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棒状粒子を溶質とする液晶の統計熱力学

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Academic year: 2021

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(1)

棒状粒子を溶質とする液晶の統計熱力学

木原 太郎*

アーリップ・クトゥルク**

1 液晶概説

MBBAすなわちmethoxybenzylidene・butylanilineの分子

CH3−O−〈≦≧〉−CH=N−<.⊆L>−CH,−CH2−CH2−CH3

は,ほぼ棒状である。この物質は,融点22℃以上で流動性のある 液体 で,ただ,通常 の液体と異なり,黄白色に濁っている。透明点(clearing point)と呼ばれる48℃以上に 温めると透明な液体になる。この融点と透明点との間の白濁した状態が液晶(liquidcrys・

tal)である。

 普通の液体を2枚のガラス板で挟んで薄い層とし,クロス・ニコルの偏光顕微鏡で見 れば,視野は暗黒である。しかし液晶を挟む場合には,視野は明るく,液晶が光学的に 異方性の媒質であることがわかる。

 MBBAのような棒状分子がっくる液晶では,分子軸の方向の分布について長距離的

秩序(long range order)が存在し,分子の方向がほぼそろっている範囲のサイズが光の 波長の程度になる。そのため,液晶は濁って見えるし,光学的にも異方性を示すのであ

る。

 液晶は分子配列のありさまの違いにより,nematic, smectic, cholestericの3タイプに

分類される。MBBAの液晶はnematic(nemato=糸状)の例である。このような分類の ほかに,thermotropicとlyotropicとに分けられる。前者はMBBAのように,ある温度

範囲で液晶の状態になるものであり,後者は,棒状の粒子(たとえばタバコモザイック・

ウイルス)を水に溶かした場合のような溶液性の液晶をいう。

2 棒状粒子の溶液に見られる等方一非等方相平衡

 1925年ドイツの化学者Zocheri)は,棒状粒子の濃度が臨界値を越えると,溶液は濃度 が比較的小さい等方相と比較的大きい非等方の二相に分離して平衡することを発見し た。1935年Stanley2)は,タバコモザイク・ウイルスの僅か2%濃度の溶液にこのような 二相分離が起こることを見た。このウイルスはほぼ円断面の棒状粒子で,その長さは断

*理工学部物理学科教授 化学物理学

**大学院生 カシガル師範学院助手

(2)

面の直径の約16倍である。

 このような現象は,Onsager3)によって,棒状粒子の非等方分布によるエントロピー減 少と棒状粒子間の排除が非等方分布では小さくなる効果との兼ね合いとして初めて説明 された。前者は等方分布に有利に働き,後者は非等方分布に有利に働く。Onsagerの理 論は棒状粒子の長さの直径に対する比がきわめて大きいという仮定にもとついている。

Straley )によれば,この比が100程度でないとOnsager理論は定量的に使えない。実際,

中村・岡野5)は,Onsager理論を当てはめるためにバクテリアを宿主とするウイルスでこ の比が100のものを選んでいる。しかし,このように極端に細長い棒状粒子は,どうし ても湾曲するので,そのための誤差が新しく問題となろう。

 タバコモザイク・ウイルスではこの比は約16である。長さの幅に対する比がこのよう

な有限値である場合にも当てはまるようにOnsager理論を一般化することが長いあい

だ望まれていた。最近この仕事が木原6)7)によってなされたので,この機会にOnsager理 論の特長を考えて見る。

 一般に,温度Tで体積Vを占める物質系が熱平衡にあるための条件は,自由エネルギ

Fが最小になることである。場合によっては,系が均質な一つの相を形成するよりも,

二つの相に分かれるほうが,自由エネルギーが低くなることがありうる。液体の水と水 蒸気とが一つの箱のなかで,平衡状態にある場合などは,その例である。このときこれ ら2相における圧力Pは相等しい。P=一(∂F!∂V)Tであるから,水と水蒸気との平衡 は,図1のように,両方のF(T,V)への共通接線で示すことができる。

       V 図1 相平衡には、均一相の自由エ    ネルギーF(V)への共通接線の    接点間部分が対応する。

 しかしながら,分子間の力に基づいて自由エネルギーF(T,γ)を計算することは,気 体についてはともかく,液体では一般に容易でない。Onsagerは,気体の理論と希薄溶 液の理論との類似性に目を着け,長い棒状粒子を溶質とするものでは,溶質粒子の分布

(3)

について,等方一非等方間の相平衡を希薄溶液の理論の範囲で取扱うことができると予 想した。

 Onsagerの理論では,溶質粒子の方向分布に関する試行関数として次の形が採用され ている:

      S(θ)一疏・・h(…sθ)・ ・〉・・

ここにθは,各溶質粒子の軸と非等方相の対称軸との間の角である。等方相ではα一〇で ある。非等方相では自由エネルギーを最小にするようなαが選ばれる。

 木原6}は,試行関数として一層見易い

        f(θ)−Z{Xl・・s・・e, P−・・ 1・・………    (・)

を採用することにより,計算が簡単になるだけでなく,結果の精度がむしろよくなるこ とを示した。

 この試行関数を使えば,秩序度,すなわちP2(cosθ)の平均,は        島(…s・θ一・)S(・)・・…θdθ一、舞,

と計算される。

3溶質粒子による浸透圧と溶液の自由エネルギー

 温度Tで体積Vのなかに1?個の溶質粒子が存在する希薄溶液に関して,浸透圧AP

はvan t Hoffの法則

      ∠11つ=1111T/V      (2)

で与えられる。ここにleはBoltzmann定数である。この法則は,つぎに見るように,溶 質粒子と溶媒分子との混合エントロピー

      AS−・[A・1・㌣+・11・N元7u]

と関係がある。ここにNは体積γのなかでの溶媒分子の数である。11《A「の極限で       AS=kn[1+ln(ATIn)].

 溶媒分子1個あたりの体積VIAiをv。と置く。そうすれば混合エントロピーで変わる

自由エネルギーAF=−TASは, V,7z, Tの関数として

      AF−一・1feT[1+ln(V/nv。)].       (3)

実際,(2)は熱力学的関係式

      ∠11)=一(∂AF/∂γ)n. T      (4)

と一致する。

 Van t Hoffの法則は理想気体の状態方程式と同じ形をとっている。気体の圧力を浸透 圧で,気体の体積を溶液の体積で,気体中の分子の数を溶液中の溶質の数で,それぞれ 置き換えたものである。

 Van t Hoffの公式は,溶質粒子間の相互作用が無視できるほどの希薄な溶液に当ては まる。この相互作用が無視できないときも,浸透圧の式

      ヨ

      AP一劔P+吉B+一岩c+…]      (5)

(4)

は気体の状態方程式と同じ形をとる。ここにBおよびCは,それぞれ第2および第3ビ

リアル係数と呼ばれる。これらは一般には温度の関数であり,分子間ポテンシアルを含 む多重積分で与えられる。ここで注意すべき点として,気体における分子間ポテンシア ルは,溶媒分子で囲まれた溶質粒子間に有効なポテンシアルで置き換えられなければな

らない。

 等方性溶液に関するこの∠pは,(3)を一般化した

      ∠IF=nk7、[−1十ln@nvo/V)十B71/V十(C/2)n2/τ/2十… ]      (6)

を使って,式(4)により導かれる。

 棒状の溶質粒子の方向分布が等方的でなく,分布関数(1)に従うときは,(6)は次の ように一般化される。

     ∠IF=11feT[−1十ln(11Vo/1ノ)十σ十B*11/1/十(C*/2)122/1/r2十… ].       (7)

ここに,B*およびC*はこの分布関数のもとでのビリアル係数であり,leσは1粒子当た り非等方分布によるエントロピー減少分である:

π

      σ=∫∫(θ)ln[4πプ(θ)]2πsinθdθ.

      0 これは次の様に計算される:

      σニln(2p十1)−2p/(2p十1)       (8)

4第2ピリアル係数BおよびB*

 lyotropicな液晶では,溶質粒子の間の引力は,無視できよう。ここでは溶質粒子の形

として,長さL+Dで直径Dのspherocylinder(すなわち長さLの線分に厚みD/2の

肉をつけた平行体)を採用する(図2)。Onsagerの理論はLIZ)》1の極限で成立するもの である。

 第2ビリアル係数は,1個の溶質粒子を固定したとき,他の1個がこれと重なるような

1←一一 D −−or 図2 棒状溶質粒子

(5)

配置にわたる体積の半分に等しい。溶質粒子が長さLの線分に厚みD/2の肉をっけた

平行体である場合,一般に非等方相での第2ビリアル係tw B*の2倍は

         2B*=2Z)L2〈sinγ〉十π[2D2L十(4/3)D3]      (9)

である。ここにγは粒子間の角で,〈…〉は粒子の方向にわたる平均を意味する。

式(9)はつぎのように考えれば理解できる。2DL2〈sinγ〉は辺の長さLの菱形の面積と

高さ2Dとの積であり,L》Dの場合にはこの項だけが寄与する。もし全部の棒状粒子が 並行ならば,この項は消え,半径Dの円の面積πD2と2Lとの積,および棒状粒子の端

からの寄与として半径Dの球の体積4πZ)3/3が残る。

 棒状粒子の方向分布関数(1)によって

        〈sinγ〉=∬∫sin 7f(θ1)∫(θ2)2πsi11θisinθ2dθ2d(φ2一φ1).πnπ

       000

γは方向(Oi,φ1)と方向(θ2,φ2)との問の角である:

      cosγ=cosθlcosθ2十sinθisinθ2cos(φ2一φ1).

等方分布では

       〈・i・γ〉−1・i・θ…i・θdθ/・・一手

このことに基づいて

       φ=〈sinγ>4 1rr      (10)

とおけば,

         2B*=π[(1/2)DL2φ十2D2L十(4/3)D3].       (11)

φの値は,表1の通りである。

表1式(8)のσ,式佃のΦ 2P σ

Φ

0 8 10 12 14 16

0.000

1.308 1.489 1.642 1.775

工892

1.000 0.656 0.607 0.568 0.536 0.512

5第3ビリアル係数CおよびC*の計算

第3ビリアル係数は,1個の溶質粒子を固定したとき,他の2個がこれと重なりながら たがいに重なるような配置にわたる6次元体積の1/3に等しい。

 一般に,凸体(convex body)は3個の基本量一体積V。,表面積S。,および一次元

メジャーM。一をもつ。長さLの線分に厚みD/2の肉をつけた平行体では,Steiner

の公式により8}

      1・も=(π/4)1)2L十(π/6)D3 Sb=πDL十πD2

      Mo=πL十2πZ)

(6)

となる。溶質粒子が等方分布の場合には,第2ビリアル係数はこれら基本量だけで表わ

される:B=1/。+S。M。/4π  (石原9), Hadwigerl°),木原ll))。

 等方分布での第3ビリアル係数Cは凸体の3基本量だけでは表わされない。しかし下

の限界が

     3C≧3 l/o2十3陥So〃0/2π十So3/4π の形で与えられている(木原・三好12))。すなわち

     3C≧π2[(5/8)D3L3十(37/16)D4L2十(5/2)DsL十(5/6)D6].

ここで5/2と5/6は正確な値である。両辺の差はわずかで,Monte Carlo法により

     3C =π2[0.75Z)3L3十2.321)4L2十(5/2)DsL十(5/6)1)6]      (12)

が得られる。

 すべての溶質粒子が平行になる極限では,比較的容易な計算で

         3C*=π2[1.760D4L2十(5/2)1)sL十(5/6)D6]       (13)

が得られる。

 (12)と(13)とを組み合わせ,一般の非等方相で次の式が成り立つことがわかる:

    3C*=π2[0.75φ1D3L3十(1.76十〇.56φ2)D4、L2十(5/2)DsL十(5/6)D6]     (14)

     (0<φ1≦1,0<の2≦1.)

φiと¢2とは,等方相でともに1であり,すべての溶質粒子が平行になる極限では0であ る。再びMonte Carlo計算によって,

      のi≒の2≒の が良い近似で成り立つことが確かめられている。

6 等方相一非等方相の間の平衡

式(7)を,高次の項を省略して,次の形に書き換える:

    AFil〃T−・・n…−1・D(L十D v)2n+・+⇒+与暢.

(15)

(16)

ここにconst.はnおよびVによらない定数である。高次の項が無視できるためには,最 後の項がB*72/Vの半分以下であればよいと一応考えられる。この条件はL/Dが8以上 であれば満たされる。

一例として,L!l)が8の場合を考える。

      1・D(L十D V)272+・+B・る+」芸一f

を最小にするべき指tw 2pの値は

o.268< 1/7il1)(L→−1))2

0.264〈 Tノ/フ1」D(L十1))2<0.268

0.250<1ノ/71D(L十D)2<0.264

0.224< 1ノ/フ1Z)(L十1))2<0.250

の範囲で の範囲で の範囲で の範囲で

2P=0 2p=10 2p=12 2p=14

(17)

である。

 L/D=。。,32,16,8の各場合について(17)をVl31D(L+D)2の関数として描けば,図 3を得る。共通接線の両接点から非等方相(A)および等方相(1)でのV/nD(L+D)2の 値を求め,両相での密度の比を計算すると表2が得られる。

(7)

7

6

5

    18      20      22      24      26     28×10−2

図3 種々のL/Dの値に対して、比体積V/nD(L十D)2の関数    としての自由エネルギーF、式(17)。

表2 非等方相(A)および等方相(Dでの溶質密度の比

L/Z)  [V/nD(L十D)2]A [V/ηZ)(L十D)2]1 (fl/v)A/伝/γ)1

○0

32 16 8

0.178 0.207 0.226 0.246

0.232 0.256

0.271

0.285

1.30 1.24 1.20 1.16

参考文献

1︶2︶3︶4︶5︶6︶7︶8︶9︶

10)

1])

12)

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参照

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