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欧州連合における新しい保険監督法制

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欧州連合における新しい保険監督法制

佐 藤 雅 俊

■アブストラクト

欧州連合には,それが国家の連合体であるがゆえの利害衝突調整メカニズ ムの定立や保険監督基準の実務上の統一化がなされずにきた経緯がある。そ の意味で,先般の欧州連合における保険監督機関の創設 (後述するEIOPA) は,加盟国間に内在する保険監督上の諸問題を解決しようとする動きを具体 化したものに他ならない。本稿における検討から得られた結論は,以下のと おりである。

すなわち,欧州連合では,域内保険市場における 自由化 にともなって さまざまな競争状態とその弊害が生じた。よって,事後監督規制がより重要 となったので,これをより強化するため,保険監督統合指令としてソルベン シーⅡ指令の制定が求められた。

そして,EIOPAは各加盟国の保険監督機関に対し,保険監督統合指令の 遵守と,実務におけるソルベンシー等の数値基準を確保させるよう促す義務 があり,これに呼応する形で各加盟国の監督官庁に課せられる業務は格段に 増えると同時に,その地位の相対的低下が生じるものと予測される。

■キーワード

欧州連合法,保険監督機関,保険監督法

*平成23年6月18日の日本保険学会関西部会報告による。

/平成25年1月7日原稿受領。

(2)

1.はじめに ― EU法規による域内保険市場の自由化―

本稿は,欧州連合(European Union :EU,以下では, EU とする)に おけるEU保険監督法とEU保険競争法 の抵触と相互の連関を主として検 討するものである。それは,すなわち,EUにおいて形成された 域内保険 市場 の上位概念であり,実体経済全体を指す 域内市場 が,上記の各法 規による 自由化 の推進の過程で形成されてきたからにほかならない。し たがって, 域内市場 とその下位概念である 域内保険市場 は,以下の 二点において, 自由化 されていると考えられている。

まず一点目は,域内保険市場の上位概念たる 域内市場 の確立が,EU における最高法規の一つ,すなわち基礎法としての 条約 の諸規定に基 づいたことによる 。この諸規定は,人,モノ,資本そしてサービス提供な どのEU域内での自由移動を容認する。つまり,条約の規定に基づいてEU の 域内市場 は,自国(EU加盟国)の事業者が他の加盟国への事業進出 を容易にさせることにより,確立されたといえる。

域内保険市場は,上記条約の規定を根拠規定とする保険分野ごとの 諸保 険指令 というEU保険監督法規に依拠する形をもって確立した。 諸保険 指令 は,総称を ソルベンシーⅠ という。 ソルベンシーⅠ は,域内

欧州連合における新しい保険監督法制

1) 保険競争法 とは, 保険分野に対する競争法の規定についての適用に関す る法規 のことを指す。

2) 具体的には,欧州連合条約(Treaty of the European Union :EU条約)

と欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the Euro- pean Union:以下では,TFEUと略する。TFEUは,改正された旧欧州共同 体条約(EC条約)を前身とする)などの条約ならびにそれらの改正法のこと を指す。

3) 上記の条約等が基礎法である根拠は,それ以外のより明細なEU諸法は,当 該条約等に規定される手続きに基づいてのみ制定されるにすぎないからである。

よって,EUの諸条約並びにこ れ の 改 正 に 基 づ く 法 は, 基 礎 法(primary law) と呼ばれる。他方, 基礎法 に規定される手続きに基づく法律には, 

規則(regulation),指令(directive)などが挙げられる。上記の諸法は, 派 生法(secondary law) という呼称となる。

(3)

保険市場の 自由化 の支柱でもある。なぜなら, ソルベンシーⅠ は,

母加盟国一免許制度 や 約款規制の撤廃 などの 自由化 に関する諸 制度を規律しているからである。当該規定が,保険事業者の他の加盟国への 事業進出を促進させ,結果として保険市場の 自由化 に寄与した。それゆ え,今日において,EU市民は,加盟国内のあらゆる保険事業者との間で保 険契約を締結し得る選択の余地を享受している。

二点目は,域内市場における 自由化 が EU競争法の厳格適用 に基 づいてなされてきたことによる。EU競争法は,域内市場における加盟国の 参入障壁などを排除し,事業者の市場参入を促す。つまり,域内市場は,

EU競争法の規定にも基づく 自由化 の結果として成立したものといえる。

経済分野全体として,域内市場に対する 自由化 の恩恵は,経済分野の一 つである保険分野においても享受し得ることとなる。EU域内保険市場にお ける各保険事業者は,上述のEU保険監督法の規定 だけでなく,EU競争 法の規定に基づき,各加盟国に市場参入する機会を与えられた。

また,EUは,EU保険競争法について 規則 を制定する。同規則に よれば,保険事業者間での協力が是認される事例は極めて限定的である。当 該保険競争法の観点からも,EU域内の保険事業者は競争環境にさらされる ことになったといえる 。

本稿では,まず,EU保険監督法とEU競争法が与えたEU域内保険市場 のそれぞれの 自由化 について述べる。具体的には, 自由化 の対象と なった保険監督指令や,競争法,並びに保険競争法を取り上げて検討する。

4) 特に, 母加盟国一免許制度 は,保険監督法の規律に基づく域内保険市場 の 自由化 に関する象徴的な制度である。本稿2.2.において詳述する。

5) 保険競争法 は,直接的に適用させることができるEU統一立法である 規則 として制定されている。

6) EUの保険分野に関する競争法の適用に関しては,その歴史的経緯や,欧州 司法裁判所の判示事項,更に欧州委員会決定等を,拙稿 欧州の損害保険分野 における競争法の 適用免除 について (公益財団法人 損害保険事業総合研 究所 損害保険研究 第71巻第3号197頁)において明細に紹介する。

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他方, 自由化 が促進された結果として,EU域内の保険事業者の利幅 が減少し,それゆえ,当該保険事業者の経営体力が削がれた側面も否めない。

そこで,二番目としては,保険事業者が, 自由化 の反動として迫られ るソルベンシー基準要件,ならびに自社経営組織についてのガバナンス要件 などを盛り込む ソルベンシーⅡ指令 (以下では, ソルベンシーⅡ と する)なるEU新保険監督法についても紹介する。

上記の 自由化 がなされれば,EU域内に存する保険事業者が別の加盟 国へ事業進出するケースが当然想定される。即ち,経営体力の乏しい保険事 業者が,保険監督要件のより緩慢な加盟国へ進出(あるいは設立)し,事業 免許を取得して営業することも容易に予測しうる。そこで,本稿の後半では,

自由化 がなされた時点で設置されておくべきであった,EUとしての保 険 監 督 機 関(EIOPA :European Insurance and Occupational Pensions Authority)について言及する。EIOPA  は,EU保険監督法規の厳格適用と,

ソルベンシーⅡの大部分の規定について執行する権限を有する。

2.EUにおける条約の規定に基づく保険監督法の制定

2.1. EU域内市場の成立と保険関連指令制定のための根拠法

EUの主たる目的の一つは,加盟国内の国内市場をEUとしての域内市場 へと統合させることにある。 EUの前身は, 欧州共同体 (EC :European Community:以下では,ECとする。)であるといえる。EC時代には, 共 

同市場 の概念が先に使われ,1987年の単一欧州議定書(Single European Act)採択以降は, 域内市場 の用語が用いられることとなる。 

ECにおいて共同市場(後の域内市場)を確立するため,旧EC条約は,

さらに勿論,現EUの 欧州連合の機能に関する条約 (TFEU) も,そ 7) Directive2009/138/EC of the European Parliament and of the Coun-

cil of25November2009on the taking-up and pursuit of the business of Insurance and Reinsurance(SolvencyⅡ)  .

8) TFEUの 正 式 名 称,な ら び に 旧EC条 約 等 に 関 し て は,注 釈2)を 参 照。

TFEUは,欧州連合条約などとともにEUにおける最高法規である。域内市 欧州連合における新しい保険監督法制

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の目的を実現させるための諸規定を置く。諸規定のうち,域内金融市場を確 立させるための原則の下で保険監督法制に関するものは,域内市場における 資本の移動の自由,サービス提供の自由,並びに開業の自由である。

① 資本の移動の自由(Free Movement of Capital between Member States  

TFEU第63条(旧EC条約第56条)。本原則は,EUにおける市場統合の 主たる目標の一つである 欧州における単一市場の確立 のために不可欠な 原則である。当原則は,1994年までに加盟国全体で制度化されている。

② サービス提供の自由(Freedom  to provide services

TFEU第56条(旧EC条約第49条)。なお,TFEU第58条第2項(旧EC 条約第51条第2項)により,保険サービスに関する分野におけるサービス提 供の自由化については,資本の移動の自由とともに発効されるものである。

かつ, 特定の分野に関してその分野の自由化の実現のために必要であるな らば,欧州議会とEU理事会は,通常の立法作業に従い指令 を制定するこ とができる とのTFEUの規定 から, 多くの保険関連指令の根拠とな っている とされる。

また,保険分野におけるサービス提供の自由に関する欧州司法裁判所の判 をここで挙げる。当該事件は,ドイツの保険監督官庁が,他の加盟国 からドイツ保険市場への参入事業者に対して,ドイツ国内に営業拠点(子会 社など)を設立する要件を課していた件である。欧州司法裁判所は,上記判 決において,先の国内営業拠点設立要件を進出保険事業者に課すことは,旧 場の統合のため,EUは,加盟国間における物,人,サービス,資本の各分野 での移動の自由を最高法規たる条約として,これらを規定し,容認する。

9) 指令(Directive)は,加盟国の法規の調整を目指す原則立法であり,加盟 国は,これを国内法に変成しなければならない。

10) TFEU第59条第1項(旧EC条約第52条第1項)。なお,本項では,竹濵修 監修 EU保険関係指令の現状(解説編) (損害保険事業総合研究所研究部・

2006年)43頁を参考としている。

11) 前出,竹濵修監修 EU保険関係指令の現状(解説編) 43頁。

12) EuGH4.12.1986Slg.1986,3755.

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EEC条約に規律された サービス提供の自由 原則を否定するものであ る として,当該要件を否認した。そして欧州司法裁判所は,当時としては 初めて,旧EEC条約上の サービス提供の自由 原則は,保険サービス取 引の分野に対しても直接的な適用が可能であるとした。

③ 開業の自由(Freedom  of Establishment)

TFEU第49条(旧EC条約第43条)。なお,開業の自由については,当該 事業所の形態を問わないとし,具体的に,代理店,支店もしくは子会社と規 定する。さらに同条の後段において,開業の自由は個人として自営業を営む,

あるいは会社を設立する権利も含まれなければならない 。

但し,保険業においては,保険業の免許をある加盟国の保険監督官庁より 取得した事業者(Hauptniederlassung)が,他の加盟国において,代理店,

支店もしくは子会社(Zweigniederlassung)の形態で営業進出する際に,

保険事業者から配属された独自のスタッフを配置する,もしくは保険事業者 から委任されたブローカーを所在させるリエゾンオフィスの形態(Sekun- darniederlassung)で保険営業を行うことが可能か否かの係争が存した。こ の係争につき,2007年の欧州司法裁判所による判決では,それらの進出形態 Sekundarniederlassung の概念に含まれ,他の加盟国においても保険 営業を行うことが可能であると認められている 。

なお,上記の判例法は,2009年にEUにおいて新たに制定された保険監督 法,すなわち,保険分野に関する包括的な指令である,ソルベンシーⅡ第 145条第1項後段において,制定法として規律されることとなった。

この規定は,自国内だけでなく他の加盟国内での事業活動の自由を保障す るための規定でもある。かつまた,TFEU第53条第1項(旧EC条約第47

13) 当該の 個人として自営業を営む,あるいは会社 は,公法上もしくは商法 上により構成される組織体であるとする(TFEU第54条後段(旧EC条約48 条後段))。

14) Ulrich Forsthoff, AEUV  Art.49, S.14,15 (Kapitel2. Das Niederlas- sungsrecht, in Grabitz/Hilf/Nettesheim, Das Recht der Europaischen Union,43. Erganzungslieferung, C.H.Beck,  03/2011)

欧州連合における新しい保険監督法制

(7)

条第1項)では,自営業者による他の加盟国内における事業所の設立を容易 にするための規定を設けている。すなわち,欧州議会とEU理事会は,事業 免許などの公的資格について,各加盟国による相互承認についての指令を定 めなければならない 。

2.2. EUにおける保険監督法としての各種保険指令(損害保険指令を中心 として)

EEC(European Economic Community:欧州経済共同体。以下では,

EEC とする。)やECは,損害保険 など保険分野毎に諸指令を制定し てきた。諸指令の一部は現行法であり, ソルベンシーⅠ と総称される。

本節において大きな意味を持つ指令は,第三次損害保険指令 である。

当該指令では, 母加盟国一免許制度 が設けられた。本制度は,母加盟 国の保険監督行政機関により保険業の免許を付与され,同機関により保険監 督を受けている保険事業者は,他の加盟国においても保険営業を行うことが できる制度である。当該指令は,約款規制の自由化 も規定する。これに 15) 当該加盟国間における事業免許等の公的資格の相互承認に関しても,判例法 により形成された権利は,現在TFEUにおける条文として制定されている。

16) 第三次損害保険指令が制定されるまでの,損害保険分野における主要な指令 は,第一次損害保険指令(73/239/EEC),損害保険分野の事業営業に関する 制限の撤廃に関する指令(同指令は,加盟国に対し,損害保険営業に関して,

他の加盟国における損害保険営業を妨げる規制を撤廃するよう要求する:73/

240/EEC),そして第二次損害保険指令(88/357/EEC)である。

な お,当 該 第 二 次 損 害 保 険 指 令 は,上 記 のEuGH 4.12.1986Slg.1986, 3755判決の影響を受けた指令であると言われる。それは,当該 判決にあるド イツの保険監督法が求めた要件は,すでに第一次損害保険指令において調整と 規律がなされているソルベンシー監督要件と二重の監督を引き起こす。 との 裁定が影響したものとされている。

Helmut Heiss, “Stand und Perspektiven der Harmonisierung des Ver- sicherungsvertragsrechts in der EG,2005,5et seq.”(pp5,6)

17) (92/49/EEC).

18) 第三次損害保険指令第4条。

19) 第三次損害保険指令第6条第3項。

(8)

より,欧州保険市場における自由化がますます促進される結果となった 。

2.3. 域内保険市場の確立のための必要な要素

―保険市場の自由化に関する法規と事業者間における自由競争が確保され るために必要となる立法との相互補完の重要性―

域内保険市場を達成させるためには,EUと各加盟国における立法による 自由化 が必要となる。これを補完するためには,事業者間での実質的な 競争の確保と維持が必要となる。そのために,EUは,競争法の保険分野へ の適用に関して, 保険競争法 を制定する。

EU競争法の根幹となる規定は,TFEU第101条以下である。同条第1項 では,原則, いかなる競争制限的な共同行為をも禁ずる と規定する。そ の例外が,同条第3項において規定される。同項は,事業者間などの共同行 為について,同条第1項の規定を免除する 適用免除 の諸要件を規定する。

EUにおける保険事業者間での共同行為は,1992年の保険業に対する競争 法の一括適用免除規則が制定されるまでは,個別的な適用免除を 委員 に申請する必要が存した。そして,特に1980年代に保険事業者間など における種々の共同行為が, 委員会 による決定 や,欧州司法裁判所の

20) 第三次損害保険指令は,第6条第3項第2段において,普通保険約款又は特 別保険約款,並びに保険料率表などに関して,加盟国は,保険事業者に対して それらの事前認可と体系的通知を要求する国内法を規定してはならないと規律 する。同指令第7条の規定により,第一次損害保険指令第9条の 事業計画 書 に関する要件のうち,上記三項目は削除された。

それゆえ,域内保険市場では, 加盟国による保険料と保険約款に関する監 督の廃止に基づいて,保険商品の多様性が増し,そして保険商品間による競争 が可能となった とされている。

(Schnyder, “Europaisches Banken-und Versicherungsrecht”(2005)p.5 et seq.)

21) ここでいう, 委員会 とは,欧州の法制度における 委員会 のことであ る。具体的には,欧州委員会のことである。

22) [1985]OJ L35/20 (Fire Insurance).前掲注6)拙稿210頁以下にて詳述。

おける新しい保険監督法制 連合に

欧州

ます 的に送り め強制

本文に上付き23が入るた

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判決 に基づき, 旧EC条約第81条に違反する と判示されている。

上記の経緯を経て,EUにおける 保険競争法 は,旧ECにより1992年 に保険業に対する競争法の一括適用免除(第一次)規則の制定により制定法 となる。以後,2003年に第二次規則が制定され,現行法は,2010年第三次一 括適用免除規則である 。

保険事業者間の共同行為として第一次規則及び第二次規則が競争法の適用 を免除するとしていた行為は,以下の通りである。それらは,①純危険保険 料率表,②特殊リスクの共同算定,疾病率表,事故率表などの共同作成,③ 普通保険約款の創設,④リスクの共通種類についての共同での塡補,並びに

⑤安全装置の試験とその結果の受諾などである。

なお,2010年第三次規則では,適用免除範囲が縮減されている。すなわち,

保険事業者間の共同行為が,以下の二点に過ぎなくなった。それらは,①特 殊リスクの費用の算定ならびに死亡率表などの各種率表の作成,そして,保 険引き受けリスクについての保険金請求規模等に関する研究と同研究結果の 配布についてであり,ならびに,②特定リスクの共同引き受けだけである。

3.EU域内保険市場における自由化の結果に対する法的対処

―ソルベンシーⅡ指令の制定と同指令の主たる規制―

3.1. ソルベンシーⅡ指令の制定

ソルベンシーⅡの制定以前の欧州における保険事業者は,以下の三つの理 由により自身の収支を急激に悪化させていた。

すなわち,第一は,欧州保険監督法などの改正による著しい 自由化 に 伴って,加盟国の保険監督機関による監督権限が縮小されたことである。こ

23) [1987]ECRⅠ‑447.拙 稿 の216頁 か ら219頁 に て 詳 述。な お,旧EC(現

EU)競争法の中心規定は,以前は,旧EC条約第85条以下に置かれていた。

その後,本文にもある通り,旧EC条約第81条以下へと条文変更がなされた。

24) 保険分野に対するEC競争法の一括適用免除第一次規則(3932/1992/EEC,

[1992]OJ L398/7),同第二次規則(358/2003/EC,[2003]OJ L53/8),同 第三次規則(現行法:267/2010/EU,[2010]OJ L83/1)。

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れにともない,保険事業者は,保険商品の開発や保険料算定などを,もっぱ ら自社で行う必要と自由とを手に入れた。その結果,保険市場における保険 事業者間の競争が加速され,当該事業者の多くは,自社の 市場占有率 を 維持するために,引受けリスクに対して過少な保険料を設定することとなっ た。これは結果的に,過当な料率競争をもたらし,主たる保険分野における 収支を悪化させることとなった。

第二は,市場の外的要因である金融危機に伴い 投資収益部門の過重な損 失 が発生したことである。

そして第三は, 自然災害やテロなどの新たなリスクの発生による保険金 支払いの急激な増加 に基づくものである。

これらの,欧州保険事業者の収益を悪化させる諸要因により,保険監督法 上の資金要件は,実際のリスクに対応させる必要性が明らかとなった。かか る必要性に応えるべく,2009年に制定されたのが,このソルベンシーⅡであ る。同指令により,EUにおける保険監督制度は, 保険事業者が引き受け るリスクを焦点とする保険監督制度 へと,変革されることになったのであ る 。ソルベンシーⅡは,損害保険,生命保険,再保険などの各種指令の枠 を超えた包括的な各保険分野の統合指令である。また保険業に対する監督の 強化を目的とするソルベンシーⅡ は,300を超える条文で,主として三つ の柱をおいて,ソルベンシー基準など実際に保険会社が満たすべき財務基準

(SCRMCR )や保険契約に関する監督について規律する。さらに同指 令では,EU各加盟国の監督官庁の監督権限や義務に関する規定を置くもの

25) Marion Rittmann :Neuausrichtung der Versicherungsaufsicht im  Rah- men von Solvency II(2009)S.1ff.

26) なお,ソルベンシーⅡは,EU法規としては 枠組指令(framework direc- tive) に該当する。 枠組指令 は,基本法規であり,本法に基づいてさらに 明細な法規などが制定される根拠法であるということを意味する。

27) SCR(Solvency Capital Requirement)は,ソルベンシー必要資本額のこ とである。また,MCR(Minimum  Capital Requirement)は,最 低 必 要 資 本額を指す。

欧州連合における新しい保険監督法制

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である。 グループ監督 に関する規定 もこれに当てはまる。

また,第三次損害保険指令等において設けられた 母加盟国一免許制度 は,ソルベンシーⅡにおいても継続して規定される 。さらに,加盟国内の 保険事業者が他の加盟国において子会社の形態で保険営業を行おうとする際 には,進出先加盟国は関係加盟国に対し,当該子会社に対する免許の付与に ついて事前に意見を求めることができる 。

この他,ソルベンシーⅡは,財政状況の悪化もしくは異常事態にある保険 事業者又は再保険事業者に対する監督規定を置く 。

なお,ソルベンシーⅡは,第309条第1項により,一部の条文を元々2012 年10月31日に発効させると規定していたが,EUは,その後,それを2013年 6月30日まで発効を遅らせるとした改正指令 を制定した。同指令によれ ば,各加盟国は,同条第1項に規定される内容を自国法に無条件に2013年6 月30日までに制定しなければならないとされる 。なお,保険事業者に適用 される発効日は,2014年1月1日である。

それゆえに,ソルベンシーⅡ第310条に規定されていた ソルベンシーⅠ と総称される統合前の諸保険指令は,2014年1月1日をもって廃止となる。

3.2. ソルベンシーⅡ指令の概要

来るべき発効を予定されるソルベンシーⅡは,主に三つの柱として,定量

28) ソルベンシーⅡ第212条以下。

29) ソルベンシーⅡ第14条,第15条第1項。

30) ソルベンシーⅡ第26条第1項。

31) ソルベンシーⅡ第136条以下。なお,当該事業者等の監督は,本店所在地の 保険監督官庁がこれを執り行う。また,同第144条の規定で,免許取り消し要 件を定める。

32) Directive2012/23/EU  of the European Parliament and of the Council of12September2012amending Directive  2009/138/EC(SolvencyⅡ)as regards the date for its transposition and the date of its application,  and the date of repeal of certain Directives.

33) 国内法に取り入れる場合,法律,命令の形式でなされなければならない。

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要件と定性要件,そして,情報開示要件を規定する。2014年1月1日の発効 日から定性要件と情報開示要件は,各保険事業者に適用されるものである。

第一の柱,定量要件は,域内保険事業者が満たすべきソルベンシーマージ ン等の資本要件を明細かつ厳密に規律する。具体的には,ソルベンシーⅡ第

Ⅵ 章(第75条 以 下)に お い てSCRMCRに つ い て 規 定 さ れ て い る。

EIOPAは,SCRM CRに 関 す る 定 量 調 査(Quantitative Impact Study)を行い,これを公表する 。当該要件の諸規定は,保険事業者の財 

務管理やリスク管理について個別具体的に列挙する非常に実務的な規定とい える。

第二の柱,定性要件は,保険事業者の会社内部統制,即ちガバナンスにつ いて規律する。更に,各加盟国の保険監督官庁における監督実務による要件 もここに定める。域内保険事業者は,ソルベンシーⅡ第41条の規定により,

内部ガバナンスを構築するよう求められる。EUは,改めて保険統合指令と して,域内保険事業者に対し,内部統制や内部監査(事業監査,財務監査,

保険技術に関する監査)を厳格に要求する。当該諸規定による要求は,域内 保険事業者としての経営体質の改善と経営体力の強化をねらうものである。

そして,第三の柱である情報開示要件は,ソルベンシーⅡが,域内保険事 業者に対し,各加盟国の保険監督官庁への情報提出義務や自社経営情報の開 示義務を制定することにある。これは,公に域内保険事業者の自社経営情報 へのアクセス権を保障するとともに,各加盟国の保険監督官庁に対して保険 監督をより容易に推進することを可能にさせるものでもある。

3.3. ソルベンシーⅡ指令におけるグループ監督

グループ監督 に関する諸規定は,上記 三つの柱 と並び,極めて

34) 当該調査は,第5回目の調査(QIS5)にあたる。

https://eiopa.europa.eu/fileadmin/tx dam/files/publications/reports/ QIS5Report Final.pdf

35) ソルベンシーⅡ第212条以下。

欧州連合における新しい保険監督法制

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重要な規律である。即ち,EU加盟国内の保険監督機関(官庁)のうちいず れの監督機関(官庁)が,監督義務を負うかという問題となり得る。無論,

EUとしての保険監督機関であり,加盟国内にとどまらない案件を取り扱う EIOPAが,これを裁定し監督する機会が増えることは言を俟たない。

ソルベンシーⅡでは,母加盟国の保険事業者,いわゆる親会社を 参加 事業者 とし,進出先の加盟国内にて保険営業を行う子会社を 関連事業 と定義する 。

当該関連事業者は,参加事業者により経営支配を受けるので, グループ 監督 システムは,参加事業者を事業者集団の経営責任の主体として,これ を中心に実務上の保険監督を行う 。欧州連合内での最上位レベルにある親 会社,つまり,親会社の母加盟国にある保険事業者を参加事業者(親事業 者)として定め,この保険事業者に事業免許を付与した母加盟国の保険監督 官庁は,グループ監督者として財務監督等の監督責任 を一括して負う 。

3.4. ソルベンシーⅡ指令の規定に基づく第三国からの欧州連合域内への進

ソルベンシーⅡは,無論,EU域外の第三国の保険事業者が,欧州連合域 内で保険営業を行う際の保険監督についての規定を設けている。ゆえに,

EU域外の第三国の保険監督官庁による第三国内の保険事業者への監督が,

36) なお, 参加 とは,ソルベンシーⅡ第13条第20項の定義規定により, 直接 もしくは支配によって,他の事業者の議決権または株式の20%,もしくはそれ 以上を所有していることをいう とする。

37) 関連事業者は,参加事業者によって実質的に経営に影響を与えられる関係に ある事業者のことを指す。

38) ソルベンシーⅡ第212条。

39) ソルベンシーⅡ第213条第1項。

40) 平時の財務状況の確認やソルベンシーマージンの確保などの監督を行う。

41) ソルベンシーⅡ第213条第2項,同第215条第1項,同第247条第2項⒜,同 第248条。

本文に上付き42が入るため強制的に送ります

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ソルベンシーⅡで要求するグループ監督 の規定による監督と,同等であ るか否かの判断がなされなければならない 。

この同等性の有無についての最終決定は,欧州委員会が行う 。同等性が 認められた第三国の保険監督官庁は,加盟国のグループ監督者と同一の監督 義務を負うこととなり,ソルベンシーⅡにおけるグループ監督に関する規定,

財務監督や諸監督官庁との連携に関する規定の適用がなされる 。

第三国の保険監督官庁による当該監督が,EUの監督基準であるソルベン シーⅡと同等であると認められない場合,グループ監督者となる加盟国内の 監督官庁は,以下のような対策をとることにより,ソルベンシーⅡが要求す るグループにおける監督要件を充足させる。

①当該保険事業者のEU加盟国内の子会社を通じて,親会社自体に対して もグループ監督を執り行う。

②第三国の親会社である保険事業者に対して,加盟国内に保険持株会社を 設置することを要求することもできる。これは,当該保険持株会社をグルー プ監督の最上位の事業者として扱うことにより,ソルベンシーⅡが加盟国内 の保険事業者に要求されるソルベンシー要件に関する規定をそのまま,当該 保険持株会社に適用させるためである 。

ここで,日本の保険事業者のEU保険市場への進出について若干の補足を 42) ソルベンシーⅡ第3編第212条以下。

43) ソルベンシーⅡ第260条第1項前段。なお,第三国の監督官庁が,EUレベ ルと同等の監督(財務監督等)を有するか否かの検証については,進出先の加 盟国の監督当局がその責務を負い,グループ監督当局がその責務を負うことも ありうる。

44) ソルベンシーⅡ第260条第3項第1段。また,欧州委員会は,加盟国以外の 第三国の保険監督官庁による保険監督が,ソルベンシーⅡが要求する保険監督 と同等であると認められる場合には,あらかじめその旨をソルベンシーⅡの実 施措置として採択することができる(ソルベンシーⅡ第260条第2項)。

45) ソルベンシーⅡ第261条。

46) ソルベンシーⅡ第262条第2項第2段。なお,この項は,損害保険事業総合 研究所研究部 ソルベンシーⅡ枠組指令に関する調査・研究(解説編) (損害 保険事業総合研究所・2011年3月)149頁以下を参考としている。

欧州連合における新しい保険監督法制

(15)

行う。日本の保険事業者がEU域内で子会社を設立し保険営業を行う際には,

上記のように,日本の金融庁の保険監督基準とEUにおけるソルベンシーⅡ における財務基準などのソルベンシー要件との間での同等性が精査されるこ ととなる。現時点において,欧州委員会は日本との同等性の認否に関する決 定を出しておらず,同等性が認められるか否かは,未だ定かではない 。な お,日本の金融庁による再保険分野に関する監督基準と上記のEU基準との 同等性については,EIOPAは審査の末,日本の監督基準とEUの監督基準 との同等性が認められる旨の報告書 を公表し,欧州委員会へ送致した。

4.EUにおける保険監督機関 EIOPAの創設

4.1. 2010年以前の EU域内保険市場における保険監督体制

EUにおける加盟国の保険監督の権限は,漸次削減されてきている。これ は,営業保険料での共同行為の禁止や,約款規制などが,域内市場の確立の ためのEUの 自由競争 に反する事項として撤廃されたことによる。

従前のEU加盟国の保険監督機関の間での協力体制 としては,2005年 47) 前出 ソルベンシーⅡ枠組指令に関する調査・研究(解説編) 160頁,161

頁。

なお,ソルベンシーⅡ第227条第4項の規定に基づくグループ・ソルベンシ ーの計算に関する第三国との同等性についての評価,並びに同第260条第3項 の規定によるグループ監督に関する健全性についての第三国との同等性の評価 につき,EIOPAは日本に対する同等性の評価を未だ示していない。

48) 2011年10月26日公表。

EIOPA  Consultation Paper no.5 (EIOPA  Advice to the European Commission)  

“Equivalence assessment of the Japanese supervisory system  in rela- tion to article172of the SolvencyDirective”.

上記報告書の中でEU基準との同等性の認証については,日本の再保険専門 事業者だけでなく,再保険業を取り扱う元受保険事業者もその対象とされる。

49) この他,1991年にECにおいて,欧州委員会の元受保険分野に関する諮問機 関として,保険委員会が設立される。保険委員会は,保険法と保険監督法に関 して,共同体レベルでの相当程度の調整が必要となり,設立された。保険委員 会は,1999年のEC理事会による決議により,同決議の第7条並びに同第8条

(16)

CEIOPS(Committee of Insurance and Occupational Pensions Supervisors) が創設される。CEIOPS  の任務は,以下の通りである。

① 保険,再保険,企業年金などの指令の内容について,加盟国の監督官 庁へその意義を伝え,これを導入するための支援を行う。

② 加盟国におけるEU指令の一貫性を持った適用を推進させるために,

期限内での導入について支援する。

③ 共同体における監督慣行ができる限り同一となるよう貢献する

4.2. EUとしての金融監督機関設立の動因― ラロジエ・レポート ― EUが,金融監督規制に関して具体的な対策を講じた動因は,2009年に公 表されたEUにおける金融監督に関する詳細な調査報告書 Larosiere Re-

port(以下,ラロジエ・レポートとする) の内容によるところが大きい。

ラロジエ・レポート では,EUが新たな金融監督機関を創設すること について,第一義的には,各加盟国による不揃いな金融監督実務を是正する ことにあるとする。これは,左記の実務に伴って生じる可能性がある 競争 の歪曲,すなわち,監督基準の緩慢な加盟国に本店を置こうとする事業者の 思惑を避けるため であるとする 。上記の是正は監督機関の監督実務を,

により保険委員会の改組が示され,2005年に再保険,ならびに企業年金も諮問 の 対 象 と す るEIOPC(European Insurance and Occupational Pensions Committee:(2004/09/EC))へ改組される。EIOPC  は,欧州委員会に対し,

実務遂行する上で必要な指令の導入などのアドバイスを行う。

50) 欧州委員会の決定(2004/06/EC)による。

51) なお,この項では,以下の文献を参考としている。

Bozena Hagen, “Zur Reform  der europaischen Versicherungsaufsichts- strukutur und ihrer Bedeutung fur die Schweiz”Rz.12ff., in :Jusletter 7. Marz2011.

52) “THE  HIGH-LEVEL  GROUP  ON  FINANCIAL  SUPERVISION  IN THE EU  Chaired by Jacques de Larosiere REPORT” 

(http://ec.europa.eu/internal market/finances/docs/de larosiere report en.pdf

53) 前出Larosiere Report Rn.150. 欧州連合における新しい保険監督法制

(17)

最低基準自体の底上げを行うことにより,より厳格な方向 へと移行させ るため重要であるという。また,この是正は,監督規制への信頼の確保への 誘因となり,ならびに統一監督規制であるがゆえに加盟国が受諾しやすくな るという効果をもたらす。そして, 顧客に対する充分な保護を確保するた め ,EUにおける金融監督機関の創設が不可欠としている 。

4.3. EUにおける金融監督機関の創設

その後,欧州議会並びにEU理事会規則というEU立法に基づき,2010年 11月24日に,欧州システミックリスク委員会(European Systemic Risk Board :ESRB)なる,金融危機を生じさせうるあらゆるシステムリスクを 

把握する任務を負う調査委員会が創設された。

さらに,EUは,以下の金融三分野についてもEUとしての監督機関

(European Supervisory Authority:ESAs)を設立した 。すなわち,

① 銀行分野(European Banking Authority

② 証券分野(European Securities and Markets Authority

③ 保険並びに企業年金に関する分野(European Insurance and Occu- pational Pensions Authority:EIOPA)

54) 前出Larosiere Report Rn.149.

55) 欧州連合(EU)の立法機関は,欧州議会もしくはEU理事会であり,左記 の機関に法案を提出するのが欧州委員会である。この度創設された諸監督官庁 は,欧州委員会に対し,立法行為(指令や規則などの形式でもって各加盟国政 府に立法を強制する)の草案を提出する権限を有する。

56) 欧州委員会は, 今後,新たな監督制度に関する一般報告を行う予定 があ る。 同報告は,将来的にも個別の監督機関による監督制度(ESAsの三機関 による各監督)が正しいか否かの調査を行ったうえで公表される 予定である。

なお,上記の引用は,オーストリアの金融市場の監督機関であるFMA所属 Dr. G. Tauler氏(氏は機関内の職務としてEIOPA担当も兼務する)から 頂戴した情報である。

57) OJ(L) 331/48 (15.12.2010)

Regulation(EU)No.1094/2010of the European Parliament and of the Council of24November2010establishing a European Supervisory 

 

(18)

である。

4.4. EIOPAの概要

EUとしての保険監督機関であるEIOPAは, CEIOPSから全ての既存 のそして現在進行中の業務を引き継ぎ ,実務上のソルベンシー監督等の 監督業務を執り行う。EIOPAは,CEIOPSEUの金融部門における一監 督機関として昇格させたものである。2010年1094号規則(以下では, 同規 則 とする)第1条第2項により,ソルベンシーⅡのうち,第4編の保険事 業者の更生と清算の条文を除く大部分の規定に関して,EU加盟国内の保険 事業者が充足することを要求される定性要件や定量要件の監督をEIOPA 行う。また,保険に関連するほぼすべての指令について権限を行使する。

4.5. EIOPAの目的

同規則第1条第6項は, 官庁の目的 として,公益を保護し,EU全体 の経済,市民および事業者のために,短期的から長期的のいずれの期間にお いても金融制度の安定性と効率性に寄与することを規定する。また,同項に

Authority(European Insurance and Occupational Pensions Authority), amending Decision No716/2009/EC and repealing Commission Decision 2009/79/EC

EIOPA  は,金融システムもしくは 実体経済 に悪影響を及ぼしかねない,

金融機関による潜在的なシステムリスクについて注視することを義務とし,そ れらの目的のためには独力で,かつまた独立して行動をとりうる。

EIOPAは,独立した監督官庁ではあるが,同規則第3条の規定により,

ESRBやその他のESAsの諸機関と同様に,欧州議会とEU理事会に対し,

年次報告をする義務を負う。

さらに,EIOPAは,自らが主体的に独立して行動を行うため,同規則第5 条第1項により法人格を付与される。また,同条第2項において,EIOPAは,

各加盟国の国内法の下で法人に付与される最も広範囲にわたる行為能力を享受 されるものとする。

58) 同規則第8条第1項⑴。

ける新しい保険監督法制 連合にお

欧州

ます 的に送り ため強制

本文に上付き59が入る

(19)

は,EIOPAの目的として,以下の通りに規定する 。

EIOPAは,EUにおける域内市場と金融市場の機能を確保することに注 力する。その為に,EIOPAが超国家的機関として,各国の保険監督機関自 体を監督することにより,監督機関の間での保険監督実務の差異をなくすこ とを目的とする。これらをもって,被保険者などの保護を図るものとする。

上記の目的のために,EIOPAは,保険市場に関する分析を行い,EU 事会,欧州議会ならびに欧州委員会に必要な意見を提供しなければならない。

4.6. EIOPAの任務と権限

EIOPAは,同規則第8条第1項,同条第2項に基づき,以下の任務と権 限を有する。

EIOPAは,技術的な規制基準の案を作成し,方針と勧告についてこれを 行使する。次に,EU理事会が金融市場の安定性に対し著しい脅威が生じた との確認決定を下した際に,金融市場並びに金融システムに具体的な危害が 生じる恐れのある場合に,各加盟国の監督官庁に対し,然るべき対策をとる よう決定を行う。また,EIOPAは,加盟国間の職務の移譲と管轄の移送を 促進する。さらに,加盟国の監督機関の間における保険監督についての意見 の相違について調整する。そして,加盟国の監督機関によるEU法の逸脱の ようなばらつきが生じた場合には,EU法を順守すべき事項として,首尾一 貫した適用を促すために決定を下すことができる。

また,同規則第16条第1項は,EIOPAに対して,保険実務におけるガイ ドラインや推奨について作成する権限を授権している。これに基づき,

EIOPAは,例えば苦情処理に関する保険実務におけるガイドラインを作成 し,同ガイドラインの適用を促している 。

59) 同規則第1条第6項⒜〜⒡を要約。

60) 2012年6月14日EIOPA公表 苦情処理に関するガイドライン

(https://eiopa.europa.eu/fileadmin/tx dam/files/publications/guidelines/ complaints handling/EIOPA Complaints Handling GL EN.pdf

(20)

5.おわりに

EUにおける域内保険市場は,EU諸基本条約上の規定,保険監督指令な どに基づいた,種々の 自由化 の結果として成立したものである。しかし,

EUがこのような 自由化 を行うのであれば,保険事業者の存続を保障す る方策も,あわせて創設すべきであった。すなわち,保険事業者が塡補義務 を確実に履行できるような充分な資金要件のみならず,それを効果的に可能 とするリスク管理システムを整えることを主眼としたEUとしての保険監督 法規制定の必要性があったといえる。

保険取引のリスクが高ければ,財務管理に対する定量要件,かつリスク管 理に対する定性要件も,それぞれ高いレベルで求められねばならない。加え て,それらを貫徹させるEUとしての保険監督機関の存在もまた,必要不可 欠であったといえる。

今後は,EUにおける保険事業者に対する事後監督に関する規定,すなわ ち,域内保険事業者の会社更生あるいは解散に関する実務,または,外部監 査の必要性についても精査されるべきである。そして,EIOPAと加盟国の 保険監督機関とのネットワークや,今後出される行政決定などの保険監督実 務についても注視しなければならないと思われる。

(筆者は,京都産業大学大学院法学研究科博士後期課程) 欧州連合における新しい保険監督法制

参照

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