生保業界の業界内保険教育
生命保険協会の取り組み
松 本 明 善 上 田 尚 樹
■アブストラクト
現行の生命保険募集人に対する業界共通の教育制度は,各 課程 と 継 続教育 の二つのプログラムで構成されている。各 課程 は,生命保険募 集人として必要な 一般課程試験(生命保険募集人登録) から始まり 専 門課程 応用課程 大学課程 へと習得内容が高度化するもので, 継続 教育制度 は全ての生命保険募集人が毎年履修することが義務付けられてい る。また,生命保険事業の健全な運営に資するため,内勤向けの 生命保険 講座 , 生命保険支払専門士 試験を設けている。わが国の生命保険事業は 100年を超えて成長してきたが,今日の体系は,その間の社会経済情勢の激 動と生命保険各社の事業運営の変遷,および社会的な要請と契約者保護等に 資する関連法制の充実に応じて内容・運営が整備され高度化がはかられてき た。土台となる 業界共通の教育諸制度 と, 各社独自の教育カリキュラ ム は,今後も業界の健全な発展を下支えする両輪だと確信している。
■キーワード
業界内保険教育,業界共通試験
1.はじめに
明治維新の後,わが国では欧米の近代産業および経済制度の急速な移植政 /平成25年9月30日原稿受領。
策が進められたが,いわゆる近代的な現在の生命保険制度の移植は少し遅れ,
明治14年の明治生命の開業がその最初となった。明治41年に16社が参加して 社団法人 生命保険会社協会 (現在の生命保険協会)が誕生してから今日 まで105年が経とうとしている。
生命保険業界における教育の問題は,この間の社会経済情勢と生保事業運 営,および関連法制と保険行政がかかわりあって現在のかたちに至った側面 も強く,現行の教育制度の体系と運営について概略を述べた後,今日までの 経緯について簡単にふりかえりたい。
2.現在の業界教育の種類と目的
⑴ 生命保険募集人に対するカリキュラム(業界共通各課程試験制度)
営業職員や代理店が生命保険の販売を行うためには,法令上,主務官庁に 生命保険募集人の登録を行う必要があり,㈳生命保険協会(以下,生命保険 協会)では登録のために必要とされる知識や資質・能力を確認するための
一般課程試験 を運営している。
また,生命保険募集人がより高いレベルでお客さまのニーズに対応できる ように 専門 応用 大学 各課程のカリキュラムと試験を運営している。
さらに,変額保険・変額年金保険の販売を行う者については,変額保険販売 資格試験を実施している。これら試験のテキストは,生命保険協会で毎年見 直し,教育内容の充実をはかっている。
⑵ 継続教育制度
平成21年に,コンプライアンス,説明責任,保険金支払い等のアフターサ ービス等を中心として,お客さま重視・法令等遵守の教育を一層充実させる ため,継続教育制度を新設し,原則として全ての生命保険募集人に対して,
毎年,継続的・反復的に教育を実施する仕組みを導入している。
→タイトルのみになってしまうためアキを作成しています。
⑶ 生命保険講座
生命保険事業運営に就く内勤職員等の素養向上を目的として,全8科目の カリキュラム・試験を設けている。(生命保険講座については, 5.その他 の業界内共通教育試験の経緯・変遷 の項で説明する)
⑷ 生命保険支払専門士試験
適切な保険金等の支払管理態勢の構築にむけて,支払査定担当者の人材育 成・専門性向上に資するため,生命保険協会として平成19年にカリキュラ ム・試験を創設し,各社の支払査定・支払手続担当者等が受験している。
【業界共通各課程試験制度】
課程 習得内容とレベル
一般
大学
生命保険募集人として最低限必要な知識を習得し,お客さまに信頼さ れる資質能力を備える。
ファイナンシャル・プランニングに必要な生命保険および関連知識を,
より専門的・高度なレベルで習得する。(6科目)
基礎知識に加え,保険販売に関連する専門知識ならびに周辺知識を習 得し,お客さまニーズへの基本的な対応力を高める。
専門
専門課程の知識を活かした応用力・実践力を養成するとともに,ファ イナンシャル・プランニングに必要な全般の知識を習得する。
応用
1. ファイナンシャルプランニ ングとコンプライアンス
4. 生命保険のしくみと個人保 険商品
2. 資産運用知識 5. 生命保険と税・相続
3. 社会保障制度 6. 企業向け保険商品とコンサ ルティング
3.業界共通各課程試験の体系とカリキュラム内容
業界共通各過程試験の体系と内容は以下のようになっている。
⑴ 体系
入社説明会 入社 登録前研修
◆一般課程試験
合格 登録後研修╱実地指導
専門課程研修
◆専門課程試験
合格【ライフ・コンサルタント】
◆応用課程試験
合格【シニア・ライフ・コンサルタント】
◆大学課程試験(6科目)
合格 会社推薦等
【トータル・ライフ・コンサルタント】
募集人登録(主務官庁)
変額保険販売資格試験研修
合格
◆変額保険販売資格試験
資格保有登録(生命保険協会)
(注) 一般課程 専門課程 変額保険販売資格 の受験 に際して(事前の)研修を設 けている。
⑵ 一般課程研修カリキュラム(45単位)
<登録後研修>30単位、8日間かつ32時間以上
【第1章】
生命保険の現状
単位名称 章立て
【第3章】
生命保険契約時の実務
【第5章】
生命保険契約後の実務
【第4章】
生命保険募集等における コンプライアンス
22 照会・苦情時の対応
保険金・給付金の請求と支払い 21
19 保障の見直し
保全・アフターサービス手続きと留意点 20
保全・アフターサービスの重要性 18
14 コンプライアンスの重要性
16 募集時の正しい説明
生命保険の募集等に関する法律 15
17 正しい告知の取り扱い 契約の選択
13
11 契約の承諾と責任開始 保険料の払い込み 12
契約取り扱いの手続き 10
8 生命保険会社の仕組み 剰余金と配当金 7
9 資産の運用
【第2章】
生命保険の基礎知識 3 生命保険の仕組み
5 商品の基礎知識 生命保険の種類 4
6 保険料の仕組み
2 私たちの役割と心がまえ 生命保険の役割
1
<登録後研修>15単位,7日間かつ28時間以上
24 社会保障制度 【第6章】
生命保険の周辺知識 隣接業界
23
27 保険金・給付金の税法上の取り扱い 相続の法律
28
26 保険料の税法上の取り扱い
【第7章】
生命保険と税・相続 企業向け商品
25
【第8章】
お客さまニーズへの対応 お客さまニーズへの対応
29
30 設計販売の基礎
販売技術の研究 45
44 販売活動の研究 40 自己管理の習慣
問題解決 (事例研究) 重要事項説明と意向確認
41
43 保険募集の実務とコンプライアンス 正しい告知の取り扱い
42
協力者の活用 39
団体の開拓 38
37 白地世帯への訪問 33 商品研究Ⅲ
ロール・プレイング
・ 実践指導 設計販売
34
36 既契約世帯を中心とする活動 個別訪問の要領
35
商品研究Ⅱ
32 商品研究
商品研究Ⅰ 31
単位名称
⑶ 専門課程研修カリキュラム
⑷ 変額保険販売資格研修カリキュラム(2日間かつ10時間以上)
なお,業界共通教育課程は,年間のべで約55万人,27回を全国約5,400か 所の会場で運営しており,各社の事前研修の他,試験運営・実施に際しても 各社の現地営業組織と協会(地方事務室)との連携・協力体制が不可欠にな っている。
①生命保険の現状 ②生命保険の仕組みと約款
③生命保険募集時におけるコンプライ アンス
⑤隣接業界
⑦生命保険と税
④生命保険と保全・アフターサービス
⑥社会保障制度・企業保障制度
⑧お客さまニーズへの対応
変額保険・変額個人年金の販売の背景
①変額保険の販売の背景
【参考】各試験の時期等
一般課程 専門課程 応用課程 大学課程 変額保険販 売資格試験 生保講座
③特別勘定の位置づけと役割 運用基本方針,資産の評価方法
⑤各社の取扱商品 自社の商品知識,契約実務,注意事項等 変額保険とは,変額保険の種類と仕組み,
②変額保険のしくみと約款・税 約款,税
④販売資格者の位置づけと役割 販売資格,販売資格者の役割,募集上の禁 止・留意事項
年間4回。8,10,12,2月 各月2科目(年間8科目)
年間3回。6,10,2月 専門課程と同日実施 年間3回。5,9,1月 各月2科目(年間8科目)
年間3回。4,8,12月 一般課程と同日実施 年間3回。6,10,2月
年間12回。毎月
試験月 試験日設定上の工夫
4.業界共通教育課程試験制度,継続教育制度の経緯・変遷
⑴ 一般課程試験
昭和30年代に外務員の大量採用・大量脱落が問題となり,昭和37年の保険 審議会答申のなかで外務員制度改善の一つとして 外務員の資質向上(筆記 試験の実施,教育訓練の拡充強化) が示唆され,生命保険協会に 試験運 営委員会 を設け昭和38年4月に第一回の外務員試験が実施された。(4月 以降に新たに募集人登録を受けようとする者が対象)
これが,現在の一般課程試験の原型となって,その後,試験の回数,内容,
登録後研修への拡充といった改善・見直しが図られてきている。また,試験
【参考】受験申込みから合否発表までのながれ(一般課程試験の例)
自体の実施方式(解答方式,申し込み方法・受験票,受験者や合否管理等)
についても,当然のことながらシステム化がはかられて現在に至っている。
⑵ 専門・応用課程試験
昭和40年に,生命保険協会では専業外務員の育成を加速させる観点から入 社2年以上の者を対象に 専門課程試験 を発足実施したが,前後して保険 審議会から 生命保険募集制度の合理化と継続率の改善に関する答申 (昭 和40年11月)等が示され,これをふまえて改善を図ることになった。
生命保険協会としては,その後昭和48年に 専業外務員の育成を目処とし た業界共通教育 構想を策定し,それまでの諸試験・カリキュラムを統合・
整理し,初級課程 専門課程(中級,上級) 外務大学課程という体系を確 立させている。(外務大学については後段⑶参照)当初,専門課程(中級・
上級)としていた試験は,現在は,専門課程と応用課程に区分運営されてい る。
なお,昭和50年の保険審議会答申 今後の保険事業のあり方について 等 をふまえ, 募集体制整備改善計画 (昭和51〜53年の3カ年計画)に業界を あげて取り組んだが,この計画のなかに 基幹職員 概念が導入されるとと もに,業界共通課程の合格者のウェイトも取り上げられ,専業外務員育成に むけた業界共通各課程試験制度(合格)への取組みは熱を帯びた。
⑶ 大学課程試験
生命保険外務大学は,高度の専業外務員を養成することを目的として,昭 和39年に㈶生命保険文化研究所の主催により発足し,昭和45年に生命保険協 会に運営が移管された。当初は東京と大阪で講義形式でおこなわれていたが,
昭和48年からはテキストに基づく自学自習方式に変更された。教育内容につ いては適宜見直されてきていたが,わが国の金融ビックバンの影響もあって 平成13年に内容の刷新がはかられ現在に至っている。なお,現在の大学課程 という名称へは平成5年に改称されている。
⑷ 変額保険販売資格試験(制度)
変額保険については,昭和61年7月に18社が商品の認可を取得し,同年10 月に販売を開始した。募集に際しては, 変額保険募集のためには,十分な 業務知識が求められることから,特別の資格認定制度を設けるとともに,教 育体制を整備することが適当 とされたこと(昭和60年5月保険審議会答 申)をふまえ,業界の自主ルールとして販売資格認定と資格者登録をおこな ってきている。
⑸ 継続教育制度
保険金等の不適切な支払問題への対応もふまえて,生命保険協会では平成 20年9月に,生命保険募集人が募集活動等を行うに際して お客さま重視・
法令等遵守 の視点を持ち続けていくために,以下の二つの取組み強化を公 表している。
平成5〜12年度
【大学課程の科目】
個人保険商品研究 (仕組み,約款)
コンサルティング セールス
生命保険と税・相続 家庭の法律と財産 企業向け商品・企業と 税
隣接業界の商品と 社会保障
平成13〜21年度 平成22年度〜
個人保険商品研究 生命保険の仕組みと 個人保険商品研究
ファイナンシャル プランニング
ファイナンシャルプラ ンニングとコンプライ アンス
生命保険と税・相続 生命保険と税・相続 資産運用設計 資産運用知識
企業保険商品研究 企業向け商品と コンサルティング 隣接業界の商品と
社会保障 社会保障制度
業界共通教育課程の見直し では,教育カリキュラム・テキストに次の 内容を充実することを明確に打ち出した。
・コンプライアンスの概念・重要性,および,募集人が遵守すべき法令 等の概要
・募集人が適正な保険募集を行うために必要な法令等の知識および実践 のための知識
・保険金・給付金等の支払いを含めた契約後のアフターサービスに関す る知識
継続教育制度の新設 は, お客さま重視・法令等遵守 の教育を毎年継 続・反復的に実施する仕組みで,標準カリキュラムは次の内容とした。
・コンプライアンスの概念・重要性,及び,募集人が遵守すべき法令等 の概要
・募集人が適正な保険募集を行うために必要な法令等の知識および実践 のための知識
・保険金・給付金等の支払いを含めた契約後のアフターサービスに関す る知識
・募集代理店,銀行等における保険募集に関するルール
5.その他の業界共通教育試験の経緯・変遷
⑴ 生命保険講座
生命保険講座の源流は,明治39年に,生命保険従事者のための教育機関と して東京帝国大学法科大学に開設された 保険演習 に遡る。 保険演習 は,東京帝国大学〜保険演習学友会の事業として講義形式で運営され,その 後の業界の人材養成に大きな役割を果たしたが,昭和24年に幕を閉じ,生命
保険協会の付設事業として継承されている。ちなみに,当時,昭和24年9月 から3カ月の集中講義の内容は, 保険総論 保険法律 生命保険数学
生命保険経営 数学科(随意科目) となっており,7カ月講習の内容は 保険契約法 保険営業 保険財務 保険数学 保険会計 保険医学 である。
その後,東京だけでの講義形式による受講者減の事情や,教育の機会均等 の観点から見直され,昭和54年にほぼ現行方式の原型となって再スタートし ている。
⑵ 生命保険支払専門士(試験)
保険金等の不適切な支払問題への対応もふまえて,生命保険各社は適切な 支払管理態勢の確立等について取り組みを強化していたが,平成18年の (金融庁)保険会社向けの総合的な監督指針 において 支払担当者の人材 育成への取組み が示されたこともあり,生命保険協会として各社取組みを 後押しするべく 生命保険支払専門士試験制度 を創設することになり,業 界内部試験として,第1回目試験を平成19年10月に実施している。(年1回)
各社の約款・支払実務が異なるなかで支払担当部門等の人材育成に資する ため,テキスト内容・試験の検討については生命保険協会のなかに 試験運 営委員会 を設置して運営している。
【現在の生命保険講座の科目】
①生命保険総論 ⑤資産の運用
⑥生命保険と税法
②約款と法律
④生命保険計理 ⑧生命保険会計
⑦生命保険商品と営業
③危険選択
タイトルのみになってしまうので、アキを作成しています。注意
6.結 び
⑴ 生命保険業界における保険教育内容の変化
ここまでみてきたように,生命保険事業における 教育 の問題は,昭和 の時代においては,販売技能の向上(生産性の向上)を土台にしつつ,顧客 保護と保険会社の経営安定を両立させることを主眼に専ら 生命保険募集の 適正化 確保の方策として機能してきたということができる。生命保険各社 は,事業の公共性に鑑み専業営業職員の資質向上にむけて多大な労力とコス トを費やして取り組み,業界団体としての生命保険協会は標準化・効率化の 観点からこれを後押しし,体制を構築してきた歴史ということができる。
現在は,金融・保険商品も飛躍的に増えてきていることから,ますます販 売技能の向上(FP知識の定着)が求められる反面,生命保険の本来的な商 品・サービスに対する期待や社会的な要請も大きく,生命保険業界としての 教育内容もコンプライアンス,説明責任,保険金支払い等のアフターサービ スに係る内容に力点を置くようになってきている。
生命保険業界としては,お客さまに寄り添い,安心をお届けし続けるため に,時代とともに教育の内容を見直していく姿勢が求められている。
⑵ 社会構造の変化とチャネル等の多様化と保険教育
わが国の超高齢社会は現在進行中で,平成52年の65歳以上人口最大3,868 万人(高齢化率36.0%。平成24年度高齢社会白書)や独居問題も見据えて,
生命保険の商品・サービスも変貌し多様化していくものと想定される。同時 に進行する,社会保障制度や税の見直し,一般の金融商品の多様化に係るも のなど,公的な社会保障制度を補完している生命保険業界としては当然に,
それらの新しい知識に関する教育を充実させていきたいと考える一方,生命 保険各社と生命保険協会の役割分担など,教育体制・方式の効率化も真剣に 検討する必要があると考えている。
また,お客さまと接する生命保険募集人自体も過去とは大きく変貌してお
り,現在では,銀行(代理店)や乗合代理店の使用人(生命保険募集人)が 100万人を超え,専業の営業職員約24万人を大きく上回っている。現在の教 育内容・カリキュラムは,かつて想定していた専業営業職員を対象としたも のがベースとなっているが,生命保険募集人が多様化してきたなかで,生命 保険会社が直接的に雇用する専業営業職員に対する教育と,(複数会社の商 品と商品に付随する保全等手続きを取り扱う)乗合代理店に対する教育の,
深度や範囲を同一に論じることの限界も考慮されるべき状況にあると考えら れる。
さらに,現在,わが国には生命保険会社が43社あるが,各社はそれぞれに 商品 と 販売方式 (銀行窓販,インターネット,保険ショップ等の乗合 代理店等)および 保全・アフターサービス体制 を組み合わせて営業活動 を展開している。生命保険各社にとっても,チャネル毎の教育内容や販売・
サービスの訓練方法に工夫が必要になるものと認識している。
⑶ 生命保険協会としての業界教育
生命保険業界として充実・整備してきた 業界共通教育課程試験制度 だ が,近年の受験者数減少傾向もふまえ,各社の教育・訓練の方向性等をにら みながら,業界インフラとしての教育試験制度の方向性の議論を始める時期 にさしかかっていると認識している。
生命保険業界をとりまく大きな環境の変化を肌身で感じつつ,業界の教育 体制は,わが国の生命保険事業を下支えする根幹の機能であるという使命感 をもって,引き続きレベルアップに取り組む所存である。
(筆者は社団法人 生命保険協会勤務)
【参考 献】
・生命保険協会80年小史(平成元年3月発行)
・生命保険協会90年小史(平成10年12月発行)
・生命保険協会百年史(平成21年3月発行)