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韓国における保険契約の解釈原則

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(1)

■アブストラクト

本稿は,韓国において紛争が頻発している保険約款の解釈問題について,

判例を中心として考察するものである。判例は,公正解釈,客観解釈,作成 者不利益の原則などを保険約款の解釈原則として適用する。

判例の傾向をみると,第一に,判例は公正解釈を適用する際,保険保障に 対する保険契約者の合理的な期待の保護と,保険技術に基づく当事者間にお ける合意の尊重を主に考慮する。判例は両者の間でいずれかの側に偏らず,

適切なバランスを模索していると思われる。

第二に,判例は平均的な顧客の理解可能性と保険団体全体の利害関係を客 観解釈の主な基準にしている。判例は前者を主な基準としながら,後者で適 切に補完する立場であると思われる。

第三に,判例は公正解釈,客観解析などを優先的に適用して約款内容を明 らかにするよう最善を尽くしても,約款内容が不明確である場合のみに作成 者不利益の原則を適用する。その結果,作成者不利益の原則を適用した判決 は極めて稀である。

■キーワード

韓国保険約款,保険契約,解釈原則

韓国における保険契約の解釈原則

*平成27年10月24日の日本保険学会全国大会(慶應義塾大学)での報告による。

/ 平成28年 月10日原稿受領。

韓 基 貞

李 芝 妍・訳

(2)

.序 論

本論文では保険契約の解釈をめぐる問題の中で,特に紛争が頻発する保険 約款の解釈問題を中心に論じることにする。

保険約款に関連して紛争が頻発する理由は,保険者が自ら有利になるよう に約款を作成したり,曖昧な表現を使ったりするケースがあるからである。

保険約款の法的性質を契約内容として理解する限り,保険約款の解釈にも法 律行為の解釈原則が適用されることになる。しかし,保険約款は一般的な法 律行為とは異なる特徴もある。すなわち,保険約款は優越的な地位にある保 険者によって一方的に作成されるものである。従って,保険約款を解釈する 際はこれらの特徴を考慮しながら解釈する必要があり,この範囲内において 一般的な法律行為の解釈とは違いが生じうると思われる。ただし,保険約款 が有するあらゆる特徴の中で何を優先的に考慮して保険約款の解釈に反映す るかは,あくまで政策上の問題であり,その解釈政策は国によって異なるこ とである。

以下では,保険約款の解釈における韓国法の立場について,判例を中心に 分析・検討する。

.保険約款の概観

⑴ 概 念

保険約款は約款の一種である。従って,保険約款の概念に先立って,約款 の概念を検討する必要がある。

約款とは,契約の一方当事者が多数の相手方と反復的に契約を締結するた めに一定の形式で予め用意した契約内容である(約款規制法 条 号)。そ して,次のような点を規定する必要がある。まず,約款は前述のような実質 的な側面を有するものであればよいし,その名称・形態・範囲は約款である か否かに影響を及ぼさない(約款規制法 条 号)。次に,事業者と顧客が

(3)

交渉した事項は約款規制法上の約款の範囲から除外される(大判1)2000.12.

22.99다4634)。事業者が一方的に作成したもののみが約款規制法上の約款と なるという意味である。契約当事者が交渉した事項は約款規制法を通して規 律する必要が少ないから,約款規制法上における約款の範囲に含まれないこ とになる。

以上をまとめると,保険約款は保険者が多数の相手方と反復的に保険契約 を締結するために一定の形式で予め用意した保険契約の内容である。

⑵ 種 類

保険約款は普通約款,特別普通約款2),特別約款などで分けるのが伝統的 な分類方法である3)。これは該当約款を契約内容とするか否かが,個別的合 意の対象となるか否かによる分類である。普通約款と特別普通約款は個別的 合意の対象ではなく,特別約款が個別的合意の対象である。普通約款と特別 普通約款は保険契約者の選択可否とは関係なく契約の内容を定める目的で保 険者が作成した約款である。従って,保険契約者は普通約款と特別普通約款 による契約には応じるか,あるいは契約を諦めるかの選択しかできない。こ れとは異なり,特別約款は保険契約者の選択がある場合に限り,契約の内容 とする目的で作成された約款である。従って,保険契約者は契約締結をしな がら,特別約款を契約内容とするか否かを選択できる。反面,普通約款と特 別普通約款はその内容の一般性,特殊性による区分である。普通約款は一般 的な契約内容が含まれており,特別普通約款は普通約款の保障範囲に対する 拡張または縮小などの特殊な内容を含む。

以上から,普通約款では個別的合意が極めて制限されることが分かる。一

1) 大判とは大法院の判決を意味する。韓国は日本と同じく三審制を採用してお り,韓国の大法院は日本の最高裁判所に相当する司法機関である。

2) 特別普通約款とは,普通保険約款の不十分な内容を当事者間において改めて 詳細に定める約款であり,付加約款ともいう。普通保険約款の補充的な役割を するものとして,事実上,普通保険約款の一部となる。

3) 梁承圭 保険法 64頁(2002年)。

(4)

方,特別約款は個別的合意の余地がある。すなわち,特別約款による契約締 結の可否は選択できる。しかし,特別約款もその詳細な内容は個別的合意が 不可能である。すなわち,保険契約者は特別約款の詳細な内容の全てを選択 するか,あるいは特別約款による契約締結を諦めるしかない。

⑶ 特 徴

保険約款には一般的な法律行為と異なる特徴がある。

第一に,保険約款は保険者が一方的に作成する。一般的な法律行為は当事 者双方の合意によってその内容を作成する。

第二に,作成者である保険者は,契約の相手方である保険契約者に比べ,

優越な経済的地位にある。保険者は経済的地位,すなわち,資本力,交渉力,

専門性などの側面で保険契約者に比べ,優越的立場にあることが一般的であ る。一般的な法律行為は当事者が対等であることを前提としている。

第三に,保険約款は定型的に行われる大量的保険取引を規律する。これは 保険約款の機能による特徴であり,一般的な法律行為と異なる側面である。

第四に,保険約款は保険事故・負責事由4)・免責事由などを通じて保険団 体の収支均等を達成する内容を含む。これは保険の技術による特徴であり,

一般的な法律行為と異なる側面である。

第五に,保険約款は保険者と保険契約者の間において個別的合意を制限す る。一般的な法律行為は当事者の個別的合意が基本原則である。

⑷ 法的性質

保険約款の法的性質は保険約款が法的拘束力を有することの根拠の問題で ある。多数説である合意説は,契約当事者が保険約款を契約内容に含むと合 意したので,保険約款が法的拘束力を有するとの立場である。反面,少数説 である商慣習法説は保険約款によって契約を締結する商慣習法が存在するた

4) 負責事由とは,免責を制限する事由である。

(5)

め,保険約款は法的拘束力を有するとの立場である。韓国の判例は合意説を 支持している(大判1985.11.26.84다카2543)。

⑸ 規 制

⒜ 必要性

保険約款には規制が必要である。顧客に比べ,優越的な地位にある保険事 業者が一方的に作成したのが約款であることがその理由である。それだけで なく,保険約款が公共性,社会性を有し,また保険契約が附合契約制を有す ることも保険約款を規制する理由となる。保険契約の附合契約的な性質は前 述のように保険約款に対する個別的合意が大きく制限されることから確認で きる。これらの理由で保険約款に対する規制の必要性は明らかであると思わ れる。

⒝ 規制の概観 )関連法規

約款規制法は約款規制に関する一般法規である。保険約款も約款の一種で あるため,約款規制法が適用される。これが通説および判例の立場である

(大判1998.11.27.98다32564)5)。そして,保険約款の特殊性を勘案して,商 法および保険業法が保険約款の規制に関する特別法規を設けている。

)私法的規制と公法的規制

約款の法的規制は私法的規制と公法的規制で区別できる。私法的規制は約 款の私法的効力,解釈などに関連する規制である。公法的規制は監督機関が 約款と関連して事業者を対象として加える命令などの規制である。

①私法的規制

第一に,編入規制である。これは約款が契約内容として編入され,当事者 を拘束するためには,どのような要件を有するべきかという問題である。ま

5) 保険約款に対して約款規制法の適用を排除するのが合理的であるという少数 説は,梁承圭,前掲注3),67頁。

(6)

ず,約款に対する明示,交付,説明義務がある(約款規制法 条)。商法も 保険約款の交付,説明義務を規定している(商法683条の )。そして,個別 約定は約款に優先する(約款規制法 条)。

第二に,内容規制である。約款の内容が公正でなければ無効となる(約款 規制法 条〜14条)。

第三に,解釈規制である。約款は公正かつ客観的に解釈し,その意味が曖 昧であれば,顧客に有利に解釈する(約款規制法 条)。この解釈規制が本 論文の主なテーマである。

②公法的規制

第一に,約款規制法による規制である。公正取引委員会は約款が公正でな いと判断した場合,事業者に対して約款の是正勧告または是正命令ができる

(約款規制法17条の )。

第二に,保険業法による規制である。その内容は多様である。金融委員会 に保険業の許可を申請する際,保険約款を添付すべきであり(保険業法 条),保険会社が保険約款を作成,変更する際,一定の場合において金融委 員会に予め申告すべきであり(保険業法 条),保険会社が保険約款を作成,

変更するときは保険業法または他の法令に違反する内容が含まれてはならず,

正当な理由なく保険契約者の権利の縮小または義務の拡大などをしてはなら ない(同法128条の 第 項),第128条の 第 項に違反して作成,変更し た約款は金融委員会が変更を勧告でき(同法127条の ),金融委員会は公益 または保険契約者の保護と保険会社の健全な経営を大きく害する恐れがあり,

保険会社の保険約款が法令を違反したり,あるいは保険契約者に不利な内容 があると認定されると,聴聞を経て保険約款の変更またはその使用の停止を 命令でき(同法131条 項本文),金融委員会は保険消費者と募集従事者を対 象として保険約款の理解度を評価し,その結果を大統領令で定めに従って公 示できる(同法128条の )。

(7)

.保険約款の解釈

⑴ 意 義

約款規制法第 条は約款解釈の原則を規定している。まず,第 条 項に よると,約款は信義誠実の原則によって公正に解釈すべきであり,顧客によ って異なる解釈してはならない。前者を公正解釈,後者を客観解釈という。

次に,第 条 項によると,約款の意味が不明確である場合,顧客にとって 有利に解釈する。これが作成者不利益の原則である。以下では公正解釈の原 則,客観解釈の原則,作成者不利益の原則の順で検討する。

⑵ 公正解釈の原則

⒜ 意 義

公正解釈の原則とは,保険約款を信義誠実の原則によって公正に解釈する ことを指す(約款規制法第 条 項)。公正解釈の原則は約款の内容統制と 機能が事実上,同じである。内容統制に関する約款規制法第 条 項は,信 義誠実の原則に反する不公正な約款条項は無効であると規定している。

公正解釈の理論的根拠について,判例は公正ではない約款条項は私的自治 の範囲の外側であると説明している。すなわち,約款の作成は私的自治の領 域に属するものであるが,信義誠実の原則に反する約款条項は私的自治の範 囲を超えるものであるため,法院による内容規制,すなわち修正解釈の対象 になることは当然であるとしている(大判1991.12.24.90다카23899)。

⒝ 公正解釈の基準

公正解釈の基準は信義誠実の原則である。信義誠実の原則は相手方との信 義を尊重して誠実に行為することを指す。信義誠実の原則は一般的な法律行 為の解釈基準でもある(通説および判例)6)。ただし,前述のように,保険約

6) 民法第 条が信義誠実の原則を民法の基本原理として規定しているが,同原 則の機能の一つが法律行為に対する解釈機能である。これらの判例として大判

(8)

款には一般的な法律行為と異なる特徴がいくつかあり,信義誠実の原則を保 険約款の解釈に適用する際はその特徴を考慮しなければならない。

保険約款の特徴を考慮すると,信義誠実の原則上,特に強調すべき要素は 何か。判例は保険契約者の合理的期待を強調しているように思われる。すな わち,保険約款は契約の相手方との正当な利益と合理的な期待(保険の損害 てん補に対する合理的な信頼)に反しないように作成しなければならないと いう立場である(大判 1991.12.24.90다카23899)。保険の損害てん補に対す る合理的期待が公正解釈の重要基準となるのは妥当であるだろう7)

ただし,法律は保険契約者の合理的期待を保護はするものの,どの程度ま で保護するかは別の問題である。保護に極めて積極的な法理としては 合理 的期待の原則 (the doctrine of reasonable expectations)がある8)。それは,

アメリカの一部の州が判例で認める法理である。しかし,この法理は,合理 的期待に対する過保護ではないかという批判もある9)

鑑みると,合理的期待に基づく過度な保護は,契約当事者の私的自治を毀 損することになるので,賛成し難い。収支均等という保険の技術に基づいて,

当事者が合意した保険約款であれば,その効力も尊重する必要があるからで ある。結局,合理的期待の保護と私的自治の尊重との間にバランスを模索す る必要があるだろう。韓国判例もこのような方向を目指しているようである。

⒞ 公正解釈の効果

約款条項が公正解釈に反すると,その該当部分は無効となる。ある約款条 項の全部が公正解釈に反すると,この約款条項は全てが無効となる。そして,

2006.10.12.2004다48515などがある。

7) この見解を支持する立場として,梁承圭,前掲注3),74頁。

8) これに関する先導的論文として,Keeton Insurance law Rights at Variance with Policy Provisions" 83 Harvard Law Review 961(1970)

9) 合理的期待の原則に対する紹介および評価に対しては,韓基貞 米国約款規 制法に関する小考 法学論集327〜331頁(2001年 月,梨花女子大学校法学研 究所)。

(9)

ある約款条項の内容の一部が公正解釈に反すると,該当内容を取り除く。そ して,公正解釈に反しない残りの内容の効力は,残りの部分だけで有効に存 続させることができれば,それは有効であると解釈する。このように,ある 約款条項の一部のみを無効とし,残りの部分の効力を維持する解釈方法を効 力維持的縮小解釈(または修正解釈)という。以上は通説および判例(大判 1991.12.24.90다카23899)の立場である。

⒟ 判例の検討

以下では,公正解釈に関する判例の立場について検討する。以下の )〜

)は約款条項が公正解釈に反して無効となった事案であり, )〜 )はそ うでない事案である。 )〜 )は保険契約者の合理的期待, )〜 )は保険 の技術に基づく私的自治を重視した判決である。

)無免許運転の範囲

大判1991年12月24日90다카23899においては,自動車の保有者が負担する 対人賠償責任をてん補する保険約款が無免許運転を免責事由として規定して いた。争点となったのは,自動車の保有者の支配,管理が及ばない窃盗運転 または無断運転による無免許運転も免責事由であると解釈すべきかどうかで ある。

大法院は,文言どおりの効果を否定し,効力維持的縮小解釈をした。すな わち,無免許免責条項は,無免許運転の主体が誰かは問わず,無免許運転が 保険契約者または被保険者等の明示的,黙示的承認の下で行われた場合に限 り免責されると定めた規定として解釈した。大法院は,自動車の保有者が支 配,管理できない窃盗運転者または無断運転者による事故が発生した際,そ の者が運転免許を所持しているか否かによって,保険保護を全く受けられな い場合が生じてしまうと,不合理であるだけでなく,保険者のてん補責任を 相当な理由なく排除することになるとした。

この判決は大法院の全員合意によって従来の判決を変更したものである。

従来の判決は,その免責事由は文言通りに有効であると解釈し,無免許運転

(10)

が危険の程度が大きい行為であり,重大な法規違反でもあるため,その運転 の主体がだれでも保険保護から除外されることがその免責事由の趣旨である と判断した(大判1990.6.26。89다카28287)。

)法令の範囲

大判1998年 月28日97다11898においては,動産総合保険の一部である重 装備追加約款10)が法令あるいはその他の規則に違反して発生した損害を免責 事由とした。争点は 些細な 法令あるいはその他の規則に違反して発生し た損害は免責事由であると解釈すべきか否かである。大法院は保険事故の発 生,増加の蓋然性が極めて大きいとされる 重大な 法令あるいは規則に違 反して発生した損害のみが免責事由であると公正に解釈すべきであると判示 した。

)請求権喪失条項の範囲

大判2007年 月22日2006다72093においては,火災保険約款は詐欺的な方 法によって保険金を請求することは免責事由であるとした。この免責事由を 請求権喪失条項という。これは詐欺的方法によって保険金を過大請求した場 合,実際に発生した損害を含む請求権の全てが失われる効果を有する。争点 は独立した多数の物件が保険目的である場合,被保険者が詐欺的方法によっ て過大請求した保険の目的以外に保険の目的に生じた損害も免責されるか否 かであった。大法院は免責されないと判示した。大法院は請求権喪失条項の 趣旨が詐欺的請求に対する制裁であることは認めた上で,詐欺的請求が行わ れていない他の保険目的に対しても免責されるとする解釈は制裁としての相 当な程度を越しているので,信義誠実に反すると判示した。

)26歳未満の運転

大判1998年 月23日98다14191においては,運転者の年齢が26歳以上であ

10) 重装備追加約款は保険の目的が重装備物である場合,自動的に添付される約 款である。保険約款に加えて,①規定の積載量を超過することによる機械の損 害,②法令またはその他の規則に反して生じた損害,③修理整備または検査で 発見された損害は,免責されると定めている。

(11)

る場合のみをてん補する特別約款によって自動車保険契約が締結された。争 点となったのは,この約款が保険保護を不当に縮小した不公正約款であるか 否かであった。大法院は不公正ではないと判断した。その理由は,保険契約 者が上記特別約款によって保険料を割引く利益を享受できるし,上記特別約 款によるか否かは保険契約者の選択によるからである。

)被保険車両の交替と保険者の同意

大判2003年 月22日2002다31315においては,自動車保険の約款は被保険 自動車を交替する場合,保険者から承認を得られたときから交替した自動車 に保険契約が承継されると規定しており,争点となったのはこの約款条項が 公正であるか否かである。大法院は公正であると判断した。その理由につい て大法院は,被保険自動車の交替は保険契約内容の変更であるため,保険者 は保険契約の維持または変更などを決定すべき機会を有する必要があるから と判示した。

)自動車運転中の事故

大判2009年 月28日2009다9294において,運転者傷害保険の普通保険約 款は,被保険者が被った一般的な傷害事故をてん補すると規定し,これに加 え特別約款は,自動車運転中に事故を原因として他人に負担する費用などを てん補すると規定している。争点となったのは,特別約款で定められた 自 動車運転中の事故 の解釈であった。すなわち,アパート団地内で引越車両 を駐車させ,同車両に設置された高架ハシゴの荷台で引越荷物を運搬する途 中に発生した事故は,自動車の運転中の事故に該当するか否かが争われた。

大法院は該当しないと判示した。その理由について大法院は,道路交通法の 解釈上,自動車の運転とは自動車の原動機を使用する行為として,エンジン 始動から発進操作の完了までを要する点を鑑みると,自動車運転と関係なく,

その付属装置を用いた引越運搬作業中に発生した事故は,客観解釈により自 動車運転中の事故とは判断できないことを前提とした。そして,大法院は上 記の特別約款上,保険料率の算定,そして予想される通常の保険事故の類型 などを鑑みると,上記事故が自動車運転中の事故ではないと解釈しても,顧

(12)

客に不当に不利ではないと判示した。

⑶ 客観解釈の原則

⒜ 意 義

客観解釈の原則とは,約款を顧客ごとに異なる解釈をしないとの原則であ る(約款規制法 条 項)。この原則は,保険約款にも適用される。そして 保険約款の客観解釈には,保険制度の特徴も反映すべきであるというのが判 例の立場である。すなわち,判例は約款および保険制度の特徴に照らして,

保険約款の解釈は一般的な法律行為とは異なり,個々の契約当事者ではなく,

平均的顧客の理解可能性を基準としながら,保険団体全体の利害関係を考慮 して客観的,画一的に解釈しなければならないという立場である(大判1991 年12月24日宣告90다카23899)。これによると,客観的解釈の二つの基準は,

平均的顧客の理解可能性と保険団体全体の利害関係である。この点について は以下で,より詳しく検討する。

⒝ 客観解釈の基準

)平均的顧客の理解可能性

保険約款は平均的顧客の理解可能性を基準として解釈する。この基準は全 ての約款に共通とされている11)。そして,この基準は法律行為を解釈する一 般原則とは異なる。一般的法律行為の解釈は当事者がその表示行為に与えた 客 観 的 な 意 味 を 明 確 に 確 定 す る こ と で あ る( 大 判 1996 年 10 月 25 日 96다 16049)。約款の解釈は当事者ではなく平均的顧客を基準として解釈する点で,

むしろ法規的解釈に類似する側面がある。すなわち,約款の拘束力の根拠が 法規性ではなく当事者の合意にあるが,約款は個々の当事者の目的,意思や 具体的事情を考慮せず,平均的顧客の理解可能性を基準に客観的,画一的に 解釈するという点で,一般的法律行為の解釈より法規的解釈の原理が適用さ

11) 例えば,信用保証約款を平均的顧客の理解可能性を基準として解釈した判例 として,大判1998年10月23日98다20752がある。

(13)

れると理解できる(大判1996年10月25日96다16049)。

それでは,平均的顧客の理解可能性が基準とされる理由は何だろう。判例 では,その理由を約款の機能が定型的に行われる大量取引の規律にあるとし て説明する(大判1991年12月24日90다카23899)。すなわち,約款の機能は 事業主が不特定多数の相手方と大量取引をしながら,その取引内容を画一的 に処理することにあるが,もし顧客の個別的事情と理解可能性を考慮して,

約款を解釈すべきであるならば,上記の機能を正しく生かすことが困難とな るからである。

)保険団体全体の利害関係

保険約款は,保険団体全体の利害関係を考慮しながら解釈すべきである。

これは一般的法律行為の解釈では当然のことであり,一般約款の解釈と比較 できる側面である。

それでは,保険団体全体の利害関係を基準として解釈する理由は何か。こ れについて,大判1996年10月25日96다16049は次のように判示する。保険制 度は保険団体を構成し,収支均等を実現する。すなわち,保険制度は同種の 危険を有する多数人で保険団体を構成し,大数の法則によって保険料総額と 保険金総額の間で収支均等を実現する技術を使用する。この保険技術は保険 事故,負責事由,免責事由などにより保険約款へ反映される。このような理 由で保険約款を解釈する際には保険団体全体の利害関係を反映しなければな らないということである。

⒞ 判例の検討

客観解釈を適用した判例を検討する。この中で,一部の判決は客観解釈と 作成者不利益の原則を同時に援用している。しかし,これらの判決は作成者 不利益の原則を予備的,補助的に言及することであるだけで,主に客観解釈 に依存した判決ではないので,客観解釈に関する判決として分類しても無理 はないだろう。その判決としては,大判2007年 月 日2006다55005,大判 2010年 月22日2010다28208,28215,大判2011年 月28日2011다30147,大

(14)

判2012年 月27日2010다101776などがある。

)配偶者,父母の範囲

自動車事故をてん補する保険約款の中には記名被保険者の配偶者,父母な どの概念を用いて負責事由または免責事由を定める場合がある。以下では

ⅰ)〜ⅲ)は配偶者,ⅳ)〜ⅴ)は父母に対する解釈問題である。

ⅰ)大判1994年10月25日93다39942

対人賠償責任をてん補する自動車保険約款は記名被保険者またはその父母,

配偶者および子が死亡または傷害を被った場合を免責事由であると定めてい る。争点となったのは,この配偶者に記名被保険者の内縁の配偶者が含まれ るか否かであった。大法院は,上記免責事由の趣旨を鑑みると,含まれると 判断した。家族内の事故によって損害を被った場合,その損害は家族内で処 理し,損害賠償請求はしないことが社会通念上認められており,それが上記 免責事由の趣旨であるので,それらの社会通念は事実婚の配偶者にも適用さ れると大法院は判示した。

ii)大判1995年 月26日94다36704

対人賠償責任をてん補する自動車保険の家族運転者限定運転の特別約款は,

記名被保険者とその父母,配偶者および子ではない者が運転する中で発生し た対人賠償責任は免責事由であると定めた。争点となったのは,この配偶者 に内縁関係の一方から見た他方が含まれるか否かであった。原審は,内縁関 係にある他方も被保険自動車の使用範囲,方法が同一であるならば,上記の 特別約款上の配偶者に該当すると判断するのが相当であるとした。しかし,

大法院は客観解釈原則によると上記配偶者に内縁関係の一方から見た他方は 含まれないと判示した。内縁関係は善良なる風俗,その他,社会秩序(民法 103条)に反するので法的保護は受けられない点を考慮したものである。こ れらの理由で大法院は配偶者という表現の代わりに一方から見た他方という 表現を使用したと思われる。

iii)大判2009年12月24日2009다64161

対人賠償責任をてん補する自動車保険で夫婦運転者限定運転の特別約款は,

(15)

記名被保険者の配偶者は法律上の配偶者または内縁の配偶者を指すと規定し た。争点となったのは,重婚的事実婚の配偶者をこの特別約款でいう配偶者 に含むべきであるか否かであった。原審は含まれないと判示した。法律婚が 解消されない状態で二重の事実婚関係にある場合,これを適法な事実婚とし てみて法律婚に準ずる保護を行うことはできないとした。大法院は,一定の 場合のみにおいて含まれるとした。大法院は,この事件での法律婚が事実上 の離婚状態に至っていたという特別な事情があるので,重婚的事実婚を法律 婚に準じて保護する必要があると判示した。大判2010年 月25日2009다 84141も同じ趣旨の判決である。

iv)大判1997年 月28日96다53857

対人賠償責任をてん補する自動車保険の家族運転者限定運転の特別約款は,

記名被保険者とその父母,配偶者と子以外の者が運転する中で発生した対人 賠償責任は免責事由であると規定した。争点となったのは,記名被保険者の 母に継母が含まれるか否かであった。大法院は,継母が法律上の母ではない が,含まれると判示した。大法院は,上記特別約款の趣旨が被保険自動車の 利用関係において危険が同質的である記名被保険者の家族構成員が起こした 事故のみをてん補する代わりに保険料を安くすることにあるとした。その趣 旨に照らして鑑みると,記名被保険者の継母が彼の父の配偶者として実質的 に家族共同体の一員として生計を共にしており,彼の母親の役割をしながら,

被保険自動車を利用しているならば,上記約款上の母に該当すると大法院は 判断した。

v)大判2009年 月30日2008다68944

自動車保険の家族運転者限定運転の特別約款は,記名被保険者とその家族 運転者による事故のみをてん補すると定めている。争点となったのは,記名 被保険者の母に父の事実婚の配偶者が含まれるか否かであった。原審は含ま れると判示した。特別約款の趣旨が被保険自動車の利用関係において危険が 同質的である記名被保険者の家族構成員が起こした事故のみをてん補する代 わりに保険料を安くすることであり,また記名被保険者の父の事実婚上の配

(16)

偶者もその構成員に含まれると判断したことである。しかし,大法院は含ま れないとした。記名被保険者の立場から鑑みると,彼の父の事実婚の配偶者 が彼の母に含まれるとは考えにくいから含まれないと判断した。

)災害と故意事故

以下では,災害や故意事故に関する判例を扱う。以下三件の判決は,事実 関係が少しずつ異なるが,災害と故意による事故の関係を対象としている点 では同じであるため,一緒に検討する。なお,以下でいう主契約とは主な保 険契約を指す。

ⅰ)大判2007年 月 日2006다55005

この事件は,主契約と特約があり,主契約と特約はそれぞれ災害を保険金 支払事由として定めている。すなわち,主契約の約款は車両搭乗中の交通災 害,無保険車両による事故,当て逃げ車両による事故を保険事故としており,

災害死亡特別約款は災害による死亡を保険事故として定めた。そして,主契 約の約款は故意免責事由と免責制限事由を規定しており,特別約款はこれを 準用している。すなわち,主契約の約款は被保険者の故意による自損事故は 免責となるが(故意免責事由),被保険者が精神疾患状態で自損事故を起こ したり,契約責任開始日から 年を経過後に自殺,自傷行為をしたりした場 合は免責されないと定めた(免責制限事由)。そして,特別約款はこの約款 が定めていない事項は,主契約の約款に従うと定めた。

争点となったのは免責制限事由が主契約または特別約款の保険金支払事由 となれるかどうかの可否であった。

原審は保険金の支払事由ではないと判示した。原審は主契約または特別約 款の保険事故は災害に限定されているという前提の下で,故意による事故は 災害ではないので,保険金の支払事由ではないと判断した。しかし,大法院 は保険金の支払事由であるとした。原審の解釈によると,主契約の免責制限 事由が最初から適用される余地がなくなり,その結果,その適用対象が存在 しない無意味な規定となるので,受け入れられないとした。大法院は,平均 的顧客の理解可能性を基準とするならば,免責制限事由の趣旨は一定の故意

(17)

自殺と故意自損事故は災害ではないが,特別に保険事故として含まれること で保険金の支払事由になると理解する余地は十分あるとした。これに従い,

主契約と特約の保険事故の範囲は,災害にとどまらず,免責制限事由にまで 拡大されたものとして判断しなければならないと判示した。

ⅱ)大判2009年 月28日2008다81633

この事件は主契約と特約があり,主契約の約款は死亡事故に関しては災害 死亡と一般死亡の両方を保険事故とし,二つの特別約款(災害死亡特約,災 害保障特約)はそれぞれ災害死亡を保険事故として定めた。そして,主契約 の約款は被保険者が故意に自殺すると免責となり(自殺免責事由),契約の 責任開始日から 年を経過した後の自殺は免責ではないと規定し(免責制限 事由),各特別約款はこの約款が定めていない事項は主契約約款によると定 めた。

争点となったのは,主契約約款の免責制限事由が各特別約款にも準用され るか否かである。

原審は準用されると判示した。原審は準用した結果,各特別約款の保険事 故の範囲が災害にとどまらず,免責制限事由にまで拡大されたとした。この 判示の根拠として,前述した大判2007年 月 日2006다55005が援用された。

しかし,大法院は準用不可の立場をとった。各特別約款の保険事故の範囲 が免責制限事由にまで拡張できないということである。大法院は,平均的顧 客の理解可能性を基準とした際,自殺が災害をてん補する各特別約款の保険 事故として処理されないことは,各特別約款を締結する際,当事者が基本的 に前提としていた事項であるとした。そして,各特別約款で定めていない事 項のみを準用すべきであるが,各特別約款が保険事故を災害として定めた以 上,主契約の免責制限事由は,各特別約款に準用される余地はないと判断し た。もし保険事故の範囲を免責制限事由にまで拡張すると,保険契約者等に 各特別約款の締結時には期待していなかった利益を与えることになるし,各 特別約款に加入した保険団体全体の利益を害することになり,保険者に予期 せぬ無理な負担を与えることになるので,不合理であると大法院は判示した。

(18)

この判決は,保険の団体性を客観解釈の一つの基準としていると思われる。

注意すべき点は,準用不可として解釈しても,免責制限事由がその適用対 象のない無意味な規定にはならない点である。それは,免責制限事由は一般 死亡が保険事故の一つである主契約で意味のある規定であるからである。そ の点を鑑みると,この事件は前述した大判2007年 月 日2006다55005とは 区別される。

ⅲ)大判2010年11月25日2010다45777

この事件は,共済に関する事件である。この事件で特別約款はなく,共済 契約が災害による死亡・障害と障害以外の原因による死亡・障害をすべて保 険事故として定めていた。災害による死亡または 級障害の場合,遺族慰労 金(死亡)または障害年金( 級障害)を,災害以外の原因による死亡また は 級障害の場合,遺族慰労金を共済金から支給するよう定めていた。そし て,共済契約は故意免責事由と免責制限事由を定めていた。

争点となったのは,免責制限事由が災害による障害年金支給事由に該当す るか否かであった。

原審は肯定した。原審は共済契約上の保険事故の範囲は,災害だけでなく,

免責制限事由にまで拡張されたものとして解釈すべきであると判示した。こ れらの保険事故範囲の拡張論は大判2007年 月 日2006다55005から影響を 受けたものと思われる。しかし,大法院判決は,原審の見解と異なっていた。

大法院は,客観的解釈上の免責制限事由は,災害以外の原因による共済事故 に該当するだけであるとした。故意による自殺・自損事故は,特別な事情が ない限り,偶然性に欠けているので災害として判断できないことを前提に,

免責制限事由は自殺・自損が契約の責任開始日から相当期間が経過した後に 行われると,共済金の取得に不正な目的があったかどうかを判断し難い点を 考慮して,免責の例外を認めたものであり,災害による共済事故の客観的範 囲まで拡張するためのものではないと大法院は解釈した。そして,原審の解 釈は,災害共済金と一般共済金の金額の差を鑑みると,共済契約者には期待 していなかった利益を,共済事業主には予期せぬ負担を与えることになるの

(19)

で,不公正・不合理であると大法院は判断した。これは公正解釈まで加えた 解釈である。

)傷害と偶発的死亡

大判2010年 月30日2009다51318においては,保険約款は死亡事故に関連 して保険事故を傷害以外,一般傷害,交通傷害の三種類に分類した。そして,

同約款の傷害分類表での傷害とは偶発的な外来の事故であると定めており,

交通傷害分類表での交通傷害とは運行中の交通機関に搭乗している間に被保 険者が被った不慮の事故であると定めた。

争点は,交通傷害とされるには,上記の交通傷害の要素に加え,上記の傷 害要素も備えるべきであるかの可否であった。この事件で,被保険者は乗用 車の運転中に,予期せぬ心臓発作によって死亡したが,もし傷害要素も必要 とするならば,保険金の請求は不可能となる。

原審は,傷害の要素を備える必要はないと判示した。原審では,傷害分類 表は一般傷害を規定したものであり,交通傷害分類表は交通傷害を自足的に 規定したものであると判断した。これらの自足的規定論は保険事故の交通傷 害の範囲を傷害以外にまで拡張する解釈を意味する。

大法院は原審とは異なり,傷害要素を備えるべきであると判示した。大法 院は,原審のように判断すると,交通傷害は傷害部分と非傷害部分が含まれ ることになり,一般的な傷害には傷害の部分のみが含まれる結果になるとい う点に注目した。これらの結果は,交通傷害と一般傷害が傷害であるのは同 じだが,それぞれに付けられた交通,一般という点のみが異なるとする平均 的顧客の理解可能性と噛み合わず,またこの事件の保険約款に添付された予 定危険率12)とも合わないと大法院は判示した。要するに,交通傷害も傷害分 類表の傷害の要件を満たす必要があると解釈した。この判決は,前述した傷 害と故意事故に関する判決と比較して検討すると非常に興味深いものである。

12) 保険事故の発生に対して事前に予測した確率としての保険料算出の基礎であ る。

(20)

)他人の財物

大判2009年 月20日2007다64877においては,他人の自動車を運転する代 理運転手が被保険者として加入した代理運転保険契約の約款が対物賠償責任 について被保険者が他人の自動車を運転する間に生じた他人の自動車の事故 によって他人の財物をなくしたり,毀損したりしたときに法律上の損害賠償 責任を負うことによって被った損害を賠償すると規定しており,他人の自動 車の損害については,記名被保険者が他人の自動車を運転する間に他の車両 との衝突事故によって他人の自動車に直接的な損害が発生して他人の自動車 の所有者に法律上の損害賠償責任を負うことによって被った損害をてん補す ると規定した。

争点となったのは,対物賠償責任でいう他人の財物に代理運転手が運転す る他人の自動車も含まれるか否かであった。大法院は含まれないとした。そ の理由としては,上記対物賠償責任は被保険者が運転した他人の自動車と補 償対象とされる他人の財物を区分しており,一般的な自動車保険の約款も対 物賠償責任は被保険自動車ではなく,他人の財物に関する損害をてん補する ように規定されている点を挙げた。

)入院日

大判2009年11月26日2008다44689,44696においては,傷害保険の約款は 被保険者が傷害によって入院治療を受けると,被害日から180日を限度とし て入院した日までに臨時生活費を支給すると規定していた。争点は被害日が 入院日であるか,事故日であるかであった。前者を基準で解釈すると,入院 期間を180日限度として保険金を支給すべきであり,後者を基準で解釈する と,事故日から180日以内に入院した期間に対してのみ,保険金を支給する ことになる。大法院は後者が客観解釈で正しいとした。大法院は被害日とは 被保険者が傷害を被った事故日を意味すると解釈するのが相当であるとした。

)塞栓術,高周波切除術

ⅰ)大判2010年 月22日2010다28208,28215

癌保険の約款は直接的に癌を治療する目的で行った手術をてん補すると定

(21)

めている。争点となったのは,塞栓術(embolization)13)が手術に該当するか 否かである。大法院は該当すると判断した。大法院は,本件約款が手術を医 療界において標準的に認められている手術のみに制限していない状況では,

塞栓術も広い意味での手術に含まれる余地は十分にあると判示した。

ⅱ)大判2011年 月28日2011다30147

本件保険約款は甲状腺障害などの治療を直接的な目的として受けた手術を てん補すると定めている。争点となったのは,高周波切除術14)が手術に該当 するか否かである。大法院は該当すると判断した。大法院は,本件約款が手 術を外科的治療方法に制限していない状況の下では,身体の一部を切断,切 除する外科的治療方法を代替する高周波切除術も広い意味での手術に含まれ る余地は十分にあると判示した。

)保険金額の限度

大判2012年 月27日2010다101776においては,不動産仲介業者が取引当事 者に負う損害賠償責任を補償する共済契約の約款は,その補償金額を共済加 入金額の限度とすると定めた。そして,共済期間内に多数の事故が発生した 場合に共済金を制限する規定はなかった。争点となったのは,本件約款条項 の補償限度が共済期間の間に発生した全ての事故に対する補償金総額の限度 であるか,あるいは共済期間内に発生した事故 件当たりの補償金の限度で あるかである。大法院は後者で解釈した。大法院は本件約款条項の文言にお いて不動産仲介業者もしくは取引当事者の立場が平易に記載されており,通 常的で平凡な意味で解釈すると,後者と解釈する余地が十分にあるし,また 本件共済の性質,共済規程,共済約款の規定に照らしてみると,この解釈に 客観性と合理性があると認められるとした15)

13) 塞栓術は細いパイプを大動脈に挿入して,これを通じて薬物などを注入する 治療方法である。

14) 高周波切除術は針を腫瘍の中に挿入して高周波領域で交差する電流を通して 発生する摩擦熱で腫瘍細胞を壊死させる治療方法である。

15) 大判2012年 月13日2012다30281,大判2012年 月17日2010다93035なども 類似判決である。

(22)

)保険期間

大判2013年 月26日2011다70794においては,保険約款は保険期間中に疾 病で入院,通院治療を受けた場合に入院費,通院費をてん補すると定めた。

争点となったのは,保険期間中に疾病が発生すべきであるか,あるいは疾病 による入院,治療を行うべきであるかであった。すなわち,保険事故とは何 かについて争っている。大法院は客観解釈によって後者が妥当であると判示 した。本件約款は疾病が保険期間中に発生することを規定していないし,ま た被保険者が契約の申込日から過去 年以内に該当疾病による診断,治療を 受けた場合は補償から除外されると定めている。大法院はこれらの文言と内 容から鑑みると,保険期間中に疾病が発生したかの有無と関係なく,保険期 間中に疾病によって入院,通院治療を受けると,契約の申込日から過去 年 以内に該当疾病によって診断,治療を受けた場合を除外し,その他は補償対 象になると解釈するのが合理的であり,本件保険約款の趣旨にも合致すると 解釈した。

⑷ 作成者不利益の原則

⒜ 意 義

作成者不利益の原則は,約款内容が明らかでない場合に作成者不利益に解 釈する方法である16)。約款内容が明らかでないというのは,約款内容が二つ 以上の意味で解釈できるということ,すなわち,多義的解釈の可能性を指し ている。それぞれの解釈可能性は客観性,合理性を有する必要がある(大判 2009年 月28日2008다81633)。それぞれの解釈の可能性の中である一つが より客観性,合理性を有するならば,その約款内容が明白である場合となる だろう。

作成者不利益の原則によると,約款内容が不明確である場合,作成者に不 利に,その相手方に有利に解釈することになる。約款規制法 条 項はこの 原則を,約款の意味が明確でなければ,顧客に有利に解釈すると規定する。

16) これを英米法では,Rule of Contra Proferentem という。

(23)

これは保険会社が作成者であることを前提とした規定である。

作成者不利益の原則の趣旨は,保険会社が約款を一方的に作成し,顧客と 個別的な交渉が行われない側面を考慮して,相手方の顧客を保護し,約款内 容をあいまいに作成した作成者に不利益を与えることである。従って,同原 則は作成者の不注意に対する一種の制裁であるとも言える。

⒝ 公正解釈,客観解釈などとの関係

判例は公正解釈,客観解釈などを通じて約款の意味が明らかである場合は,

作成者不利益の原則を適用しない。ある約款条項の該当文言のみで理解する と,多義的に解釈する可能性があったとしても,該当約款の目的,趣旨,体 系などを考慮して,公正かつ客観的な解釈を経ることによって,その意味が 明らかになる場合は,作成者不利益の原則を適用しないということである

(大判2009年 月28日2008다81633)17)。要するに,作成者不利益の原則が濫 用されないようにするには18),公正解釈,客観解釈を優先的に適用すべきで あると思われる。一方,アメリカの多数の州における判例は,関連状況の証 拠から約款の意味を明らかにする過程を経ながら判断するが,それでもあい まいであるならば,作成者不利益の原則を適用し,少数の州における判例は,

それらの過程はないまま作成者不利益の原則を適用する19)

判例が公正解釈,客観解釈を優先とする結果,作成者不利益の原則を適用 した例は稀である。前述のように,作成者不利益の原則を予備的,補助的に 言及し,客観解釈で主に依存する判例などがあるが,これは客観解釈に関す る判例として分類した。

17) 大判2013年 月26日2011다70794も同様である。

18) 作成者不利益の原則が乱用されることを警戒する論文としては,崔竣圭 保 険契約の解釈と作成者不利益原則 B. F. L., 2011年 月ソウル大学校金融法セ ンター。

19) これについては,韓基貞・前掲注9)322〜327頁。

(24)

⒞ 判例の検討

大判2010年12月 日2010다71158においては,保険約款は 癌または重大 な癌 と 上皮内癌 に分類し,上皮内癌を保険金の支払事由から除外し,

あるいは癌より少ない金額の保険金を支給すると定めた。争点となったのは,

上皮内癌において上皮内の癌腫のみが含まれるか,あるいはこれと共に粘膜 内の癌腫も含まれるかであった。大法院は含まれると判断した。大法院は,

本件約款上,上皮内癌は多義的に解釈できるので,作成者不利益の原則を適 用する必要があり,最終的には粘膜内の癌腫を除く上皮内の癌腫のみを意味 するとして,制限的に解釈した20)

.結 論

以上,保険約款の解釈問題について韓国判例を中心として分析,検討した。

その結果,次のような結論に至った。

第一に,公正解釈である。公正解釈の主な基準は,保険補償に対する保険 契約者の合理的期待の保護,保険の技術に基づいた当事者の合意の尊重など であると思われる。判例は,両者の間でいずれかに偏らず,適切なバランス を模索していると思われる。

第二に,客観的解釈である。客観的解釈の主な基準は,平均的顧客の理解 可能性,保険団体全体の利害関係であると思われる。判例は,前者を中心と しながら,後者を適切に補完する立場であると思われる。

第三に,作成者不利益の原則である。判例は公正解釈,客観的解釈などか ら約款の意味が明らかになる場合は,作成者不利益の原則を適用しない。そ の結果,作成者不利益の原則を適用した判決は非常にまれである。

(筆者はソウル大学法学専門大学院教授。訳者は東洋大学准教授)

20) 類似判決としては,大判2010年12月 日2009다60305,大判2011年 月10日 2010다93011,大判2011年 月28日2011다1118などがある。

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