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保険契約における保険事故の立証責任

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保険契約における保険事故の立証責任

甘 利 公 人

■アブストラクト

最判平成13年4月20日は,傷害保険における保険事故の偶然性の立証責任 について,保険金請求者がこれを負うものである,と判示した初めての最高 裁判決である。この判決後,傷害保険以外の損害保険について,下級審裁判 例において,請求者が保険事故の偶然性を立証しなければならないという判 例が現れるようになった。しかし, 最高裁は,保険金請求者は偶然性を主 張,立証すべき責任を負わず,保険契約者等の故意又は重過失によって保険 事故が発生したことは,保険者において,免責事由として主張,立証する責 任を負う,と判示した。最判平成13年以後の学説では,偶然という言葉だけ からは請求者に立証責任があることにはならないという見解が有力であるが,

今後の実務対応としては,⑴約款の故意免責の削除,⑵故意・重過失の立証 責任の軽減,⑶間接事実による故意の推認の立証などがある。

■キーワード

保険事故,偶然性,立証責任

はじめに

商法641条後段は,保険契約者もしくは被保険者が悪意(以下,故意 という)または重過失により生じた損害については,保険者はてん補しない 旨を定めている。損害保険の約款では,通常最初に保険者のてん補責任を定

/平成20年1月8日原稿受領。

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める条項がある。そして,保険者の免責事由として,その保険契約特有の免 責条項の他に商法641条以下の法定免責事由と同様に保険契約者や被保険者 の主観的免責事由を定めている。そうすると,一方で保険者のてん補責任を 偶然な事故にかからしめているので,保険事故の発生がその発生要件とされ ている。また,他方では保険契約者または被保険者の故意・重過失を免責事 由として定めているので,損害保険契約に基づく保険金請求権の発生障害要 件である。したがって,どのような事実があればどのような権利が発生し,

どのような事実があれば権利が消滅するのかという要件事実について,これ らをどちらが立証しなければならないかが問題となる。

このような立証責任の配分は,保険金請求訴訟における被保険者側と保険 者側の重要なファクターになるといわれている。そして,法令は,立証責任 の配分を意識して条文が規定されており,この点についての問題意識の程度 は,実体法学者よりも訴訟法学者,訴訟法学者よりも,法律実務家(裁判官,

弁護士あるいは保険実務家)の順でその意識の程度が高くなるといわれてい

そこで,以下では,損害保険である火災保険や自動車保険において,偶然 性の立証責任が保険者にあるのかまたは保険契約者にあるのかが争われた最 高裁判例を題材にして,若干の考察をしたうえで,実体法学者から見た保険 実務における対策を検討する。

①最判平成13年4月20日民集55巻3号682頁 (生保の災害特約)と②

1) 宮川博史 保険事故と証明責任 金澤理=塩崎勤編・裁判実務大系第26巻損 害保険訴訟法128頁(1996年)参照。

2) 甘利・判例評論518号(判例時報1773号)197頁(2002年),寺本嘉弘・判例時 報1868号12頁(2004年),西嶋梅治ほか・安田火災ほうむ48号4頁(2002年),

竹濵修・私法判例リマークス25号106頁(2002年),蛭田円香・平成13年度主要 民事判例解説・判例タイムズ1096号122頁(2002年),堀田佳文・法学協会雑誌 119巻12号2533頁(2002年),木下孝治・平成13年度重要判例解説ジュリスト 1224号107頁(2002年),野嶋直=山岡大・龍谷法学34巻4号194頁(2002年),

榊素寛・商事法務1708号41頁(2004年),志田原信三・法曹時報56巻3号264頁

(2004年),同・最高裁判所判例解説民事篇平成13年度(上)442頁(2005年)

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最判平成13年4月20日判時1751号171頁 (損保の傷害保険)は,保険契約 の被保険者が5階建ての建物から転落死(控訴審で自殺と認定されている)

した事案について,①事件では生命保険契約における災害割増特約につき災 害死亡保険金の支払いを請求するものであり,②事件では損害保険の普通傷 害保険契約の死亡保険金を請求するものである。両判決は,ともに保険事故 の偶然性の立証責任については,保険金請求者がこれを負うものであると判 示した初めての最高裁判決である。損保の普通傷害保険の偶然性について立 証責任が議論されるのは,普通傷害保険契約の保険約款には,⑴被保険者が 急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して保険金を 支払う旨が定められ(傷害保険普通保険約款1条1項),他方で⑵被保険者 の故意,自殺行為によって生じた傷害に対しては保険金を支払わない旨が定 められている(傷害保険普通保険約款3条1項1号・3号)からである。ま た,生保の災害割増特約については,⑴対象となる不慮の事故とは偶発的な 外来の事故で,かつ,昭和42年12月28日行政管理庁告示第152号に定められ た分類項目中下記のものとして1ないし17の分類項目があり,分類項目の内 容については, 厚生省大臣官房統計調査部編,疾病,傷害および死因統計 分類提要,昭和43年版 (以下 分類提要 という)によるものとされ,⑵ 災害死亡保険金を支払わない場合として,被保険者の故意または重大な過失 を定めている。これらの⑴と⑵は,同じことを裏表から述べるに等しく,偶 然性の立証責任は権利根拠規定として保険金支払いを請求する者に,被保険 者の故意・自殺の立証責任は権利障害規定として保険者にあるように読める ので,約款文言上いずれが立証責任を負うかが明らかではないからである 。

この最判平成13年により,従来から下級審裁判例の判断が分かれ,学説に おいても見解が対立していた傷害保険における偶然性の立証責任は,請求者 が立証すべきことが確定したものといえる。しかし,この立証責任の問題は,

参照。

3) 甘利・法学教室254頁113頁(2001年)参照。

4) 江頭憲治郎・損害保険判例百選(第2版)174頁(1996年)参照。

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両判決により完全に解決したというわけではなく,むしろ問題が今後に残さ れていることは,亀山継夫裁判官の補足意見が指摘するとおりである。また,

本件と同一事件についても生命保険金請求の別訴が提起され,最判平成16年 3月25日民集58巻3号753頁は,自殺免責期間経過後の被保険者の自殺によ る死亡について,当該自殺に関し犯罪行為等が介在し,当該自殺による死亡 保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の 事情がある場合は格別,そのような事情が認められない場合には,当該自殺 の動機,目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても,免責 の対象とはしない旨の約定である,と判示した。そして,最判16年の事案に おける特段の事情の有無については否定した。本件事件に関係する訴訟では,

保険金額を合計すると25億円近くにものぼることになり,モラルリスクの問 題とも関係してくるのであるが,傷害保険については請求を棄却し,生命保 険については差戻し後の控訴審で和解が成立している。

この最判13年後,傷害保険以外の損害保険について,以下の下級審裁判例 において,請求者が保険事故の偶然性を立証しなければならないという判例 が現れるようになった。そこで,以下では,保険事故の偶然性の立証責任が 争われた裁判例を見てみることにする。

最高裁の判例

③最判平成16年12月13日民集58巻5号1178頁 は,店舗総合保険契約 の事案について, 商法は,火災によって生じた損害はその火災の原因いか んを問わず保険者がてん補する責任を負い,保険契約者又は被保険者の悪意 又は重大な過失によって生じた損害は保険者がてん補責任を負わない旨を定 めており(商法665条,641条),火災発生の偶然性いかんを問わず火災の発 5) 山野嘉朗・判例タイムズ1170号110頁(2005年),榊素寛・民商法雑誌132巻6 号207頁(2005年),石田満・損害保険研究67巻 1 号237頁(2005年),西 嶋 梅 治・損害保険研究67巻3号1頁(2005年),西本強・銀行法務21・49巻7号65頁

(2005年),松並重雄・法曹時報59巻1号275頁(2005年),飯田秀総・法学協会 雑誌124巻1号278頁(2007年)参照。

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生によって損害が生じたことを火災保険金請求権の成立要件とするとともに,

保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって損害が生じたことを 免責事由としたものと解される。火災保険契約は,火災によって被保険者の 被る損害が甚大なものとなり,時に生活の基盤すら失われることがあるため,

速やかに損害がてん補される必要があることから締結されるものである。さ らに,一般に,火災によって保険の目的とされた財産を失った被保険者が火 災の原因を証明することは困難でもある。商法は,これらの点にかんがみて,

保険金の請求者(被保険者)が火災の発生によって損害を被ったことさえ立 証すれば,火災発生が偶然のものであることを立証しなくても,保険金の支 払を受けられることとする趣旨のものと解される。このような法の趣旨及び 本件約款の規定に照らせば,本件約款は,火災の発生により損害が生じたこ とを火災保険金請求権の成立要件とし,同損害が保険契約者,被保険者又は これらの者の法定代理人の故意又は重大な過失によるものであることを免責 事由としたものと解するのが相当である。

したがって,本件約款に基づき保険者に対して火災保険金の支払を請求す る者は,火災発生が偶然のものであることを主張,立証すべき責任を負わな いものと解すべきである。これと結論において同旨をいう原審の判断は正当 である。所論引用の最高裁平成10年(オ)第897号同13年4月20日第二小法 廷判決・民集55巻3号682頁,最高裁平成12年(受)第458号同13年4月20日 第二小法廷判決・裁判集民事202号161頁は,いずれも本件と事案を異にし,

本件に適切でない。論旨は採用することができない。 と判示した。

③の最高裁は,商法では保険金請求者である被保険者が火災の発生に よって損害を被ったことさえ立証すれば,火災の発生が偶然なものであるこ とを立証しなくても,保険金の支払いを受ける趣旨と解され,火災保険約款 でも火災保険金の支払を請求する者は,火災発生が偶然のものであることを 主張立証すべき責任を負わないものと解すべきである,と判示した。すなわ ち,火災保険約款では,火災の発生により損害が生じたことを火災保険金請 求権の成立要件とし,その損害が保険契約者,被保険者またはこれらの者の

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法定代理人の故意,重過失によるものであることを免責事由としたものであ ることを明言したのである。その理由として,⑴商法665条と641条の関係。

⑵火災保険契約は,火災によって被保険者の被る損害が甚大なものとなり,

時に生活の基盤すら失われることがあるため,速やかに損害がてん補される 必要があることから締結されるものであること。⑶一般に,火災によって保 険の目的とされた財産を失った被保険者が火災の原因を証明することは困難 でもあること,以上の3つの根拠を述べている。⑵と⑶の理由が,最高裁判 決の説得力のある根拠となりうるかはともかくとして,⑴の商法665条と641 条の関係はきわめて重要な問題を含んでいる。

すなわち,③の最高裁判決は,商法は,火災によって生じた損害はその火 災の原因いかんを問わず保険者がてん補する責任を負い,保険契約者又は被 保険者の悪意又は重大な過失によって生じた損害は保険者がてん補責任を負 わない旨を定めており(商法665条,641条),火災発生の偶然性いかんを問 わず火災の発生によって損害が生じたことを火災保険金請求権の成立要件と するとともに,保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって損害 が生じたことを免責事由としたものと解される,と判示した。商法665条を 火災発生の偶然性いかんを問わず火災の発生によって損害が生じたことを火 災保険金請求権の成立要件とした規定であるとして,保険者の主張立証責任 を肯定したことには問題があるという見解もある 。しかし,商法665条は,

いわゆる危険普遍の原則を定めたものであり,これは特別の規定のない一般 原則であって,商法641条は,この原則を修正して保険契約者・被保険者の悪 意重過失によって生じた損害については保険者はてん補しないものとしたの であり(商法665条但書),このように解するのが商法の規定の素直な解釈で ある 。

なお,③の最高裁判決では言及されていないが,控訴審では,保険契約者 は,保険金請求の請求原因として損害保険契約において合意されているとこ

6) 西嶋・前掲⑸9頁以下参照。

7) 山野・前掲⑸117頁参照。

(7)

ろの,通常は偶発的に発生するものとして外形的・類型的に定められている 事故の発生を主張立証すべき責任を負い,この点の立証ができれば,偶然の 事故であることが事実上推定されるので,この証明は,一応の証明で足りる と考えられる,という。また,火災保険における保険事故招致については,

保険者が立証しなければならない。ここでいう立証とは,裁判官に対して主 張の真実または虚実についての確信を根拠づける行為である。ただ,ここで の確信というのは,通常人が日常生活において真実であるとして疑わない程 度の高度の蓋然性をいうのであって,自然科学や数学の証明で要求されるよ うな反対の可能性のない絶対的確実性をいうのではない 。

④最判平成18年6月1日民集60巻5号1887頁 は,自家用自動車総合 保険契約の車両条項の事案について, 商法629条が損害保険契約の保険事故 を 偶然ナル一定ノ事故 と規定したのは,損害保険契約は保険契約成立時 においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその 損害をてん補することを約束するものであり,保険契約成立時において保険 事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には,保険契約 が成立しないということを明らかにしたものと解すべきである。同法641条 は,保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害について は,保険者はこれをてん補する責任を有しない旨規定しているが,これは,

保険事故の偶然性について規定したものではなく,保険契約者又は被保険者 が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生 を妨げる免責事由として規定したものと解される。

8) 石田満・損害保険研究65巻1・2号421頁(2003年)参照。

9) 出口正義・損害保険研究68巻3号263頁(2006年),野口恵三・NBL847号47 頁(2006年),奥 田 隆 文=西 岡 繁 靖 ・ 法 の 支 配144号50頁(2007年),河 津 博 史・銀行法務21・51巻1号62頁(2007年),桜沢隆哉・法律のひろば60巻7号 63頁(2007年),大澤康孝・判例評論581号〔判例時報1965号〕196頁(2007年),

肥塚肇雄・ジュリスト平成18年度重要判例解説111頁(2007年),栗田和彦・私 法判例リマークス35号100頁(2007年)参照。また,山野嘉朗 自動車保険に おける保険事故の立証責任 日弁連交通事故相談センター編交賠償論の新次元 306頁以下(2007年)参照。

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本件条項は, 衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆 発,盗難,台風,こう水,高潮その他偶然な事故 を保険事故として規定し ているが,これは,保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故をすべ て保険事故とすることを分かりやすく例示して明らかにしたもので,商法 629条にいう 偶然ナル一定ノ事故 を本件保険契約に即して規定したもの というべきである。本件条項にいう 偶然な事故 を,商法の上記規定にい う 偶然ナル 事故とは異なり,保険事故の発生時において事故が被保険者 の意思に基づかないこと(保険事故の偶発性)をいうものと解することはで きない。原審が判示するように火災保険契約と車両保険契約とで事故原因の 立証の困難性が著しく異なるともいえない。

したがって,車両の水没が保険事故に該当するとして本件条項に基づいて 車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかな いものであることについて主張,立証すべき責任を負わないというべきであ る。

原審は,本件条項にいう事故の偶然性は事故の発生が被保険者の意思に基 づかないものであることをいうと解したものと判断されるが,このような解 釈が採り得ないことは上記のとおりである。そして,本件保険契約成立時に おいて本件事故が発生するかどうかが確定していなかったことは明らかであ るから,本件事故が偶然なものであるという立証がないとして請求を棄却す ることはできない。原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らか な法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち予備的請求に関する 部分は破棄を免れない。そして,同部分につき,免責事由の有無等について 更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

⑤最判平成18年6月6日判例時報1943号14頁 は,自動車保険契約の車両 条項の事案について, 商法629条が損害保険契約の保険事故を 偶然ナル一 定ノ事故 と規定したのは,損害保険契約は保険契約成立時においては発生

10) 野口・前掲⑼47頁参照。

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するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補す ることを約束するものであり,保険契約成立時において保険事故が発生する こと又は発生しないことが確定している場合には,保険契約が成立しないと いうことを明らかにしたものと解すべきである。同法641条は,保険契約者 又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害については,保険者はこ れをてん補する責任を有しない旨規定しているが,これは,保険事故の偶然 性について規定したものではなく,保険契約者又は被保険者が故意又は重過 失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事 由として規定したものと解される。

本件条項は, 衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆 発,盗難,台風,こう水,高潮その他偶然な事故 を保険事故として規定し ているが,これは,保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故をすべ て保険事故とすることを分かりやすく例示して明らかにしたもので,商法 629条にいう 偶然ナル一定ノ事故 を本件保険契約に即して規定したもの であり,他方,前記約款第4章第1節第3条の条項は,保険契約者,被保険 者等が故意によって保険事故を発生させたことを,同法641条と同様に免責 事由として規定したものというべきである。本件条項にいう 偶然な事故 を,同法629条にいう 偶然ナル 事故とは異なり,保険事故の発生時にお いて事故が被保険者の意思に基づかないこと(保険事故の偶発性)をいうも のと解することはできない。

したがって,車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとし て本件条項に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保 険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負 わないというべきである。原審の引用する前記平成13年4月20日第二小法廷 判決は,傷害保険についてのものであり,本件とは事案を異にする。

以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の 違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち保険金請求に関する部分は破 棄を免れない。そして,同部分につき,免責事由の有無等について更に審理

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を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

⑥最判平成18年9月14日判例時報1948号164頁 は,テナント総合保険普 通保険の事案について, 商法629条が損害保険契約の保険事故として規定す る 偶然ナル一定ノ事故 とは,保険契約成立時において発生するかどうか が不確定な事故をいうものと解される。また,同法641条が,保険契約者又 は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害について保険者はてん補責 任を負わない旨規定しているのは,保険契約者又は被保険者が故意又は重過 失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事 由として規定したものと解される。

本件約款は,保険事故として すべての偶然な事故 と定める一方,保険 契約者等の故意又は重大な過失によって生じた損害に対しては保険金を支払 わないこととしているが,これらの定めを商法の上記各条文に照らしてみれ ば,本件約款は,保険契約成立時に発生するかどうかが不確定な事故をすべ て保険事故とすることを明らかにしたものと解するのが相当であり,本件約 款にいう 偶然な事故 を,商法629条にいう 偶然ナル 事故とは異なり,

保険事故の発生時において保険契約者等の意思に基づかない事故であること

(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできない(最高裁平成17年

(受)第1206号同18年6月1日第一小法廷判決・裁判所時報1413号4頁参照)。

したがって,本件約款を契約内容とする本件保険契約に基づき火災による 什器備品等の焼失及び休業が保険事故に該当するとして保険金を請求する者 は,事故の発生が保険契約者等の意思に基づかないものであることについて 主張,立証すべき責任を負わず,保険契約者等の故意又は重過失によって保 険事故が発生したことは,保険者において,免責事由として主張,立証する 責任を負うと解すべきである。

11) 福田弥夫・損害保険研究69巻1号327頁(2007年),河津博史・銀行法務21・

51巻3号55頁(2007年),岡田豊基・民商法雑誌136巻3号378頁(2007年),山 下典孝・法学セミナー増刊145頁(2007年),滝澤孝臣・金融・商事判例1275号 2頁(2007年)参照。

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以上のように,最高裁は,商法629条が損害保険契約の保険事故として規 定する 偶然ナル一定ノ事故 とは,保険契約成立時において発生するかど うかが不確定な事故をいうものと解され,同法641条が,保険契約者又は被 保険者の悪意又は重過失によって生じた損害について保険者はてん補責任を 負わない旨規定しているのは,保険契約者又は被保険者が故意又は重過失に よって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由と して規定したものと解されるとしうえで,それぞれの約款において定められ ているように,保険事故としての 偶然な事故 と定める一方,保険契約者 等の故意又は重大な過失によって生じた損害に対しては保険金を支払わない こととしているが,これらの定めを商法の上記各条文に照らしてみれば,約 款は,保険契約成立時に発生するかどうかが不確定な事故をすべて保険事故 とすることを明らかにしたものと解するのが相当であり,本件約款にいう 偶然な事故 を,商法629条にいう 偶然ナル 事故とは異なり,保険事故 の発生時において保険契約者等の意思に基づかない事故であること(保険事 故の偶発性)をいうものと解することはできないから,請求者は偶然性を主 張,立証すべき責任を負わず,保険契約者等の故意又は重過失によって保険 事故が発生したことは,保険者において,免責事由として主張,立証する責 任を負う,と判示した。

このような最高裁判決の傾向からすれば,保険者が保険契約者・被保険者 の故意・重過失を立証しなければならいことは,判例として確立したものと いえるのである。今後は,保険実務において,保険者がどのようにしてそれ を立証するかの問題となる。

Ⅲ.学説

最判平成13年以前の学説においては,保険事故の偶然性の立証責任に ついて,次のような対立がある。

保険者が被保険者の故意・重過失を立証しなければならないとする見解が ある。その理由として,簡易生命保険法と同約款が故意の事故招致を保険者

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免責として掲げていないことから,この場合には被保険者の故意によるもの ではないことを保険金受取人が立証することを要すると解されるが,被保険 者の故意を保険者免責事由としてかかげている生保の傷害特約については保 険者にあると解するのが適当であるという 。また,請求者が故意によらな いことの立証責任を負うことになると,原因不明事故の場合における保険金 請求がきわめて困難になるという問題があることを否定できないから,急 激・外来という客観的要素は保険事故を構成するが,偶然という主観的要素 は故意の事故招致ではないという免責事由の不存在ということでみたされ る 。急激かつ外来の出来事により損傷を被ったという事実があれば,死 亡・傷害といった結果は経験則上元来は被保険者が自ら望むことではないか ら,偶然性の存在は事実上推定される 。さらには,傷害概念規定を中心に 考えるのであれば,保険者の故意免責をおく必要はなく,約款作成者である 保険者があえて故意免責をおいた契約当事者間の合意内容としては,非偶然 性の立証責任を保険者が負担したものと解するのが自然な解釈であるとい う 。

また,損害保険法制研究会の傷害保険契約法改正試案683条の8では,傷害 保険の加入者保護の見地から傷害が故意によることの証明責任は保険者が負 担することになるとしている 。

12) 中西正明・傷害保険契約の法理26頁,72頁・73頁(1992年)参照。

13) 山下友信・ジュリスト1044号132頁(1994年)参照。

14) 竹濱修 保険事故招致免責の主観的要件 保険学雑誌547号43頁(1994年)

参照。

15) 山野嘉朗 保険事故⎜⎜偶然性 傷害保険の法理116頁(1994年),同 傷害 保険における 偶然性 の立証責任と最高裁判例⎜⎜問題点と今後の課題⎜

⎜ 生命保険論集137号(第1分冊)15頁以下(2001年)参照。

16) 損害保険法制研究会・損害保険契約法改正試案・傷害保険契約法(新設)理 由書1995年確定版120頁(1995年)では,傷害保険普通保険約款は,被保険者 の故意を保険者免責事由の一つとして定めており,故意によることの証明責任 は保険者が負担するという。また,鴻常夫編・損害保険契約法改正試案・傷害 保険契約法(新設)・海上保険契約法試案理由書(1995年確定版)の解説95頁

〔江頭憲治郎〕(1998年)では,95年版の作成に当たっては,裁判例の動向を考

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これに対して,偶然性は請求者が立証しなければならないという見解 がある。この見解が多数である 。その理由としては,傷害保険契約の保険 事故は,身体の損傷それ自体ではなく,急激かつ偶然な外来の事故による身 体の損傷であるから,保険金を請求する側において傷害の原因を立証しなけ ればならず,また傷害の原因と傷害,傷害事故とその結果としての死亡等の 事実との因果関係を立証しなければならないという。この場合,証明の程度 はいわゆる一応の証明(primafacieevidence)で足りるとする見解が多数 である。ただこの見解においても,故意免責が定められていることの説明が 十分になされているわけではない。

最判平成13年は,故意免責については保険金が支払われない場合を確認的 注意的に規定したものにとどまり,被保険者の故意等によって生じた傷害で あることの主張立証責任を保険者に負わせたものではない,というのみでそ の理由が明らかではない。また,最判平成13年の判旨は,請求者が立証責任 を負う根拠として,①保険金の支払事由は,生保の災害割増特約に基づく災 害死亡保険金の支払事由は不慮の事故とされているのであるから,また損保

慮し慎重な検討がなされたが,結論としては82年版におけると同様,保険者が 被保険者の故意 によることの立証責任を負うとすることが適当とされたと いう。

17) 大森忠夫・保険契約法の研究120頁註⑶(1969年),石田満・商法Ⅳ(保険 法)〔改訂版〕349頁註⑵(1997年),同 傷害保険契約における立証責任 保 険契約法の論理と現実301頁(1995年),江頭憲治郎・商取引法第4版445頁

(2005年),西嶋梅治・保険法〔第3版〕388頁(1998年),古瀬村邦夫 生命保 険における傷害特約 ジュリスト769号144頁(1982年),山下丈 傷害保険契 約における傷害概念⑵ 民商75巻6号900頁(1976年),宮川博史 保険事故と 証明責任 金澤理=塩崎勤編・裁判実務体系26損害保険訴訟法134頁(1996年),

出口正義・損害保険研究60巻4号236頁(1999年), 阿憲 傷害保険および生 命保険の災害関係特約における偶然性の立証責任−立法論的検討 文研論集 124号251頁(1998年)参照。なお,笹本幸祐 人保険における自殺免責条項と 証明責任(4・完) 文研論集131号144頁(2000年),松本博之 保険金請求訴 訟における証明責任と具体的事実陳述義務 倉沢康一郎=奥島孝康編・岩崎稜 先生追悼論文集昭和商法学史673頁(1996年)参照。

(14)

の普通傷害保険の死亡保険金の支払事由は,急激かつ偶然な外来の事故とさ れているから,発生した事故が偶然な事故であることが保険金請求権の成立 要件であり,また,②そのように解さなければ,保険金の不正請求が容易と なるおそれが増大する結果,保険制度の健全性を阻害し,ひいては誠実な保 険加入者の利益を損なうおそれがあることをあげている。①の理由について は,故意や自殺行為を保険者の免責事由としていることの整合性を単に確認 的注意的に規定したものにとどまるというのみで,その理由は理論的に明ら かにされていないし,なぜ確認的注意的といえるのかの説明もなされていな い。また,②の理由は,モラルリスクを防止する趣旨から,立証責任の配分 を論じるものであるが,モラルリスクの問題と立証責任の問題は必ずしも結 びつけて論じなければならない問題ではない。仮に②の理由を最高裁が重視 するならば,本判決の射程範囲はモラルリスクの疑いが濃厚である場合に限 られるということになる。仮にそうだとしても,立証責任について請求者の 負担を考慮していないとの批判は免れないであろう。そして,最判平成13年 に対する批判として,⑴保険契約者に保険事故の偶然性を立証させるのは,

不可能を強いるものであり,⑵約款で規定すれば傷害保険以外でも偶然性の 立証を請求者に求めることができるのではないかというものがある。

最判平成13年以後の学説においては,商法629条の偶然性は,保険金 請求権の成立要件かどうかとか,偶然性を約款に規定している場合には,約 款上偶然が規定されていることの意味を検討しなければならず,偶然という 言葉だけからは請求者に立証責任があることにはならないという見解 が有 力となり,そこでは⑴損害説として,約款の偶然性は,商法629条と同じ意 味でのそれである。すなわち,契約締結時における偶然性をいい,⑵事故説 として,物事の自然の過程での損害ではないことの証明を請求者に求める考 え方があり,この証明の対象は事故があったという客観的事実であり,故意 によらないという主観的な事実までも立証の対象とするのは妥当ではない,

18) 山下友信 オール・リスク損害保険と保険金請求訴訟における立証責任の分 配 転換期の取引法517頁(2004年)参照。

(15)

というのである 。

Ⅳ.今後の実務対応

1.現実的な対応策

保険事故における偶然性の立証責任について,最高裁の判例として,保険 者が保険契約者・被保険者の故意・重過失を立証しなければならいことはが 確立した以上,今後は,保険実務において,保険者がどのようにしてそれを 立証するかが重要な問題となる。

そこでの保険実務としての,現実的な対応策としては,⑴約款から故意免 責を削除する(簡易生命保険法18条,56条6項参照。なお,56条6項1号で は, 被保険者が故意に疾病にかかったとき は免責としている)。また,⑵ 故意・重過失の立証責任の軽減を図ることになる。故意とは,一定の結果を 発生させる意思をもって行為した場合だけではなく,一定の結果の発生を認 識し,かつそれを容認して行為した場合の未必の故意も含まれるが,保険金 を取得する意思があることを必要としない。重大なる過失とは,通常人が一 般につくすべき注意義務を著しく欠くことをいう。商法においては,悪意と 並べて重大なる過失を主観的要件としているが,これは一般に悪意の立証は むずかしいので,重大なる過失をこれと並べていると通常は解されている。

故意の立証が困難なため,重過失を立証することによって,実際上,故意を とららえるための代替的機能もあるので,この重過失を活用すべきであるが,

個別の具体的事例において,それぞれの事案における故意や重過失の解釈が まさに今後は問題になる。さらには,⑶間接事実による故意の推認を立証す べきである。放火事故招致の立証については容易ではないが,最近は,間接 事実を積み重ねることによって被保険者等の故意を推認する裁判例が増えて いる 。この場合,どのような間接事実を積み重ねることにより,被保険者 等の故意を推認することができるのかが問題となるが,裁判官の心証形成の

19) 山下・前掲 540頁以下参照。

20) 放火事故招致を推認して保険会社の免責を認めた最近の裁判例としては,最

(16)

問題,さらに事故発生態様や発現形態を考えると,基準を明示する事は不可 能に近いといえなくはない 。放火事故招致を推認する裁判例によると,

⑴出火原因・状況の不自然性,⑵保険契約の不自然性(保険の目的の購入動 機・経過等,契約締結過程,契約内容),⑶保険契約の始期と事故日との接近 性,⑷保険事故前後の被保険者等の態度・アリバイの不自然性,⑸被保険者 等の経済的困窮性,⑹被保険者・関係者の保険金請求歴,の点から被保険者 等の故意を推認している 。

2.車両保険における盗難の立証責任

最判平成19年4月17日民集61巻3号1026頁 は,次のように判示した。

本件条項1は, 衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆 発,台風,こう水,高潮その他偶然な事故 及び 被保険自動車の盗難 を 保険事故として規定しているが,これは,保険契約成立時に発生するかどう かが不確定な事故を 被保険自動車の盗難 も含めてすべて保険事故とする ことを明らかにしたもので,商法629条にいう 偶然ナル一定ノ事故 を本 件保険契約に即して規定したものというべきである。そして,本件条項2は,

保険契約者,被保険者等が故意によって保険事故を発生させたことを,同法 641条と同様に免責事由として規定したものというべきである(最高裁平成 17年(受)第1206号同18年6月1日第一小法廷判決・民集60巻5号1887頁,

判平成14年10月24日保険毎日新聞4頁,東京地判平成12年9月27日判タ1073号 200頁,東京高判平成12年1月19日判時1704号159頁,仙台地判平成11年4月22 日判時1714号153頁などがある。

21) 戸出正夫・損害保険研究58巻1号235頁(1996年)参照。

22) 戸出・前掲 236頁以下,竹濱修 火災保険における被保険者の保険事故招 致 民商法雑誌114巻4・5号108頁(1996年),水野有子 被保険者の故意又は 重過失免責 塩崎勤編・現代裁判法大系25生命保険・損害保険261頁(1998年)

参照。

23) 野口恵三・NBL857号71頁(2007年),永石一郎・金融・商事判例1279号2頁

(2007年),山野嘉朗・判例評論588号(判例時報1987号)200頁(2008年)参照。

(17)

最高裁平成17年(受)第2058号同18年6月6日第三小法廷判決・裁判集民事 220号391頁参照)。本件条項1では 被保険自動車の盗難 が他の保険事故 と区別して記載されているが, 被保険自動車の盗難 についても他の保険 事故と同じく本件条項2が適用されるのであるから, 被保険自動車の盗難 が他の保険事故と区別して記載されているのは,本件約款が保険事故として

被保険自動車の盗難 を含むものであることを保険契約者や被保険者に対 して明確にするためのものと解すべきであり,少なくとも保険事故の発生や 免責事由について他の保険事故と異なる主張立証責任を定めたものと解する ことはできない。

そして,一般に盗難とは,占有者の意に反する第三者による財物の占有の 移転であると解することができるが,上記のとおり,被保険自動車の盗難と いう保険事故が保険契約者,被保険者等の意思に基づいて発生したことは,

本件条項2により保険者において免責事由として主張,立証すべき事項であ るから,被保険自動車の盗難という保険事故が発生したとして本件条項1に 基づいて車両保険金の支払を請求する者は, 被保険者以外の者が被保険者 の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと という外形 的な事実を主張,立証すれば足り,被保険自動車の持ち去りが被保険者の意 思に基づかないものであることを主張,立証すべき責任を負わないというべ きである。

原審は,本件条項1に基づいて車両保険金の支払を請求する者は被保険自 動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることにつき主張立 証責任を負うと解した上,本件においてはその証明がないとして,上告人の 被上告人に対する請求を棄却したものである。しかし,前記事実関係によれ ば,被保険者である上告人以外の者が本件車両をその所在場所から持ち去っ たことは明らかになっているというべきであるから,保険事故の発生が立証 されていないとして上告人の請求を棄却することはできない。

原審の前記判断には法令の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影 響を及ぼすことは明らかである。これと同旨をいう論旨は理由があり,原判

(18)

決は破棄を免れない。そして,被上告人は,本件車両持ち去りが上告人の意 思に基づくものであるという免責事由の主張をしているから,これについて 更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 すなわち,

車両保険金の支払を請求する者は,被保険者以外の者が被保険者の占有に係 る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったことという外形的な事実を主 張,立証すれば足り,被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかな いものであることを主張,立証すべき責任を負わないというべきである,と 判示した。問題は,被保険者以外の者が,被保険者の占有に係る被保険自動 車をその所在場所から持ち去ったことという外形的な事実を主張・立証すれ ば足りるということであるが,本件事案では盗難が防犯ビデオに撮影されて いるから,保険契約者の立証は容易であるが,そうでない場合には保険契約 者は何を立証することになるのかという疑問があるからである。

この点について,最判平成19年4月23日判例時報1970号106頁 は,この 外形的な事実とは,①被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の 主張する所在場所に置かれていたこと,及び②被保険者以外の者がその場所 から被保険自動車を持ち去ったこと,という事実から構成されるものという べきである,判示した。①の立証もさることながら,②はどのように立証す べきであろうか。

上記の二つの最高裁判決も,自動車の車両保険の盗難について,保険者が 保険契約者の故意重過失を立証しなければならない旨を判示したが,保険契 約者は何も立証しなくてもよいのではなく,被保険者以外の者が,被保険者 の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったことという外形的 な事実を主張・立証しなければならない。この立証はかなり困難なものと思 われる。

盗難の事実を証明する資料,専ら請求者側の供述だけで,これを裏付ける 証拠がなく,事故前後の挙動が不自然な場合には,保険金請求を認めないの

24) 野口・前掲 71頁,永石・前掲 2頁,石田満・損害保険研究69巻2号265頁

(2007年),山野・前掲 200頁参照。

(19)

が裁判例の傾向ではないか。客観的外形的に盗難事故の発生を推認させる事 実が認められるものであっても,そのことだけで直ちに証明が尽くされたこ とにはならない。

具体的に盗難の事実を証明するためには,①請求者が所有していたこと,

②それが盗難現場に保管されていたこと,③現実に盗難事故が発生したこと,

以上であるが,とくに③が重要である 。この盗難には,所有者の意思に反 しているという意味がある。

3.最判平成13年は変更されるか。

現に地裁レベルではあるが,傷害保険について,保険者が被保険者の故意 を立証しなければならなという判例がある。最判平成13年の事案の特殊性,

被保険者が自殺であることを保険者が立証に成功しているので,その場合に は請求者側が偶然性を立証しなければならないものと判示したというように 考えると,すなわち真偽不明ではない事案についての判示であるとしたら,

真偽不明の場合には,また別の判断が必要になると判示したものと考えるこ とも可能である。

(筆者は上智大学法学部教授)

25) 田爪浩信・損害保険研究61巻1号230頁(1999年)参照。

参照

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