中学校学習指導要領の変遷と英語教育
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(2) 86. 茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980). 英語で考える習慣を作るためには,だれでも,まず他人の話すことの聴き方と,自分の言おうとするこ との話し方とを学ばなければならない。聴き方と話し方とは英語の第一次の技能(primary. skilPである。. 3.英語の読み方と書き方とを学ぶこと。. 1 墲黷墲黷ヘ,聴いたり話したりすることを,読んだり書いたりすることができるようにならなければな らない。読み方と書き方とは英語の第二次の技能(secondaly. skilDである。そして,この技能の上に作. 文と解釈との技能が築かれるのである。. ここでは,何よりもまず,英語学習の目的をその言語を「いかに用いるか」という点においている。. それは「聴き方と話し方第一主義」(. speech. primacy. )の考え方と完全に結び合わされて明文. 化されている。第2に,「英語で考える」という表現の中に,日本語を介さないで英語を理解しよ うとする直接主義的な行き方が見てとれる。また,第5章「学習指導法」には,「英語で考える習 慣を作るためには,忠実にまねることと,何度もくり返すこととたくさんの応用とが必要である」 とあり,外国語学習における模倣,反復,習慣形成の原理が示されている。以上指摘した特徴はす べてハロルド・パーマーの提唱した「オーラル・メソッド」のそれであり,昭和22年版学習指導要 領への彼の影響が色濃く看取される。またここでは,英語の授業は英語でおこなうというのが原則 的な考えであった。. 次に,学習指導要領というものそのものについては,これを一種の「手引き」として位置づけて いることが「序」の次のようなことばにもうかがえる。 英語の授業と学習とを効果あらしあるためには,なんのために,何をどんな方法で,いっどんなところ で教授し学習するというような問題が多い。この「学習指導要領」は,言語教授の理論と実際とにもとづ いて,こうした問題を解く助けとなるように作られたものである。けれども,学校によっていろいろ事情 が違うことであろうから,教師も生徒も,おのおのその個性を発揮して,この「学習指導要領」を十分に 活用してもらいたい。. あくまでも,現場での研究,教育の自主性が尊重されている。. 最後に,授業時数については,「毎日1時間1週6時間が英語学習の理想的な時数であり,1週 4時間以下では効果が極めて減る」. (第5章「教授時数の配当」)としている。. 2.昭和26年版学習指導要領の特徴 昭和26年に改訂された学習指導要領は,その基本的な理念においては,昭和22年版とほとんど変. わっていない。第1章皿2「中学校英語教育課程の目標」A「一般目標」には,オーラル・メソッ ド,音声言語第一主義の考えがはっきりと読みとれる。 聴覚と口頭との技能および構造型式の学習を最も重視し,聞き方・話し方・読み方および書き方に熟達 するのに役だついろいろな学習経験を通じて,「ことば」としての英語について,実際的な基礎的な知識 を発達させる……。. そして更に「rことば』としての英語」の学習ということを,英語の言語体系の学習ではなく,英. 語の用法の学習だと説明している点が注意をひく。(第1章皿4A「r言語活動(ことば)』とし ての言語の意味」). さて,改訂版のもうひとつの特徴は,それが示す豊富な言語活動の例からみると,習得すべき英 語のレベルを非常に高度なものとして設定していることである。(第4章皿「学年別の特殊目標」.
(3) 長沢:中学校学習指導要領の変遷と英語教育. 87. または以下の「経験例」を参照。)第1学年の目標の中には「ことばと動作を結びつける助けとし て,. (簡単な)物語や対話を劇として演ずる能力」があり,第3学年には「(簡単な)英語で図表. について説明する能力」,. 「百科事典やその他の参考書を使う能力」がある。. 更に,26年版の特徴としては,中央集権的画一教育の明確な否定,地域の尊重があげられよう。 だいたい日本の戦前の教育は,いわゆる「画一教育」であった。中央政府が何を教えるべきかを決めて,. それがそのまま全国のすべての生徒に対して適用された。教育を実情に即応させて,効果的な独創的な方 法を用いる余地はほとんどなかった。. (第8章1.1). しかし,. 現代の教育は,個人の必要がそれぞれ異なり,地域社会の必要がそれぞれ違うという考え方に基いている。 ・ここにおいて,地域社会の必要や生徒の個人的必要に対して学習指導要領を適応させていかなければ ならない。. (第8章1の前文). これが,次の,昭和33年の改訂では,学習指導要領が「文部省告示」として法的拘束力をもっよう になり,日本の全国の中学校で,同じ量の単語と文型が,同じ時間配分の中で教えられなければな らなくなるのである。. 3.昭和33年版学習指導要領の特徴 昭和33年に改訂された学習指導要領の最大の特徴は,それが法的拘束力をもつようになったこと. と,各学年で扱うべき文型の種類,語と連語の数などが決められたことである。この大がかりな 改変の裏には,1つの要素として,当時再燃し始めた「役に立つ英語」論議があったと考えられる。. 昭和28年3月卒業の新制大学第1回卒業生の英語学力不足は実業界や科学技術畑に大きな不満を与 えた。かくして,新学習指導要領の至上命令は「運用度の高い言語材料の精選と反復練習」となっ たのである。いわく, 4.基本的にして運用度の高い言語材料は,各学年を通して反復させるとともに,その上にしだいに程度の 高い言語材料を積み重ねていくように計画することが必要である。 7.英語は,日本語とその語系語族を別にし,音声,文字および語法に大きな相違があるので,聞くこと, 話すこと,読むことおよび書くことの各領域にわたって,特に反復練習させる必要がある。 (第3「英話についての指導計画作成および学習指導の方針」). また,「聞くこと,話すこと」の学習活動の内容は次のようになっている。(第1学年から第3学 年まで共通。) (ア)英語を聞き取らせる。. (イ)英語を聞かせ,これにならって言わせる。 (ウ)英語を聞かせ,これに動作で答えさせる。 (勾. 英語を暗記し,暗唱させる。. (オ)実物,絵画,動作などについて英語で言わせる。. ㈲文の一部を置き換えて言わせる。 ㈲文を転換して言わせる。 (ク)英語で問答させる。. 反復練習も転換練習も置き換え練習も,すべて,パーマーの「オーラル・メソッド」において既知.
(4) 88. 茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980). のものであった。しかし,これらのものがこの時期に強調されたことは,パーマーの場合とは異な った意味をもち,また違う結果をもたらした。すなわち,法的に必ず教えなければならないと決め られた文型がここにあり,その上,方法も「置き換え」や「転換」などと決められている時,授業 の形態はひとつの共通の型へ,つまり,多かれ少なかれ機械的な文型練習へと傾斜していったので. ある。これには,もちろん,昭和31年のCCフリーズらの来日,. ELECの誕生などによるオ. 一プル・アプローチの普及もあずかって力があったものと思われる。オーラル・アプローチの方法 の一部だけが歪曲されて宣伝されたことと,学習指導要領からの内的な要請があったことの二つが 重なって,当時の日本の英語の教室に「パタン・プラクティス」を盛んならしめたものと思われる。. 昭和33年改訂版のもうひとつの特徴は,22年版,26年版に共通してあった英語の「使い方」を教 えるという考え方がなくなっていることである。26年版の「経験例」をみると,英語をいかに生き た状況の中で使わせようとしていたかがわかる。「英語で図表について説明する」(第3学年),. 「人形しばいを上演する」(第2学年),「番組の項目を口頭で知らせる」(第2学年)などがそ れである。これに対して,33年版の「学習活動」の内容は,上記け},(ク)を除いては,いずれも「練. 習」の域を出ておらず,生徒が実際の場面で英語を使うことはあまり期待されていないようにみえる。 (ついでに言えば,(オ)と(ク〉の内容にしても,26年版の「経験例」に盛られた場面の実際さに比べれ. ばまだつくりものじみている。)また,「使う英語」の放棄は,「理解にとどめる言語材料」を認. める態度にもよくあらわれている。第3「英語についての指導計画作成および学習指導の方針」の 第3項はこのことを次のように述べている。 低学年においては,表現できる程度まで指導する言語材料をできるだけ多くし,高学年に進むに従って, 理解にとどめる言語材料を取り入れるようにする。. 「理解にとどめる」ということは,当然,「使えなくともよい」の意であろう。. 33年改訂版に盛られた考えで今日の日本の英語教育に根を張っているものに「片寄らない」指導 法というのがある。第3「方針」の第6項に「指導にあたっては,特定の指導法に片寄ることなく, 生徒の心理,特性,経験などに即して進めるようにする」とあるのがそれである。22年版,26年版 を支えていた方法論は明らかにパーマーのそれであった。これに比べると,33年版の本文の表現は ある意味で抽象的になっており,なまなましい方法の示唆はなくなっている。社会的な状況の変化 で,現実には,確かに「パターン・プラクティス」というひとつの方法が優勢を占めた事実はある が,33年版学習指導要領起草者の頭の中にオーラル・アプローチへの偏向があったかどうかは断定 できない2むしろ,諸外国のさまざまな方法論から離別して,一党に偏しない日本独自の「片寄り のない」英語教育という発想があらわれ始めたのが33年版だと考えた方がよいように思う。あとで 昭和38年当時の学習指導案の実例を示すが,これなどにも明らかなように,授業の方法は,一見, オーラル・アプローチ風であるが,そこには実はもろもろの方法が,きわめて日本的に,一つの重 箱の中に盛り込まれているのである。. 33年改訂版で注意を引くもう一つの問題は,英語理解にあたっては翻訳主義を捨てて,いわゆる 「直読直解」をすすめている点である。第2学年の「指導上の留意事項」の(3)に「読むことの領域 においては,日本語で説明する必要も生ずるが,つとめて直接英語から理解させるように指導する」 とあるのがそれである。もっとも,これは33年版の新しい思想ではないかもしれない。22年版の「目. 標」は翻訳主義を批判していたし,26年版の第4章IVl. B「教科書を読むこと」には次のような言. 表があった。「印刷されたものを解剖していって,何が書いてあるかを知らせることによって,英.
(5) 長沢:中学校学習指導要領の変遷と英語教育. 89. 語を教えることほど,有害なものはない。すべてがテキストにしばられてしまって,生徒はかわい そうに,(1)つづり字,(2}発音,(3)品詞,(4)構文等とたたかい,やっとどんな意味か見当がっく。」. ここでは,批評の直接の対象は,意味読解に際しての分析癖になっているが,翻訳作業もその中に. 含められていることは明らかである。この「直読直解主義」は,その根底において,いちいち翻訳 しなければ意味がとれないというような英語学習法を打破することをねらっている。この考えの一 変形は52年版の「書かれていることの内容を全体としてまとめて読み取ること」に引きつがれていく。. 4.昭和44年版学習指導要領の特徴 昭和44年版の特徴は「言語活動」の登場,あるいは再登場である。このアイディアは,昭和33年 版が結果として極端な文型練習を生み出し,英語を生きた場面で使うカを開発させえなかったとい. う反省に立って出されたことは明らかである。この間の事情は44年版のr指導書』の次の説明から も充分うかがえる。 つまり,言語活動とは,言語を聞いたり,話したり,読んだり,書いたりするなど,言語を総合的に理 解したり表現したりする活動をさすものでおる。したがって,英語の学習指導の過程において,音声の練 習をさせたり,文型の練習をさせたりすることもあろうが,このような言語の一面についての練習は,言 語活動の中に含めてはいない。これに対して,言語活動は,音声や文型なども含めて,総合的に行なわせ るものであり,言語の実際の使用につながるものである。. この考えは各学年の目標では「…. (第2章第1節2(2)「言語活動」). ・できるようにさせる」という表現になってあらわれている。. 33年版では言語材料の理解と練習にとどまっていた学習活動を,言語の実際の使用にまで高めよう という姿勢が見られる。. 昭和33年版の学習活動の内容は,22年版や26年版に比べて簡素化され,ある意味で抽象化されて いたが,そこには依然として「転換練習」などパーマー方式の名残りがあった。44年版ではこの傾 向が一層押し進められ,条文の表現はますます簡潔化・抽象化されている。「聞くこと,話すこと」. の言語活動を例にとると,第1学年では, (ア)日常慣用のあいさつをかわすこと。. (イ)身近なことについて,話し,聞くこと。. (ウ)ある動作をするように言い,それを聞いてその動作をすること。 (エ)身近なことにっいて,尋ね,答えること。. 第2学年は (ア)感嘆した気持ちを言い表わし,聞くこと。 (イ)行なったことなどを話し,聞くこと。. 第3学年は 1ア)身近なことを述べて,相手の人に念を押すこと。 (イ)身近なことについて,数個の文を用いて,説明し,聞くこと。. などとなっている。. 33年版とこの44年改訂版を比べると,感嘆文や「主語+ask,. tel1,. want」は第1学年から第2. 学年に送られ,第3学年の分詞構文や仮定法が高校へ送られるというふうに,つとめて言語材料の 軽減がはかられている。そして,このような少ない言語材料の中でより確かな英語の運用能力をっ.
(6) 90. 茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980). けさせようという態度がありありとうかがえる。しかし,ここに述べられている言語活動の内容は 依然としてあまりにも文型中心でありすぎる。第1学年の(ウ)は命令文,(エ)は疑問文の練習をすると いうことにすぎない。第2学年の(ア}は感嘆文,(イ)は過去形,第3学年の(ア)は付加疑問文の練習を意. 味している。これまでの学習活動においては,どのような文型を使ってそれを行なうかについては まったく規制はなかった。44年版のこの意味での文型の指定は,教室での言語活動を非常に不自然 で,身動きのとれない,わざとらしいものにしてしまっている。. 5.昭和52年版学習指導要領の特徴 昭和52年版学習指導要領の基本精神も「言語活動」にあるという点では昭和44年版と大差はない が,「通じる英語を教えなければならない」という態度は更に強められているように思われる。こ れは言語伝達における意味の重視と言いかえてもよい。ここでは,44年版の文型中心の考えはなく なり,話の要点をまちがいなく伝え,聞きとり,読みとり,書くということが強調されている。た とえば,第3学年の目標は次のようになっている。 (1)初歩的な英語を用いて,事柄の要点をとらえながら聞いたり話したりすることができるようにさせる。 (2}書かれている事柄の要点をとらえながら,初歩的な英語の文を読むことができるようにさせる。 (3)初歩的な英語を用いて,事柄の要点が伝わるように文を書くことができるようにさせる。. 次に「言語活動」の内容中「聞くこと,話すこと」の部分だけを引用するが,これも意味の伝達と いう目標の精神をよく表わしている。. (「言語活動」の内容は第1学年から第3学年まで同じであ. る。). (ア)話題の中心をとらえて,必要な内容を聞き取ること。. (イ)話そうとする事柄を整理して,大事なことを落とさないように話すこと。 (ウ)相手の意向を聞き取って,的確に話すこと。. 言語の目的が意味の伝達にあるという考えが条文の端々に見られる。 言語伝達における意味の重視の考えは「読むこと」の内容の変化にもよく表われている。昭和33 年版の「学習活動」の「読むこと」の内容は次のようになっていた。. (第3学年). (ア)範読にならって音読させる。. (イ}ひとりで音読させたり,集団で音読させたりする。 (ウ)対話や劇の登場人物を分担して読ませる。 (エ)文と文との関係やパラグラフの大意をつかませる。. (第1学年と第2学年には(エ1は含まれない。また第1学年では(ウ)のうち「劇」は含まれない。). 昭和44年版の「読むこと」の言語活動の内容は次の通りであった。 〔第1学年〕. (勃語,句および文を読むこと。 (イ)まとまりのある数個の文を読むこと。 〔第2学年〕. {ア)文と文との意味上の関係をつかむこと。 (イ)数個の文からな成るパラグラフを読むこと。.
(7) 長沢:中学校学習指導要領の変遷と英語教育. 91. 〔第3学年〕. (ア)数個のパラグラフを読み,その要点をつかむこと。. 昭和52年版の「読むこと」の「言語活動」の内容は次の通りである。(第1学年から第3学年まで共通) (ア)はっきりした発音で正しく音読すること。 (イ}文の内容を考えながら音読したり黙読したりすること。. (ウ)文の内容を理解して,内容が表現されるように音読すること。 (エ)書かれていることの内容を全体としてまとめて読み取ること。. 昭和33年版では「読むこと」の内容は,第3学年の(エ}を除いては,音読に限られていて,そこに. は意味にっいての言及はない。44年版では,第2学年で文と文の意味のつながりが強調され,第3 学年では,パラグラフ全体の要点の把握が問題にされている。ここにすでに52年版の「事柄の概要」,. 「要点」をとらえる読み方という考えの萌芽がみられる。しかし,52年版の特徴は,意味の理解と 音声の理解を一致させようとしていることにある。「内容が表現されるような音読」という考えは あたりまえのことともいえるが,音声を意味と関係なく教え,覚えている現状をかえりみるとき, このことが強調されている意味は小さくない。. 6.. 「日本的」英語指導法の問題点. 昭和33年版学習指導要領が諸外国の方法と離別し,日本独自の英語教授法を指向していたという ことは前にも述べた(第3節参照)。それでは,その日本型教授法とはどのようなものか,また,そ の問題点は何か,ということを検討するのがわれわれに残された最後の課題である。これらの問題 に答えるには,たとえば,昭和30年代の学習指導案と今日の学習指導案を比べるのが早道である。. 次ページに昭和38年に書かれた指導案と昭和52年に書かれたものを掲げておいたが,この2っの 指導案は,採用している授業の方法の上では基本的な相違はほとんどなく,その書き方も非常に酷 似している。これは,日本の英語の授業の方法と形態がひとつの普遍的な形をとりつっあるという ことを示している。転載にあたっては,両指導案とも「題材」,「指導目標」,「言語材料」にあた る部分は省略し,「指導過程」のみを掲げた。38年の指導案(以下Aプランと呼ぶ)は,Short. Tbst. の問題文3題を削除しただけであとは原文のままである。52年の指導案(以下Bプランと呼ぶ)は,. 「あいさつ」のことばと口頭による英問英答を削除した。またBプランは,それぞれの指導過程が 「目標」,「教師の指導」,「準備物」,「生徒の活動」,「指導上の留意点」等に分けて書かれてあ. るが,記述の形式をAプランに合わせて簡略化した。しかし,それぞれの過程でおこなわれた授業 の中味そのものは忠実に留保したつもりである。また,BプランはTarget. se. ntenceの提示にはい. る前に,既習動詞を使って過去分詞形の確認をしているが,これも削除した。AB両プランとも2 年生の受動態の学習のためのものである。. われわれがこの指導案に形骸をとどめている授業の形態をさして「日本的」といったのは,それ. が,文化5年以来日本に輸入された英語教授法のうちほとんどあらゆるものをその中に取り込んで いるからである。以下,すでに歴史的に認知されている英語教授法がそれぞれこれらの授業のどの 部分で用いられているか,その対応関係を示してみる。(左端「A」,「B」は指導案の名称,かっこ 内の数字,小文字アルファベットはそれぞれの指導案のそれと一致する。).
(8) 92. 茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980). (1)Greetings (2)Review. a.Short b.Oral. Test(Wrltten) drill. c.Reading. of. in. (3)Presentation a.Oral We. the. mentioned. chorus. (once). of. Materials:. New. introduction found. above. of. new. Spot.. sentence Did. was. found. by. us.. Was旦pgl. found. by. Spot. cound. Spot. was. us?. *Spot. wasnot. to. found. by. and. not. come. someone. new. the. after. words. and. 噂. Spot.. 一 一一.一. sentences:. phrases. 一. _. record. the. teacher. 9.Individual. reading. h.Translation. and. (4}. find. 、. 一. to. f.Reading. not. found.. 一. e.Listening. did. back.. back.. of. able,. We. 一. to come back. } drills of the following. ddll:. happen,. Spot?. 一 一. corne. c.Introduction. follow,. .. abIe. d.Pronunciatkm chain,. }. us.. found?. was able. not. not. Spot. *Spot. was. not. b.Explanation *Was. Spot. structures:. we丘nd. 「曽一 @ Spot. sentences. (twice). e)q)lanation. Consolidation;. a.Listening. to. the. record. b.Reading. after. c。Hea㎡ng. the. teacher. d.Reading. in. chorus. e.Underlining (5}』Homew. the. the. again. teacher read. important. each. sentence. and. putting. it. sentences. ork:. a.Recitation b・Reading. the. of. the. text. underlined three. sentences. times. 表1. 学習指導案(A). 昭和38年. into. Japanese.
(9) 長沢:中学校学習指導要領の変遷と英語教育. 93. (1)あいさつ (2)復習. a.口頭による英問英答(既習文型を使って3問). b.ペーパー小テスト(正解はOHPでも提示) c.個人による答えの発表(2〜3人) (3>新教材の提示と展開. a.Target. sentenceの提示. *くり返し聞かせる。. {1膿謙趨畿鵡 b.This. book,This. bicyle,This. racket,This. batで置き換え,また次の転換練習をする。. {嶺繋舗欝_.{撫畿ご諮byB_. {1藷畿畿籍ly時. 』. *理屈でなく自然に゜をついで出るようにドリルしたし㌔. 一一_. c.新語の提示と練習. watch. [w].. different[f]. d.本文内容の把握(絵を見せながら英語で説明。必要に応じ日本語も交える。) e.テープを聞かせる。. f。テープの後読み. g.自由読み h.指名読み i.Qllestions. and. Answers. j.文法事項 What. time. is. it. time. is. by. your. watch?San. Francisco. time. 一. 壁.Our. hour. behind隻heirs.. (4)まとめ. a.練習問題(2〜3題)を解く. (答えは全体→個人). b.本文のテープを聞く. 樹宿題を課す a.本文を5回読む b.Target. is. used 一. one. sentencesを暗唱して書けるようにする。. (6》あいさつ. 表2. 学習指導案(B)一昭和52年. by 一. 一. the. people.
(10) 94. 茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980). A(1),B(n,. B(6). A(3)a A(3)b,B(3)b A(3)e,B(3)e,. A(3)h,A(4}c. 話しことばの重視. Natural. 口頭による導入. Oral. パターン・プラクティス B(4)b. 翻訳による意味理解. Method. Oral. モデル音声の「無言消化」. Method. ApProach. Oral. Method. Grammar−Translation. B(2)b. 教育工学メディアの利用. ASTP. B(3)a. 反復練習による記憶の定着. Mastery. Method. B(3)c. 発音記号の使用. Phonetic. Method. B(3)d. 事物の利用. Direct. B(3)d. 直読直解. Reading. B(3)i,B(2}a. 英問英答. B(3)b. 自動的反応・習慣形成. B(3)d. 母国語による説明. A,B. 語彙制限. Oral. Method. Method Method. Method. ASTP Phonetic. Graded. Method. Direct. Method. そもそも「○○メソッド」と呼ばれるものには必ず明確な目的があり,その目的達成のための哲 学とでもいうべきものがあるのである。しかし,日本の英語教育は,これらそれぞれ固有の目的を. もった様々な方法をいわば「継ぎはぎ」にして,50分1単位時間の中に押し込めてしまったのであ る。従って,そこでは,一つ一つの方法がそれ独自の目的を充分に達せられないのは明らかである。 たとえば,「パターン・プラクティス1にしても,その本来の方法の一部を不完全に真似ているにすぎな. い。そこでおこなわれるのは,せいぜい数回の置き換え作業と転換練習ぐらいであって,実際の応 用練習まで至らないのが普通である。また,反復による記憶の定着,習慣形成というような考えも. 週3時間体制のもとではきわめて非現実的なものに見えてくる。語彙制限に関しては,GDMは, その方法論全体の中でのはっきりした意義づけをもっているが,学習指導要領の語彙制限の背後に あるのは「生徒の負担」の論理だけである。普通,英語の授業は,英語のあいさつに始まって英語 のあいさつで終る。これは話しことばとしての英語の重視とみられる。しかし,授業の中味そのも. のはほとんど日本語で行なうことが多く,せっかくのNatural. Methodも徹底しない。これでは生. 徒が自然の英語にふれる機会が少なくなる。ネイティブ・スピーカーのモデル・リーディングをテ. 一プで2,3回聞かせるよりは教師自身が教室で英語を使うことの方がはるかに有益である。 また,よいモデルを何回も聞かせれば生徒の発音もよくなるという考え方も一面的すぎる。た だ聞かせるだけでは生徒は自分の知っている(発音できる)音しか聞かないからである。正しい聞 き方,正しい音のつくり方をも教えなければ,正しく聞くこともできないのである。次に「直読直 解」方式は,「書かれている事柄の概要をとらえる」ことが叫ばれ始めてからにわかに行なわれ出 した。「いちいち訳す」ことの幣害がはっきりと確認されたという感じである。しかし,生徒は教 師用指導書(いわゆる教師用虎の巻)を持っているし,学習塾でも予習をしてくれるので,直読直 解によらないでも意味の理解はできてしまう。以上見たように,日本人の各教授法の摂取の仕方は いかにも場当たり的な感じが強く,英語教育全体としての効果は怪しまれるというのが現状であろ う。.
(11) 長沢:中学校学習指導要領の変遷と英語教育. お. わ. り. 95. に. 日本人は,昭和22年の最初の学習指導要領以来,英語教育の大きな目標のひとつとして「英語を 使用する力」の開発ということを常に掲げてきた。しかし,その成果は常に批判されてきている。 その理由はさまざまなところに求められているが,ここではひとつのはっきりした理由を確認して おきたい。英語教育において,その言語を使用する能力を開発したければ,その目的にかなった方 法をとることが先決である。歴史的に認知されている外国語学習法で,運用能力開発に効果的だと みなされているものはBerlitz Method, Oral Method, ASTP,Oral ApProach, Graded Direct Methodなどであ醜そして,これらの方法が共通して要求するものは,少人数によるクラ. ス,多量の練習時間,その外国語に堪能な教師の3つである。しかし,文部省は,一方ではこの事 実を認めながら,それらの条件をこれまで与えようとはしなかった。r中学校・高等学校学習指導 法. 外国語科英語編』(文部省,昭和28年)は,Berlitz. Method,. Ora1. Method,. ASTPが,いず. れも英語の運用能力をのばすのに有効だと認めながらも,それぞれの方法について,「一学級50名. というような学級において,このような方法を実施することは困難である」(第3章HA),「教師 の負担過重になる危険がある」(同皿),「外国語学習のために,このような多くの時間をさくこと. も,わが国の中等教育においては考えられない」(同N)という反対理由を述べている。日本の英語 の教室からは運用能力をのばす方法は排除されているのである。それゆえ,日本の英語教育は明ら かな自己矛盾をおかしてしまっているのである。なぜならば,そもそも,学習指導要領が最終的に 求めている英語運用能力は,国が与えている条件のもとでは無理な目標なのである。しかも,教授 法においては「片寄りのない」方法が要求され,この考えがまた日本人の体質に合うということも あって,授業がますます「均整のとれた」ものとなる。しかし生徒はなかなか「事柄の要点をとら えながら話す」ことができないままでいるのである。. 注. 1)置き換え,転換,反復等の練習方法がオーラル・アプローチの刺激によって昭和33年版学習指導要領 にあらわれたものでないらしいことは,若林俊輔氏の個人的な推測によっても面白くうなずける。『英語 教育』. (大修館,1976)7月増刊号,pp. 1ユー12参照。. 2)この情報を筆者は,伊藤嘉一「英語教育方法論史概説」. (前掲書,pp. 6−8)に負っている。.
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