学 経 済 論 叢
第75巻 第2号 2002年9月 95‑159
社会企業の戦略原理
ー一理念融合による組織革新一―‑
原 田 保
は じ め に
近年,経営戦略においては,内外を間わず伝統的な戦略論の枠組みを超えた 次厄から果敢な挑戦が行われている。そのためもあってか,実に多くの先進事 例を見出すことができる。しかし,それらを踏まえた戦略原理の抽出について は未だ不十分であると百わざるをえない。そこで,本稿においては,著者が提 唱する戦略原理の 1つである「社会企業の戦略原理」について,幾つかの先進 事例を跨まえ仮説の提言に挑戦してみる。
なお,これについては,単に企業を経済的な存在として捉えるアプローチか ら, fi1J時に企業を社会的な存在として捉えるアプローチヘと転換すべきことを
、意味している。これは,昨今,多大な注目を浴びている非営利企業 (NPO: non profit organization, 以
F
すべて NPOの 表 記 に 統 一 す る ) に 対 し て も 経 営 視 点を導人すべきである,とのじ張でもある。それでは,以下において,著者が提 唱する杜会企業の特徴とは一体どんなものなのか,について考えてみる。それ
については,以下のような 3点に要約することができる。
① 社会企叢は (l立的な NPOを指向する。
② 社会企業はベンチャースピリットが旺盛な起業家によって担われる。
③ 社会企業は広範な社会資源の有効活用を追求する。
第 1の「社会企業は自立的な NPOを指向する」ということは,それはたと えNPOで あ っ て も 噛 利 企 業 と 同 様 に , ま た そ れ 以 い こ 専 門 的 な マ ネ ジ メ ン ト の導人が不可欠であり,そのため組織運営においてもプロフェッショナルなス
‑96‑ 香川大学経済論設 292 キルの獲得が前提になる,ことをホしている。
第
2
の 「 社 会 企 業 は ベ ン チ ャ ー ス ピ リ ッ ト が 旺 盛 な 起 業 家 に よ っ て 担 わ れ る」ということは,社会企業が白立するためには社会企架の担い手目身が白立 することが前提である,ことをボしている。また,これは,もしそうであれば,杜会企業に対しては—^般の企業以 L に巾^^業への貪欲な姿勢が求められる,こと をポしている。
第
3
の「社会企業は広範な社会資源の有効活用を追求する」ということは,杜会企業が単なる利益を追求する組織ではなく, ir1J時に杜会企業の活動が社会 に対する利益以外の貢献を果たす組織である,ことをぷしている。そのため,
社会企業には,社会に存在する多様な資源の再牛活用による価値創造の実現が 期待されている。
こ の よ う に , 社 会 企 業 と は 文 字 ど お り 杜 会 へ の 貞 献 を ミ ッ シ ョ ン と し な が ら,同時に営利企業のような存在を指向している,と衿えられる。その意味で,
社会企業は, 利般の常利企業とボランティアによって担われる非酋利組織との 融合的な組織形態である,といえる。すなわち,社会企業について経済性を追 求しながらも,併せて社会性を追求する組織活動が期待されている。
以上の認識に陥づいて,今後期待が寄せられる社会企業の戦略原理について 考察を加えてみる。これは,げい換えれば,社会企業は必ずしもボランティア 活動によってのみ支えられる活動ではなく,また社会企業が非常利組織ゆえに マネジネントが不必要でもない,との
1 .
張である。これは,すなわち,著者が 提唱する社会企業とは, NPOサ イ ド か ら 捉 え れ ば 「 超 ボ ラ ン テ ィ ア 」 を 指 向 する「ボランティアベンチャーJ
や「超NPO(非党利組織)」を指向する「社 会資源装置」を意味している(図ー 1)0さて,この社会企業化を実現するためには,実は図ー
1
で不すような2
とお りの道筋がある。それらは,}じ々常利組織である普通の企業が社会企粟化を指 向する道筋と,元来常利組織である NPOが 社 会 企 業 化 を 指 向 す る 道 筋 の 2つ である。このことは,従来の 酋利刑糾織は営利刑経営を非党利刑組織は非常利 刑経常を指向すべきであるという,まさに伝統的な経貨観からの脱却を紅味し293
図ー 1
社 会 企 業 の 戦 略 原 理
社 会 企 業 の 位 置 と そ の 概 念
‑97‑
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社 会 企 業••••••…•ロー冨;.:
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社会資源装置:
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非 常 利 組 織 背 利 組 織
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ボランティア
ポランティアベンチャー
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ベンチャー
社会企叢化(超NPO化)
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社会企業化(超営利組織化)
境 界 融 合
ている。 そして,
11)
いう連帯革命や著者のいう境界融合
これによって, かのサラモン (Salamon,Lester M.) (1992)の
(2)
(原田,
2 0 0 0 [ 1 ] )
も実現することになる。ー 社会企業に至る
2
つの道筋さて, 著者に対して企業には経済的存在としての役割と異なる役割があるこ とを理解させてくれたきっかけは, 一連の金井ーり^頼による地域企業の社会性に
(1) 連帝革命: (associational revolution) レ ス タ ー ・ サ ラ モ ン の
t
張 す る 公 共 サ ー ビ ス 部 門 に お け る 過 性 で は な い[II:界 的 な 規 模 で の 非 営 利 セ ク タ ー の 台 頭 を 象 徴 的 に 表 す 概 念 である。(2) 境界隈合:クロスハウンダリー,,著者が提唱する境界融合とは,従来2瑣 対 立 的 な 概 念として考えられていた,すべてのものが新たな第3瑣 に 収 倣 さ せ る こ と が で き る , と い う ぢ え 方 に 立 脚 し て い る 。 例 え ば , 時 間 融 合 ( 過 去 と 未 来 の 融 合 ) , 窄 間 紬 合 ( リ ア ルとバーチャルの融合), i: 体融合(男と女),原罪融合(貨利と非‘汎~利)などがあげら れるうこのような衿え)jを採fjJす る こ と で , イ ノ ベ ー シ ョ ン に 向 け た ブ レ ー ク ス ル ー の 追求が容易に丈現しうる()
‑98‑ 香川大学経済論叢 294 対する研究であった。また,営利追求を目的としない組織でありながらも,経 済的活動を実践しうることを認識できたのは,実は近年大いに注目を浴びてい るNPOの 登 場 で あ っ た 。 こ の よ う な 刺 激 を 受 け る こ と で , た と え 営 利 組 織 で あ っ て も 社 会 活 動 を 担 え る こ と が で き る し , ま た NPOであっても事業活動を 推進しうる,ことが理解できたのである。
そして,このような理解が発展することで,社会資源の有効活用を目的とし たベンチャー的色彩の強い組織としての「社会企業」という概念に行き着くこ とができた。このような状況を踏まえて,本稿では,特に,営利組織から社会 企業論を展開する契機となったソシオダイナミクスの視点から,そしてボラン テ ィ ア 組 織 か ら 社 会 企 業 論 を 展 開 す る 契 機 と な っ た NPO進化論の観点から,
それぞれが社会企業に至るまでの道筋についての考察を試みる。
1 境界融合がもたらす社会企業化の進展
ここにおいては,境界融合がもたらす社会企業化の進展を営利企業からの方 向と NPOからの方向の 2方 向 か ら , 社 会 企 業 化 へ の 道 筋 に つ い て の 考 察 を 深 めてみる。
第
1
の理論については,金井一頼などが主張する企業の社会性を踏まえてい る。これについては,言い換えれば,営利企業を社会企梁化の方向から捉え直 すことを意味している。このことは,特に地域企業においていえるのだが,営 利企業全般に共通して期待される杜会的責任や社会的貞献を企業戦略の目標に することの重要性を説いている。その意味において,金井の理論からは背利企 業に対する社会的戦略の導人についての方法論を学習することができる。第2の理論については,近年強く主張されている NPOといえどもマネジメ ントが不可欠であるとの考え方を踏まえている。これは,かのドラッカーにい わせれば,企業のマネジメントとはいささか異なるものの,それでも NPO固 有のマネジメントの実践は大切である, ということを意味している。なお, ド
ラッカー (Drucker,Peter F.) (1990) によれば, NPOについては非営利組織に 相応しいマネジメントが不可欠なのだが, しかし,このような方向の行き着く
295 社会企業の戦略原理 ‑99‑
先には,必ずや NPOの運営原理と企業の運営原理との融合が見出される。
1. 1 営利組織に対する社会的戦略の導入
金井 (1997) によれば,企業は決して経済的機能を果たすだけの存在ではな く,その過程において多様な主体と関係をもちながら政治的,社会的,文化的 機能も果たしている。このような意味において,企業とはその規模などに関係 なく社会的な存在である,ともいえる。特に,特定の地域に立地する地域産業 の担い手である地域企業においては,それぞれの地域に根ざした事業を展開す ることが,それらの存続のための不可欠な条件になっている。
この地域企業とは地域社会の形成者であり,それゆえそれは地域の発展の鍵 を握っており,そのため地域活性化の中心的な担い手として地域社会に根付い た活動をしている。すなわち,地域企業に対しては,地域の多くの問題を解決 し,経済的にも,社会的にも,文化的にも豊かな地域へ導くための中核的主体 になることが期待されている。このような役割期待に応えるためには,地域企 業は地域社会全体の中で自社のドメインを設定することが期待されるのである
(金井, 1997)。
また,地域企業に限定することなく,企業一般においても次第に企業と社会 との関わり方における杜会的責任の発揮や社会的貢献の実施が問われてくる。
これらのことは伝統的には企業市民という概念で議論されてきたが,これに よって企業の社会に対する責任を明確にすることが不可避になったのである。
そして,このような姿勢を重視することによって,企業に対して社会的責任を 果たすべくコーポレートガバナンスの確立が期待されるようになってきた(金 井・岩田, 1997)。
すなわち,企業が自らの経営戦略を立案するにあたり,従来以上に社会的責 任を考慮することが必要になったのである。それどころか,社会的責任を果た すことこそが実は,企業にとっての他社に対する競争力の源泉になり,また市 場からの圧倒的な支持の獲得に直接的に結びつくのである。このことからも,
今後は,企業にとっては戦略的社会性の追求がより大事になることは明白なの
‑JOO‑ 香川大学経済論叢 296 である。言い換えれば,企業の資源がいかに有効に社会の問題解決のために動 員されるのかが,企業自身のイ
f
亡に多大な影響を仔えることになる(金井・岩 田, 1997)。このように,今や営利を獲得するために組織化された企業においてさえ,そ の利益を獲得するためには自らを杜会企業化すべき時代が到来している。この ことは,かつてもてはやされたメセナやフィランソロフィーのような,単なる 寄付行為のような範囲内で社会への貢献を果たそうということとは,まさに—
線を画した対応なのである。これは,すなわち,常利企業にとって社会企業化 の道を歩むことこそが,結果としてより優れた 常利企業になるための戦略対応 でもあることを示している。
1 . 2
NPOに対するマネジメントの導入続 い て , こ こ で は , 近 年 NPO法という ^定の枠組みの中において事業活動 を行うことが認められたことを踏まえ,従来ではボランティア活動に依拠して いたため営利活動が困難であった NPOの 営 利 活 動 の 推 進 方 向 に つ い て 若
l
この 考察を試みる。このことは,すなわち,非党利活動を担う NPOにおいてさえ 生産性を間うことが大切であることや,マネジメントを適切に行うことも不可 避になったことへの言及である。このような方向から非常利組織である NPOの進化方向を展望した概念が,
実はドラッカー (1990) のいう社会資源変換装置化である。これは, ~1J 述した
ように,社会に存在している多様な資源に何らかの影響を与えることで新たな 付加価値を付与する装置なのである。なお,この社会資源装置については,あ
(3) メ セ ナ : 芸 術 文 化 を 支 援 す る 活 動 で あ る 。 そ の 語 源 は , ロ ー マ 帝 国 の ア ウ グ ス ト ゥ ス 時代の大臣マエケナス (Maecenas)が 詩 人 や 芸 術 を 擁 護 し た こ と に 由 来 し て い る 。 英 諮 では,後援者の視、,l忙からスポンサーシノプ(提供・支援), 立場の視、1¥か ら パ ー ト ナ ー シソプ(仲間),分配の視、lばからチャリティ(慈善活動),行動動機の視、l灯からスチュワー
ドシゾプ(奉仕)が類似語として使用される。
(4) フィランソロフィー: philanthropy (慈怜,,業)。これは,コーポレートフィランソロ フ ィ ー の こ と で あ り , 個 人 が 行 う ボ ラ ン テ ィ ア と は 対 抗 的 な 概 念 で あ る 。 企 業 が 法 人 と し て 社 会 貞 献 を 行 い 社 会 的 責 任 を 果 た す た め に , た と え ば 省 付 を し た り 財 団 を 組 織 化 し て対応を行うような慈婢巾業である戸
297 社会企業の戦略原埋 ‑JOI‑
る意味では,社会資源をインプットすることで新たな価値をアウトプットする 事業組織であると定義できる(原田・佐藤, 2001)。
さて,この社会資源には,例えば地域の人的資源,企業や行政の組織体,地 域施設などの物的資源,地域の文化・芸能,地域社会のニーズなど,有形,無 形を問わず,実に多種多様なものが含まれている。それゆえ, NPOとは,こ
うした社会資本をコーデイネートし,以下のような価値を創造する組織である と衿えられている(原田・佐藤, 2001)。
このように, NPOにおける社会企業化の方向性を指向するならば, NPOが 元来保持していた特徴や優位性を損なうことなく,さらに効果的な組織的活動 の実践が可能になることが想定できる。このようなことは,実はドラッカーが NPOに対してマネジメントの導入を主張した際に,すなわち NPOのマネジメ
ント組織化を提唱した際に,すでに認識されていたのである。したがって, ド ラッカーによる NPOへのマネジメントの導人提
1 3 "
は, NPOの社会企業化の促 進を狙っていたと解釈することができる。ドラッカーによれば, NPOをマネジメントの視点で捉えると,実に多くの 欠点を見出すことができる。それゆえ,この NPOのもつ弱点を克服するため の仕組みや方法の開発が大いに期待されるのである。なお, ドラッカーによれ ば,その克服すべき課題とは概ね以下のように整理することができる(以ド,
Drucker, 1990) o
① 組織および職員の業績の評価が困難であるという課題。
② 従業員は自分の興味と信念が判断基準になり,事業体の
I I
的が副次的に なる危険が生じるという課題。③ 経党の従裁鼠が制約されるという課題。
④ 各 々 の ス テ ー ク ホ ル ダ ー は 違 っ た 期 待 を NPOに 対 し て も っ て い る た め,その調和を図ることが難しいという課題。
⑤ 企業においては利益を出すために投人,および産出を適切に管理しなけ ればならない。 •方, NPO においては自分が任意に決める産出に見合う
;資源の投人を行わないために緻密さを欠いてしまうという課題。
ー 102‑ 香川大学経済論叢 298
⑥ 地位や給与という伝統的経営管坪手法が通じないという課題。
したがって,これらの課題を解決すべく展開されるべきものがNPOのマネ ジメントであるといえる。しかし,このような NPOに元来営利組織の管理手 法を導入することは, NPOそのものの性格を転換させなければならないこと
を示している。したがって, ドラッカーのいう NPOのマネジメント論を突き 詰めていくならば,必然的に,著者の提唱する NPOの社会企業化に行き着く
ことになる。
1.
3
新たなる第3
項としての社会企業このように,現在, ―•方では企業の社会的な存在を指向した杜会企業化の方 向と,他方では NPOの 組 織 力 の 向
I ・ .
を指向した社会命業化の力.向が指向され ている,このまさに2
つの相反する組織が,伺時にそれぞれ自身とはまった<異なる組織である杜会企業化を指向しているのである。なお,わが国において は,近年NPO法(特定非常利活動促進法)の成立にともなって NPOの営利事 業への取り組みの可能性が切り開かれたことが,以ドで述べる社会企業化の重 要性を認識させるための重要なトリガーになっている(図ー 2)。
図ー 2 NPO, 企業と社会企業の位置と差異
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直叢展開
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企 業 の
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経貨糾織 ・・
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企 業 の '柑業展開
NPO 社会企業 企 業
299 杜会企業の戦略J原理 ‑]OJ‑
このように, NPOと企業との運営原理が融合してくると,そして規制緩和 が進展することで市場の重複部分が増大していくと,両者はほとんど同一土俵 上において相互に競争したり協調したりするようなことは日常茶飯事になる。
すなわち,従来の NPOと企業との完全な棲み分け現象は次第に喪失していく ことが予見できるのである。すなわち,たとえ両者の経営組織の形態がまった
く異なっていても,それらの事業展開においては双方にきわめて類似した手法 が見出されることになる。
このように,両者が社会企業化を指向することは,実は NPOも,企業もと もに社会資源装置への進化を指向することなのである。このような進化とは,
また,社会を資源の艇合体として捉えることを意味しているし,集合体として の社会企業は企業であろうがまた NPOで あ ろ う が ・[11]に構わない,ことをボ している。また,このことは,本稿で
t
張する社会企業とは実は価値創造のた めの装置であり,また資源再生のための装置でもある,とのt = .
張でもある。これは,―•方では,たとえボランティア活動であっても,価値創造に向けた アクティブな活動
{ : 1
本を担えるベンチャー的体質を装備しているし,他方で は,企業においても利益-•辺倒の活動ではなく,社会的責任や社会貞献を果た すためのボランティア的要素が必要である,ことをぷしている。その意味にお いて,社会企業とは「ボランティアベンチャー」というべき特徴をもっている 組織であるといえる。2
創造価値を追求する社会企業それでは,以ドにおいて,この新たな第
3
項として登場した社会企業に見出 されるべき戦略原理の特徴について概観を行う。さて, もしも組織の進化を顧 客価値のブレイクスルーとして捉えるならば,著者の提唱する社会企業が新た に付加する価値とは創発価値であるといえる。なお,この創発価値とは,実は 第1
段階の解決価値や第2
段階の関係価値に続いて現れる第3
段階の価値であ る(原田・佐藤,2 0 0 1 )
。そこで,ここで提言する社会企業とは,実はこれら の3つの価値創造を同時に果たしうる組織として位置付けられている。‑104‑ 香川大学経済論叢 300 なお,第 1段階の解決価値は,牛活者のライフシーンで発生する問題を解決 しようという欲求への対応を意味しており,第
2
段階の関係価値は人間が新し いつながりを求めようとする動きを意味しており,第3
段階の創造価値は人間 的な成長を実感したいという欲求を意味している。そこで,以下においては,特に第
3
段階の創造価値を現出させる社会企業の戦略的特徴についての概観を 試みることにする(以ド,原田・佐藤, 2001)。2 . 1
社会資源の変革装置としての社会企業杜会企業が,社会資源を再牛したり杜会資源に新たな価値を付与したりする 役割を担っていることは,前述したとおりである。このような認識は,ややも すると,単に消費することに徹していた従来刑の NPOをより価値創造型の組 織に転換することが社会企業の役割であることを坪解させてくれる。こう考え ると,社会企業とはあくまで価値創造糾織であり,そのためある種の資源連結 による社会資源の変革機能を担える糾織であることが理解できる。
したがって,社会企架とは,伝統的な NPOをある種の事業体へと転換させ たものであると衿えられる。これは,また杜会企業とは杜会資源をインプット することで前述のような 3つの価値をアウトプットするような事業体であると もいえる。なお,杜会企業がインプットとして活用する社会資源には,地域の 人的資源,企業や行政の組織体,地域施設など物的資源,地域の文化・芸能,
地域杜会のニーズなど,イ
i
形,無形を間わず多種多様なものを他摂されている。それゆえ,社会企業は,これらの資源を活用しながら前述した
3
つの価値を 創造することを使命としている。すなわち,社会企業は,第 1の解決価値にお いて地域事業の価値の創造,第2
の関係価値においては人材の価値の創造,第3
の創発価値においては社会形成の価値の創造,という3
つの価値を創造する わけである。したがって,社会企業とは,まさに
3
つの価値を産出する社会資源変換装置 であるといえるわけだし,企業や行政に見出される従来刑マネジメントの硬直 性 を 脱 却 す る た め の 新 た な 経 党 手 法 と し て の 可 能 性 を も っ て い る , と も い え301 杜会企業の戦略原理 ‑]05‑
る 。 こ う し て , 従 来 で は 事 業 展 開 に お い て は 限 界 を み せ て い た NPOや企業の マネジメントなどとはいささか異なる経党手法が確立することになる。
これは,すなわち
u
会企業が本格的に稼動することで,企栗,行政,牛活者,社会,文化などをコーデイネートした新たな事業価値の創造が行えることをポ している。これは,またドラッカーがNPOに マ ネ ジ メ ン ト を 導 人 す る こ と を 説 い た 時 に す で に
t
張されていたことでもある。その意味において, ドラッカ ーば夷はマネジメントを導入することによる NPOの 社 会 企 業 化 へ の 進 化 を 主 張していたと考えることができる。2 . 2
創発価値の創出へ向けた戦略対応それでは,続いて,以下において,杜会企業に顕著に見出される融合原理に ついて者えてみる。それは,すなわち,社会企業のみが現出させることができ る創発価値の創出へ向けた戦略対応についての考察である。なお,これについ て は , 以
F
のような4
つの戦略に要約することができる(図ー3)
。図ー 3 社会企業の戦略体系
ボ ラ ン テ ィ ア
···••i~ ・ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
企業人材
• 生活者
・支援スタッフ
人材再牛戦略 融 合 マ ー ケ テ ィ ン グ 戦 略
フ ァ ン ド レ イ ジ ン グ 戦 略 コ ラ ボ レ ー シ ョ ン 戦 略
受 益 者
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 三 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
‑106‑
① 融合マーケティング戦略
② 人材再生戦略
③ ファンドレイジング戦略
④ コラボレーション戦略
香川大学経済論叢 302
第 1の融合マーケティング戦略は,受益者とボランティアという 2つの相反 するステークホルダー間の価値融合のために行われる。これは,伝統的な NPO における欠点であった「無料でやってあげている」という意識が受益者不在の サービス提供になることへの戦略対応である。これは,また手伝い感覚から関 係価値の提供へと転換を意味しており,その意味では脱ボランティア意識の獲 得が大切であることを示している。
第 2の人材再生戦略は,伝統的 NPOを 社 会 企 業 へ と 進 化 さ せ る べ く 企 業 人 材や生活者を社会企業の資源として積極的に活用するための対応として行われ る。これは,また今後社会企業では高度専門人材や知識労働者が不可欠である ことをポしている。それは,境界融合時代においては,たとえ NPOとはいえ 規制緩和下の競争戦略に打ち勝つだけの人的資源の囲い込みが不可欠だからで ある。
第
3
のファンドレイジング戦略は,事業展開にともなう資金需要を満たすた めに必要とされる対応として行われる。資金については,社会企業においては もっばら会費に依存することは避けられないため,ここでは企業とは少々異な り資金調達がきわめて大事な戦略対応になる。また,ここにおいては資金の使 途についても客観的な評価が不可欠になり,そのため透明性の原則をいかに貰くかについても今後の大事な課題になる。
第4のコラボレーション戦略は,他の組織との連携を行うことで資源の効果 的な入手を実現するために不可欠であることへの対応である。社会企業にとっ ては,それこそ連幣が前提になるわけだから,そのためのノウハウに通じてい ることが大切なのである。それゆえ,公平性の原則や常利追求の原則だけでは ない「第3の原則」が求められることになる。そして,このような課題に答え る べ き 戦 略 と し て , 例 え ばWin‑Winを 実 現 で き る コ ラ ボ レ ー シ ョ ン 戦 略 な ど
303 社会企業の戦略原理 ‑107‑
が期待されるのである。
2 . 3
ソーシャルリーダーとしての社会起業家企業も, NPOも,ともに社会企業を指向するにあたって,それぞれその中 心的な担い手である社長や事務局長の資質が大いに問われている。言い換えれ ば,社会企業においては杜会企業にふさわしいリーダー,すなわち社会起業家 の存在が期待されるのである。なお,彼らの使命は,確かに社会貢献や社会的 責任の遂行であるが, しかし,それを効果的に成しうるためには,前述したよ う に , そ の 担 い 手 が 高 度 な プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル で あ る こ と が 前 提 条 件 に な る。
この社会起業家を定義すれば,たとえば「地球市民として地球に根ざし,ア イデイアとユーモアとネットワークを武器にしながら,企業や行政にはできな い社会変革を経済性をも無視しないで創りだせるような人」といえる。言い変 えれば,社会起業家とは,社会を変える
1
言念をもちながら,同時に自ら行動す る き わ め て 主 体 的 な 人 で あ る , と 考 え る こ と が で き る ( 以 ド , 原 田 ・ 佐 藤, 2001)。
なお,社会起業家には^般のベンチャー的な要素が期待されているが,それ でも,彼らには利益追求糾織であるベンチャーとは一線を画した特徴を見出す ことができる。それは,実は彼らが皆市民感覚,生活者感覚を保持しているこ とに由来している。つまり,彼らには,現場を知っている市民的な存在である ことが,その特徴になっている。したがって,社会起業家とは, ^方で仕事,
生活,社会における多様な要素を融合させ,また他方で利益や権力にまった<
囚われることのない存在であるし,そして時代の流れから取り残されることの ないようなきわめて柔軟な考え方を行う人々なのである。
ところで,この社会起業家に対しては,以ドのような特に
2
つのマネジメン 卜能力が必要とされている。第1は,ダイナミックなプロデュース能力である。それは,問題を解決する ためには多様な人や組織を巻き込んでいくセンスが必要になるからである。
‑108‑ 香川大学経済論叢 304
第
2
は,面白がってリスクを引き受けるような感性である。それは,他者に 共感を形成させるには実験精神で呆敢にリスクをとり,またスリルを楽しむマインドが不可欠だからである。
さて,このような資質をもった社会起業家はある種のソーシャルプロデュー サー的なベンチャーである。しかし,わが国においては,このような人材を実 際に見出すことは未だにきわめて困難な状況であり,また,このような状況が 現実であることは実に残念なことである。
3
社会企業化へのアプローチ方法前述のように,社会起業化とは, △力.の伝統的大企業にとっては,単なる フィランソロフィーを超えて事業活動が社会的貢献を指向したり,杜会的使命 を実現することであり,他方のNPOにとっては,単なる無償の行為たるボラ
(3)
ンティア活動から脱却することである。
そこで,ここにおいては,社会企業については未だ確固たる定義はないこと もあり,現時点においてソーシャルプロデューサー的特徴が見出せるアプロー チ方法について言及を行ってみる。それは,見休的には,以ドのような 3 、r~( の アプローチとして要約することができる。
① 人材論からの社会企業へのアプローチ
② 起業論からの社会企業へのアプローチ
③ ワークスタイル論からの社会企業論へのアプローチ
3 . 1
人材論からの社会企業へのアプローチさて,人的資源は介限な資源であるから,たとえどんな形態の組織であろう と,資源活用の視、[ばからみると人材の介効活用が大事な観、L,忙になることは屑知 のとおりである。しかし,この人材の
h
・効活用には,単に人間を組織的活動に(5) ボランティア: volunteer。)じ来は,志舶者とか、ぷ馳兵という、紅味であったが,現在で は 広 く 無 償 で 社 会 貞 献 や 杜 会 奉 什 を 行 う 人 々 を 表 し て い る 。 こ の ボ ラ ン テ ィ ア に み る 活 動の牡徴は, 日発ヽJ・t,公共'l't,連伯
・ n
幽,厠依'!"I., dilしJ・tとしヽう 5つの条件を満たしてしることである(>
305 社会企業の戦略原理 ー /09‑
投人すべき資源として捉えるのみならず,それを組織の主たる担い手,すなわ ち
t
体であると捉えるような観点が不可欠になる。そこで,前述した人材再生 戦略について,人材の再配置による人的資源の活用という観点から考え直してみる(以ド,佐藤• 原田, 2001) (図ー 4)。
そこで,人材の置かれている状況を以下の縦軸,横軸の
2
軸でポすことにす る。前者の縦軸は人材の組織や社会に対する価値観を表しており,後者の横軸 は人材の組織に対する関わり方を表している。したがって,この2
軸から,以 ドのような 4つの人材ポジションがポされる。それらは,第 1が企業人材,第(6¥
2が SOHO人材,第 3が地域生活者,第 4が社会起業家,という 4つである。
図ー4 戦略的人材活用の基本方向 糾織行動・社会創造
企業人材
依存的 日律的
地域生活者 SOHO人材
個別行動・
! ' l
己尤粘そうなると,人材のリプレースメントには以下のような
3
つの方圃性が考え られる。それは,第 1が企業人材のリプレースメント,第 2が知識ワーカーの(6) SOHO: スモールオフィス,ホームオフィス(small office and home office)の略称であ り,通況ではI'!'むをビジネスの場として行うためにt'l'む の 杵11をビジネス使川に改装し てオフィス化したものを表してし又い ^般的には, !'I'むにおしヽても ・t分な伯報の人手が でき,ネットワークを通じてビジネスが行える環境を装備していることが望まれている(〉
‑110‑ 香川大学経済論叢 306 リプレースメント,第
3
が地域生活者のリプレースメント,という3
方向であ る。すなわち,企業人材も, SOHO人材も,地域生活者も,これらすべてを杜 会企業の担い手たる社会起業家へと転換させることができるのである。この
3
つのリプレースメントにおいては,第1
のリプレースメントが前述し た伝統的大企業から杜会企業家を輩出させる方法であるし,第3
のリプレース メ ン ト が ボ ラ ン テ ィ ア を 原 則 に し た NPOか ら 杜 会 起 業 家 を 輩 出 さ せ る 方 法 で あるといえる。なお,第 2の SOHO人材からのリプレースメントについては,地域生活者がポジティブに事業
t
体に進化した形態であると考えてもよい。このような認識に立脚すると,杜会企業という組織形態にも実に多様なもの が想定できる。すなわち,前述したように,社会企業の出目には, 方 で は 法 的 に は 営 利 企 業 に 合 ま れ る も の も あ る し , 他 方 で は NPOに含まれるものもあ る。しかし,このように,それぞれの出白は異なっていても,それぞれがイノ ベーションを追求していく過程で次第に相tr~の境界が融合していき,結果とし て,第
3
の 組 織 と し て の 営 利 組 織 で も あ り [rr]時に NPOでもある「境界融合児!」の組織が現出してくる。
3 . 2
起 業 論 か ら の 社 会 企 業 へ の ア プ ロ ー チさて,企業を起こす担い手が起業家であるが,そうなると杜会食業を起こす 担い手が社会起業家ということになる。近年,このような企業形態が, 1恒療,
福祉,教育,環境,文化などの杜公サービス伯域においてさかんに導入されて いる(町田,2000)。これは, 1前述したように,ボランティア糾織でもなくり「利 を追求する企業でもない ノーシャルプロデュースを指向する糾織である。そし て,この担い手は,「ソーシャルプロデューサー」というベンチャーであると
もいえる。
この社会起業家は,実は現在ではニューエコノミーの担い手として大いに期 待されている。これは,すなわち,}ゞ企業主導の経済であるオールドエコノミー の苫培を IT~信業のみが袖うことが困難な現状において,
t
に[欠療,福祉,教介 , 環 燒 , 文 化 な ど の サ ー ビ ス 領 域 に 新 た なrrf能 性が見出されたことを表して
307 社会企業の戦略原理 ‑Ill‑
いる。このことは,言い換えれば,社会起業家への大いなる期待が,ボランティ ア組織をプロフェッショナル組織へと転換させようとしていることを示してい る(町田, 2000)。
なお,この社会起業家に対して与えられるべき役割については,町田 (2000) によれば以
F
の7
点に要約することができる。① 福祉国家の創造的破壊
② 社会需要の急激な変化への敏感な反応による社会の速やかな転換の促進
③ ネット起業家などとの連携によるオールドエコノミーからニューエコノ ミーヘの転換の加速
④ 若者,女性,高齢者などの活躍の場の拡大
⑤ 伝統的な組織や団体における経常改革の加速
⑥ 市民杜会の再編成の加速
⑦ 楽観論に依拠したチャレンジ精神の喚起
このように,社会起業家は多様な領域で,社会的消費に関わる活動において 次第にイニシアチブを発揮している。このような社会企業の広範な登場は,も はや伝統的な公的セクターの肩代わりという範囲を超えており,サービス産業 全体への広がりを見せはじめている。それどころか,むしろ
l f :
会企業というものこそが,杜会消費全般を戦略的に取り込むための最も適切なアプローチとし て期待がもてると考えられる。
3 . 3
ワークスタイル論からの社会企業へのアプローチ現在,杜会に最も関係が深い場の
1
つとして地域におけるコミュニティをあ げることができる。そして,これを捉えたコミュニテイビジネスとして期待で きるビジネスとして SOHOから進化した社会企業が位置づけられる。この社 会企業型 SOHOについては,実はワークスタイルのコミュニティ帰りという 視点から社会企業を捉えることを意味している。このことは,言い換えれば,今後において杜会消費が増大することへの戦略的な対応を行うべきであること を表している。
‑112‑ 香川大学経済論叢 308 今後の SOHOの 担 い 手 は , そ れ ぞ れ プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル と し て 多 様 に 連 携 することで,大企栗に対しても遜色のない巨大なパワーを獲得することができ
る。そのような連携がまさに知識連携であり,これについては無限に増植して いく可能性を有しているものと思われる。そして,このような知識連携によっ て組織化されたネットワークこそが,実は佐藤 (2001)の提唱するナレッジコ ミュニティなのである。なお,このナレッジコミュティは,企業や家庭といっ た伝統的役割分担を完全に覆すための戦略トリガーとして現出している。
このナレッジコミュニティでは,伝統的な企業とは異なる価値観によって運 営されることになり,ある意味では社会介粟が指向すべき方向性を示唆してい ると若えることができる。そこで,このナレッジコミュニティがわれわれに仔 える新しい価値観について,以ドに述べることにする(佐藤, 2001)。
① ナレッジコミュニティでは,楽しみが仕事になる。
② ナレッジコミュニティでは,消費と生廂が什
・ 1
本になる。③ ナレッジコミュニティでは,物財よりも知識財が一重要になる。
① ナレッジコミュニティでは,時平を超えて自由に連携できる
⑤ ナレッジコミュニティでは,経済価値より自己実現価値が尊ばれる。
こ の ナ レ ッ ジ コ ミ ュ ニ テ ィ の 中 核 に 位 置 す る こ と が 期 待 さ れ る の が , 実 は SOHOの担い手である SOHOベンチャーなのである。そうなると,この SOHO ベンチャーにとって大切なことは,それぞれが社会に対して明確な「志」の発 信が行えることになり,結果として賛詞者たちとの間で知識連携を実現するこ
とになる。その意味において,厄米 SOHOベ ン チ ャ ー は ビ ジ ネ ス の 担 い 手 と して登場したのだが, しかしボランティア精神の発揮など NPO的な要素を服 ね備えることも期待されている(佐藤, 2001)。
I I NPO
の イ ノ ベ ー シ ョ ン と し て の 社 会 企 業 化ドラッカー
( 1 9 9 0 )
は, NPOの 時 代 が 到 来 し た こ と をt
張したが,圃時に NPOにもマネジメントがイ‑.;pJ欠であるとのt
張 を 行 っ て い る 。 今 か ら 苔 え る と,このことは実に先見的なことであったと思われる。これによって, NPO309 社会企業の戦略原理 ‑JJJ‑
だからこそ企業に代表される営利追求型の普通の組織以上にマネジメントを直 視 す べ き こ と が よ く 理 解 で き る , こ れ は , あ る 意 味 で NPOをイノベーション するには社会企業家の存在が不可欠であることを表していると考えられる。
そこで,ここでは,特に NPO法 の 制 定 に よ っ て わ が 国 に お い て も 法 的 整 備 が行われたことをトリガーにしながら,伝統的な NPOは「素人集団」である べきという 1日来的な認識から,むしろ NPOは「プロフェッショナル集団」を 指向すべきであるとの見解を,すなわち先進的な NPOの確立へ向けた将来展 望の提ポを試みている。それは, NPOと は い え , 法 人 と し て の 存 在 で あ る こ とが前提になるとの認識に立脚した考え方でもあり,それゆえマネジメントや
イノベーションがイ~tlJ 欠であるという主張なのである。
このような間題、意識に立脚しながら,以ドにおいては NPO法を NPOのイノ ベ ー シ ョ ン を 誘 発 す る 契 機 と し て 捉 え , そ の 意 義 を 戦 略 的 に 者 察 す る と と も に,併せて法人としての NPOの マ ネ ジ メ ン ト 手 法 や イ ノ ベ ー シ ョ ン 手 法 に つ いても言及が行われる。それは,すなわち NPOと起業とがj1i]什市場で競争す ることが当たり前になり,両者の間で積極的な連動が行われる境界融合時代が 到来したことを表している。
1 NPOの進化へ向けた課題形成
さて,今や NPOの社会企業化へ向けて多くの課題を克服することが期待さ れている。そして,この課題克服すべく戦略トリガーとして NPO法の制定を あげることができる。この NPOは法で規定されることでまさに市民権を獲得 したのだが,それは NPOに新たな飛躍が期待されることをポしているし,こ れによって NPOの社会企業化か促進されることになる。
そこで,ここにおいては,現状の NPOの 特 性 を 十 分 考 慮 し な が ら 社 会 企 業
(7) NPO法:特定非酋利活動促進法のことである。これは,近年の NPOの活動の広がり を踏まえて制定された法律である。この法律では,定められた 12分 野 に お け る 非 営 利 活動[J]休に対して脊格が与えられる。この法律の制定によって, NPOが収益活動を行う
ことが合法的になったため,多くの巾業領域が NPOの担うべき "ti:業として期待されは じめた0
‑]]4‑ 香川大学経済論叢 310 化の方法について模索してみる。具体的には,ボランタリズムを尊重しながら
も,脱ボランティアを指向したプロフェッショナリズムの導入が示唆される。
それは,ソーシャルニーズヘの対応についてボランティアを超えて,法の範囲 内ではあるが生産性の改善や価値創造性の高揚をなしうる方法の模索である。
そのために,社会企業には事業の担い手としての主体性と競争優位性を可能 にする独自性の発揮が要請されることになり,これを実現しうる人材の育成が 必要になってくる。これは,すなわち,杜会企業はプロフェッショナルによっ
て 担 わ れ る べ き で あ り , マ ネ ジ メ ン ト の 導 入 が 不 可 欠 で あ る こ と を 表 し て い る。これこそが, NPOが 社 会 企 菓 へ と 進 化 し て い く た め に 避 け て 通 れ な い 道 である。そして,このような対応を行うことで NPOが次第に杜会企業として の存在感を示すようになる。
1. 1 NPO法制定による環境整備
1988年3月 19BにNPO法(特定非営利活動促進法)が成立し,やっと NPO が社会的に認可されたのだが,このことは NPOが企業など既存の組織との競 争において圧角に渡り合えるパワーを獲得することが要請されることを示して
いる。また,法人格を付与されるということは, NPOが リ ー ガ ル ス テ イ タ ス を背景としながらグローバル活動の担い手として大いに期待される存在になっ たことを意味している(橘, 2002)。
さて,この NPO法 と は , 民 法 の 特 別 法 と し て あ く ま で も 一 般 法 で あ る 民 法 の公益法人の対象となる公益,かつ非営利目的の活動のうちから一定の指標を もって抽出された特定の活動のみを対象とするもので,その意味ではきわめて 限定的な性格をもった法律であるともいえる。しかし,このような制約があっ たとしても,幅広く団体に法人格を付与しようという本来の主張には十分に対 応できていると思われる。
なお,そのような配慮については,具体的には以下の
2
点に要約することが できる(橘, 2002)。① できるだけ幅広い団体が本法によって本人格を取得できるように工夫が
311 社会企業の戦略原理 ‑]]5‑
施されている。
② 悪用されることのないように最小限の措置が講じられている。
このようなことから,実は NPO法とは伝統的な NPOを社会企業へと進化さ せるために好都合な法律であることが理解できる。
そのため, NPOは 社 会 企 業 を 指 向 す る ベ ン チ ャ ー , す な わ ち ソ ー シ ャ ル ベ ンチャーという新たな事業主体を現出させている。実際に,米田(2001) は, NPOがベンチャーの宝庫であるとも述べている。それは,現実に,世の中には 企業でも行政でもできない仕事が多数あるからである。例えば,ニーズがある のにマーケットが小さすぎて営利にならないビジネス,公平さをベースにする と対応できない多様なサービス,企業と行政に対して第三者性をもつべき仕事 などが,その代表的事例として紹介できる(米田, 2001)。
しかし,本来 NPOは競争が生み出す弊害を克服するものとして登場したの だから,営利を追求する企業と同様であっては,その存在意義を見出すことが できない。それゆえ, NPOに は 社 会 企 業 を 目 指 す こ と は 戦 略 的 な 対 応 に な る のである。しかし, ^方では,今後ソーシャルニーズヘの対応が一般の営利企 業の戦略領域になるのだから,社会企業としてもそれらに対するそれなりの競 争力を発揮することは組織として存在するための前提条件になる。
1.
2
NPOの位置特性と事業領域このような法人化の動きが現出したことは,伝統的な NPOの活動範囲を超 えた活動がNPOに期待されることの証左でもある。このことは,第 1にNPO が企業に代表される非常利セクターや政府に代表される公共セクターとの境界 が融合することをぷしているし,第 2にNPOが営利セクターや公共セクター が担っていた領域に参人するような状況が現出したことを表している。
それでは,まず現時点での NPOの位置について以下に概観しておく。ここ では,縦軸には常利 性か非営利性かという事梁の
H
的,横軸には政府性か非政 府性かという組織の特性,という2
軸の枠組み設定を行った。そうすると,結 果 的 に は , 第 1に 非 営 利 性 ー 非 政 府 性 軸 の NPO, 第2に 非 党 利 性 ー 政 府 性 の‑]]6‑ 香 川 大 学 経 済 論 叢 312 行政,第3に営利性軸ー非政府性軸の企業,第4に常利性組織ー政府性軸の公 企業, という 4つの分類が行える (図ー 5)。
図 ー 5 NPOのポジショニング
組 織 牡 性
政 府 ,1・t 非 政 府 性
事 噛
利 公 企 業 企 業
党 性
l 1 非
常 行 政 非 営 利 組 織
的 利
竹
.
さて,著者が問題にしている NPOは第 1の非営利性ー非政府性軸の組織形 これは原則として営利活動を行わない主にボランティアによって 態であるが,
支えられている。したがって,イギリスなどでは NPOのことを VNPO(voluntary NPO) と称している。 したがって, NPOについては, 元 来 非 営 利 性 で あ る こ
と と 非 政 府 性 で あ る と い う 両 面 の 性 格 を 併 せ も つ 組 織 形 態 で あ る と も い え る
(島田,
1 9 9 9 )
。すなわち, 前者の非管利性とは利潤をあげることを
H
的としないし,後者の 非政府性とは公益的な活動を担う民間組織であることを前提にしている。 この以下のようなものをあげることができる
ような非営利セクターである NPOが担っている事業領域としては,現在では
(日本経済新聞,
1 9 9 5 . 2 . 1 2 )
。(ミュージアム,芸術団体)
教育と研究(非効率の教育機関,研究機関)
保険医療(病院,診療所)
(福祉,
① 文化とリクリエーション
②
③
④
⑤
⑥
ソーシャルサービス 災害,難民救助の機関)
環境(自然保護,環境保全機関)
開発と住宅(経済・社会開発,職業訓練機関)
⑦ 法律, アドボカシー活動と政治(市民団体,消費者保護団休, 政党)
313 社会企業の戦略原理 ‑117‑
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
フィランソロフィーの仲介, ボランタリズムの応援(助成財団)
国際活動(開発援助,国際救援機関,文化交流機関)
宗教
業界・職業団体,連合 その他
1.
3
近年,
NPOが克服すべき課題と方向、
とみに NPOへの期待が次第に高まっており, 以
J ‑ .
のような事業領域 のみならず,実に多様な事業活動がNPOによって担われている。そうなると,以下のような NPOが元来保持する課題は, 可能な限りのい期に克服すること が不可欠になる (Salamon & Anheier, 1994)
。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
実態が見えにくいことからの脱却 法的環境と :iE:'½'性の確立.
国家との対立:パラダイムからの超克 国家の代理人からパートナーヘの転換 民間の公益活動支援の基盤強化
透明性の確立と情報開示
ボランティア異存から専門化指向への転換 グローバル化への対応
このように, NPOが事業活動の担い手になるためには実に多くの課題を抽 出することができるのだが, これらの課題を克服するには以下のような基本原 理の確立が不可欠になる。それが, サラモンとアンハイナー (1994) のいう自 律的活動へ向けた基本原理である。すなわち, NPOには企業とは異なり, ま
て,
た政府とは異なる主体的位置の確立と独自性の形成が要請されている。そし これへの解答こそがNPOの法人化であり,かつ社会起業化であるともい NPOのもつ「非」という概念で自らを説明せざるをえない える。すなわち,
状況からの脱却が大いに期待されるのである。
しかし, 前述したように, NPOは元来ボランティア的な要素が濃厚に出て
‑118‑ 香川大学経済論叢 314 いたことに特徴があったのだから,ある意味では,その特徴を否定するような 方 向 性 を 志 向 す る こ と が 期 待 さ れ て い る 。 そ れ は , 人 江 (1999) によれば,あ る意味ではボランティアに支えられた多くの NPOが 実 は 専 門 化 じ 義 と か 代 理 主義を乗り越えた存在として現出してきたことと相反するアプローチを行うこ
とを意味している。
その意味では, NPOの社会起業化とは, NPOが 自 身 の 限 界 を 乗 り 越 え る た めの対象とした企業や政府と共通の枠組みの中で十分競争力を保持しえるイノ ベ ー シ ョ ン を 展 開 す る こ と で あ る 。 し か し , こ の こ と は , 単 に NPOが 企 党 や 政府の行うような活動やその運営原理をそのまま導人すればよいことをぶして いない。それゆえ,社会企業としての独自の戦略原理を確立することが大いに 期待されている。
2
社会企業化へ向けたイノベーション手法それでは,まず伝統的 NPOに欠落していると想定できる,すなわち NPOを 社会企業化するために不可欠であるマネジメント)
J
の獲得について衿察を行ってみる。なお,このことは,実は図ー 5で 示 し た 政 府 性 か 非 政 府 性 か , ま た 営利性か非常利性かとの 2項対立的な構図から,新たな第3項である杜会企業 を確立するためのイノベーションの方法論であると考えてよい。なお,そのよ うなイノベーション手法としては以下の
3
点をあげることができる。① 関係編集型のプロデュースオーガニゼーション
② 感動連鎖型のコラボレーションマーケティング
③ 収益指向型のファンドトレーデイング
しかし,社会企業として自立するには,以上の戦略対応をトータルに推進す ることが不可欠である。それは,実は社会企業にとっても経営戦略的な対応が 大事であることを示していることであり,またマネジメントのプロフェッショ ナルの存在が不可欠であることを示している。もちろん,杜会企業が伝統的な 大企業や新進気鋭のベンチャーと圧して殻争優位を獲得することはとても困難 なことであるが,それでも法的に守られている間に急速な進歩を行うことは生
315 社 会 企 業 の 戦 略 原 理 ‑JI9‑
存のための急務の課題である。
2 . 1
関係編集型のプロデュースオーガニゼー ン ヨ /`
第
1
の 必 要 と さ れ る べ き イ ノ ベ ー シ ョ ン は 組 織 革 新 に つ い て で あ る 。 こ れぷ,
は,田尾 (1999)の提唱するような伝統的な NPOに散見できるクラン (clan)
的
な組織運党からビューロクラシー的な組織運営へ転換させることである。それ は,もしもワーキングオーガニゼーションを指向するならば,従来型のヒュー リスティックな経営よりもシステマティックな経営のほうかより大きな効果が もたらされるからである。
従来,伝統的な NPOについてはボランタリーな組織が採用されることが→
般 的 で あ り , こ れ こ そ がNPOの活動にとって最も効果的な組織形態であると も考えられていた。しかし,この組織形態では擬似家族的な集団であるクラン のような組織運営,すなわち濃密な人間関係に依拠した集団形成が指向されて しまい,そのためややもすると排他的な組織運営が行われるとの懸念は完全に は払拭することはできない(田尾, 1999)。
しかし, NPOといえども組織が拡大して,かつフォーマル化してくると,
その構成員の組織的什体化の追求だけでは,それこそ NPOのワーキングオー ガニゼーションとしての生産性の増大は期待できない。したがって,従来のボ ランティア組織に見られる柔構造を踏襲しながらも,その上で柔構造の機能性 を高めることが大切になるわけである。これは,すなわち,ビューロクラシー 的組織ではなく,プロデュース刑組織の実現を指向する考え}jである。
このプロデュース刑組織においては,各メンバーは,それこそ,それぞれの ボランティア意識に基づいて主体的にワークを行うことが要闇される。そこで は,期待されるべきアウトプット,すなわち組織として実現すべき価値の創造 へ向けて,プロデューサーの組織デザインに基づいた組織編集が行われること
(8) クラン: (clan) ドール語で,もともと
r ‑
孫 を 意 味 す る 。 ケ ル ト 族 の ス コ ッ ト ラ ン ド 翡地人は,家族をHじくし,地域をlrJJしくしてliiJ祖 観 念 に 結 ば れ た 視 族 や 家 族 を ク ラ ン と 称 し て い る 。 人 類 学 で は , 共 通 の 先 相 に よ っ て 結 ば れ て い る と い う 観 念 に 桔 づ い て 成 且脊格をりえられる人々の出自集団を指している。‑120‑ 香川大学経済論叢 316 になる。これこそが,著者のいうプロデュース邸組織の特徴であり,そのよう な組織の中核的な担い手として期待が寄せられるのが「ビジネスプロデューサ ー」である。
さて,このビジネスプロデューサーには,いわゆるビューロクラシー的な乖 直 指 向 の 組 織 で は な く , む し ろ 水 平 指 向 の ア ソ シ ェ ー シ ョ ン 型 組 織 に お い て ビューロクラシー刑組織以上に能力を発揮することに,その最大の特徴が見出 せる。それゆえ,ここにおいては,従来聞の課題をブレイクダウンし,それに 人材を当てはめるという人的資源割り振り刑の[管理発想からのマネジメン ト」ではなく,むしろ必要な人的賽源を戦略課題に沿って編集していくという
「編集発想のマネジメント」が期待されることになる。
2 . 2
感動連鎖型のコラボレーションマーケティング第
2
に必要とされるイノベーションはマーケティング戦略についてである。元来,伝統的な NPOにおいてはマーケティングなどという戦略概念は存在し なかった。それは,すでに発生しているニーズにいかに対応するかが課題であ り,そのため何よりも競合組織との鏡争戦略を考えるような局面に遭遇するこ とはほとんど経験しなかったからである。しかし,よく者えてみると,企業や 政府という既存の組織においては応えられない社会的ニーズヘの対応こそが,
元来 NPOの課題だったはずである。
このようなコラボレーション関係によるマーケティングには,特にエモー ショナルな要素を重視すると,その効果を発揮することができるものと思われ る。これこそが,著者のいう「感動連鎖
J
のマーケティングなのである。それ は'.ゾ\ひとりのヒューリスティックで需要者のニーズヘ対応することで,単 なるサービスデリバリーを超えた精神的な連結が実現できるからである。このような感動を社会に広げていく「コラボレーションマーケティング」の 実践によって, NPOの社会企業化の実現がはじめて可能になるわけである。
このことは,顧客をマーケティング活動のプロセスの内部に完全に組み込んだ プログラムを構築することが含わめて大切であることをぷしている。なお,こ